《私は怪獣》

あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
数分しか経ってない気もするし、もう何時間も経過したような気もする。
そろそろ目を開けてもいいだろうか。そしたら何もかもが夢でいつもの日常が私を優しく迎えてくれるに違いない。そう思って私は重い瞼を開ける。随分と目を閉じていたせいか光がまぶしい。立ち上がって目が慣れるまでしばらく待つ。だがその後に私の目に映ったのはいつもの日常ではなかった。夢ではなかったのだ。もうひとつ言うなら先程までの巨大な大きさではない。


「私もっと大きくなっちゃったの?そんなぁ・・・」


私のお尻にも届かない箱はこの町の中心部にある超高層ビルだ。子供のころからずっと見慣れているものだから間違いない。視線をずらしていくと中心部から外れていくにつれて小さい建物が並んでいるのが分かる。そしてさらに遠くには消しゴムくらいの大きさの家がたくさん広がっている。あれくらいなら何軒も手のひらに乗せることができそうだ。


「みんな小さい・・・じゃなくて私が大きすぎるのよね・・・さっきまででも人間離れした大きさだったけど、これじゃあもう怪獣以外の何物でもないじゃない・・・・」


そして私はふと足元が気になって目線を下へと向ける。
私の足元で右往左往しているアリみたいな小さなものが人間だろう。
私から見た大きさは1㎝にも満たないのでもしかすると私にとっては相対的にアリよりも小さな存在になるかもしれない。車も1~2cmくらいしかないバスみたいな大きなものでも5cmくらい。『踏みつぶしても気付かないくらいの大きさかも・・・・』
そう思うと何だか急に怖くなってきた。



「まさかとは思うけど踏んじゃったりしてないよね?」


立ったまま右の足を上げて足の裏を確かめるが特に何もない、まぁ靴を履いていないので少し汚れてしまった感じはあるけど・・・・
次に左の足の裏を確認する。


「えっ!?」


思わず目を疑った。そこには青い乗用車がぺしゃんこにつぶれて私の足の裏にくっついていたのだ。まるでガムを踏んづけたかのように引き延ばされくっついているが僅かに車だった面影を残している。


「何で!?踏みつぶした感触なんてなかったのに・・・・あっ!いやっ!!」


片足立ちの状態でもう片方の足を確認するという不安定な姿勢が悪かった。そこに車を踏みつぶしたという心理的な同様が加わって私は思わず後ろに倒れそうになる・・・が何とかその前に脚を踏み出してどうにか転ぶことは避けられた。


「ふぅ・・このまま倒れたらいったいどれほどのものを潰しちゃうかわかったもんじゃないわ・・・」


そこでまた私はふと気づいた。今踏み出した足の下に何かあったか?
咄嗟の出来事で分からなかったとはいえ何かを踏みつぶした感触はない。


「大丈夫よね?」


そう願いながら踏み出した方の足の裏を確認する。すると今度は大型バスを丸ごと踏みつぶしていた。これも先程の車同様に私の体重で圧縮されてペラペラにつぶれてひっついていた。


「誰も乗って無かったよね?そうだよね?」


私はひとまず自分に言い聞かせる。そして足の裏に張り付いた2台の車をはがすと目の前に持ってきて観察した。紙切れと変わらないくらいにペラペラになった車になってしまった今では中に人がいたのかどうかを確かめる術は残されていなかった。こうなっては中に誰もいなかったことを祈るばかりだ。


「とにかくこのまま人が大勢いる街中にいちゃダメね。家から離れるのも大事だけど今はもっと人が少ない所へ行かないと!」


こうして私はひとまず海の方角へと向かって歩き出した。


ずしーん!ずしーん!ずしーん!!

