女尊男縮
                    霧華

 日本において古くからあった男尊女卑の考え方が明らかに間違ったものであると
認識され始め、女性が自らの社会的地位を男性と平等のものにすべく、良識ある
人権家を先頭に立たせて死力を尽くした。その結果、女性は男性と社会的に対等に
できるように自由に求めることが出来た。一部においてはやりすぎではないかという
ような待遇までまかり通るようになった。
 勘違いしないで欲しいのは別に自分はそれをおかしい、と言うつもりではない。
平等を求めて力を尽くすのはとても素晴らしいと思うし、その行動によって得られた
結果なのだから、褒め称えられるべきことだ。
 おかしいと思うのは、僕の妹のことだ。前から態度が大きいとは思っていたが、
最近は体まで大きくなり兄である僕の身長をとうに追い抜き、僕を目下のように
扱うようになったのだ。まあ、そこまではそんなに変な状況ではないだろう。

 じゃあ、なぜに僕の体が縮むんだ?

 放課後、妹はバレー部の練習があり、僕は軟式テニス部の練習があるが、
暗くなったら練習を切り上げる軟式テニス部に対して、体育館内の照明設備のおかげで
夜遅くまで練習するので学校からの帰りは大体僕のほうが早い。
今日も僕のほうが先に帰宅して、妹を待つ形となった。妹の部屋と廊下を挟んで
向かい合わせになっている自分の部屋の中で、雑誌を読んでいた。
「ただいま〜」
 部屋の外から妹の声が聞こえた。それと同時に自分の体に衝撃が走った。
来た。
それは単に妹に対する恐怖から来るものも一部あったかもしれないが、それが主な
原因じゃなく他の外的要因がある。その証拠に雑誌が手に持てないほど重くなり、
机の上に落としてしまった。自分の体に変化がおき始めたのだ。雑誌や机などの自分の
部屋にあるもの全てが大きくなっていく。いや、自分の体が小さくなっていっているのだ。

とんとん…どんどん…どすんどすん…

体の縮みとともに妹が部屋に近づいてくる。足音が大きく、そして歩みからくる揺れが
大きくなってくる。自分自身が小さくなっているから全てのものが、大きく感じるのだ。

「ただいま、兄ちゃん。」

 体の縮小が10cm程度で止まると同時に、妹は自分の部屋ではなく、僕の部屋の
扉を開けた。たとえ僕より大きいといっても人間であるが、縮んだ状態の僕から見れば、
今の妹は怪物のほかの何者でもない。妹は自分のゆっくりと足を上げて、ソックスに
包まれた足の裏を見せ僕の体に向かって降ろしはじめた。僕は恐怖のあまり逃げ出した。
たとえ、今日まで逃げ切れたことが一度も無くても、これから自分の身にかかることを
思えば、逃げるしかなかった。

「逃げても無駄なのに。」

妹はそう薄ら笑いを浮かべると、足のつま先で逃げている僕を突き飛ばした。
妹には軽いつもりでも、僕にとってはクルマに撥ねられたようなものだ。体の節々が
痛んで動けない僕の上から、無慈悲に妹の汗の臭気に包まれた足の裏が迫ってくる。
視界が黒くなった。

今や女性の尻にしかれる時代から足に踏まれる時代になったのか。

僕は咽るように汗臭い蒸せた足に全身を揉まれながら、僕は思った。