私、遠坂玲奈(とうさかれいな)18歳。







身長175cmでちょっと背が高いところ以外はどこにでもいる普通の女子高生。


そう……普通の女子高生のはず…。


女子にラブレター貰ったり、男子に俺を罵ってくれ、俺を踏み潰してくれ、とか言われること以外はたぶん普通のはず……。


脚が長くてスタイルは自分でもいいと思っているし、顔も第3者から見たら悪くはないんじゃないかな?


ただ、髪はショートカットで、普段着もスポーツウェアだから遠くから見られると男の子に間違われる時もあった。


まあ、女子にラブレター貰うのは、ちょっとアブノーマルだけど、まだそういう話聞くし、これはまだ普通の範疇かな……。そうよね?


でも、男子の私に対する言い草は正直ないわよね……。


私をなにかの女王様のように思っているんじゃないの?絶対言ってきた男子は変な趣味を持っているとしか思えない。


そりゃ、私はSかMかと言われたら・・・・・・・・・・・・って何言わせんのよ。


とにかく、外見だけで人を判断するのはやめて欲しいと思っている。


私はどちらかと言うとインドアよりアウトドア派だ。勉強は嫌いじゃないけど、スポーツの方が好きだ。


高校では陸上部に所属して、毎日のように走って汗を流していた。


髪を短くしているのも運動の邪魔にならないようにするためだった。


ちょっと変なイベントはあったけど、陸上をやっていたおかげで、推薦で大学進学も決まったし、おおよそ順風満帆な高校生活を送って来たといえるだろう。


もっとも、ノーマルな恋愛だけには縁がなかったけどね……。


しかし、今は18歳の高校生という肩書は正確ではない。大学に進学したとかそういう意味ではない。




なぜなら・・・・・・・






今私は見知らぬ異世界にいる。

目の前に信じられないくらい大きな男の人が私を見ている。

私の10倍にも相当する体格の大きさだった。

目が覚めたらこんな状態だった。

正直混乱しているけど、ここはどこなのか見当は付いている。

そして、原因は間違いなくあれのせいだ……。

話は少し前に遡る・・・・・・






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「・・・・さかれいな」


「・・・うさかれいな」


「・・とうさかれいな」






誰?






どこからか私を呼ぶ声がする。

私は自分自身の瞼が閉じられていることに気付いて

ゆっくりとそれを開いた。

そこはアタリが地平線の見えない真っ暗な空間だった。





「え・・・・ここどこ?」





いきなり見知らぬ場所に放り出されていた。

状況が全くつかめてなくて混乱している。そして、どうやら私は立っているらしい。

直前まで意識を失っていたはずなのに何で立っているのかすら分からない。

意識を失う前の記憶を思い起こそうとしても何故か思い出せなかった。

今日は学校で陸上部の懇親会があったはずなのだ。

季節はもう冬で3年生はとっくに引退している時期だった。

久しぶりの部活仲間との交流が出来るとあって、楽しみに家を出たのは覚えている。

しかし、そっから先が思い出せなかった。なぜか思い出すのが怖かった。

思い出すことはやめて辺りを見回してみた。

暗いというのに、辺りがとてつもなく広大な空間であることが直感的に分かる。

よく見ると、遠くのある空間だけ光に満ちた場所があった。

誰に言われるまでもなく私はそちらに向かって歩いて行った。






近づいていくと徐々に光を発するのものの輪郭が明らかになっていった。





「・・・・神殿?」





輪郭を表したものは、いくつもの巨大な石の柱だ。

石の柱は巨大な構造物を取り囲むように配置され、巨大な天井を支えている。

柱や天井には豪華絢爛な装飾が施され、見るものすべてを圧倒する壮麗な雰囲気を醸し出していた。

それはまるでギリシャのパルテノン神殿を思い起こすものだ。

芸術に興味がない私でもこの威容には溜息しか出なかった。





「はあ・・・・これ売ったら全部でいくらくらいになるのかしら・・・」





生活に困ってる訳ではないが、こういうものを見るとすぐにお金に換算して見てしまうのが庶民の悲しい性だった。





「とにかくこの先にいかなくちゃ・・・」





私は誰かに導かれるように神殿の奥に入っていった。

ここはどこなのか?なぜ、こんな所にいるのか?私はどうなってしまったのか?

考えるべきことは山ほどあったが、今はこの直感に従って進んでいった。






神殿の回廊は延々と続いていて終わりが全く見えなかった。

かれこれ1時間は歩いただろうか?

