§17 凄惨なお仕置き

郁也「う、ううっ・・・。こ、ここはどこだ・・・?」
大祐「ほんとだ。ここは一体…?」
大祐と郁也は周囲を黒い布で覆われた空間に投げ出されていた。
しかも、ジメジメとしていて、言い様のない臭いが周囲を漂っている。
2人とも何が起こっているかを理解できないでいた。
大祐が一歩踏み出すと、下はジトッとした湿り気を感じることができた。
大祐「郁也、あまり遠くにいくなよ。」
ズウォォン!
大祐がさらに言葉を続けようとしたとき、唐突に地響きが聞こえる。
ズウォォン!
郁也「な、何事だ?」
ズウォォン!
大祐は、この地響きの正体が何であるかはおおよそ見当が付いていた。
しかし、それを口にしたところで状況が変わるわけでもない。
大祐は、想像も付かないといった表情で、郁也の方を振り向いて顔を横に振った。
ズシィィン!
いつしか、地響きも重低音を増していた。
明らかに、何かが近付いてきている。
気付けば、郁也は地面の黒い布を裂こうと懸命に力を出していた。
郁也「大祐、何とか脱出しないと!!」
大祐「あ、ああ・・・。」
目の前で懸命に脱出を図る郁也に対して、大祐は何の行動も起こせなかった。
というよりも行動を起こさなかったという方が正しいだろう。
ズシイイン!
地響きは力強さを増して近付いてくる。
大祐も郁也もなす術なく、事の成り行きを見守っていた。
ズシイイン!!
ズシイイン!!
やがて、地響きは収まり、辺りを静寂が包みこんだ。

ベタ!
ベタッ!
ベタッ!!
1歩ずつ確かめるように彩香がリビング内で歩を進める。
まるで小さな2人に自分の存在を知らせるように。
やがて、彩香は2人が閉じ込められているものの付近に仁王立ちする。
彩香「ふふふっ…。2人ともどこに閉じ込められているかわからないでしょうね…。」
しばらくの間、彩香はそれを眺めていたが、やがて思い立ったかのように小さな2人がいるものに巨大な手をのばす。
彩香が手を掛けた瞬間、小さな2人は黒い布に包まれた空間の奥深くへといざなわれてしまった。
大祐・郁也「うわあああっ!」
しかし、そんな小さな悲鳴など巨大な彩香の耳に届きもしない。
大祐「ううっ…。もしかしてここは…。」
ここにきて大祐はようやく自分達のいる場所に気がついた。
午前中、彩香がジョギングをしたときのことだ。


彩香「はぁ~、疲れた…!」
大祐「お疲れー。ってまだそのシューズ使ってるの?」
彩香「いいじゃない。普段から使ってる靴の方が走りやすいし。」
大祐「だけど、その汚さ…。」
彩香「そうかなあ…?」
彩香は首を傾げつつもシューズを脱ぎ、家の中に入ろうとする。
大祐「靴下の裏に指の形がついてるじゃないか・・・。」
彩香「あら、本当だわ。もう、そんなに力入れて走ってたかな?」
そう言いつつ彩香は靴下を脱ぎ、大祐の顔にぶつける。
大祐「ぐわっ、臭い!何するんだよ!」
彩香「失礼しちゃうわ。女の子に向かって何言うのよ!」
大祐「だって、そのシューズで運動した後ならなおのこと…。」
彩香「ふーん…。この脱ぎたての足で押しつけてあげよっか、小さくして。」
大祐「いやいやっ。冗談に決まってるじゃないか~。真に受けないでよ、姉ちゃん。」
彩香「ま、いいけどね。」


大祐の脳裏に、彩香とのやり取りが浮かぶ。
十中八九、ここは彩香の靴下の中だ。
そうなると、彩香はこの靴下に自身の巨大な足を入れようというのか。
そんなことになれば、彩香の巨大な臭い足の裏に押しつけられて身動きがとれなくなる。
大祐「た、助けてー!! ここから出して!!」
大祐は精一杯の声で靴下の中から叫ぶも巨大な彩香に小さな叫びは届かない。
2人の周囲は変わらず彩香の足の臭いと湿気が支配している。

彩香「さあて、では、振り回してみようかしら。」
次の瞬間、大祐と郁也はあらゆる場所に叩き付けられた。
時には、靴下の湿り気に顔を突っ込むこともあった。
時間にして数十秒ほど、振り回されただろうか。
もうすっかり大祐と郁也には抵抗する力は残されていなかった。
大祐「ううぅ・・・。」
郁也「大祐・・・、大丈夫か・・・?」
小さな2人はただただ、靴下の中でうなだれていた。
しばらくの静寂が支配した後、2人の周囲が大きく揺れ始め、上空から光が差し込む。
黒い靴下ということもあったため、上空の光に思わず2人とも目を細める。
2人の上空に巨大な爪先が出現したのは、そのすぐ後だった。
彩香の巨大な爪先が上空に君臨する。
大祐も郁也も思わず息を飲み込む。
やがて、光の道筋を埋めながら、巨大な爪先が接近してくる。
逃げようにも逃げ出せず、閉ざされた空間の中で大祐と郁也は必死に布地を裂こうとしていた。
ズザザザッ!!
一気に彩香の巨大な素足が靴下の中に侵入する。
彩香の素足は靴下の中腹まで侵入し、その衝撃で大祐は先端部分から彩香の爪先へ移動させられた。
彩香の5本の足の指は軽く上がっており、大祐は中指の付け根部分にぶつかっていた。
大祐はすかさず体勢を整え走り始めた。
というのもそのままでいれば、美紀子の素足に擦り潰されてしまうからだ。
しかし、そんな大祐を知ってか知らずか彩香は大祐に足の指を下ろした。
突如として途方もない力で大祐は押さえ付けられる。
大祐「うわあっ!助けてくれ!!」
彩香「んふふ・・・。何か聞こえるわ。」
次の瞬間、彩香の足の指は軽く上昇する。
大祐はここぞとばかりに脱出しようとするが、間髪入れず足の指が押さえ付ける。
彩香の足の指はベチベチと小さな大祐を叩き付ける。
大祐「グワアッ!ギャアッ!」
彩香の足の指が押さえ付ける度に大祐は悲鳴をあげる。
彩香「あはっ、足の指に何かがいるわね~。」
郁也「大祐・・・!!」
大祐「おお、郁也・・・。助けてくれ・・・。」
郁也「ダメだ・・・。俺も中指と薬指に挟まってる・・・。」
絶体絶命の危機を迎えていた2人は、次の瞬間、一気に床に投げ出される。
大祐・郁也「うわあああっ!!」