私が一歩を踏み出す度に地面が揺れ、衝撃波が周囲に伝わるようで私が横切ったビルは皆窓ガラスが割れてしまった。それでもまだ小さな被害だと私は目をつぶり先へ進む。


「ひぁあっ!!あ・・・危ないっ!!えっ!?あわわわわ・・・・・」


そんな時交差点を進もうとした時に急に飛び出してきた車がいた。振り下ろそうとした足の先にいたため『このままでは確実に踏みつぶしてしまう』そう感じた私はギリギリのところでよけた・・・までは良かったのだがそのままバランスを崩して目の前のビルに突っ込んでしまった。



ガシャッーン!!ガラガラッ!!!


周囲のビルは私のお尻にも届かない高さなので私が倒れた場合は必然的に私の全身に潰されるような形になる。そうなれば原型をとどめることなど不可能だ。起き上った私の周りには粉々になったビルの欠片しか残されていなかった。
ただ今度は車の時は違って何人がいることを証明するかのように赤い点があちこちに見つかった。とてつもない衝撃に巻き込まれてつぶれたのだろう、もはや人間の形を残さずに赤い点としか見えないものも多かった。今度こそ私は大勢の人間を殺してしまったのだ。


「もういやああああああっ!!」


私は頭が真っ白になって海の方へと一目散に走りだした。
頭がまともに働かない。足元なんてもう微塵も見ていない。前方にビルがあってもお構いなし、どうせ私がぶつかっても砂のように崩れるだけなのだから。
どれほどの人間を踏みつぶしたことだろう。どれほどの建物を破壊した事だろう。
そんなのはもう私にはどうでもよかった。ただこの場から逃げ出したかったのだ。
そんな時急に空が暗くなり雷鳴のような大きな音が鳴り響いた。



「あっ!このちっちゃいのもしかしてお姉ちゃん!?わぁ~凄い~!!小さくて可愛い~♪」


私は驚いて大きな音がした方を見上げると・・・・



「な・・・こ・・・?」


怪獣みたいな大きさの私から見ても途方もなく巨大な妹がこちらを見下ろしていた。











《世界で一番大きな私》



時は少しだけ遡る。
なこは巨大化したことで砂浜まで数歩でたどり着ける程の身長になっていた。
砂浜からは少し離れているとはいえ見下ろすとここからでも砂浜の全貌が分かる。


「う~ん。このまま砂浜に戻ってもいいんだけどそれじゃあみんなを踏みつぶしちゃうし、何かほかに楽しいことでもないかな~?」


ひとまず私は海の中に座り込んだ。お尻は地面についているのに海面は私のふとももを濡らすこともできない程浅い。



「おお~!!このままじっと座ってるだけでもなかなか壮観だね~♪私は動いていないのにドンドン巨大化しているせいでまわりのものがさっきよりももっともっと小さくなってるぅ~♪」


実際座っているにも関わらず先程立っていた時よりも遥か高みから砂浜を見下ろしている。
というか砂浜の向こう側に広がる街並みも視界に入ってきてより一層自分がどれほど巨大な存在になったかが分かりとても楽しい気分になる。


「わぁ~!いい眺め~♪前に乗った飛行機よりも高いところから街を見下ろせるなんて絶景だよ~!これでもう私より大きいものはこの世界には存在しないよね。世界一大きいお尻、世界一大きいおっぱい、そして世界一大きい私。うふふ・・・考えるだけでドキドキしてきちゃうな~!こんなに楽しい気分になるのは産まれて初めてだよ~♪」


その間にも私の身体は巨大化を続け、座っていながらにして雲を突き抜けて・・・・それでもまだ大きくなり今では雲は座った私のおっぱいのあたりを漂っている。
それに私は先程の場所から一歩も動いていないけど巨大化のせいで伸ばした足がドンドン街の歩へと進行していき、かなりの数の建物をなぎ倒している。
でも建物を壊したなんて感触は微塵もない。ただとても柔らかい砂地の上を足が滑って行くような感じしかしないのだ。


