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この物語には18歳未満の方には不適切きわまる性的表現が含まれています。
しかも、有益な内容も常識も全く含まれていないとゆー困った物語でもあります。
己の行動に責任が持てる方で、しかも駄文の連続に耐え得る精神の持ち主以外はご遠慮くださいませ。

まほうつかい と ばかでし − ばんがいへん −
るーしーちゃん がっこう へ いく!      BY まんまる
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■ 序章・遅れてきた転入生
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人口2万5千人の大都市・フォーソン・シティ。
この世界のあまたの都市の中でも屈指の大都会である。
温暖な気候に恵まれ、肥沃な農業地帯と二つの港を背景に栄えるこの商業都市。
この豊かな町を手に入れようと、多くの野心家が幾度も軍勢を差し向けてきた。
だが、その度に手痛い目に遭って敗退し、現在ではこの町に手出しする愚か者はいない。
この町を心から愛する一人の心優しき男によって平和は守られてきた。
その魔道士の名は『青き守護神』と呼ばれる大魔道士エルマー・スミス。
伝説の大魔道士クローニクル・ハミルトの一番弟子にして近代魔道最高峰の一人。
彼が守護するこの町に今日、一人の幼い少女がやってきた・・・・・

**********

今日も日が昇り、肌寒かった朝の空気も徐々に暖められていく。

「ファァ〜・・・さあて、そろそろ店開けっかな!」
中央通り商店街のパン屋の親父はあくびをしながら店の戸をガタガタと押し開けようとしていた。
二十数年間、変わらぬ街角の風景の中で変わらぬ味のパンを客に出しつづけてきた。
そしてこれからも・・・ただし今日の風景は少し違っていた。

ズシン!「ワッ!」
地面が揺れた。親父は思わず石畳に尻餅をついた。

ズシン!ズシン!
「ワワワッ!何だ、何だ?」
揺れる街路の上でよたつく親父!

「大丈夫か、親父!!っとと!」
店の2階の窓から息子が上半身を突き出し、揺れで落っこちそうになった。

「じ、地震か!?」
「違うぞ、親父・・・ホラ、あれは・・・」
息子が指差す方角を見た瞬間に親父はポカンと口を開けたまま思考停止してしまった。

*********

「しまった・・・・・今の地震で車輪が!」
ガタのきた馬車を前にメアリおばさんは途方に暮れていた。
いきなりの地震に驚いた馬が道を外れ、車輪が溝にはまってしまったのだ。
通行人数名に手伝ってもらったが、馬車に満載した野菜の重みで持ち上げられない。
一旦、荷を下ろしてまた積み直していては市場の開始時間に間に合わない。

「どうしたらええんじゃろうか・・・」
遅刻すれば、いつもの売り場を商売敵に奪われてしまう。
困りきって頭を抱えるメアリおばさんであったが・・・

「困ってるの?」
頭上から声がした。声の感じからすると小さな女の子が背後から声をかけたようだ。

「ああ、溝にはまっちゃって・・・・?!」
振り返ったメアリおばさんは目を見開いて凍りついた。
叫び声を出そうとしたが、喉が硬直して声が出ない。

「あら、ホント!大変ね・・・手伝ってあげるわ!」
その黒髪の少女は手を伸ばすと、馬ごと馬車をヒョイと掴み上げた。
ヒヒィーン!?
驚いていななく馬を無視して、まるでおもちの車を扱うようにそっと路上に馬車を置きなおす。

「あ、あ、あ・・・」
「これでだいじょーぶね!怪我はなかった?」
「あ?ああ、ないけど・・・」
「よかった!あっ、いけない!」
黒髪の少女は町一番の高層建築でもある時計台を見下ろした。
同じ時計台を老婆もつられて見上げた。

「あのぉ、おばさん!聖ブライキング学園ってどこですか?」
少女は顔を近づけて真剣な表情で尋ねた。

「あ?それなら、あそこだけど・・・」
「あの山の山頂にある小さな建物がそうなの?」
メアリの指差した先を見つめて少女はニコッと笑った。

「急がなきゃ!転入初日から遅刻しちゃう!」
ズシン!ズシン!ズシン、ズシン・・・
少女は軽やかなステップで、軽やかでない足音を響かせつつ立ち去った。
ふと、何か思い出したように立ち止まり、クルリと振り返った。

「道、教えてくれてありがと!これからは気をつけてね、おばさん!」
「あ、ああ・・・あなたも気をつけてね。」
「ハァ〜イ!」
ズシン!ズシン!ズシィン・・・
八重歯のかわいい、とびっきりの笑顔を残して少女は立ち去った。
後には呆然とするメアリおばさんと、硬い石畳にめり込んだ、馬車2台分くらいの幅はありそうな巨大な足跡を幾つも残して・・・

**********

「カイ!今日来る転入生ってアンタの知り合いなんでしょ?」
お供の女の子2名を引き連れた妙に威張りくさった態度の女の子の詰問にも、リン・カイフウ君は無反応だった。
ここはブラッキン学園の教室、態度の大きい女の子の名はウェルシー・ミニットマンという。

「カイ!答えなさいよ!」
「そーよ、そーよ!」「ウェルシー様の言葉が聞こえないの?」
ウェルシ−の付き人の二人・ステラとテスラの二人(双子なので同じ顔に同じ声)が勢いよく、まくし立てる。

「僕もまだ知らないんだ。エルマー先生から頼まれただけだしね。」
頭の後ろで束ねた黒髪を弄くりながら、やれやれ、といったなげやりな口調でカイは答えた。

「なによ、私に対してその言い方は?」
ウェルシーはあからさまに不機嫌さを表情に出した。
彼女の父親・ミニットマン氏はこの町で一番のお金持ちである。
彼女を怒らせて父親の機嫌を損ねてはこの町で生活できないので、生徒はおろか先生でさえ彼女にはおべっかを使う。
しかし、カイだけは頭を下げようとしたことはない。
カイの父・拳法家リン・コフウと彼女の父・ジェニー・ミニットマン氏は親友であり、ウェルシーとは赤ん坊の頃からの知り合いだからである。

(何にしても僕のような若輩には荷が重いなあ。)
なおも詰め寄ろうとするウェルシーを無視して、カイはボンヤリとそう思った。
そして尊敬する大魔道士・エルマーからの頼みを思い出していた。

**********

「夜分、失礼する。エルマー・スミスと言う者だが、リン・カイフウ君はご在宅かな?」
夜更けに青い長髪の一見、青年風の魔道士が、カイの両親が経営する拳法の道場にやってきた。
両親に起こされたカイは偉大な魔道士を前にコチコチに緊張していた。

「カイ君、君に頼みがあるのだ。」
「えっ、エルマー先生が僕に?」
エルマーは道場の師範代である父の友人であり、以前はカイの魔法学の家庭教師もしていた。
その時にカイは魔法の知識だけでなく、エルマーの英知と優しさ、勇気、強さを学び、彼を尊敬するようになった。

「明日、君のクラスに転入する女の子がいるのだが、君に面倒をみてもらいたいのだ。」
「どんな子なんですか?」
一瞬、エルマーの顔が困ったような複雑な表情になった。

「・・・・・実は我が敬愛する恩師・クローニクル様の娘さんなのだ。」
「クローニクル様!あの・・・伝説の大魔道士の?娘さんがいたんですか?」
少年の脳裏に偉大な魔道士の活躍の逸話が幾つも蘇った。
強大な魔力と様々な知略で勝負を逆転し、敵を打ち破る大魔道士はカイにとっては勇者以上のヒーローだった。

「そ、そんなすごい方の娘さんなんて!」
「すごい方、か?確かに・・・モノスゴイ人生を送ってらした方だが・・・」
何故かエルマーは苦笑した。苦笑の意味をカイが知るのはもう少し先の事となる。

「僕には荷が重すぎるんじゃないでしょうか・・・」
「いや、君のようなしっかりした子にしか頼めない。
その娘がおかしな事をしでかさないように注意してくれる人物が必要なのだ。」
「その子、何か問題があるのですか?」
「う、うむ。親に悪い所が似たというべきだが、我が師と同じくトラブルメーカーでな。
学校の中では私が手出ししにくいし・・・それに、何より彼女には友達が必要なのだ。」
真剣なエルマーの眼差しにカイは感動した。
(恩師に報いるためにエルマー先生は一所懸命なんだ!ならば僕も応えなくては!)

「分かりました、エルマー先生!微力を尽くします。」
「そうか!大変だと思うがよろしく頼む!」
エルマーはカイに対して深々と頭を下げた。

「そ、そんな!先生ほどの方が僕に頭を下げるなんて!
・・・・ところで、どんな女の子なんですか?」
「性格は明るくて人見知りしない。見た目は君と同じく東方系の黒髪に黒い瞳で、それから・・・・・
一言で言えばとても『発育のいい』娘さんだ。」
妙に含みのある言い方であったが、尊敬する人物からの頼み事で有頂天のカイは違和感に気づかなかった。

**********

「校長、転入生はまだ来ませんね?」
眼鏡をかけたやせっぽちの男が傍らの老人に話しかけた。

「ホォッ?何か〜言いましたかのォ〜、レッドシャッツ教頭先生?」
「ええ、ですから転入生がまだ・・・」
「ほほう、今日はそんなに天気がよろしいですか・・・」
顔の横に手を当てる仕草からすると、校長先生はかなり耳が遠いらしい。
教頭先生は大きく息を吸いこんで・・・

「ブライキングこうちょぉおせんせぇいぃ!転入生がまだこないんですぅぅぅ!」
「ホォッ?なるほどなるほど!きっと道がよくわからんのでしょう。誰か迎えにやりなさい。」
耳元で怒鳴ってようやく話が通じた。

「はい、ええっと1時限目が空いてる先生は・・・っと体育のランボーウ先生ですな、彼に・・・」
ズシン!グラグラッ。
多数のトロフィーと表彰状を飾った棚が揺れた。

「フォッフォッ・・・どうなさいましたかな、教頭先生?」
「なんでしょうな、地震では・・・!」
ズシン!グラグラグラ!
「ワワッ!」
今度は校舎全体が揺れた!

ズシン!グラグラグラ!ズシィィィン!グラグラグラ!!
「ホッホッホッ・・・貧乏ゆすりは直したほうがよろしいですぞ、教頭先生。」
「違います、校長!地震ですぅっ!い、いや、大地震です!!」
人は良さそうだが思いきり老人ボケ気味の校長であった。

「は、は、は、早く生徒たちを避難・・・」
「ホッホッ、落ちついた方がよろしいですな。私が若い頃に竜魔王と戦ったときなどは・・・」
黒檀の大型机にしがみついて、金切り声を上げる教頭に対し、校長は落ちついたものだった。
・・・ただ、ボケてるだけとも言えるが。
地震と混乱はカイのいる教室も襲った。

「きゃぁぁぁっ!地震よ!」
「せ、先生!助けて!!」
「ここ、海が近いから津波がくるよ!」
生徒たちは大パニックに陥った。この地域ではこんな大きな地震は100年以上もなかったのだ。

「み、皆さん!お、落ちついて・・・」
今年、教員になったばかりのミス・ロッテンマイヤーが教壇にしがみついて声の限りに叫ぶ!

「ウェル!机の下へ!」
怯えて声もあげられないウェルシーをカイは机の下に引っ張り込んだ。

「地震が止まるまでここでジッとしてるんだ、いいね?」
泣き出しそうな顔で必死に頷くウェルシーを見ながらカイは考えた。

(地震にしてはおかしいぞ!同じリズムで断続的に何度も繰り返す地震なんて、地鳴りもまるで足音みたいだし。)
以前、エルマーから地震のメカニズムについて教わったことがあったが、この揺れは明らかに違う。
そのとき、男子の一人が窓を指差し声を上げた!

「何か来る!ものすごくでっかい怪獣みたいなのが来る!」
「トム!こんな時に何を・・・」
窓を見たロッテンマイヤー先生も驚きのあまり地震のことさえ忘れてしまった。

「何が来るっていうんだ・・・・・?!?!」
「ねえ、カイ、何が見えるの?ねえ、カイ!」
ウェルシーの言葉も聞こえなくなるほどカイは驚いていた。

「ルンルンルン♪ランラッララン♪」
『そいつ』は楽しそうに歌を口ずさみながら、麓から通学用の山道を登ってきていた。

ズシン!ズシン!ズシン!
一歩ごとに崖を削って作った道の岩盤を崩壊させながら。
ピンク色のフードを着込んでいるところからすると、魔道士の子供か弟子なのだろう。
肩から下げたチューリップ模様のポシェットが揺れるたびに地面も揺れた。

「あ〜、もうこんな時間になってる!」
町の中心にある時計台を見下ろして、『そいつ』は慌てた。

「よぉ〜し!最後は一気に!」
『そいつ』は弾みをつけるようにしゃがみこんだ。長く伸びた黒髪が風の中に緩やかに大きな弧を描く。

「えーーーい!」
ズドォン!
爆発のような音と土煙を上げて『そいつ』は跳躍した。

「うわぁぁぁ!」
窓にへばりついていた生徒たちは逃げ出した!
『そいつ』=校舎の倍くらいはありそうな巨大な少女が黒髪をなびかせて楽しそうに笑いながら飛んできた!

ズシィィィン!
校舎どころか山全体を激震させて少女は校門の前に着地した。

「ここね!今日から私が通う・・・」
少女は一歩を踏み出して、グランドを囲む高い塀を楽々と一跨ぎした。

「新しい学校っていうのは!」
かくして少女は私立ブラッキン学園の敷地に第一歩を・・・

ドカーン!
少女の足元の地面が大爆発し、黒煙が濛々と校内に立ちこめた。

「な、なにがなんだか・・・」
教頭は目を回しながらも立ちあがった。ちなみに校長は全然変わりなくお茶をすすっている。

「ご安心を、教頭先生!」
「あっ、ランボーウ先生?」
体育教師のランボーウ先生が不敵な笑みを浮かべて、校長室のドアのところに立っていた。
昔は傭兵をやっていたと噂される、経歴不明の謎の体育教師である。

「対侵入者用地雷を敷設しておきました。不法侵入者および遅刻者は相応しい報いを受けるでしょう!」
「やりすぎです!・・・それにしてもあの怪獣みたいなのは一体・・・」
教頭先生が痛む頭を押さえながら、窓を見た。
謎の巨大少女は跡形もなく爆破され・・・

「いきなり歓迎の爆竹とはいい気分だわ!本当にいい学校みたいねー。」
風が爆煙を吹き払ったあとに、少女はニコニコしながら無傷でグランドに立っていた!
というよりも、迎撃されたとさえ思っていない。

「あ、あれ、あれ、あれは、一体・・・」
「チッ、俺の地雷原を破るとはただモンじゃねぇな!」
完全パニック状態の教頭と悔しがるランボーウ先生!
その時、校長先生が沈黙を破った。

「おおっ!そうだ、思いだしましたわい!」
「なななな何なんですか、あの化け物は?」
「これこれ、教職者が生徒を化け物呼ばわりしてはいけませんぞ、教頭先生。」
「・・・へっ?校長、今なんとおっしゃいました?私の聞き違いでしょうか、『生徒』とか・・・」
「そうです。あの子はエルマー殿から頼まれた転入生のルーシー・ハミルトちゃんです。」
教頭先生の頭脳から一瞬、全ての思考が消え去った。

「エルマー殿は『身長は100m以上、体重は秘密!』とおっしゃっておられたが。
いやー、冗談だと思っておりましたもんで、お話するのを忘れておりましたわい!
ホッホッホッ。」
照れくさそうに笑う校長の前で教頭先生は人格が崩壊していく自分自身の精神を冷静に見つめていた。
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■ 第1章・ご挨拶の攻防
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「ルーシーちゃんはそろそろ学校についた頃でしょうか?」
大魔道士・エルマーは屋敷のテラスの手すりに腰掛けて庭を見ていた。
睡眠不足の目には朝日に光る木々の青葉が眩しい。

「エルマー様、お茶が入りました。」
背後から落ちついた感じの女性の声がした。

「ああ、ありがとう。」
振り返ると、テーブルの上にミルク・ティーが湯気を立てていた。
お茶を運んできた筈の女性の気配はまったくない。
エルマーは視線を庭に戻した。

「スコーンも焼きあがっておりますわ。」
再びテーブルに目をやると皿の上には美味しそうな焼きたてのスコーン。
だが今度も近くに人影はない。
エルマーは気にした様子もなく席についた。

コトン。
「申し訳ありません、ジャムを忘れておりましたわ。」
いきなり目の前に甘い香りのイチゴジャムの瓶があらわれた。
しかしやっぱりエルマー以外の人の姿はない。

「あのですね、別に姿を隠してメイドの仕事する必要はないんですよ。銀杏さん!」
少し困ったような顔でエルマーは姿なき人物にそう言った。
とたんに、エルマーの足元に一人のメイドさんがひざまずく姿であらわれた!
憂いを秘めた黒い瞳に東方の仏像を思わせる顔立ち、艶やかな長い黒髪を後ろでまとめた姿には一部の隙もなかった。
大きすぎるバストを隠し切れなメイド服の胸元が僅かに隙間から芳醇で柔らかな果実を見せている。

「申し訳ありません!昔の仕事の癖がなかなかぬけなくて・・・」
新任メイド長の銀杏さん、元はある忍者軍団の頭領である。
ある事情で忍軍は解散し、彼女も普通の平和な仕事=エルマーの屋敷のメイドに転職した。

「まあまあ、朝の仕事も一段落したし、一緒にお茶にしましょう。」
平伏する彼女に微笑ながらエルマーはミルク・ティーをすすった。

「それより、あの娘は大丈夫かな?初めての町で初めての学校だしね。」
「ルーシー様のことなら心配ないと思いますわ、エルマー様。
なにしろ大魔道士クローニクル様の血を引く女の子なのですから・・・」
何の気なしに言った銀杏の言葉にエルマーは表情をこわばらせた。

「・・・・・だから、心配なのです。」
「・・・・・そうですわね・・・・・」
二人は続けるべき言葉を思いつかず、黙って紅茶をすするしかなかった。

エルマーは傍らの小箱の中から『頭痛薬』と書かれた小瓶を取り出した。
中の錠剤を数個、手の平に載せると口に放りこんだ。
それから紅茶で一気に喉に流し込んだ。

**********

「ええっとぉ、エルマーおじさんは確か、カイ君っていう男の子をさがしなさいって言ってたっけ?」
昨夜、ルーシーは自分のために用意された『家』に到着した。
この家はエルマーが邸宅の敷地内に所有する倉庫を改造した建物だった。
眠る前にエルマーはルーシーにこう告げた。

「ルーシ−さん、君は明日から学校に通いなさい。」
「えーっ、学校で教えてもらう必要なんて、あたしにはないよ?」
魔道や医学・化学に関する膨大な知識がルーシーの頭脳にはすでに記憶されていた。
クローンとして作り出される段階で生存に必要な基礎知識は植え付けられていたし、実の姉である魔女・マーリアの知識もコピーし、父親である大魔道士クローニクルの英知の一部も受け継ぐ彼女の知性は、並みの魔道士を遥かに凌いでいた。

「世界を征服を目指すあたしとしては『学校』なんかで潰す暇はないのよ!」
元気よく返事する巨大少女を前に、エルマーはこめかみを押さえて深い溜息をついた。

「ルーシーさん、君は世界を征服するのが夢なんだね。」
「そーよ、このあたしのありあまる美貌と英知の前に世界はひれ伏すのよ!ウフフフ・・・」
小さな(ただし巨大な?)胸をはって答えるルーシー。

「・・・世界征服というのはとっても大変な仕事だ。賢いルーシーさんは知ってるよね?」
「えっ?も、もちろん!あたしに知らないことなんてないわ!」
少し動揺する巨大少女に向かって、エルマーはすまし顔で話を続ける。

「世界征服のためには沢山しなきゃいけない仕事がある。ルーシーさんでも一人でやるのは大変だ。」
「ま、まあ、そうね。」
「大勢の人に手伝ってもらわなきゃならない仕事もあるよね。」
「そ、そんなこともあるかもね!」
「だから、学校へ行って友達たくさん作らなきゃね。聡明なルーシーさんなら分かるよね?」
「もちろん分かりますとも、当然!」
完璧に言いくるめられているのだが、ルーシーは気づいていなかった。
この辺は年季の違いというべきだろう。

「つまり、学校征服が世界征服の第一歩なのよね!」
「いえ、そういう意味ではなくて・・・」
「ホーホホホホ!待ってらっしゃい、学校を征服したら次は町内会征服、最後は世界征服よ!」
「・・・・・疲れた・・・」
大魔道士エルマー・スミス氏は強大な魔族との戦いでも経験したことのない疲労を感じた。

**********

「えーーーーーっとぉ?黒髪に黒い瞳で拳法着着ている男の子・・・いた!」
窓際で呆けている少年の姿をルーシーはすぐに見つけた。

「あなたがエルマーおじさんの言ってたカイ君ね?」
「・・・・・えっ!そ、そうだけど・・・」
謎の巨大少女から、いきなり指名されてカイは混乱した。

「ちょっとぉ、カイ!あの娘、あなたの知り合いなの?」
ウェルシーが小声で問いただす。

「いや、違う!いや?まさか、あの子がエルマー先生の言ってた・・・転校生?」
確かエルマー先生は「黒髪に黒い瞳の発育のいい女の子」と言っていた。
確かに黒髪だし、確かに黒い瞳だし、確かに発育はいい。
いや、発育がよすぎる!校舎の3倍はでかい女の子なんて?!

「よろしくね!」
目前の巨大少女は右手を差し出した。握手のつもりなのだろう。
教室に入りきらないくらいの巨大な手が窓の外の風景を覆い隠した。

「あ?ああ、こ、こちらこそ・・・」
つい、手を差し出したのが間違いであった。

ギュッ!「イッ?!」
大木のような親指と人差し指がカイの手を万力のような力で挟んだ!
ブン、ブン、ブン!
「ウワッ?ウワッ、ウワワワァッ!」
カイ君は天井ギリギリまで振り上げられ、床に激突寸前まで振り下ろされ、叫び声を上げながら何度も天井と床の間を往復した。

「学校は初めてなの!分からない事が沢山あるから教えてね、カイ君。」
「・・・・・ふ、ふぁあいぃぃ・・・・・」
何とか返事はしたものの、カイは完全に目を回していた。
ニッコリ笑うルーシー。とにかくお友達第一号ゲットである。
(世界征服に一歩近づいたわ!)

巨大転入生の登校による驚愕と混乱は職員室にも広がっていた。
「きょ、教頭先生!あれは我が校の生徒なのですか?」
「ま、まさか担任は私じゃ?」

「皆さんお静かに!まず校長先生、説明をお願いします!」
教頭に促されて校長は頷いた。

「彼女はルーシー・ハミルトさんといいましてな。
我が盟友クローニクル・ハミルト殿のご息女ですじゃ。
本日付で当ブラッキン学園に転入しました。先生方、よろしく頼みますぞ。」
さりげない説明に教師職員一同あんぐりと口を開けたまま。

「さて、どなたか暇な方、彼女を出迎えに行ってくれませんかな?」
だが誰もが呆然として、校長の言葉に反応しない。

「ふむ?仕方ないのう。ワシが出迎えて参りましょうか。」
それだけいうと校長はヒョコヒョコと職員室を出て行った。

「ちょっと!校長、私もお供します!ランボーウ先生も来てください!」
教頭とランボーウ先生が駆け出していった後も、職員室では誰も口をきけなかった。

**********

「うーむ、実に立派な体格をしておる!さすがはクローニクル殿の娘さんじゃ。」
ヨタヨタと歩きながら校長は上を見上げた。
ルーシーの顔は頭上100m以上にある。

「こ、校長、そんなに近づいては危険です!」
校舎の影から一歩も出ないで教頭は震えていた。

「何を馬鹿げたことを言っておるのですか、教頭先生?
遠くから生徒に声をかけるようでは真の教育者とはいえませんぞ!
おおい、お嬢ちゃん!君がクローニクル殿の娘さんかのう?」
「そうだけど、お爺ちゃんはどなた?」
足元で呼びかける老人にルーシーは視線を向けた。

「おお、そう言えば自己紹介がまだじゃったのう・・・・・」
校長はニッコリとわらった。その瞬間、雰囲気が一変した!

「じ、自己紹介?校長先生、それはちょっと・・・」
教頭は真っ青になった!校長先生の『自己紹介』それは生徒と職員全員の危機を意味する!
校長の曲がった腰がシャンと伸びた。
眼光も鋭く、周囲を圧倒する気迫が全身に漲っている!

