サイズ変換機5
作:いと小さき人


里穂「あっ、松田先輩ー!!」
克晶「おっ、里穂ちゃん。今日も元気そうだね。」
里穂「先輩にお会いできて嬉しいです。」

某私立大学に通っている20歳の野中里穂(のなかりほ)は、1つ年上の先輩である松田克晶(まつだかつあき)をとても慕っていた。
克晶は、スポーツ万能で勉強も得意であり、まさに非の打ちどころがない頼れる先輩だったのだ。
一方、その里穂も163cmでセミロングヘアーがよく似合っており、才色兼備の持ち主であった。
互いに惹かれつつも、それを意識してか二人とも言葉には出すことはなかった。
そんな克晶は、実は里穂に隠れてよからぬ行動を起こしていた。
1か月ほど前にサイズ変換器を購入した克晶は、自らを50分の1サイズに縮小させ里穂の自宅に無断で侵入していたのだ。
そして、里穂の着替えや普段の私生活などを大っぴらに覗いていた。
里穂の体は程よい肉付きで、潤い豊かな肌にはハリもあって、まさに美しさを感じることができた。
ほとばしる欲情を抑えることなどできず、今宵も克晶はサイズ変換器のお世話になろうとしていた。

いつも通り、克晶は里穂の自宅の前に立ち、ドアにある郵便受けに手を挟めながら100分の1サイズに縮小する。
やがて、その郵便受け内で大きさを調整して、玄関に降り立つ。
玄関には、里穂の大小様々な履物が鎮座している。
克晶は、その大きな履物を横目に、小走りで素早くリビングの方向へと移動する。
里穂「ふんふ~ん♪」
しばらく移動していると、里穂の鼻歌が聞こえ始める。
程なくしてキッチンで作業をしている里穂を発見する。
Tシャツに短パンで生足を披露している里穂に、克晶はすっかり釘付けになっていた。
短パンは豊満な太ももによってピッチリと膨れており、その下にはすらっとした長い脚が伸びている。
その最下層には、近くのスーパーの駐車場くらいはありそうな素足が2つ存在している。
何から何まで興奮を抑えることのできないシチュエーションに克晶は、思わず手を叩いて喜んだ。
里穂「!?」
その瞬間、里穂の大きな素足が上空に舞い、克晶の前方に振り下ろされる。
ドシーン!
克晶は、すぐさま近くにあるラックケースに身を潜める。
克晶「やばい、やばい。思わず手を叩いちゃったよ。」
克晶は、冷静に大きな里穂の行動に目を光らせた。
里穂「気のせいかしら・・・。」
用心深い克晶は、身の危険を感じ、退散する決意を固めた。
言いようのない疑念に駆られている里穂に構うことなく、迅速に克晶は部屋を出て行った。

