はるか昔、突如一人の巨人が現れた。その巨人は絶大な力を持ち、数多くの兵士を従え、この世界を一つの平和な国にしたという伝説が残っている。
しかし、国の者はそれが伝説ではないと考えている。
実際、王族の姫は十年の時を超えると、その体は十倍の大きさになることは国中の者たち全てが知っている。
これはそのなかのある姫の従者の物語。

深夜、館の応接間で、僕は衣服などの財産が入ったかばんを持ち、眼鏡をかけた黒髪の若い男の人とソファーに向かい合って座り、話し合っていた。
眼鏡の男「サイルさんは、フィア姫の従者をしたいと。」
僕「あ、はい、え、えと、前の従者が辞めたと聞きましたので、」
眼鏡の男「フィア姫の従者の役目、わかりますか。」
僕「礼儀作法などの教育係だと聞いていますが?」
眼鏡の男「そうです。フィア様のおてんばには困りましてね、それで従者となっていつも礼儀に関する教えをするということです。あなたはそれでも従者をしたいというのですか?」
僕「は、はい、ぜひお願いします。」
眼鏡の男「わかりました。とりあえず、一週間の間は姫の従者として働いてもらいます。」
僕「はい!」
眼鏡の男「それでは、まず今日のところはメイドの指示に従って部屋の方へお泊まりください。」
僕「ありがとうございます。」
眼鏡の人が立ち去ると、扉の前に立っていた亜麻色の髪でツインテールのメイドさんが僕のところまで来て、
メイド「それでは、案内します。」
そう言うと僕のかばんを持とうとし、僕は遠慮して、
僕「あ、僕が持っています。」
メイド「いえ、持たさせて頂きます」
僕「でも、悪いですし、」
メイド「仕事、ですから」
僕「いや、でも、僕もここの使用人ですから。」
僕がそう言うとメイドさんは驚いた表情をすると、
メイド「わかりました。それでは部屋まで案内します。」
メイドさんは応接間を出て行くので僕は慌ててメイドさんの後をついていった。
応接間を出て、メイドさんの後を追いながら、僕は城の中が珍しくきょろきょろと辺りを見渡していた。
そのうち僕はメイドさんとはぐれていることに気づかず、ずっと真っ直ぐに歩き続けた結果、一人で迷子になってしまった。
僕「どうしよう?」
っと、囁いたところで誰もいないし、どうしようもなかった。
とりあえず、そのままうろうろと歩き続けた。
男の声「おい、お前、ここで、何をしている。」
その言葉に振り向くと、鎧を着た黒髪の男の人がこちらを向いていた。
僕「僕、ですか?」
男「そう、おまえだ。」
僕「えっと、道に迷ってしまって。」
男「それで、なぜ城に来た。」
僕「姫様の従者をやりたいなぁと思いまして。」
男「お前が、か」
僕「はい、そうです。」
男「お前に従者は務まらないと思うが、」
僕「そ、それは僕の問題です。あなたには関係が無い。」
男「まぁ、そうだろうな。お前は何処へ行くつもりだ。」
僕「メイドさんとはぐれてしまって、」
男「メイドとはぐれる男じゃ姫の従者はできないんじゃないか?」
僕「やってみれば、わかります。」
男「悪いことは言わない。恥をかく前にやめといた方がいい。」
女の声「王子、何をしているんですか。」
僕「王子!?」
女の人の声がしたが、それよりもこの男が王子であることに驚いてしまった。
王子「ああ、セトか」
セト「そちらの方は?」
王子「あぁ、妹の従者をするそうだ。」
セト「そうですか、それで名前の方は、」
僕はその言葉に気を取り直し、同じく鎧を着た白髪の女の人の方を見て
僕「あ、サイルといいます。」
セト「私の名前はセトです。そして、こちらが王子の」
王子「アインだ。まさか王族の顔を知らないとはな、」
僕「田舎の生まれですから、田舎に足を踏み入れない人のことは知りようがありませんの で。」