「校長、校長!それだけはやめて!」
「無駄だぜ、教頭!もう止められん!全ての窓、入り口を緊急閉鎖!
生徒職員全員、床に伏せて耳をガードしろ!」
ランボーウ先生の指示で校舎の開いていた窓・扉が閉ざされた。
生徒も先生も耳を押さえて床にうずくまる!
異様なムードを気にすることなく校長は口を開いた・・・

「ワシが私立ブラッキン学園学長・ヘーハチロー・ブラッキン・エーダジーマであーーーる!!」
ビリビリビリ!凄まじい声が校舎を震わせた!
ピキッ!衝撃波に近い声の振動で窓ガラスに亀裂が走る。
ポトッ!ボトッ!空から失神した烏が墜落してきた。
「グウウッ、どうしたらあんな声が出せるんだ?」
「コレ聞くと耳鳴りが一週間とまらないんだよな。」
生徒も先生たちも耳を押さえて顔をしかめているしかできなかった。

「クゥッ・・・」
人一倍、いや1000倍タフなルーシーでさえ耳を押さえてその場にへたり込んだ。
校長が現役戦士であった時代、宣戦布告の自己紹介だけで敵を壊滅させたとさえ言われる必殺の挨拶であった。

「さあ、次はお嬢ちゃんの番じゃ、全校生徒に聞こえるように大きな声で自己紹介してください。」
「さ、流石は校長を名乗るだけはあるわね、ならば・・・」
ルーシーは立ちあがり大きく息を吸いこんだ。

「今度転入してきた、ルーシー・ハミルトでぇぇぇすぅぅぅ!将来の夢は世界せーふくぅぅぅ!!
皆さん、仲良くしてくださぁぁぁいぃぃぃぃぃぃ!!」
ズゴゴゴゴゴ!校舎が声の振動で激しく揺れた!
パリンパリンパリン!窓ガラスは一枚残らず衝撃波で粉砕された!
ベリベリベリ・・・校庭の木々が引き裂け倒れた!
生徒も職員も全員が白目をむいて泡を吹いて失神してしまった・・・
一人、校長だけが平然としていた。

「ふむ、一声でワシが鍛えた生徒職員全員を倒したか。ガハハハハ!やりおるわい。」
校長は不敵な表情を崩すことなく楽しそうに笑い始めた。

「世界征服が夢とな?よかろう、存分にチャレンジするがよい。」
校長はクルリと背を向け、気絶した教頭とランボーウ先生を軽々と担いで立ち去っていた。

「流石は校長を名乗るだけのことはあるわね。この学校を制覇するのは骨が折れそうだわ。」
ルーシーもまた不敵な笑みを浮かべた。

「それでこそ征服しがいがあるのよ!フフフ、オーッホホホホホホホ!」
ルーシーの高笑いが四方の山にこだました。

「エルマー先生・・・僕には無理です。荷が重すぎます・・・・・」
薄れ行く意識の中でカイ君は、うわごとのように何度も繰り返していた。

**********

「大丈夫ですか、皆さん?」
難聴気味の耳を押さえつつ、ロッテンマイヤー女史は教壇についた。
クラスメートたちも、なんとか立ち直って席についた。

「では、改めて紹介します。今日から皆さんのお友達になる・・・」
「ルーシー・ハミルトでぇーーーす!!」
元気のいい声で再び校舎がカタカタと揺れる。

「わ、わかりましたから、早く席に・・・」
席について下さい、と言いかかけてロッテンマイヤー女史は気がついた。
100mを越す人間が座れるような座席はこの学校にはないことに。
いや、世界中探したってそんな椅子は設計されたこともないだろう。
第一、校舎の倍も巨大な彼女がこんな小さな教室に入って来れるはずもない。
だが、少し気づくのが遅すぎた。

「はーい!」
元気のいいお返事をしながらルーシーは一歩、校舎内に踏みこんだ。

ドガシャッ!!メリメリメリ!
「おっとっとぉっ?」
ルーシーの右足が校舎の玄関にぶち込まれ、一階から屋上まで亀裂が入った。

「あっはっはっ!失敗、失敗!」
笑って誤魔化すルーシー。誤魔化しきれるわけがないのだが。

「こーゆー時はまず・・・」
ルーシーは指先で宙に輪を描いた。
すると空中に青いリング状の光が発生し、それが広がった。
ルーシーの全身が半透明な青い球体に包まれた。

「ああっ?!」
クラスメートも先生たちも息を呑んだ。
光の球体に包まれたルーシーの体がヒュン!と縮んでしまったのだ。

「空間圧縮完了!重力慣性制御魔法起動・・・っと。」
ルーシーは普通の普通の人間並みの大きさになった自分の体を満足そうにチェックした。
それから元気よく自分が破壊ばかりの玄関へと駆け込んた。
1分後、ルーシーは教壇の横に立っていた。
皆、思った。
(小さくなれるんなら、最初からやれよな・・・)

「今度、転入してきたルーシーちゃんでぇぇぇす!皆さん、よろしくぅぅぅ!」
子供らしい愛らしい笑顔でご挨拶するルーシー。
クラス全員がドキッっとした。艶やかな黒髪と黒真珠のような綺麗な瞳。
一瞬、彼女の破壊活動の数々をも忘れさせる愛らしさであった。

(普通の大きさになったら・・・すごく可愛いんだ。)
カイも思わずボーっと見とれてしまった。
しかし、ただ一人快く思わない者がいた。

(ふん!何よ、ちょっと可愛いくらいで、いい気になってんじゃないわ!)
ウェルシーは不機嫌な表情をした。
視線に気づいたルーシーはウェルシーにニコニコ笑顔を向けた。
ウェルシーはキョトンとし、すぐにプイとそっぽを向いた。

「席はあそこが空いていたわね。とりあえず、あそこに・・・」
先生は最後尾列を指差した。

「私、カイ君のお隣の日当たりのいい窓際がいいでぇーす!」
教室がざわめいた。カイはビックリした表情で固まり、ウェルシーはますます不機嫌になった。
もっとも一番驚いたのはその席に既に座っている男の子だろう。

「あのですね、ルーシーさん。空いてる席でないと・・・」
「空いてますよ?」
「えっ?」
驚くべきことにさっきまで男子が座っていた場所は空席になっていた!
そしてその男子生徒はポカンと間の抜けた顔で最後尾列に座っていた。
席を移動する暇などなかったはずなのだが・・・

「魔法?いや、でも呪文なんか唱えていなかったし・・・」
隣にいたカイにも何が起きたのか分からなかった。

「先生!あたし、もう席についていいですかぁ?」
「・・・・・」
「先生?先生!」
「あ?はい・・・で、では席に・・・」
「は〜い!カイ君、教科書見せてね!」
タタタタタッ!
机の列の間を駆け抜けるルーシー。
だが!その途中にウェルシーがいた。

(教えてあげるわ、この学校でワガママを通していいのは私だけなのよ!)
走ってくるルーシーの足元に絶妙のタイミングでウェルシーは足を差し出した。
(カイの前で無様に転んで泣けばいいわ。)

さて、ここで説明せねばなるまい。
同じ巨大娘といってもルーシーは母親でもあるルィーズとは大きな違いがある。
ルィーズの場合は本来の人間サイズから大地のエネルギーを吸収することで巨大化しているのだが、ルーシーは超巨大サイズが本来の姿で、現在の人間サイズの姿は自分の体の空間を魔法で縮小した、言わば見せかけだけの姿なのだ。
体重も依然として?万トンなのであり、本来ならば床を踏みぬいて地面にめり込むはずの質量なのだが、重力や慣性の法則に干渉することで何事もないかのようにしているのである。
しかし、現実としては山脈並みの体重には変わりない。
説明が長くなってしまったが、どういうことかと言うと・・・

ウェルシーの取った行動は、
『勢いよく入港してくる超大型タンカーを足を引っ掛けて止めようとした。』
に匹敵する。その結果は・・・

バキャッ!
「ギャッ!」
これは軽々と跳ね飛ばされ宙に舞ったウェルシーの悲鳴だ。

ゴキャッ!
「グェッ!」
天井に激突し、後頭部を強打したウェルシーの悲鳴。

バゴォン!
「アギャッ!」「グワァッ!」「キャァッ!」
天井で跳ね返って、教室後の壁を貫通して隣の教室に飛び込んだウェルシーと巻き添えをくった隣の教室の先生と生徒数名の悲鳴。
誰も何が起きたのか理解できなかった。

「どうしたのかしら?あの娘・・・」
不思議に思いつつもルーシーは着席した。
何か足にぶつかったような気がしたのだが、気のせいだろう。

「病気かなにかの発作かしら?可哀そうにねえ、カイ君。」
「・・・・そ、そうだね・・・」
修行で鍛えたカイの目にはハッキリと見えていた。
軽く足がぶつかっただけで起きたのこの惨事が。
(エルマー先生・・・やっぱり、僕には荷が重過ぎます・・・)
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■ 第2章・復讐鬼の誕生!
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「うう・・・」
「ウェルシー様!」「しっかりしてください!」
「う〜ん?ここは?」
ウェルシーは包帯を分厚く巻かれた腕で目を擦った。

「よかった、気がついたわ!」「ウェルシー様、ここは保健室です!」
ベッドに横たわるウェルシーの顔をテスラとステラが心配そうにのぞきこんでいた。

「・・・・・あいたたたた。」
起き上がろうとすると全身に激痛が走る。
おまけにギプスで固定されて吊り下げられた右足が動かない。
あの時に何が起きたのかは自分でも分からなかった。

「・・・・・とにかく、何もかも、あのチョー生意気な転校生のせいなのね!」
普通のお嬢様ならビビリ上がってしまうものだが、彼女は違った。
瞳にメラメラと闘志と怨念の炎を燃やし、ベッドの上に立ち上がリ・・・

「あいたたた・・・・・」
バタッ。やっぱり、倒れた。

「と、とにかく!あの危険人物を野放しにしてはおけないわ!
カイ、あんたもそう思うでしょ?・・・カイ?いないの?」
ウェルシーは保健室を見まわしたがカイの姿はない。
重傷の彼女を抱えて保健室まで連れてきてくれたのまでは覚えているのだが。

「おおおっ、カイ!幼馴染の私が瀕死の重傷を負ったというのに何処へ行ったの?」
「あのぉ・・・・・カイ君は・・・」
「例の転校生に・・・校内を案内してます。」
言いにくそうに答える双子。

「?????!なぁんでぇすってぇぇぇ!!」
瀕死の重傷とは思えぬ怒鳴り声が保健室に響いた。

**********

「ここは・・・?」
ルーシーはカイに連れられてヒンヤリとした一室にいた。
大型の机の上にはフラスコや試験管が並び、棚は何百もの薬瓶で一杯だ。

「ここは魔法実験室だよ。薬の調合とかの実習をやるんだ。」
カイは努めて平静を保っていた。
転校生の案内役は本来なら級長のウェルシーがやる筈だったのだが・・・
ちなみに副級長は急病とやらで早退した。(『逃げた』とも言う。)
それで結局、案内役はカイに押し付けられたのである。

保健室で手当てをしているウェルシーの事は気になるのだが心配はないはずだ。
一般生徒には知られていないが、この学校には大魔道士エルマーが設置した魔除けと防御結界が多数、隠されている。
校内にいる限り、危険な事故や危険なモンスターの侵入はありえないし、事故があっても再起不能な怪我を受けることはない。
(もっとも先ほどのウェルシーの『事故』はその限度を超える寸前だったが。)
保健室の設備も高名な魔法医(確かエルマーの後輩でドクトル・ガイストという方)のアドバイスを受けた最新のもので、そこいらの病院よりも進んでいる。

「我が校では幼年組の初級魔道士養成コースもあるんだ。」
「ふーーーん・・・ところでさぁ、カイ君?」
「えっ、えっ?ぼ、僕が、な、何か・・・」
「どうして私と目線合わさないようにしてるの?」
「そ、それは、その・・・」
恐いからです、とはさすがに言えない。
どもりながらうつむいて顔をそむけようとしたが。

「バァッ!」
「わっ?!」
いきなりルーシーが下から覗きこんだのだ。
夜空を宝石にしたような黒い瞳に、人懐っこいあどけない笑顔。

「そ、その・・・」
「ウフフフ、カイ君って、内気なのね。」
「いや、そうじゃなくて・・・」
可愛い顔にアップで見つめられた瞬間、カイ君はつい赤くなった。
間近で見るとマジで可愛い!

「カイ君も私と同じで黒髪に黒い瞳なんだね。」
ルーシーの手がカイの髪に触れる。
頬に当たるやわらかな指の感触にカイはドギマギした。

「う、うん。両親とも東方のチュンカ国出身なんだ。君も東方生まれなの?」
「パパがホウライ国生まれだそうよ。」
「パパって・・・大魔道士クローニクル様が?」
「うん。・・・・・カイ君、ちょっとパパに似てるわ。」
ルーシーは更に顔を近づけてきた。唇から洩れる吐息は甘い香りがした。
(うわぁ、いい匂い・・・何かの花の香?)

「ハッ!」
ボゥっとしていたカイは慌てて後に下がった。美しい黒い瞳に吸いこまれそうな気がした。

「どうかしたの?」
「い、いや別になんでも・・・」
無邪気な問いに取り乱した返答。
子供らしいほのかな恋心と言うべき・・・なのだろうが。

「ふーーーん?」
(カイ君てちょっとパパ似だし、結構好みのタイプだわ。)
ルーシーの口元に子供らしからぬ、ちょっと危険な微笑が浮かんだ。

「どうしたの、カイ君?」
「???いや、ちょっと悪寒が・・・」
「まあ?大丈夫。」
素早くすりよって抱きつくルーシー。カイの肘がルーシーの小さな胸に触れる。
思わぬ柔らかな感触にカイはビクッとして慌てて離れた。

「へ、平気だよ!じゃあ、次はグランドのほうを・・・」
二人は人気のない実験室から出た・・・

「あっ、いたいた!例の転校生!」
「カイの奴、腕なんか組んじゃって。」
ウェルシーの取り巻きの双子、ステラとテスラも後を追った。

「ちょぉーーっとお待ちなさい、そこの転・・・」
校舎から出たところで双子は声をかけようとした。

**********

校舎を出たところでルーシーは軽く深呼吸して身構えた。

「あっ!カイ君、少し離れて。」
「えっ、何が?」
「近すぎると危ないから。」
「?!」
首を傾げならカイは数メートル離れた。

「このくらいでいいかい?」
「んっとぉ、その倍・・・三倍くらいならだいじょーぶかな。」
意味が分からぬままカイはグランドの端まで行った。

「じゃあ、このくらい・・・」
「オーケー!縮小モード解除!」
ズバン!「ウワァッ!?」
突風がカイを吹き飛ばした!

「イテテテ、今度は何が・・・ヒッ?!」
塀にぶっつけて痛む頭を押さえつつ立ち上がったカイの目前に・・・
彼の背丈の3倍以上の高さの、巨大な靴・・・
その上には岬の灯台より太く、高い2本の足・・・
さらに上にはグランドを覆い尽くすかのようにフードと巨大なスカート・・・
その内側には白地に熊さんマークの・・・

「大丈夫、カイ君?」
「・・・」
「カイ君!どこ見てんの!?」
「うわっ!?い、いや、その・・・別に何も・・・」
だが、真っ赤になった顔を見ればスカ−トの中を凝視していたのは明白だ!

「・・・・・エッチ。」
「ち、違うよ!たまたま見えただけで覗くつもりは!」
「カイ君って、そーゆー男の子だったんだ?」
怒ったような不機嫌な表情でルーシ−はプイとそっぽを向いた、少し顔を赤らめて。
カイはルーシーを見上げて慌てて弁解しはじめた。

「誤解だよ!たまたま見えちゃっただけで・・・あっ。」
再び、少年の視界が巨大熊さんマークに占領される!

「だから覗かないで!」
「わっ、ご、ご、ごごご、ごめん!」
カイは赤面しまくって後ろを向いた。

「いいわ、許してあげる。」
「えっ、ホントに?」
「でも、これからは気をつけてネ。」
「うん・・・」
他愛無い会話の影でルーシーは微笑んだ。
(フッフッフッ・・・成功、成功!これでカイ君はバッチリ意識するようになったわ。)
・・・・・小悪魔の微笑みだった。

「じゃあっと・・・・・」
「わっ?」
大きな手がカイを摘み上げ手のひらに乗せた。

「うわっ・・・・すごく高いや!」
ルーシーの手の平は校舎よりも高く、学校全体も街も一望できた。

「高いトコ怖くない?」
「怖い?いや、とっても面白いよ!」
自分の手の中で嬉しそうにはしゃぐカイを見るとルーシーも少し嬉しくなった。

「じゃあ、案内を続けるね・・・どうかしたの、ルーシー?」
「ん?誰かに呼び止められたような気がしたんだけど。」
足元には誰もいないし、校舎の入り口にも人影はない。

「気のせいじゃないのかい?」
「そうね、きっと気のせいね。」
ズシン、ズシィン。
地響きを轟かせつつルーシーは歩み去った。

**********

「う・ううっ・・・」
「テ、テスラ、し、しっかりして・・・」
額から流血しながら校舎の階段を這い上がるテスラとステラ。
二人とも入り口のところでルーシーを呼び止めようとした時に何かに吹き飛ばされた。
それはルーシーが巨大モードにチェンジした時に生ずる衝撃波だった。
紙片のように軽々と吹き飛ばされ、校舎の半分を空中飛行で横切って、階段から地下の物置に転落したのである。
10数分後、二人は保健室にいた。ウェルシーと枕を並べて。

「も、申し訳ありません、ウェルシー様・・・」
「私たちの手には負えません・・・」
包帯でグルグル巻きにされた二人は泣きながらウェルシーに謝った。

「・・・・・お、おのれ!超ウルトラ生意気転校生めぇぇぇ!
私ばかりか、ステラとテスラまでこんな目に会わせるとは!
もう許さないわ・・・・・」
ウェルシ−の指先に力がこもり、ギプスにピシッと亀裂が入った。
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■ 第3章・ランチタイム戦線
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キィン、コォ〜ン、カァ〜ン、コォ〜ン・・・
鐘の音とともに午前中の授業は終わり昼休みとなった。
生徒も教師たちも、ある者は教室で、ある者はグランドの木陰でランチボックスを開け、楽しく雑談を始めた。

「あそこが空いてるよ、カイ君。」
ルーシーはグランドの真中を指差した。

「日差しが強すぎるんじゃないかな?日陰にしたほうがいいよ。」
ルーシーの手のひらの上でカイが首を振った。

「へーき、へーき!」
ズズン・・・・・軽い地響きを起こしてルーシーはグランドの真中に腰を下ろした。
それから自分の影の中にカイを下ろした。

「ホラ、カイ君は日陰になったでしょ。」
「そ、そうだけど・・・」
広いグランドの半分はルーシーの日陰になってしまった。
これが街中だったら日照権問題を起こしそうだ。

「でもこれじゃハミルトさんが・・・」
「やだぁ、『ハミルトさん』なんて。『ルーシー』って呼んでよ。」
「そう?・・・でもこれじゃルーシーちゃんが日射病になっちゃうよ。」
確かに今日はよく晴れていて、日差しは強かった。
ルーシーが巨大なままで日射病でぶっ倒れたら、運んでいくのは不可能だろう。
第一、ちっぽけな保健室に彼女の巨体は収まらない。

「この方が私には都合いいのよ、太陽が私の力の源だから。」
照りつける太陽を見上げてルーシーはそう言った。

「太陽が君の力の源?どういうこと?」
カイは首を捻った。

「んーっとね、私って体が他の人より大きめでしょ?」
(大きめ・・・ねぇ?)
「食べ物だけでも生命の維持に支障はないけど、体を小さくする魔法や空間を操作する術ってすごく魔力を消耗するの。
そこで不足分の魔力エネルギーを太陽エネルギーで補っているのよ。」
「ふぅん・・・、大変なんだね。」
体が巨大な分、苦労も普通の人間より大きいというのがカイにも分かった。

「だからね、ホラ。」
ドサッ!
カイは腰を抜かしそうになった!幅20m高さ15m以上の立方体が眼前に落下してきたのだ。

「・・・・・ラ、ランチボックス?これが!!」
「ねっ!意外と小食でしょ?」
「そうだね、思ったよりは・・・ね。」
カイはニコッと笑うルーシーと、恐らくは数百人分の食料が詰め込まれているであろうランチボックスとを見比べた。

「さっ、それじゃ一緒に食べましょ・・・」
ルーシーがランチボックスの蓋を開けようとした時だった。

「オホホホ、まあまあ、仲のおよろしいこと。私もご一緒させて頂けないかしら。」
校舎の影から高笑いとともに姿をあらわしたのは・・・

「ウェルシー!?怪我はもういいのかい?」
カイも驚いた事に、保健室で絶対安静で寝ている筈のウェルシーであった。

「オホホホホホ・・・カイったらご冗談を、たかだか転んだだけですわ。」
「で、でも・・・」
カイの目に映ったウェルシー嬢の姿は!
血の気の失せた青白い顔に包帯を巻きつけ、足にはギプス、片腕を三角巾で吊り下げ、点滴持参で松葉杖をつきながらの登場であった。
ちょっぴり鬼気迫るものがあるような気もする。

「転入生と親睦を深めるのも、私のように生徒を代表する者の勤めですもの。
おろそかにはできませんわ。オーホホホホホ!」
「あら、転入早々こんなにもお気遣い頂けるなんて私、とっても光栄ですわ。オーホホホ!」
負けじとルーシーも校舎がグラグラとゆれるほどの高笑い。
重なりあう大音量の高笑いの不協和音に、カイは思わず耳を押さえた。

「お気になさることありませんわ、オーホッホッホッホッホッ・ホ・ホ・ホ・・・イタタタ・・・」
高笑いし過ぎて傷に響いたらしい。ウェルシーはうずくまって顔をしかめた。

「わかったよ、分かったから・・・あまり無理しないでね。」
(あああ、苦労の種が増えてしまった・・・)
カイは少し悲しくなってきた。そして、恐怖のランチタイムが始まった・・・

「あら、カイ!ご飯粒ついてるわよ。」
「あ?いけね・・・」
ほっぺをウェルシーに指差されてカイは慌てた。

「カイったら子供なんだから。ほら取ったげるからジッとしてて・・・」
「じ、自分で取れるよ。赤ちゃんじゃないんだから!」
クスクス笑うウェルシーにムキになるカイ。

「ほーんと、カイって子供の頃からあわてんぼなんだから・・・貴方もそう思うでしょ、ルーシーさん?」
ウェルシーは言葉こそ上品だが、挑発するような視線をルーシーに向けた。

「ええ、そうみたいね。」
ルーシーも対抗して上品な笑顔を作った.
(なんか、ムカツクわね、このウェルシーとかいう娘!)
ルーシーとウェルシーの間の空気が重くなった。

「カイって赤ん坊の頃から慌て者で、よくミルクでむせてたんですのよ。」
「そんなこと今、言わなくてもいいだろ!」
真っ赤な顔で抗議するカイ。

「まあ、そうでしたの。へーぇー・・・」
(いかにも『カイと私は幼馴染です!』ってとこ強調してるみたい。感じ悪ーい!)
ルーシーとウェルシーの間で見えない火花がパチパチと散った。

「ね、ねえ?ルーシーちゃんのお父さんって有名な魔法使いなんでしょ?」
危険な空気を感じたカイは話を変えようとした。

「うん!世界一の魔法使いなんだよ!」
嬉しそうに答えるルーシー。

「まあそれでは今、何処でどんな仕事をなさっているの?」
面白くもなさそうにウェルシーは聞いてきた。

「・・・いい仕事が見つからなくて流浪してるの。」
気まずい沈黙が支配した。場の空気が一気に重苦しくなった。

断っておくが、クローニクルが特定の国に仕官しないのは才能がないためではない。
魔王を倒した勇者のパーティの一員として有名すぎるためなのだ。
彼が特定の国の味方についたというだけで、軍事バランスが崩れる危険がある。
それゆえ、傭兵のような仕事をしながら旅を続けているわけなのだ。
・・・もっとも、性格の悪さと女癖の悪さが災いしていることも否定できないが。

「ね、ねえ、ルーシーちゃんのママってどんな人なの?」
重苦しい空気を何とかしようとカイは質問を変えた。

「ルィーズ・エミリアって名前でね、パパの弟子の一人なんだよ!
きれいな金髪でとっても優しいんだよ。(頭あんましよくないけど・・・)」
上機嫌で答えるルーシー。

「あら?パパとママの苗字が違うの?」
ウェルシーの一言で場の空気がよりさらに重くなった。

「・・・・・事情があってね、パパとママ、正式には結婚してないの。」
ルーシーは顔をそむけ小さな声でそう言った。

カイは思った。(しまった!僕の軽はずみな質問でルーシーちゃんを傷つけてしまった!)
ウェルシーは思った。(おのれ!不幸な身の上話でカイの心をつかむ気ね!)
ルーシーは思った。(フッフッフッ・・・私の勝利ィィィッ!)

