ひみつのおにごっこ
※お話の一部に残酷なシーンが含まれています。
  苦手な方はご注意ください


ここはとある私設研究施設の一室。
デスクとファイル棚以外のものがほとんどない
まさにオフィスと呼ぶにふさわしい無機質な部屋だ。

ガチャ

この部屋の入り口の扉が開き
可愛らしい小学校高学年くらいの女の子たちが入ってきた。

 「お姉ちゃ~んっ。言われた通りに友達を連れて来たよ~。」

一番にドアから入って来た女の子、
肩に触れるくらいに伸ばした髪を後ろで束ね
短めのポニーテール、ショートポニーにしてゴムでまとめた女の子が
部屋の奥に位置するこの部屋唯一のデスクに座っている女性に
呼びかけるように声をかけた。

 「あら?早かったのね?」

お姉ちゃんと呼ばれた女性こそこの部屋の主である
二十代後半のいかにも研究者らしい白衣を着た人物が答える。

 「おじゃましま~すっ。」

次に部屋に入ってきたのはすこし赤茶けた色をした
少し癖のあるウェーブヘアをセミボブくらいにした髪をもち
体はよく言えばスレンダーで身長が高めの女の子。
すこしはしゃぎ気味の調子で元気にあいさつをした。

 「あの・・・こんにちはっ」

最後に部屋に入ってきたのは、ふんわりと黒髪をした
切りそろえた前髪と肩より少し長めに伸ばした後ろ髪の
胴回りはほっそりとしていながら、膨らみかけの胸と丸みを帯びた腰が
可愛らしい人形のような印象を与える女の子。
頬を赤くしながら少し恥ずかしそうにあいさつをした。


白衣の女性は全員がそろったことを確認すると立ち上がり
応接用のソファーに3人の女の子を座らせ、 今回呼び出した理由の説明を始めた。

 「早速だけど、今日あなたたちに来てもらったのは・・・」



 「今日あなたたちに来てもらったのは
  この子たちの行動テストをしてもらいたいからなの。」

そういうと白衣の女性は小さなカプセルのような筒に入った
手の親指ほどの大きさの人間のような形をした物をバッグから取り出した。

 「これは・・・もしかしてこびとさんですか?」
黒髪の女の子が不思議そうな顔をしながら
筒の中身を覗き込み質問をする。

 「いいえ、これは私が開発した小型アンドロイドなの。
  こんなに見た目は小さいけどちゃんと機械で動くのよ。」

 「はいっ!しつもんっ!アンドロイドって何ですかっ?」
ウェーブ髪の女の子がいかにも漫画でよくあるような
何もわかりません。というような表情で質問をする。

 「アンドロイドについて詳しく説明してもいいけどすごく難しいから
  これはとりあえず小さなロボットみたいな物だと思ってね。
  呼び名も"こびとさん"でいいわよ。」

 「ところで行動テストというのは、何をすればいいんですか?」
ショートポニーの女の子が話が長引きそうな雰囲気を見て質問をする。

 「行動テストというのは・・・現場で説明してあげた方が良いかしら?
  この部屋の隣にあるシミュレーションルームに行きましょう。」

こうして女の子3人は、白衣の女性に連れられて
研究室に隣接した温室の様なガラス張りの建物の中に移動した。



白衣の女性
 「この温室内は小さな公園をシミュレートして作られているの
  滑り台やブランコのようなものは今は無いけれど
  そのうち作る予定・・・だけど今回のテストとは関係ないわね。」

ショートポニー
 「それで私たちは何をすれば・・・」

白衣の女性
 「ちょっと話が長かったかしら。それじゃさっそくやってみるわね。」

そういうと白衣の女性は先ほど見せたアンドロイド・・・
"こびとさん"のたくさん入った筒をショルダーバッグから取り出し
自分と女の子たち4人の足元にいきなりばらまいた。

ウェーブ髪
 「ちょっといきなり何するんですかっ!」

黒髪
 「きゃっ・・・これはさっきのこびとさん?
  足元で走り回るように動いてるけど・・・。」

ショートポニー
 「なにこれ・・・見た目は人間だけど、
  上から見たら動きがまるで虫みたいで気持ち悪い・・・。」

足元についさっき見せられたこびとさんを
不意にばらまかれた3人の女の子はみんな大混乱。

白衣の女性
 「ほらみんな早く足踏みして!いち!に!いち!に!」

ウェーブ髪
 「えぇっと。こうですか?」

白衣の女性
 「良いわよ、その調子でね。
  踏みつぶしちゃっても気にしないでね。」

突然始まった女性の掛け声に合わせて、
その場にいた4人が足元に散らばる無数の点の上で
地団駄を踏むように一斉に足踏みを始めた。

女の子たちの足元では8本の足が激しく上下してタイル張りの地面を踏み鳴らし
この巨大な柱に不幸にも潰された小さな点が「ぶちっ」「ぐちゃ」と断末魔の悲鳴を上げ
1つまた1つと靴底の模様が刻まれた地面と女の子たちの可愛らしく残酷な靴底へ
ただの平べったい物体と化してへばりついていった・・・

