§32.ギガ彩香の1歩


彩香の足の裏は思ったよりも硬さがある。
もちろん、土踏まずや足指などには一定の柔らかさがある。
しかし、足指の裏や付け根、かかとの部分など床との接地面は、皮膚が厚く硬いわけだ。
これらは、小さくなった大祐を踏み潰したときに、本人からの証言で判明した。
彩香本人としては、自ら足の裏を擦ってみても、硬さを認識したことはない。
足の裏は、角質がたまり厚くなった箇所などはなく、弾力も感じられる。
彩香「はぁ…。」
自分の足の裏は、激越な腐敗臭とともに、硬さや柔らかさが混在している。
そう思うと、彩香は両方の爪先を摘まみながら大きくため息をついた。
そして、年頃の女性にずけずけと物を言う弟の大祐に対して、徐々に苛立ちを覚えるようになってきた。
彩香「ふふっ、私の素足でいじめてやるか…。」
足音を響かせながら彩香は、リビングへと向かった。
一方、そのとき、大祐はリビングでアイスを食べながらテレビを見ていた。
大祐が完全にリラックスモードであったこともあるが、大祐は彩香が背後に立っていたことに気がついていなかった。
そして、彩香は一瞬の隙を突き、大祐の腕に巻かれたミニチュアの街のユーザーベルトを操作した。
当然ながら大祐の意識はゆっくりと遠のいていった。

大祐「う、うーん…。」
彩香「おはよう、大祐。」
大祐「ん・・・、ひえぇっ!!!」
大祐の周囲を、しゃがみ込んだ巨大な彩香が埋め尽くしている。
しゃがみ込んでいるため、彩香の豊満なお腹の肉が盛り上がり、上部にある乳房と合わさって圧倒的な質感を演出していた。
大祐(うっ・・・。)
むわっとした腐敗臭に気が付いた大祐は視線を床に落とす。
案の定、赤々とした彩香の巨大な素足からは、強烈な足のにおいが放たれていた。
ただ、いつもよりは臭いが充満していないことから、それほど足汗を掻いていないことが想定される。
大祐「姉ちゃーん、何で小さくしたんだよー。」
ひとまず、大祐はあたりさわりのない返答を彩香に投げかけてみる。
彩香「え?あんたと遊ぶからに決まってるでしょ?」
彩香の口調から、大祐は己の運命を悟り、大きくため息をついた。
しかも、ミニチュアの街を用いるということは、大祐に死ぬ可能性があるということだ。
彩香の持つサイズ変換器には復元機能が備わっていないため、下手をすると命を落としてしまう。
これから彩香は過酷な行動を大祐に強いる予定であることは想像に難くなかった。
半ば諦めつつも大祐は彩香に問う。
大祐「・・・・・・。僕はどうすればいいの?」
表情に一片の曇りもなく彩香が口を開く。
彩香「なんてことはないの。私がミニチュアを歩くから大祐は逃げてくれればいいのよ。」
大祐「僕はずっと逃げ続けるってこと?」
彩香「ああ、確かに大祐にとっては分が悪いか・・・。」
やはり、素直に回答しているせいか、彩香の機嫌が幾分かは良くなってきているようだ。
下手に抵抗することが身を滅ぼすことに繋がりかねないを弟は実によく認識していた。
彩香「じゃあ、こうしましょうよ。」
そういうと、彩香はミニチュアの街の操作盤に手を伸ばす。
手慣れた手つきですいすいと操作すると、大祐の体がさらに縮小を始めた。
大祐「ええっ?! 姉ちゃん、待ってー!!」
大祐の叫び声を無視するかのように、相対的に彩香の体はドンドン巨大化を始める。
大祐の眼前は徐々に彩香の巨大な足の指に占拠されつつあった。
と同時に、彩香の爪先から放たれる足のにおいもきつくなってくる。
大祐「ねえちゃああん!!!」
やがて、大祐の体の縮小が収まる。
大祐は怖くなって顔を上げられないが、床下のフローリングを細かいゴミがふわふわと浮いており、恐ろしく小さいサイズまで縮小されたことが理解できる。
彩香「ふ~ん。これが1万分の1のサイズかぁ。」
大祐「え・・・。」
彩香の言葉に耳を疑った大祐は、瞬間的に顔を上げる。
そこには、自身の体の50倍以上も高い彩香の超巨大な足の指が5本も聳え立っていたのだ。
遠巻きながら、彩香の5本の足の指には横向きに幾本もの皺が刻み込まれているようだった。
その皺が指紋であることに大祐が気づくまで、時間はかからなかった。
さらに、足の指と指の隙間には、奥の方向まで深い闇が続いており、一種の洞窟の感覚に囚われていた。
彩香「さて、大祐?」
天空から投げかけられた一言に、大祐はビクッと反応する。
大祐「ど、どうする気なんだろう・・・。」
大祐は大きくごくりと息を呑みこむ。
おそらくは、このサイズ差では、ギガ彩香がミクロ大祐を認識することは不可能に違いない。
このままでは、「大祐と遊ぶ」ことは事実上無理のはずである。
大祐は、彩香の考えが読めず、ただただ黙って彩香の超巨大な足の指を凝視していた。
彩香「確か、私の右足近くでうろちょろしてたわよね?」
その瞬間、大祐の目の前に君臨していた超巨大な素足が上昇を始める。
爪先こそ上昇する瞬間には驚かなかったものの、足裏の皮膚は実によく床に吸い付いていて、床から離れる際には、ビリバリとけたたましい音を響かせていた。
また、足の裏の汗が原因なのか、床を浮遊する細かな塵をことごとく皮膚に引き寄せていた。
そして、様々なゴミを付着させたまま、彩香の超巨大な素足は、天空へと持ち上がっていった。
彩香「まず、大祐をぺっちゃんこに踏み潰します。」
大祐の上空のほぼ9割を彩香の超巨大な素足が覆い尽くしたかと思うと、徐々にそれは光を奪って接近を始めた。
彩香の素足の落下と共に大祐のいる地上付近では強風が巻き起こる。
大祐の足下を浮遊していたゴミも四方八方に飛散を始め、ただならぬ物体が降臨していることを大祐に訴えかけていた。
大祐「は・・・、『まず』ってことは次があるという事か・・・?」
思案に暮れていた大祐の周囲を闇が支配し尽くそうとしていた。

ズッドオオオオオン!!!!!

ピーピーピー!!

彩香の素足の着地と共に、ミニチュアの操作盤からはエラー音が鳴り響く。
彩香「おっ? 一発で仕留めたかしら? さすが私ね。」
ニコニコとほほ笑む彩香は、右の足の裏を眺める。
しかし、余りにも小さすぎる大祐は、跡形もなく踏み潰されてしまっていた。
彩香「ふふっ、楽しみはこれからよね・・・。」
彩香は、右の足の裏をパンパンと振り払うと、ミニチュアを再起動させた。


(続く)