§28.大祐の読みの甘さ


前回、危うく舞佳によって生命を失いかけた大祐ではあったが、懲りもせず再びミニチュアに潜入しようとしていた。
半ば呆れかえるようにして、彩香は弟の行動を凝視していた。
大祐「あ、姉ちゃん!頼みがあるんだけど・・・。」
彩香「えっ・・・?!」
準備に勤しんでいた大祐が突如として話しかけてきたことに、不意を突かれた彩香は思わず声を漏らす。
彩香「いや、頼みは聞くけど・・・。舞佳に踏み潰されかけたのに、またミニチュアに入るの?」
大祐「僕はミニチュアの街に登録しているから、死ぬことはないじゃない。だから、今回は、サイズ変換機とか使わずに姉貴の足を鑑賞しようと思って・・・。」
彩香「よく飽きもせず、足の裏ばっかり見るのね。」
とうとう、彩香は普段から抱いていた疑問を大祐にぶつけてみた。
一体、ヒトの足の裏にどんな魅力があるというのだろうか。
まじまじと見つめる彩香の瞳は幾分か瞬きを繰り返していて、いかにも純粋な瞳に大祐は吸い込まれそうな感覚を覚えていた。
大祐「え・・・、だって・・・。」
彩香「なーに?」
大祐「赤々とした肉付き、猛烈な腐敗臭、もわっとした体温、普段の姉貴から感じることのできない別の一面を感じることができるんだもの・・・。」
大祐の感覚にいまいち理解が及ばない彩香は、適当に相槌を打つ。
おそらく、大祐の嗜好は一生かかっても理解できないものだと彩香は悟ると、彩香は次の話題に話を進めようとする。
彩香「んで、私は何をすればよいのかしら?」
大祐「おおっ、さすが、話が分かる姉貴。本当に頼りにしてるよ。」
彩香「はいはい。早く話して。」
大祐「1000分の1サイズでミニチュアの街に潜入するんで、まず、僕の目の前に姉貴の足の裏をかざしてほしい。」
彩香「ふんふん。」
大祐「そのあと、姉貴の足を着地させて、僕に足を登らせてほしい。」
彩香「どうやって?」
大祐「僕が姉貴の爪先の指紋に手を掛けて登るんだよ。その後、姉貴の足の指に到達して、姉貴の足の甲の上に僕は待機する。」
彩香「はぁ。」
大祐「んで、姉貴は僕を乗せたまま、ミニチュアを破壊しまくるっていう設定はどうだい?」
彩香「ま、あなたの考えた設定を忠実に再現してみますか。」
大祐「いやー・・・。僕は話が分かる姉貴を持てて幸せ者だよ。」
彩香「褒めたところで何も出ないからね。」
そうは言った彩香であったものの、彩香の頬は薄らと赤らんでいたのだった。

そうこうしているうちに、大祐はミニチュアの操作盤で詳細を設定すると、自らの精神をミニチュアの街の中へと移動させる。
彩香はそれを見届けると、ミニチュアの街の近くまで移動する。
彩香の眼下には、1000分の1サイズに縮んだ町が出現する。
そして、その街では、多くの人たちが行き交い、変わらぬ日常を演出していた。
平穏な生活を過ごすミニチュアの人たちに微笑みつつ、彩香は24cmの素足を持ち上げる。
彩香「大祐! どこにいるの?」
ズッズウウン!!
遂に彩香の巨大な素足がミニチュアの街に繰り出される。
すると、先程まで何事もなかったはずの人たちは蜘蛛の子を散らすように走り出す。
群衆「キャー!!」
群衆「うわあああ!!」
老若男女問わず、ミニチュア内の人たちは振り下ろされた彩香の巨大な素足から一斉に逃げ出す。
大祐は、その波をかいくぐって何とか彩香の素足に接近しようとするも、なかなか前へ進むことができない。
ミニチュア内の人たちと大祐とでは当然ながら目的が違うからであるが、想像以上の人の波に大祐は半ば困惑していた。
彩香「あ、そうだった。足をかざせばいいのよね?」
上空から彩香の声が聞こえてくる。
大祐のいる空間が徐々に暗くなっていくと同時に、上空には全長240mはあろう彩香の巨大な素足が君臨していた。
足裏の温度が高いことが容易に想像できるほど、足裏が赤々とした輝きを有している。
また、足裏の湿り気は、ミニチュアの地面の土埃やコンクリート片等を実によく吸いつけており、若干の汚さも演出されていた。
彩香の素足の正体を見ていた大祐の股間もまた勢いよく血の巡りがよくなっていた。
ふと気づくと、大祐の周囲からはほとんどの人々が逃げ出しており、道路上に一人だけが取り残されていた。
大祐「うおっと・・・。このままいると、姉貴に踏み潰されちゃう。逃げようっと。」
今回ばかりは、大祐も勘が鋭く、彩香の足裏の鑑賞を適当なところで止め、そそくさと脱出を試み始める。
やがて、大祐が巨大な素足の作り出す影から逃げ果せるのを見計らったように彩香から声がかけられる。
彩香「それじゃあ、足を降ろすわよー?」
彩香の素足は一気に床へと振り下ろされる。

ズッズウウウン!!!

その瞬間、彩香の巨大な素足の着地の衝撃が2㎜程度の大祐を襲う。
彩香に踏み潰されなかったとはいえ、彩香の素足からはたった1~2cm程度しか離れていなかったのである。
素足がめり込んだ道路のアスファルトの亀裂に大祐は軽々と飲み込まれ、そのまま大祐は彩香の足の指に磨り潰されてしまった。
当然、ミニチュアからは警告音が鳴り響く。
彩香は、深いため息をつくと、ミニチュアの街をリセットしたのであった。

(続く)