【ビー玉と巨大ヒロイン】
『こちらが衛星から見た地球の映像になります・・・』
TVでは先日打ち上げられた人工衛星からの画像がニュースで公開されている。
別にそういったものに興味がある訳ではない。ただ単に朝食時にニュースを見ようとTVを付けたらたまたまやっていただけの話だ。
『何度見ても宇宙から見た地球は綺麗ですね!』
「でも『宇宙から見た地球』なんてもういくらでも画像が出回る時代だからね・・・なんかもう珍しくもなんともないって感じ」
私はふと目に付いた床に転がっているビー玉とビーズを拾い上げた。
年の離れた小さな妹が片付け忘れたものだろう。
「そうね、地球の映像なんてもうこの青いビー玉くらいに珍しさを感じないわ。地球がビー玉ならこっちのビースが月かしら?・・・いやそれにしては小さすぎるか」
私はビーズを指先でクリクリと転がす。
我ながらどうでもいい事を考えてしまったものだ。別に地球がビー玉だろうとビーズだろうと考えても無意味なのだから・・・・
「あ!いっけない、このままじゃ学校に遅刻しちゃうわ!」
妙な事を考えている間に時間が過ぎてしまっていた。
私の通う高校はそれなりに距離があるので急がないと間に合わない。
「いってきま・・・・・うわぁっ!!」
私は玄関を飛び出した途端に何かを踏んづけて思いっきり尻もちをついてしまった。
「あいたたた・・・何よもう!!ってこれビー玉じゃないの!まったくあちこちにビー玉を散らかして・・・・」
これもおそらく妹の落としたものなのだろう。急いでいる時に転ばされてイライラした私は思わずビー玉を遠くに投げ捨ててやろうと大きく振りかぶり・・・
《タンマタンマ!ちょっと待って~!!》
「え?何?ビー玉から声がする?もしかしてこれ高性能スピーカーだったりするのかな?・・・・そんな訳ないか、気のせいよね!」
どう見ても表面はツルツルしているし、音が出そうな構造でもなさそうだ。
気のせいだと思った私は再度大きく振りかぶった。
《だからやめて!投げないで~!!我の話を聞いてくれ!!》
「えっと・・・ビー玉がしゃべったってことで合ってるかな?」
《まぁ癪だが、今の我はこの星ではビー玉というガラクタに似ているらしいな。それは認めざるを得ないだろう。紛らわしくてすまなかったな。我はこの星を狙う悪党を追ってここまで来たのだが、運悪く宇宙船が爆発してこんな間抜けな姿になってしまったのだ。》
「なんかテンプレな設定ね。ビー玉じゃなければ変わった玩具なのかもしれないわね。どういう構造になってるのかしら?」
《我の言ってることは本当だから話を聞いてくれ!予想ではそろそろ奴らが・・・》
ドカァァァァァァン!!!
「なに?爆発!?」
《遅かったか・・・ほら向こうを見てみたまえ!》
爆発があったのは幸い遠くの方だった。
とはいえその方向は私の通う高校の近くだ。そしてその爆発のあった場所には100mはあろうかという巨大なトカゲのような怪獣が雄叫びを上げて街を破壊していた。
「嘘・・・でしょ?こんなの現実にありえる訳がないわ。だって怪獣なんて・・・・」
《今のこの星の科学ではあれは倒せない。我ならアレを倒すことができるのだが協力してはもらえないだろうか!》
「なんか増々テンプレな設定が出てきたわね・・・まぁいいわ!私はどうすればいいの?」
《我の力は素のままでは無力だが、乙女と融合すれば強大な力を引き出すことができるのだ。君はただ承諾してくれればいい!》
「胡散臭いけどこのままじゃ私の学校が無くなっちゃう・・・仕方ない!いいわよ、ドンと来なさい!」
《ではちょっと失礼・・・・》
するとビー玉もとい正義の味方のような人(?)は私の首の下あたり、左右の鎖骨の中心に半分めり込むような形で収まった。
なんだか特撮映画のヒーローが胸に付けているやつのようだ。
「うう・・なんか変な感じ・・・・これからどうしたらいいの?」
《まずは対等な立場にならなければ話にならない。あの怪獣と同じ大きさまで巨大化するぞ!具体的にはあの怪獣と同じ大きさになった自分をイメージすればいい!》
「分かったわ。やってみる!」
私は目を閉じ、先程見た怪獣と同じ100mくらいの大きさになった私の姿をイメージした。
ズドォォォォォォォン!!
