§25.舞佳の蹂躙


彩香の前方に大きな足の裏が出現する。
そのむっちりとした赤みがかった足の裏は何の躊躇もなく床に振り下ろされる。
ズシイイン!!
彩香「ひ、ひゃあああっ!」
舞佳「もう、私のサイズ変換器借りっぱなしにして・・・。」
舞佳の発言の後、部屋に置きっぱなしにしていたサイズ変換器は、舞佳の手に握りしめられてしまった。
その光景を見つめていた小さな彩香は、急いで建物の陰から飛び出す。
彩香「ま、待ってー!それを持っていかれると困るのよー!」
彩香は大急ぎで巨大な舞佳に手を振り、自らの存在をアピールする。
しかし、舞佳にとってたかだか2cm程度でしかない彩香の行動はすぐには気づかれない。
舞佳「彩香もいないし、帰ろうかしら・・・。」
彩香「ダ、ダメよ!!帰らないで!!」
彩香は、自らが踏みしめた足型の近くで懸命に手を振っていた。
しかし、その瞬間、脆い足場が手伝って、彩香は足型に沿って転がってしまった。
彩香「きゃあああっ!」
ガラガラと音を立てながら、コンクリート片が彩香に降り注ぎ、足型の真ん中付近で彩香は静止した。
その光景を上空から舞佳が覗き込んでいた。
舞佳「何か音がすると思ったら・・・。これは何かしら?」
彩香「う、ううっ・・・。ま、舞香ちゃーん!!!」
倒れこむ彩香は、必死の形相で舞佳に大声を上げるも、舞香には特に何の変化も見られない。
舞佳「ああ、ミニチュアじゃないの。小人が彩香の足跡に落っこちたのか・・・。」
つとめて冷静に舞佳は、眼下の状況を分析していた。
そして、自らの素足を持ち上げ、彩香の足型の上へと運ぶ。
当然、足型の中央付近で倒れている彩香はその舞佳の巨大な素足に覆われる。
彩香「う、うそっ!!何で、その足を運んでくるの!?」
彩香の上空いっぱいに舞佳の巨大な足の裏が君臨する。
彩香は懸命に逃げようとするのだが、くずれた足場のせいで思うように逃げられない。
徐々に舞佳の素足が接近してくる。
それと同時に光が閉ざされ、舞佳の足のにおいも充満してくる。
彩香「ごほっ!酸っぱいにおいが・・・。舞佳ちゃんの足のにおいね・・・!」
ひびが入りボロボロになった道路を何とか這い上がろうとする彩香は、ここであることに気が付く。
上空の大きな足の裏がピタリとその動きを止めているのだ。
舞佳「彩香の足のサイズよりは少し小さいかな・・・?」
どうやら舞佳は、彩香の足の大きさと比較しているようで、自身の足を近づけたり遠ざけたりしているようなのだ。
このチャンスを逃すまいと彩香は、這いつくばりながら何とか道路へと脱出することができた。
舞佳「あっ!!小人が這い上がってきた!!」
巨大な足型の土踏まずの方向から這い上がってきた彩香は、上空の声に驚きながらも急いで近くの中学校目指して走り出した。
しかし、その彩香の行動を読み切っていたかのように、舞香の左足が持ち上がる。
そして、中学校の屋上付近に素足を移動させたかと思うと、一気に踏み下ろした。
ドゴオオオン!!!
凄まじい轟音とともに、中学校の校舎は破壊され、彩香の周辺にコンクリート片が降り注ぐ。
と同時に、もうもうと砂埃が舞い上がってきた。
このおかげで小さい彩香は砂埃の中に隠れ、舞佳は小さな彩香を見失ってしまった。
舞佳「しまった!!小人を見失っちゃった。」
一瞬の静寂の後、舞香は再び素足を持ち上げる。
舞佳「まっ、いっか。この辺り一体を私が踏み潰していけば、小人も巻き込まれ・・・」
ズッシイイン!!
その言葉を言い終える前に、舞香は巨大な素足を踏み下ろす。
一方、彩香は、大祐と同じく地下道へと逃げ込むことに成功していた。
しかし、悠長なことをしていると、地下道ごと舞佳の巨大な足が踏み抜くかもしれない。
巨大な舞佳から逃走を続ける彩香は、生きた心地がしなかったが、とにかく懸命に走り続けた。
ズズゥゥン!!
ズズゥゥン!!
彩香の上方向からは、とめどなく轟音が鳴り響いている。
おそらくは舞佳が無造作に建物を破壊しているのだろう。
地下道の出口に向かって邁進する彩香は、出口が多くの人たちでごった返していることに気が付いた。
彩香「ちょ・・・、これはどういうことなの?!」
彩香の前にいる20代くらいの青年が重々しく口を開く。
市民A「巨大な人間が出現したからみんな隠れてるんですよ。」
彩香「ばっ、そんなことしたって無駄じゃ・・・」
ドッゴオオオン!!!
彩香「キャアアア!!!」
その轟音とともに、彩香の前方に巨大な爪先が出現する。
巨大な足の指の下には、多くの市民が下敷きになっており、血まみれになっていた。
先程、答えてくれた青年も踏み抜かれた際に崩れてきた瓦礫の下敷きになってしまった。
彩香「ど、どうすれば・・・!!」
市民B「引き返すんだ!!」
その声に5~6人の市民が賛同し引き返していったが、彩香はその場を動かなかった。
何しろ、目の前に出現したのはヒトの右の爪先であり、親指の側面が見えている状況なのだ。
つまり、それの意味するところは。
ドッゴオオオン!!!
市民たち「ぎゃあああ!!!」
案の定、引き返した市民たちは、もう一つの爪先に踏み潰されてしまったようだ。
しかし、これで彩香は両方の巨大な爪先の間にいることが判明してしまった。
明らかに逃げ場がない状態なのだ。
彩香「よしっ!出口を目指すわ!!」
意を決して、彩香は出口付近にある巨大な親指の側面にしがみついた。
程なくして、その爪先は上へと運ばれ、ミニチュアの地面を踏みしめる。
ズシイイン!!
彩香「キャアアア!!」
舞佳の一歩は絶大なもので、小さな彩香を吹き飛ばすのに充分なものであった。
彩香はそのまま近くの建物の陰に転がっていった。
幸いなことに巨大な舞佳の視線から外れることができたのだ。
やがて、もう一つの巨大な素足が彩香のはるか前方へと振り下ろされる。
ズシイイン!!
ミニチュア自体が揺れ動くほどの衝撃に、彩香はただただ震えていた。
しかし、このまま手をこまねいていても仕方がない。
下手をすれば、何処かで逃げ果せている大祐も殺されかねない状況なのだ。
彩香には、冷静な思考が求められていた。