女の人がいた。その女にとって、人間とは唯一の存在だった。
話し相手で、遊び相手で、そして恋愛対象でもあった。
しかし、女はそのことに気づいていなかった。
いや、女にとって気づいてない方が良かったのかもしれない

男は逃げた。逃げて、逃げて、ふと振り向くと、そこには山のように大きい裸の女の人が座り何かを摘んでいた。男はそれが何かは見えなかった。が、男にはそれがなんなのかすぐに分かった。
女が摘んでいるもの、それは人だった。女はそれを口に運び、人を生きたまま飲み込んだ。
しかし、女は人が豆粒ほどの大きさで一人だけでは空腹は満たされなかった。そして、女は次々と男も女も子供も関係なく人を摘んでゆき、人を飲み込んでいった。時には、くちゃくちゃと噛み、味わっていたりもした。
男はその様子に全力で逃げた。幸いにもその男は食われずに済んだ。
女は空腹が満たされると、人間を追いかけるのをやめ、そのまま寝転がってしまった。

ある村に男がいた。
その男の名前はビートといい、村では兎狩りなどをして生計を立てていた。
その男が山に出て、狩りをしようとしたものの、獲物が見つからず、そのまま山の奥に進むうち、隣の村まで来てしまった。
しかし、ビートは村の様子に驚いてしまった。いや、それはもう村とは呼べなかった。家は潰され、人の姿はまるでなかった。
ビートは山のように大きい女が人を食べているという噂を聞いていた。
しかし、ビートはその大きい女を一目見たくてそのまま村に入ってしまった。そしてすぐに、ビートは大きい女の人を見つけた。
女の人は寝そべっており、ビートはその様子に少しずつ女の人に近づいていった。しかし、女は寝てはいなかった。
足音を聞き、女は上半身を起こして、顔をビートの方を向き、ビートを優しく摘み、ビートをその大きい瞳で見つめた。
ビートは悲鳴をあげ、じたばた暴れた。その様子に女はそのままビートを元のところに戻し、また寝そべった。
女はただお腹が空いていなかっただけだが、ビートは安全だと分かると、女に呼びかけた。女は逃げないのを不思議に思い、さっきと同じように上半身を起こして、ビートを摘んだ。
しかし、さっきと違い、ビートが悲鳴を上げていない姿に、さっきよりも不思議に思いながら、ジーと見つめていた。
ビートは改めて女の顔をみると、あまりの綺麗さに顔を背けてしまった。女はビートの顔を見ようとするが、ビートは女の顔をみることはできず、すぐに顔を背けてしまう。その様子に女は少し鼻で笑いながら、同じことを繰り返し続けた。
そのうち女は摘んでいるのに疲れて、うつむせになり、ビートを顔の前に降ろした。
ビートはそのままこっちを見ようとしないので、女はビートに息を吹きかけてみた。ビートにとってはすごい風でしりもちをついてしまった。
女はまた鼻で笑った。そんなやり取りをしているうちに、日が暮れるころになった。
女はお腹が空いてきて、ぐぅっとお腹の虫がなった。女は目の前にいたビートを摘んだ。
その時、ビートは食われると思い、大声で叫んだ。その様子に女は心を痛め、ビートを地面に置くとそのまま山の方へ走り去ってしまった。ビートは女の後を走ったがあまりの大きさの差にすぐに見失ってしまった。
夜になりながらも女は走っていくと、村が見えてきた。そこで女はお腹が空いているのを思い出し、逃げ惑う人を摘むものの、大声でビートと同じように叫ぶ姿を見た女は人を地面に置き、走り去ってしまった。
そして、森の深くまで行くと仰向けになり、今まで自分が食べてきた人たちの事を思い出し涙を流していた。腹の虫がなるものの女はそれを無視しそのまま涙を流しながら、寝てしまった。
ビートは女が踏んでいった跡を辿って村に着いた。ビートはその村で人が食われていないことを知り、そのまま、また女が踏んでいった跡を辿っていった。
女は夢を見ていた。人とそれより十倍ぐらい大きい人が戦っている様子を、そして、大きい人達が全て死んだとき、その死体が一箇所に集まり自分が生まれた様子を、
そこで女はのどに何かを飲み込んだことに気づいて目を覚ました。それがビートであると女はすぐに気づいた。女はビートを吐き出そうとしても、吐き出し方が分からなかった。女の脳裏に殺せ、殺せ、と聞こえてくるが、首を振っていた。
そのうちゆっくりと東の空に日が昇ってきた。このとき女はビートを殺したと思い、ずっと涙を流し続けた。ずっと、ずっと涙を流し続けた。
そのうち日が沈み始めたころ女の体に異変が起きた。女の体が光り出し、少しづつ透明になっていった。それでも女は泣き続けた。
日が完全に沈んだとき、女の姿は何処にも無かった。そして女が村に現れることももう無かった。