§22.コンタクトの取り方


上空を埋め尽くす彩香の超巨大な足の裏に大祐は言葉を失っていた。
どこをどう逃げても彩香の足の裏が作り出す世界からは逃げ果せることはできまい。
大祐の周囲からは徐々に光が奪われつつあった。
大祐「ど、ど、どうしよう?!」
今の大祐は生身の姿で小さくなっているため、このまま彩香に足を振り下ろされれば即死である。
それなのに彩香にとっては踏み潰した感覚すら与えられないであろう。
極小サイズに縮んだ大祐は自分の運命を呪った。
大祐「くそっ!!」
大祐はそのまま座り込み、地面を右手で叩いた。
その拍子にポケットから大祐のスマホが落下する。
大祐「あ・・・、もしかしたら・・・。」
大祐は淡い期待を抱きながら、素早くスマホを操作する。

PiPiPi・・・
彩香「あ、電話だー。誰だろう・・・?」
彩香が口を開いたその瞬間、大祐の上空は一気に視界が開けた。
どうやら彩香の巨大な素足が場所を移したようである。
ズッシイイイン!!
大祐のはるか前方に彩香の素足が振り下ろされる。
彩香の足の着地が巻き起こす風圧に大祐は何とか耐え抜く。
彩香「大祐からだ。何だろう・・・? もしもし?」
大祐「あ、姉ちゃん!! 助けてくれ!!」
彩香「あれ? もしもーし?」
大祐「ね、姉ちゃあああん!!」
彩香「電波が悪いのかな、聞こえないや。おーい。」
どうやら縮んだ携帯電話の電波は不安定のようで、大祐の声も彩香には届いていないようだ。
大祐は懸命に携帯電話に声を浴びせ続ける。
彩香「もう、切っちゃおう。」
ツーツーツー・・・
通話の切れた携帯電話を思わず凝視する大祐。
どうにかコンタクトを取る方法はないか、懸命に思案を巡らせる。
そのとき、大祐は通話ができたのだからメールも大丈夫ではないかと考える。
大祐は震える右手を胴体に叩きつけ、急ぎながらも落ち着いてメールを作成していく。
しかし、そのとき、大祐の体に異変が起きる。
何と、大祐の体が大きくなり始めたのだ。
相対的にじわじわと彩香の巨体が縮み始める。
大祐「こ、これは一体?」
おそらくはミニチュア内の舞佳がサイズ変換器をリセットしたのであろうか。
この幸運な出来事に大祐はすっかり安心しきってしまった。
ところが、大祐のサイズは現在の彩香のサイズの100分の1程度で止まってしまったのだ。
本来であれば、大祐のサイズは元に戻るはずなのだが、ミニチュアが100分の1設定になっているからなのか、何故か大祐の体はこれ以上大きくはならなかった。
大祐「え、ええーっ!! どうして戻らないんだ・・・。」
せっかく元に戻るものと期待していた大祐は愕然と肩を落とす。
しかも、今の大祐は彩香の巨大な2つの素足の間に位置しており、下手をすれば命を落としかねない状況である。
大祐「どうしよう・・・。姉ちゃんに助けを求めればいいのかな・・・。」
いずれにせよ、生身の体である以上、この状態で何か危険な事態が起こることは避けたい。
大祐は大急ぎで彩香の右の素足の方向へと走り寄った。

