暦は7月に入った。



窓から見える景色にも青葉のみずみずしい緑が目立つようになってきた。

太陽の光量は一段と増し、温気がじんわりと肌に絡みつく。

カーラ王国は温帯の地域に属しているため、1年の四季がはっきりと分かれている。

7月からおよそ10月までは一年で最も暑い時期だ。

僕の住んでいる場所はクレスの町の中心街からおよそ1時間。

ブロンズ通りの端であり、町の郊外に位置している。

ここから工房までは歩いて1時間、往復で2時間かかるから交通の便はハッキリ言って悪い。

だけど、それでも僕はこの場所が好きだった。

正直治安はあまり良くないし、何をするにも不便な場所だけど、窓から見えるこの景色は最高の一言だ。

自然が活気づくこの時期は特にそれを感じる。

休日の日にぽかぽかの陽気なもとで、大自然が感じられる景色の中読書をするのは至福の一時と言ってもいい。

これまでの僕だったら今日のような日は田園地帯まで足を運び、木陰で読書をしていた事だろう。

しかしここ最近の休日の過ごし方はこれまでと少々異なっている。

僕の目の前にいる妖精のような可愛らしい女の子にこの世界の知識や能力について伝授を行う事が多くなった。

そして、今日は彼女がセカンダリースキルを覚えたいという願いもあり、僕の能力を見せる約束をしていた。

今、僕の目の前の作業台には赤い液体が入った魔法の小瓶があり、その横にはレイナがじっとこちらを伺っている。

僕は能力を使う前にレイナに確認の言葉を掛けた。







「じゃあ、いくよレイナ?」


「オッケー。お願い」







彼女の視線が僕の手元と目の前の魔法の小瓶を往復する。

僕は彼女の言葉を聞くと同時に目の前の小瓶に向けて能力を発動した。







「アナライズ!」







言葉を発すると同時に僕の内から放たれた魔力の奔流が小瓶の中に入り込む。

そして、中の構造を解析していく。







カチカチカチ・・・・・







「・・・・」


「・・・・」







僕とレイナは無言でその光景を見守っていた。

僕はチラリと彼女の様子を伺う。

・・・

レイナの表情は真剣そのものだった。

僕の一挙手一投足を見逃すまいという気迫を彼女から感じる。







フォン……







それから間もなくして、構造解析の結果が僕の網膜に表示された。







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     アナライズ結果【10】
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名称:ポーション