「うわぁぁっ!!何よコレ、華麗な変身とか何もなくてただの巨大化じゃない!?」
一瞬のうちに私の身体は本当に100mサイズに巨大化していた。
周りを見回すと住宅街が私の脛にも満たない大きさになっていた。
私の家も例外ではなく、右足のすぐ横には一踏みで潰してしまえそうな大きさの我が家の姿があった。
「それにしてもやけにスースーするな・・・・って・・・・いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ~!!何で私裸なのよ~!!」
《何でって言われても巨大化した今のお前が着れる服がこの星にあると思っているのか?それにこの星で怪獣を倒している正義の味方のイメージは裸の宇宙人だと聞いているぞ。問題ないのではないか?》
「そうかもしれないけどさぁ~!!!私女の子なんだよ~!!!!どうにかしてよ~!!」
私は胸と股間を隠しながら必死に訴える。
《今から服を用意することはできない。とにかく今はさっさと怪獣を倒してしまわないと話にならないぞ!恥ずかしがっているうちにこの街が破壊しつくされてもいいのか?》
「やればいいんでしょ!やればぁぁぁぁぁ!!!」
私はヤケクソになって涙目になりながらも走り出した。
途中で道に置き去りにされた車や家を踏みつぶしたり蹴り飛ばしてしまったが、怪獣に全てを破壊されてしまうよりはましだと割り切って走り続けた。
ぷるんっ!ぷるんっ!
「ねぇこんな時に言うのもなんだけど私のおっぱい大きくなってない?」
本来なら私は高校生でありながら未発達なツルペタおっぱいというコンプレックスを持っている。だからこうして揺れる程のおっぱいが無いのだ。
《まぁおそらく無意識下でお前が理想の自分をイメージしてしまったからなのだろうな》
「裸にされたのは許してないけど、そこは感謝しておくわ!」
私はそしてFカップはありそうなおっぱいを揺らしながら走り続け、私の感覚で50mほど走った所で怪獣と対峙する距離になった。
グオォォォォォォ!!!
怪獣が吠える。私に気付いて威嚇しているのだろう。
「そんなのにビビる私じゃないわ!それ先手必勝のパーンチ!!・・・・ったぁ!痛い!堅い!何よコレ!?」
私は怪獣の不意を衝いて横顔を殴った。全力で殴ったはずなのにびくともしなかった。
それどころか亀の甲羅のように頑丈な皮膚に覆われていた為、痛い目をみたのは私の方だった。殴った手は赤くなりヒリヒリしている。
「どういうこと!?あいつと同じ大きさになれば勝てるんじゃないの!?」
《こいつは計算外だ・・・あの怪獣、宇宙でも右に出る者はいないという程の頑丈さが売りのやつだぞ!このままではダメージを与える事すらできないかもしれない・・・》
グオォォォォォォ!!!
私に殴られたのが怒りに触れたのか怪獣は鋭い爪とキバをちらつかせながら私を追いかけてきた。ずんぐりとしたその体型からは信じられないほど俊敏で、私も全力で走らなければ追いつかれそうな程だった。
ドオォォォォォン!!・・・・ぶちゅぶちゅ!!!・・・・
走り続けているうちに街の中心から端の方まで来てしまった。
この辺りになると怪獣出現の情報がまだ十分に伝わっておらず、避難できてない人々も大勢いた。そのため私の足元では建物を破壊する以外の何か生き物を踏みつぶしたという感触が何度もあった。既に数千人を下らない人数を踏みつぶしたり建物ごと吹っ飛ばしたりしてしまったと思う。でもこっちだって必死なのだ。逃げるのをやめればあの怪獣に殺されるのは私なのだから。
「はぁはぁ・・・ねぇ何か対策はないの!?このままじゃ体力が持たないよ!」
《ならばもっと大きくなった自分をイメージするのだ!そうすれば・・・・》
「分かった!やってみる!」
とにかく必死だった。走りながらなのだから冷静にイメージできる訳もなく、私はふと見上げたそらに漂う雲を見て、それよりも高く高くそびえ立つ自分自身を想像した。
ズッドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
「あれ?・・・・・急に静かになった・・・・」
私の胸の辺りには雲が漂っている。
それを払いのけると先程よりも大きく、Jカップ相当になった私のおっぱいが露わに・・・じゃなくて足元に広がる小さな街並みが目に入った。
だいたい3000m以上はありそうな身体に巨大化したのだ。
足元をよくよく見ると私の足の親指くらいの大きさの小さな怪獣が必至に私に攻撃していた。先程と同じく吠えているようなのだが、私が大きくなりすぎてそれを聞き取れなくなり、そのため静かになったように感じたのだろう。
ピギィィィ!!