陸上部で鍛えている私には1時間歩くことなんてのは造作もないことだが、終わりが見えない中での徒歩は精神的に疲れてきた。

不思議なことに天井や周囲の壁からは眩しいくらいに光が発せられているのに、前方を見ると暗闇が広がっている。

中に入る前に入り口側から神殿全体の大きさを見たはずだが、これだけ大きい建物だとは到底思えなかった。

明らかに、外で見た神殿の大きさと中に入って実際に歩いて計測した距離とでは差があった。





「どんだけ長いのよこの廊下は・・・」





さらにどれくらい時間がたっただろうか?・・・・

自分の体感時間でどれだけ歩いたのか分からなくなった頃。

目の前に突然巨大な門が現れた。




「え・・・」




私は急に出現した門に対して驚きを隠せなかったが、門はそれに構うことなく「ギギギ…」という音とともにゆっくりと開き始めた。

暗闇だった場所に門から光が流れ込んでくる。

私を導いていたものは、この中にいると本能的に確信した。

私は光に包まれながら門の中に入っていった。






「よく来たな。」





中から重々しい声が聞こえてきた。

誰かいる。

門の中は神殿の外の風景とは一転して光に満ち溢れた空間だった。

その中に玉座に腰を掛けている人がいた。





えっらそおおぉぉぉーーーーー!!





それがその人に抱いた私の第1印象だった。

その男の人は薄水色のガウンを着て、紋様が付いた赤いマントを羽織い

額には宝石が散りばめられた王冠を付けている。

そして周りには天女の羽衣の様なものがフワフワ浮いていた。なんだろ・・・あれ。

足を組み、肘掛に手を付いたままその男の人が答える。





「偉いんだよ。私は」





心を読まれた・・・・!? まさかね・・・

だが、そう思っていたとしても火が付いた思考は止まることはない。

年はよくわからない。若いようにも見えるし、老けているようにも見える。

背丈は私とそんなに変わらない。

顔は悪くないけど、私の好みじゃない。なにより偉そうにしているのはダメ。

なに、そのひらひらしている羽衣は。オシャレのつもりなのかしら?

そう思った瞬間・・・





「おい!おまえ失礼だぞ」





間髪入れずその男の人が答えた。激しい口調ではなかったが、ちょっと怒ったぽい。

やっぱり心を読んでいるようだ。明らかに人間業じゃない。

時間にして部屋に入って10秒も経ってなかったが、既にお互いの認識はある程度済んでしまったようだ。

そして、私はこの部屋に入って初めて言葉を発した。





「ごめんなさい。あなたが私を呼んでいた人?」


「そうだ。お前が遠坂玲奈だな?私を初めて見たというのに物怖じしないとは大した度胸だな。」


「変なこと思ったのは謝るわ。でもこれは不可抗力だと思うんで許して。」


「構わん。人間のお前では仕方ない。所詮は有限の命の被造物種だ。」





なんか凄いバカにされていることだけは分かったが、私はそれに構わず尋ねた。





「あなたは誰?明らかに人間じゃないと思うけど」


「ふっ…おおよそ見当は付いているんだろう?神だよ。神。神様。GOD。つまりとってもえらい」


「ふーん。で、私はどうすれば帰れるの?」


「おい、お前ここはもっと驚くところだぞ!」





今の回答で分かった。間違いなくこれは夢だ。

私は宗教や神なんてあまり信じてない。せいぜい行事でやる程度だ。

そして、この非現実的な世界と不可思議な現象の連続から考えると、夢以外の何物でもなかった。

まともに対応するのが馬鹿らしい。私は、はぁと一息ついた。




「いえ、なんか拍子抜けしちゃって。妙にリアルな感覚だったから分からなかったけど。種が分かればなんてことないわね。」




だが、男からの回答は予想だにしないものだった。




「夢ではないぞ。現実でもないがな。ここは死んだ人間が来るところだ。」


「はい?」


「私は位階はそこまで高くはないがね。だが、お前たち人間からすれば天の上の存在であることに変わりはない。もっと敬いたまえ」


「ちょっ・・・ちょっと待って」




自己アピールに必死な自称神の話をさえぎって話をつづけた。




「死後の世界ってどういう事?」




一瞬不思議そうな顔して男が答える。




「どういう事もなにもここは文字通り死者の世界だ。」


「え・・・何言っているのよ。そんなわけないでしょ?」


「変なことを言っているのはお前の方だ。それを知っているからここに来たんだろう?」


「いやいや!なんでそんなところに私いるわけ!?私普通に女子高生してて、何事もなく生活してたはずなのに・・・今日だって部活の子たちと遊ぼうとしてて・・」


「・・・ああ、そういうことか」




男は得心がいったような顔してうなずいた。




「お前はどうやらイレギュラーなパターンで死んだようだな。」


「・・・・・・・イレギュラーなパターン?・・・死んだ?」





私は、恐るおそる聞いてみた。





「今日の死者の面会リストの情報によると遠坂玲奈は与えられた寿命を全うせず、”突然死”したと書いてある。」





男が突然虚空から書類を出して、それをぺらぺらとめくりながら話し始めた。





「突然死の原因は急性アルコール中毒のようだな、そしてそのまま昇天した。」


「は?」





私は余りにも唖然としてそれ以上声が出なかった。

突然死?急性アルコール中毒?なに言ってんのこの人?私はお酒なんて飲まないんだけど!?

