§12 無限ループの始まり

彩香「あぁ、でもよかったわ。踏み潰す前に気が付いて。」
大祐「姉貴、今さらりとすごいこと言ってるけど・・・。」
彩香「まあまあ、いいじゃない。だけど、どうして小さくなれたのよ。」
大祐「それが僕にもよくわからなくて・・・。」
大祐は、小さくなれる方法を彩香に伝えることはしなかった。
下手に教えて悪用されてはたまったもんではないからだ。
彩香「ふーん、偶然なのかしら。」
大祐「とりあえず、元に戻ることにするよ。」
彩香「わかったわ。じゃあ、待っててね。」
そう言うと、彩香は電源を落とすことなく、ミニチュアの操作盤を無理やり外した。
その瞬間、大祐の姿が忽然と姿を消す。
彩香「あれー、大祐? もう、元に戻ったのかな?」
彩香が大祐の部屋を覗くも、相変わらず大祐は深い眠りについているようだ。
彩香は操作盤を持って、自分の部屋にあるシート部分に連結させミニチュアを起動させた。

大祐「うぅ~ん、元に戻ったのかな?」
大祐はベッド上で目覚めると、大きく背伸びをした。
相当の運動をしたこともあってか、先程の気持ち悪さは幾分か軽減されていた。
大祐は、さっそく彩香の部屋へ向かおうとした。
彩香「ミニチュアの街の皆さん、こんばんは!」
突然、街の中に大音量で彩香の声が響き渡った。
大祐「えっ、今、ミニチュアって言ったよな・・・。」
大祐は、彩香の放った「ミニチュア」という言葉に引っかかっていた。
先程、彩香が操作盤を外したことで元に戻ったと考えていた大祐は、軽く混乱していた。
そうこうしているうちに彩香の大音量の声が続く。
彩香「今から、私が街の中を無作為に歩きます。皆さんは私の綺麗な足から逃げてください。」
ズズゥゥン!
ズズゥゥン!
大祐が急いで、窓を覗きこむと、その彼方には大きな2本の肌色の物体が上空へと伸びていた。
そして、そのうちの1本が持ち上がったかと思うと、急激に落下してきた。
ズシイイン!
大祐「うわ・・・、姉貴のヤツ、なんてことを・・・。僕が取り残されてるってわからないのか?」
大祐が慌てて外へと出ると、街の大半は巨大な彩香が作り出す影の中にスッポリと覆われていた。
彩香はまだ街の外れの方にいるため、避難には余裕があると思われた。
しかし、そんな大祐の願いは無下に潰されることとなる。
『無作為に歩く』
彩香はそう発していたのだ。
やがて、凄まじい轟音と共に、彩香の巨大な素足は至る所に振り下ろされていった。
ズシイイン!
ドスウウン!
ドシイイン!
大祐「うわあああっ!!」
以前、ミニチュア内で彩香に踏み潰される寸前までいったことがあったが、まだ彩香の配慮があった。
しかし、今回はそんな配慮は微塵も感じられず、大祐は、彩香の繰り出される巨大な素足に翻弄されっぱなしであった。
やがて、自宅を出たばかりの大祐の周囲がひときわ暗くなる。
彩香の巨大な素足が小さな大祐を踏み潰すために颯爽と登場したのだ。
大祐「うわあああ!姉貴ー!!」
彩香の巨大な素足は何の躊躇もなく一気に振り下ろされる。
彩香の爪先に無数の電線が絡みつくも構うことなく引きちぎる。
ズシイイン!!
強烈な一撃が大祐の間近に繰り出される。
彩香の巨大な5本の足の指は地面にめり込み、圧倒的な重量感を大祐に見せつけていた。
そして、間髪入れず、もう一つの巨大な素足がはるか遠方に着地する。
ズシイイン!!
大祐「うひゃあっ!!」
その着地に合わせて、今度は大祐の目の前にあった圧倒的な重量を要する巨大な素足が軽々と上空へと浮かび上がる。
小さな大祐は、その巨大な素足が作り出す影の中にスッポリと覆われてしまう。
やがて、宙に浮かんだ巨大な素足は、上空で一旦静止する。
その巨大な足の裏からは、大祐目がけて瓦礫やら砂埃やらがパラパラと落下してくる。
しばらくの静寂のあと、その巨大な素足は一気に地面へと降下を始めた。
物凄い勢いで赤黒い足の裏が接近してくる。
大祐「ね、姉ちゃあああん!!」
大祐が叫んだところで、100倍近くも大きい彩香に届くはずもない。
気が付けば大祐は彩香の足の裏から逃げ出すために走り出していた。
いくら大きいとはいえ、彩香の足のサイズは24cmなので、小さな大祐からすれば24mでしかない。
大祐は十分に逃げ出せるという確信があった。
しかし、大祐の走る方向を住宅街が阻む。
進行方向はちょうどブロック塀で囲まれていたのだ。
大祐「えっ、うそっ・・・!」
落胆する大祐は、大急ぎで宙を見上げる。
そこには、これでもかと言わんばかりに接近した彩香の巨大な足指の付け根があった。
あと少しだけ移動できれば爪先部分から脱出できるのだが、それをブロック塀が阻む。
大祐「やばい、殺される!」
小さな大祐の周囲は、ついに彩香の臭い足から放たれる湿気すら感じられる状態になっていた。
大祐「うわあああ!!!」
ズッシイイイン!!