私は足元から怪獣をつまみあげた。重さなんてほとんど感じない。右手の親指と人差し指だけで軽々と摘まむことができるのだから。
「あはは!こうなるともう本当にトカゲみたい!さっきはよくも追い回してくれたわね。仕返ししてあげるから覚悟なさい!」
プチュリ!
指先に力を込めるとあっけなく怪獣は潰れてしまった。
いかに堅い皮膚が自慢だろうとこれだけの大きさの差があればそんなものは意味を成さないのだ。
「終わった終わった!じゃあこれで・・・・」
『よくも私の可愛いペットのポチを殺してくれましたわね!!』
「ああ・・・・・・」
声のした方向を見るとそこには私の100倍はありそうな大きさの巨大な女がいた。
まるで特撮の女幹部のコスプレのような姿で、またテンプレなのかと突っ込みたいところだが今はそんな余裕は微塵もない。
その女の顔は明らかに怒っていた。ペットを殺されれば当然なのかもしれないが・・・
『この程度の星なんて私のポチだけで侵略など十分だと思っていたのですが・・・まさかあなたみたいな存在がいるなんて予想外でしたわ!』
どうやらこの女が今回の怪獣騒動の元凶・・・侵略者のボスのようだ。
『あなたも私のポチと同じように惨めに・・・一瞬のうちに踏みつぶしてあげますわ!だからこうして本来の大きさに戻ってるのです!この姿の私に踏みつぶされる事を光栄に思いなさい!!』
3000mの大きさの筈の私の100倍の女侵略者・・・300㎞の巨大な身体から50㎞はありそうな足裏が持ち上げられ私の頭上に狙いを定めていた。
これだけ大きさの差があるともう逃げられない。
「大きくならなきゃ・・・・」
頭ではそう考えているが、目の前に迫りくる巨大な足裏を見てしまうと恐怖でイメージが上手く定まらない。
もうすぐそこまで足裏が迫ってくる中で私は走馬灯を見た。
幼い頃遊びまわった記憶、家族で楽しく暮らしていた記憶、学校で友達とバカやったりしていた時の記憶・・・私はここで死ぬのだと悟った。
そしてふいに今日の朝の記憶が蘇った。
「あっ・・・・ダメッ!!ダメェェェェェ!!!」
『今更命乞いかしら?でももうダメよ!死になさ・・・・きゃあああっ!!!』
女侵略者は足元で何かが光って爆発したような気がした瞬間、思いっきり吹き飛ばされてしまった。それなりに勢いがあったので日本にいた筈の女侵略者は海を越えて北米まで飛ばされていた。
『いたた・・・何が起こったのかしら?・・・・え・・・・なにこれ?・・・・冗談ですわよね・・・・あはは・・・・あははははは・・・・』
「だからダメだって言ったのに・・・こんなに巨大化しちゃってどうするのよ私・・・・」
《だがそれをイメージしたのはお前なのだろう?》
「あれ走馬灯よ!じゃないとこんなに大きくなったりしないわ!」
私は地球がビー玉に見えるくらいに巨大化・・・・していなかった。
実を言うともっと大きく、地球がビーズのような大きさに見えるくらいに巨大化してしまったのだ。
だいたい100億倍くらいだろうか、今の私は身長1600万㎞、おっぱいはMカップだ。
そして地球はというと私の乳首の目の前に漂っている。
はっきりって地球よりも私の乳首の方が何倍も大きい。もはやこうなってしまうと地球からは私の全身は認識できず、せいぜい乳首くらいしか分からないだろう。
いやそれも怪しいかもしれない、もしかするとピンクの巨大な物体が出現したくらいにしか見えてないのかも・・・・
「こうなっちゃうと侵略者もどうでも良くなってくるわね・・・それにしても地球が私の乳首よりも小さいなんて何だかゾクゾクしちゃうかも・・・・」
《おい!何を考えている!?今興奮するとまずいぞ!!》
「えっ?あわわわわ・・・・」
私はいつの間にかちっぽけな地球ととてつもなく巨大な私を見比べて優越感に浸り、そこから興奮と快感を感じ始めていたのだ。
それに伴って乳首が徐々に勃起を始めてしまった。
私は慌てて地球から遠ざかろうと手足をばたつかせるが宇宙空間ではそれも上手くいかず、ただただ空振りしてその場から動けない。
「まずい!まずい!まずい~!!!」
地球を破壊などしたくなかったのは本心だ。
だがどこかでこの状況でさらに興奮している私があったとこも否定できない。
だって私の乳首は収まるどころかさらに大きさと堅さを増して大きく大きく膨らみ続けているのだから・・・・
ぽふっ!