男はこちらに構うことなく書類をめくっている。




「・・・ふーむ。なるほどな。死神のレポートによると少しはお前にも同情の余地があるな。」




男はあれこれ言いながらレポートをめくり続けている。私に関するなにかがそこに書いてあるようだった。

しばらく待っていたが、埒が明かなかったので男がレポートをめくるのをさえぎって尋ねた。





「ちょっと良い?状況がまったく分かってないんだけど、つまりどういう事?」


「せっかちな女だな・・・お前は。まだ全部お前の経歴を見終わってないぞ。」


「私が死んだってとこだけでいいのよ。まだその話信じられないんだけど。私はお酒なんて飲まないし。」


「・・・・まあ、いい。大体見終わった所だから、これ以上の確認は必要ないか・・」




そういうと男はレポートからこちらに目線を移して話し始めた。





「お前の死のきっかけはお前個人の意思でそうなった訳ではないようだ。」


「記録によると、部活仲間と共に宴会場に入ったあと、歓談をしていた際、部活の男達数人に無理やり酒を勧められたとある。」


「男達はどうやらお前に気が合ったようだな。お前を酔わせてあんなことや、こんなことをしようとしてたようだぞ。」




言い方がおじさん臭いなこの神・・・だがそれより気になったのは部活仲間の男子の事だった。





「男子が私を?そんなわけないでしょう。そんな目で見られたことなんて一度もないのに。(女性以外には)」


「なんだ?死神でさえ色恋の事に気付いているのに、当事者のお前が気づいていないとは笑えるな。男達は全員お前に首ったけだったようだぞ。」


「お前を心底性の対象として見てて、誰がお前を自分のものにするかで争っていたようだ。」




え・・・?まったくあずかり知れない話でついていけないんですが・・・




「お前のそのモデルのように長い手脚や、キュッとくびれたウェスト、適度な大きさを持ったバストは毎日男達から欲望の眼差しを受けていた。」


「私にはそうは思えんが、学校でもお前は美人で名が通っていたらしい。人間の文化はよくわからんな・・・」





ええええええええぇぇぇぇぇ!????そんな話聞いてないよぉぉ!?

その話を聞いて再度私は驚愕した。

自分でもスタイルは良いと思っているし、顔も悪くないと思っていたがまさかそんな事になっていたとは・・・

ノーマルな恋愛には程遠いと思っていたから余計に驚いた。

ていうかそれなら普通に声かけてきなさいよ!?何が「踏み潰してください」よ!分かるわけないじゃない!!

男はこちらの思惑を知ってか知らずかそのまま続けてきた。





「男達は、お前がまさか死ぬとは思わなかったようだ。」


「お前に無理やり酒を勧めはしたが、ある程度の所で止めようとはしたらしい。あくまでほろ酔い気分までのつもりだったようだ。」





まあ、そりゃそうでしょうね・・・好意を持っている相手をアルコール中毒死なんてさせるつもりはないでしょうよ・・

だが、その次の台詞にまた私は驚いた。




「ところが、おまえが勝手に一気飲みを始めたので、男達はむしろそれを止めようとした。」




What? イマナンテイイマシタ?




「お前が暴走を始めたので、男達が取り押さえようとしたが、暴れて手が付けられなかったらしい。」


「完全に酒乱だな・・・貴様。男達の方も殴られたり、蹴られたりして暴行を受けている。なぜか喜んでいたようだが。」





男が少しあきれた顔でこちらを見てきたが、私はそれに応じる余裕がなかった。

え?だってお酒なんて飲んだことないんだよ?なんで一気飲みなんて始めちゃってんの私!?




「そして、そのまま意識を失い。昇天した・・・・とレポートは締めくくっている。」





男は書類を見終わったらしく、既に片付けていた。

私はなんとか、一気飲みをしたというその時の記憶を思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。

記憶を忘れるというのは本当だったのか・・・今となっては分からないが。

ていうか死に方めっちゃ恥ずかしい。。。

なんでよりによってアルコール中毒死!?

普通に、恋愛して、普通に結婚して、おばあちゃんになって家族に見守られながらぽっくりとベッドの上で死ぬことが私の目標だったのに・・・

どこで狂っちゃったのよ・・・私の人生プラン!?

