§13 残酷な彩香の一撃

大祐「う、ううっ・・・。」
何度目覚めたかわからない大祐は、全身の激痛に苛まれていた。
大祐「はぁ、はぁ。そうだ。机の上にユーザーベルトがあったんだ。」
壁に手をかけてようやく立ち上がった大祐は、よろよろと机に近づく。
そのとき、またも外から彩香の声が響いた。
彩香「大祐。出てきなさい。」
今回は、彩香にピンポイントで名前を呼ばれたようだ。
大祐は、彩香の言葉を無視して、机の上にあるユーザーベルトに手を伸ばす。
大祐「あれ・・・、エラー表示になっていないぞ・・・。」
微かな希望を抱き、ユーザーベルトを操作しようとする大祐に魔の手が迫っていた。
ベリベリベリッ!
部屋の上空が突如として開け、間髪入れず巨大な指先が降りてきたのだ。
その巨大な指先は器用に大祐の身体を持ち上げ、上空へ連れていってしまう。
大祐「うわあああ!」
そして、小さな大祐は彩香の巨大な掌に投げ出された。
彩香「ふふふっ。こんにちは、ミニチュアの大祐。」
大祐「な、何を言って・・・。僕は本物の大祐なんだよ!!」
彩香「本物の大祐は、部屋で寝てるわよ。」
大祐「ち、違うんだ!ちょっとしたトラブルがあって・・・。」
彩香「あら、右手に何を持ってるの?」
大祐の言葉にはさして関心を寄せない彩香は、大祐が右手に持っているユーザーベルトに興味を持つ。
彩香「それ、ユーザーベルトじゃないの?」
大祐「え、いや、それは・・・。」
彩香「へー。ミニチュアの大祐もそれを持ってるのね。ねえ、もっと小さくなってよ。」
大祐「は?」
その瞬間、彩香の人差し指が大祐を弾く。
ビュン!
ドスッ!
彩香の大きな指が大祐の腹部を直撃する。
苦しさで悶えている大祐に彩香は言葉を続ける。
彩香「三度は言わないわよ・・・。もっと縮みなさい。」
巨大な彩香の実力行使は小さな大祐を説得するのに十分すぎる効果を発していた。
大祐は急いで操作を行い、自らを2㎜程度に縮めた。
彩香「あー。この黒い点みたいのが大祐なのね。虫みたいなもんじゃない。」
大祐「あ、姉貴ー!!もういいだろ。」
彩香「どれ、蚊みたいなもんだし、叩き潰してあげるわ。」
大祐「へっ? や、やめてくれええっ!!」
その瞬間、広大な肌色の平面が大祐の上空を襲う。
猛烈な勢いで大祐の周囲の闇は濃くなっていった。
大祐「うわあああっ!!」
バチイインッ!!
彩香の両の手は、見事なまでにぴったりと合わさり、掌の蠢く黒い点を始末した。
しかし、その瞬間、またしてもミニチュアの操作盤からエラー音が響き渡る。
彩香「あー。やっぱり、ミニチュアの大祐を殺すとダメなのね。」
彩香はこのことを確かめると、ミニチュアを再起動させた。

大祐「うう、こんな拷問が続くなんて思わなかった・・・。」
大祐は再び机にあるであろうユーザーベルトに手を伸ばそうとした。
この時点で大祐には確信があったのだ。
ミニチュア内のユーザーベルトを操作しても自身が縮んだということは、そのユーザーベルトは本物と同等の効果が得られるということに。
つまり、そのユーザーベルトを使用することで現実世界に戻れると考えたのだ。
大祐は、机上にあるユーザーベルトを操作し、ミニチュアの解除を試みた。
その瞬間、大祐の記憶は遠ざかる。

大祐が目を覚ますと、またもベッドの上であった。
しかし、ここが現実世界なのかミニチュア世界なのか半信半疑であったため、大祐は彩香の部屋へと向かった。
大祐が足を踏み入れると、彩香がミニチュアの街を起動させ、破壊している瞬間であった。
彩香「あ、起きたのね。大祐。」
ズシーン!
そう言いながらも足元の建造物を破壊する彩香。
間違いなく現実世界に戻れたと確信した大祐は、何も言わず立ち去ることにした。
彩香「あ、待ちなさいよ。どうやらミニチュアのユーザーベルトも直ったみたいなのよ?」
大祐「へー、そうなん・・・」
そう彩香が言い放った次の瞬間、大祐の意識が飛んだ。

