二話 ワイ氏ケースケ、異世界転生初っ端で相棒に絶句
「うわ!」
ドサッ!っと草の上に落ちる音と共に、そんな声が出てしまう。
先程までメルルと一緒にあのオッサン神様の不思議な空間に居た筈……
立ち上がって周りを見渡してみるが、目に映るのは青々と澄み渡った空と、芝生に芝生に芝生に芝生。遠くには標高の高い山がそびえていて、ここは日本では無い様だ。
「ここが異世界……なる程」
つまり、これから俺のチート無双ハーレム物が始まるのか…… ワクワクするな!
そういえば、メルルはどこだ?
あいつは最強種族と遠距離チートを頼んでいたが……
まあいい。その内見つかるだろ。
そんな事よりも、だ。
あのオッサン神様は種族とスキルを決めるって言ってたけど、どうなったのだろか?
――ピルルルルルル!
疑問に思っていた所、突然ポケットの中に入っていたスマホが鳴り出した。ってか、服装が変わってるな。ズボンが白いぶかぶかのズボンになってる。
おっと、そんな事考えている場合ではない。
ズボンの右側のポケットからスマホを取り出し、着信画面の通話ボタンを押した。
「おー繋がった繋がった。無事着いた様だな」
スマホから聞こえてきたのはオッサン神様の声だ。
「流石神様です!第一声のセリフのチョイス、分ってますねー!」
「ワシも一度このセリフを言ってみたかったのだよ!お主らのおかげで言えたわい」
オッサン神様とそんな会話をする。 ……もしかすると、オッサン神様ならメルルの居場所を知ってるかもしれないな。
そう思い聞いてみることに。
「所でメルルはどこに居るのですか?」
「ああー…… もう少しでそちらの世界に行くとこだよ。望み通りに最強種族にしてやったからの。この世界にメルルちゃんが着いたら電話してあげなさい」
「そうですか」
「他に聞きたい事はあるかね?」
オッサン神様の言葉に、暫く考える。 ……そういや、ステータスとか見れるのかな?
「ステータスとか見れるのですか?」
俺の問いにオッサンは言う。
「見れるとも見れるとも!ステータスオープンと言えばステータス画面が出る世界じゃ。好きじゃろー?」
「大好きです!」
俺がそう言うと、満足気なオッサン神様。
そんなオッサン神様は「はっはっは」と笑った後、咳払いをした。
「所で、じゃ。メルルちゃんの事を頼むぞ? メルルちゃん見てビックリせんようにな」
「頼むって?あと、なんでちゃん付けなんすか?」
「そら、種族上メルルちゃんには女子になって貰ったからじゃ」
「マジで!?」
オッサン神様から聞かせられる衝撃の事実。
まさかのメルルがTS転生とは…… オンラインIDがメルルとか、女キャラみたいな名前だったが、まさか異世界で女になるとは。
たまげたなぁ……
「それよりも、じゃ。メルルちゃん見て驚かん様にな」
「それってどういう……?」
「二人で異世界チートやるんじゃぞー?ほな、またな」
ブツッと通話が途切れ、スマホからはツーツーと言う音が流れている。
メルルを見て驚かん様にって…… どういう事だろ?
オッサン神様が最後に残した言葉に頭を傾げていると、それは突然やってきた。
ズドオオオオォォォォォォン!
後ろから天地を揺さぶり世界中に響いたのではないかと錯覚する轟音とともに、俺は暴力的な突風と突き上げられた様な地面の揺れで二十メートルは上空に飛んだ。
「あぐっ!」
地面に叩き連れられた衝撃で、苦しみの声がでる。
何が起こった?
突然の出来事に驚き、困惑するしかない。仕方ないだろ、ホントに突然なんだから。
俺は後ろを向いて、轟音がした方を見た。
「イテテ…… 火山でも噴火したのか? ……え?」
そこには少女がいた。 ……いや、そうじゃない。
遥か向こうの筈なのに、途方もないくらいの巨大な少女が足を広げて俺を囲い、黒いフリル付きスカートの中の純白なパンティーをさらけ出しながら痛そうに体を起こしていた。
『いててててて……』
痛そうに呟くその圧倒的な巨体の存在感に、俺はただひたすら圧倒されていた。
俺を囲う足が少し動くだけで、標高六千メートルはありそうな岩山をまるで子供が作った小さな五センチの砂山をけ飛ばすかの如く吹き飛ばしている。
黒いTシャツの胸元。まるで山の様に感じる程に張り出した乳房…… その更に空の彼方に見える巨大な少女の顔は、驚くほどに整った顔立ちをしていて、誰もが認める文句なしの絶世の美少女だった。
途方もない大きさの巨大な少女は痛みが引いたのか、辺りを見回している。
『ここ何処……?』
そう呟いた少女は、下を見た。
『何この煙。あっちいけ』
そう言いながら自身の足元付近に纏わりついていた雲を手で三回薙ぎ払う。
ドゴゴゴゴゴゴオォ!と轟音を辺りに響かせ周りの雲を吹き飛ばしながら、途方もない大きさの手で生まれた絶対的な暴力と化した突風が、辺り一面の地面をベキベキベキベキ!とめくれ上がらせた。
絶対的な力。
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
偶然下に居なかったから良かったが、もしあの手の下に居たなら…… もう生きては居なかっただろう。
あの手の下に町や村があったとしたら…… いや、あの少女からしたら、俺たち人間は塵も塵。俺たちの命なんて無いも同然と言う事か……
手を一振りしただけで天変地異を起こした少女は辺りを見まわしている。
『なんか変わった景色だなー…… 所で、ケースケはどこに居るんだろ……?』
そうつぶやく巨大な少女。
あんな巨大な少女の口から自分のオンラインIDの名前が出てくるって、どうなってるんだよ!
驚きパニックになりかけた俺だったが、ふとオッサン神様が「メルルちゃん見て驚かん様にな」と言う言葉を思い出した。
もしかして…… いや、もしかしなくても……
あの途方もない絶対的な力を振るう巨大な少女はメルルなんじゃないのか……?
そう考えた俺の、次の行動は早かった。
一刻も早く電話して、俺が近くに居る事と自身の大きさに気が付いてもらわないと……!
あんな大きさのメルルの近くなんて、俺の命がいくつあっても足りないっ!