種類:魔法アイテム

価値:低い

創作難度:最低

効果:対象のHPを回復させる。

説明:回復用アイテム。


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「ふぅ・・・」







どうやら解析が終わったようだ。

いつも当たり前にやっていることではあるんだけど人に見られると変に緊張するな・・・

僕は生まれながらにこの【アナライズ】の能力を持っている。

つまりプライマリースキルの能力だ。

アナライズの最低MPコストは【10】

たった今使用した能力もMP”10”を使って発動したものだ。

今日はこれで3回この能力を発動させている。

僕は手元を凝視していたレイナに声を掛けた。







「レイナどうだい?」


「う~ん・・・」







彼女は首を捻りながら唸っていた。

イマイチまだイメージが付かない様子だ。

難しい顔をしながらレイナが答える。







「ごめん・・・やっぱり分からなかったわ」


「なんというか・・・とっても地味な魔法なのね・・・」


「じ・・・地味かい?」







まあ、確かに魔法が発動するエフェクトもないし、効果も自分にしか見えないし、イメージしにくいとは思うんだけど・・・

地味って言われるとなんか心にグサッと来る。

プライマリースキルはある意味使い手のアイデンティティにも繋がる。

プライマリースキルを地味と言われると、僕自身が地味と言われているような気がしてならない。

彼女はそんなつもりで言った訳ではないんだろうけど・・・それでもなんか落ち込んでしまう。

僕は彼女の言葉に若干肩を落とした。

レイナはそんな僕の様子に気が付いたのか慌てて僕にフォローを入れてきた。







「あっ!ご・・ごめんね。別にエノクが地味とかそういうわけじゃないのよ!?」


「ただ、効果が見えにくい能力だなと思っただけだからね?変な誤解しないでよ?」


「ははっ・・・大丈夫。気にしてないよ」







ごめんなさい。本当はめっちゃ気にしてます。

でも、彼女が必死になってフォローを入れてきてくれたのは素直に嬉しかった。

気を取り直した僕はレイナに魔力の発動についてのイメージを話す。







「えっと・・・イメージとしては魔力を対象の内に潜り込ませる感覚かな?」


「そして、潜り込ませた後は中のものをこう徐々に掘り起こしていくという感じ」


「分かるかい?」


「う~ん・・・」







レイナはなおも唸っていた。

まあ、難しいのも当然だろう。

僕は生まれた時から当たり前のように使えるけど、これを第3者が使用するとなると話は別だ。

概念やイメージを言語化して相手に伝えるのは想像以上に難しい。

どうしても感覚的な方法での説明をせざる得ないし、それを受けて自分のものにする方はさらに大変だ。

セカンダリースキルが経験則でのみでしか解明されていないのもそこに理由がある。

よほどの天才でもない限り一発で完全にイメージできるなんてことはそうそうない。

こればっかりは何度も使用しているところを見て徐々にイメージを固めていく他ないのだ。

まあ、その能力を見た時によほど衝撃的な出来事でもあれば話は別だろうけど・・・

僕がそうやって思慮を巡らせているとレイナから質問が来た。







「ねえ、エノクはその能力を使用したら対象の”構造”が分かるんでしょ?」


「どういう風に見えているの?」


「えーっとね…それも対象によって表示される情報が変わるし、注ぎ込む魔力によっても変わっていくんだ」







僕はそうやって前置きをした後、見ている構造についてさらに説明を加える。







「今僕がこのアイテムで見えている構造は、全部で6項目だ」


「このアイテムの名称、種類、価値、創作難度、それに効果と説明だね」


「今はMP【10】で発動させているんだけど、価値や創作難度については高い・低いという感覚的なものでしか表示されていない」


「それに効果と説明についても簡単な表示しかされていなくて、このアイテムがどれくらい回復させてくれるか見えていないんだ」







僕はレイナに説明をすると同時に今見えているものを紙に記載して彼女に渡した。







「おおっ、なるほど!分かりやすい」


「これが今エノクが見えているものか~・・・」


「そう、それがMP【10】で発動したときに見えたものだね」







彼女から感嘆の声が上がる。どうやら手ごたえがあったようだ。

僕はさらに詳細な説明する為にもう一度能力を発動した。

ただし、今度はMP10ではなく【20】で発動する。







フォン……







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     アナライズ結果【20】
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名称:ポーション

種類:魔法アイテム

価値:8000~12000(クレジット)

創作難度:1

効果:対象のHPを50~80回復させる。

説明:冒険者の基本となる回復用アイテム。


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僕は再度表示された結果を記載してレイナに渡した。

結果を見たレイナから今度は訝し気な声が上がる。







「あれ・・・?」


「気付いたかい?」


「ええ・・・情報が変わっているわね。さっきより詳しく記載されているわ」


「うん。今度はMP【20】で解析したからだね。注ぐMPによって情報が変わっていくんだよ」


「注ぐMPの量が増えれば増えるほど、見られる項目も増えるし、項目一つ一つに対しても深く掘り下げて解析していくという訳さ」


「なるほどね・・・」







レイナが頷きながら答えた。

どうやら”モノ”に対する結果についてはある程度イメージしてくれたようである。







【アナライズ】は対象の構造解析をしてくれる能力だ。

僕はレベルが低いからまだそこまで使いこなせていないけど、魔法技師や鑑定士にとっては非常に有益な能力だ。

自分で言うのもなんだけど、これをプライマリースキルとして持つことは天賦の才を持つに等しい。

例えば、アイテムの基本的な効用を確認するだけだったらそこまでMPを使わなくても出来ることだ。

セカンダリースキルだとしてもそれは十分に可能だろう。

しかし、それはせいぜい表面的なステータスを表示するというところまで。

そのアイテムがどういう成分やどういった素子で出来ているのか。

それを解明するとなるとセカンダリースキルだと早々に限界が訪れてしまう。

また、アイテムにしても神話や伝説級のアイテムを解析するとなると話は別になってくる。

一般的に高度なアイテムであればあるほど、その内に秘める魔力も多くなる。

相手が人であるのならばINTがその指標になる。

そして、大きな魔力を内に秘める人やモノほどその解析も困難になっていく。

それらを解析するにはプライマリースキルが必須になってくるという訳だ。







僕がそうやって考えをまとめている間、レイナは渡した2枚の紙を何度も見返していた。

なにがどう変わったのかその変化を必死に読み取ろうとしている。







凄い集中力だ・・・







いつもの彼女はちょっとお調子者で明朗快活な女性という印象があるが、

今の彼女からはそれとは違い、なんというか気迫というか形容しがたい凄みを感じられる。

僕は彼女が満足するまでそのまましばらく待つことにした。

やがて、彼女は納得が言ったのか僕に声を掛けてくる。







「アイテムの解析については何となくイメージついたわ」


「これって”人”に対して使うとどうなの?」







・・・レイナが核心に迫る質問をしてきた。







「・・・いい質問だね。実は人や動物に使うと、かなりランダム要素が出てくるんだよ」


「ランダム要素?」


「そう。生物は”意思”を持っているからね。同じMPを注いだとしても、同じ結果が出てくるとは限らないんだ」







人や動物等の生物に対して使用したときは単純にINTだけで結果が決まるわけではない。

本人の気の持ちようで解析結果がかなり変わってくる。







「百聞は一見に如かずだね。これは見せたほうが早いと思う」


「今からレイナにアナライズを掛けるけどいいかい?」


「・・・えっ!?・・・ちょ・・ちょっと待ってね・・」







僕の問いかけに対して、レイナが驚いた顔をしながら手で制してきた。

そのまま彼女はなにか思いを巡らせている。

・・・どうしたんだろう。

なんか、アナライズされてまずい事でもあるのかな?