彩香「2人とも立ち上がりなさい。」
大祐「うう・・・。」
郁也「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
彩香「聞こえないの?」
ズッシイイイン!!!
大祐・郁也「うわあああっ!!」
体力の奪われた2人に配慮することなく、彩香は巨大な素足を床に叩きつける。
慌てて、2人はその場に立ち上がる。
彩香「じゃあ、脱出ゲームをクリアしたら2人とも見逃してあげるわ。」
郁也「……。どうすればいいんですか?」
彩香は小さな2人を部屋の入口にあるスリッパにのせた。
彩香「合図とともに私がこのスリッパを履くからここから脱出できれば2人の勝ち。たったそれだけ。」
郁也「えっ、それってどういうこと・・・?」
大祐「姉貴はどこからスタートするの?」
彩香「私は部屋の中から移動するわ。」
そんなに難しいルールでもなかったので大祐と郁也はこのゲームを承諾した。
さすがに時間ギリギリの勝負にはなるだろうが、これならまだ勝てる可能性がある。
体力も先程よりは多少は回復してきている。
ある程度の勝算を感じながら大祐と郁也は思案を巡らせていた。
しかし、彩香は大祐のそんな一縷の希望ですら抱くことを許してはいなかったのだ。

小さな2人はスリッパの先端部分で待機するように彩香に指示される。
あとは彩香の合図で全力で猛ダッシュすればいい。
スリッパの後方、いわば2人の目線のはるか先には巨大な彩香が手を腰に当て、悠然と立っている。
スリッパまでは彩香の距離にして7、8歩であろうか。
大祐と郁也はいつでも脱出できるよう入念にストレッチを繰り返していた。
彩香「そろそろいいかしら?」
スリッパの中で大祐は腕でわっかを作りOKの合図を出した。
しかし、このとき彩香の企みに小さな2人は気付くべきであった。
彩香「じゃあスタート!」
2人が合図と共に全力疾走するも、なぜか遠方の彩香は歩き出そうとしない。
彩香はひたすらリモコンを操作しているだけなのだ。
次の瞬間、大祐と郁也の意識が一瞬遠のく。
ふらつきながらもどうにか体勢を整える大祐と郁也。
大祐「……!? いったい何があったんだ?」
郁也「だ、大祐・・・。見ろ・・・。」
瞬時に何が起きたか理解できないでいる大祐を現実に引き戻す重低音が響く。
ズッシイイイン!!!
大祐のはるかはるか遠方ではとてつもなく巨大な素足が大地を踏み締めていた。
かすんだ景色の上空では、ニヤリとほくそ笑む彩香が口を開く。
彩香「あら…、もう、大祐たちがどこにいるか全然分からないわね。」
ズッシイイイン!!!
彩香「さすがに1mmは小さすぎたかしら?」
ズッシイイイン!!!
彩香「いま、踏んづけてあげるから待ってなさい。」
ズッシイイイン!!!
巨大な彩香がスリッパに接近するにつれて、さらに巨大になっていく。
しかも、床から突き上げられるような猛烈な地響きに大祐と郁也はただただオロオロするばかりだった。
ズッシイイイン!!!
大祐・郁也「うわあああっ!!」
ついにスリッパの間近に巨大な彩香の素足が振り降ろされる。
その衝撃で大祐と郁也はスリッパから吹き飛ばされてしまった。
彩香「んん…。ダメね、私の目ではどこにいるかわからないわね。」
スリッパを凝視する彩香の右足の爪先付近に郁也は落下し、大祐は左の足の甲に乗っかっていた。
大祐「郁也ー!! 急いで逃げるんだー!!」
大祐が急いで彩香の足の甲から叫ぶも、郁也にはその声が届いていない。
小さな郁也は、彩香の親指付近を彷徨っていた。
しかし、そのとき彩香は無意識に巨大な爪先を郁也の方向にスライドさせてしまう。
一瞬であった。
小さな郁也は巨大な爪先に弾き飛ばされ、そのまま巨大な親指に潰されてしまった。
彩香の意思とは関係なく、郁也はものの見事に瞬殺されてしまった。
大祐はすくざま上空の彩香に抗議する。
大祐「な、なんでこんな残酷なことをする・・・。」
彩香「あら、足の甲に何かいる・・・。なんだろう・・・。」
大祐の言葉を遮って、巨大な彩香が口を開く。
彩香「あぁ、大祐ね。」
次の瞬間、左の素足に乗っかっている大祐を右の素足がが襲う。
大祐「ギャアアアッ!!!」
こうして、彩香によって、小さな2人は圧死させられたのであった。