―――俺の国は荒れている。
原因は貧困とか厳しい身分制度。
良くある社会問題が長年に渡り熟成され、その結果やっぱりこれも良くある革命の空気が出来つつあった。
当然のように支配階級による被支配階級の弾圧が始まり、
革命の流れに加担した者またはそう疑われた者は容赦なく牢にぶちこまれる時代がやって来ていた。

酒の勢いで体制への不満をぶちまけてしまったのが誰かの耳に入ったのだろう。
俺は投獄され厳しい尋問と拷問を受けている。
捕まれば最後、解放される事はまず有り得ない。終わりの無い拷問による衰弱死、もしくは処刑。
罪は無いとまでは言わないが、たかが悪口程度。
しかしその程度であれ逆らうものは処罰する。そういう時代。人の命が軽い時代―――。



「囚人共を連れて参りました姫様」
拘束され跪く俺達の前で姫と呼ばれた人物が仁王立ちでふんぞり返っている。
綺麗なドレスで着飾ってはいるが可憐さとか麗しさといったものはこれっぽっちも感じない。
良い血筋のようで顔は整っているのだが姫と呼ぶに値する何かが足りない。身長とか胸とかそういったものも足りない。
姫と持て囃されて勘違いした生意気な糞餓鬼。俺がこいつに持った第一印象はそんなところだった。

臭く汚い牢から一転豪奢な姫の部屋へと連れ出され、姫の前に跪かされているのはいずれも革命を企てたとされる男達計10名。
手枷足枷は当然、正座の形で首と太ももを紐で繋がれ土下座に近い形を強要されている。
釈放されるかも知れないという淡い希望を持つ事は許されていない。
乾坤一擲、姫に飛び掛る事は勿論不可能。
辛うじて上げる事ができる首で姫を見上げる事だけが許されていた。

姫の身長は高くは無い。というよりチビと言ってもいいと思える。
立ち上がりさえすればチビ姫の顔は頭3つは下に見えるはずだが、その上下関係が今は逆転している。
身分相応と言えばそうではあるが、国民を束縛し跪かせて見下す今の支配体制をそのまま形にしたかのようだ。

「右から3番目と7番目はいらない。そいつ等は牢に戻しなさい」
姫が中指でデコピンのようなジェスチャーをすると、傍に控えていた兵士達が指定された男を引き摺って部屋から出て行った。
この場から居なくなった囚人の片方は俺の隣の奴だった。
ちらっと見ただけなので俺と何が違うのか良く分からなかったが姫の目に適わなかったというところだろうか。
牢に戻せと言われていたという事はあいつはもう暫く――あるいは死ぬまで――囚人としての生活が続くのだろう。
それは良いことではないが、俺はそいつが羨ましいと思った。

何故ここに呼ばれたのかが分からない恐怖。
今の状況は決して良い事はおきないと言う事だけは分かっていた。


兵士が全て退室し、部屋に残ったのはチビ姫と俺達囚人8人そしてメイドが1人。
メイドは無言で進み出ると、1人の男の髪を掴んで頭を思い切り後ろへ反らせ、口の中に何かを流し込んでいった。
端から順に囚人全員に対して同じ事が繰り返えされたが、誰一人として流し込まれた物を吐き出そうとしなかった。
メイドが髪を掴む強さが予想を超えて強烈だった事に驚いたというのはあるが、何かを流し込まれている間に見えたメイドの目が酷く冷たいものだったからだ。
逆らってはいけない。そう心から思わせられる目だった。

メイドが全員に何かを飲ませ終えた直後、最初に『処置』された男が苦しみ出した。
それを皮切りに男達が順に苦しみ始める。
俺も例外ではなく、液体が触れた口、食道、胃に激しい熱を感じ、それが心臓へ駆け上り、血の流れに沿って全身へと拡がった。
熱い、熱い、体を掻き毟る。枷が外れ、自由になった両手で体を掻き毟る。
痛い、痛い、床を転げ回る。縄が解け、自由になった身体で床を転げ回る。
何故か枷や縄が解けている事に気づく余裕さえなく男達はのた打ち回る。
俺はこの時点でこれが処刑であると認識し、薄れゆく意識の中で生を諦めた。