私は頭を抱えながら呻いていたが、男はそれに構うことなく次の言葉を言った。




「さて、本題に入ろう。私もこう見えて忙しい身でね。次の死者がそろそろ訪ねてくるから、さっさとお前を処理したいのだ。」




男が仕事モードに入った。

こっちはもうちょっと時間欲しいんですけど!?

ていうかさっさと処理って・・・・・




「最期は自業自得とは言え、きっかけはお前の意思ではなかった。だから情状酌量の余地はある。」


「お前にはこのリストの中の選択肢が与えられる。感謝することだ。」





そういうと男はまた虚空から書類を取り出し私にそれを手渡した。





「この中から次の転生先を選べ。さっさとな。」





なんか、投げやりすぎない!?

こっちは死んだと自覚してまだ間がないというのに、さっさと転生先を選べって……もうちょっと話すことはないのかな?

「死んで大変だったな~」とか、「ご愁傷様、次は頑張れよ」とか、そういう労いの言葉もないの!?

一応18年と言う短い人生ではあったけど、これでも必死になって生きてきたんですけど。

凄い事務的な手続きしかしてなくて、いかにもお役所みたいな感じで好しいとは思えなかった。

たぶん仕事も適当なんだろう。位階が低いのもきっとそのせいだ。

ぴくっと男の眉間が動いた気がしたが、たぶん気のせいだろう。というかこちらとはもうあまり関わりたくない雰囲気を出している。

さっさとこの仕事を終わらせて次にいきたいというのが奴の本音だろう。


・・・


はぁ・・・・と私はため息をついた。なけなしの怒りはそれで抑えられたが、失望感は拭えなかった。

しかし、ここで愚痴ってても仕方がないのは確かだ。

死んでしまったのはどうやら本当のようなのだから、いずれにしても転生しないといけない。

このままここに居てもしょうがないし、やる事もない。

とりあえず私は受け取ったリストを見てみた。




リストには次の転生先と転生の条件が書かれていた。さらにクリア報酬ならぬ大往生した際の報酬があるらしい。

なんかゲームっぽい?




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                          ◇地獄リスト
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■転生先と転生条件、および大往生報酬。


【1】地獄の様な地獄

転生年齢:0歳
転生先:人間
転生条件:不死を付加。自動成長を付加。痛覚以外の全ての五感を無効化。
設定寿命:100歳
大往生報酬:神への列席 or 願望の成就。

内容:生まれたその日から地獄のありとあらゆる責苦を受けます。寿命が来るまで自ら死ぬことも出来ません。
   また、痛覚以外の五感を全て遮断するので痛み以外のなにも感じることはありません。ただし、体は勝手に成長します。
   針山、溶岩風呂、ブラックホールによる無限の圧縮など、自己再生と破壊を100年間ひたすら受けます。
   しかし、もしその苦行に耐えることが出来たら、神への昇神、もしくは、望むものの願いを叶えることが出来ます。
   ハイリスク、ハイリターンな転生です。



【2】地獄の様な天国

転生年齢:5歳
転生先:天使
転生条件:不老不死を付加。以後の転生の禁止。
設定寿命:なし
大往生報酬:なし

内容:天使として神に仕えていただきます。また、もし一度これに転生をすると2度と他のものに転生することは出来ません。
   安定した暮らしは保証されますが、神への愛によってのみ永遠に生きることになります。



【3】地獄の様な現実

転生年齢:0歳
転生先:人間
転生条件:就業先の固定。
設定寿命:62~120歳(任意)
大往生報酬:煉獄リストによる転生が可能。

内容:これまでと同じく地球に転生します。人間の誰のもとに生まれるかはランダムです。
   しかし、どの国、どの家庭に生まれようと、運命的にブラック企業にしか就業できない宿命を背負うことになります。
   寿命は任意に設定できますが、最低でも62歳以上120歳以下を選択することになります。
   もし、途中でなんらかのアクシデントが発生して寿命を全うできないと、再度やり直しです。
   ひたすら社畜として働くことになりますが、地獄の責め苦としては軽微な為、報酬も軽いものになります。
   大往生報酬の「煉獄リスト」では「地獄リスト」より少し条件が良い転生が選択できるようになります。
   安定を好むローリスク、ローリタン向けの人の転生です。



【4】地獄の様な異世界

転生年齢:0歳
転生先:人間
転生条件:特殊能力の付加(別リストから2つ選択)、バッドステータスの付加(ランダム)、大往生条件として大魔王の討伐を付加。
設定寿命:80~110歳(任意)
大往生報酬:幸福リストによる転生が可能。