アイン「へぇ、王子だと分かってもそんな態度をとるんだ。」
僕「姫様の従者であっても、あなたとは何の関係もありません。」
アイン「そう。あ、さっき妹の従者に似合わないって言ったけど、似合ってるよ。おまえは、」
僕「は、はあ。」
僕は王子の様子に生返事をしてしまった。
アイン「いやみを言ったんだが。」
僕「え?」
僕はさっきの言葉の何処にいやみがあるか考えていると、
アイン「おてんばのフィアの従者に似合っていると言ったんだ。」
僕「えーと?」
アイン「もういいよ、お前。」
僕「はあ。」
セト「サイルさんはここで何を?」
僕「部屋へ案内される途中メイドさんとはぐれてしまって。」
セト「姫の従者の部屋へ連れて行ってあげましょうか。」
アイン「その必要は無いよ。イリスに任せておけばいい。」
僕「イリス?」
アイン「お前の専属メイドだ。まだ名前を教えてもらってないのか。」
僕「従者に専属メイドなんかつくんですか?」
アイン「おまえが部屋の掃除などと一緒に従者ができると思っているのか。」
僕「できません、ね」
アイン「だから、専属のメイドが必要なんだよ。わかったか?」
僕「えぇ、わかりました。」
僕(そっか、でも僕あの人に迷惑しかかけてないような、これからうまくやっていけるのか)
僕「そういえば、アイン王子は色々と教えてくれますね。」
アイン「お前が何も知らなすぎるだけだ。」
僕「そうみたいですね。」
セト「サイルさん、イリスさんが来ましたよ。」
イリス「サイルさん探しましたよ。」
僕「あ、イリスさん。ごめんなさい。」
アイン「それじゃあ、もう遅いし、ここらで終わりにしようか。」
そういうとアイン王子はそのまま去ってしまった。
セト「それでは私もお暇させていただきます。おやすみなさい。」
僕「セトさんおやすみなさい。」
セトさんは一礼して去っていった
イリス「サイルさん今度はいなくならないでくださいよ。」
僕「あ、すいません。」
そして僕は歩いていくイリスさんの後についていった。
イリス「私の名前は王子に聞いたのですか?」
僕「あ、はい。そうです」
先ほどと違いイリスさんが話しかけてきた。
イリス「王子のこと、どうお思いですか?」
僕「色々教えてくれていい人だと思いますけど」
イリス「それは良かったです。」
僕「イリスさんは従者の専属メイドって聞いたんですけど?」
イリス「はい、そうです。」
僕「どんなことをやるんですか?」
イリス「あなたの世話ですよ。」
僕「あ、その、迷惑ばかりかけると思いますがよろしくお願いします。」
イリス「こちらこそ、よろしくお願いします。」
僕「ええっと」
イリス「サイルさんはどうしてフィア様の従者を?」
僕「なんとなくじゃだめですか?」
イリス「駄目です。それでは従者は務まりません。」
僕「困ったな。」
イリス「どうしても言いたくないなら、もう聞きません。」
僕「ごめんなさい。」
イリス「謝るようなことではないです。」
そういうとイリスさんは扉の前に立ち、
イリス「ここです。」
ギィィ
と扉を開けた。
部屋の様子は窓が一つにベッドが一つという部屋だったが、埃一つ無い綺麗な部屋だった、
イリス「手洗いの方はこの廊下の突き当りです、」
僕「はい、分かりました。」
僕はとりあえずずっと持ち続けていた荷物を部屋の中に置いた。
イリス「明日は明朝6時に起きてもらいます。おやすみなさい。」
僕「あ、待ってください。」
僕は去っていこうとするイリスさんを呼びとめ、
僕「改めて、お願いします。」
と頭を下げた。
イリス「こちらもお願いします。」
イリスさんは頭を下げるとそのまま去ってしまった。