次の日の夜、懲りもせず克晶は再び里穂の部屋を訪れる。
克晶「昨日は、全然満喫できなかったからなー。」
ブツブツと独り言を言いつつも、いつも通りにリビングへと克晶は向かった。
しかし、その日は、リビングの入り口にシートが敷かれていた。
さして気にも留めずに、克晶が一歩を踏み出す。
ピーピーピー
その瞬間、けたたましい音がリビング内に響き渡る。
里穂「やっぱり、何かいるのね?」
リビングで待機していた里穂が、待っていたかとばかりにズシンズシンと足音を響かせながら接近してくる。
克晶「や、やばい!!」
全速力で冷蔵庫の裏側に隠れようとする小さな克晶を里穂は発見する。
里穂「あぁー、小人が覗きに来てるのね。」
小人とはっきり認識されてしまったことに克晶は、驚きを隠せないでいた。
しかし、どうにか克晶は冷蔵庫の裏側に隠れることができた。
後は、頃合いを見ながら里穂の自宅を脱出すればいい。
かなりのピンチに見舞われたものの、まだ克晶の頭は冷静さを保っていた。
里穂「そんなところに隠れても無駄だからねー。」
そんな克晶に里穂の不敵な言葉が浴びせかけられる。
里穂の言っている意味がよく伝わらない。
この状態で、里穂はどういう行動を起こそうとしているのか。
克晶は、上方向、横方向に目を光らせつつ、近くの綿ゴミに隠れながら考えを巡らせていた。
里穂「よし、これでいいわね。」
その瞬間、克晶を庇護していた冷蔵庫は忽然と姿を消してしまった。
里穂「こいつかー。」
慌てて上空を見上げると、里穂もサイズ変換器を持っており、小さくした冷蔵庫をその巨大な指先に摘まんでいた。
小さな冷蔵庫を摘み上げた里穂は、両方の素足で小さな克晶を取り込むように立ち尽くした。
里穂は、ついに足元にいる克晶の逃げ場を封じこめることに成功したのだ。
里穂「あんたが覗いてたのね?」
克晶「あ、あわわ・・・。」
そこには克晶に見せていた普段の優しさなど微塵にも感じられない冷徹な表情の里穂がいた。
怖さに震える克晶は、自らの体を10分の1サイズに戻すと、里穂の両方の素足の間を駆け出す。
里穂「あっ、うそ!? 大きくなるなんて!」
すかさず、里穂は自分のサイズ変換器で、床を駆け出す克晶を縮小させようとする。
克晶「うわあああ!!」
里穂「待ちなさいっ!」
それでも間一髪、克晶はリビングの外へと脱出することに成功する。
やがて、克晶は完全に元のサイズに戻ってしまう。
そこにリビングを出てきた里穂がドアを開ける。
里穂「あっ!! えいっ!!」
そして、里穂は、逃げ出す謎の小人へ自らのサイズ変換器を照射する。
克晶「うわあああ!!」
元の大きさに戻った克晶は再びグングンと小さくなっていく。
相対的に後方に立っている里穂がドンドンと大きくなっていく。
小さくなっていく克晶を嘲笑うように里穂が一歩一歩近づいてくる。
克晶「り、里穂ちゃん!!」
里穂「あらっ・・・、サイズが1000分の1になってたわ。」
克晶「うそっ!! 待ってよ!!」
里穂「踏んづけてあげるわね。」
克晶「はあぁっ!?」
克晶はいつの間にか土下座をしていた。
必死に許しを請うしか方法が思いつかなかったのだ。
克晶「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
しかし、縮小が終わった克晶を待っていたのは、里穂の巨大な素足であった。
小さな克晶の上空を全長240mはあろうかという里穂の素足が覆う。
やがて、その大きな素足はゆっくりと下降を始める。
恐ろしくも実に雄大に里穂の素足は降りてくる。
徐々に克晶の周囲は里穂の素足に覆われていく。
それでも、克晶は全速力で巨大な肌色の平面から逃げ出していた。

ズシイイン!!

里穂が素足を床に着地させたものの、ゆっくりと足を下ろしていった為、克晶は逃げ出すことに成功していた。
克晶「はぁ、はぁ、はぁ・・・。里穂ちゃん・・・。」
克晶は、里穂の巨大な素足の真横で大きく呼吸を整えていた。
しかし、次の瞬間、真横にあった巨大な素足は上空へと姿を消す。

ズッシイイイン!!
ベッタアアアン!!
ドシイイン!!
ズダアアン!!

克晶のいる周辺は猛烈な勢いで里穂の素足が振り下ろされた。
しかも、里穂は素足を床にこすりつけ、確実に小人の命を奪い去ろうと躍起になっていた。
当然、その巨大な素足を避けきれるはずもなく、克晶はその短い一生を里穂の足下で終えてしまった。
里穂「はあ、さっぱりした。」
謎の小人をやっつけた感のある里穂は、悩ましい疑念からついに解放されることになったのだ。
しかし、克晶が行方不明になったことを里穂は、翌日に知ることになる。
必死に克晶の無事を祈る里穂ではあったが、行方不明の真相を知っているものは、実は誰一人としていなかったのだ。

(終)