§26.人間の真価は追い込まれたときにこそ


大祐「こ、これは一体? どうして巨大な舞佳ちゃんが・・・!?」
一方、巨大な彩香から逃げ果せていた大祐は混乱していた。
先程まで自分を攻撃していたのは、姉の彩香であったのだが、いつの間にか巨大な舞佳に変わっている。
詳しい状況は飲み込めないが、ひとまず言えることは大祐が舞佳に踏み潰されかねないということだ。
しかも、サイズ変換器で縮んでいる以上、舞香に踏んづけられただけで一発アウトだ。
大祐は、巨大な舞佳の動向を読み切るため、自転車に乗りながら細かな道を進んでいた。
舞佳「あー、楽しい!!」
ズシイイン!!
突然、舞佳から言葉が発せられたかと思うと、再び舞佳の歩行が始まった。
舞佳の素足は、無秩序に建造物を破壊していく。
しかも、舞佳は建造物を蹴り上げるように進むため、彩香のとき以上にコンクリート片が降り注ぐ。
言うまでもなくこのコンクリート片にあたっても、大祐は激しく流血してジ・エンドだ。
まさに八方塞がりのこの状況に、大祐は半ば笑みがこぼれていた。
ズシイイン!!
舞佳の巨大な素足が大地を踏みしめることで、地面が揺らいでいる。
大祐は、より確実に安全に逃げるため、後方を確認しながら逃走を図っていた。
やがて、舞佳の進行とは逆の向きと思われる方向に自転車を走らせていた大祐は、思わぬ人物と遭遇する。
電信柱の陰に隠れて若い女性が様子を窺っていたのだが、その人物はなんと彩香だったのだ。
大祐「あ、あれっ?! 姉ちゃん?」
大祐は自転車を停車させ、身を潜めていた彩香の元へと駆け寄る。
彩香「だ、大祐!! 無事でよかった・・・。」
彩香は目に涙をいっぱい溜めながら、大祐に語りかける。
大祐「一体どういう状況なんだ?!」
彩香「それは後で話す!とにかく、下手をすれば私たちはあの巨大な舞佳に踏み殺されるわ。」
そう話す彩香の目には、鋭さが戻っていた。
いつもの悪巧みを企む彩香の表情だ。
半ば安心感をもった大祐は、自転車の後ろに彩香を乗せ語りかける。
大祐「姉貴、サイズ変換器はどこ?」
彩香「舞佳に取り上げられてる。現状、元に戻る術がないってわけ。」
大祐「舞佳ちゃんが飽きて帰るのを待つとか?」
彩香「舞佳は、私を待ってるはずだから、それはないと思う。」
二人は冷静に状況を判断しながら、生き残る術を話し合う。
しかし、サイズ変換器を舞佳が手に持っている以上、元に戻れるはずもなく状況は絶望的であることだけが確認できた。
舞佳「さーて、全部踏んづけてあげるからね。あっはっはっはっ!!」
上空から舞佳の高笑いが響き渡ったかと思うと、舞香は大祐と彩香がいる方向へと向かってきた。
ズシイイン!!
ズシイイン!!
ゆっくりゆっくり一歩ずつ接近してくる舞佳は、念入りに足を地面に擦り付けている。
持ち上がる舞佳の巨大な足の裏は土がベッタリとくっついており、所々に赤いシミがこびりついていた。
大祐「ど、どうする・・・?」
彩香「あの手に握っているサイズ変換器さえあれば・・・。」
自転車を運転する大祐は、飲みかけのペットボトルを地面に投げつけ苛立ちを隠せないように話す。
大祐「ああっ、もうっ!サイズ変換器がもう一つあればいいのに!」
彩香「ダメよ。舞佳が持っているサイズ変換器を解除しないと戻れな・・・」
彩香の言葉がピタリと止まる。
大祐「どうした、姉貴?」
彩香「そうか・・・、その手があったか・・・。大祐、ストップ!!」
彩香の唐突な言葉に、大祐は慌てて自転車を止める。
その瞬間、勢い余って後ろに乗っていた彩香が大祐に乗りかかる。
大祐の背中に埋もれた彩香の温もりが大祐に伝わり、一種の安堵感を大祐に与えていた。
彩香「大祐、おとりを頼める・・・?」
大祐「えっ・・・。」
突然の彩香の提案に大祐は思わず息を呑みこむ。
しかし、考えなしに話をするような姉でないことは、大祐は百も承知だ。
おそらくは、この状況を打開できる何かの秘策を思いついたことには間違いないのであろう。
しばらくの沈黙の後、大祐は口を開く。
大祐「・・・で、何をすればいい?」
彩香「えーと・・・。」
彩香は、自らの考えを大祐に丁寧に伝えた。


一方、舞佳は眼下のミニチュアの街を破壊し続けていた。
足下の建造物もどれも脆く、砂で作った城のような感覚を覚えていた。
そんな建造物の間を小人たちが四方八方にと逃げている。
そんな小人たちの必死な様は、舞佳に一種の快感を与えていた。
舞佳「さーて、次はどこを踏んづけてやろうかしら?」
舞佳がミニチュアを隈なく観察していると、やや離れた場所で異様な光景を目の当たりにした。
舞佳から少し距離のあるところに大型ショッピングセンターがあるのだが、その駐車場で自転車の後方に旗をくくりつけて大きく回転している小人がいるのだ。
明らかに舞佳に対して、何らかのコンタクトを取ろうとしているのが確認できた。
しばらくその光景を見入っていた舞佳は、徐々に興味を引かれその方向へと歩いていく。
舞佳が接近してみると、その小人は実に規則正しく自転車でぐるぐると回っていた。
舞佳「おーい、小人クーン?」
ズシイイン!!
舞佳は、一生懸命に動いている小人のすぐ近くに素足を振り下ろした。
当然ながらその小人は、自転車ごとひっくり返っていた。
舞佳「ああ、ごめんごめん。ところで、何をしていたのかな?」
倒れた小人は、急いで体勢を立て直すと、何と一目散に舞佳から逃げ出した。
舞佳「ちょ、何で逃げるのよ!!」
ズシイイン!!
巨大な舞佳の素足は、小人の進行方向に着地する。
周囲の住宅もろとも振り下ろされた素足によって、小人の逃げ道は封鎖されてしまう。
自転車に乗っている小人は、舞佳の両方の巨大な素足に囲まれ風前の灯となっていた。

(続く)