出来れば協力してくれるとありがたいんだけど・・・

彼女はしばし考えた後、僕に質問をして来た。







「・・・最初に聞いておきたいんだけど、人に掛けるとステータスが見えるという事よね?」







彼女の態度は少し気になったけど、僕は素直に答えを返した。







「うん、まあ、MPによってこれも見られる範囲が変わってくるけどね」


「・・・それってスキルとかも見られちゃうものなの?」







レイナがやたら細かくアナライズの事を聞いてくる。

ポーションに掛けるときはこんなに聞いて来なかったのに・・・

そして、なぜスキル?







「えっと・・・まあ今回MPをほとんど使わないからスキルまで見れないかもしれないけど・・・」


「・・・何か気になることでもあるのかい?」


「ううん!!そんなことないわよ!・・・ただ、ちょっといきなりだったから驚いただけよ」







そう言って彼女は身振り手振りで僕の問いを否定してきた。

直後レイナは自分の胸に手を当てて大きく深呼吸をする。

それはこれから来るであろう嵐に対する心の準備をしているようにも見えた。







うわ・・・なんか凄い気になるんだけど。

絶対なんか気に障っていることがあるパターンだろこれは。

でも、これも深く突っ込んじゃいけないんだろうな・・・







これまで女性とあまり縁がなかった僕だけど、ここに来て急に接点が増えてきた。

そのおかげで少しは女性というものが分かった気がする。

意味深な話題に関してあまり女性に深く突っ込んではいけない・・・これがここ最近身に着けた僕の処世術だった。

この場面でもこれ以上聞いてはいけないと、僕の第六感がそう告げている。

彼女は僕の思惑を知ってか知らずか呼吸を整えた後静かに話を続けてきた。







「・・・大丈夫。掛けていいわよエノク」







彼女はなにか覚悟を決めたかのような目線で僕を見据えてきた。

明らかに異質な雰囲気を漂わせている彼女の反応に僕は戸惑った。







・・・ええっ!?

なぜ、そこで覚悟を決める必要があるんだよ!!?







心の中でレイナに突っ込みを入れる。

なんで彼女が悲壮感溢れる顔しているのか僕には見当が付かない。

このまま素直に掛けていいものかかなり迷う。

だけど、彼女が良いって言っているんだ。

ここで掛けない手はないし、覚えさせるのならどうしても手本を見せざるを得ない。

それに、自分が掛けられたらどのように見られるのかも知っていた方が絶対良い。

僕は二の足を踏みながらも能力を掛けることにした。







「・・・分かった。じゃあ掛けるね?」


「・・・ええ。お願い」







僕は彼女の了解を得ると、彼女に向けて手のひらを掲げた。

そして、同時に能力を発動する。







「アナライズ!」







彼女は目を瞑り不動の姿勢でその場にたたずんでいた。

僕の手のひらから放たれた魔力が、レイナに絡みつきその中に入り込んでいく。

そして、徐々に彼女の中のものを掘り起こしていった・・・







「・・・・んっ」


「あっ・・・いや・・・」







レイナのどこか艶っぽい声が僕の耳にこだまする。

なんかこのシチュエーション妙にそそるものがあるな・・・

僕の能力が発動している間、彼女は身じろぎしながら何かに必死に耐えている様子を見せる。

そんな彼女の姿はなんというか・・・色っぽいというか官能的というか。

これは意外に・・・・・うーむ・・・悪くないなぁ・・・







・・・・・・てっ、なぜそこで声が出るんだよ!?







僕は再度彼女に突っ込みを入れられずにはいられなかった。

魔力探知系のスキルや能力を持っていればアナライズが掛けられていることも分かるけど、

彼女は当然そんなものを持っていないはずだ。

もちろん掛けられるときに痛みなんてあるはずない。

悲壮感漂う雰囲気を出しておきながら、実はちょっと楽しんでないかい!?