大祐「うーん・・・。」
彩香「おはよう、大祐。」
大祐が身を起こすと、両脇に巨大な素足が2つ鎮座しており、上空にはしゃがみこんで様子を窺う彩香の姿があったのだ。
上空にある両方の膝の隙間から巨大な彩香の顔を覗くことができる。
彩香「どう? 久しぶりでしょう、このシチュエーションは。」
大祐「あ、うあぁ・・・。」
小さな大祐はすっかり言葉を失っていた。
何しろ、つい先ほどまで巨大な彩香に散々痛めつけられ、何度も命を失っていたのだから。
当然ながら大祐の表情も強張っていた。
彩香「あれっ、あまり嬉しがらないのね。どうしたのよ。」
大祐「こ、殺さないで!」
彩香「へっ?」
大祐は、両方の手で自分の体を覆いながらうずくまった。
うずくまったその小さな体は恐怖心からか小刻みに震えていたようだった。
しかし、そんな怖がっている大祐の体をいとも容易く彩香は摘み上げる。
彩香「なんでそんなに怖がるのよ?」
大祐「う、うわ・・・。」
宙に浮かんだ大祐の目の前いっぱいに巨大な彩香の顔が支配する。
彩香の鋭い眼光に大祐は言葉も発せないでいた。
彩香「大祐、このままあんたを食べちゃおうか。」
そういった彩香の口が大きく開かれ、小さな大祐に接近してきた。
大祐の目の前に白い前歯、蠢く舌が接近する。
大祐「た、助けて!! また、噛み殺される!!」
その瞬間、彩香の口が閉じられる。
彩香「また・・・?」
大祐「ひっ、ひいい!」
彩香「大祐、食べられたくないなら、知っていることを話しなさい。」
大祐「えぇっ!?」
彩香「そうしたら命だけは助けてあげるから。」
大祐「う、うん。わかったよ・・・。」
こうして、大祐は先程まで繰り広げられた死闘を彩香に話し始めた。
もちろん、命を失った後は壮絶な痛みが続くことも彩香には伝えた。

彩香「なるほど、とりあえず命だけは助かるように設定されているのね。」
大祐「そ、そうみたいだね・・・。」
彩香「でも、知らなかったとはいえ、何度も殺してごめんなさいね。」
大祐「あ、いや、わかってくれればいいんだけどさ・・・。」
大祐はひとまず事情を理解した彩香にほっと胸を撫で下ろしていた。
先程までの無慈悲に攻撃を仕掛けた姉とは違うことをしっかり胸でかみしめていた。
彩香「ところでお願いしてもいい?」
大祐「何?」
彩香「私の足の裏に刺さったトゲを抜いてほしいんだけど。」
思いもよらない彩香の言葉に大祐はその依頼を承諾した。
彩香は右膝をつき、左膝を立てた状態で、左の爪先を少しだけ浮かせた。
彩香「左の足の裏なんだけど、いいかしら。」
大祐「いいけど、こんな狭い空間を潜り込んでいけと・・・?」
彩香「よろしくね。」
このとき、大祐も気が付けばよかったのだ。
そもそも、トゲを取るだけなら足の裏をひっくり返した状態で取った方が効率が良いからだ。
わざわざ、巨大な足の裏の下を潜り込ませるなど不自然なことなのだ。
そうとも感じない大祐は喜び勇んで、自ら彩香の足の裏の下へ潜り込んでいく。
2cm足らずの小さな大祐は、すでに巨大な素足の中央付近まで進んでいた。
彩香「大祐ー。そろそろ仰向けになってくれる?」
匍匐前進で進む大祐に彩香から声がかけられた。
その声で、おそらくトゲの刺さった位置の近くまできたものと大祐は推察する。
大祐が体勢を変え、彩香の足の裏を探してみるも全くトゲなど見当たらない。
大祐「姉貴ー。トゲは・・・」
ズンッ!!
大祐が話し始めてしばらくすると、彩香の巨大な素足が大祐を踏みつけた。
大祐「ちょっ、姉貴!く、苦しい・・・!」
大祐は必死に彩香の足の裏をバンバンと叩きつける。
しかし、彩香からは何のリアクションもない。
むしろ、徐々に締め付けがきつくなってきた。
大祐「姉貴ー!!」
壮絶な圧迫が小さな大祐を襲う。
彩香の巨大で硬い足の裏の皮膚が直に小さな大祐を押さえ込む。
大祐は必死に彩香の巨大な足を持ち上げようと試みるもピクリとも動かない。
やがて、大祐の下半身からミシミシと骨がきしむ音が聞こえてくる。
大祐はここで初めて彩香が実際に自身を踏み潰そうとしていることに気が付く。
先程話した設定が確かなものかを実践しようとしているのだ。
大祐「姉貴!ちょっと待ってくれ!!」
ベキッィ!ボキボキッ!バキィッ!!
大祐「ぐわあああ!!」
大祐の両方の大腿骨やら骨盤やらが砕けてしまった。
なおも、彩香からの圧迫は止まらない。
小さな大祐は、その身体で彩香の片方の足の想像を絶する重さに耐えている。
しかも、彩香の巨大な足の裏か発せられている湿気も浴びて、大祐は不快感を最大限に感じていた。
大祐「あ、姉貴・・・。」
そして、全身の骨折が続く中、とうとう大祐は意識を失ってしまった。
それでも、彩香は自身の素足で小さな弟を踏み続けた。
グチャッ!!
やがて、彩香の足の下から何かが潰れる音が響く。
その音と同時にミニチュアの操作盤からエラー音が響く。
すかさず、彩香がミニチュアを再起動させ、ミニチュア内の自宅の屋根を剥がすと、そこには踏み潰したはずの小さな大祐の姿があった。
彩香「なるほど、これはいいことを聞いたわ。」
新たなミニチュアに関する情報を手に入れ、彩香はニヤニヤとほくそ笑んでいた。
そんな最中、小さな大祐が彩香を見て悲鳴を上げている。
彩香は、小さな大祐にニコリとほほ笑むと、勢いよく自身の素足を振り下ろした。
ピーピーピー
再度、ミニチュアんp操作盤からエラー音が響いたことは言うまでもない。