僕はその姿を見送ると荷物の整理をすると、そのままベッドで眠りについた。
翌朝、僕は興奮してたこともありながら、日が昇る前に起きてしまった。
服を着替え、用を足せばすることが無かったので、庭に出てみることにした。
庭に出ると昨日の眼鏡をかけた人が井戸で水を汲もうとしていた。
僕「おはようございます。」
僕がそう呼びかけるとこちらを向き、
眼鏡の男「おはようございます。あなたは昨日の、」
僕「サイルです。何をしていたんですか?」
眼鏡の男「いや、なに、のどが渇いていたので水を汲んでたところですよ。あなたは何を?」
僕「早起きをしてしまって、それですることが無くてここに。」
眼鏡の男「そうでしたか。」
そういうと眼鏡をかけた人は汲んだ水を飲んだ。
僕はふと東の空を見ると明るみを帯び始めていた。
眼鏡の男「サイルさんは姫様とは一つ違いでしたね。」
僕「はい、ちょうど一つ違いですね。」
眼鏡の男「同じくらいの年齢で、いろいろ大変だと思いますがかんばってくださいね。」
僕「はい。あの、名前を聞いてもいいでしょうか?」
眼鏡の男「ああ、言ってませんでしたっけ。ルイスですよ。」
僕「あの、ひょっとしてですけど。」
ルイス「ええ、王様ということになりますね。」
僕「ご、御免なさい。」
ルイス「いえ、別にかまいませんよ。」
僕「えっと、あ、その、」
ルイス「私だって、元々は一市民ですよ。」
僕「そ、そうでしょうけど」
ルイス「そろそろ時間になりますし、一緒に行きませんか。」
僕「いえ、イリスさんが部屋に来ますので。」
ルイス「それでは館の広間まで一緒ということで。」
僕はルイス様と広間で別れ、そのまま部屋に行くと扉の前にイリスさんが立っていた。
僕「イリスさん。」
イリス「あ、サイルさん。」
僕「すいません部屋にいなくて。」
イリス「別にかまいません。いつも早いのですか?」
僕「ええ、大抵日の出と一緒に起きます。」
イリス「そうですか。それでは案内します。今度はちゃんとついて来てくださいね。」
イリスさんに案内された場所は昨日の応接間だった。昨日と同じくルイス様がいた。
ルイス「あ、サイルさん。そこに座ってください。」
僕「は、はい。」
ルイス「それでフィアの従者をしてもらいますが、」
僕「は、はい。」
ルイス「サイルさん、固くならなくても。」
僕「は、はい。」
ルイス「サイルさん、フィアの従者をするのに固いままでは駄目なんですから。」
僕「・・・はい。」
ルイス「サイルさんにはフィアの従者をしてもらいますが、あくまでも仮にですから一週間以内にフィアに何かの変化が無ければ、やめてもらいます。」
僕「はい、分かっています。でも、一生懸命がんばります。」
ルイス「ええ、よろしくお願いします。」
窓の方から光が差し込んでるのが見えた。
ルイス「それではこちらがフィアの日程になります。」
ルイスさまは三十分ごとに分けた一週間の日程が書かれてあった紙を僕に渡してくれた。
ルイス「なるべく、多くの習い事に出してくださいね。お願いします。」
僕「はい、わかりました。」
ルイス「私はそろそろお暇させていただきますね。」
そういうとルイス様は部屋を出て行った。
イリス「それでは私は朝食を準備をし、持ってまいりますので、サイルさんは部屋の方に。」
僕「わかりました。」
僕は応接間を出て自分の部屋に向かった。
その僕の部屋の前でアイン王子と会った。
アイン「ああ、来たか。」
僕「待ち伏せしてたんですか?」
アイン「じゃなかったら、こんなところで会わないよ。」
僕「それで何の用件でしょうか?」
アイン「お前は何で妹の従者をしたいんだ?」
僕「言いたくないじゃ駄目ですか?」
アイン「駄目だ。」
