サイズ変換器3
作:いと小さき人


僕の名前は貴志(たかし)、高校1年生だ。
今日も友人の翔(かける)と共にサイズ変換器で遊ぶ約束をしている。
最近はこの変換器を使っての遊びがめっきり多くなってきた。
いつも10分の1サイズに縮み、15~16cm程の身長に縮んでいる。
今日も、僕の家で翔とともに玄関付近を探索して遊ぶことにした。
翔「玄関が一番冒険って感じするよなあ。」
貴志「うん、埃っぽいところが冒険の雰囲気を高めてるんじゃない?」
そんな会話をしているときだった。
ズン、ズン、ズーン
玄関に向かって大きな地響きが聞こえてきたのだ。
眼前に現れたのは、貴志の姉で大学3年生の萌(めぐみ)だ。
翔「おおっ、貴志の姉ちゃんじゃないか。」
貴志「本当だ・・・、何しに来たんだろう・・・。」
翔「なあ、貴志の姉ちゃんのパンプスの中を見てみたいなあ。」
貴志「えーっ?お姉ちゃんのパンプスの中?ダメだよ、絶対臭うだろうし。」
翔「いや、大丈夫だろ・・・」
ズーン!
徐々に足音を響かせながら萌は2人に接近する。
貴志「と、とりあえず隠れようぜ。」
翔「あ、ああ。」
僕たちの10倍近いサイズの巨大な女性の登場に2人とも慌てて物陰に隠れることにした。
やがて、翔の間近に、萌の大きな素足が着地する。
ズシーン!
翔は息を殺しながら状況を見守る。
貴志「お、おーい!翔、大丈夫だったか?」
翔「あ、ああ。物凄い迫力だったけどな・・・。」
2人の間近に萌は立ち尽くし、辺りをきょろきょろと見回す。
萌「あれー。誰かいると思ったんだけどな。」
そう言い終えた萌は、パンプスを履き、玄関で何やら動作をしはじめる。
しばらくすると、玄関付近に白煙が立ち込めてきた。
萌「よしっ、これで設置完了ね。」
どうやら萌は蚊取り線香を玄関に置きにきたようだ。
翔「うっ、ゴホッ、ゴホッ。煙たい・・・。」
貴志「何で、こんなときに蚊取り線香なんかを・・・。」
そのときであった。
咳き込む2人の体がさらなる縮小を始めたのだ。
2人の体はどんどん小さくなる。
翔「え、ええっ?どういうこと!?」
貴志「体が縮んでいく!!」
その答えは簡単であった。
カチャカチャと上空で音がしている。
萌「この器械は何なのかしら・・・。」
翔は縮みゆく体に危機感を持って、物陰から飛び出す。
翔「ちょ、ちょっと、それは操作しちゃダメだー!!」
そのとき、翔は大きく動揺した。
目の前にいるのは、今まで見たこともないほどの巨大な萌の姿だったのだ。
眼前の萌の体から放たれる重量感、威圧感に翔はゆっくりと息を呑みこんだ。
萌「さて、部屋に戻ろうっと。」
ズゥゥゥン!!
翔の前方に巨大なパンプスが着地する。
翔「うわっ!!」
そして、ギュウギュウと音を立てながら、大きなパンプスの中から萌の素足が登場する。
その大きな素足は、何の慈悲もなく翔目がけて振り下ろされる。
翔「え、うわ、ちょ、待ってええ!!」
ズシイイン!!
小さな翔はその全身に巨大な萌の素足を受け止める格好となってしまった。

貴志「翔・・・、ウソだろ・・・。」
巨大な素足に飲み込まれた翔の姿を目の当たりにして、貴志はパニックに陥った。
そして、慌てて物陰から飛び出て萌にアピールする。
貴志「おおーい!お姉ちゃーん!」
しかし、はるか上空にいる萌は全くの無反応で、パンプスを脱ぎながらもう一つの素足を着地させていた。
ズシイイン!!
萌「ん?」
貴志「うわ・・・、姉ちゃんの目がこっちを向いてる・・・。」
貴志は手を振るのを止め、萌の反応を待った。

萌「ん?」
萌は、自分の足元に何か小さい物体があるのを見つけていた。
萌(あれっ、何だろう。)
萌の左足のすぐ脇に1cmあるかないかの黒い点があるのだ。
萌「ゴミクズ・・・? いや、虫みたいなもの・・・があるわね。」
その小さな黒い点は少しずつではあるが動いていた。
そして、その小さな物体が人間とも思わない萌は、何のためらいもなく自分の素足を持ち上げた。
萌「早速、蚊取り線香が効いたのかしら。」
蚊取り線香の効果に満足した萌は、自分の素足を小さな物体の真上へとセッティングする。
萌「たぶん蚊ね。」
小さな弟がいるとも思わない萌は、持ち上げた足を床に降ろそうとする。

ズッシイイン!
懸命に逃げ出したものの、貴志は間髪入れず天空から降ってきた萌の巨大な素足に踏みつけられてしまった。
あまりにも貴志は巨大な萌に近づきすぎてしまっていたのだ。
萌「あれっ・・・、全然手ごたえがないわね。」
萌が自身の素足をひっくり返すと、足の裏には小さな赤いシミがついていた。
萌「ああ、いたいた。随分、血を吸ったのね。」
萌は再び自身の素足を勢いよく着地させ、その赤いシミを床にこすりつけていた。
萌「さーて、テレビでも見ようっと。」
弟もろとも2人の生命を奪ったことなど萌は知る由もない。

(終)