「おーほっほっほ。ワタクシ参上ですわ」
ダンジョン攻略者達が集まる街の入口で1人の女性が口元に手を当てて高笑いをあげた。
その身長、実に150km余。
高笑いで揺れる金髪縦ロールが雲の向こうに霞んで見えるほどに巨大。
彼女の名前はアン・パント・フットバス。
この国の姫君であり、それを示す王冠を金髪縦ロールの上に乗っけている。
どことなくおもちゃのような王冠と少し丸みを帯びた輪郭が幼さを感じさせ、
その幼さゆえなのか足元の人々から下着も隠さずに高笑いを続ける様子は貞淑さの薄さを想起させた。


先日この国のダンジョンの一般公開が開始され、ダンジョンに近いこの街には攻略者達が多く集まっていた。
そんな彼らを暇つぶしに見物しにきたのがこの姫である。
「皆さん腕に覚えはありまして?ワタクシの国のダンジョンは一筋縄ではいきませんわよ」
街中を満たす攻略者達をしゃがんで見渡す姫。
そんな姫に対し、馬鹿にされたと思った何人かの無頼漢が罵声を上げた。無頼漢に相応しく姫相手とは思えない暴言が次々に飛び出す。
姫の物言いも誉められるものではなかったが、その比較にならない汚い言葉が姫に向かって投げつけられた。
姫も姫でそのような者達の言葉など受け流せばよいのに、僅かに残す幼さゆえか自分への挑発として真正面から受け取る。
「ほほほほ、小癪な者共が多いわね。いいですわ、口だけかどうかワタクシ自ら試させて頂きますわ」
そう言って姫は立ち上がり、回れ右をしたあとショーツを下ろして再び座り込んだ。
突き出された巨大な尻が街の上空に据えられる。
肛門の直径だけでも街の直径ほどもあり、その数十倍の影が街と周囲の地面を覆いつくす。
下から見上げている人々からは二つ双球で空を蓋されたように見えた。
地平線と姫のお尻の僅かな隙間から差し込んでくる日の光が白い肌とその中央に鎮座する肛門をぼんやりと照らし出す。
周りに比べてへこんでいる肛門付近は他よりも薄暗く、どこか不吉なものを予感させられた。
「いきますわよ」
その予感が的中したかのように肛門の前に「あと30」という文字が現れた。
ダンジョン攻略者達には見慣れた表示。攻撃まであと30秒という意味だ。
それがカウントダウンのように29、28、27、と刻々と減っていく。
姫の突然の暴挙と圧倒的迫力に困惑していた攻略者達だったが、目の前で減っていく数字に防衛本能が刺激されて反撃を開始する。
従えたモンスターのスキルを発動させる者、魔法石を大量に消費して大火力攻撃を行う者、街の至る所から放たれた攻撃が姫の肛門へ向かって飛ぶ。
だがいかんせんサイズが違いすぎる。
攻撃は炸裂するものの、肛門の巨大さに比べたらあるかないか分からない程度の爆発しか起せていない。
弱点と思われる肛門の中心に至っては、皺の谷間が作る闇の中へ攻撃が吸い込まれていくばかりで当たっているかどうかさえ分からなかった。
まるで火山口に対して行う放水のようだ。
カウントダウンが10を切る。
ここでようやく逃げ始めるものが出た。
すくんでいた足がようやく動くようになった者や、避け様が無い敗北を受け入れた者達が我先にと逃げ始める。
その中には姫に罵声を投げていた無頼漢も混ざっている。威勢のいい事を言っていたわりに情けない彼らだった。
しかし残りは僅か数秒。
姫の攻撃の範囲外と思われる場所までは到底辿り着けようも無い。
残り3。
攻撃を続けていた勇敢な者達も盛り上がり始めた肛門を見てダメ元の防御スキルを唱え始める。
残り1。
肛門の盛り上がりが大きくなり、闇の中に隠れていたピンク色の内壁が攻略者達の前に姿を現す。
残り0。
攻撃が街へ向かって放たれた。
ぶぼんっ!という爆発音と共に、僅かに開いた肛門から圧縮された気体が街と攻略者達へ叩き付けられる。
黄色みがかった腐臭のする気体だ。
長年敵を退けた防壁も、強固な石造りの建物も、大地に深く根を張った大木も、根元の地面ごと深く深く抉り飛ばされる。
攻略者がどんなに高位な防御スキルで身を固めていたとしても大地ごと吹き飛ばされては抗いようも無い。
僅か1秒にも満たない攻撃だったがその僅かな時間で街は粉々に吹き散らされてしまい、街丸々1つ分のクレーターへと姿を変えていた。
「1撃でみんな終わり?ちょっと軟弱過ぎるのではないかしら」
しゃがんだ姿勢のままお尻をずらして街の様子を確認した姫が呆れ顔をする。
それに反論する者はもうなく、唯無機質な岩盤だけになった元街並を腐臭のする黄色い大気が静かに覆っていた。


アン・パント・フットバス。
得意技はおならでの吹き飛ばし。
生還した者に植え付けられた巨大な尻への恐怖から、彼女はシリ姫と呼ばれている。