内容:地球ではなく、魔法が存在する異世界への転生になります。
   大往生条件として寿命を迎えることだけではなく、大魔王の討伐も条件として課されます。
   寿命は任意に設定できますが、最低でも80歳以上110歳以下を選択することになります。
   他の転生と違い選択式の特殊能力を得ることが出来ますが、バッドステータスも付いてきます。何のステータスが付くかはランダムです。
   もし、途中でなんらかのアクシデントが発生して寿命を全うとできない、あるいは大魔王の討伐が出来ない場合は再度やり直しです。
   大魔王討伐という大往生条件が大変厳しい分、報酬は「幸福リスト」による転生という【3】より格段に良いものになります。



【5】地獄の様な異世界2

転生年齢:0歳
転生先:スライム
転生条件:捕食者の能力の付加
設定寿命:50歳以上(任意)
大往生報酬:スライムとしての昇神


内容:【4】と同じく地球ではなく、魔法が存在する異世界への転生になります。
   しかし、転生の際には人間をやめていただくことになります。
   ただし、転生後のスライムは”捕食者”という相手の能力を奪える力を持つので、力を奪っていけば無双することが可能です。
   大往生後はあくまでスライムとしてですが神になることが出来ます。
   スライムであることさえ許容できるのならば破格の転生になります。



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なにこれ・・・・?







それがこのリストを見たそのままの印象だった。

まさに、「なにこれ」状態である。ハッキリ言ってまともな転生が1つもない。

さすがに訊かずにはいられなかったので、目の前でふんぞり返っている男に詰め寄った。




「なんで全部転生先が【地獄のような】という枕詞が付いているの・・・?異常としか思えないだけど!?」




男はやれやれという感じでこちらに向き直った。





「選択肢があるだけありがたいと思え。本来であれば、私が決めても良かったのだがな。」


「ちょ・・・それってあなたに有無を言わさず地獄に落とされる可能性も合ったって事?」


「そうだ。だが、情状酌量の余地があるといっただろう?選択肢くらいはあたえてやるさ」





その言葉を聞いて私は戦慄を覚えた。神と言うのはやはり伊達ではなかった。

なんて恐ろしい裁量権があるのよ!!

【1】とか恐ろしい地獄だ。たとえ何回死んだとしても【1】を選択することはあり得ない。

大往生報酬とやらは神になれるとあるが、目の前の男の様な存在になったとしても幸せになれるとは到底思えなかった。

男はさらに言葉をつづけた。





「神の法でな。寿命を全うできなかったものはこの地獄リストから選ぶことになる。例外がないわけではないがね。」


「例外?」


「神の信仰に大いなる貢献をしたものだ。」


「あ・・・私は関係ないですね・・はい」





私はガクッと項垂れた。あまりにも理不尽だった。

確かに一気飲みはしたんだろうけど、自分で死のうと思ってやった訳ではないはずだ。

どちらかというと不慮の事故と言うほうが正しい。

これも一応寿命を全うできなかったことになるんだろうか?なるんでしょうね・・・・はぁ

今日何度ため息をついたか分からない。

こんな事になるんだったら恋愛して人生をもっと謳歌していればよかったと思う。

私まだなにも女らしいことしてないのに・・・・・あんまりよ・・・・こんなの・・

さすがに泣きそうになった。




「・・・まあ、まて。まだ話は終わってない。」




心を読んだんだろう。さすがに相手も気をまずくしたのか、フォローを入れてきた。




「寿命を全うできない理由は人それぞれある。よほど極悪な犯罪を犯さない限り、大体は情状酌量の余地が付く理由たりえる。」


「そして、情状酌量の余地が付いた人間には、もう一つ、有利な条件を得ることが出来る。」





私はそれを聞いて顔を上げた。

選択肢を与えてくれるだけではなかったの?




「もう一つの有利な条件とは転生前の姿・記憶・年齢をそのまま転生先でも使えるという事だ。」





それを聞いて私はハッとした!