彩香「ん?」
ここで、彩香は床を蠢く小さな物体の存在に気が付く。
その物体を上からじっくりと見つめていると、どうやら小人が素足に接近していることがわかった。
彩香「まあ、私の美しい足に寄ってくるなんて・・・。」
ズーン!
彩香は、小人付近に素足を振り下ろす。
当然のごとく、彩香の足の着地に耐えられず、その小人はひっくり返る。
彩香「あはははは。情けない奴ねー。」
やがて、その小人は彩香の素足から離れるため、走り去ろうとしていた。
そこで、彩香はその小人の進行方向にもう一つの素足を振り下ろした。
ズーン!
再び、その小人はひっくり返る。
彩香の2つの素足にすっかり虜になってしまった小人は、とうとう身動きが取れずにその場を右往左往しはじめた。
彩香「あらら、ちょっと可哀想だったかなー。」
彩香はしばらく小人の動向を眺めていたが、徐々に関心を失い始める。
彩香「もういっか。踏み潰してあげるね。」
その言葉に反応して、小人は今までにないほどのスピードで彩香の後方へと移動を始める。
すかさず、彩香は右の素足を持ち上げ、小人の進行方向に素足を着地させる。
今度は、その小人は素足が置かれていない開けた場所を目指して移動する。
彩香「おおー、すごっ。よく動いてるけど、もういいわよー。」
彩香は、再び右の素足を持ち上げ、小人の真上に設置しようとする。
しかし、小人はそれを察知して、再び進行方向を変え、複雑な動きを見せる。
彩香「んー、狙いを定めにくいなー。なかなかやるわね。」
彩香は右の素足を宙に掲げたまま、その小人の行く末を読みきろうと考えを巡らせていた。
やがて、その小人は、彩香の左の素足方向に向かったかと思うと、なんと素足に乗っかってしまったのだ。
彩香「あっ、私の足に触れたわね。」
その瞬間、彩香は左の素足を床に叩きつける。
当然、その衝撃に耐えられず、小人は彩香の足の甲を転げ落ち、彩香の親指と人差し指の間に挟まってしまった。
彩香「しめたっ!」
待ってましたとばかりに彩香はその小人を自身の指先で捕縛する。
彩香にとっては微々たる感触でしかないだろうが、小人はピクリとも動かない。
彩香「このまま脱出できたら見逃してあげる。」
小人にとって決して逃げだせない絶望的な状況であること充分に熟知している彩香は、ニヤニヤとほくそ笑みながら小人の動向を見守った。
案の定、指に挟まった小人は全く動きを見せない。
いや、動いているのかもしれないが、彩香の頑強な指先がその動きを封じ込めているのかもしれない。
どちらにせよ、小人に絶望を与えていることは想像に難くなかった。
彩香「ふふっ、そろそろ潰してあげる。大丈夫よ、一瞬のことだから痛くないわよ。」
無邪気な笑顔を見せる彩香は、気分が高揚しているのがわかるくらい、顔が紅潮していた。
そんなとき、彩香の携帯がメールの着信を告げる。
メールの相手は大祐であった。
彩香「あれっ、大祐からだ。」
指先に挟めた小人を潰してしまわないように彩香は器用に携帯を操作する。

『姉ちゃん、助けて!!
 メチャメチャすごい力で足に捕まってる!!
 実は、今、諸事情でミニチュアじゃない。
 このまま潰されると本当に大変なことになる!
 しかも、足のにおいがヒドいんだ!!
 早く助けてくれ!!』

彩香「ふーん・・・。この小人は大祐だったのね・・・。大変なことってなんだろう?」
大祐からのメールをひとしきり読み終わった彩香は眉間にしわを寄せて自身の爪先に語りかける。
彩香「私の足がクサいってこと? 失礼な奴ね! じわじわと潰してやるんだからっ!!」
今の大祐が生身の体であることなど知る由もない彩香は、明快な処刑宣言を大祐に通告する。
そして、彩香はゆっくりゆっくり指先に力を込めていく。
ゆっくり目を凝らすと小さな大祐がじたばたと動いているようだ。
再び、彩香の携帯にメールが届く。
彩香「何、そんなに助けてほしいの?」
仕方なく彩香はメールを開き、内容に目を通す。

『助けて、助けて!!
 何でもするから!!
 本当に助けて!
 お願いします!
 苦しい!!』

大祐の2通目のメールは明らかに焦っているようだった。
ほとんど単語の表現しかなく、大祐が冷静な判断を下せていないことが目に見えてわかるのだ。
だが、彩香にとってそれは自身に快楽を与える材料でしかなく、ニヤニヤと笑いながら再び視線を落とす。
彩香「ふふっ、すごく必死ね。全然力を入れてないのよ、指先には・・・。」
彩香が爪先に視線を移すと、指先で捕縛していたはずの大祐の姿が忽然となくなっていた。
彩香「あれっ?!」
驚愕する彩香は急いで左の素足を持ち上げる。
床には、黒色のシャツらしき小さな布が一枚落ちているだけだった。
彩香「大祐!!!」
大祐に騙された彩香は、怒りでその場に立ち上がった。