フォン……







僕が彼女に突っ込みを入れている間に解析はどうやら終わったようだ。

僕の網膜に彼女の情報が表示される。







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     アナライズ結果【10】
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氏名:測定不可

種族:測定不可

年齢:測定不可

身長:測定不可

体重:測定不可


Lv:測定不可
HP:測定不可
MP:測定不可
STR:測定不可
DEF:測定不可
INT:測定不可
VIT:測定不可
CRI:測定不可
DEX:測定不可
AGI:測定不可
LUK:測定不可


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「うわっ!・・・なんだこれ!!?」







僕は結果を見て思わず裏返った声を出してしまう。

こんな結果を見るのは滅多になかったからだ。

僕の様子に驚いたのかレイナが怪訝な声で尋ねてくる。







「ど・・・どうしたの?」


「いや、どうしたのって・・・」







それはこっちのセリフなんですけど・・・

こんな結果が出るということは答えは一つしかない。







「レイナ・・・・・僕にもの凄く壁張ってないかい?」


「えっ・・・!?」







彼女が不可解な面持ちで僕の方を見てきた。

僕はゆっくりと状況を説明する。







「レイナの情報を見ようとしたらすべての情報が”測定不可”になっているんだ」


「これは情報としては存在しているんだけど、なんらかの障害があってそれを取ってこれないことを意味している」


「えっと・・・それはつまり、レイナが心の障壁を張って解析を拒否しているとしか思えないんだけど・・・・」


「あ・・・あはははは・・・」







彼女は呆然と僕を見つめながら、乾いた笑いをこぼしてきた。

まったくっ・・・やっぱり能力掛けられるの気にしてたんじゃないか。

話は前後しちゃうけど、これも説明しようと思っていたことではある。

こっちから先に説明するか。

僕は今見えたものをまた紙に記載してレイナに渡した。







「はい。これが今見えたレイナの情報だね」


「あら~・・・」







レイナは引きつった笑みを見せながら僕から受け取った紙を見ている。

紙に羅列されている”測定不可”の文字を見て自分でも呆れているようだ。







「・・・これって私が抵抗したからこういう風になっちゃったの?」







レイナが申し訳なさそうに僕に聞いてきた。

彼女にも壁を張る理由があるんだろう。

そんなことで僕は怒らないし、聞かれたくない事を無理に聞き出そうとも思わない。

僕はさして気にしてない風を装い彼女に返答した。







「まあ、そうだね。これが人や動物にアナライズを掛けた時の難しさでもあるんだ」


「INTが多い相手程解析は難しくなるんだけどその人の”意思の状態”によっても結果が全く変わってくるんだ」


「へえ・・・」







レイナが紙を見ながら頷く。

僕は彼女のほっとため息をついた所を見逃さなかった。

MP"10"で掛けた時にはアナライズ結果に”スキル欄”は表示されていない。







やっぱり気になっていたのはスキルなんだね・・・







僕は内心彼女のタブーを確信した。

なぜか知らないけど、彼女はスキルを見られるのを嫌がっているようだ。

ただ、彼女のプライマリースキルを僕は知っているし、セカンダリースキルはまだ習得すらしていない。

そうなると消去法で思い当たるものと言えばタレントスキルだろう。

でも、流石にこれを聞くのは藪蛇だよな・・・

・・・

・・・まあ、とにかく彼女もMP"10"で見られてしまう項目については予測が付いたはずだ。

先ほどよりはアナライズをこれで受け入れやすくなっただろう。

僕は紙をまじまじとみていたレイナにもう一度尋ねてみた。







「ねえレイナ。もう一回同じ条件で掛けてもいいかい?」







レイナは紙から目線をこちらに移すと、やや間をあけて答えてきた。







「あ・・・うん。大丈夫だけど、どうして?」


「もう一回やってみて、結果が変わるところを見せたいんだよ」


「レイナもさっきよりはちょっと気を抜いてくれると嬉しい」


「・・・わかったわ」







レイナは今度はさしたる抵抗もなく承諾の言葉を口にした。

僕はそれを受けて再度アナライズを発動する。







フォン……








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     アナライズ結果【10】
----------------------------------------------

氏名:遠坂 玲奈(とうさか れいな)

種族:人

年齢:18

身長:17.5cm

体重:測定不可


Lv:2
HP:5.5
MP:8
STR:3.6
DEF:1.9
INT:1.4
VIT:2.4
CRI:0.6
DEX:2.0
AGI:5.4
LUK:1.1


----------------------------------------------







僕の網膜に再度彼女の情報が表示された。

どうやら今度は比較的上手くアナライズが入ったようだ。

一部まだ測定不可なところがあるけど、そこは触れないでおこう・・・

僕は結果をまた記載して彼女に渡した。







「どうだい?今度は良く結果が表示されているだろう?」


「確かに・・・さっきと違ってよく表示されているわね」







彼女は結果を見て少々驚きの声を上げた。

同じMPでもここまで差が変わることに驚いているようだ。







「そう、これが”意思の力”によるランダム性だね」


「例えINTが多くても掛けられる張本人が精神的に無防備なら簡単にステータスを解析できるし、逆に少なくても抵抗すればなかなか解析できないんだ」


「ただし、魔法効果が高いアナライズを掛けられてしまった場合はINTが少ない状態だといくら抵抗しても見られてしまう」


「そこは注意が必要だね」


「なるほど、よく分かったわ」







・・・実は今の僕でもMP"30"以上でアナライズを掛ければスキルやバッドステータスなんかも表示対象になってくる。

また、それ以上多くのMPを注げば、本人の持ち物や個人情報なんかも分かるだろう。

流石にそれくらいの魔法効果があれば今のレイナが精神的に抵抗しようがステータスを解析することは容易だ。

でも、流石にそれをする度胸は僕にはない。

まだ、死にたくないしな・・・(遠い目)