「ねえ、カイ?」
「あ?何、ウェルシー?」
「貴方のお弁当の卵焼きと私のローストビーフ取替えっこしてくれない?」
「いいよ。」
カイは卵焼きを一個、ウェルシーのスプーンにのせた。

「モグモグ・・・相変わらずおいしいですわ、カイのお母様の手作り卵焼きは・・・
それではお返しを、はい、ア−ンして・・・」
「い、いいよ。自分で食べられるよ!」
「遠慮しないで、私と貴方の仲じゃない、ホラ、アーーーン。」
上品かつ余裕の笑みを浮かべつつウェルシーは、上目遣いにル−シーを見上げた。
ルーシーのこめかみがヒクッと動いた。

「カイ君!私とも取りかえっこしよ!」
「わっ!」「キャッ!?何すんのよ、いきなり!」
いきなりシャベルより大きなスプーンを突きつけられてカイとウェルシーは仰天した。

「じゃ、じゃあ・・・はい。」
カイは卵焼きを一個、スプーンの上に置いた。
人間が乗れそうなくらいの巨大銀色スプーンの上のちっちゃな卵焼きが数十メートル持ち上げられ、ルーシーの口の中に放り込まれた。

「モグモグモグ・・・ああ、おいしかったわ。カイ君のママってホントにお料理が上手なんおね。」
ルーシーの笑顔を見上げつつ、カイは思った。
(あれっぽちで味が分かるんだろーか?)

「はい、お返しね!」
ドスン!
「ヒッ!?」
カイの弁当箱の上に巨大な塊が落下してきた!
何かの揚げ物ようだが、カイは自分の体の数倍大きな肉塊を前に唖然とした。

「な、な、な・・・何よ、何なのよ、それは?!」
ウェルシーの質問にルーシーは笑顔で答える。

「これ?牛の丸ごと唐揚げよ。」
「・・・・・」
カイの弁当箱は牛の丸ごと唐揚げの下敷きとなりペシャンコになってしまった。
(これを・・・これを食べきれというのか?でも残したりしたら失礼だし・・・)
カイは目の前が真っ暗になっていくような気がした。
そんなカイとルーシーを見て、ウェルシーは怒りの炎を燃やした。

(おのれ、生意気特大サイズ転入生!質より量で気を引こうというのね!ならば、最終手段!)
「ふう、お喋りしたら喉が渇いてしまいましたわ。」
ウェルシーは持参したポットから紅茶をカップ注いだ。

(ふふふ・・・紅茶に口をつけるのが合図よ。ステラ、テスラ、遠慮なくやりなさい!)

**********

グランドの片隅の植木の影に双子は隠れていた。

「合図よ、テスラ。矢を頂戴。」
弓を構えたステラが手を差し出した。

「でもぉ、やりすぎじゃあないかしら。転入生のお尻に矢を射掛けるなんて。」
渋々ながら、矢を渡すテスラ。

「ウェルシー様の言いつけは絶対よ!ウェルシー様を怒らせたルーシーの方が悪いのよ。」
「でも、後でばれたりしたら・・私たちが・・・」
ステラほど大胆になれないテスラ。

「心配ないわ、アリバイ工作はばっちりしてあるしね。
それに、あんなにでっかいんだから、こんな矢くらいじゃ蜂に刺されたようなものよ。」
「そ、そうね。そうよね。」
テスラは少し安心したようだ。

「それでは・・・発射!」
シュパアッ!
ステラは弓を引き絞り・・・矢を放った!

**********

「う、うっぷ・・・」
「大丈夫?」
「えっ、な、何がですの?・・・うっぷ・・・」
心配そうに聞くルーシーにウェルシーは虚勢を張った。

「それで紅茶6杯目だよ?」
「ほほほほほほほほ!我が家の紅茶は世界一の高級品ですもの。10杯や20杯は頂けますわ。」
余裕のない笑顔を浮かべながらウェルシーは7杯目を口に運んだ。

「テスラ・・・もう一本ちょうだい。」
「もう、やめようよぉ。」
シュパッ!
ステラは黙って、7本目の矢をつがえ、放った。

矢は狙いを外すことなく、グランドを突っ切って飛んでいき・・・
まるで壁のように広大なルーシーのお尻に背後から命中!
そして・・・矢はポトリと地面に落ちた。
貫けないのだ、分厚いスカートの布地を。

「紅茶も飲みすぎはよくないと思うよ。」
ル−シーは未だに狙撃を受けていることに気づいてもいないようだった。

「ほほほ、そうでもありませんわ。我が家の紅茶は飲めば飲むほど健康によろしいんですのよ!」
もう後には引けず、ウェルシーは8杯目を注いだ。

「仕方ないわ、今度は服に覆われていない首筋を狙うわ!」
「ええっ、ステラ!それはやりすぎよ!」
「けど、このままじゃ私たちがウェルシー様に叱られるのよ!」
ステラはテスラが抱えた矢を強引にひったくった。

「これで・・・最後よ!」
最後の矢を斜め上に向け、ステラは弦から指を離した。同時に!!

バコッ!
「ギャッ!」「ヒィィッ!」
身を潜めていた植木が爆発したように粉々に砕け散った!

ガコン!
背後の石塀に何かが突き刺さった!
・・・・・長さ5メートルの巨大なフォークだった。

ズシン!ズシン!
地を震わせてルーシーが腰を抜かして座り込んだ双子の方へ歩いてくる。
圧倒的威圧感でルーシーは二人を見下ろした。

「あ〜っと、ステラちゃんにテスラちゃんだっけ?怪しい人影とか見なかった?」
二人とも怯えながらも、必死で首を横に振った。

「ん〜?変な気配がしたような気がしたんだけどな?思い違いだったみたい。」
ズシン、ズシン・・・
戻っていくルーシーの後姿を半泣き顔でステラとテスラは見送った。

「あれ?ウェルシーちゃん、それ、何?」
「何のコトかしら?」
「その・・・貴方の脳天に突き刺さっているヤツよ。」
ルーシーの首筋めがけてステラが放った矢は力及ばず、失速してウェルシーの頭上に落下したようだ。
幸いにも純金製の髪飾りに当たったせいで頭蓋骨貫通は免れたようだ。

「こ、これは・・・アクセサリーですわぁ!」
「矢が刺さってるみたいにしか見えないんだけど。」
「ホホホホホ!上流階級のアクセサリーは一般市民の方にはそう見えるかもしれませんわねぇぇぇ!」
「血も出てるし・・・」
「か、髪を少し染めていたんですのよ!お気づきになられていなかったようですわね。」
流血しながら高笑いを続けるウェルシーに全校生徒の視線が集まった。

「ご馳走様でした。では、ごきげんよう・・・」
ふらつく足取りでウェルシーは去っていった。
ポカンとするルーシーと食べ過ぎでぶっ倒れているカイを残して。こうして昼休みは終わった。

**********

「おや、カイ君とウェルシーさんはどうしました?」
授業の前に教壇に立った教師はルーシーに聞いた。

「カイ君はお腹を壊して、ウェルシーさんは気分が悪いということで保健室で休んでます。」
答えてからルーシーは小さなため息をついた。

(カイ君って以外と小食だったのね。悪いことしちゃったな。)
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■ 第4章・荒廃する教育現場
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「う、う、う・・・おのれ、許すまじ、特大サイズ転入生!私ばかりかカイまで・・・」
保健室のベッドの上でウェルシーは苦しそうにうめいた。
仕切のカーテンの向こうにはカイも横たわっている。

「僕のことは気にしなくていいよ。少し休めば・・・ウッ・・・」
苦しげなカイの声がウェルシーの怒りに油を注いだ。

「パーカー?パーカー!!すぐにこちらへ来てちょうだい!」
保険医がカイを介抱している間にウェルシーは虚空に向かって誰かを呼んだ。
同時に保健室のドアが音もなく開き、細身のスーツに身を包んだ白髭頭の執事が入ってきた。
どう考えても保健室の外で待機していたとしか思えないタイミングであった。

「お呼びでございますか、お嬢様。」
初老の執事はウェルシーに向かって丁寧に一礼した。

「パーカー、分かっているわね。」
「はい、お嬢様。すでに手は打ってございます。例の転入生は今ごろは・・・」
パーカーはうやうやしく答えた。その時、カーテンの仕切りを開けてカイが首を出してきた。

「ちょっと待って!『手は打ってある』ってどういうこと?」
血相を変えてウェルシーに詰め寄るカイ。

「あ・・・えっと・・・カイには関係ないわよ!」
シラを切ろうとするウェルシー。

「いえ、あながちカイ様と無関係とは言えませんぞ。
例の転入生を裏山に呼び出すのにカイ様のお名前を拝借いたしましたので。」
あっさり執事のパーカーがバラしてしまった・・・

「僕の名前で呼び出したって?ルーシーちゃんに何をするつもりなんだ!?」
「う・・・あ・・・その・・・」
カイに睨まれてウェルシーは泣き出しそうになった。

「ちょっと・・・懲らしめてやるだけよ・・・高等部の生徒に頼んで・・・カイ?」
バタン!カイは保健室を飛び出した。

「うっぷ・・・」
痛むお腹に気合を込めて拳法の試合開始のように身構える。

「ムン!」
気合ひとつで全身に『気』を漲らせる。

「やめるんだ、カイ君!君はまだ寝ていなくては・・・」
ダダダダダ!保険医の制止を振り切って、そのまま廊下を全力疾走で駆け出す。

「カイ!廊下を走っちゃ罰として掃除当番3日間に・・・」
背後からのウェルシーの声はもう届かなかった。

**********

「ねえ、お姉さん?カイ君が呼んでるってホントですかぁ?」
山道を歩きながらルーシーは傍らの女生徒に問い掛けた。
現在ルーシーは縮小モ−ドで並みの子供と変わらぬ背丈である。
問われた女生徒は答えない。

「ホントにカイ君ここにいるんですかぁ?」
女生徒は黙ったままだ。
授業中に『カイ君が呼んでいる』と連絡を受けて、この高等部の女生徒に道案内されて校舎の裏の山へとやってきたのだ.

やがて人の気配のない鬱蒼とした森を抜けて広い野原に出た。
女生徒はクルリと振り向き、ニッと歯を見せて笑った。

「さあ、着いたわよ。可愛いお馬鹿さん。」
同時にルーシーを取り囲むように4人の無表情な男女が木陰から姿をあらわした。
男2名、女2名、全員高等部の生徒だ。

「えっ?カイ君の所へ案内するって・・・」
「残念だけどネ。う・そ・な・の・よ!」
ルーシーを囲む5人全員がクックックッと含み笑いを始めた。

「見るがいいわ、私たちの真の姿を!」
女生徒は自分の制服の上着に手をかけ、投げ捨てた!
彼女の姿は一瞬で黒のフードに黒マント、魔女の帽子に古びた杖を携えた魔道士へと変貌した!
彼女だけではない、4人の男女も黒一色で統一されたフードに杖という伝統的魔道士装束へと姿を変えていた。

「『雷鳴のライデン!』見参!」
「『さすらい風のジョニー』見参!」
「『裏世界の仕置人』ティア見参!」
「『返り血染めの魔女』メアリー見参!」
4人が次々と名乗りを上げ、最後に一呼吸おいて案内してきた女生徒が名乗った。

「我こそは暗黒魔術同好会会長・『暗黒魔女ジュティーナ』!」
「ねえ、制服の下にフードとマントと帽子と杖を隠し持ってたっていうの無理あると思うんだけど。」
ルーシーの当然と言えば当然のツッコミにジュティーナは言葉を詰まらせた。

「それは・・・お約束なのよ!尋ねてはいけないことなのよ!」
「ふ〜ん?」
ルーシーはあまり納得していないようだ。

「フッ・・・そんなことより自分の身を心配するがよいわ!」
大げさなな身振りで自称暗黒魔女・ジュティーナは杖をルーシーに突きつけた。

「私の身の心配?」
意味が分からずにキョトンとするルーシーにジュティーナは言葉を続ける。

「ある高貴なお方の命令でね、貴方に少々手痛い目に遭っていただくわ!」
ジュティーナのその言葉を聞いた瞬間、ルーシーはその場にうずくまった。

「こ、これは・・・噂に聞く『いじめ』なの?」
「まあ、そう思っていただいていいかしらね。」
残酷さを滲ませた余裕の笑みを浮かべるジュティーナ。

「ま、まさか、何故私がこんな目に?」
「フフフフフ・・・恐怖に怯えているようね。」
命令では『多少痛い目に遭わせても構わない。』とのことだったが、少し脅しをかけるだけでいいかもしれない、そんな考えがジュティーナの心をかすめた。

「くっ・・・くくっ・・・くっくっくっくっ・・・」
「・・・って、コイツ笑ってる?」
その場にいる全員が驚いたことにルーシーは忍び笑いを洩らしていた。

「そう・・・そうなのね、これが巷で評判の『いじめ』なのね。」
「あ、あの・・・?」
ジュティーナは思った、何か様子が変だ、と・・・

「薄幸の美少女にお約束の『校内暴力』『陰険ないじめ』なのね!」
「い、いえ・・・そうじゃなくて・・・」
ジュティーナはまた思った、この少女はどこか変だ。

「あああ、私って不幸な運命に翻弄される薄幸のヒロインとして認められたのね!」
「・・・・・ついていけないわ、こんな変なガキには。」
ジュティーナは、一見平凡なこの少女に関わるべきではないような気がした。
だが既に手遅れだとは、この時はまだ気がついていなかった。

「ええい、ここまで来たら余計なことは考えない!総員、魔力封印結界展開!」
ルーシーを取り囲む黒服の男女4名がジュティーナの一声で水晶球を差し出した。

パアァァァッ・・・
「何?この光、眩しい・・・」
水晶球から放たれた光に包まれたルーシーはあまりの眩しさに目を開けることもできなくなった。

「ホホホホホ・・・この水晶球の光は貴方の魔力を封じこめる力があるのよ!」
「ええっ?私の魔力を!?」
ルーシーは驚いた。いきなり魔法封じをくらうとは思ってもいなかったのだ!

「魔法を封じられては貴方はただの子供にすぎないわ。無敵の巨大化魔法とやらも使えないわね。」
「・・・・・?それ違ってるんですけど。」
高飛車なジュティーナの態度にルーシーはちょっと小馬鹿にしたように反論した。

「?違ってるって何が?」
「私は魔法で巨大変身してるんじゃないんですよ、先輩。」
今度はジュティーナ達がキョトンとする番だった。

「どーゆーコトなの?」
「私ね、もともとおっきい体を普段は魔法で小さくしてるんですよ。そのままじゃ教室に入れないから。」
取り囲む暗黒魔法同好会の会員たちの表情が強張った。
ジュティーナは恐る恐る聞いてみた。

「普段は魔法で小さくなってる?じゃあ魔法が封じられたら・・・」
ドン!爆発のような轟音が轟いた!
暗黒魔法同好会の面々は出し抜けに真後ろに弾き飛ばされた!
そして、たった今まで彼らの背丈の半分しかなかった小柄な少女の顔を、仰天しつつ遥か頭上の高みに仰ぐことになった。

「こーなっちゃいますねぇ。」
あどけない微笑みに、あからさまな侮蔑と少しばかりの残忍さを滲ませて、少女は地面にへたり込む高等部の生徒たちを見下ろした。

「か、か、会長!こんなの聞いてませんよ。」
「私達、どうしたら・・・・」
「落ち着きなさい!ライデン、メアリー!それでも暗黒魔法同好会の一員なの?」
動転する部員たちをジュティーナは叱咤した。

「さあ、魔法封じの水晶をもう一度・・・」
言いかけてジュティーナは呆然とした。全員、転んだ拍子に水晶を落としていた。
地面に落ちた水晶は見事に粉々・・・

「ああ〜!12回ローンで購入したばっかりの水晶が!」
弱小同好会会長のいじましい絶叫が森にこだました。

「おのれ、巨大下級生め!よくも我が同好会に経済的大ダメージを与えてくれたわね!」
「そぉんなの、自業自得でしかも逆恨みじゃない!」
当然ルーシーが取りあってくれる筈もない。

「こんなこともあろうかと手は打ってあるのよ!天と地の狭間に流れる力の河よ・・・」
ジュティーナは両手の手印を組みなおし、あらためて呪文を唱え出した。
すると今度はルーシーの周囲100mほどの大地に正方形の赤紫色に輝くラインが出現した。

「かの者を虜とせよ!」
呪文が完成し、ラインから半透明な光の壁が起立し、差し渡し200mの立方体の檻となってルーシーを閉じ込めた。
ルーシーは結界を構成するエネルギー壁の内側に顔を近づけ調べてみた

「ふうん?かなり高度な遮蔽結界ね、単なる物理的腕力じゃあ破れないわね。」
自分が閉じ込めれているというのにルーシーは他人事のように感心していた。

「やったぞ!」「複合多重結界に閉じ込めたわ!」
「そのとおり!もはや貴方は逃げることも、戦うこともできなくなったのよ!」
勝ち誇るジュティーナと同好会会員たち!
だが、ルーシーはまったくあせらなかった。

「まあ、学生さんが作った結界にしてはよくできてるケド・・・」
最高レベルの魔道知識を持つルーシーから見れば、この程度の結界など幼稚な代物にすぎなかった。
彼女の保護者であるエルマーならばこの数十倍も協力な結界を呪文ひとつで作り出すし、
父親であるクローニクルに至っては3秒もあればこの結界を消し去ることもできる。

「ふん、強がり言っていられるのも今のうちよ、皆、攻撃準備よ。」
同好会のメンバーが呪文を唱え始めた、どうやら雷撃系攻撃呪文らしい。

「結界越しに攻撃呪文、撃ってどうすんの?」
ルーシーの一言で呪文が止まった。
自分たちで張った結界が邪魔で雷撃が届かないことを忘れていたのだ。

「まっ、こんな結界なんて私にとっちゃただの窓ガラスと変わんないケドね。例えばここ・・・」
ルーシーは紫の光が流動する結界の内側に右手を押し付けた。
表面でパチパチと小さな火花がはじける。

「一箇所、こうやって極限の魔力真空状態を作りだす、すると・・・」
ルーシーが思いっきり手を引くのにあわせて結界がシャボンのように大きく歪んだ。
バチッ!軽い音がして結界に黒い小さな穴が開いた!

「ほ〜ら、このとおり。」
暗黒魔術同好会自慢の複合多重結界は窓ガラスのように砕け崩れ落ち消滅した。
そして、呆然とする彼らの間近に巨大少女の巨大な握りこぶしがヌッと突き出された。

「いじめっこはもう終わり?ならばホイっ!と・・・」パシッ。
気合の抜ける掛け声でルーシーは指を弾いた。

「ギャッ!」「グエェ!」
指先の軽い一撃でジュティーナを除く全員がノックアウトされた。

「うふふふ、会長のおねーさん、捕まえた!」
「ヒィッ!」
ルーシーはジュティーナを指先でつまんで持ち上げた。

「い、痛い、く、苦しい!」
「たかがクラブ活動ごときで私に勝とう、なんて思い上がりもいいトコね。」
間近に迫った澄んだ黒い瞳がジュティーナの全身を映していた。

「た、頼まれただけなの!貴方をいじめれば正式な部に昇格させてやるって言われて!」
「誰に?」
ジュティーナはがっくりと首をうなだれた。

「貴方と同じクラスの・・・・・・・・・ウェルシー様に。」
「ふぅん、あの子狸娘にね・・・・で、プチッと潰されるのがいい?
それとも墜落してクチャッと潰れるのがいい?」
「そんなぁ、た、助けてぇ!!」
「叫んでも無駄・・・・・っと、待てよ。」
何を思ったのか、ルーシーは力を込めかけた指先を止めた。
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■ 第5章・愛と友情?
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「夕べ、エルマーおじさんから言われたんだっけ。お友達をたくさん作りなさい、って。」
指でつまんだジュティーナを見た。怯えてガタガタと震えている。
足元の暗黒魔法同好会のメンバーを見た。怯えきって逃げることもできないらしい。

「いけない!このままじゃお友達を増やして世界を征服するという夢を実現できないわ!
ねぇ、おねーさんたち、喧嘩なんかしないでお友達になりましょー!」
いきなり、無理やり引きつった笑顔をつくり、猫なで声をだすルーシー。
だが、残酷な巨大児童の豹変ぶりに彼らは訳も分からず震えつづけている。

「ま、まずい・・・このままじゃ友達になるどころか・・・・そうだわ!」
ルーシーの目がキラリと光った。
恐怖に硬直したジュティーナをそっと手の平に乗せ、それから・・・

「きゃぁっ?」
指先で彼女のスカートをまくりあげた!

「な、な、な・・・・・アァッ!」
巨木のような指先がスカートの内側をソフトにまさぐる。

「あ、何をす・・・あ、あ、やめて。」
やがてゴソゴソ動いていた指先が、ある敏感な部分を探り当てた。

「い、いや・・・」
ジュティーナの体よりも大きな人差し指が微妙な動きをし、やがてスカートから引きぬかれた。

「しっかりなさって、ジュティーナ様!」
「会長!大丈夫ですかぁ!」
地上から声を振り絞る同好会のメンバー。だがジュティーナには何も聞こえなかった。
彼女が凝視していたのはルーシーの指先・・・にかぶさった布地一枚。
その、白地に小さな赤いリボンをあしらった三角形の布地は彼女のお気に入りの所有物であった。

「わ・・・私のパンティ!?!?」
ジュティーナは慌ててスカートの中を確かめ、脱がされている事を確認して我を忘れた。

「会長、どうなさったんです?」
状況の見えないメンバーが心配そうな声でジュティーナは我に返った。

「見ないでぇ!見上げちゃダメぇ!」
「会長!?」
「お願いこっちを、上を見ないでぇ!」
ノーパン姿をメンバーの男子生徒に見られては生きていけない!
必死にスカートを押さえ、ジュティーナは泣き出しそうになった。

「うぇ〜ん・・・どうしてあたしがこんな目に・・・」
「泣くことないよ、おねーさん。これから楽しい気分になるから。」
ニコニコ顔のルーシーの指先が再び迫ってきた!
スカートの裾をつまみ、捲り上げる。

「やめてよ、下から見られる、ひ・・・」
ルーシーの顔面が視界一杯に迫ってきた。
そして、唇の間からピンク色の巨大な舌が、踊り出してきた。

ぺろぺろぺろ。
「ひ・・・ひ・・・」
濡れた暖かな舌先が頭の先から脚の先までを嘗め回した。
ジュティーナの全身が大量の唾液でべとべとになった。

べちょべちょべちょ。
「ひ・・・あ?・・・」
舌先がスカートの中に侵入してきた!
必死に抵抗するジュティーナだが、何と言ってもパワーが違いすぎる。
あっさりとヌラヌラと唾液に塗れた巨大な舌先の侵入を許してしまった。

ぐちゅぐちゅぐちゅ!
「あ・・・あああ!」
ジュティーナの敏感な部分を舌先がいじりまわす。

「大変だ!会長が味見されているぞ!」
「このままじゃ食べられちゃうわ?」
ジョニーとティアが見当はずれな言葉を口にした。
いや、見当はずれとも言えないのか。

「さあて、お次はっと・・・」
抵抗力を失ったジュティーナにルーシーは再び指を近づけた。
並みの人間の体より巨大な指が再びスカートの中へ・・・

「や、やめて、お願い許して、あっ?あっ!ああっ!!」
声の質が変わった。悲鳴から別の声に。

「う、嘘?そ、そんな?は、入ってくる?!」
ジュティーナは信じられなかった。何の痛みも抵抗感もなく、お城の尖塔に匹敵する巨大な人差し指が根元までスカートの中に突き込まれたのだ。
そして、彼女の敏感な部分に何かが滑り込みグチュグチュと音をたてて刺激しはじめた。

「会長、かいちょぉぉぉ!」
「何がどうなってるんです!」
地上のメンバーたちは学生の想像を超える何か異常なことが起きているとしか状況が分からなくなった。

「ひぃっ・・・ひぃぃぃ・・・ん、あ・・・」
「うふふふ、おねーさんって感度いいのね。」
ルーシーは楽しそうに指を動かした。その度に突き上げるような快感がジュティーナを襲った。

「じゃあ、これからが本番よ。サイコーにいい気分にさせたげるからお友達になろーね!」
ルーシーは手を高々と差し上げ天を指差した。ジュティーナの秘部に飲み込まれたままの指で。

「それではぁ、パーフェクト全身そーにゅーモードいきまぁす!」
実に楽しそうなルーシーの宣言とともに事態はさらに異常な展開となった。
ルーシーの姿が水面に映る影のようにユラユラと歪み、ねじれた。
同時にジュティーナの体がゆっくりと下降しはじめた。
彼女の体が下がるにつれて、最初にルーシーの巨大な握りこぶしが消えた。
続いて肘までがジュティーナのスカートの中へと呑み込まれた。

「あ、ああっ、は、入ってくるゥゥゥ!!私の中にィィィッ!!」
ルーシ−の肩まで降下してきたジュティーナは叫んだ。
そう、自分より遥かに巨大なルーシーをジュティーナの性器は易々と呑み込んでいたのだ。
ジュティーナの姿はルーシーが来ていた服の袖口の内側にストンと落ちて見えなくなった。
同時にルーシーの頭部が亀のように服の襟の中へ引きこまれた。

バサッ!
テニスコートをいくつも覆えるほどの大きさの服が暗黒魔法同好会の頭上に落下してきた。
大きく重そうな服の落下を慌てて避け、見上げるとピンク色のスカートをはいた校舎より高い下半身だけが残っていた。
そしてその上に大きく股を広げて座り込んでい喘いでいる会長の姿が見えた。

「会長?かいちょー!どうなってるんです!」
「一体、何が起こって・・・」
目前で繰り広げられる理解を超える光景に同好会のメンバーは立ち尽くすだけだった。

ブァッ!
中身を失ったルーシーのスカートが落下傘のように開いてゆっくりと地上へと舞い降りてきた。

「わっ!?」
走りよったメンバーたちの目前にいきなり布がお化けみたいに立ち上がった。
・・・・・かわいい熊さん柄のパンツだった。ただしテント20枚分くらいの広さの。
ズルリと巨大パンツの布地がずり落ちて、その下から放心状態のジュティーナの姿があらわれた。

「会長?」「ご無事ですか!」
「・・・・・」
ジュティーナはへたへたと座り込んだ。メンバーの声も聞こえない様子だ。
ティアがそばに寄り添い、会長を支えた。

「会長?」
「あ、あん・・・ダメ・・・やめて。」
意味不明な言葉を喘ぎ声の合間に発するだけで要領を得ない。

「あいつは、巨大転入生はどこへ?」
メアリーはあたりを見回したが、山に匹敵する巨体はどこにも見えない。

「ここよぉ〜ん!」
ルーシーの声が返ってきた、すぐ身近で。

「近くにいるぞ!」「どこだ!!」
「ここ!ここですよォ!」
声は・・・ジュティーナのいる場所から聞こえた。
全員が「?」という表情でジュティーナを見た。
そのとき、突然の突風!ジュティーナのスカートがまくれあがった!