ピーピーピー

彩香が足を下ろした瞬間、ミニチュアの操作盤からエラー音が響き渡る。
彩香「あれ? どうしたのかな?」
彩香は、さして操作盤の表示を見ることなく電源を落とし、再起動させた。
再び、整えられた街並みが彩香の足元を埋め尽くす。
大祐「うっ、イタタタ・・・。全身が何故か痛い・・・。」
大祐は再び、自分のベッド上で目が覚めた。
つい先ほど彩香の巨大な素足によって踏み潰された感覚がまだ体に残る。
大祐「あれー・・・、どうなったんだろう。夢だったのか・・・?」
彩香「ミニチュアの街の皆さん、急いで南小学校に集まってください。」
またも、外から彩香の声が響き渡る。
大祐は彩香の声に敏感に反応し、急いで南小学校に向かった。
総勢200~300人ほどはいるだろうか。
時間通りに集合できて、安堵している人たちが大半だった。
彩香「皆さん、集まりましたか?」
その瞬間、上空一帯を彩香の巨大な顔が覆った。
大祐の周辺からは、悲鳴も聞こえていた。
すると、あろうことか彩香の巨大な唇がすぼまったかと思うと、猛烈な突風が小学校を襲った。
ブフウウウウ!!!
台風でも竜巻でも勝てない、体験したことのない暴風に多くの小学校だけではなく多くの建物が倒壊する。
何とか、倒壊した建物から抜け出た大祐を再び上空の巨大な彩香の吐息が襲う。
ビュウウウウウ!!!
大祐「えっ? わあああああ!!!」
周囲にいた人たちをも巻き込んで大祐は、若い女性特有の甘い吐息に吹き飛ばされてしまう。
そして、そのまま地面に激突。
大祐は再び意識を失った。