彼女はそのまま2つの紙を見比べていたが、納得が言ったのか僕にお礼を言ってきた。







「エノク、ありがとう。おかげで結果についてはかなりイメージが出来たと思う」


「本当?良かった」


「でも、この能力。とっても恐ろしい能力ね・・・」


「そ・・・そうかな?凄い有用な能力ではあると思うけど・・・」


「いや、超恐ろしいわよ・・・使いこなせば相手の長所や弱点が見抜けるって事でしょ?」


「いやらしい能力ったらありゃしないわよ・・・」







い・・・いやらしぃ!!?







ガクッ・・・

僕は今度こそ膝から床に崩れ落ちた・・・







「ちょっとぉ~~~~!!」


「だからエノクの事じゃないって言ってんでしょうがぁあああああ」







レイナの絶叫が辺りにこだました。

















「・・・・」







今日も私は瞑想をして目の前の消しゴムに向き合っている。

能力を使い終わった後、私はいつも筋トレ→ランニング→瞑想とお決まりのコースを消化する。

今ではすっかり馴染んだ一連の作業である。

ちなみになぜ瞑想をするかというと、現在のMPの貯蔵量がいくらあるのか知覚しやすいからだ。

最初は何も分からなかったのだけどこの作業を数週間続けてきたらなんとなくそれが見えてくるようになった。

自分の中のエネルギーともいえる魔力の奔流が私の中に感じられる。

そして、その流れの大小によって自分のMPがどれくらいあるか感覚的に分かるのだ。

私は自分の中の魔力の奔流に意識を向ける。







よし・・・満ちたわね。







私は目を開けて壁に掛けてある時計を確認する。

前回能力を使ったときから丁度4時間経つ。

どうやら時間ぴったりだったようだ。

私は巻物を広げて自分のステータスを確認した。













◇転生者基本情報



名前:遠坂 玲奈
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:17.5cm
体重:52.5g
BWH:8.7 5.6 9.0


Lv:2
HP:5.5
MP:8
STR:3.6
DEF:1.9
INT:1.4
VIT:2.4
CRI:0.6
DEX:2.0
AGI:5.4
LUK:1.1


プライマリースキル:グロース、ミニマム

タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション

バッドステータス:1/10縮小化(永続)

所持アイテム:転生者の巻物、ディバイドストーン

所持クレジット:0


現在位置:クレスの町 ブロンズ通り302番地 フランベルジュ家


---------------------------------------------------------------







よし、MP回復確認・・・・・・・・・・OK。

ついでに体重確認・・・・・・・・・・・OK。







・・・ふぅ

ようやく戻すことが出来たわね。







エノクが仕事に行っている間部屋の中をランニングをして幾星霜。

私の体重もようやく元に戻った。

短いようで、長かった2週間だわ・・・

彼の料理は美味しくてパクパクおかわりしてしまうのが悩みの種ね。

これからはちょっと自重しよう。

さてと・・・

思索を終えた後、私は目の前の消しゴムに向き直った。

そのまま手を掲げ時計の時刻を確認する。







"13:14"







チッチッチ・・・







秒針が12を指し”13:15”になった瞬間、私は魔法を詠唱した。







「グロース!」







ズゥン…







消しゴムの横の長さは5cmから5.5cmに増加している。

私はしばしの間そのまま時が過ぎるのを待った。

・・・

私は今MP<8>でグロースを詠唱した。

今持てるMP全てを使った上での発動だ。

しかし、消しゴムの大きさはMP<5>で発動した時と全くと言っていい程変わっていない。

もしかしたら、さらに細かく検証すれば大きさは変化しているのかもしれないが、

少なくともミリ単位で見ても大きさに変化はなかった。

以前見た補助魔法の研究書によると1.2倍に対象を巨大化させるためには<1,000>を超える魔法効果が必要だった。

Lvが2に上がろうが今の私がひっくり返ってもその効果に辿り着くことは出来ない。

分かっていた事ではあったんだけど、実際に結果を見るまでは少しは大きさの変化を期待していた。

でも、結果はご覧の通りだ。

ただし・・・変わったものがないわけではない。







私は再度時計を確認する。







チッチッチ・・・







秒針が12を指した瞬間・・・・・時刻は"13:25"になった。

私はそれと同時に目の前の消しゴムを確認する。







"5.5cm"