「それにしても暑いな~!海に入ってた時は気にならなかったけど、ずっと直射日光にさらされたまま遊ぶと汗かいちゃうよ!」


つい先程までは気にならなかったのだが、今しがた汗が頬を伝っておっぱいへ落ちるのを感じて私は初めて自分が結構汗を書いていることに気が付いた。


「おおおお!おっぱいの谷間に汗が溜まってるぅ~!!家を出る時にお姉ちゃんのおっぱいの谷間にも汗が溜まってたけど、今じゃ私の方がおっぱい大きいから溜まる量も凄いことになってるな~♪」


これだけおっぱいが大きくなると寄せたり上げたりしなくても谷間ができてしまう。
しかも今はギリギリのサイズの水着を着用していることで谷間がピッタリと閉じており、流れた汗を逃がさないダムのようになっている。私にとっては僅かな量が溜まっているにすぎないけど人間から見たら湖に見えるくらいの量なんじゃないかな?


「あっ!そういえばお兄さんを谷間に入れたままだったっけ?大丈夫かな?」


そこで私はお兄さんのことを思いだして谷間の方へ目を向ける・・・が小さすぎてよく分からない。


「う~ん!さっき谷間の一番根本にあたる部分に入れたからたぶんこの汗が溜まってる所だとは思うんだけど・・・・あっ!もしかしてこの点みたいなのがお兄さんかな?」


今の私の大きさは街の大きさから考えておそらく2万倍くらい。大人の身体になってかなりの長身になったことも含めるとだいたい40㎞・・・それが現在の私の身長だと思う。
もうここまで大きくなるとお兄さんみたいなちっぽけな人間なんて見えなくて当たり前。
普通の人間でも私から見たら2万分の1・・・0.085mmくらい。190㎝くらいありそうなお兄さんでも0.095mmほど・・・もはや人間レベルで身長が高いとか低いとかそういうのは私にはどっちも同じくらいちっぽけに見えるだけで違いが分かりません。


「もうお兄さんたら小さすぎ~!私から見たら0.1㎜もないんだから、じっと見てないといつ見失ってもおかしくないくらいだよ。ところで私のおっぱいの谷間プールは楽しいかな?女の子の谷間で泳げる機会なんてそうそうあるもんじゃないからじっくり楽しんでね♪」


私から見たらお兄さんはどう目を凝らしても点にしか見えないので、私の谷間にできた汗のプールをゆっくりと漂うお兄さんはきっと優雅に泳いでいるのだろうと想像することしかできませんでした。



「がばっ!!ごぼっ!!だ・・・誰か・・・助けてくれ~!!」


だが実際はそんな穏やかなものではなかった。ライフセーバーであるお兄さんは泳ぎに関しては一般の人よりも遥かに長けているのだが、そのお兄さんですら溺れてしまいそうな荒波が次々と襲いかかってくる。なこの心臓が鼓動を刻むたびにおっぱいもほんのわずかに揺れてしまい、それが谷間の汗を振動させて波を起こしているのだ。
最もお兄さんにとっての荒波でもなこにとっては波が起こっているとも分からない些細なことであった。


「このままお兄さんの気のすむまでいつまでも泳いでてもいいんだけど、お兄さんには私の谷間プールは広すぎるみたいね。せっかくだからもっとたくさんの人にも楽しんでもらおうかな?」



そこで私は周囲を見回して何かないかと探し始めた。


「この船は他のより少し大きいかな?これに決めた~!」


港にあるほとんどの船がゴマ粒サイズなのに対し私が見つけた船は1.5㎝くらいの豆粒サイズだった。


「これを壊さないようにそ~っと摘まんで・・・これでよしっ!」


その船は本来なら300mを超えるサイズの豪華客船だったのだが、私の谷間の汗の中ではそんな大きな船を入れてもなおまだまだ有り余るほどの広さを誇っていた。
ちなみにその船の中には1000人以上の乗客がいたのだが今の私では分からないし、何人乗ってようと私は特に気にすることもなかった。


