※Vore要素は無いですが、口内の描写が出てきます。
「もう…いっぱいでち…」
オリョール海から帰還した新鋭の潜水艦娘伊58"ゴーヤ"は、その108mの体躯を滑らして牽引機材を押しつぶしながら、ドッグ内に乗り上げてきた。
水着の上に羽織っている薄桃色のセーラー服は、長い爆雷戦によるものか少し破けている。
ゴーヤの指揮を受け持つ司令官である私は、彼女の元へ駆け寄っていった。
「司令塔は無くしてしまったの…許してくだちぃ」
「替えが効くものだ、問題ない。それより早く、入渠を」
司令塔というのは、ゴーヤが跨っているあの部分である。潜望鏡や水中充電装置、電探などが搭載されており
実際の潜水艦には無くてはならない艤装である。―艦娘にはその限りでは無いが。
私はドッグの妖精たちにゴーヤの修理を命じた。損害は軽微な物である。すぐに直るだろう。
今、艦隊に潜水艦はゴーヤしかいない。私は一日でも早く新しい潜水艦を建造せねばならないとつくづく感じた。
夜半頃、私は工廠にて、新しい潜水艦娘の建造計画を立てていた。妖精たちは今の資材ならば、若干古い型であるものの、
優秀な潜水艦娘が建造出来ると言ってくれた。これで、ゴーヤの負担は少しでも減らすことが出来るだろう。
そもそも、潜水艦1隻でオリョール海の哨戒をさせるには荷が重すぎたのだ。あの娘には酷い扱いをしてしまった。
工廠から出て、薄暗い艦娘用の廊下を進む。横幅は100m程あり、高さは300mにも達する。どんな艦娘でも通り抜けられるようにと、このぐらいの大きくないといけない。
まるで小人にでもなったような気になりながら、その長い道のりを私は歩いた。
その時、後ろから五本の指が蜘蛛のように、私に掴みかかった。手中に収められた私は、遙か頭上へと持ち上げられ、その顔の前へと連れて行かれた。
「てーとくぅ…」
犯人はゴーヤだった。随分と乱暴なマネをするものだ。とうとう怒らせてしまったのだろうか。
私は言葉を選ぶようにして、恐る恐る、掴んだままじっと見続けてくるゴーヤに話しかけた。
「ゴーヤ、何だ?」
私の声は少しばかり上ずっていたろう、体も震えていたろう。そんな私の情けない姿を見ても、ゴーヤは眉一つ動かさず
口を開き、暖かな吐息を私に噴きかけた。甘い香りと、少しばかり苦瓜の香りがした。
ゴーヤの手の上で、私はじっとこの娘を見続けた。ゴーヤも私の目をその大きな目でじっと見ていた。
時はゆっくりと過ぎ、暁は永遠に来ないように感じた。
しかし、長続きはしなかった。ゴーヤはゆっくりと、甘ったるいような口調で話しかけた。
「なぜ、ゴーヤ以外の潜水艦を作ろうとしていたのかなぁ」
「お前の負担を減らすためだ」
そう返すと、ゴーヤの瞼が、少しばかり動いた。
「てーとくは、ゴーヤを捨てようとしてる」
「そうじゃない。一人だと大変だし、何よりも寂しいだろう」
「ゴーヤにはてーとくだけで十分でち」
「夜の海は怖いと言っていたじゃないか」
「捨てられる方が怖いでち」
いまいち的の得ない押し問答が続く。新しい潜水艦娘の導入がお前を助けるのだと説いても、捨てるとかよくわからない
事を言って理解してくれない。次第にゴーヤの声に苛立ちが見えてきた。手の力が次第に強まっていく。
「何言ってもわからないのなら、体で教えてあげる!」
ついに怒りが爆発したゴーヤは怒鳴り、私を口内へ押し込んだ。
薄暗い口内は、まるで底の見えぬ大海のように感じる。ゴーヤの心臓の音が、艦娘という兵器ながら生きている事を感じさせる。
手のひらに舌のざらざらとして、湿りきった表面が当たり、足にはゴーヤの指が私を口中へと追いやろうと、ぐいぐいと押し込むのを感じる。
膝ぐらいに硬い物が当たる。恐らく歯だ、ゴーヤがその気になれば私など、咀嚼され肉の塊と化し、胃の中でどろどろに溶かされてしまうのだろう。
どうやら逆らわない方がいいと思い、私はなすがまま押されていった。
全身がギリギリ口内に入ったか否か、唇がゆっくりと閉じられ、完全な暗闇が辺りを包んだ。じゅる、じゅると唾液が分泌される音が聞こえる。
私の軍服に唾液がたっぷりと染み込んでしまい、体を持ち上げようとしても唾液の重さでなかなか思うように動けない。私自身の口内にも、唾液が入り込んでくる。少しばかり、甘い味がした。
「んちゅ…てーとくと…ディープキスでち…」
ゴーヤはトロトロの目で、頬を両手につけて中に居る私を味わっていた。ころがし、口蓋に押し付けて、味わう。
私はたっぷりの唾液を飲まされながら、うごめくしか出来ようがない。
味合い終わると、今度は人差し指を差し込んできた。私はすかさず、指に両手両足で掴みかかった。
その人差し指はかき混ぜるように動かされ、私の体は口内の至る所へ押し付けられた。私は必死に―まるでクモの糸に掴みかかる罪人のように、ゴーヤの唾液でふやけた指にしがみついた。
ちゅぱ、ちゅぱと赤ん坊の口から開放されたおしゃぶりのように、ゴーヤの人差し指がすぼめられた口から開放される。しかし、そこに私の姿は居なかった。
私は舌の下に閉じ込められていた。布団を何枚にも重ねたような重さの舌がのしかかり、肺が押しつぶされそうだ。
ゴーヤは私を閉じ込めたまま、しゃべりだした
「私以外の子を、作らないと言うのなら開放してあげるでち」
言いにくような、舌っ足らずの声が辺りに響き渡る。ここまで望むのなら、致し方なかろう。
「ああ!お前の言うとおりだ、建造計画は取りやめにしよう!だから、ここから出してくれ!」
私は残る力を振り絞って、叫んだ。
時は少し経ち、私は生温かくて、柔らかい桃色の牢獄から開放された。
「実際の所、今まで乗ってきたどの潜水艦よりも過酷だったよ。ゴーヤの口の中は」
私は司令室(これまた巨大である)にて、演習のついでに訪れた他の艦隊の艦娘に話していた。
「でも、提督さんは随分と愛されおられるのですね。お羨ましい限りです」
「どうかね。あの娘は、何を考えているのかわからない所があるからな」
そう言い終わった頃、何か鋭くも、熱い視線を感じてその方を向いた。入り口の扉の前に一人の艦娘が立っていた。
桃色の髪と、薄桃色のセーラー服を着た少女は、私の方に顔を向け、目を細め、ゆっくりと口の中に人差し指を差し入れて、歯で指を弱く噛んだ。
私は何やら薄ら寒いものを感じ、君の提督が待っておられるだろうから早く帰るといいだの理由をつけて、他の提督艦娘らを帰らせた。
私はこの階級にして、部下の艦娘の虜囚になってしまったのだ。