白衣の女性
 「そろそろ良いわよ。お疲れ様。」

白衣の女性の合図で約30秒ほど続いた突然の足踏み体操が終了した

黒髪
 「ああ、こびとさんをいっぱい踏み潰しちゃいました・・・ごめんなさい」

白衣の女性
 「謝らなくていいわ、この子たちの製造システムはもう完成しているから
  材料があればいくらでも作れるから大丈夫よ。」

ショートポニー
 「で、お姉ちゃん?これに何の意味があるの?」

白衣の女性
 「みんなー、自分の足元を見て何か気づくことがないかしら?」

女の子たちはついさっき自分が踏み荒らしたところを
各々見直して何かないか調べ始めた。

ウェーブ髪
 「足元のこびとさんはみんなぺちゃんこになってる。
  白っぽい液体が飛び散ってるけれどこれ何?」

白衣の女性
 「それはこの子の中身ね、踏まれた圧力で破裂しちゃったのかしら?
  潤滑剤が入っているけどただの水みたいな物だから触っても大丈夫よ。
  それより少し離れたところに何かないかしら?」

黒髪
 「あっ・・・、無事なこびとさんがいくつか・・・」

白衣の女性
 「よく気付いたわね、これが今回あなたたちを呼んだ理由よ
  この子たちはさっきまで潰されちゃった子たちと一緒にみんなの足元にいたけど
  危険を察知して踏み潰されない様に自分で判断して避難していたの。」

ウェーブ髪
 「えっと・・・、つまりどういう事?」

白衣の女性
 「実はね、将来この子たちは私たち人のいるすぐそばの場所で
  お掃除をしてもらったり探し物をしてもらうロボットになる予定なんだけど。
  体は十分に出来ていても、まだ頭はあまり良くないの。

  簡単な学習プログラムを使って自分で判断して行動できるようにしていても
  今やったみたいに突然の危険には対処しきれないようなのよ。
  だから今みたいに人に簡単に踏み潰されたりしない様に
  あなたたちに協力してもらって、自分の身を守るための勉強をさせてあげたいの。」

ショートポニー
 「うーん・・・よくわからないや」

白衣の女性
 「そうね、ちょっと話が長かったかしら?それじゃあ・・・
  いまからこのシミュレーションルームを使って鬼ごっこをしましょう
  あなたたち全員がオニになって、こびとさんたちを追いかけるの。」

黒髪
 「追いかけて・・・捕まえればいいの?」

白衣の女性
 「もちろん。捕まえてもいいし、さっきみたいに踏んでつぶしちゃっても構わないわ
  こびとさんを見つけたら自分の好きなようにしてね。」

ウェーブ髪
 「え~と、私たちは遊んでるだけでいいんですか?」

白衣の女性
 「そうよ、あなたたちが怪獣になってこびとさんを追いかけるだけで
  この子たちが危険から身を守るための訓練になるから。

  うまく逃げ切った子が居ればその子からデータをとれるから。
  逃げ遅れたこびとさんは思う存分懲らしめてあげていいわ。
  体の替えはいくらでも作れるから、少し乱暴に扱っちゃってもいいし、
  気に入ったら持って帰って・・・は、まずかったかな。
  とにかく楽しんでいらっしゃい。」

ショートポニー&ウェーブ髪&黒髪
 「はーい。」



白衣の女性
 「それじゃあ、私はこびとさんたちを放してくるから
  あなたたちはこの温室の中心のテーブルに座って100数えてね。
  終了時間は残りのこびとさんの数を見て決めるから
  私が合図を送るまで好きにやってていいわよ。
  飽きたら飽きたところまででいいし。
  
  それとこの子たちにはちゃんと人に危害を加えないようにしてあるから
  あなたたちを傷つけることはしないから安心してね。」

ショートポニー&ウェーブ髪&黒髪
 「いーち。にーい・・・・・・」

ウェーブ髪
 「ねぇ、これだけ広いんだから私たちで手分けして探さない?」

  じゅうろく。じゅうなな・・・・・・

ショートポニテ
 「私は良いよ、取り合いになったら面白くないし・・・」

  にじゅうよん。にじゅうご・・・・・・

黒髪
 「ちょっと怖いけど・・・私、頑張ります。」

   よんじゅうさん。よんじゅうよん

ウェーブ髪
 「そうだ、こびとさんを見つけた数で競争しない?」

ショートポニー
 「見つけただけじゃ数えられないよ、逃げられたらおしまいじゃない。」

  ごじゅういち。ごじゅうに・・・・・・

黒髪
 「それじゃ・・・・・・つぶした数・・・で競争なんてどうかな?」

ウェーブ髪
 「それいいかも。」

  ろくじゅうはち。ろくじゅうきゅう・・・・・・

白衣の女性
 「それじゃあ私がつぶした数をモニタールームで数えてあげるからみんな頑張ってねー」

ショートポニー
 「聞こえてたんだ・・・・・・」

  はちじゅうご。はちじゅうきゅう・・・・・・


 「もういいかい?」

 「まぁだだよ」

 「もういいかい?」

 「もういいよ」



こうして3人の少女たちとそれを見守る1人の女性の
"こびとさん"を使った「ひみつのおにごっこ」が始まった・・・