僕「すごく自分勝手な理由です。」
アイン「御託はいい、さっさと言え。」
僕「いやです。」
アイン「そこまで言っといて言わないのはどうかと思うが、まあいい、いずれ言ってもらうぞ。」
僕「ええ、分かってますよ。」
アイン「あともう一つ、お前いったい何歳だ。」
僕「十六歳です。」
アイン「そうか、それじゃあな。」
僕はアイン王子を見送らずに、自分の部屋へと入っていった。
僕は自分の部屋に入ると、まずさっきルイス様が渡した日程表を見た。
僕(今日は七時に起床、その後着がえとお風呂、八時に朝食、僕と姫様が会うのはこの後か、それで九時には・・・・・・)
という風に見ていたら突然扉をノックされた。
僕「はい、どうぞ。」
イリス「失礼します。朝食を持ってきました。」
僕「ありがとうございます。あれっ」
イリスさんは同じパンが入った皿を二つ用意した。
イリス「私もここでご飯を食べさせていただきます。よろしいでしょうか?」
僕「は、はあ、わかりました。」
僕はパンを一口食べてみた。パンの中にはジャムが入っていた。
僕が食べ終わる時にはすでにイリスさんは食べ終わり、皿を片付けるとコーヒーを入れてくれた。
イリス「どうぞ。」
僕「ありがとうございます。」
イリス「サイルさんはコーヒーと紅茶どちらが好きですか?」
僕「紅茶は飲んだことが無くて、」
イリス「それでは昼食に紅茶を持ってきます。」
僕「ありがとうございます。」
僕はコーヒーを飲んだ。
イリス「どうですか?」
僕「いつも飲んでるのよりおいしいです。」
イリス「それはうれしいです。」
僕「もう一杯いただけますか?」
イリス「はい。喜んで」
僕「一つ聞いていいですか?」
イリス「ええ、かまいません。」
僕「イリスさんは何でこの仕事をしようと思ったんですか?」
イリス「元々姫様の従者をしていたんですが、あんな性格にさせてしまってやめたんですよ。それで今は元従者として新しい人の助けができればいいかなと思いましてね。」
僕「そうだったんですか。」
イリス「もう十年位前の話なんですけどね。」
僕「十年前ですか!」
イリス「何か?」
僕「いえ、なんでもないです。」
イリス「???」
僕「ほんとになんでもないですよ。」
イリス「前にどこかで姫様とお会いになったのですか?」
僕「ま、まあ、そんなところです。」
イリス「あ、それで、姫様を、はあ、それは、大変ですね。」
僕「あの、勝手に終わらせないでください。」
イリス「いえいえ、それなら元従者として色々と教えられそうです、」
僕「想像してるのとは違うと思います。多分、」
イリス「隠さなくても誰にも言いませんよ。」
僕「はあぁ。」
もう何を言っても無駄だと思った僕はため息をついてしまった。
イリス「そろそろ片付けさせていただきますね。」
僕「はい。」
イリスさんはコーヒーカップなどを台に載せると台を押して部屋を出て行った。
僕はしばらくすると尿意を催しトイレへ用を足した。
僕は自分の部屋に帰ると、驚いてしまった。なぜならそこにセトさんがいたからです
僕「セ、セトさん。どうしてここに?」
セト「まあ、興味本位ですよ。姫様の従者を何でしたいのか。とか、」
僕「姫様の従者をしたい理由は言いたくありません。」
セト「そうですか。」
僕「僕からも聞いていいですか?」
セト「ええ、何でしょう?」
僕「セトさんはここで何をしているんですか?」
セト「居候ですね。」
僕「い、居候ですか。」
セト「そうですよ。」
僕「本当ですか?」
セト「本当ですよ。まあ、正確に言えば自衛団の団長をやっていると。」
僕「すごいですね。」
セト「アイン王子も自衛団の一人なんですよ。」
僕「そうなんですか?」