ピーピーピー

またまた、ミニチュアがエラーを示す。
彩香もうんざりといった表情で、また再起動させる。
大祐はまたベッド上で目覚めた。
大祐に言いようのない痛みが襲う。
大祐「ちょ、ちょっと待て・・・。これだと拷問じゃないか。どういう事態になっているんだ・・・。」
大祐は明らかに体力が削られているのがわかった。
ミニチュアに閉じ込められる寸前の記憶を大祐は懸命に思い出そうとする。
彩香が力任せにミニチュアの操作盤を引き抜いたはずだ。
そこからの記憶が曖昧になっている。
おそらくは、電源を落とすことなく引き抜いたことにより大祐がミニチュア内に閉じ込められてしまったのだ。
大祐「ど、どうすれば元に戻るんだ!?」
困惑する大祐をよそに再び彩香の声が響く。
彩香「もう、さっきからエラーばっかり!どうしたのかしら?」
大祐は小走りで外へと駆け出す。
大祐「とにかく、姉ちゃんに助けてもらわないと!」
彩香「あ、大祐じゃない。」
彩香の声に大祐はギョッとして上を振り向く。
大祐の頭上には、彩香の巨大な顔が浮かぶ。
ここぞとばかりに大祐は手を振り、叫び声をあげた。
大祐「ねえちゃあああん!!!」
彩香「ふふっ。踏んづけてあげるわね。」
大祐「はあぁっ!?」
とんでもない提案に大祐は急いで家の中に戻ろうとする。
彩香「あ、待ちなさい!」
間一髪、大祐は家の中に戻ることに成功し、すぐさま部屋に戻った。
バキャ!ビキッ!ベリベリッ!!
次の瞬間、大祐の部屋の天井はいとも簡単にはぎとられ、上空を彩香の顔が支配した。
大祐「うわあああ!!」
彩香「逃げても無駄ってわからないの?」
大祐は恐怖で机にもたれかかった。
そのとき、机の上にユーザーベルトが置かれていることに大祐は気が付いた。
大祐「えっ!?ユーザーベルトがある・・・。この前、使えなくなったはずなのに・・・。」
大祐がそのユーザーベルトに手を伸ばそうとしたそのとき、大祐の周囲を肌色の物体が覆った。
大祐「うわああああ!!!」
彩香の巨大な指が大祐を摘み上げたのだ。
グングンと大祐は上昇する。
やがて、大祐は彩香の巨大な顔の前へと連行される。
彩香「大祐、私からどうして私から逃げたのかしら?」
大祐「・・・・・・。」
無言のまま大祐は彩香を見つめる。
彩香「お仕置きをします。」
その瞬間、彩香の巨大な口が開く。
大祐「ね、姉ちゃん?」
彩香「ふふっ。私のきれいな歯で噛み潰してあげるわね。」
大祐「や、やめてくれ!!いくらなんでもひどすぎる!!」
彩香「あーん。」
大祐「うわあああ!!!」
大祐の発言に構わず、彩香は小さな大祐を口内へと押し込む。
ジトッとした彩香の巨大な舌は、大祐の存在を確認すると器用に奥歯へと大祐を誘う。
そして、小さな大祐目がけて白い奥歯が振り下ろされる。
たまらず、大祐は奥歯から飛び降りる。
ガチーン!!
ほんの少しタイミングがずれていれば、危うく大祐はプレスされるところであった。
しかし、安心したのもつかの間、再び巨大な舌が小さな大祐を持ち上げる。
大祐「うわあああ!!」
そのまま大祐は上の前歯の裏に押しつけられる。
巨大な舌から解放されると、大祐は重力に従うまま、彩香の唾液の海へと落下する。
ビチャッ!
大祐「う、ううっ。汚いなぁ・・・。」
そこへ、再び巨大な舌が大祐に襲いかかる。
大祐はそのまま巨大な舌に誘われるがままに奥歯に置かれる。
しかし、大祐は再び奥歯から逃げることに成功。
そこへ、苛立ちを隠さない彩香の声が響く。
彩香「大祐!! いい加減に私の歯を受け入れなさい! さもなければ・・・。」
次の瞬間、大祐の体が縮み始め、彩香の歯が、舌がどんどん大きくなっていった。
どうやら、彩香はミニチュアを操作して、大祐をさらに縮めたようだ。
そのまま、大祐は彩香の巨大な舌に運ばれ奥歯へと置かれる。
しかし、今回は奥歯の凹凸に阻まれ、思うように逃げ出せない。
大祐「や、やばい!」
焦る大祐を気にすることなく、上空からもう一つの大きな奥歯が落ちてくる。
大祐「うわあああ!!!」
グシャッ!!

ピーピーピー

ミニチュアは三度、エラーを示す。
彩香「あらっ・・・、もしかして大祐を殺しちゃダメなのかしら・・・。」
さすがの彩香もミニチュアの電源を落として、様子をうかがうことにした。
彩香の隣の部屋では、変わらず大祐が横になって目を閉じていた。