§21.2400メートルの平面


彩香「大祐ー、いるー?」
サイズ変換器で縮んでいる大祐が足元にいるなど知る由もない彩香は、大祐の部屋を見回す。
大祐「あ、姉貴・・・。」
大祐は思わずゴクリと息を呑み込む。
このまま姉に助けを求めることが正解なのかどうか、それとも身を隠したほうが正解なのか。
100分の1サイズに縮んでいる大祐は、ゆっくりと後ずさりしながら思案に暮れていた。
彩香「ん?」
大祐「ひゃぁっ!」
彩香の双眸が小さな大祐を捉えたような感覚に陥る。
大祐は、大きく深呼吸をしてから巨大な彩香の動向に注目した。
彩香「まあ、またミニチュアを出しっ放しにしてるのね・・・。」
そう口を開いた彩香は、大祐の部屋のドアを勢いよく開ける。
その瞬間、巨大な彩香の全景が明らかにされ、小さな大祐は恐怖で震え上がった。
そして、大祐から見て100倍ものサイズがある縦幅24mの右の素足を持ち上がった。
汗をたくさんかいていることが容易に想像できる湿り気のある巨大な足の裏は廊下にある埃をたくさん吸い付けている。
やがて、そのオレンジ色に染まった巨大な平面は、何の躊躇もなく大祐の前方に振り下ろされる。
ズッシイイン!!
大祐「う、うわわっ!?」
大祐はものの見事に彩香の一歩でひっくり返った。
体勢を崩した大祐は急いで起き上がる。
ズシイイン!!
彩香の二歩目が繰り出される。
しゃがみこんで体勢を整えている大祐は、その巨大な素足の行く末に注視していた。
ズシイイン!!
ミニチュアの方向へと歩く彩香は、右の素足を再び踏みしめ、小さな大祐を踏み潰さんばかりに接近してくる。
しかし、大祐は何とか巨大な彩香から逃げおおせる位置へと避難することができたのであった。

彩香「えっ!? 何、何?」
ふいに上空の彩香が驚きの声をあげる。
大祐が彩香の視線の先を見つめると、なんとミニチュアのシート上に1倍サイズの舞佳が出現したのだ。
舞佳「逃げ足が速いやつね~。」
彩香「え・・・、どういうこと? なんで舞佳ちゃんが・・・。」
突然の舞佳の出現に戸惑う彩香は、この状況が良く飲み込めないでいた。
彩香「と、とりあえず、サイズを元に戻さないと。」
ズシイイン!!
ズシイイン!!
そう言うと、彩香は大祐の付近にあるミニチュアの操作盤へとその身を移動させ、慣れた手つきで操作盤を動かす。
次の瞬間、大祐の意識が飛びかける。

彩香「よしっ、これで100分の1サイズね。」
轟音にも似た彩香の大きな声で、大祐は目を覚ます。
大祐「え、あ・・・。」
大祐は言葉を失ってしまった。
彩香がミニチュアを100分の1サイズに設定し直すと同時に大祐のサイズもさらに縮んでしまったのだ。
大祐のはるか前方には、床にどっかりと腰を下ろした超巨大な彩香が君臨していた。
大きさにして実に1万倍、あまりの巨大さに彩香の全景が霞んで見える。
しかも、大祐のはるか前方には、2400mもの広大な彩香の右の足の裏が露わになっていたのだ。
大祐「ね、姉ちゃん・・・。」
小さな大祐の声などもはや届く由もない。
大祐があたふたしていると、超巨大な彩香に動きが見られた。
彩香は、左脚を立ち膝のように置き、右の脚は胡座をかいている。
そして、その折り曲げた右脚は左膝の下の空間を通っており、小さな大祐めがけて右の足の裏を見せている状態になっている。
突如として、彩香の超巨大な左の素足から不気味な音が響き始める。
ビリッ、バリッ、ベリリッ!!
大祐が彩香の左足に目をやると、何と彩香の足の裏が床から剥がれようとしていたのだ。
その柔らかそうな肌色の皮膚は、床にベッタリとくっついているため、剥がれようとするときに不気味な音を立てていたのだ。
彩香の超巨大な素足がゆっくりと持ち上がっていき、その下の空間に深い闇が顔をのぞかせていた。
このとき、大祐はすっかり油断しきっていた。
彩香の持ち上がった左の素足は、猛烈な勢いで小さな大祐に向かってきたのだ。
あっという間に大輔の上空は肌色の平面に覆われる。
彩香が無意識に自身の足を動かしただけかもしれない。
しかし、大祐の周囲は全てが彩香の超巨大な素足が作り出す影に覆われてしまったのだ。
大祐「まさか、たったの一歩で・・・。」
後悔しても遅かった。
その広大な平面は、大祐めがけて一気に落下してきたのだ。

大祐「う、うわあああっ!!!」