左右に揺れる沢山の赤青黄色。シュウ酸ジフェニルと過酸化水素の化学反応で淡く輝く棒を振るのは顔の見えない観客達。
体を揺らしている者、手を叩いている者、声を上げている者、様々な者がいるがみな一様に興奮し、ある一点に視線を送っている。
その視線の先には幾多ものライトで照らされたステージがあり、目まぐるしく表示を変える大型モニターがあり、可憐な衣装に身を包んで歌う女の子がいた。
彼女が右側の観客席に手を振るとその先にいる観客達が沸き立ち、左側の席へ近づくとそちらの観客達が歓喜する。
照明が落とされた広いドームの中央で、眩い光と歓声をその華奢な体に受けて輝くアイドルがそこにいた。


 *


「お疲れ様でーす」
関係者用通路ですれ違うADからの慰労に笑顔でオウム返しをしながら、彼女はトイレへと向かう。
彼女は今年デビューした新米アイドルで、グループデビューが常識となりつつある昨今の中でのソロデビューを果たした実力系の有望株と見られている。
とはいえTVや雑誌で大々的に持ち上げられてのデビューではないので集客力はグループや先輩アイドルにはまだ及ばずといったところであり、まだまだ小さな地方周りやイベントでの積み重ねの日々を送っている。
今日も前座として呼ばれた年越しライブで観客を沸かせる仕事を十二分に勤め上げ、メインのカウントダウンでの全員同時出演まで休憩となったところだ。
個室に入った彼女はステージ衣装のホットパンツとインナーを下ろして便座に浅く腰掛ける。
お尻が突き出される形になって露にされたその局部には一枚の絆創膏。丁度お尻の穴の真上にガーゼの部分を当て、両側の肉で挟むように縦に貼ってある。
別に万が一でも見えないように前張りをしたという訳ではない。そもそもこれでは前張りではなく後張りだ。かといって怪我というわけでもない。では何か。ぺりぺりと剥がしたその絆創膏に答えがあった。
「前半終了だよ。おっつー」
彼女が剥がした絆創膏を目の前に持って来て声をかけた。
正確にはその絆創膏のガーゼ部分に貼り付いた小さな小さな人形のような男性――彼女のマネージャーに。
「ふう。そっちもお疲れ様」
男性が額についた汗を手の甲で拭いながら返事をした。
彼は彼女のマネージャー。身長が僅か1cmちょっとしかないが正真正銘掛け値なしで本物のマネージャーだ。
体は小さいものの出演交渉とスケジュール調整を始め、ファンへの応対や各種トレーニング計画の立案から彼女のメンタル管理まで様々な仕事を普通サイズのマネージャーと同じようにこなしている。
いや、普通サイズのマネージャー以上に仕事をしている。それがこの絆創膏に貼り付く仕事。
「後半もヨロシクね~」
彼女は汗でよれよれになった絆創膏を捨てて代わりの新品へ彼を移し変えるとそれを自身のお尻に貼り付けた。
ガーゼとその上にしがみ付くマネージャーが丁度肛門の位置に来るように押し当てて剥がれないように羽の部分をしっかり伸ばし、インナーとパンツを履き直す。
その場でくるりと一回転して絆創膏がずれない事を確認すると、再び熱気と歓声の中へ戻っていった。


 *


「年明けまであと2分ー!」
トップアイドルの合図でアイドル達のメドレーが始まった。
自分達の新作や代表作を次々に歌い繋げ、会場に集まった観客達のボルテージを際限なく引き上げていく。
そんなアイドル達の一員として歌い踊る彼女のお尻で、彼女のマネージャーもまた精一杯の努力をしていた。
マネージャーである彼がすること。それは我慢。四方八方から圧迫してくる肛門に潰されぬように必死に耐える事だ。
以前何かのきっかけで怒った彼女がこうした事が始まりだったが、いつの間にかマネージャーのお仕事として定着してしまった。彼女曰く「なんか集中できる」らしい。
その真偽の程はいずれにせよ、これを始めてから彼女への注目度が上がったという結果が出ている。表情が良くなっただとかエロくなっただとか・・・
流石に倫理的にまずいものがあるのではと事務所の社長にも相談したが「性器じゃなければ問題ない。金になる限り続けろ」と逆に太鼓判を押されてしまった。
正式に認められた仕事である以上は彼に拒否権はない。
両手両足を突っ張って空間を確保し、絆創膏を通して僅かに入ってくる酸素を逃さす取り込むことに終始する。
それでも彼女が一歩踏み出せば、その拍子で締まる肛門に対して彼の両手両足はあっけなく敗北する。
空気は絆創膏を通り抜けて逃げおおせるが、彼はそうもいかずに迫る肉とガーゼの間でサンドイッチにされてしまう。
再び両手両足を突っ張ってももう一歩踏み出されればまたその繰り返し。歩かれなんかしようものなら文字通り息つく暇もなく左右の肉壁に交互に締め付けられる。
彼女は歩いている最中の肛門の動きなんてものは微々たるものだと言うのだが、彼にとってはロデオマシーンの如く暴れているように感じられた。
汗も同様だ。彼女が少し汗をかいただけで肛門はタライに水を張ったようになって彼を溺れさせる。
強制的に口の中に侵入してくる女の子の体臭と肛門の臭いが混ざった液体をごくごく飲みながら彼は耐え続けた。
「10秒前ー!8、7、6・・・」
年越しのカウントダウンが始まる。
隣にいる恋人、友人、名前も知らぬ誰かの熱気と存在を感じながら大勢の人がその声に耳を傾け熱狂する。闇を切り裂くライトが踊り狂う煌びやかな世界。
その世界の中で最も間近に人の体温を感じながらも誰にも知覚されない暗闇で、異臭のする肛門プールに浸かりながら彼は今年も新年を迎えた。