年齢をそのまま転生先でも使えるという事は、その分賦役は0歳から始めるより少なくなる。

転生前の段階で既に老人で、寿命前に不慮の事故かなんかで亡くなった人は【3】なんてあっという間に大往生条件を満たすだろう。

確かにこれは悪くない。【2】以外に関しては年齢が大往生条件に絡んでくるんだから年齢を引き継げるのは最高のアドバンテージだ。






「もっともこれを使うかどうかは転生者の自由だがな。きれいさっぱりに前世を忘れて0からやり直したいという奴ももちろんいる。」


「ちなみに年齢を引き継げるのは60歳までだ。それ以上の年齢で寿命を満たさず死んだ者は60歳からやり直すことになる。まあ、お前には関係ないことだが。」


「また、【2】【5】に転生する場合には、転生前の姿は引き継げない。引き継げるのは記憶と年齢のみだけになる。」







つまり、50歳以上で寿命を満たさず死んだ者は【5】に転生すればすぐにスライムの神になれるわけね。

私はお断りだけど。





「これで、話すことは全部だ。そろそろ決めてもらえないかな?条件としてはいささか楽になったと思うが?」


「そうね・・・」





私はそう言って頷いた。意外に根は優しい奴なのかもしれない。

先ほどより少し元気を取り戻したおかげもあり、リストを再度見る余裕も出た。

どれが果たして一番いいか・・・

普通に考えたら【3】でしょう。重労働の運命を背負わされているとは言え、同じ地球だし年齢や記憶・姿も引き継げる。

私は今18歳だから62歳まで最低44年間我慢すればこれよりマシな条件の転生リストを得ることが出来る。

でもね…44年間か……私が生まれてきてからの年齢を後2倍強も経験しなきゃいけない。

楽な人生なら問題ないだろうけど、奴隷を44年間やるのは相当な覚悟が必要だ。

はぁ・・・頭痛くなってきた・・・

ご年配の方には甘ったれるなと言われるかも知れないけど、先が既に重労働が約束されているなんて頭を覆いたくなる。

楽しいことがあればいいんだけどね・・・・

人生山あり谷ありという。確かに谷は大変だけど、山があれば頑張れる力になれる。

でも、私の場合これは谷しかない気がする。正直かなり厳しい・・・

ていうか、もし今回のような不慮の事故なんかで命を落とした場合再度奴隷をやり直し・・・?

怖すぎる・・・

【1】は論外中の論外。大往生報酬として願いが叶うのは良いが、永劫にも等しい苦痛を与え続けられるのは想像を絶する怖さだ。

【2】は良さそうに見えて永遠に神に縛られるという事になる。私は自由でいたいからこれも無理ね。

【5】もそうだ。スライムはある意味面白そうだけど、【なんとなく】やめておいたほうが良い気がする。

踏み入れちゃいけない領域な気がする。理由は良くわかんないけどね。なんとなくよ。

そうなると、最初から【3】か【4】しかないじゃない。

【4】を見てみる。

転生条件にバッドステータスがランダムに付く。また、大往生条件として寿命以外に大魔王討伐が付く。

大魔王と言うのが良く分からないけど、条件としては一番良いんじゃないかしら?

少なくとも一番自由がある。特殊能力も選択で2つ覚えられる。

これに限って言えばやり直しが強制されていても実はプラスだ。

大魔王をたとえ倒せなかったとしても次のやり直しで、倒せる可能性がある。

倒せなきゃ永遠にループをする可能性もあるけど。自由度が高いから何とでもなるだろう。異世界というのも興味があるし。

こういうのを見るとなんかオンラインゲームを想像しちゃう。

私自身はやらないけど、友達で好きな人がいて私にそういう情報を話してくれる人がいた。

その為、ある程度こういう異世界系は脳内補完が出来る。


・・・

うん。決めた!

私はリストから顔を上げて、男を見た。





「決まったかな?」


「【4】で行くわ。だけど、聞きたいことがある。」


「なんだね?」





男が聞き返してきたので、私はそのまま質問をした。




「転生条件について詳しく知りたいのよ」


「選択できる特殊能力の事、大魔王の正体の事、バッドステータスは何が付くか。とかね」





男はそれを聞いてちょっと考えた後回答した。




「よかろう。選択できる特殊能力についてはリストを渡そう、その中から2つ選ぶがいい。」





男はそう言って虚空から巻物を出して私に渡してきた。

巻物?

私はすぐにそのリストを確認した。

巻物である理由はすぐに分かった。




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             〇特殊能力リスト
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特殊能力名称       効果               最低MPコスト        