「キャッ、!会長!」
「会長?!・・・ノーパン・・・えっ?」
みんなの視線が一点に集中した。会長の、あらわになったその部分に。

「だからここだってばぁ!」
その部分の『裂け目』の間から、親指の先ほどの小さな顔がこちらを見ていた。

「ま、ま、まさか?」「おまえはさっきの巨大転入生なの?」
「えへへへ、そうでぇーす!」
楽しそうな笑い声も朗らかに、小人に変身したルーシーが秘所から手を振った。

「私ってスゴイでしょ!空間圧縮で巨人にも小人にもなれるんだよ!」
誰もが言葉もなかった。怪獣サイズから人間サイズになれるなら小人サイズに変身しても不思議ではない。
だが、さっきまで山よりも大きかった女の子が、小人になって会長のアソコに潜り込んでいるなどとは・・・

「じゃあ『中』に入って、一仕事してきまぁす!」
「あ、待て!」
ジョニーがつかみかかろうとしたが、一瞬早くルーシーの姿は会長の中に消えた。

「アッ・・・」
「あ?す、すいません、会長!」
ジョニーがつかんだのは数本のごわついた毛だけだった!

「男子は向こうを向いてなさい!」
メアリーに叱られたジョニーとライデンは未練を残しつつ後ろを向いた。

**********

「ふ〜ん、ここが・・・かいちょーさんの大事なトコロの内側かぁ。」
指先に魔法の灯りをともして素っ裸のルーシーは内壁を調べ始めた。
薄い赤褐色の粘膜が鼓動に合わせてプルプルと震えている。
温度も湿度もかなり高くて蒸し暑い。

「久しぶりだなー、女の人の大事なトコに入れてもらうのも・・・とと、いけない、仕事仕事!」
腹這いになってトンネルの奥へと這い進んだ。

「このへんは、っと・・・」
襞のひとつをつかんで引っ張ってみた。
ブルルブルル!肉のトンネルが揺れた。

「ふむふむ・・・ではここは、っと?」
小さな窪みに拳を突っ込んでグチュグチュとかき回してみた。
ビクッ、ビクゥッ!狭いトンネル全体が引きつり、緊張する。
噴出す汗と滴り落ちる粘液にまみれてルーシーは一所懸命に『内部構造』を調べつづけた。

「大体分かってきたわ、一番感度がイイのはやっぱり・・・ココ!」

**********

「はあっ、はぁっ、あああぁぁぁっ!!」
ジュティーナの口からは意味のある言葉はもう発せられなくなっていた。
焦点の定まらぬ目を空中に向け、よだれを垂れ流しながら快楽に翻弄されていた。

「ふうん?会長さんって処女じゃなかったんだ。『膜』の残骸からしてロストバージンは1年以内ってとこかな?」
両足の間から透明な液体とともにルーシーの声が漏れてくる。

「ええっ?会長、誰とやったの?」「意外と遅かったのね、会長。」
「まさか、相手は去年の教育実習生では?」「そうなんですか!会長?」
会員からは様々な反応が返ってきた。

「そんでぇ、最後にヤッてからは3ヶ月くらいかな?」
胎内潜航中からのルーシーの調査報告が続く。

「あっ、それなら魔法科のクレイトン君が転校した頃だぞ。」
「じゃあ、噂どおり彼とデキて・・・それどころじゃないわ!どうしよう、ジョニー?」
「どうしようったって、メアリー。引きずり出すしかないだろう?」
「どうやって?」
「そりゃ・・・指を突っ込んで捕まえるしか・・・」
「わかった、私がやる!」
「気をつけろよ、ティア。」
「分かってるわ・・・ってジョニー!ライデン!向こう向いてなさいって言ったでしょ!」
いつのまにか一緒になって会長の股の間を覗き込んでいた男子会員2名に平手打ちかましてから、ティアは注意深く指を2本、ジュティーナの秘所へと差し込んだ。

「痛い!」
声を上げてティアは指を引き抜いた!

「あんたたちはこっち見ちゃダメ!どうしたの、ティア!」
こちらを向きかけた男子をぶん殴ってメアリーはティアに聞いた。

「中で、指先を噛まれたの。」
ティアの指先に血が滲んでいた。

「もぉーーーっ邪魔するからよ!・・・・・あ、そうか!ごめんなさい。」
ルーシーは何かに気づいたらしく謝った。

「かいちょーさんと仲良くするのに夢中で他の皆さんのこと忘れてました。
すぐに皆さんとも仲良くできるよーに、かいちょーさんに手伝ってもらいますから。」
ルーシーの声がそれっきり途絶えた。

「ちょっと、何をする気?会長、しっかりしてください。」
メアリーとティアが知性の欠片もない笑いを続けるジュティーナを揺さぶった。

「おい、ちょっと、ティア・・・」
「ライデン!向こう向いてなさいって・・・」
「会長の体・・・膨れてきてないか?」
ティアは振り返って会長の姿を見た。
ジュティーナの背丈は自分と変わらなかった筈・・・だが、現在の彼女は頭ひとつ高い。

「それに、腕や足もさ・・・」
ライデンが言うように手首まであった袖丈が今は肘までしかなく、足首が隠れていたスカートも膝上になっている?

ブチィッ!
膨張したバストが胸のボタンを飛ばし、ブラジャーを引き千切った。
揺れる二つの乳房は120cmを確実に越えている!

「ウヒャァッ!」「すっげぇ!」
「って喜んでいる場合じゃないでしょあなたたち!」
だが、会員たちの驚きにも構わずジュティーナの体は膨張、というより巨大化しつづけた!
ついさっきまで身につけていた服と下着は身長5mを超える体を覆うことはできずに破れて落ちた。
服を着ていても結構なプロポーションの肢体が完全に開放されていた。

「わたしたち、どうしよう・・・」「それよりこれからどうなるんだ?」
「あっ、あっ、ああっ・・・」
もはやジュティーナは完全に快楽の虜であった。
巨大化するにつれ、快感が更に強くなり、恥ずかしい姿を見られる羞恥心がそれを倍増した。
やがて巨大化は停止した。皆が見上げる彼女の顔は座りこんでいても100m以上の高所にあった。

「みんな・・・私を見て!この恥ずかしい姿を、じっくりと見てぇ!」
自分でも思ったことのない台詞がジュティーナの口からほとばしった。
皆の視線が気持ちいい、恥ずかしさが気持ちイイ!

「さあ、かいちょーさん!みんなとも愛と友情を分かち合いましょー!」
膣口からルーシーの声が響き渡った!

「ティア、ライデン、ジョニー、メアリー・・・みんな、愛してるわょォォォ!」
ジュティーナが両手を広げ、会員たちにつかみかかった!

「うわぁぁぁ!」「会長やめて!」
4人ともあっさりとジュティーナの巨大な手に捕まってしまった。

「会長!何をするんです!「離して!助けて!」
「うふふふ・・・・・」
ジュティーナは手の中で震える会員たちを一人ずつ摘み上げ・・・

「わぁぁぁっ!止めてくださぁぁぁいィィィ!」
ヌチュ・・・
「んん!いい感じィィィ!」
金切り声で泣き叫ぶ彼らを秘所の中へと押し込んでいった。
全員を自分の中へ挿入し終わると、片手で自分の乳房を揉み砕き、残る片手を自分の茂みへと滑らせた。

「ん、あ、ん、ああ・・・私の中でみんなが・・・」
そして巨大な自慰行為、いや内部のルーシーと会員を含めて6Pプレイを楽しみはじめた。

**********

「ここが、会長の体の中・・・」
「すげぇや。夢みたいだ。」
ゆっくりと波打つ床の上でジョニーもライデンも荒い呼吸で目を血走らせた。

「ちょっと、あんたたち!ズボンの前膨らましてる場合じゃないでしょ!」
メアリーに怒鳴られてジョニーとライデンは慌ててズボンの前を押さえた。

「でもぉ、私達これからどうなるの?」
ティアが揺れる襞のひとつに寄りかかって不安な顔をした。

「もちろん、みんなの力を合わせて脱出し、会長を救出するのよ!」
気丈にもメアリーはうごめく粘膜の上に仁王立ちして指揮をとろうとした。

「脱出なんてしちゃ、ダメでぇす!これからが本番なんですから!」
奥の方からルーシーの声がした!

「この奥にいるのか?」
「きっと子宮の中に隠れてるのよ・・・きゃっ!」
メアリーの足に肉襞が絡み付いてきたのだ!

「うわあっ!」「か、壁がいや、襞が?」「襲ってくる!」
残る3人にもジュティーナの肉襞が襲い掛かった!
あっというまに全員を絡めとり、器用で微妙な活動を開始した。

「ひ?襞が?襞が!」
「イヤァーッ、脱がされるゥー!!」
絡みついた襞が微妙な動きで彼らの服を下着を剥ぎ取っていくのだ!

「えっへっへっへっ・・・どおですか、ルーシーちゃんの膣壁操作術は?」
子宮内でルーシーは内壁に手を突き刺していた。
そこから神経系にアクセスし、胎内の随意筋・不随意筋を操っているのだ!

「ん・・・・・ああ・・・・・」
ジュティーナの膣口からひときわ大量の液体が溢れ出した。
その流れには4人分の服が、靴下が、パンツが、ブラジャーが、パンティが混じっていた。

「あ、はあ、・・・」
「すごく、気持ち、イイぜ、会長の、中って・・・」
全身を優しく力強く包み込む襞に愛撫され全員が夢見心地・・・
だが、さらにその先があった!

「メアリー?お前の体、変じゃないか?」
「そ、そうかしら?ってこっちみないでよ、イヤらしい目で」
「そんなこと言ったってこの体勢じゃあ。あれ?ティア、お前もなんか妙だぞ?」
「ええ?何が変なの、ライデン・・・」
「お前、俺と同じ位、背丈だったっけ?」
「あんたみたいにそんなにでかくない・・・はずだったのに?」
ティアもメアリーも既に男子2名よりも大柄になっていた!

「あんたたち?なんで縮んでるの?」
「いや、お前達が大きくなってるんだ!」
ここでも女生徒2名の巨大娘化現象が起きていたのだ!

「あっ、おねえちゃんたちも巨大化エキスの効果でてきたんだね?」
ルーシーのやったぁ!っという喜びの声が膣内に反響した。

「あ、ああん、大きくなってくるゥ・・・私の中でぇ。」
ジュティーナの呼吸が一段と激しくなってきた。
自分の中で膨れ上がる挿入感がなんとも言えない・・・

「わわっ、狭い!」
女子二人は膣内で20m近い大きさに巨大化してしまった。
狭い膣内は巨大化した女子二人だけで満員状態。
男子2名はパワフルな膣壁と小型?巨大娘に挟まれ今にも潰れそうだ!

「ジョ、ジョニー変なとこ触らないでよ!」
「無茶言わないでくれ、こんな狭いところじゃ『触るな!』ったって無理だよ!」
「ジョニー、私のティアにおかしな真似したら承知しないわよ!」
「私のティアって・・・お前らそーゆー仲だったのか!?」
ライデンの指摘で一瞬、全員が沈黙した。

「・・・・・メアリー、貴方そーゆー目で私を見てたの!?」
「あ、いえ、それは違うわ!誤解よ!」
「キャァッ!不潔よ、触らないで!」
「違うったらぁ!」
膣内の騒ぎはおかしな方向へ走り始めた!

「くくく苦しい・・・」「潰れそうだぁぁぁっ・・・」
抱えきれないほどのバストの間にはさまれたジョニーたちが悲鳴を上げた.
柔らかな肉球にめり込んだ彼らは呼吸さえままならない。
ティアとメアリーの巨大化は止まっていたが、肉のトンネルは限界まで押し広げられ身動きもろくにできない状態である。

「ううっ、私たちを押しつぶす気なの!」
「違うよぉー!もおっと楽しんでもらおうと思っただけだよぉ!
やっぱりぃ、挿入される快感だけじゃなくて、自分に挿入する楽しみもないとね。」
「自分に挿入する楽しみって・・・まさか?ライデンたちを、その・・・私たちの中に?」
「ほらほら、おにーちゃんたちを早くおねーちゃんたちの『中』へ避難させないと潰れちゃうよ!」
メアリーとティアは恥ずかしそうにお互いの顔を見、それから自分たちのバストで潰されかかっているジョニーとライデンを見た.

「仕方ない・・・かナ?」
「仕方ない・・・よネ?」
ティアとメアリーは恥ずかしそうに見つめあった。
そして、身をよじらせて少し隙間を空けて、ティアはジョニーの体を、メアリーはライデンを握り締めた。

「おい、お前ら・・・」「俺達をどうする・・・」
「こ、これは、あ、貴方たち助けるためなんだから!」
「特別サービス・・・だと思ってね。」
彼女たちは彼らを掴んだ手を下げ、そっと腹部と太股のラインの交点にあてた。そして・・・

「お、おい!」「ええっ、今度はお前の中に!?」
「っん・・・」「・・・あっ。」
訳も分からず暴れる彼らを力ずくで自分たちに内側へ押しこんだ。

「あ、あ、あ、あ、ダメよ、ライデン、暴れないで・・・感じてきちゃう。」
「ジョニー、ジョニー、ほ、ほんとは前から貴方のこと・・・」
もはや、現在の異常事態に対する意識はなかった。
ジュティーナもティアもメアリーも巨大さによって得られる快感に酔いしれていった・・・

「はぁっ!はぁっ!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!・・・・・・・・・・・・・・」
ジュティーナの全身が一瞬そりかえり、脱力した。
ズズゥン!シャァァァッ!
森の木々をなぎ倒して後に倒れた彼女の両足の間に勢いよく大放出が始まった。
そして、ゆっくりと縮みはじめた彼女の秘所からティアとメアリーが流れ出した。
さらにティアの秘所からジョニーが、メアリーの秘所からライデンが開放された。
最後に元の大きさに戻ったジュティーナの秘所からは・・・

ギチュッ
まずは天に届きそうな巨大な手が、続いて100mを越す巨体が魔法のように這いだしてきた。

「う〜ん、久々に気持ちよかったぁ〜!!」
素っ裸のルーシーは大きく伸びをした。それから愛液の池に浮かんで失神した5人を見下ろした。

「よかった、高等部の人もお友達になれたし・・・でも。」
至福の表情で失神した女生徒たちを見おろすルーシーの瞳を、かすかな憂いがかすめた。

「・・・・・羨ましいナ。みんなロスト・バージン済みだなんて。」
ルーシーはため息をついた。

「私も早く処女とオサラバしたいのにナ・・・ロスト・バージンすれば魔力だってもっと強くなるのに。」
ロスト・バージンで魔力が強くなるというのは俗信であって根拠はない。
ただし、人間に宿る魔力は精神的な条件に強く左右される。
ルーシーの場合は母親であるルィーズ同様、処女性の喪失によりパワーアップする可能性が高かったのだ。

「パパ使って処女喪失しようとしたらママに無茶苦茶、怒られたし・・・」
クローニクルの元を離れる日の朝、寝ているクローニクルを自分のアソコにねじ込んで処女喪失を企んだのだが。
肝心のクローニクルが目を覚まし、驚いて大声を上げたために未遂に終わった。
結果、ルィーズ・ママにお尻が腫れ上がるまでぶたれた・・・そりゃ、当然だろうなぁ。

「どっかに男らしくて強くて頼り甲斐があって優しいパパみたいな人いないかな?」
ルーシーは憂いを秘めた小さな溜息をついた。
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■ 第6章・放課後の決闘?魔獣復活!
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カイはひたすら山道を走っていた。

「まだ、見つからないや。どこまで行ったんだ?」
日頃から拳法修行で鍛えた少年だけあって、起伏の激しい山道にも息ひとつ乱さない。
だが、不安と焦りが汗となって額を流れ落ちる。

(ルーシーちゃんにもしものことがあったら、エルマー先生に何て言えばいいんだ。)
真面目な性格の彼はルーシーの身に『もしものこと』を仕掛けられそうなヤツがこの世には存在しそうにない、ということを忘れていた。
その時、前方の木立の影に人の気配がした。立ち止まったカイの前に木立の中から2人の高等部の生徒らしき者が立ちふさがった。

「あなたたちは高等部の、ええっと・・・・・確か『暗黒魔法同好会』の?」
カイは二人に見覚えがあった。校内クラブ予算会議で何度か見かけたことがある。
カイの行く手を遮ったのはジョニーとライデンであった。だが何かおかしい。
彼らのトレードマークの黒服はヌラヌラした変な匂いの液体でぐっしょり濡れているし、目は虚ろで焦点があっていない。

「さっさと学校へ戻れ。」
「ここから先は立入禁止だ。」
妙に感情の欠落した声で二人はカイに命じた。

「人を探してるんです。僕の同級生の女の子で・・・」
「帰れ。」
「通してください。」
「近づくな。」
とりつくしまもない・・・カイは無視して通り抜けようとした。

ビュン!
いきなり真後ろから後頭部に振り下ろされた杖をカイは振り向きもせずにかわした!

「何をするんですか!先輩・・・?」
「ウガァァァァ!!」
ビュン!ビュン!ビュン!
獣のような形相でライデンが杖を振り回し、猛り狂った。
驚きはしたものの、余裕の動きでカイは攻撃をかわしつづける。

「やむを得ない・・・先輩、すいません!」
ドコッ!
滅茶苦茶に振り回される杖をかいくぐり、懐へ飛び込んだカイの当て身がみぞおちにめり込んだ。
(完全に決まった!当分は失神するはずだ・・・普通なら。)

「ぐっ・・・・・」
顔を苦痛に歪ませてライデンは数歩下がり・・・・・

「グギャァァァ!」
前以上の狂暴さでカイに向かってきた。

「やっぱり普通じゃないな、この二人!」
更に厄介なことに、背後ではジョニーが呪文を唱え始めている。
何の魔法かは不明だが、危険な攻撃呪文に違いない.
カイは両の手を突き出し身構えた。父の故郷の国より伝わる拳法の基本の構えだ。

「コォォォォ・・・」
拳法独特の呼吸法で力を腹部ー正確にはへそのあたりの丹田と呼ばれる部分−に溜める。
間近に迫った狂気に満ちた高等部の生徒の顔に怯えの色も見せず大地を踏みしめる。

「ハァッ!」
気迫に満ちた掛け声が空気を振るわせた瞬間、ライデンは目前の標的を見失った!

「?!何処へ行った!」・・・・・トン。
頭に何かが触れた。
視線を上に向けると、ライデンの頭に手をついて倒立している少年の姿が見えた。
衝撃もなく痛みもない、なのに・・・ライデンはバタリと倒れた。

バチバチバチッ!ジョニーの放った雷が空気を焦がした。
しかし、身をひとひねりしただけでカイはそれをかわし、猫のような身のこなしで間合いを詰めた.

トン!
カイの掌が軽くジョニーの心臓のあたりを叩いた。

「グッ・・・・?」
打撃、というよりただ触れただけだったのに、ジョニーの目玉がグルンと回転し、白目を剥いた。

「すみません、30分もすれば動けるようになりますから!」
カイは昏倒した二人に謝ると、駆け出した。
やがて森を抜け、野原に出たカイはいくつもの大きな絨毯かカーテンのような布地が散らばっているのを見つけた。
そのひとつに見覚えがあった。
サーカステント並みの大きさの白地に熊さんマークのプリントの三角形の布地。

「これってまさか・・・ルーシーちゃんのパ、パ、パ、パンツぅぅぅ!?」
そう、校内案内中に偶然目撃してしまった熊さんパンツだった!
パンツだけではない、スカートもシャツも靴下も・・・全て脱ぎ散らかされている!

「じゃあ、ルーシーちゃん今・・・裸・・・」
純情な少年は自分の想像だけで真っ赤になった。

「や、やっぱり、人に言えないよーな事をされて・・・」
ちなみに真面目な拳法少年のカイ君は『人に言えないよーな事』というのがどういう事なのか全然知らない。

「足跡が続いてる・・・あっちか!」
地面には大型の漁船くらいはすっぽり入る大きな穴がいくつも残されていた。
ルーシーが裸足で歩いたと思しき足跡だ。
その足跡にそって走るカイ。
崖の端を曲がったところで顔に冷たい水滴が当たった。

「雨?お天気なのに・・・」
カイは崖の端を曲がって山の向こう側に出た。そして、見た。

**********

「カイったら!あんなバケモノ転入生なんかほっとけばいいのに!」
「お待ちください、お嬢様。絶対安静なのでございますぞ!」
松葉杖をつきながら、ウェルシーはようやく裏門までやってきた。
執事のパーカーも点滴担いでお供をしている。
裏口にたどり着いたところで森の方からやってくる人影に出くわした.

「あら、ジュティーナ?」
「・・・・・」
人影はジュティーナであった。だが様子がおかしい。
黒のフードを羽織っただけで放心したような状態、裸足でフラフラ歩いてくる。

「ジュティーナさん!例のウドの大木転入生の件、首尾はいかがだったかしら?」
「・・・・・」
ウェルシーの問いにジュティーナは何の反応も示さない。

「どうなさったの?ジュティーナ!」
「・・・・・あっ?ハイ・・・?ウェルシー様。」
ようやく我に返ったジュティーナ。

「ジュティーナ、私が命じた転入生への制裁!終わったんでしょーね?」
「転入生?あ・・・ルーシー様の・・・」
「ルーシー・・・様ぁ?!」
ルーシーを『様』付で呼ぶジュティーナの挙動でウェルシーは初めて異常に気がついた。

「ジュティーナ!あなたは一体・・・」
「ゴメンナサイ、ウェルシー様!私、私はもうルーシー様には逆らえません!」
「えっ?えっ!えっ!?」
「私、もう、普通じゃ満足できない体になってしまったんですぅぅぅ!」
ジュティーナは泣きながら走り去って行った.