セト「えぇ、次期団長と噂されてますね。」
僕「セトさんを追い抜くということですか?」
セト「まあそうなりますが、あと五年くらいは団長でいるつもりですよ。」
僕「意外と負けず嫌いなんですね。」
セト「それは、こっちだって別に鍛錬を怠っているわけじゃないですから。」
僕「大変なんですね。」
セト「ええ。」
その時扉をノックする音が聞こえた。
僕「どうぞ。」
イリス「失礼します。サイルさん、ついに念願のフィア様とのご対面です。」
セト「念願?」
イリス「セトさん、いたんですか。」
セト「ええまあ、それじゃここらでお暇させていただきます。」
僕「セトさん、自衛団の仕事がんばってください。」
セト「はい、がんばります。」
僕はセトさんを廊下で見送った。
イリス「それでは、ご案内します。道を覚えておいてくださいね。」
僕「はい。」
やっぱり道を覚えるのは周りを見て風景を覚えるのが楽だと思う。でもまさか、またイリスさんとはぐれてしまうとは思わなかった。
僕はとりあえず姫様がいるところは普通より大きいはず、館の前からはそのようなものが見えなかったことを考えると、館の後ろにあるだろうと思う。というか、廊下であったイリスさん以外のメイドに聞いた。
僕はついに姫様の扉の前までやってきた。そしてついに姫様に会う時が来た。
僕は姫様の扉を開けるとそこにいたのは姫さまではなくイリスさんだった。
イリス「なぜ、また迷うのですか?」
僕「あの姫様は?」
イリス「もういません、本当は姫様がどこか行く前につれてくるつもりだったんですが。」
イリスさんがこちらに向かって睨んでくる。すごく怖い。
イリス「あなたのせいで、姫様がどこかへ行ってしまわれたじゃないですか!こうなったら何処へ行くか分からないんですよ!」
女の声「まあまあ、そんなに怒るな。」
と女の声が聞こえてきた。その女の声のするほうを見ると座ってても四階建ての建物くらいの大きさをした長い金髪の女の人がいた。その人は間違いなく姫様であった。
どうやらここは丁度姫様が椅子に座ったとき目線がくるような位置に作ってあるようだった。
フィア「ほら、イリスに対してそんなに怯えているぞ。」
僕「姫様?何でここに?」
フィア「なに、アインが面白い奴だといっていたんで待ってやったというわけだ。まあ今まで迷って遅刻した奴なぞいなかったがな。」
僕「は、はあ。」
イリス「安心しないでくださいよ。サイルさん。ふふふ。」
僕「イリスさん!ごめんなさい、ごめんなさい。」
イリス「まあ、今はいいですよ。それでは失礼いたします。」
イリスさんはそういうと僕の横を通り過ぎ、扉の向こうへ歩いていった。
フィア「イリスからも色々と聞いたぞ。」
僕「え?」
僕(まさかイリスさん、姫様と前に会ったこととかいったんじゃないよな。)
フィア「一歳ちがいとか、田舎からわざわざここまで来たとか。」
僕「そう、でしたか。あ、そういえば次の習い事と」
フィア「嫌、行きたくない。」
僕「それじゃ、姫様について色々教えてください。」
フィア「なんだ、意地でも連れて行く気は無いのか?」
僕「あったって、ついて来ないでしょうし、それに姫様のこといろいろ知りたいですよ、」
フィア「ふーん、ま、とりあえずここで話してると面倒だから行くぞ。」
そういうと姫様は立ち上がりこちらに右手を差し伸べてきた。
僕「えっと?」
フィア「何をしている?」
僕「え?」
フィア「私の足についていけると思っているのか。」
僕「あ、す、すいません、それじゃ」
僕は姫様の手を汚したくなかったので靴を脱ごうとしたら、
フィア「靴なんか脱がなくても良い、早く乗れ。」
僕「え?でも。」
フィア「めんどくさい奴だな」
僕「わ!」
