§23.拷問


巨大な足の甲を転げ落ちていた大祐は、実は床に落下していた。
幸運だったのは、大祐が着ていた黒いシャツが彩香の足指の間に挟まったことだった。
彩香「このまま脱出できたら見逃してあげる。」
彩香「ふふっ、そろそろ潰してあげる。大丈夫よ、一瞬のことだから痛くないわよ。」
彩香から恐ろしい言葉が浴びせかけられるものの、大祐は彩香の爪先下を器用に小指方向へ移動し、必死にメールを打っていた。
1通目のメールが彩香に届いた瞬間、大祐は、彩香の視線に細心の注意を払いながら全速力で巨大な素足の側面を走り去る。
彩香「ふーん・・・。この小人は大祐だったのね・・・。大変なことってなんだろう?」
彩香「私の足がクサいってこと? 失礼な奴ね! じわじわと潰してやるんだからっ!!」
案の定、彩香は大祐からの偽のメールに翻弄されている。
彩香の踵付近まで走ることができた大祐は、間髪入れず2通目のメールを送信する。
彩香「ふふっ、すごく必死ね。全然力を入れてないのよ、指先には・・・。」
何とか巨大な彩香から距離を取ることができた大祐は、次に自分の身を隠す場所を探す。
しかし、残念なことに大祐と彩香がいる場所は部屋の中央部分であり、何も隠れる場所がない。
彩香「大祐!!!」
彩香の怒りの声が背後から響き渡る。
どうやら、大祐の小細工が彩香にばれてしまったらしい。
大祐がおそるおそる後ろを振り返ると、全長160mの巨大な彩香が腰に手を当て仁王立ちしているではないか。
大祐「あわわわわ・・・。」
恐怖に慄く大祐ではあったが、彩香は一向に振りかえろうとはしない。
どうやら彩香は、自身の足下にいるであろう大祐を熱心に探しているようだ。
この機を逃さまいと大祐は大急ぎで部屋の入口方向を目指す。

一方、足下をくまなく探す彩香は、小さな大祐が忽然と姿を消したことに苛立ちを隠せずにいた。
常に自分が優位に立ってきたはずなのに、今回ばかりはいかなるカラクリを使ったのか、全く姿を見つけ出すことができない。
様々な感情が入り乱れ、彩香も地団駄を踏んでいた。
彩香「もう!!一体どういうことなの?!」
彩香はズカズカとミニチュアの操作盤の方向へと向かい、慣れた手つきでミニチュアを操作する。
その瞬間、部屋の入り口付近まできた大祐の意識が遠のく。
大祐「え・・・、まさか・・・」

大祐「う、うーん・・・、ここは?」
大祐が目を覚ますと、そこには物干しざおを片手に警戒している舞佳の姿があった。
大祐「えっ!!」
舞佳「あっ!!見つけた!!」
瞬間的に、大祐は先程の現象を理解することができた。
彩香がミニチュアの街のサイズを100分の1に設定し、さらに舞佳がサイズ変換器で100分の1サイズにしたがために、先程途方もなく巨大な彩香の姿があったわけだ。
しかし、今の舞佳のサイズからすれば、突然姿を消した大祐を見つけようとせんがためにサイズ変換器を設定を解除したのだろう。
大祐「ちょ、ちょっと待って!!」
舞佳「えいっ!!」
その瞬間、大祐の体は一気に縮小した。
ズシイイン!!
大祐の目の前に、赤々とした舞佳の巨大な素足が振り下ろされる。
舞佳「全く、逃げ足の速かった奴よねー。」
大祐「うわっ、は、話を聞いてくれ!!」
舞佳「うるさい、死ね。」
再び、舞香の巨大な素足が小さな大祐に接近する。
ズシイイン!!
この状況下では、何を言っても舞佳に話が通じない。
とにかく大祐は無我夢中で舞佳の巨大な素足から逃げ回った。
ズシイイン!
ズシイイン!
侵入者に対して容赦なく自身の素足を振り下ろす舞佳の動きが止まった。
舞佳「はぁ、面倒くさいからサイズをもう一段階縮めましょうか。」
大祐「な、何?!」
再び、大祐の体が縮み始め、相対的に舞佳の姿が巨大化していく。
舞佳「えーっと、ああ、いたいた。」
ズッシイイン!!
舞佳の巨大な素足が床に着地する。
1000分の1サイズにまで縮んだ大祐は、当然ながら着地の衝撃でひっくり返る。
舞佳「今度こそ、死ねっ!」
床に吹き飛ばされている大祐目がけて赤黒い巨大な足の裏が迫る。
小さな大祐が体勢を立て直し逃げ出すも、巨大な足が作り出す影から逃げ果せることはできそうにない。
大祐「うわあああ!!」
ズッシイイン!!
舞佳「よし!!」

ピーピーピー

ミニチュアの操作盤から警告音が鳴り響く。
彩香「えっ? なんで、まだ踏み潰してもないのに・・・。」
彩香は面倒くさそうにミニチュアを再起動させる。

大祐「う、うーん・・・。イタタ・・・。」
舞佳「あら、足下に虫がいるわ。」
復元された大祐は、再び舞佳の部屋に1000分の1サイズで出現する。
しかも、体育座りをしていた舞佳の右足付近に出現してしまった。
舞佳は何の躊躇もなく、小さな大祐目がけて素足を振り下ろす。
大祐「う、うわあああ!!」
ズシイイン!!

ピーピーピー

再度、ミニチュアの操作盤は警告音を発する。
彩香「な、どういうことなの?」
目を丸くしている彩香は、今一度ミニチュアを再起動させる。

大祐「う、ううっ・・・。こ、これは、まずい・・・。」
舞佳「さーて、テレビでも見ようっと。」
今度は、小さな大祐目がけて舞佳の巨大な臀部が落下してくる。
足の裏など比にならない程の広い平面が落下してきたのだ。
大祐「う、うそっ!?」
ズドオオン!!

ピーピーピー

彩香「え・・・、何で再起動のたびに鳴るの・・・?」
さすがに彩香もこの現象に首を傾げた。
今までとは異なる現象がミニチュアで発生しているのだ。
そこで、彩香は設定を一番最初の1倍サイズに変更して再起動してみた。
当然、目の前には縮小も巨大化もされていない舞佳の姿が出現する。
しかし、その足元には微小な小人が蠢いているようだった。
彩香「あれっ、舞佳ちゃんの足下にいるのって・・・。」
舞佳「あ、虫けら。」
ズーン。
舞佳の一歩によってあっけなくその蠢くものは素足に踏み潰される。
そして、その瞬間、ミニチュアから警告音が発せられる。
彩香「これって・・・。」
疑念を抱いた彩香が冷静に舞佳の部屋を眺めていると、部屋の片隅になにやら怪しい機械があることを発見する。
彩香「あ、サイズ変換器だ・・・。」
彩香の脳裏にあった様々な疑問点が一気に線でつながれ、彩香は大きく頷いた。
彩香「舞佳ちゃん、あの機械持ってたんだ・・・。そっか・・・。」
全てを把握することができた彩香がミニチュアの電源を落とした瞬間、床下で倒れていた大祐の姿がむくむくと大きくなっていく。
彩香「なるほど、さっき私が足の指で摘まんでたのは本物の大祐だったのか・・・。」
ニヤニヤと笑みを浮かべた彩香は、倒れる大祐の顔を踏みつけてそのまま外出したのであった。