「ああ、ちょっと!ジュティーナ!・・・行っちゃった。一体何があったの?」
「ひとつだけ分かっていることがありますぞ、お嬢様。」
混乱し始めたウェルシーに向かって、パーカーは続けた。

「ジュティーナ殿は無断早退したようです。最近のお若い方は全く生活態度がいい加減で・・・」
ボクッ!くだらないボケをかましたパーカーを松葉杖で殴り倒すとウェルシーは門を出た。

「何がなんだか分かんないケド・・・カイの身が危ないよーな気がする!急がなくちゃ!」

**********

最初に見えたのは地面から高く吹き上がる噴水のような物だった。

シュワァーーーッ。
白い水飛沫の柱の高さは150mを超えているだろう。
飛び散る水滴はあたりに雨のように降り注いでいる。

「地下水が噴出してるのか?でもこのあたりにこんな物があるなんて聞いたことも・・・」
その時、カイの耳に何か聞こえてきた。
ルンルンルルルー、ラ、ラ、ラララ・・・歌声だ。
水柱の撒き散らす水滴のカーテンの向こうに大きな影が動いている。

「ルーシーちゃん、無事だったんだね!」
「へっ?・・・・・」
目と目があった・・・カイ少年とオールヌードで水浴びしてたルーシーの視線が。
数秒間、時間が凝固した。無事を喜ぶ表情のカイとあっけにとられたルーシーの表情が固まった。

ドドドドド・・・なだらかで起伏の乏しい未成熟な巨体の上を流れ落ちる、大瀑布のような水音だけが響く。
凍りついた表情の二人の顔が徐々に真っ赤になった!

「エッチ!覗いたわね!」「ワッ?ワッ!ごめん!」
バシッ!
怒ったルーシーが手を振り回して水柱の頂上を叩いた!
ものすごいスピードで飛来する水塊をカイは大慌てで避けた。

ドガドガドガ!
「危なかった・・・」
水塊の直撃を受けた地面は20m四方にわたって深くえぐられていた。
カイは冷や汗をかいた。避け損ねていたら即死まちがいなしだった。

「もう・・・もう少しで洗い終わるから、しばらくあっち向いててね!」
ルーシーに言われてカイは後ろ向きで大きな石の上に座って待つことにした。

「でも、なんで水浴びしてたの?」
「うん、ちょっと体中がベトベトになっちゃって・・・」
二人は後ろ向きで話し始めた。

「ここで何してたの?」
「んっとねー・・・・・洞窟探検・・・かナ?」
さすがに高等部の生徒の皆さんとエッチ行為をしてました、とは言えずにルーシーはお茶を濁した。

「このへんに洞窟なんてあったかな?」
「ああっと、その、『神秘の洞窟』とでも言えばいいのか・・・それより、カイ君はなぜここに?」
「ルーシーちゃんが高等部の先輩たちにこっちに連れていかれたって聞いて・・・」
「まあ、私のコト心配してくれたのね!」
ルーシーは心から嬉しくなった。人から心配してもらったのは両親を除けば、カイが初めてだった。

「カイ君って優しーんだね。でも平気だったよ、高等部の生徒の人たちともお友達になれたし・・・っと?」
そこまで言ってルーシーはあることを思い出した。

「カイ君がここへくる途中にさ、誰かに会わなかった?」
「あっ、そうだ!高等部の生徒の人二人に邪魔されたよ。あの人たちは?」
「水浴びしてる間の見張りを頼んだのよ。」
「そうか、急いでたんで殴り倒しちゃったんだけど悪いことしたなぁ。」
こともなげなカイの言葉にルーシーは内心、驚いていた。

(倒しちゃった?あの二人は潜在パワーを限界まで引き出せる暗示をかけていたのに?)
はっきり言って今のあの二人ならライオンでも絞め殺せるはずなのだ。
それが少年一人に不覚を取るなど考えられないはずだった。

「カイ君って、すっごく強いんだね。」
「ん?まぁ、大したことじゃないよ。生まれた時から父上に拳法の修行をつけてもらってるから。」
特に格好をつけてる訳でもないカイを見つめるルーシーの目が変わった。

(優しいし、強いし、頭もいいし・・・これでカイ君が大人だったら・・・バージン捧げちゃうのに!)
ルーシーは本気で残念だった・・・しかし。

(待てよ?確かに普通の女の子じゃ未成熟で未経験なカイ君に大人にしてもらうのは無理だけど・・・
私なら・・・カイ君を体まるごと押し込んじゃえるんだからかんけーないじゃん!)
悪魔的発想だった。ルーシーの目が更に変わった、獲物を狙う飢えた野獣の目に!

ズシン、ズシン!
控えめな、重い足音がカイの最後にやってきた。

「ねーぇ、カイくぅ〜ん・・・」
「な、何か?」
いきなりの猫なで声にカイはなぜか鳥肌が立った.

「カイ君、洞窟探検に興味ある?」
「えっ?まぁ、あるけど・・・将来、武者修業の旅に出て怪物退治やダンジョンの攻略もするつもりだし。」
「じゃあさぁ、今すぐにぃ、私の洞窟、探検してみない?」
「君の洞窟?ルーシーちゃん、どこかに洞窟の心当たりあるの?」
「心当たりっていうかぁ、私もひとつ持ってるの・・・」
カイは考え込んだ。
(ルーシーちゃんって洞窟のある土地でも持ってるんだろうか?
なにしろ、お父さんが有名な魔道士なんだから秘密の洞窟くらいあるのかもしれない!
きっと、魔法の研究やダンジョンで手に入れた宝物を隠す洞窟を知っているんだ!)
伝説の魔道士の秘密の洞窟!是非見てみたい・・・

「見てみたい?」
「見せてくれるの?だったら嬉しいな!」
ルーシーはニヤリと笑った、そう彼女が案内するのは女の子の肉体の神秘への入り口!

「いいわよ、案内してあげる・・・」
ルーシーは両手を伸ばした。
巨大な手でカイ君を捕まえて、自分の内側へ、大人の世界へと案内するのだ・・・

(おかしいな?なんか妙な殺気というか気配を感じるぞ?
でも今振り返ったら、ルーシーちゃんの裸をまた覗き見しちゃうしな。)
カイは背後から巨大な魔の手が迫っているとは思っていなかった。
音をたてないように、ルーシーはそっとカイに捕まえようと・・・

「何やってんの!こんなところで!」
いきなり怒鳴り声が沈黙を破った。
声のした方を見ると、崖の端から松葉杖をついたウェルシーがコケそうになりながら走ってくる!
(チッ・・・邪魔が入ったか。)
ルーシーは苦々しい表情で、渋々と手を引っ込めた。

「しかも、裸?一体、あんたたち何をしてたの!」
「あっ、ウェル?誤解しないでよ、これは・・・」
怒るウェルシーをなだめようとするカイ。だが、ルーシーが致命的な一言を放った。

「大したコトないわ、水浴びしてただけよ!・・・二人きりでね!」
ピキーーーン・・・・・空気が凍結した。

「あ、あのね、ウェル。ルーシーちゃんは冗談を・・・」
「ふっ・・・・・ふふふふふ、ほーんと、大したコトありませんわね。」
カイは言葉を呑み込んだ。異様な殺気がウェルシーの全身からほとばしっていた。
(この色気過剰巨大小娘め!こともあろうにカイをたぶらかそうなんてェェェ!)

「わたくしなどいつもカイと一緒にお風呂に入っておりましたもの!」
「それは、学校に入学する前までで・・・」
ウェルシーの一言でカイは赤面した。

「まあ、仲のよろしいこと。羨ましい限りですわ。」
言葉は馬鹿丁寧だがルーシーの眉がピクッと繭がつりあがり、こめかみの血管が浮き上がった。
(この成金小娘ぇぇぇ!カイ君と幼馴染ってコト鼻にかけやがって!)

「あなた生意気ですわね、うすらでかいだけで取り柄なしの貧乏人の分際で!」
「あなたこそお下品じゃなくて?発育不全の全然可愛げない成金の分際で!」
見上げる視線と見下ろす視線が激しく火花を散らす。

「あの・・・君達、喧嘩はいけないと・・・」
バキッ!ウェルシーの手に力が入りすぎ、松葉杖をへし折った。
カイは口出しできる状態にないことを悟った。

「転入生!決闘を申し込みますわ!」
「私は誰の挑戦でも受ける!」
にらみ合うタカビー少女と巨大少女の間でカイは悩んだ。
(あああ、エルマー先生!やっぱり僕には荷が重過ぎましたァ!)

**********

き〜ん、こ〜ん、か〜ん、こぉ〜ん。鐘の音が鳴り響く放課後の校庭。
人間サイズに縮んだルーシーと舞台衣装並に派手な正装を纏ったウェルシーが睨み合っていた。

「真剣勝負よ・・・逃げるなら今のうちよ、貧民。」
「ご自慢のお金の力も助けてくれないわよ、成金。」
空気が険悪化する一方だった。

「ただいまより儀礼にのっとり決闘を始める。双方とも遺恨は残さぬこと!」
校長の手から二人に武器が渡された。剣術練習用の木製の剣である。

「校長先生、なんとか止めてください!」
カイは校長にすがりついた。だが・・・

「正面からぶつかり合うライバル、嗚呼、青春とはかくも美しきかな・・・」
「だ、ダメだこりゃ。」
校長の耳には届いていないようだ。カイの心を絶望感が捕らえた。
二人は剣を携えて向き合った。しかしウェルシーが鞘から抜き放ったその刀身は・・・

「フッ・・・身のほどを思い知らせてあげるわ!」
ウェルシーが抜いた剣は木材を削って作った練習用の木刀ではなかった。
銀色の金属の輝きを放っている!

「ウェル!?それ本物の剣じゃないか!」
カイだけでなく全校生徒が驚いた。ウェルシーは本物の剣を持ち出してきたのだ!

「ホーッホッホッホッ、最初に言っといたはずね!これは真剣勝負だって!
当然、剣も『真剣』というわけよ!今、降参すれば、特別恩赦で下僕にしてあげるわ。ホーッホッホッホッ!」
高笑いを決めるウェルシー。しかし・・・・

「なら、私は命乞いしたら特別割引サービスで『お友達』にしてあげるわ!」
ルーシーは慌てもせずに気軽に答えた。

ズドン!
「ヒャッ!?」
軽い爆発音が響き、生じた衝撃波でウェルシーは飛ばされ地面をコロコロ転がった。
なんとか埃まみれで立ち上がると巨大化したルーシーが薄笑いしながら遥か頭上から見下ろしていた。

「普通人サイズで戦う、なんてルールはなかったわね。・・・・・卑怯とは言うまいね?」
白い歯を見せてルーシーはにたりと笑った。さすがのウェルシーもこれには怯んだ。
なんせ身長は100倍、体重は(推定)100万倍のハンデがある!

「くっ・・・でも、図体がでかい分、懐に飛び込めば勝機はある!トオォォオリャァァァッ!」
覚悟を決めて叫び声を上げ、剣を振りかざしてウェルシーは果敢に突進した!

プチ。
「ウェルシーちゃん、つっかまえた♪」
当たり前だが、可哀相なくらい簡単にルーシーの指一本で地面に押さえつけられた。
懐までの高さ50m以上もの間合いがあっては届くわけがなかった。

「さあ、さっさと敗北して私の『お友達』になるのよ。ウフフフフ・・・」
蟻を潰して遊ぶ無邪気で残酷な幼子の笑顔だった。

「見なさい、カイ君!正々堂々の勝負の果てに友情が芽生えようとしています。嗚呼!青春とはスバラシイ!」
「校長先生・・・・・全然違いますよぉ!」
カイは思った、この学校へ通ってて、本当に大丈夫なのか?と・・・

「だ、だれが!グェェェェッ!」
内臓を吐き出しそうなプレッシャーにウェルシ−の顔色が徐々に紫色に変わっていく。
指一本でも大人何トンの重さがあるのか分からないくらいなのだ。だが!?

「ふっ・・・ふふふ。」
だが!?絶対絶命のこのピンチにウェルシーは自信に満ちた笑い声を発していた!

「ルーシー!アンタ、態度が太いわねぇ・・・こっちは二人がかりなのよ!」
「エッ?」
ウェルシーが顔を向けた先に皆の視線が集中する、そこにいたのは老執事・パーカー!

「卑怯とはおっしゃいますまいな・・・」
なにやら怪しげな金属製の箱を抱えた執事が不気味に微笑む。

「おじーさんが助っ人なの?じゃあ手っ取り早くプチッと潰して・・・」
ルーシーはコキコキと手首の関節を鳴らして握り拳を作った。

「い、いえ、違います!わたくしめはタダのセコンドでして・・・助っ人はこれ、この中に!」
パーカーが差し出したのは縦横30cmほどの鈍い輝きを放つ、重そうな金属製の箱。

「その箱の中に何が入ってんの?」
「ふふふふふ・・・よくぞ聞いてくれました!」
興味津々で聞きたがるルーシーにパーカーは自慢げに話し始めた。

「これこそはミニットマン家に伝わる禁断の最終生物兵器!
我が主、大富豪ジョージ・ミニットマン様が若かりし日、冒険者として活躍なされていた頃!
東の果ての国に恐ろしい巨大魔獣があらわれ人々を恐怖のどん底に陥れておりました!
若き旦那様は勇敢にも戦いを挑み、誰もが恐れ逃げ出した魔獣を捕獲したのです!」
「へーっ!あんたのパパって強かったのね。」
ルーシーは指の下でもがき苦しむウェルシーに感心したように話しかけた。

「旦那様はこの魔獣を封印するだけではもったいないと思い、生物兵器として各国に売り込みに行きました。」
「以外とセコイのね、あんたのパパ。」
「ほっといてよ!それくらいの商魂がなきゃ商売人なんて勤まらないのよ!」
呼吸困難な圧力下でもウェルシーは反論した。

「しかし、あまりの強さ狂暴さにどの国も恐れをなし、買おうとする者はいませんでした!」
その場にいた全員が息を呑んだ。危険ゆえに封印された魔獣、それが今ここに・・・

「そんな危険物を校内に持ち込むなんて、やりすぎです!校長、これを見逃す気ですか!?」
たまらず、カイが口を開いた。校長も真剣な顔でうなずいた。

「もし・・・ルーシーちゃんが一言でも抗議したら、直ちにウェルシーちゃんの反則負けを宣言しなさい!」
「ああーっ!校長先生そんな問題じゃないでしょーっ!」
カイ君の叫びも虚しく、試合続行!

「フッ・・・魔獣だかなんだか知らないけど、要するに売れ残り処分品なのね!」
「ああっ!言いぬくいコトをハッキリと言ったわね!パーカー、その最強生物兵器で特大ボケ娘をやっておしまい!」
パーカ−はもったいぶった仕草で箱の側面の鎖を外し、鍵を開けた。

ギィー・・・錆びた蝶番がきしむ音、そして箱の側面の分厚い蓋が開いた。
ノソリ・・・中にうずくまっていた『何か』が身動きした。

ズル、ズル、ズル・・・そいつは暗い箱の中から太陽の下へと這い出してきた。
取り囲む生徒たちが固唾を呑んで見守る中、そいつは四方を爛々と輝く目で見回した。
ブルブルブル!蒼く長い体毛に包まれた体を身震いさせると、四角錐状の短い角の生えた頭を天に向けた。
そして永木に渡る封印からの開放に歓喜するかのように雄叫びを上げた。

「わん!」
・・・・・とても可愛らしい子犬であった・・・・・
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■ 第7章・場外乱闘?魔獣死すべし!
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「パ、パーカー、それは何!?」
ウェルシーは呆然としたまま、聞かずにいられなかった。

「何・・・と申しましても、私も詳しくは存じておりません。最強の生物兵器としか。」
「その可愛らしい子犬のどこが最強なのよ!」
怒りまくるウェルシーに流石のパーカーも泡を食った。

「お待ちを!姿形は平凡な犬のようですが、それはカモフラージュ!
戦慄の超破壊能力を隠し持っているのです!・・・・・と思うのですが。」
「わん!」
器用にも子犬型生物兵器君、どこからか看板を取り出した。看板にはこう書かれていた。

「俺様は地上最強生物だ!どんなヤツでも秒殺してみせる!」
・・・・・全校生徒の目が点になった。

「なら、さっさとかかってきなさいよぉ・・・ほんとにもう、緊張して損したわ。」
呆れ顔のルーシーが、やる気の全然ない挑発をした。

「行け!最強兵器、大魔獣・ガルム!お前の能力を見せる時が来たのだ!」
「わん!」
パーカーにせっつかれて自称地上最強生物兵器・ガルム君はヨチヨチと進撃した。
ルーシーまで80mまで接近したガルム君、立ち止まって前足を上げ、後ろ足だけで立ち上がった。

「お回り。」生徒の誰かが言った。するとガルム君はそのままの姿勢でクルクルと回転し始めた。
「お座り!」また誰かが命じた。ガルム君はお回りを止めて、その場にチョコンと座った。
「伏せ!」ガルム君、頭を地に伏せ次の命令を大人しく待った。
「他になんか珍しい芸ないの?」ガルム君は何処からか傘とボールを取り出した。
傘を口に咥えてボールをポ−ンと投げ上げた。
落下してきたボールを傘で受け止めると、ボールを落とすことなく傘を回し始めた!

「おおっ・・・!」パチパチパチ!
見ていた生徒たちから歓声と惜しみない拍手の嵐!

「すっごぉーい!こんな上手なワンちゃんの大道芸、初めて!」
呆れて見ていたルーシーも大喜び!押さえつけていたウェルシーを放して思わず拍手した。
バパン!バパン!バパン!ガラガラガラ・・・
ルーシーの拍手が生みだす衝撃波で校舎の屋根が吹き飛ばされたがお構いなし!

「な、な、な、なんなのよ!この大道芸犬のどこが最強兵器なのよ!」
「し、しかしお嬢様ご覧を!いつもより多いめに回しておるようですぞ!」
よーやく立ち上がったウェルシーが激怒した!するとガルム君、またしても看板を取り出した!
ウェルシーは看板の下手糞な字を読んでみた。

「なになに・・・『これは地獄へ送る前のほんのセレモニーだ。』ほんとうかしら?
えっと・・・『今から俺様の真の実力を見せてやろう。』じゃあすぐやんなさいよ!」
ガルム君は自信たっぷりにうなずき・・・次なる小道具を取り出した!

「・・・・・一輪車?」
皆の見守る前で、ガルム君は一輪車にまたがった。
傘の上でボールを回しつづけ、フラフラしながらペダルを踏み始めた・・・ガシャン。

「あっ、転んだ!」「大丈夫かな?」「ガルムちゃん、がんばれ!」
生徒たちの心配と声援を受けて、ガルム君は再び立ち上がり、一輪車に乗った。そして・・・
見事に一輪車にのりながら傘の上でのボールを回すという高難易度の芸を成功させた!

ワァァァァァッ!パチパチパチ!
感動と賞賛と拍手の嵐がグランドに巻き起こった!

「このボケ犬!」グァシャン!
愛嬌を振り撒くガルム君の背中にウェルシーは蹴りを入れた。哀れなガルム君はまたしても転んでしまった。

「あーっ!ウェルシーちゃん、ひっどーい!」
「うるさいですわ!何が最終最強兵器よ、哀愁愛嬌兵器の間違いじゃないの?」
ルーシーの非難を無視してウェルシーは力いっぱいガルム君を踏んづけた。
ガルム君、涙を流しながらまた、看板を取り出した。

「なになに?『ごめんなさい、最強生物なのはホントなんです!』・・・・
どこが?どこが!どこが!?『実はあんまり強すぎるんで力を封印されてるんです。』
封印?・・・『首輪が封印になってます。お願いだから外してください。』・・・分かったわ。」
カチャカチャ・・・カチャリ。

「ほら、外してあげたわよ。さっさと・・・」
「ふ・・・ふふふ、ふははははは!」
ガルムは後ろ足で立ち上がり、偉そーな態度で胸を張り、哄笑を始めた。

「やったぞ、ついに封印が解けた!礼を言うぞ、馬鹿な人間どもよ!」
いきなりガルム君は人間の言葉で横柄な台詞を吐いた。

「すごぃ!今度は腹話術だ!」「他にも芸あるのかな?」「鳩出してよ、鳩!」
「・・・ちがーう!これは芸じゃなくてだな、本当に・・・ブッ!」
後頭部に蹴りを入れられて、またガルム君は地を這いつくばった。

「誰が『馬鹿な人間』ですって、誰が?この私に向かって!」
ゲシッ!ゲシッ!ゲシィッ!怒り狂ったウェルシーがさらに何度も蹴りを叩きこんだ!

「グッ・・・グッ、ググッ!いい加減にせんかぁ!」
ババンッ!
「キャッ!」
小規模な爆発がウェルシーを吹き飛ばした!そして爆発の後には・・・
大型犬くらいの大きさに成長したガルム君がいた!

「てめーら、この魔獣ガルム様をよくもよくも大道芸犬扱いしやがったな!」
ガルム君、いや魔獣ガルムの目に怒りと憎悪の炎が燃え上がった。

「自分から進んで大道芸してたんじゃない、バッカじゃないのアンタ?」
「やかましい!好きでやってたんじゃねぇ!」
ルーシーの一言が魔獣の怒りに油を注いだ。

「ちょ、ちょっとパーカー、あいつ全然、私の命令聞かないわよ!」
「そーいえば、旦那様がぼやいておられました。『こいつは命令を聞かないので売り物にならん!』とか・・・」
「そーゆーことは先に思い出しなさい!」
執事とお嬢様の漫才にガルムは目を向けた。

「そーいや、そこの小娘・・・さっきは俺を足蹴にしてくれたよな、何度も・・・」
「それは、その・・・・あ、あなたが言うコト聞かないから!」
「ほんのお礼だ、一番にあの世へ送ってやるぜ!」
バッ!ガルムは駆け出した!一直線にウェルシーに向かって。

「決闘の邪魔よ、ワンちゃん!」バリバリバリ!
とっさにルーシーは魔力の雷を作り出し、ガルムを狙った!

「ケッ・・・遅い、遅い。」
ガルムは軽い跳躍で雷をかわして、ウェルシーの喉笛に食らいついた!

「助けてぇぇぇっ!」
「サヨナラ、お嬢ちゃん・・・グハァッ?!」
バシッ!何かに弾かれるようにガルムは飛ばされ、バランスを崩しながらも着地した。
何かが飛んできてガルムの鼻面にぶつかったとしか思えないのだが、それとおぼしき石や矢の類はどこにも落ちていない。

「てめえか?邪魔しやがったのは。」
ガルムの視線の先には一人の少年がいた。
拳法着をまとった黒髪の少年は片手の手の平をガルムに向け、まるで押しとどめようとするかのような拳法の型でガルムを見据えていた。

「カイ!」「カイ君?」
ウェルシーとルーシーの歓喜と驚きの声。
そこには彼女たちの知っているカイとはまるで別人のカイがいた。

「おかしな技を使うようだな、小僧。」
「まあね、多少は使えるつもりだよ。」
ヒュゥゥゥゥゥ・・・カイを睨んだままガルムは大きく息を吸い込んだ。

「焼け死ね!小僧!!」
ゴォォォォォッ!ガルムの口から真っ赤な炎が噴出した!まっしぐらにカイに向かって!

「カイ!避けて!」
だがウェルシーの言葉に反してカイはその場を動かなかった。
代わりに左右の腕をゆっくりと渦を描くように一回転させた、すると・・・

シュゥゥゥ・・・・・
炎の奔流は空気の渦に巻き込まれるように方向を変え、吹き散らされ、鎮火した。

「やっぱ、タダモンじゃねえな、小僧。」
「岐山流拳法・受けの型『鎮竜円掌』。」
カイとガルムの間の空気にピリピリと電流のようなものが走った。

ひゅん!ひゅん!ひゅん!
「おおっと!あぶねえな。」
ババァン!
アーチェリー部の生徒が放った矢を軽ーくかわしたガルムだが、今度は魔法科の上級生の爆裂攻撃魔法を食らった!
が、煙の中から姿を見せたガルムは既に子牛ほどの大きさにまで成長していた。

「時とともに成長する魔獣か。」
ランボーウ先生が大きな金属製の筒を抱えてあらわれた。

「時間を与えると危険だな。全員、離れてろ・・・」
ドドォン!金属筒が火を吹き、砲撃がグランドを揺るがした。
ガルムのいたあたりの地面は大きくえぐられていた。

「どうなってやがる、この学校は?大人たちだけじゃなく生徒どもまで武器やら魔法やらで襲ってきやがる。」
間一髪、砲撃から跳躍で逃げ切ったガルムは校舎の屋上で悪態をついた。

「おまけに・・・・・」
「トリャァァァ!」ガコォォォン!
ズガン!ルーシーの鉄拳が0.1秒前までガルムのいた場所に突き刺さった!
校舎の半分が瞬時に消し飛び、残り半分はバラバラになって崩れ落ちた。
肉食獣なみの巨体でありながら、ガルムは猫のように身軽に着地した。

「うーっ!ワン公のくせにすばしっこいわね!」
必殺の一撃を外されて悔しがるルーシー!

