§外伝1.彩香の思惑

※この外伝は、フレイユさんの描いたイラストを元にいと小さき人が文章に起こしたものです。うまくフレイユさんの意図通りに進むかはわかりませんが、ほんのしばらくの間お付き合い下さいませ。



残暑厳しいある夏の昼下がり、彩香は逸る思いを抑えきれない様子で自宅へと向かっていた。
ニヤリとほくそ笑む彩香の手には、腕時計のようなものが握りしめられていた。

彩香「ただいま!! 大祐、帰ってきてるー?」
息を切らして帰宅した彩香は、一息つく間もなく大祐を探す。
しかし、リビングにも彼の部屋にも大祐の姿は見えない。
この時間にいないのであれば、大祐は予備校にでも出かけているのであろう。
多少の落胆がにじみ出るように、彩香は軽くため息をつく。
そして、その華奢な体をリビングにあるソファーへと移動させる。
彩香「もうっ、肝心な時にいないんだから、あいつ・・・。」
そう言い放った彩香は、勢いよく立ち上がり大祐の部屋へと向かうと、ミニチュアのセットを持ち出した。
そして、そのままリビングで彩香はミニチュアを起動させたのであった。
ミニチュアの起動を見届けた彩香は、そのまま操作リモコンを持ったままソファーへと腰かける。
彩香「サイズは・・・、200分の1にしようかなー?」
彩香がリモコンでスイッチを入れると、彩香の眼下には実に精緻な建造物が立ち並び、一気に街の全容が明らかになった。
出現した200分の1の街を見ていた彩香の頬は徐々に紅潮してくる。
彩香「さーて、小人さんを私の美しい足で踏み潰しますか。」
さらりと口に出した言葉に、少しずつ興奮してきた彩香は、右の脚を高々と持ち上げる。
やがて、ミニチュアの住人たちにとってはあまりにも巨大な素足は街の外れからゆっくりと上昇してくる。
さながら太陽が東から昇ってくるように、実に悠然とそれでいて不気味な影を落としながら彩香の巨大な素足はミニチュアの上空へと運ばれる。
彩香「うふふっ、どうしようかしら・・・。」
自身の眼下に広がるミニチュアの光景を見ながら彩香は下でぺろりと唇を舐めた。

大祐「ふう。ただいまー。」
そんな恍惚の表情を浮かべていた彩香がいるとも知らず、大祐が帰宅したのであった。
大祐は自身の荷物を入れたリュックを無造作にリビングの片隅に置きながら、彩香のもとへと近づく。
彩香「あ、大祐ー。電話の近くにある時計つけてくれるー?」
彩香の言葉に反応した大祐は、リビングの入り口付近にある電話に目を移す。
すると、黒っぽい時計のようなものが電話機の近くに存在していた。
さして考えることもなく、彩香の言われたとおりに大祐はその時計を腕に巻きつけ、再び彩香のもとへと移動する。
大祐「あれっ? 姉ちゃ~ん、ま~た、俺のミニチュアを持ち出して~。」
彩香「ん~?」
彩香に話しかけた大祐は、その姿を見て興奮の坩堝に包まれていた。
左足を投げ出し、右足をミニチュア上空に掲げ、顔を赤らめた状態でいる彩香に、大祐は妖艶さまで感じることができていた。
思わず大祐は息をゴクリと飲み込む。
そんな大祐を知ってか知らいでか、彩香はじっと大祐を見つめている。
大祐「これからミニチュアを破壊するんだよね? 毎度のことながら可哀想に・・・。」
この異様な雰囲気を打破するべく、大祐は彩香へと話しかけた。
しかし、そんな彩香の指先は、大祐の右腕に巻かれている時計と伸びていた。
そして、彩香は、大祐に向かってとんでもないことを口走った。
彩香「何言ってるのよ、あなたも行ってくるのよ?」
大祐「へ?」
その瞬間、大祐の意識は遠のいた。

大祐「う、うぅーん・・・。」
彩香「あら、やっと気が付いたの?」
大祐「あれ・・・、ここは・・・?」
彩香「もうっ、私の美しい足を見せつけるのも疲れるのよ?」
上から聞こえてくる彩香の声に大祐は上空へと視線を移す。
大祐「うわあああっ!!」
そこには、大祐の上空を埋め尽くさんばかりの巨大な足の裏が浮かんでいたのだ。
しかも、その様子をさらに上から眺める彩香の顔があったのだ。
大祐「ここはミニチュア・・・なのか・・・?」
不思議そうな表情を浮かべる大祐に、彩香はゆっくりと口を開く。
彩香「大祐には説明しないとねー。実は、ミニチュアの街の改良試供版なるものができたらしいの。」
大祐「へっ?」
彩香「まだ、試供版だから手に入れるのすっごく苦労したんだけどさ。」
大祐「ど、どういうことなのー?」
彩香「あ、そうそう。大祐の腕に巻かれてるのがユーザーベルトβ版なんだけど、なんと生身の姿のままサイズを変更できるみたいなのよ!」
大祐「いっ?! それって、つまり・・・。」
大祐の額からはとめどなく汗が流れ始める。
彩香「もともとの大祐のデータと同期させるのに時間かかっちゃってさー。」
驚愕の事実を平然と言い放つ彩香に、大祐はすっかり怯えきっていた。
彩香「さあ、遊びましょうか。」
大祐「い、いやだ!!!」
大祐は巨大な彩香から離れるべく一目散に走りだした。

(つづく)