「これでもまだまだ入れられそうだなぁ~。何かまたいいものはないかな~!んっ!?あれは・・・・」


そこで私は気になるモノを街の中に見つけた。



「あっ!このちっちゃいのもしかしてお姉ちゃん!?わぁ~凄い~!!小さくて可愛い~♪」


潰さないようにそっとつまみ上げて手のひらの中にゆっくりと下ろし、目の前に持ってじっくりと観察してみる。豆粒みたいな大きさだけどよく見たらやっぱりお姉ちゃんだった。



「ちょ・・・あなたなこなの!?」


「えへへ・・・凄いでしょ~♪おっぱいだってお姉ちゃんよりも大きくなったんだよっ!そうだ、お姉ちゃんも私の谷間プールで遊んでいいよ!今のお姉ちゃん小さいから私の谷間でも十分プールになると思うし」



「えっ!?なこ何を言ってるの止め・・・・」


「それっ!どぼーん!!」


そこで私はまたそっとお姉ちゃんをつまむと谷間プールへと落とした。
『ちゃぽん』という音しか聞こえなかったけど今のでさっき入れた船が大きく揺れて今にも沈みそうになっている。


「きゃあっ!!何よここっ!!あれっ!?足が届かない・・・なんて深さなの・・・・こんなところで溺れたく・・・ない・・・」


「んもうっ!お姉ちゃんったら大げさなんだから~!谷間プールって言っても私の汗がほんのちょっと溜まっただけなんだよ。そんなので溺れる訳ないじゃない!?」


「がぼっ!がぶぶ・・・はぁはぁ・・・妹の谷間で溺れそうになるなんて思いもしなかったわ・・・あれ?とっさにつかまったけどコレ何かしら?」


お姉ちゃんがつかまったのはさっきの船だった。でもお姉ちゃんがつかまるのと同時に沈み始めて、途中でぽっきり折れて中から大勢の人達が流れ出て私の谷間プールの中へと放り出されていた。


「ちょっとなこっ!なんでこんなところに豪華客船なんかあるのよっ!思わずつかまって沈ませちゃったじゃないの!」


お姉ちゃんはあれからどうにかして私の谷間プールから這い出しておっぱいの上へと登っていた。



「豪華客船?あぁあの豆粒みたいな船のこと?小さくてよく分からなかったんだよ。」


確かに言われてみれば豪華客船というだけあって私の谷間プールの中を漂っている人間の数がけっこう増えていた。とはいってもやぱり小さいので粉をこぼしたみたいに見えてしまう。まぁそんなちっぽけなものは気にせず私はお姉ちゃんをもう一度まじまじと見てみる。



「それにしても小さいお姉ちゃんってやっぱり可愛いな~♪このまま食べちゃいたいくらいだよ♪」



「それ冗談に聞こえないから止めてくれいない?」


お姉ちゃんは本気で食べられると思ったのか少しづつ後ずさりしていた。
まぁ後ろに下がったところでそこもずっと私のおっぱいの上なんだけどね。


「それに私が小さいんじゃなくてなこが大きすぎるのよっ!私だってビルよりも大きくなって大変な思いしたんだからねっ!」


「あっ!そっか!そういえばさっきの船よりもお姉ちゃんの方が大きかったよね?」


「そんなことより元の大きさに戻る方法を見つけないと・・・・なこ、あなたはこの巨大化した原因になにか心当たりない?」


「えぇ~!?私はこのままでもいいよぉ~!おっきいのたのしいしさ。それにどうして大きくなったのか分からないし、元に戻る方法なんてないんじゃないの?」


「ちょっと真面目に考えなさいよっ!!」








「ちょっとそこの2人、姉妹ケンカは良くないわよっ!」


突如現れて私達の会話の間に割って入ってきたのは金髪で赤いビキニを着た謎のお姉さんだった。