「バケモノみたいな巨大小娘までいやがる!」
「こんな可愛い子ちゃんつかまえて、バケモノとは何よ!」
ドカドカドカドカドカーン!「っととと・・・危ねぇ!」
頭上から振り下ろされる鉄拳の雨をガルムは紙一重でかわし続けた。
怒り狂ったルーシーの鉄拳乱打でグランドはたちまちクレーターだらけになってしまった。

「ここは、一旦引くとするか・・・」
ガルムの姿がフッ!と霞んで見えなくなった。

「キャーーーーーッ!」
甲高い悲鳴!皆が振り返るとそこには、ウェルシーを前足で押さえつけたガルムがいた。

「悪いが俺はこれで失敬させてもらうぜ、この小娘は・・・」
「何すんのよ!わたしを放しなさい、バカ犬!」
「・・・・・この口の悪いバカ娘は人質だ!追ってくるなよ。」
ガルムはウェルシーの体を口に咥えると、足音ひとつ立てずに校舎のひとつに駆け込んだ。

「あっ、待て!」
「いかん!先生方、追ってはいけません!」
教師たちが後を追って校舎に駆け込もうとしたが、校長がそれを止めた。

「しかし、校長・・・」
「校舎から離れなさい!急いで!」
言われるままに教師たちが校舎から離れたようとしたときに・・・

ドガァーーーン!
ガルムが姿を消した直後に校舎が大爆発を起こした!

「・・・・・逃げられたようですね。皆さん怪我はありませんか?」
地に伏せていた校長がまわりを見回しながら聞いた。
死人が出てもおかしくない惨状なのだが・・・職員の一人が報告しにきた。

「全員無事なようです、ルーシーちゃんが防御結界を張ってくれたようで・・・」
「そうですか、ルーシーさん、見事です!ありがとうございました。」
校長は転入したばかりの巨大児童に頭を深々と下げた。

「えっへへへ・・・任せといてよ!」
誉められたルーシーは照れ笑いした。

「ネッ、カイく・・・ん?カイ君?」
勇敢な拳法少年の姿は校内にはなかった。
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■ 第8章・炎の対決!
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「では、留守を頼みますよ、銀杏さん。私はルーシーさんを迎えに行ってきますから。」
静かな館の門の前でエルマーは銀杏に笑顔でそう言った。
神経質な強張った笑顔であったが。

「あの、エルマー様・・・それくらいのお仕事でしたら私が・・・」
「いえ!ルーシーさんの事は私が、我が師クローニクル様より頼まれた仕事なのですから。」
エルマーはにこやかに笑い、くるりと背を向けて歩き出した。
でも、颯爽とした背中には、なんだか哀愁が漂っていた。

「エルマー様、お気をつけて・・・」
銀杏も不安を押し隠して笑顔で見送った。

**********

ガルムは疾風のように森を駆け抜けていった。
足音もなく、葉音ひとつたてず暗い森の中を影のように走り去っていく。
ウェルシーは気絶しているらしく、声もたてなくなっていた。
その足運びが突然、乱れた。

「畜生!いい加減に放しやがれ!」
何かを振り落とそうとするかのように体を激しく揺らす。

「この野郎、しつこいぞ!」
ドガッ!メキメキメキ・・・
魔獣の体当たりを食らった木々が、やすやすとへし折れていく。
それでも何かは離れてくれないらしい。

「野郎、そんなに死にたいなら・・・」
「岐山流拳技・『背水激掌』!」
バグワァン!ガルムの背で生じた破裂音が森の静寂を破った!
バランスを狂わせたガルムは空中に放り出され、ウェルシーも放して背中から立ち木に激突!
そのまま数本の大木を倒して転倒した。
空中で放り出されたウェルシーの体は地面に落ちる直前に小さな影に抱き受けられた。

「・・・・・あっ、カイ。」
「怪我はないかい?ウェルシー。」
幼馴染の少年の優しい笑顔がウェルシーの目に飛び込んできた。
少女の頬がポッと赤くなった。

「うん、大丈夫よ・・・」
ウェルシーは照れくさくて、少しうつむいた。

「それならいい・・・帰ろう。」
「うん・・・」
普段の高飛車な態度からは想像もできないほど、素直にウェルシーはカイに従った。
しかし、引き返しかけた二人の背後で・・・・・メリメリメリ!
倒木を引き裂いて何かが立ち上がった!

「帰ろう、だって?そうはいかねーな、小僧!」
更に一回りでかくなり、大型の虎を凌駕する体躯となったガルムがニヤニヤ笑いながらこちらを睨んでいた。

「俺様をこれだけ痛い目に会わせてくれたんだ。餓鬼とはいえ、容赦できねェな。」
全身から殺気を放出しながらゆっくり、ゆっくりとガルムが退路をふさぐように回り込んでくる。

「ウェル、危ないから少し離れてて。」
震える少女を木の影に押しこむと、カイは呼吸を整え身構えた。

「お前のような年端もいかぬ子供に武術気功が使えるとは思わなかったぜ。だがな、もう油断はしねェぞ。」
「気功を知っているとはただのケダモノにしては博識だな。」
虎の体躯を持つ蒼狼の姿をした魔獣と少年拳士はジリジリと間合いを詰めた。
ヒュォォォッ。魔獣が大きく息を吸う。
バッ!地を蹴って少年拳士が突進する。

「遅いぞ、小僧!」グォォォォォッ!魔獣の口から飛び出した紅蓮の炎の槍が宙を貫き、カイに迫る。
「ハイヤッ!」身を半回転させたカイの背中を炎がかすめ、焦げ臭い匂いが立ち込める。
タンッ!足元をなぎ払う炎の舌を一瞬の差でカイは跳躍してかわす。
グオォォォオォォォオオオオ!伸びる炎が執拗に空中に逃れたカイを追い、森を焼いた。
ビュゥゥゥン!翼を持たぬ者には自由がきかない空中で、舞い踊るかのように少年の小柄な体は華麗に螺旋を描いた。
ストン!回避不可能な空中でのファイア・ブレス攻撃ををかわしきり、カイはガルムの鼻の先1メートルに着地した!

「子供にしては、たいした体術だな。」
「岐山流拳法・体技『胡蝶天』・・・」
そこで・・・両者の動きが止まった。

「どうした、小僧?自慢の武術気功を打ち込まんのか?それともスタミナ切れか?」
からかうようなガルムの声。

(気づかれたか・・・僕の体力で打ち込めるのはあと一撃が限度だ、と・・・)
「そちらこそ、馬鹿のひとつ覚えのファイア・ブレスはどうしたんだい?」
カイは逆に挑発しかえした。だが、ガルムはこの挑発に乗らなかった。

(感づきやがったか、高い熱量を得るためには5秒感の深呼吸が必要だってことに。まったく油断できねえ。)
たかが深呼吸だが、その間はこちらから攻撃できないし、防御も甘くなる。
この間合いで5秒も隙を作れば、間違いなく気功打で脳天を叩き割られる。

「だがね、坊や!俺には鋼鉄をも引き裂くこの爪と牙がある!」
クワッ!開かれた魔獣の口に並ぶ刃物のような牙!
ジャッ!前足の指先から鋭く長い爪が飛び出す!

ヒュォッ!前足のひと払いを紙一重で避けたカイの肩口の袖がスパッと切れて血が流れた。
ズズズズズ、ドォン!カイの背後では大木が引き裂かれて倒れた。
両者は再びジリジリと摺り足で間合いを詰め始めた。

・・・フォン・・・フォン!
「むっ、何だ?この音は?」
ガルムの耳に奇妙な音の接近が感じられた。だが、目の前の少年から視線をそらすことはできない。

フォンフォンフォン!
「これは・・・・・!危ない、ウェル、伏せて!」
カイの耳にも届いた音は旋回する何かが衝突コースで向かって来ていることを知らせた!
慌てて伏せたウェルシーの頭のすぐ上で何かが衝突し、パシッと軽い音がして隠れていた大木が消し飛んだ。

「馬鹿めが、隙あ・・・なにぃぃぃ!」
ガルムはようやく怪音の正体を視認した。根こそぎ引っこ抜かれた樫の大木が空中を飛来してきたのだ!

ズドォォォン!
反射的に飛びのいたガルムは巻き上がる砂埃と木の欠片から逃れるだけで精一杯だった。

「オーホーホッホッホッ・・・主人公の私から逃げよーなんて百年早いわね!」
高く生い茂る木々の遥か上から勝ち誇る可愛い声!
山を森を一跨ぎ、森の木々を蹴り倒し踏み潰してルーシーがその巨大な姿をあらわした。

「ぬううう、バケモノ娘か!なぜ俺を追ってこれた!」
追ってこれるはずはない。ガルムは足跡すら残さず走ってきたはずなのだ!

「あんたの逃げた後の小枝が折られてたのよ、それを探してきたら簡単に追いつけたわ。」
ルーシーの言うとおりだった。ガルムの走った後で枝がいくつも折れている。

「そんな馬鹿な?俺は走るときにも跡が残らないように・・・貴様か、小僧!」
枝を折っていたのは背中にしがみついていたカイであることにガルムは気づき、カイを睨み・・・
カイの姿がない!ルーシーの出現に気を取られてカイを見失ってしまった!

「ど、どこだ、小僧!どこに消えた?」
「ここだ!」
慌ててふためくガルムの耳元でカイの声。
振り向いた時にガルムに見えたのは、中腰から加速しながら回転しつつ両手の平を突き出してくるカイの姿であった。

ドグォン!打撃音、というよ爆発音に近い轟音が森を揺さぶった。
わき腹にすさまじい一撃を食らったガルムは軽々と宙をすっ飛ばされ森を突き抜けた。
数十メートルを声も出せない激痛の中で飛び、高くそびえる崖下になす術もなく激突した。
ゴゴゴゴゴ・・・・・ズン、ズン、ズズン!崩れ落ちた岩の下敷きになり魔獣は沈黙した。

「岐山流拳技・『螺旋掌』!ハァ、ハァ・・・何とか片付いたか。」
カイはその場に膝を折った。硬気功の使い過ぎで全身に異常な痛みと疲労感があった。
本来なら彼のような子供には使うことができない拳法技の数々を、彼は生まれながらにして使うことができた。
何十年もの修行が必要な拳の奥義を何故使えるかは彼自身にも理由は不明だが、それが百年に一人の超天才拳士と呼ばれる所以でもあった。
だが、高度な拳技を無制限に使えるというわけではない。
気を大量に消耗する技を使いすぎれば子供の肉体では生命の危険すら伴うのだ。

「カイ、ありがとう。私の為に・・・」
「はい、カイ君!さっさと学校に帰るわよ!そこのオマケ!あんたは残ってて構わないわよ!」
カイに駆け寄ろうとしたウェルシーを、不機嫌さ丸出しのルーシーの壁のような巨大な手の平がさえぎった。

「私に向かってオマケとはなによ!アンタ、私を助けにきたんじゃないの?」
「あら、ウェルシー?そー言えばあなたもさらわれたんだっけ?きれいさっぱり忘れてたわ。」
「まぁまぁ、二人とも、喧嘩の続きは帰ってからにしようよ。」
言い返そうとするウェルシーを押し留めてカイは立ち上がり、いきなり表情を強張らせた。
驚きと緊張の視線を崩れた崖下に向けた。

「ガルムの奴め!まだ、生きているのか!」
「・・・・・そうとも!これしきでくたばる俺様じゃないぜ。」
憎悪にみちた声が崩れた岩の下から聞こえてきた。

「見せてやろう、俺の最強形態を!」
ズゴゴゴゴゴ!大地が激しく上下に震えた。
まともに立っていられるのはルーシーだけでカイとウェルシーは木の根にしがみついているだけで精一杯だ!
ビキビキビキ・・・崖に下から上に向かって亀裂が入った。
岩山全体が崩壊し始め、やがて・・・ドォーーーーー・・・・・ン!
大音響とともに岩山が爆発四散した。その煙の中から・・・蒼い巨大な影が立ち上がった。

「これが・・・俺様の本当の姿よ!この姿に戻れるだけの魔力が回復するまでに随分時間を食っちまったがな!」
蒼い体毛に金色に輝く目。半開きになった口元に並ぶ牙は大木の太さと槍の鋭さを備えていた。
後足で立ち上がり、森の木々を見下ろすその巨体は恐らく250m以上に達しているだろう。

「改めて名乗ろう。超巨大魔獣・ギガ・ガルム様だ!」
ウォォォォンンン!狼に似た咆哮が空気をゆるがせ、カイたちを塵のように吹き飛ばしそうになった。

「だ、ダメだ、勝てない!ウェル、ルーシー、君たちだけでも逃げろ。」
カイ自身にはもう体力はない。仮に体力が残っていたとしても今のガルムには通用しないだろう。
自分が囮になって女の子たちを逃がす以外にはない。そうカイは考えていた。・・・・・のだが!

「ほーっほっほっ!たかが背がちょぴり伸びたくらいで、ワンちゃんが大した大口を叩くわね!」
ルーシーは全然、全く、これっぽちも動揺してなかった!
同じ巨大生物同士とは言え2倍以上の体格差にも関わらず・・・

「ならば、見せてあげましょう!本当の変身というものを!」
呆気にとられる一同を前にルーシーは右手を高々と上げた。

「日輪の力を借りて、今!必殺のォォォ、アダルト・タッチ・トランスフォーム!」
ルーシーの宣言と同時に、いきなり日が翳った。いや違う!
晴天にも関わらず、太陽の光が弱まったのだ。ルーシーの周りを除いて。

「ググッ?なんだ?この光は!」
逆にルーシーの体は、ガルムが目を向けられないほどのまぶしい膨大な光に包まれていた!

「ね、カイ?ルーシーは何をしてるの?」
「太陽の光を集めてるんだと思うけど・・・アアッ!」
カイが驚きのあまり我を忘れるほどの劇的な変化が起きた。
光の中のルーシーのシルエットがスゥッと伸びたのだ。
背が伸び、腕が伸び、足がすらりと伸びた。腰まであった髪も足元まで伸びた。
変化はそれだけではなかった。胸が大きく盛り上がり、腰がくびれ、ヒップラインがパンッと膨らんだ。
未成熟な少女の体が成熟した女性の肉体へと超スピードで成長していくのだ!

「・・・・・」
敵味方全員が驚くなかで、光は消え、空が元の明るさを取り戻した。
そして、ルーシーの姿は!
子供服を引き裂く寸前の揺れるGカップ級バスト!
スカートから完璧はみだしヒップライン!
空中を流れるような黒髪の大河!
あどけなさ純真さを残しつつも、人々を魅了する笑顔!
200m級超巨大美女へと変貌を遂げていた。

「ホーッホッホッホッ!これがルーシーちゃんパーフェクト・アダルト・バージョンよ!
お子様バージョンの10倍のパワー!100倍の魔力!そして100万倍の美しさとお色気にパワーアップなの!」
ルーシーの高笑いで一同ようやく我に返った。

「ケッ!多少、乳臭さがなくなっただけじゃねえか?真の戦いというものを俺が教えて・・・」
「お黙り!」
身構えるガルムにルーシーは黙って指先を向けた!

「ふん!俺様相手にどこまで戦えるか見せて・・・」
「お座り!」
「ワン!」
ルーシーの一言でガルム君はお行儀良く『お座り』をした!

「お手!」
「ワン!」
差し出されたルーシーの手の平にガルム君は『お手』をした!

「お回り!」
「ワン、ワンワンワ・・・???違ぁーーーうぅぅぅ!」
お回りの途中でようやく気がついたガルム君の猛然たる抗議!

「俺はな!犬じゃな・・・」
「ホーラ、拾っといで!」
ブン!ルーシーは適当に引っこ抜いた木を放り投げた。

「ワン、ワン、ワンワンワン・・・・・」
ガルム君は地平線の向こうに飛んでいった木を、楽しそうに追いかけていった・・・。

「行っちゃったよ。」「行っちゃったわね。」
カイとウェルシーはあきれたようにガルムの走り去った方角を見ていた。

「じゃ、帰りましょ。」
「そうね、帰りましょ。」
「いいのかなぁ?」
帰ろうとするルーシーとなげやりに同意するウェルシー。カイはどうも納得できないようだ。
その背後からものスゴイ土煙が追っかけてきた。

「待て待て待てぇ!てめえら!ハァッ、ハァッ、ハァッ、待ちやがれ!」
息を切らせたガルム君だった。

「あっ、戻ってきた。」
「でも、さっき投げた木、ちゃんと咥えてるわよ。」
「意外と律儀なのね。」
「やかましぃっ!どこまでも俺様をワンちゃん扱いしやがって!焼け死にやがれ!」
ヒュゴォォォッ!ガルムは大きく息を吸い、火炎放射の体勢に入った!

「危ない!ウェル!」
カイはウェルシーに向かって走った。ガルムは火炎放射で無差別攻撃をかける気らしい。
そうなればウェルシーは一瞬で黒焦げだ。
ルーシーも駆け出しつつ精神を集中し、手の中に輝く球体を作り出した。

「どいつもこいつもくたばりやがれ!」
グワァァァァァ!先程までとは比較にならない炎がガルムの牙の間から噴出した!
赤い炎の塊が最初に狙ったのは・・・ウェルシー!

「キャーッ!カイ、助け・・・」「ダメだ、間に合わない!」
だが、カイが絶望の叫びを上げる寸前にウェルシーの体が輝く球体に包まれた!

「こ、これは?」
炎が触れる寸前、カイの目前で光の球体はウェルシーごと消滅した。
が驚く暇もなく、今度はカイの頭上に炎の雨が降り注ぐ。

「ウッ・・・・・?」
炎の雨もカイに達することはなかった。間に割り込んだルーシ−がこれまた間一髪でカイを拾い上げていた。

「大丈夫?カイ君。」
「う、うん、助かったよ。ありがとう。」
「そう?えへへへ・・・」
ちょっぴり照れくさそうに笑うルーシー。炎は彼女の掌から放出されている光の壁で止められていた。

「マジック・シールド(魔法の盾)か。多少は使えるようだな。」
ガルムは忌々しげにルーシーを睨みつけた。

「でもウェルシーは何処に行っちゃったの?」
「安全なところに魔法で転移したの。」
− 転移 −空間を操る高度な魔法のひとつで、物体を遠く離れた場所へと瞬間移動させることができる。
この魔法を操れる魔道士は世界でも数える程しかいない。

「で・・・どうしてウェルだけ転移させたの?僕たちも一緒に逃げればよかったんじゃ・・・」
「あのワンちゃん野放しにしとけないでしょ!それにカイ君、か弱い女の子一人をあんなバケモノと戦わす気?」
「か、か弱い・・・・・って誰が?!」
「そんなことより、そこは危ないわ。さあっ、乗って。」
ルーシーはカイを空いてる方の手に平に乗せた。
その背後から再び炎の激流が迫る!

「ちょっぴり、我慢しててね。」
「わっ!」
カイはを胸のポケットの中に放りこみ、ルーシーは炎の前に手をかざした。
炎はシールドを破れず、ルーシーを目前に逆巻き荒れ狂うだけだった。

「ルーシーちゃん、奴は次の火炎放射を撃つまでに5秒かかるよ!」
「分かったわ、カイ君。それじゃあ、その隙に・・・」
シールドの影でルーシーは短距離走のスタートのように姿勢を低くした。炎が止まった。

ダッシュッ!
ドカッ!「グゴッ!?」
500m程の距離を一瞬で詰めてのショルダー・アタックが炸裂した!
目を白黒させるガルムに追い討ちの右ストーレト!

「チッ!」
ガルムは驚異的な跳躍力でルーシーの頭上を飛び越して脱出!

「逃がすものですか!」
頭を一振りしたルーシーの黒髪が伸び、空中のガルムの後ろ足に絡みつく!

「しまった!」
捕らえられたガルムの巨体がブゥン、ブゥンと振り回され、空に大きな弧を描く!

「大人しく、くたばりなさぁい!」
ルーシーが首を大きく振りかぶり、ガルムを地面に叩きつける!

「クソッ!」
振り回され地面に叩きつけられる一瞬前にガルムの爪が絡みついた黒髪を切断!
バシッ!地面に激突ギリギリで身を翻したガルムはなんとか四足で着地した。

「やるな、小娘。」「やるわね、ケダモノ。」
一瞬の攻防であった。
ちなみにポケットの中のカイ君は飛んだり跳ねたりの激しい動きにはついていけず目を回していた。

「そ、外はどうなっているんだ?」
ポケット内は狭くはなかったが、はちきれそうな乳房に圧迫されて身動きもできない。
しかもポヨポヨした柔らかさと暖かさ、ルーシーの呼吸の音と激しい心臓の鼓動がガンガン伝わって来る。
危険の只中だと言うのに気分いいような恥ずかしいような、なんとも妙な気分になってしまうのである。

「と、とにかく動くと危険だな・・・」
布一枚はさんで大きなオッパイにしがみついたカイは赤面しながら体を固定するのに必死だった。

「アン・・・カイ君ったら、感じちゃう・・・」
「ケッ!戦いの真っ最中に何悶えてやがる?自分の命が危ねぇってのが分かってねえのか?」
「どうかしら、貴方の決め技は封じたわよ?ワンちゃん!」
「俺様は犬じゃねえと何度・・・まあ、いい。この程度で技を封じたつもりか。」
フフンとガルムは鼻先で笑った。

「じゃあ見せてやろうか、俺様の真の実力をな・・・」
余裕の笑みを見せるガルムの首がブルブルと震え始めた。
震えは激しくなりガルムの表情さえ分からないほどの振動となり・・・いきなり止まった。

「な、なによ・・・それは!」
「どうしたの、ルーシーちゃん・・・これは?!」
様子を見ようとポケットから首を出したカイは驚くべき変貌を目にした。

「これが・・・」「俺様の・・・」「切り札よ・・・」
ガルムの頭は、それ自体は変わっていないのだが・・・
肩の上に同じ顔が3つ乗っていた!そのそれぞれが喋り、ルーシーたちを嘲るように露骨に笑っていた。

「3つの首で・・・」「ファイア・ブレスを使えばどうなるか・・・」「身をもって体験しなよ!」
ゴォッ!右肩の首が灼熱の炎を吐き出した!
咄嗟にルーシーは右手を突き出し、魔力の盾を作り出した!