まだ、消しゴムに掛かっている巨大化の効果は掛かったままだ。

そして、それからちょうど36秒過ぎた後・・・







シュン…







消しゴムは元の大きさに戻った。

・・・そう、大きさに関しては全くと言っていいほど変わっていない。

だけど、効果時間に関しては変わっていた。

時間にして、10分と36秒。

4時間前に能力を掛けた時はMP<7>で発動したのだけど、その時の効果時間は10分と24秒だった。

そして、前日に<6>で掛けた時は10分と12秒。

ここから分かることはMP”1”上げるごとに12秒間効果時間が増えているということだ。

もし、この法則が今後も同じように通用していくなら、MP<5>上がるごとにちょうど1分間効果時間が延びていくだろう。

まあ、だから何なんだという感じではあるけどね・・・

現状、全く役に立たないとまでは言わないけど、グロースもミニマムも用途はかなり限られる。

日常生活で役に立つ事と言ったら、物を持ち運ぶときに少々軽くしたりする程度かしら?

これの有効活用の道はまだまだ遠いわね・・・

私はそう考えた後、おもむろに再度巻物を広げた。













◇転生者基本情報



名前:遠坂 玲奈
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:17.5cm
体重:52.5g
BWH:8.7 5.6 9.0


Lv:2
HP:5.5
MP:0
STR:3.6
DEF:1.9
INT:1.4
VIT:2.4
CRI:0.6
DEX:2.0
AGI:5.4
LUK:1.1


プライマリースキル:グロース、ミニマム

タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション

バッドステータス:1/10縮小化(永続)

所持アイテム:転生者の巻物、ディバイドストーン

所持クレジット:0


現在位置:クレスの町 ブロンズ通り302番地 フランベルジュ家


---------------------------------------------------------------







・・・・はい。

ステータス、Lvともに変動なし。

やっぱりそう簡単には上がっていかないか・・・







Lv2まで上がるのに私は3週間の時間を要した。

これが早いか遅いかと言われると、なんとも言えない。

ただ一つ言えるのは、Lvは上がれば上がるほど必要な経験値は伸びていくということ。

次のLv3に上昇するためにはさらなる時間を要すると考えるのが妥当だろう。

しかし、一つ好材料があって、今の私にはこの”ディバイドストーン”がある・・・







私は胸元に光る銀色の石を見た。







・・・今の私じゃ得られる経験値なんて微々たるものだけど、エノクから半分の経験値が今後は流れてくる。

まだ、それがどれくらいかは未知数だけど少なくとも小人になっている私より経験値を得られる機会も多いはずだ。

少しでもLvを上げてしっかり彼をサポートできるようにしなくちゃね・・・

いずれ冒険に出るとしても今の私はまともに戦う事が出来ない。

もっぱらサポート役に徹する他ないだろう。







私は一通りステータスを見た後、今度はタレントスキル欄を確認した。

その欄には4つの項目があり、そのうちの一つに私は目を留める。







”酒乱”







先日、アナライズを掛けられた時はバレやしないかとひやひやしたけど、なんとかバレずに済んだ。

まったく・・・な~にが酒乱よ!!

これの表記のおかげでどんだけ苦労させられたのか分かっているのかしら・・・

他の3つの項目についてはハッキリどういう効果があるかまでは分からないけど、なんとなく有用そうな能力であることは分かる。

でも、”酒乱”とやらに意味や効果があるのか全く分からない。

正直取り外したいんだけどね、これ。

消しゴムで削ればいけるかしら・・・・・・無理か。







目の前の消しゴムで消そうとしたけど諦めた。

どういう原理なのか知らないけど、この巻物は外界からの干渉を一切受けないのだ。

私と共に1ヶ月ここで共に過ごしたわけだけどシミやシワ一つ付かない。

当然、内容の書き換えなんて事も出来るはずない。

摩訶不思議なアイテムね・・・







そういえば、意味が分からないものと言えばもう一つあったわね・・・







今度はステータス欄の上部の方を見る。

そこには年齢の欄の横に”(寿命:未設定)”という文字が表記されていた。

これもちょっと意味が分からないのよね・・・

いや正確には分かるんだけど、どう処理すればいいのかが分からない。

・・・

この世界へ転生する条件の一つに”寿命の任意設定”が出来るというものがあった。

つまり、自分で寿命を決めてそれを全うすれば晴れてより良い転生先を選べるという話だ。

しかし、その設定とやらがどうやるのかが分からない。








私は険しい表情を浮かべながら寿命未設定の欄を無意識に指でなぞった。

ところが、その次の瞬間・・・







ブォン・・・







!!!? 

巻物からフォログラムのようなものが空間に浮かび上がった!







うわお!びっくりしたぁ・・・・な、なにこれ!?

驚かせんじゃないわよ・・・まったく。







フォログラムにはどうやら数字の羅列が表記されているようだ。

一番上の80から110までの数字が縦に並んで記載されており、一番下には”設定”と”キャンセル”のボタンがあった。

私は恐るおそる空間に浮かび上がったそれに触れてみる・・・







ポーン・・・







反応する!?