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やはりさっき牢に戻された男のほうが幸運だった。眼下に広がる大渓谷を前に俺はそう思った。
大渓谷といっても場所は移動してはいない。相変わらず姫の私室の中だ。
いや、正確には少しだけ移動している。入り口近くの床から姫の寝具の上へと。
この部屋の主はそこで裸体になり、あろう事か股間を天へ突き出したまんぐり返しの姿勢を取っていた。
とても尊い血が流れているとは思えない変態行為だ。
俺達8人はその変態の股間――肛門の上にいた。
眼下に広がるのは尻穴の皺で出来た大渓谷。
俺達は肛門の皺があたかもグランドキャニオンのような大渓谷に見えるほど縮小されていた。
さっき飲まされた液体のせいだろう。
このあと何が起きるかは大体予想が出来る。それをする意味は分からないが想像は出来る。
そしてそうなった時に俺がどうなるかも。
―――俺は姫の尻穴へ落とされるのを待つばかりの状況となっていた。


「準備オッケーよ」
姫の一言で俺達が立っていた地面が前へと傾いた。
俺達が足場にしていたのはメイドが持ったスプーン。
予想は出来ていても逃げる事は出来ない。
一気に90度まで傾けられたスプーンから俺達8人は残らず姫の尻穴へと落下した。
「いつもの事だけど小さすぎて分からないわね。きちんと落ちた?」
メイドが首を縦に振る。
「ふーん。じゃあもう貴女は下がっていいわ。お疲れ様」
主人の許しを得たメイドが静々と退室する。
「さて、お楽しみの時間だよ。おチビさん」
姫はまんぐり返しの姿勢を崩さぬまま、既に姿の見えなくなった男達へと死刑執行を宣言した。


男達は姫の尻穴の皺で出来た渓谷の底で藻掻いていた。
落とされたのは皺の中心の一番深い部分。
その渓谷は男達を中心に四方八方へと伸びており、その壁面は100メートル程もある薄紅色の肉壁で出来ている。
そこに充満するのは文字通りの糞の臭い。
息をするだけで意識を失いそうなこの地獄で男達は必死に藻掻く。
皺の間に埋まった半身を引き抜こうとする者、両手足を突っ張って上へ登ろうとする者、出口を求めて渓谷の底を踏破しようとする者、
運悪く頭から落下した奴は尻穴の肉の間から突き出した脚を暫くバタつかせていたが今はもうピクリとも動かない。
それぞれが藻掻き苦しみ、または末路を晒す中、俺はなるべく身動きしないように努めていた。
理由は単純。目の前の奴等が藻掻けば藻掻く程、より渓谷の奥底へと飲み込まれていっているからだ。

肉壁には岩壁のような凹凸が一切存在しない。そんな壁が頭上遥か遠くまで聳え立っている。
登る事は困難。
仮に左右の壁に手足を突っ張って登ろうとしたところで上に向かえば向かうほど溝の幅は広がっていく。
いずれ両壁に手足が届かなくなり落下する以外に未来はない。
そして高く登れば登っただけ落ちた時により深くまで溝の中に沈み込み、スタート地点どころかマイナスまで戻される。

この渓谷の底を歩くのも一苦労だ。
身体を支える土台が無いためその歩みは泥沼の上を歩くが如く、嵌りこんだ足を引き抜きながらの歩行を強いられる。
しかもそれで体力を失い、足を引き抜くのに失敗すればその分だけ身体が沈み込む。
体力が尽きるまでに移動できる距離は数十メートルがいい所だろう。

泥田とは違い底の無いこの穴は、俺達をどこまでも飲み込んでいく。
底なし沼ならぬ底なし穴。
無駄に行動すれば穴から抜け出す体力を失い、いずれ穴に沈み込む。
半身が沈んでしまえばもうその場で身動きする事すら出来なくなる。
そしてこの渓谷はそうなった者に容赦しない。――足掻く力を失った『物』に容赦しない。

この渓谷は生きている。
元はといえば人体の一部。
永久に身動きしないという事は有り得ず、無意識のうちに筋肉が収縮と拡張を繰り返す。
括約筋がピクリと動けば尻穴が僅かばかり開閉する。
そう、僅かばかり。人の目には分からない程度に。
しかし、もはや人と言うより虫、それも極小の虫に近い俺達にとってはその僅かばかりは決して僅かでは済まされない。
閉じた皺でプレスされ、次の瞬間開いた皺の中へ重力に引かれて落下する。
肉壁プレスと自由落下はいずれも一瞬。ピクリという擬音の間にこの2つが行われる。
一気に潰されたり飲み込まれたりする事は無い。
少しずつ少しずつ尻穴という第二の唇が俺達を飲み込み、咀嚼していく。