バババババ・・・・・炎は完璧にマジック・シールドに阻まれ、虚しく拡散し森を焼いた。
「ふんだ!威力が上がったわけでもなし、さっきと同じじゃない!」
ルーシーは自慢げに鼻を鳴らした。この程度なら、さほど警戒することはない・・・

「甘いな、お嬢ちゃん・・・」「これで終わりとでも思うかい?」「これからが本番だぜ!」
グォォォッ!
炎を吐き終えた右の首に代わり、真中の首が第2射を吐き出した!
視界の全てが炎に包まれ、ルーシーもガルムも互いの姿も見えなくなったがそれでもシールドは破れる気配がない。

「何度来ても同じよ!ワンちゃんの炎じゃ、マジック・シールドは突破できな・・・」
「違う!ルーシーちゃん、あいつの狙いは・・・」
「えっ、どーゆーコトなの、カイ君?・・・キャッ!」
炎の連射が停止しない!5秒が限度で息継ぎが必要なはずの火炎放射が全く止まらないのだ。

「エッ?エッ!どーして?炎が全然とまんないヨォ?!」
炎が途切れた瞬間の反撃を狙っていたルーシーは動きを封じられた!
こちらから仕掛けようにもガルムの姿は炎に隠れて見えず、シールドからでれば黒焦げになる。

「これがあいつの狙いなんだ。こちらの動きを完全に封じるのが・・・」
カイは歯軋りした。ガルムの術中に完全にはまってしまったのだ。

「どうしたんだい?元気のいいお嬢ちゃん。」
「どっからかかってきてもいいんだぜ。」
「遠慮しねェで魔法でも拳法でも使えよ、ワハハハハハ・・・」
炎の向こうから嘲りの声だけが聞こえてくる。

(失敗だわ・・・このままじゃ、カイ君まで黒焦げにされちゃう。)
ルーシーは自分の迂闊さを呪った。
ダメージを覚悟してシールドを外し、炎から強行突破して攻撃に転じるか?
しかし一瞬炎にさらされるだけでも自分も大火傷を負い、カイはその瞬間に焼死するだろう。
転移魔法でカイだけでも安全な場所に送るとしてもシールドを外さねば転移できない。

「やっぱ、アイツの炎が種切れになるまで耐えるしかないかな?」
「いいや、それは無理だよ。」
ルーシ−は胸元を見た。ポケットから顔を出したカイがこちらを見上げている。
カイの表情は森林火災の高温と先程の戦いのダメージでかなり苦しげだ。

「でも、持久戦に持ち込まないと勝ち目が・・・」
「ガルムの奴は持久戦に持ち込むつもりはないよ。炎に隠れて少しずつ間合いを詰めてきてる。」
ルーシーはガルムのいるはずの方向を見た。吹きつける灼熱の炎以外は何も見えない。

「アイツが何してるのか分かるの?見えないのに・・・」
「カンというか、気配でね・・・ガルムは今、距離2000メートル、後ろ足で立ち上がってる。
・・・距離1950、気づかれないように近づいてくる。距離1900・・・
多分、前足のアイアン・クローでシールドごと君を切り裂くつもりだ。」
・・・・・カイの言葉でルーシーは考え込んだ。
マジック・シールドは炎を防ぐだけで精一杯で鋭い爪で攻撃されれば一瞬ももたない。
敵の位置がわかるからといっても、シールドを外して攻撃に移ればカイは焼け死ぬ。

「ならばチャンスは・・・カイ君、アイツの攻撃の瞬間は分かる?」
イチかバチかの賭けにでる決意をルーシーは決めた・・・・・

「どうした、どうした?」「減らず口を叩く余裕もないのか?」「燃え尽きるまでガンバルかい?」
3つの口で3倍の悪態をつきながらガルムはルーシーのすぐそばまで寄ってきていた.
シュキーン!前足の指先から30メートルはありそうな黒く長く、鋭い爪が伸びた。
(俺様のこの爪で小生意気な小娘・・・いや巨大娘を切り裂いてやる!)
タカビー成金娘に足蹴にされ、拳法使いの小僧にどつきまわされ、巨大小娘には芸をする子犬扱い!
大魔獣ガルムの怒りは既に頂点に達していた。

(散々コケにしてくれたな。だが、これでおしまいだ!)
ガルムはユックリと前足を振り上げた・・・

「距離50メートル・・来る!」
「了解!」
カイの合図にルーシーは短く答え、そして・・・

ババッ!「なんだとぉ?!」
ガルムの眼前に炎が逆流してきた!ルーシーが炎を押し返すようにシールドをぶつけてきたのだ!

「ケッ!くだらねえ小細工をしやがって!」
シュバッ!荒れ狂い、全身を包み込もうとする炎の壁をガルムは鋼鉄の爪で薙ぎ払った。
炎は引き裂かれ、その影に潜むルーシーを両断する!
だが・・・0.1秒だけ遅すぎた。
視界の隅で炎の一部が歪み、せり出すように突出してくるのが見えた。

ドグォッ!
鈍い音がした。右の脇腹にルーシーの左拳がめり込んでいた。

「グッ・・・?」
脇腹から胸まで突き抜ける衝撃にガルムは一瞬の間だけ絶息した。
突き上げてくる膨大なパワーが、10万トンを超えるガルムの巨体を宙に浮かせた!

「当ったりぃ・・・♪」
炎が飛び散り、地面すれすれに低く身構えたルーシーが姿をあらわした。
彼女の顔面に向かって鉤爪を振り下ろそうとしたガルムだが、さっきの衝撃で全身が痺れ動けない!

ドグォッ!
ルーシーの渾身の右ストレートがガルムの鳩尾に叩きこまれた!
ガルムは体をくの字に折り曲げて後方へブッ飛ばされた!

ズザザザザザッ!メキメキメキ!
燃え盛る木々がガルムの体に巻き込まれて吹っ飛び、大地がえぐられて長く深く大きい溝を穿った。
ドゴォン!
ガルムの体長300メートルの巨体は背後の崖にぶつかってようやく停止した。

「グ・・・ガハッ!」
血を吐きながらもガルムは立ち上がった。だがその足元はフラフラと頼りない。

(な・・・なんてェパンチだ。)
これほどのパンチを食らったのはガルムの400年の生涯で初めてだった。
顔を上げるとルーシーは轟然と胸を張ってガルムを見下ろしていた。

「まだやるの?」
からかうような見下した言葉。

「・・・元気・・・イッパイ・・・だぜ、へっ!」
生意気そうな巨大小娘の顔面に炎を吹きつけてやろうとしたガルムは愕然とした。
(い、息ができねえ!しまった、小僧に打ち込まれた気功の影響か!)
火炎放射に必要な深呼吸ができない!
カイが打ち込んだ『気』がガルムの体内のエネルギーの流れを狂わせ始めたのだ。
焦るガルムの目に子供の喧嘩のような握り拳が飛び込んできた。

ガコッ!
3つの首のうちの右肩の首に斜め上から左フックがブチ込まれた。
ガルムの首筋でゴキッと嫌な音がして、数本の牙がへし折れて空中に散らばった。
ズダダダーーーン!一回転して落下したガルムの下で広範囲の地面が陥没した。
(・・・・・大口叩かなきゃよかった・・・)
ガルムは少し後悔した。

「まだ・・・やるの?」
ルーシーはガルムの胸ぐらを掴み無理矢理引き起こした。

「へっ・・・へへっ・・・・・」
グロッキー気味のガルムではあったが、弱気を見せるつもりはない。
口元に不適な笑いを浮かべた。

ガコォォォン!ドゴォォォン!
その口元に猛烈なアッパーカット!
ガルムの体は垂直に1000メートル近く上昇し、頭から墜落した!
(虚勢なんかはるんじゃなかった・・・)
ガルムはかなり後悔した。

「まだ、やるの?」
情け容赦なくルーシーは詰め寄った。
ガルムの右の首は牙を叩き折られ、目玉も飛び出すほど殴られて再起不能。
真中の首は後頭部を強打したらしく白目を剥いて失神。
唯一意識を保っている左の首は顎を粉砕されている。最早、戦闘不能状態であった。

「も、もう・・・やめ・・・」
弱々しい声でガルムは懇願した。満足そうに無言でうなずくルーシー。

「危ない!ルーシーちゃん、離れろ!」
ポケットの中でカイが叫んだ!キョトンとするルーシーの間近で・・・
気絶していた筈の真中の首がカッと大口を開けた!

ボワッ!「キャァァァ?!」
オレンジ色をした炎がルーシーを包み込んだ!
咄嗟にカイのいるポケットを庇うのが精一杯のルーシーの全身を、紅い炎が燃え広がっていった・・・

ゴォォォッ!ギャァァァ・・・・・
燃える炎を身に纏ってルーシーは身もだえし、叫び声を上げた。
生きた炎の塊となった彼女は狂ったように踊りつづけ・・・
ポケットの中のカイも身を焦がす熱さと煙で呼吸困難に陥り、ルーシーは狂ったように炎を身に纏って踊り続けた。
ズシィィィ・・・・・ン。やがてルーシーは倒れて動かなくなった。

「ハァハァ・・・グハッ!」
ガルムも膝をついた。左右二つの首が徐々に縮んで消滅し、真中の首だけがゼエゼエと息を乱している。
肺の底に残っていた最後の一呼吸を使い切ってのファイア・ブレスだった。

「最高温度とはいかなかったが・・・巨大娘をバーベキューにするにはなんとか足りたな。」
ギリギリの勝利・・・ガルムが封印された時の戦いでさえ、ここまで苦しくはなかった。

「それにしても今の世にはこんな奴がゴロゴロしてるのか?
俺が30年ばかり封印されている間に、おっかない世界になったもの・・・?!」
ガルムの言葉は途中で切れた。ケシ炭になったルーシーの体が少し動いたように見えたのだ。

「まさかな、気のせいか・・・ハッ!?」
バキャッ!
驚くべきことに全身炭化して絶命したはずのルーシーが真下から両足で顎に蹴りを入れてきたのだ!
油断していたガルムは前足で顎をガードするのがやっとで、軽々と蹴飛ばされて後方に倒れこんだ。

「ば、ば、ば、馬鹿なッ!」
よろけながら立ち上がるガルムの目前で焼死体と思われていたルーシーも立ち上がった!

「ふっふっふぅ・・・・残念ねぇ、ワンちゃん。油断大敵、火の用心!なーんちゃって・・・」
パラリ・・・真っ黒な燃え滓となったルーシーの乳房の皮膚が剥がれ落ちた。
その下から初々しいピンク色の乳首が無傷で顔をのぞかせた。
指先から、腕から、太股から臀部からも黒い燃え滓が剥がれ落ち続けた.
あたかも、さなぎの殻を破って美しい蝶が羽化するかのように。
バサッ・・・頭部の焦げを断ち割って流れ出た黒髪が空中に優雅なループをいくつも作った。
バリッ!胸のあたりに残っていた燃え滓が一気に崩れ落ち、文字通り双子の山を思わせる巨大な乳房が揺れた。

「そ、そんな・・・」
驚愕するガルムの前でルーシーの体の表面から黒い燃え滓が次々と剥がれ落ち・・・
輝くような瑞々しい裸体が焦げ目ひとつない全身をあらわした!

「貴様ァッ!なんで無傷なんだァッ!?」
「ふふふ・・・説明が必要なようね。」
燃え滓の中からルーシーは完全復活した。
身につけているのは熊さんマークのついたパンツのみ!
左手の中に握り締めていたカイが気を失っているだけで無事なのを確認しながら、ルーシーは超然とした態度で説明しはじめた。

「現代は学校の中でさえどんな危険事態が起こるか分からぬご時世。
女の子の貞操は常に危機にさらされているといっても過言ではないわ。」
「あ、あの・・・」
ガルムは何か言い返そうとしたがルーシーに無視された。

「しかるに!女の子の大切な大切な貞操を守る『最後の砦』ともいうべきパンツのなんという脆弱さ!
凶悪変質者の指にかかればただの一引っ張りであえなく脱がされてしまうという現実!」
「そ、そういう問題じゃないと・・・」
ガルムは反論したかったが、そもそも論点がどこに行ってしまったかも分からなくなった。

「明らかな下着屋さんの設計ミス!私は・・・そこを衝いた!」
「い、いや、それは、設計ミスとかじゃないような気が・・・」
「ありとあらゆる素材で実験と縫い合わせを繰り返し、ついに!この『耐熱耐寒耐衝撃パンツ』を完成したのよ!」
ピカーッ!パンツの真中にプリントされた熊さんのマークの目が光った!
するとパンツの周囲に僅かに焼け残っていたピンク色のフリルがウネウネと動き出し、蔦が成長するように伸びだしてルーシーの太股に巻きつき保護した。

「ウフフフフ・・・ホーッホッホッ・・・!」
「・・・・・嘘だろ、オイ。」
自慢げに高笑いするルーシーを前にガルムは蒼白な顔で膝をついた。混乱する思考が頭の中で渦を巻いた。
そんな無茶苦茶なパンツが最近は必要だというのか?
第一、こんな出鱈目に強い巨大娘にそんな装備が必要あるのか?
いや!そもそもこんな巨大娘を襲うよーな、命知らずな変質者がいるとでもいうのか?
もう、何がなんだか全然わからん・・・・・ガルムはマジで頭が痛くなった。
ただひとつ分かっているのは・・・自分の身が絶体絶命の危機にあるということだけだ。

「グッ・・グフッ。」
もう一度、火炎放射をお見舞いしようにも呼吸も満足にできない。
カイが打ち込んだ拳法の『気』は完全に呼吸中枢を麻痺させていた。
さらに先程のルーシーの蹴りがガードの上からでも牙と顎を叩き割っていた。
噛みつき攻撃も不可能なのだ。だが・・・・・

「舐めるなよ、小娘・・・・・じゃなかった大娘!俺にはまだ鋼鉄をも引き裂くこの爪があるんだぜ!」
シュキーン!ガルムの両前足から黒い鋭い爪が伸びた!
黒光りする6本の爪の長さはおよそ60メートル、ルーシーの体でも両断できる巨大さだ。

「なら・・・さっさとかかってきなさい、ワンちゃん!」
ルーシーは両手を身構えてボクシングのようなファイティングポーズをとり、対するガルムは四つんばいになって低く身構え極限まで体を反らせて飛びかかる体勢を整えた。そのまま彫像のように動きが止まった。

(ワンちゃん、スタミナがもうないみたいね。一撃に賭ける気ね・・・)
(左手はカイとかいうガキを持っている。右手しか使えんはずだ。)
すでにお互いに相手の間合いに入っていた、攻撃すれば確実にヒットする距離だ。
互いの肉体も、風も、炎も、感覚される全てが静止していた。音さえなかった。

パチッ。炎が弾ける小さな音が引金となった!
超巨大魔獣と超巨大娘は激突した
ビュン!グォン!ガルムの黒く長い爪が空気を切り裂き、ルーシーの巨大な右拳が爆音を上げて突き進む!

(どちらが速いか勝負・・・いや、違う!)
何か見たわけでも聞こえたわけでもない。ガルムの野生のカンが正体不明の危険を告げた。
野生動物にのみ可能な反射神経でガルムは迫り来る鉄拳に向かって自分からぶつかるように身をよじった。

・・・だが、ガルムを撃ちぬくかに見えた拳は途中で停止していた!代わりに・・・
ビュオッ!真下から吹き上げた熱い風がガルムの頬を掠めた!
頬の体毛が数本切り取られ、鮮血が宙に飛んだ。

「右ストレートはフェイント?本命は蹴りだったか!」
ガルムは背筋に冷や汗が噴出すのを感じた。
今、一瞬でも遅ければルーシーの蹴りはガルムを捉え、頭を吹き飛ばされていただろう。

「うっそぉーーー!?かわされちゃった・・・」
一方、ルーシーは必殺のフェイントを破られ、空振りした左足を高々と頭上に上げた、完全に無防備な体勢になってしまった!

(勝った!)この瞬間ガルムは勝利を確信した
(殺られた!)ルーシーはコンマ数秒後に自分が鋭い爪に切り裂かれることを知った。
スローモーションのように迫ってくるガルムの爪をルーシーは見つめているしかできなかった。

「振り下ろせ!」誰かの絶叫がルーシーとガルムの間に響いた!

(誰だ?振り下ろす?何を・・・)
ガルムは意味が理解できなかった。そのとき頭部の体毛に何かが触れたのに気がついた。
(何だ?何かが俺の頭に触った・・・グッ?)
ガッ!何が触れたか知る前にガルムの脳天を猛烈な衝撃が襲った!
山ほどもある巨大なハンマーで思いっきりブッ叩かれたような衝撃!
頭の中で百万の星が飛び散り、耳の中で千万の鐘の音が鳴り響いた!
脳天から伝わった衝撃は顎を突き抜け、背骨を走り、爪の先まで伝播した!

「グ、グ、グオォォォ・・・?」
半ば意識をぶっ飛ばされながら目玉を動かして頭上を見た
どでかい足首が頭の上に乗っかっているのがなんとか見えた。

「か、か、踵落し?そんなのありかよ・・・」
失敗した蹴り・・・ルーシーはその失敗を利用し、勢いをつけた踵をガルムの脳天に叩きつけたのだった。
完全に白目を剥いたガルムの眼前に凄い勢いで、焼け爛れた地面が迫ってきた。

ズドォーーーーー・・・・・ン!!
前に引きずり倒されたガルムの巨大な肉体は激しく地面に激突し、土煙がもうもうと立ち昇った。
大地を揺るがす激突は直径1000メートル以上のクレーターを出現させたのだった。

「やったね!ありがと、カイ君」
ルーシーは左手の指を開いて、その中にいるカイにお礼を言った。
さっきの「振り下ろせ!」の一言は意識を取り戻したカイのアドバイスの声だったのだ。

「どういたしまし・・・」
カイの言葉は途中で止まり、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「カイ君?どうしたの?」
「なんでもない・・・」
顔を反対側に向けたまま、カイは手の平の上に座り込んでしまった。
少年の目に焼きついたもの、それは視界を占領する大きな大きな・・・・二つの乳房だった。
少々、刺激が強すぎたらしい。

「火傷でもしたの?大丈夫なの?」
「・・・・・なんでもないったら。あっ、ほらガルムの奴が!」
驚くべきことに致命傷の一撃を食らってなお、ガルムは生きていた!

「まだ、やる気なの?!」
再び身構えるルーシ−の前でガルムは地に這いつくばったままでゴソゴソと動き、そして・・・・・
どこからか一枚の看板を取り出した。

『参りました!降参です!命ばかりは見逃してください!』
看板の敗北宣言を読んでカイとルーシーは顔を見合わせた。

「どうする、ルーシーちゃん?」
「どうするって、決まってるでしょ。もう負けを認めたんだからこれ以上は・・・」
「そうだね、これ以上は・・・って?おい、何すんの!」
ズシン!
何を考えているのか、ルーシーは横たわったガルムの背に馬乗りになったのだ。

「グワォゥ?!」
絶叫がガルムの口からほとばしった!痛めつけられた背骨に超大質量が乗っかったのだから無理はない。
さらにルーシーは右手でガルムの首を掴み、ギュッとねじった!

ギシッ・・・・・ブクブクブク。ガルムは泡を吹き始めた。

「あんたが燃やしちゃった私のお洋服はねぇ、特注品なのよねー。
洋服屋さんが針子さん総動員して一ヶ月もかかったし、特別料金も取られたのよ。」
燃やされた服に限らず、ルーシーの服は、靴下や下着も含めて全て特注品なのであった。
確かに、身長100メートルの巨大子供服を普段から置いている洋服屋などあるわけがないのだが。

「ブクブクブク、だ、だからって俺にどうしろと?」
「モ・チ・ロ・ン、弁償して貰うのよ!」
ミシミシッ!ルーシーが指先に力を込めるとガルムの首から嫌な音がした。
ガルムの吹き出す泡に血が混じり始めた。

「弁償ったって・・・俺は・・・金なんか・・・」
「そうでしょうね、だから現物でいただくのよ。」
「げ、現物って?」
「立派な毛皮があるじゃない!」
ルーシーの意図を理解して、ガルムは全身に鳥肌が立つのを感じた。
彼女はガルムの毛皮を生きたまま剥ぐつもりなのだ!

「そ、そんな!そんなことされたら俺は死んじま・・・」
「心配しなくていいわよ、残ったお肉の方はよーく煮込めばいいスープになりそうだし・・・」
「!!!!!!」
ガルムは声も出ないほど恐怖した!生きながら生皮を剥がれ巨大少女に食われる!?

「ヒヒィィッ、助けて!も、もう悪いことはしません!お願いだから見逃して・・・」
「へっへっへーんだっ!手遅れに決まってるでしょ!」
嬉々としてルーシーはガルムの背中の毛皮をブチブチッとむしり始めた!
激痛にのたうつガルムを押さえ込んで・・・

「もうそのくらいで、やめてあげて。」
「えっ?」
ルーシーの手が止まった。カイがルーシーの『残虐行為』をやめさせようとしていたのだ。

「でもさぁ、カイ君!こいつ凄く悪い奴なんだよ!」
「いくら悪いことをしたからって、死んじゃったら可哀相だろ?」
背中の上で交わされる会話をガルムは複雑な心境で聞いていた。
(魔獣と呼ばれた俺様が同情されてる、。なんか情けない・・・)


「でも、お洋服燃やされちゃったしぃ・・・カイ君だってひどい目にあわされたし・・・」
「いかなる物品でも命に代えることはできないし・・・弱いものいじめする娘って、僕は嫌いだな。」
黙って聞いてたガルムは悲しい気分になった。
(俺は・・・最強最終生物兵器と呼ばれた俺様は・・・ただの弱い奴だったんだろーか?)

「分かったわよォ・・・」
不満そうなルーシーだったが渋々承知した。
カイはホッとして、それから思い出したように尋ねた。

「ルーシーちゃんは怪我はなかった?」
「えっ、怪我?・・・・・ウッ!」
ルーシーはいきなり胸を押さえて、その場にうずくまった!

「どうしたの!どこか怪我を・・・」
「さっき、噛みつかれた傷が・・・ううっ!」
胸を押さえて苦しむルーシーを前でカイは動転した。
応急処置をしようにもこの体格差では・・・
一方、ガルムはキョトンとしていた。

(噛みつかれた傷?俺は噛みついてはいないはずなんだが・・・)

「ルーシーちゃん、しっかり!」
「ううっ・・・か、カイく・・・ん!助けて・・・」
「ルーシーちゃん!!ルー・・・・・?」
その時、カイはルーシーの瞳をまともに見た。
一瞬、黒い瞳が金色に輝いたような気がした・・・と思うと気がふっと遠くなった。
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■ 第9章・戦い終わって日が暮れて・・・
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「こ・・・これは・・・この破壊状況は一体?」
校門をくぐったところでエルマーは呆然となった。
ルーシーの帰りが遅いので心配して迎えに来たのだが・・・
人間が何十人も入れそうな深く大きな穴だらけのグランド。
見る影もないくらい粉砕されつくした校舎。
崩れ落ちた屋根がプスプスとくすぶり続ける体育館。
想像もしなかった惨状にエルマーは軽いめまいを覚えた。

「おお、これはエルマー様!お久しぶりでございますなぁ!」
朗らかな笑顔を浮かべつつ校長先生が彼を出迎えた。

「あ、あの、校長?この惨状は、この学校で一体何が起こったのです?まさかルーシーちゃんが・・・」
「ん?おおっ!そうそう、今時珍しいくらい元気のいい暴れっぷリでしたのぅ。
流石はクローニクル様のご息女というところですかな?フォッフォッフォッ・・・・」
楽しそうに笑う校長先生の傍らで、エルマーは表情を失い、蒼ざめ、ガクッと膝をついた。

「そ、それでルーシーちゃんたちは何処へ?」
「ん?確か・・・ウェルシーちゃんやカイ君と一緒に大きなワンちゃんを追いかけて山の方へ走っていきましたが。」
エルマーは震える手で懐から『頭痛薬』と書いた小瓶を取り出した。
十数錠の薬を手の平の上にぶちまけると自分の口に押し込んだ。

「・・・・・分かりました。私がすぐに連れ戻して参ります!」
ちょっぴり虚ろな目で前方を凝視しつつ、エルマーは裏山に向かって歩き始めた。

「彼らを見つけたら、暗くならないうちに家に帰るように言ってあげてください。」
とっても呑気な校長の声が背後から聞こえてきた・・・

**********

ヒュウゥゥゥ・・・・・吹き抜ける渇いた風の音でカイは目を覚ました。

「僕、今までどうしていたんだろう・・・」
彼は荒涼とした岩場に倒れていた。
起き上がりあたりを見回すが、灰色の空と褐色の砂漠だけの風景が果てしなく広がっていた。

「ここは何処だろう?それに、ルーシーちゃんは何処に?」
平坦な岩場を探し回ってみたが、誰もいない。

「何も聞こえないや・・・いや?微かに何か聞こえる!これは・・・」
「・・・・・カイ・・・くん。」
「ルーシーちゃん!ルーシーちゃんだね!!」
風に混じってかすかに聞こえたのはルーシーの声だった。

「無事なの?どこに居るんだい?」
「私・・・ワンちゃんに捕まって・・・」
「違う!俺は何も・・・」
バキッ。ガルムの素っ頓狂な声に続いて何かを鈍器で殴ったような音。
数瞬おいて、ガルムの涙声が聞こえてきた。

「・・・・・ウッ、ウウッ、そうだ!俺様がルーシーちゃんを誘拐したのだ。文句ねぇだろ、これで!」
ゴキッ!骨をへし折られたような音がして、またガルムの声が途切れた。

「・・・アウゥゥゥ・・・返して欲しくば助けに来るがいい・・・」
何故か激痛を我慢したよーな情けない声でガルムはカイを挑発した。

「わかった、今すぐ行く!それまでルーシーちゃんに手出しするなよ!」
虚空に向かってカイは怒鳴った。

「手出し?そんなとんでもねえコトできるわきゃねぇだろ・・・ウグッ?」
ミシミシミシ・・・首をねじ切られるような不気味な音が長々と続く!