私の指に反応するの、これ?

私が羅列されている数字の列の余白をスマホの感覚で触れると、リストは私の動きに合わせて上や下に動いた。

え・・・ま、まさかこれって・・・・







「プ・・・プルダウンメニュー~~~~~!!?」







私は衝撃の事実の発覚に思わず頭を抱えて呻いた。

目の前のフォログラムを前に思考が凍り付きそうになる。







つまりこれはそういうことなのでしょうね・・・

プルダウンメニューで自分で死ぬ年齢を設定しろっていうことなんだろう。

寿命を任意で設定できるって話だから、こんな形にしたんだろうけど・・・







私はしばし無言でリストをスクロールさせながらこの巻物について思いを巡らす。

80から110までの数字が私の目の前でくるくる回っていた。







いや・・・やっぱり、ないわこれ。

神とやらは頭がずれているとしか思えないわね。

こんなスマホ感覚で自分の死期を設定するなんて普通の人間の感覚で出来るわけない。

人の寿命を何だと思っているのかしら?

神にとっては人間の生死なんてシステマティックに処理する程度ものでしかないということか。

それともそうせざるを得ない理由でもあるのかしら?

でも、”あいつ”の言動を見ている限りその可能性は低いわね。

単純に人間を家畜や奴隷としか思ってないんじゃないの・・・?

・・・

それからも色々な考えが頭に思い浮かぶもののどれも神をディスるものばかりだった。

このシステムを使って何か生産的な答えが出てくるものかと期待したのだけど、何も浮かんでこない。

これ以上考えても無駄だろう。

やめやめ!







「ふぅ・・・」








私は思考に区切りをつけた後、”キャンセルボタン”を押し巻物を床に置いた。

それと同時に目の前のフォログラムは消え去り、いつもの無機質な紙の媒体に戻る。

私はそれを確認した後、その場から立ち上がり限界まで伸びをした。







「うーん・・・・・・よしっ!!」







さて、気を取り直して、イメトレでもしますかね。

”いつもの日課”は終わったけど、最近はまた一つやる事が増えた。

具体的には”アナライズ”のイメージトレーニングだ。

私はMP<10>に到達してないからまだこれを使う事は出来ないけど

次のレベルアップで上手くいけばこのスキルを習得できるはずだ。

その為にはイメージを完ぺきに近づけなければならない。

私はエノクに教わったことを思い出しながらイメージを固めていく。







自分の中から魔力を放出。

放出した魔力を対象のそばまで飛ばしその周囲に絡みつかせる。

そして、徐々に対象の中に魔力を潜り込ませて、中身を掘り起こしていく・・・







う~ん・・・難しいわね。

口で言うのは簡単だけど、それを実践するとなると話は別だ。

今でこそ自分の中のMPをある程度把握できるようになったけど、こんなの魔法を使う上では基本中の基本らしい。

しかし、それでも私は会得するのに数週間の時間を要している。

それも毎日何時間もイメトレをしてやっとのことだ。







これも結局長い時間を掛けて反復練習していくしか道はなさそうね・・・







でも、これを覚えたら間違いなく様々な面で役に立つ。

戦闘だけでなく、実生活においても情報や物の価値の判断が人並み以上にできるようになるだろう。

私は転生した際のペナルティとして異世界の知識をほとんど持っていない。

エノクに休みの日や空いた時間を利用して色々教えてもらっているが、それも言葉だけでは限界がある。

そんな知識面での私の弱点をこの能力は補ってくれるはずだ。

習得は大変だろうけど頑張ろう!







・・・カツンカツンカツン







私がそう決意を新たにしていると、遠くから足音が聞こえて来る。

あれ・・・誰だろう?

エノクの足音の様にも聞こえるけど、靴の音がいつもと違い固い性質の物だった。

彼は出かけるとき動きやすい運動靴を履く。

足音はいつもはこう・・・パタパタという感じなんだけど。

音はそのままこの家に近づいて来て、玄関前で止まった後鍵を開けて中に入ってきた。

ガチャ!







「ただいま!」







あれ、やっぱりエノクじゃん?

別人かと思ったわよ・・・まあ、別人ならそれはそれで怖いんだけどさ。

彼は固い音を鳴らせながら自分の部屋まで入ってくる。

私は彼にいつものように出迎えのあいさつをしようと、入り口の方を向いた。







「おかえりなさぃいい・・!!?」







私は彼の姿を見た途端、思わず裏返った声を出してしまった。

いやだってさ・・・・







「た・・・ただいま・・」







彼は私が見るなり、頭に手をやって顔を紅潮させる。

そして、はにかんだ笑顔を見せながら私に声を掛けてきた。







「ど・・・どうかな、似合うかい?」







・・・驚いた理由は彼の雰囲気がこれまでと一変していたからだ。

まず、彼が来ていた服がいつも来ていた作業着とは全く異なっていた。

上半身は白いシャツを内に着こみ、前袖が短い黒のフロックコートを羽織っている。

また、首元には蝶ネクタイを身に着け、下半身は白いズボンに丈が長い黒ブーツを履いていた。

さらに頭髪は七三分けで整えられており、その手にはシルクハットを持っている。

・・・そんな彼を見た私の最初の感想はこうだ。







だ・・・だれやねん!!!?