1.メテオスウォーム   隕石の雨を降らす             10,000        

2.リザレクション    死者の復活                  1,000        

3.ヘルファイア     地獄の炎を出す                500        

4.死の宣告       一定時間後に死神が相手を冥土に連れていく   450

5.エクスプロージョン  大爆発を起こす                600

6.タイムストップ    時を止める                  2,000

7.アテナシールド    あらゆる攻撃を無効化する           300

8.不死身        死なない身体になる(アンデット化)       200

9.テレポーテーション  瞬間的な場所移動              100

10.花鳥風月       宴会芸が出来る                 10

11.実務能力向上     あらゆる実務能力が向上する          10  

12.創作能力向上     あらゆる創作能力が向上する          10

13.肉体能力向上     あらゆる肉体能力が向上する          10

14.射撃能力向上     あらゆる射撃能力が向上する          10

15.魔法能力向上     あらゆる魔法能力が向上する          10

16.リカバリー      傷ついた身体の再生              30                  

17.サーチ        探し物を見つける               20

18.アサシン        気配を消すことが出来る            10

19.ハリケーン      大嵐を呼び出す。              3,000

20.トルネード      竜巻を出す                  800

21.サンダー       落雷を発声させる               200

22.重力崩壊       ブラックホールを発生させる       1,000,000

23.ヒーリング      自然治癒能力を向上させる           10

24.アンチドーテ     解毒                     20

25.グロース       あらゆるものを巨大化させる          5

26.ミニマム       あらゆるものを縮小化させる           5

27.セーブ        人生をセーブすることが出来る        5,000

28.ロード        人生をロードすることが出来る        5,000

29.痛覚麻痺       痛みを消す                  20

30.フィッシング     魚を釣りやすくなる              10








リストに羅列されている能力は1,000以上もあった。量がとにかく膨大だ。

攻撃魔法、補助魔法、回復魔法、天候を操る魔法、個人の能力を上げるスキル、実生活で役立つスキル等、多種多様にある。

一部変なのもあるけど、いずれも有益な能力ばかりだった。

正直どれを選ぶか迷うわね・・・

個人的にはテレポーテーションとリザレクションが気に入ったかな?

場所移動は汎用性が高いし、死者復活はいざという時の保険になる。

大魔王は1人で倒せるなんて思えない。

パーティを組んでそれぞれの特性を活かして戦うのが、MMORPGの基本だって友達は言っていた。

私はこういうのそこまで深く分からないし、サポートに徹した方が良い気がする。

能力の中にはブラックホール発生させるとか、隕石落とすとかもあるけど、

こんなもの使ったら、大魔王倒す以前に星ごと滅ぼしかねないわよ。

・・・誰が使うのよこれ・・・

それに横に書いてある最低MPコストがやたら高いけど何かしらこれ?




「最低MPコストは何を意味しているの?」


「異世界において生物は生まれながらに魔法力を持つ。それを数値化したものがMPだ。」


「最低MPコストは文字通り、その能力を使うにあたり最低限必要なMPの事だ。」


「また、MPを注ぐ量はそれより多くすることも出来るし、注ぐ量が大きければ大きいほどその分効果も大きくなる。」





MP・・・って、ますますゲームの世界観ね。今更驚きはないけど。




「私のMPってどれくらいあるの?」


「リストの一番下を見てみろ、そこにおまえの基本ステータスが表示される」





そう言われた私は長い長い巻物の一番下を見ていった。








◇転生者基本情報


名前:遠坂 玲奈(とうさか れいな)
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:174.8cm
体重:52.5kg
BWH:87,56,90

Lv:1
HP:50
MP:5
STR:31
DEF:16
INT:12
VIT:20
CRI:5
DEX:17
AGI:48
LUK:10

タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション

バッドステータス:なし

現在位置:天界 第9位階神の間

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うわっ・・・私のMP、低すぎ・・・?

マジックポイントたったの5かゴミめ・・・




「ああ、ちなみに、自分のMPを超えるコストの能力は覚えられないからな。念のため」




男はさらっと恐ろしいことを言ってのけた。

なんですとおおおぉぉぉ・・・・・・!?

私はリストをもう一度上から確かめてみた。

確認したところは当然、最低MPコストのところだ。









嘘? 

うそでしょう・・・・!?

あるうぅぇぇぇl?

覚えられるの2つしかないんだけど?

どういうことよこれ・・・

こんだけ能力あるのになんで2つしか選択肢がないのよ!?

おかしいでしょ、このリスト!

コストの設定間違っていると思うんですけど・・・!?

ほとんどの特殊能力が最低MP<10>必要だった。

そんな中、私が覚えられるのは


「グロース」

「ミニマム」


この2つだけだった・・・。

これらは最低MPコストが<5>の為。私のMPでも覚えられる。

落ち着け私・・・・リラックスよ・・・

ふう・・・

もう一回確認しましょう。見落としがあるかもしれないから。






やっぱり2つだけだった・・・もはや間違いようもない。

なんに使えるのよこれ・・・?

荷物を運ぶときとかは小っちゃくしたりして便利そうだけど、用途があまり思い浮かばない・・・

お金を大きくするとか?

紙幣なら意味ないけど、金塊とかならそれで大儲け出来るかもしれない。

効果時間のほどは不明だけどね・・・。詐欺になっちゃうかな?

他にはそうね・・・

自分が巨大化したり、相手を縮小化させて戦闘を有利にしたりとか・・・?

