3時間に及ぶ残業という戦いを終えて朝霧雫はようやく自宅への帰還を開始した。
なぜ人は期限の限界に挑戦するのだろうか。そしてなぜ人は極限の納期を設定してくるのだろうか。こみ上げる怒りを抑えるために世の中の人は大体ドM、所によりドSだと適当に設定して、雫は携帯を取り出し同居人に電話をかける。いつもならもう2人で食事を取ってゆったりと雑誌かテレビでも見ている時間だ。
 
プルルルル。短めの着信音の後に「もしもし」と中性的な声が届いた。聞くだけで癒される、本当にいい声。
「あ、千尋?ごめんね、仕事遅くなった」
対して雫は、結構なハスキーボイス。落ち着いて聞けるいい声だと彼は誉めてくれたが。
「雫ちゃんお疲れ。大変だったね。またいつもの取引先の人?」
「あ~、うん。まあいつものパターンだよ。ご飯もう食べた?」
「まだだよ~。明日休みだし2人でゆっくり食べようと思って」
「ごめんね?あと30分くらいで帰れるから」
「了解。じゃあビール冷やしてあるからね」
「ありがとね。じゃ、また後で」
「はいはい~」
時間で計測すると30秒にも満たないやり取り。それでも、雫の中に蔓延っていた疲れを確かに拭い取ってくれた。更なる癒しを求めて雫は家路を急いだ。
 
 
 

198cmというかなりの大柄な部類に入る雫が玄関のドアをくぐる。
「ただいま~…」
出来る限り抑え目にしたつもりでも、ごめんね成分を多分に含めた「ただいま」が響きわたった。
しかし帰ってきたのは静寂。いつもならどこにいても、返事をしてくれるのに。足元を見ると、片隅に雫の手のひらサイズの靴が1足。どこかに出かけたわけでは無いらしい。
彼の靴を潰さぬよう、反対側に自分の靴を置き台所へ向かう。…が、いない。
一通りの準備が整い、後は食べるだけという状態である。
一瞬、雫の背中に嫌な汗が流れる。この家の物は雫のサイズで作られているのだ。千尋にとっては全てのものが危険になりうる。リビングに移り、部屋に目を通す…!
 
…よかった。千尋はソファの上で寝ていただけだった。彼もよほど疲れていたのだろう。
千尋は3倍もの体格差がある人間が住む家の家事をこなしているのだ。30人前に匹敵する朝ごはんと弁当を毎朝作り、毛布みたいな大きさの洗濯物と格闘し、店が開ける広さのフローリング掃除をこなし、雫が帰ってくるまでに夕飯の支度を済ませる。疲れないはずが無い。おまけに今日はビールまで用意してくれたのだ。雫が片手で持てる350ml缶だって、千尋にとって10kg近い大物なのだ。
千尋は本格的に寝入っているようで、雫が近づいても全く起きる気配はなかった。彼が大の字になって寝ても余裕があるソファで、のびのびと眠っている。
せっかく作ってくれた料理が冷めてしまうのは非常にもったいないが、熟睡モードを強制終了させる方が忍びない。せっかく待っていてくれたのだから千尋と一緒に食べたい。
 
雫は薄手の毛布を持ち出しそっと千尋にかける。
自分の1/3サイズ。赤ん坊と同等のサイズだが、肉付きや頭身の関係で赤ん坊よりはるかに儚く脆い。
そんな彼が自分の為に命を削りながら尽くしてくれているのだ。好感を持たないはずが無い。
眠る千尋の頭をそっとなでて雫は硬く決意する。もっと仕事を頑張ろう。もっと彼の為に頑張ろう。…そして、彼さえよければ。もっと一緒に幸せになろう。
彼には言えないけど子供も欲しい。それがどれ程危険な事かわかっているからこそいえないのだけれど。
私に似れば生まれたときから赤ん坊の方が強いのだ。実際に乳幼児に年間何千人もの命がもぎ取られている。物心がついてくれば犠牲者は更に増える。その犠牲者は殆ど父親だ。
そうでなくても子作り中の事故死は後を絶たない。私が軽く握っただけで彼はただの肉塊になってしまう
それでも。私は千尋と一つになりたいと思っている。
 
一旦毛布を千尋の上からどかし、起こさないようにそっと移動させる。とはいっても、行き先は同じソファの上だ。雫が先に寝転がり、その上に千尋を乗せる形だが。
重力に従い、雫の乳はブラを巻き添えに少し横に広がる。仰向けになっても維持される谷間というものにもあこがれるが、千尋の頭部が苦痛を与えることなくホールドされる今の状態も気に入っていた。
雫の呼吸に合わせて千尋も上下に動くがまだ夢の中らしい。それを見て少し安心する。
 
もうちょっとだけ。もうちょっとだけ大胆な行動をしても大丈夫だろうか。
左手は千尋に添えたまま、右手でそっと自分の秘所を下着越しに撫で上げる。
「んっ…」
確かな、快感。疲れと眠気が入り混じった頭の中に新たな感情が生み出されていく。
ここで起こすわけにはいかない。当然千尋を傷つける事などしたくない。それでも指は自分の制御を少しずつ離れていく。
もし、コレが自分の指ではなく千尋の腕だったら。もし彼が私の秘所を撫で回してくれていたら。
今は私の胸で眠っているが、もし彼が私の胸に奉仕してくれていたら。ほどよい大きさの乳首を、丹念に揉んでくれたなら。
もし彼が危険を顧みずに秘所を舐めてくれたなら。顔が秘所にうずまるほどに奉仕をしてくれたなら。
徐々に麻痺していくのがわかるのに止められない思考。ショーツはもう愛液で濡れている。
もう我慢できない。臨界点のショーツをずらし、一気に2本の指を挿入し…
 
「んあ?雫ちゃん?」
 
…ようとしたところで千尋が目覚めた。
一気に冷静を取り戻した雫の頭脳。動揺を悟られぬように表情を作りつつ、右手に付着した愛液を自分の服の目立たぬ内側でふき取り、添えていた左手を股間の拘束具の装着に向かわせる。
「ごめンね?起こしちゃっタ?」
多少イントネーションがおかしくなったが多分誤差の範囲だろう。多分。
「こっちこそごめんね。眠っちゃった…。あ、すぐどくね」
計画通り。千尋が寝起きなのも手伝って何とかばれずに済んだ…ようだ。あとは…
「ご飯どうする?冷めちゃったけど」
「あ、じゃあ先にちょっと着替えてくるよ。そしたら一緒に温めようか」
「わかった。じゃあ先に台所にいってるね」
これで万事解決。あとは証拠隠滅するだけだ。
 
とにもかくにも雫は自室へ直行。仕事用のスカートが若干大変な事になってる気もするが気にしない。ショーツもすばやく取り替え、秘所も大急ぎで処理を行う。
「…ふう。」
罪悪感と背徳感が入り乱れる。いつもならこんなことはしないのだが…。
とりあえずまずは千尋を手伝わねばなるまい。服の後始末は後でいいだろう。呼吸を整えつつ、雫は千尋の待つ台所へと向かった。