思わず関西弁になってしまうほど私は狼狽えてしまう。

正直、服装でここまで印象が変わるとは驚いた・・・!

今のエノクは誰が見ても上流階級の紳士のような佇まいをしている。

私の中の彼は【工作が得意で知識豊富な男の子】というイメージが強い。

工作するときは工具を操りながら黙々と作業をする職人であり、会話をするときははにかんだ笑顔を見せながら魔法の知識を披露する少年。

それが私がこれまで培った彼のイメージだった。

ところが今の彼は柔和な笑みの中に機略縦横の策を巡らせる貴公子という印象を受ける。

垢ぬけた大人の雰囲気をその身にまとい、インテリジェンスに満ちたエノクがそこにはいた。








か・・・かっこいい・・・







まあ、よく見ると服のサイズはダボダボだし、着こなしているというには程遠いんだけど

私を感動させるにはそれでも十分だった。

そんな彼のドレスアップされた姿を見て、口からもこぼれるように感想が出る。







「・・・いやぁ、よく似あっているわね」


「正直、あまりにも雰囲気が違うからびっくりしちゃったわよ・・・」







彼の問いに私はしみじみとそう答えた。

私の返事が気に入ったのか彼は、嬉しそうに言葉を返してくる。







「本当かい!?」


「うん。ホントホント。馬子にも衣装という感じ」


「ははっ、ありがとう!誉め言葉として受け取っておくよ」







私の照れ隠しも彼は華麗にスルーしてきた。

彼のスルー力を甘く見てはいけない。

話題に突っ込んでくるときはナイフの様に鋭く切り込んでくるのに

自分が突っ込みを入れられるとひら〇マントのごとく華麗にスルーするのだ。

それにしても急にどうしたのかしら・・・?







「朝とは雰囲気がまるで別人じゃない。どうしたのよその服?」







疑問が口から突いて出た。

彼は私の問いに照れ臭そうに答えた。







「実はね・・・親方から貰っちゃったんだ」


「親方って、あの工房の?」


「うん。いよいよオークションの日が近いからね。餞別だ!って言ってくれたんだよ」


「へぇ~・・・随分気前いい人ね」







私の親方の反応が気に入ったのか、エノクは嬉しそうに語気を強めて答えてきた。







「うん!親方はとても懐が広い人なんだ」


「それでいて面倒見もよくて、僕が凄いお世話になっている人なんだよ」


「また、魔法技師としても凄い人でね。持っている魔法技術と知識は国内でも1・2を争うほどさ」


「僕の目標にしている人だね」







エノクは声を弾ませながら工房の親方の事を口にする。

それだけで彼の尊敬の度合いが見て取れた。

その親方がくれたという衣服に私は再度目を向ける。







「でも、その服装という事は例のオークションは堅苦しそうね・・・」







オークションだからと言って正装する必要はないと思うけど、エノクが来ている服は完璧な礼服だった。

恐らく主催者側の要求だろう。







「ははっ・・まあそうだね。今回の主催はなんて言ったって王家と商人ギルド連盟だからね」


「会場は当然VIPご用達の意匠や料理で彩られるだろうし、そこに入るにもそれ相応の風格が求められる」


「来賓者もきっと凄い人たちが来るはずだよ。それも少し楽しみではあるんだけどね」


「なるほどね」







私は彼の言葉に頷いた。

王家が入ってくるのなら、変な格好はそりゃ出来ないわよね・・・

この世界はどうだか知らないけど、不敬罪で死刑になる国だってあるんだし

ドレスコードがフォーマルになるのは当然か。







「オークションは確か明後日だったわよね?」


「そう明後日の18時からだね」


「僕たちも明日の朝には出発して王都の宿に泊まる予定なんだ。流石に日帰りはきついからね」


「レイナも今のうちに準備をしておいてね」







そう言ってエノクは私に明日の予定を告げてきた。







そう・・・今日は7月5日。

そして、オークションが開催される日は7月7日。

オークションがある日をいよいよ明後日に迎えている。

エノクが前々から参加したがっていた神話の魔法アイテムのオークションだ。

そして、私達が探し求めているものが出品される日でもある。

エノク曰く神話の魔法アイテムがこれだけ一堂に会することは初めての事だという。

私はそれを聞いてなんとなく胸騒ぎがしてならなかった。

平穏無事で終わるといいんだけどね・・・

私は胸に流れた一筋の焦燥を振り払い、オークションへ思いを馳せた。








To Be Continued・・・