これはあるかもしれないけど、さっきのリストをみたら、

魔法を跳ね返したり、魔法効果キャンセルしたり、相手を消滅させるみたいなチート地味た能力がいくらでもあった。

過信は禁物ね・・・

まあ、とにかくこの2つしか覚えられないんだから考える余地はない。

なにも覚えないより、はるかにマシだ。

決心した私は男に向かって言った。



「決めたわ。グロースとミニマムでお願い」


「・・・ふっ、分かった・・・。良い選択をしたな。それを選択する奴はそうはいないぞ」



男はそう言って頷いたが、声には侮蔑の色が滲んでいた。

私がそれしか選べないことを分かったうえで言っているんだろう。グギギ・・・腹立つわー・・・!

こっちだってこれを選びたくて選んでいるんじゃないやい!




「さて、後は大魔王の正体と、バッドステータスについてだったな。」



私は無言で頷いた。




「まず、バッドステータスについてだが・・・」




そう言って前置きをした後男は続けた。




「バッドステータスの種類は、千差万別だ。何が付くかは完全にランダムだし、私にも想像が付かない。」


「ただ、一つ言えることは先天性の永続効果があり、異世界の住人は何かしらのバッドステータスを必ず持つ。」




先天性の永続効果?いまいち聞き慣れない言葉だった。




「例えるのなら、それは貴様の持って生まれた身体の一部の様なものだ。能力とかで補っても特殊能力は効果時間がある。」


「つまり、バッドステータスを能力で直そうとしても、効果が切れたら元に戻ってしまうという事だ。」


「バッドステータスを中和するには、同じく永続性があるアイテムを使用するか、特殊能力を使い続けるかの選択肢が考えられる。」


「まあ、バッドステータスそのものを直せる伝説級のアイテムもあるようだがね。詳しくは知らん。」




なるほどね・・・

バッドステータスは自分の持って生まれた障害みたいなものか。

軽く考えてたけど、相当なペナルティじゃないのそれ・・・?




「何のバッドステータスに掛かったかは転生後に巻物を見れば分かるだろう。その巻物はくれてやる。」


「ありがとう」




私はお礼を言うと、考えを巡らせた。

バッドステータスは転生したら、すぐに確認した方がよさそうね・・・

もし、永続性のある毒状態なんかに掛かってしまったら、すぐに解毒の方法を見つけないと大変なことになる・・・

毎日毒消し草を食べる生活とか送りたくないけど。





「そして最後に大魔王に関してだが・・・・」





そういうと男は少し間を開けて、顔を伏せた。

笑みが完全に消えている。

侮蔑や、嘲りなんてものも全く見当たらなくなった。

さっきまでとは別人の様な佇まいだ。

そして、重い口調で続きを話し始めた。

えっなになに?どうしたの?




「・・・大魔王に関しては正体は何もわからない。だが、明らかに神を超えた力を持っている」




えっ?神を超えた力?

男は顔を相変わらず伏せて、プルプル震えていた。

声も心なしか震えている気がする。




「我々神々全ての力を使っても奴を封じ込めるのが精いっぱいだ・・・」


「そしてそこがお前がこれから行く異世界【エビルプリズン】だ。”悪の牢獄”だな・・・」




男の震えが最高潮に達している!とてつもなく恐ろしいらしい。

えっ・・・ちょっ・・ちょっとタンマ!?、大魔王ってそんなやばい存在なの!?

聞いてないよそんなの!!?




「さて、時間が来たようだな。お前の健闘を祈っているぞ!!」



ニカッ!!


そう言って顔を上げた男は、さっきまでとは打って変わってとっても晴れやかだった!!

そして、手を挙げてパチンと手を鳴らした。

私の周りに光が集まってくる。

私の視界が徐々に白く霞んでいく・・・

え!?え!?どういうこと?なんで急にそんな晴れやかになったの?

魔王が恐ろしいから震えてたんじゃないの?





そこで、私はハッと気づいた!!




だ・・・・騙されたあああああああああぁぁぁぁ!!!!!




この自称神は転生者を牢獄に放り込んで大魔王の贄にするつもりだったのだ!!!

どおりで他より条件がいいと思った!




「ちょっちょっとタンマああああああああああああああああ」




私はありったけ叫んだが無駄だった。

目の前はさらに白くなり、私の意識が遠のいていく・・・




「はーーーっはっはっはっ!!大魔王討伐期待してるぞ!遠坂玲奈よ!!」




男は高笑いをして私を見送っている。


やり直しを要求しようにももう、声が出なかった。


テメーめええええええええええええ覚えてろよぉぉぉぉぉ・・・・


私の意識はそこでパタッと途切れた。。。








To Be Continued・・・