姫様は僕を手で掴むと肩の上に下ろした。
フィア「ちゃんと掴まってろ。」
僕「え?うわ!」
姫様は歩き出したが、僕は肩の上から落ちてしまった。
僕「わー」
死んだと思ったとき、姫様は僕を救い上げてくれた。
フィア「ちゃんと掴まれといったはずだ。」
僕「掴まるとこなんて何処にも無いですよ。」
フィア「私の髪とかに掴まれば良いだろ。」
僕「そんなことしたら髪が痛むじゃないですか。」
フィア「ふふ、そんなこと言う馬鹿は今までいなかったぞ。」
僕「笑わないでください。」
フィア「分かったよ。それじゃこうするぞいいな。」
姫様は僕を握るとそのまま歩いていった。
・・・・・・・・・・
フィア「ここらで良いかな?」
姫様はそういうと座り、僕を地面に下ろした。そこは館から遠く離れた丘の上だった。
フィア「それで私について色々と聞きたいと言っていたな?」
僕「はい。」
フィア「どんな話がいい?」
僕「えーと・・・、何でも良いです。」
フィア「やれやれ、本当に私について色々と知りたいのか?」
僕「はい、もちろんです。」
フィア「そうだな、私は、身長は15,3メートルだ。」
僕「はい♪」
フィア「それから体重はいわないぞ。」
僕「はい♪」
フィア「嫌いな食べ物はにんじんだ。」
僕「はい♪」
フィア「苦手なものはゴキブリと毛虫だ。」
僕「はい♪」
フィア「好きな食べ物は人だ。」
僕「え!」
フィア「嘘だ、嘘。ちゃんと聞いているのか確かめたかっただけだ。」
僕「分かりました。」
フィア「本当はシチューだ。」
僕「はい♪」
フィア「好きな物は夢見草だ。」
僕「夢見草ですか。」
フィア「知っているか?」
僕「はい僕の村でたまに見ます。自分の過去を夢で見せるといわれてる花ですよね?」
フィア「そうだ。よく知っているな。」
僕「はい♪」
フィア「そっちはどうだ。」
僕「え?」
フィア「お前の身長はいくつなんだ。」
僕「僕の身長は172センチです。」
フィア「体重は?」
僕「62キロです」
フィア「好きな食べ物は?」
僕「チャーハンです。」
フィア「チャーハン?」
僕「米を野菜や肉と一緒にいためた料理ですけど、」
フィア「そうか、食べてみたいな。」
僕「屋敷に作れる人はいないんですか?」
フィア「分からない。作れるものなど聞いたこともないし、」
僕「そうですか。」
フィア「お前は作れるのか。」
僕「まあ、自分に食べさせるぐらいのものなら、」
フィア「そうか、さっきの続きだけど、嫌いな食べ物は?」
僕「無いですね。」
フィア「うらやましいな。」
僕「そうですか?」
フィア「うらやましいよ。苦手なものは?」
僕「血、とか。」
フィア「好きな物は?」
僕「風景とか。」
フィア「んー、ほかには。」
僕「姫様はなんで夢見草が好きなんですか?」
フィア「昔、好きな人と一緒に花畑を見た時、綺麗に感じたからかな。」
僕「良いですね。ロマンチックで、」
フィア「馬鹿にしてるだろ。」
僕「してません。」
フィア「本当に?」
僕「はい。」
フィア「似合わないとか、思ってるだろ。」
僕「思ってませんよ。」
フィア「おてんばの私には合わないとか思ってるだろ。」
僕「姫様はおてんばって感じしませんよ。」
フィア「そ、そうか。」
僕「姫様、照れてます?」
フィア「い、いや、照れてないぞ。照れてない。」
僕「はい♪」
フィア「なんかむかつくな。お前、」
僕「痛、指で突かないでください。」
フィア「口答えするな。」
僕「うぅ、痛い。」
・・・・・・・・・・
フィア「そろそろ昼か。」
僕「あの、昼食はどうするんですか?」
フィア「んー、このまま帰っても、出してくれないだろうな。」
僕「はあ。」