間の抜けた音を立てて地球は私の乳首の勃起という現象に巻き込まれて粉々になってしまった。
「あちゃ~!・・・・・・・」
《えっと・・・侵略者撃退おめでとう!!これで我も目的を果たせたし、お前も怪獣と侵略者を倒せて一件落着だな!はっはっは・・・・・・》
「笑ってごまかすなぁぁぁぁぁぁぁ!!!どうするのよこれぇぇぇぇぇ!!!」
《エピローグ》
後日、ビー玉野郎の所属していた宇宙警察とやらが悪党討伐の報酬として何でも一つだけ願いを叶えてやると言う事で地球は元通りになったのだが・・・
「はぁ~帰りたい・・・」
《そう嘆くな!地球は元通りになったではないか!》
「じゃあ1600万㎞の身体でこのビーズみたいな大きさの地球にある我が家に帰れる方法を教えてもらうじゃないのよ!」
《えっと・・・巨大化するには一瞬なのだが、元の大きさに戻るには時間がかかってな・・・・あと一ヶ月くらいはこのままで過ごすことになりそうだ。まぁこの大きさで済んだのだからマシだと思いたまえ!例えば宇宙より大きくなったりしたらシャレにならないからな!》
「宇宙より大きく?・・・・・あっ!」
そしてこの日この宇宙では私の巨大化というビックバンが起こった。
「あんたが余計なこと言うから想像しちゃったじゃないのよっ!!どう責任とってくれる訳?私が地球に帰れるのはいつになるのよ!?」
宇宙より遥かに巨大になってしまった私。
肝心の宇宙はというと私の顔の前にある筈だ・・・・というのもあまりにも私が宇宙に対して大きくなりすぎたせいで、近くで必死に目を凝らしてようやく1㎜にも満たないような小さな小さな宇宙をようやく認識できるくらいなのだ。
目視できる限界の大きさと言ってもいい。
なのでふと目をそらすとすぐにどこにいったのか分からなくなってしまうのだ。
だから今は私の顔の前にある筈という言い方しかできない。
《おそらくこの分だと我が星の科学力の総力を挙げて尽くしたとしても最短でも50年はかかるかと・・・でもその間に身体が老いることはないから安心したまえ!》
「もう本当になんてことしてくれるのよ!50年何て待てるわけがないじゃないの!」
《おい、そんなに怒るな!興奮するな!じゃないと・・・あっ!!・・・・》
「え?どうしたのよ?」
《今お前がまばたきした時に宇宙が巻き込まれてしまったぞ・・・・》
宇宙はいつの間にか私の目の寸前にまで来ていたのだ。
文字通り目の前にありながらも、あまりに小さすぎて認識することができず宇宙は私の瞼と眼球の間で跡形もなく消滅してしまったらしい。
「もうやってられるか~!!!!」
ヤケクソになった私はどこまでもどこまでも無限に巨大化し続ける自分をイメージした。
どうせもう何も残されていないから遠慮などいらないのだ。
《おい!なにやってるんだ!今すぐ巨大化を止めろ!》
「もう私にも止められないわよ!このまま死ぬまで永遠に巨大化してやるんだからっ!もう取り返しがつかないだからいいでしょ!?」
《えっと取り返しはつくぞ?・・・我の星の科学力ならたとえ消滅したとしても時間をかければ宇宙全体を再生することも不可能ではないのだ!》
「えっとそれはつまり・・・・」
《あのまま待っていたらまだ可能性は残されていたな!》
「そういう事は早く言ってよぉぉぉぉ!!!ふぇぇぇぇぇぇ!!誰か私の巨大化を止めてぇぇぇぇぇぇ!!!」
こうして私は永遠に巨大化を続け、宇宙は完全に私の認識できるレベルではなくなった。
同様に宇宙の方からもあまりにも大きすぎる私の事を認識できなくなった。
もしかすると私は何者にも犯すことができない神聖な存在・・・神様になったのかもしれない。
そんな事を考えながらも今日も私は無限に巨大化し続けている・・・・・・・・