体力を失い、身動きが取れなくなった者はその開閉に抗えない。
幾度かの開閉が繰り返された後、周りを見てみれば俺以外には誰もいなかった。
他の奴等は全身を丸ごと尻穴に飲み込まれてしまったようだ。
恐らくもうこの肉の水面下で息絶え、押し潰されつつより奥へと沈み込んで行っている事だろう。
穴から抜け出す体力を温存していた俺が正解だった――とは言わない。
開閉の度に穴から抜け出すのに体力の大半を消費してしまっている。
今も開閉の度に少しずつ沈んでいき、もう外に出ているのは顔だけといった状態だ。
吸える空気はアンモニア濃度が高すぎて刺激と酸欠で頭も上手く回らない。
このままでは他の奴等の後を追う以外の未来は無い。脱出する方法を探さねばならない。
何か無いかと視覚聴覚をフル稼働する俺の耳にくちゅりくちゅりという音が聞こえてきた。
見上げれば姫の顔があった方角の空で巨大な何かが暴れている。

その巨大な何かは姫の手だった。
手が秘裂を愛撫している。オナニーだ。
耳をすませば微かに姫の生意気な喘ぎ声が聞こえてくる。
「もう全員潰れちゃった?存在を感じる事も出来ないから判断に困るわね」
くすくすと笑い声を上げ、姫はより激しく秘裂を弄り始めた。
この糞餓鬼は俺達を尻穴に挟み込み、それを末路をおかずにオナニーをしていた。

姫は言っていた。存在を感じる事が出来ないと。
つまり俺達は別にここに居なくても構わない存在。
だが妄想だけでも済ませる事が出来る事をあえて実行する。
姫が嗜好を追求した結果だろう。
俺達はその程度の事の為に命を失い、または失おうとしていた。

「ねえ、生きてる人が居たら返事してよ。・・・と言っても虫けらの声なんて小さすぎて聞こえないけどね」
姫が俺に語り掛けてくる。
「そこまで小さくなっちゃったらそこから拾い上げる事も振り落とす事も出来ないよね。その途中で潰れちゃうし。
 唯一助かる方法は・・・んー、私がおならをする事ぐらいかな。きっとすぽーんと飛べるよ。すぽーんと。あははっ」
冗談ではない。このサイズ差、この零距離で屁なんぞこかれたらその瞬間身体が爆散してしまう。
一国の姫としてあるまじき言動。
これが俺達国民の上に立ち、そして今その権力で俺の命を奪おうとしている。
悔しいという思いを通り越して情けない思いが浮かんでくる。
しかしどうする事も出来ない。権力の差がそのまま実際の力の差となり今のこの状況がある。
逃げ道は見つからない。

「そろそろイきそう。・・・んぅ。イク、イクッ。みんなも一緒に逝って!」
姫が尻穴を大きく拡げ、閉じた。
今までのような一瞬の開閉ではなく2~3秒程度の開閉。
それは既に頭までもが穴に飲み込まれていた俺にとっての救いだった。息が吸える。
尻穴の奥へと落下しながら俺は生きている喜びを味わう。
そして落ちた俺を柔らかい肉床と粘液が決して逃さないと言わんばかりに包み込み、次いで開閉の閉の時間が――死の時間が訪れる。
姫の奥深くまで落ち込んだ俺の目には最早そこは渓谷ではなく穴が映っていた。
天に開く巨大な穴。
それが一瞬で閉じる。俺の人生の幕となって。

幕は下ろされた。しかしまだエピローグがあるようだ。
肛門内部の柔らかい肉と粘液は俺をミンチにはしなかった。
ただ強烈な圧を掛けて全身を複雑骨折にしただけ。
まだ意識はある。意識だけは。
エピローグのBGMは姫のイキ声。
ギュウギュウと断続的に圧が掛かり、俺の身体がこねられていく。早く肉の塊になってしまえと急かされる。
肉の塊になったあとは暫く肛内でこね続けられたあと便に混ざって下水に流されるのだろう。
ああ、笑ってしまう。
俺の最後は糞餓鬼の糞になる事だったなんて。
そうしてBGMが鳴り止む頃には残った意識も消えた。