フィア「だから、お前が連れ出したことにしよう。うん、それが一番良いな。」
僕「ええ!?」
フィア「お前は私の従者なんだから。当然だろ、ほらそれじゃ行くぞ。」
僕「はあぁ。」
姫様は来た時と同じように僕を掴むと屋敷の方に歩いていった。
フィア「まあ、一食抜かしたくらい大丈夫だろ。」
僕「それより、イリスさんが怖いんですけど。」
フィア「ああ、イリスは怖いぞ。」
僕「はあぁ。」
フィア「私と歳は変わらないぐらいなのにため息ばかりつくな。」
僕「誰のせいですか?」
フィア「少なくとも私のせいじゃない。」
僕「おてんば(ぼそっ)」
フィア「ふふ、ゆるさないよ。」
僕「え、あ、ごめんなさい。」
フィア「だめ。」
姫様は僕を持っている右手をぶんぶんと振り回した
僕「やめてくださいぃぃぃ。目が回りますぅぅぅ。」
そんなこんなで屋敷に戻ってきた。
フィア「ほら、屋敷に着いたぞ。」
僕「うう、気持ち悪い」
フィア「お前が悪い。ここで吐いたら許さないからな。」
僕「うう、はい。」
姫様の部屋には多くのメイドがいて、その中にはイリスさんもいた。
メイドたち「「「フィア様どこに行ってらしたんですか!」」」
フィア「こいつに連れらてっただけだ。」
姫様はメイドたちのいる場所に僕を下ろした。
イリス「サイルさん、本当ですか?」
僕はその言葉に姫様に視線を向けると、姫様はこちらに微笑んでいた。手に握りこぶしを作って、
僕「はい、姫様の言うとおりです。ごめんなさい。」
僕がそういうとイリスさんは僕を引っ張って姫様の部屋を後にした。」
イリス「サイルさん!姫様の言うことを聞かないでください。」
僕「ご、ごめんなさい。」
イリスさんのあまりの怖さに僕は謝ることしかできなかった。
イリス「もう姫様の言うことに耳を貸さないでくださいよ。」
僕「は、はい。」
イリス「まあ、そういうわけですから。今日の昼は抜きです。」
僕「・・・はい。」
イリス「姫様の昼食が終わるまで、部屋にいてください。」
僕「・・・はい。」
僕は自分の部屋へ向かった。
自分の部屋にいたら扉をノックする音が聞こえた。
僕「はい。どうぞ。」
イリス「失礼します。」
イリスさんは昼食を持ってきた。・・・一人分の。
僕「イリスさん、どうしてここで?」
イリス「一応、紅茶を持ってきました。どうぞ。」
僕「ありがとうございます。」
僕はイリスさんの昼食を食べているところを見ながら紅茶で空腹をごまかそうとした。
イリス「紅茶は初めてですよね。お味の方は?」
イリスさんは昼食を食べ終え、皿を片付け、自分のカップに紅茶を注いでいた。
僕「おいしいです。」
イリス「それでどちらの方がいいでしょうか?」
僕「んー、イリスさんの好きなようにしてください。」
イリス「はい、分かりました。」
僕「紅茶もコーヒーも、イリスさんが入れているんですか?」
イリス「ええ、もちろんです。」
僕「両方とも、おいしいですよ。」
イリス「ほめても私の怒りは収まりませんよ。」
僕「まだ根に持っていたんですか?」
イリス「もちろんですよ。」
僕「うぅ。」
イリス「泣いても駄目です。」
僕「許してください。」
イリス「駄目です。」
僕「はあぁ。」
イリス「そろそろ時間ですかね?サイルさん、準備してくださいね。」
僕「あの、怒らないんですか。」
イリス「夜まで怒りを溜めておきます。それでは姫様のところへ行ってくださいね。」
僕「はい。」
僕は姫様の部屋に行くと姫様は昼食後の紅茶を飲んでいた。
フィア「あ、来たか。」
僕「はい。」
フィア「それじゃ行こうか?」
僕「えっと、なるべく習い事に出てほしいのですが。」
フィア「なんだ、またイリスに何か言われたのか。」
僕「はい。」
フィア「イリスが私以外に何か言うことなんて今まで無かったんだけどなぁ。」
僕「そうなんですか?」
フィア「そうなんだよねえ。」
僕「だから、なるべく。」
フィア「嫌。」
僕「ひめさまぁー」
フィア「喚くな。男だろうに、」
僕「だって、すっごく怖いんですよ、何されるか分からないじゃないですか。」
フィア「ったくもー、少しだけだぞ、少しだけ。」
僕「わあ、ありがとうございます。」
フィア「ふぅ、これじゃどっちが従者なんだか。」
姫様はやれやれといった感じだったが、ちゃんと出てくれたのに僕は喜んだ。
ほかにも習い事はあったが、姫様は先ほどの丘に行き、先ほどと同じく会話をしていた。
フィア「何をそんなににやけてるんだ。おまえは、」
きゅるるるー
僕「だってうれしいじゃないですか。」
きゅるるるー
フィア「あと、腹の虫を鳴らすな。」
きゅるるるー
僕「勝手に鳴るんですから無理ですよ。」
フィア「悪かったな。」
僕「え?」
フィア「昼食がなくなったのは私のせいだろう。悪かった。」
僕「謝ることじゃないですよ。僕は大丈夫ですから。」
きゅるるるー
フィア「そうだな、私は何も悪くないもんな。」
僕「姫様怒ってます?」
フィア「お前の腹の虫の方がずいぶんと正直だ。」
きゅるるるー
僕「あはは。でもそのうち鳴り止みますよ」
フィア「ずっと、聞こえてたら不快だ。」
僕「まあ、そうですね。」
フィア「それより何か話をしないか?」
僕「えっと、イリスさんが従者の時の話をしてください。」
フィア「私はお前の話が聞きたいんだ。」
僕「僕のですか?」
フィア「そうだな、ここに来る前は何をしてたんだ?」
僕「ここに来る前は、」
きゅるるるー
僕「故郷で牧場の手伝いをしてましたね。」
フィア「それじゃあ、何でここに来たんだ?」
僕「故郷の方で色々とありまして、こちらの方に住み込みで働こうと思ったんですが、働く場所が無かったんですが、姫様の従者がやめたと聞きましてこちらに来ました。」
フィア「色々?」
僕「・・・競馬で一山当てたんですよ。」
フィア「は?」
僕「そのお金で上京してきたんですよ。」
フィア「そうか。」
僕「それじゃ、今度はこちらの質問に答えてください。」
フィア「ああ、分かった。」
僕「イリスさんが従者の時の話をしてください。」
フィア「イリスが従者の時は恐かったんだぞ。」
僕「分かります。」
フィア「でも、すごく優しかったんだ。」
僕「それも、分かります。」
フィア「昔、私が迷子になったとき、服がぼろぼろになるまで必死で捜して来てくれて、ほかにもな、」
僕は早起きしたためか、それとも日差しが暖かいのか、眠くなってきてしまった。
フィア「してくれたり、私が泣いたときは泣き止むまで抱きしめてくれたし、ん?」
僕「すー、すー」
フィア「まったく、話をしてほしいって言ってきたのはそっちなのに、ほんとにどっちが従者なんだか。ふぁあ、私も眠くなってきたな。」
僕「すー、すー」
フィア「すー、すー」
一週間後僕は・・・
ルイス「これからも娘の従者としてよろしくお願いします。」
僕「は、はい。」
大きい女の人「娘がまた迷惑をかけると思いますがお願いします。」
僕「迷惑なんてないですよ、ミント女王。」
フィア「そうだ。迷惑をかけてるのはサイルだ。」
僕「あはは。」
アイン「だろうな。」
セト「これからもお願いします。」
僕「セトさん、アイン王子、よろしくお願いします。」
イリス「サイルさん分からないことがあったら色々と聞いてくださいね。」
僕「イリスさん、よろしくお願いします。」
フィア「サイル。」
僕「なんです、姫様。」
フィア「よろしく。」
僕「はい♪」
僕の従者のする事はまだ始まったばかりだ。

第一章〜完〜