「・・・わ、わかった!俺の命が惜しかったら、いや!小娘の命が惜しかったら早く来い!
・・・・・できるだけ急いでくれよ!頼むから・・・」
悲鳴に近いガルムの声はそれっきり聞こえなくなった・・・・・

「とにかく急ごう!でも、どちらに行けば?」
途方にくれるカイの耳にルーシーの声は静かに告げた。

「そこから二つ並んだ山が見えるかしら?その山の頂上にカイ君を私の元へ転送する装置のスイッチがあるわ。」
「あれか・・・」
カイの前方にすり鉢型をした小さな山が二つそびえていた。
互いを鏡に映したような山の頂上には確かにスイッチらしき円筒形の岩のようなものが突き出している。
カイは急ぎ足で山へと向かった。

**********

「うふふふ・・・そうよ、その調子よ、カイ君!さあ、早く私の敏感な所まで登ってネ!」
ルーシーは口元を悦びでほころばせつつ、自分の胸元を見た。
寝そべった彼女の乳房はまさに山のように天に向かってそびえていた。
乳房を山とするならその麓に四つん這いになって、ロック・クライミング?を試みる小さな裸の人影があった。
その人影はもちろん・・・カイ!

「カイ君ったら今、登ってる岩山が私のオッパイだなんて夢にも思ってないだろーな。
私ってば結構、幻術も上手じゃん!」
カイの目の前に見える荒涼たる岩山は実は幻影であり、実体はルーシーのでっかい乳房なのだ!
時折聞こえていた音声もルーシーが現実世界から送った声だけが本物で、あとの風の音などは全て幻聴なのである。
カイは自分自身が服はおろか下着すらすべて剥ぎ取られていることにさえ気がついていなかった。

「悪魔だ・・・この小娘、いや、大娘は悪魔だ・・・」
ガルムは心底身の毛もよだつ恐怖を抱いた。
現在、ガルムは地面に手足を広げて寝そべった状態であった。
広い森を覆い尽くしたガルムの背の上にルーシーは仰向けに寝そべっていた。
別にガルムは好きでこんな姿勢をとっているのではない、ルーシーに脅されてやむなくそうしているのだ。

「いい?命が惜しかったら私とカイ君の『青春の想い出のひととき』の為にベッドになりなさい!」
この恐るべき巨大娘は命の恩人と言うべきカイに催眠術をかけて幻覚を見せ、大人のオモチャにしてしまう気なのだ。

「に、逃げなければ・・・こんな奴らに関わってたら命が・・・グェェェッ!!」
ゴキ。ガルムの背中に寝そべったルーシーが軽くガルムの首を捻ったのだ。

「逃げよーなんて考えたら首が180度回転しちゃうわよ。用が済むまで大人しくしてなさぁい!」
「・・・・・分かりました。(涙)」
ルーシーは注意を必死に登る乳房の上のカイに戻した。

「あっ・・・」
ブルン。ルーシーは僅かに身を震わせた。カイの手が乳首の周りの乳輪に触れたのだ。

「ウグッ?!」
ガルムの方は顔を歪めた。背中に乗っかってるルーシーがちょっと動いただけでも折れた肋骨と傷ついた背骨に激痛が走った。

「地震かな?」
突然の揺れにカイは岩肌にしがみついていた。

「それにしても不思議な山だなあ?普通の岩にしか見えないのに、柔らかいし暖かいし・・・」
カイの洩らした独り言を聴いてルーシーはギクッとした。
彼女の幻術では視覚と聴覚は騙せても、触覚や臭覚までは誤魔化しきれないらしい!

「そ、そこにあるのが魔法転送装置のスイッチよ!さ、さあ、早く起動させて!」
「これ・・・が?」
カイの目にはそれは自分の身長よりも少し高い円筒形の岩に見えた。
だが、その実態は?天を目指して起立する人間よりも巨大なピンク色の乳首!

「どうすれば・・・・・」
「そうね・・・とりあえず適当に触ってみて。」
「こうかい?」
ツンツン・・・カイは指先でつついてみた。見た目より柔らかい岩にしか見えないが、触れても特に変化はない。

「そんなんじゃ、何も感じないわよ!」
「えっ、『感じる』って、これに触るとルーシーちゃんが何か感じるの?」
自分がつついている物体の正体を知らないカイは首をかしげた。

「あ?い、いいえ!・・・・・もう少し強くやった方がいいわ。」
「これくらい・・・かな?」
ムギュ・・・カイは力を込めて不思議な感触の突起を掴んでみた。効果はてきめんにあらわれた。

「ハッ!・・・・・」
小さな、しかし急激な刺激にルーシーは思わず身を強張らせた。

ぶるん、ぶるん、ぶるん!
「わわわわわっ!」
足の下の柔らかな山がいきなり揺れだし、カイは目の前の突起に慌てて抱きついた。

「ハッ?!はぁぁぁッ!・・・・」
感じやすい乳首を思いきり抱きしめられ、ルーシーはのけぞった。

「ハッ?!グエェエェエェ・・・!!」
骨折だらけの背中で思いきり動かれ、ガルムはのけぞった。

「こ、これは地震か?それとも何かの仕掛けが動いているのか?」
カイは驚き慌てて振り落とされないように乳首にしがみついた。
すると乳首は硬くなり、倍の大きさに膨れ上がってカイの小さな体を持ち上げた。

「もっと、もっと強くよ!カイ君!」
「こ、こうかい!?」
ギュッ!
「ハァゥッ・・・そ、そうよ、その調子よ!」
ルーシーのしなやかな肉体が大きく反り返り、カイのへばりついた乳首が天にむかってピクンと脈打った。

「グワワワッ!止めてくれェ!い、痛ぇ!滅茶苦茶痛ぇよぉ!」
ガルムは恥も外聞もない泣き声を上げた。
聴くのも情けない泣き声だが、骨折だらけの体の上で暴れられてはたまったものではない。
だが・・・ルーシーがそんなことを気にするはずがない。

「ハァッ、ハァッ、ふぅ・・・」
「ルーシーちゃん?どうしたの、息が乱れてるよ!」
ルーシーの息遣いがおかしい!何かあったに違いない・・・と真実というものを知らないカイ君は緊張した。

「ま、まだ大丈夫よ。次は・・・隣の山の『スイッチ』を・・・早く、はやくぅ!」
「分かった!」
急がねば、一刻も早くルーシーの元へ辿り着かねば・・・カイは見た目には岩山、実は巨大乳房を一気に駆け下りた。
斜面を駆け下りた勢いで、そのまま隣の岩山(もちろん本当はもう片方の乳房)に駆け上がる。

「このスイッチを作動させれば!」
カイは山頂の巨大突起物に手をかけようとした。

「待って!」
ルーシーの声がカイを制止した。

「えっ?このスイッチを作動させるんじゃ・・・」
「えっとね、こっちのスイッチは操作が違うの。」
「・・・・・?どうするの?」
「ふふふ・・・こっちはねぇ、舐めるの。」
なんだか妙に楽しそうな期待してるようなルーシーの声。
漠然とした疑惑を感じたものの、カイは顔を『スイッチ』に近づけた。

ペロ・・・生暖かい小さな感触が乳首の横に生まれた。
「あ・・・・」
「どうしたの、変な声出して?」
幻術が不完全なせいで、おかしな声がカイの耳に届いてしまったようだ。
(いけない!初めての快感なもんで、ついつい声を出しちゃった。)

「気にしないで!もっと続けて!」
「う?うん・・・ペロペロペロ・・・」
乳首全体を小さな小さな舌が走り回った。
その度にルーシーの体がビクッビクッと反応した。そしてビクッとなる度に・・・

「グォッ?」ビクッ。「グオォォォッ!」ビクビクッ。「グエェェェッ!!」
ルーシーが動くたびに魔獣ガルムの折れた肋骨とひびの入った背骨がきしんだ。
ガルムの顔から血の気が失せて口から血の泡が飛びんだ!

「ああっ、こ、今度は吸って!」
「こんな感じかな・・・?ンム・・・」
カイは自分の背丈よりも高いデコボコした樽状の謎の突起物に口をつけ、思いきり吸ってみた。

チュゥゥウゥゥウウウウ・・・
「ああっ?あああああ!!」
ブルブルブル!ルーシーの全身が震えた!

「スゴイ大地震だ!これがスイッチが作動するという事なのか!」
カイは今だ自分がしがみついている物体がルーシーの乳首だとは気づいてない。
ただひたすらに吸い、舐めるだけだった。

「あ、あ、あああぁぁぁん!」
ルーシーが悶えた、純真な異性の手、いや舌と唇によって得られる初めての快感に。

「グ・グ・グギャァァァ!」
ガルムが吼えた、とんでもない巨大娘の手、いや体重によって加えられる初めての激痛に。

「ここは・・・?」
一休みしようと手を、いや舌を止めたカイの前の情景が一変していた。
砂漠と岩山の荒涼とした世界が消え、目の間には激しい波が荒れ狂う海があった。

バシャァーン!
「ウップ・・・」
大きな波の直撃でカイは全身びしょぬれになってしまった。
バシャァーン!バシャァーン!バシャァーン!
避けても避けても大波は執拗にカイに覆い被さってきた。

「変な波だな?まるで僕を狙ってるみたいだし、それに妙に生暖かいような?ワワッ!」
波に足を取られたカイは無様に転び、その上からしつこく大波が襲ってきた。
気のせいか波はカイの股間ばかり集中的に襲っているような気がした・・・

「ウフフフ・・・・・カイ君のってかーいーのね。まだ皮かぶってるしぃ・・・」
手の平の上でもがく小さなカイをルーシーは唇で押さえつけた。

「光栄に思いなさい。私のファーストキスなんだからネ。」
舌先で弄びつつもルーシーの欲求は更に強くなった。もっと、もっとカイを味わいたい、もっと・・・

「ええい、我慢できないわ!少しくらいなら大丈夫でしょ!」
ルーシーは大きく口を開き、指先でつまんだカイを顔の前へ持ってきた。
そして、カイを口の中へポイっと放りこんだのである!

「うわあああ?」
幻の世界の中でカイは荒れ狂う海に放り出された!
逆巻く波が小さな彼の体を翻弄し、何度も岩に叩きつけられた!
だが・・・不思議なことに岩は人肌のように柔らかく怪我ひとつせず、海の中だというのに窒息することもなかった。

「んふ・・・不思議な感覚ぅ!ほっぺの内側にあたるカイ君のピクピク感がなんともデリシャスぅ!」
口の中で少年を弄ぶ感覚にルーシーはご満悦だった。
歯にしがみついて難を逃れようとするカイを舌先で払い落とし、頬の内側の粘膜にギュッと押しつける。
彼がバタバタと動かす手足が粘膜の心地よい刺激を与えてくれるのだ。

「クッ・・・・・やっぱとんでもねえ娘だった。」
一時的に静かになったおかげでガルムは一息つけた。
しかし、これ以上こいつらと一緒にいたら命が危ない。

「今の内になんとか逃げ・・・グゲッ!」
ゴキリ。隙をついて逃げようしたガルムの首にルーシーの左腕が巻き付いていた。

「今度、逃げよーなんてしたら速攻であの世に送るわよ・・・」
「・・・・・はい(涙)」
ガルムの目に熱い涙が溢れた。
何故、自分がこんな目に会うのだろう?
確かに30年ほど昔は暴れまわっていたこともある。
それが原因で捕獲され封印されていたのだが・・・しかし、しかしこれではあまりにも理不尽ではないか。

「ペッ・・・あら、目を回しちゃてる。でも可愛いーの!」
手の平の上に吐き出されてグッタリしているカイにルーシーは頬擦りした。

「でもね・・・これからが本番なのよ!頑張ってネ!」
ルーシーはカイをそっと自分の・・・・・おへその下あたりに下ろした。

「ウウ、酷い目にあった。まだ吐き気がするよ。」
クラクラする頭を振ってカイはフラフラと立ち上がった。

「また場所が変わっているな・・・」
今度は目の前に大きな平たい一枚岩があった。差し渡しは30メートルはありそうだ。

「カイ君、大丈夫だった?」
ルーシーの心配そうな声が聞こえる。

「うん!平気だよ、あれくらいなんでもないさ!」
「そう、よかった。次はその岩の下に入り口があるの。」
目前の一枚岩は何トンあるのか分からないくらいの大きさ。
カイ一人では持ち上げるどころか、大人が何人いてもどけられそうにない。

「この下に?でもどうやって岩をどければ。」
「見かけは重そうだけど、実際は軽い岩質よ。カイ君ならきっと岩を持ち上げられるわ。」
「よぉし!待ってて、ルーシーちゃん!」
カイは岩の下に指を引っ掛けた。

「ウオォォォォォ!」
顔を真っ赤にして気合を込めると一枚岩はゆっくりと持ち上がり始めた・・・・・

「うっふっふっ・・・その調子、その調子よ、カイ君・・・」
ルーシーはドキドキしながらカイの背中を見つめていた。
現実世界でカイがやらされていることとは、ルーシーの『巨大熊さんパンツ』のゴムを引っ張り上げ、隙間を作らされていたのだ。
さすがにカイの腕力程度では持ち上げるなど不可能なので、現実にはルーシーがやっているのだが。

「さあ、今のうちよ。早く岩の下へ!」
「分かった!」
カイは僅かな隙間から岩の下・・・ならぬ『巨大熊さんパンツ』の中へと滑りこんだ!

「暗いな・・・」
立って歩けないほど天井は狭く、暗くて足元も定かではない。
普通なら灯りなしには進めなくなるところだが、カイにはボンヤリとだが周囲の様子が見えた。

「暗夜行を修行しといてよかったなあ。」
拳法の修行の中には闇夜での戦いに備えて夜目が利くように暗闇で組み手を行う修行もあった。
常人には完全な暗闇でもカイには月夜程度には視界が利くのだ。

「そのまま、真っ直ぐ進んで。坂道になってるから気をつけてね。」
ルーシーの声が道を教えた。
カイは緩やかな傾斜を這い進んだ。

「・・・・・進んでる、進んでる!ウフッ。」
ルーシーは自分のパンツに熱い眼差しを送っていた。
彼女のパンツの布地が一箇所だけちょこっと盛り上がっている。
その盛り上がりはモソモソと動きながら、ゆっくりと下へ・・・彼女の大切な部分へと向かっている。

「ああ、いやだわ。私たら今ごろになって緊張してきちゃった!キャッ、恥ずかしい・・・」
ルーシーは顔をポッと赤らめはにかんだ。

(いまさら何言ってやがるんだ、この淫乱巨大娘は!)
ガルムは泣きながらそう言いたかった、が死にたくなかったので黙っていた。

「さ、カイ君!その先に貴方の知らない素晴らしい世界が待ってるわよォー!」
ルーシーが見守る中、小さな盛り上がりは下腹部と二つの太股が形成する谷間に達しようとしていた。

「ん、なんだろう、これは?」
知らないうちに腕に何かが絡み付いていた。
ゴワゴワザラザラした太い蔦か何かのようなものだ。

「植物だろうか?昆布みたいだけど。」
気をつけて見てみるとあちこちに謎の海草状の物が生えていた。
それどころか正面はこの謎の植物の群生地らしくびっしり茂った藪になっている。

「危険はなさそうだけど邪魔だなあ。引っこ抜けるかな?」
カイは手近な一本を掴み、思いきり引っぱってみた!

「キャァァァッ!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
ルーシーとガルムの悲鳴が重なった!
予想してない痛みにルーシーが飛びあがり、その動きでガルムの肋骨がまた何本かへし折れたのである!

「カイ君!何したのよ、一体!」
「えっ?僕は何も・・・この変な雑草が邪魔だったから引きぬこうと・・・」
「その毛・・・その草はほっときなさい!引っ張っちゃダメ!」
「???分かったよ。」
「ホントにもう、男の子って・・・」
ルーシーはほっぺをプンと膨らませてプイと横を向いた。
女の子らしい、というより子供っぽい仕草であった。
彼女のお尻の下で意識を失って静かになったガルムは既に忘れ去られていた。

「ここが入り口なのか?」
カイの足元は急角度の斜面となっており、岩の亀裂らしきものが見えた。
斜面を下って岩にへばりつき、亀裂の中を覗いて見た。
亀裂の内側は地下水のせいかヌルヌルしており、生ぬるい風がその内側から吹いてくる。

「この中にルーシ−ちゃんは囚われているのか。」
カイは岩と岩の隙間から内側へ潜り込もうとした。

「ん・・・・・」
プルプル・・・
大切な部分をこじ開けて侵入してくる気配にルーシーは思わず身を固くした。
だが、カイは『入り口』に触れたまま立ち往生しているらしい。

「クッ・・・狭すぎる。これでは通れない。」
割れ目の幅は思ったより狭く、子供ですら通れそうにない。
少しでも押し広げようと腕に力を込めてみたが、カイ一人の力ではビクともしなかった。

「待てよ?ひょっとしたら入り口を開ける仕掛けがあるかもしれない。」
カイは目を凝らして暗闇の中を探して始めた。

「もう、仕方ないわね。少し手伝ってあげよっと!」
ルーシーは楽しげに言いながらパンツにそっと手を伸ばした。
もちろんカイの体を秘所の内側へと押し込むために。その時・・・

「あった!あれに違いない!!」
カイは岩肌の一箇所に明らかに他の岩と違う部分を発見した!
海草状の草?をロープ代わりに斜面を登り、藪をかきわけてその部分へと到着した。

「カイ君?なんで・・・?!ハァゥッ!?」
ルーシーは後頭部をぶつけかねないくらいにのけぞった!
大切な部分に、いきなり電流でも流れたような快感が生じた!

「グギャアァッ!」
激痛に気絶していたガルムは、前回を上回る激痛で意識を取り戻した。

「この地震、さっきと同じだ!やっぱりこれも『スイッチ』なんだ!」
カイは発見した『それ』をしげしげと眺めた。
薄い岩の下にそれは隠されていた。
表面の岩をはがして剥き出しにしてみると、西瓜くらいの大きさのツルツルした光沢を持つ球体が姿を見せた。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・カイ君、そこはスイッチじゃなくてクリト・・・ヒャアァァァッ!」
快感に抗しきれずにルーシーは声を上げてしまった。
カイが両手で力いっぱい『そこ』を揉み始めたのだ。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・小僧、それ以上はやめろ、頼むから・・・ギャギャギャァァァッ!」
激痛に耐えきれずガルムは悲鳴を上げた。
背中に乗っかったルーシーが悶えまくって大暴れを始めたのだ!

「触るだけじゃダメなのかな?さっきと同じように舐めてみよう。」
ペロペロペロ・・・
「あああっ!ちっちゃい舌が舐めて、舐めて、舐めてるゥゥゥ!」
ピクピクピクゥン!
「グワワッ!俺の肋骨が折れて、折れて、折れていくゥゥゥ!」
バキバキバキッ!
「うん、だいぶ割れ目が開いてきたな・・・もうちょっとだ!今度は吸ってみよう。」
チュバ、チュバ、チュバ・・・
「アアアアアン!私の、私のクリちゃんが吸われちゃってるゥゥゥ!」
バタン、バタン、バターーーン!
「グゲゲゲェッ!俺の、俺の背骨がバラバラになってくゥゥゥ!」
ボキボキボキボキボキ・・・
至高の快楽と極限の苦痛が華麗なハーモニーを延々と奏で続けた。
やがてそれも終焉がやってきた。

「・・・・・ん・・・もうダメ・・・」
至高の表情を浮かべたルーシーの全身から力が抜けていった。

シャァァァァァ・・・・・
激しい水音がカイの足元、亀裂の上の方から吹き出した。

「地下水?いや温泉か?」
湯気を上げる液体がカイの目の前を滝のごとくに流れ落ちて行く。

「ううっ・・・こいつ、俺様の背中に、自慢の毛並みに、おもらししやがった・・・」
封印中も常に手入れを怠らなかった自慢の毛並みに暖かい液体が広がっていく。
あまりの情けなさにガルムは血の涙を流していた。

「出水は止まったみたいだな。割れ目も大きく開いている。」
カイは落ち着いた声で独り言を言った。
濡れてテカテカと光る岩の隙間は大きく口を開け、内部から白い湯気を噴出している。
足を滑らさないように注意深くカイは割れ目の入り口へと進んだ。

「ア・・・ンン・・・・・」
再び秘所への侵入者を感じ、ルーシーは喘ぎ声を洩らした。

「なんだろう、この壁は?」
カイの前を壁、というより膜状の何かが通路を塞いでいる。
何箇所か穴らしきものが開いているようだが、潜り抜けられるほど大きくはない。

「気功で打ち破るしかないな。」
カイは膜の前で身構え、気を全身に漲らせ練り上げた。

「ああっ、これで、これで私の『少女の時間』が終わってしまうのね。」
秘所の間近で高まっていく緊張感を感じて、ルーシーは涙ぐんだ。

「さようなら、子供だった私!今日は、ちょっぴり大人の私・・・」
夕日に照らされた赤い風景を最後に、ルーシ−は目を閉じ、『その時』を静かに待った。

「パパ、ママ、ごめんなさい。ルーシーは今、少女から女になります。
あの夕日が地平線に沈む時に・・・・・ん?夕日?」
夕日を見た時にルーシーは何かを忘れていたような気がした。何か大切なことを・・・

(夕日・・・太陽が沈む・・・太陽が?!)
「ま、まずい!」
ルーシーはカッと目を見開きガバッと跳ね起きた!
お尻の下でガルムがスゴイ叫びを上げたような気がするがそれどころではない!

「太陽が、太陽が沈んじゃったら・・・魔力が足りなくなっちゃう!」
常人の100倍以上の巨大な肉体を維持するには莫大なエネルギーを必要とする。
普通の人間ならばエネルギーは食事から取るだけで十分なのだが、ルーシーの場合、食べるだけでは体を維持するのが精一杯なのだ。
まして強力な魔法を使ったり、一時的に大人の肉体に変身しようとすればエネルギーはあっという間に尽きてしまう。
そこでルーシーの魔力の大部分は太陽エネルギーでまかなわれている。
昼間は無尽蔵に使える太陽エネルギーだが、夜間は全く使えない!

「このままじゃ、カイ君にかけた幻術が解けちゃう!それどころかこの肉体だって・・・」
こんな状態で魔力切れに陥れば、カイに見させている幻の風景は消え去り、パンツの中という『真実』が暴露されるだろう。
そればかりか、かりそめの大人の肉体も元通りの幼児体型に逆戻りしてしまう1
気のせいか胸のあたりが少し小さくなったような気がする。

「ここまできて・・・あともう少し、もうちょっとだけ・・・」
だが、ルーシーの僅かな希望も虚しく、パンツの中のカイの動きが止まった。

「あ、あれ?ここはどこ?僕どうしてこんな不気味なところに?」
「ぶ・・・不気味なとこはないでしょ!すっごーく大事なトコなんだから!!」
「だって、だって変な匂いもするし!」
「変な匂い!?いいがかりよ!毎晩、ちゃんと洗ってるわよ!ああっ・・・ダメよ、まだ外へでちゃ。」
パンツの中と外で噛み合わない会話が続いたところで、カイが人跡未踏の地より脱出しようともがき始めた!

「このままじゃ、このままじゃ、私の甘く切ないロスト・バージンの思い出が台無しになっちゃうよ・・・
ええい!かくなる上は強行手段あるのみ!!」
意を決したルーシーはパンツの中へ両手を突っ込んだ!

「ウワァッ!?プグググ・・・」
巨木のような指がカイを捕らえ、ネトネトした粘膜へギュゥッと押しつけた。

「うふふふふふふふふふふふふふふふふ!もう逃がさないわよぉ!」
敏感な部分を小さな小さな手足がジタバタと叩く。
だがそれも指先に少し力を込めるとたちまち動けなくなった。

「さぁて、ちょっぴり予定と違ったケド・・・いよいよクライマックスよ!」
ドキドキと高まる鼓動を感じながら、ルーシーはゆっくりとしかし力強くカイを押し込みはじめた。
肉体の敏感な部分をこじ開けられ、突き破られる痛みに涙がツゥーと頬を流れた。

**********

(ああ・・・もう、痛みも苦しみも感じない。俺はどうなってしまったんだろうか?)
ガルムは先程までの苦しみが信じられないくらい、心安らいでいた。
ついさっき、首と腰のあたりでゴキン!という鈍い音がした瞬間に地獄の激痛も全ての感覚も消え去っていた。

(おお!飛んでいる。俺は空を飛んでいるぞ?)
まるで風船にでも変身したかのように、ガルムは空を漂っていた。
下を見下ろすと、ルーシーの下敷きになって血を吐いて白目を剥いている自分の姿が見えた。

(なぜ、俺があんなところにいるのだろう?まあ、どうでもいいか・・・)
気がつくとガルムは一面の美しいお花畑の上を飛んでいた。

(綺麗だなぁ・・・おや、誰かいるぞ?あれは・・・)
お花畑の向こうの川岸で誰かが手を振っている。
ずっと昔に忘れ果てていたガルムの記憶にある懐かしい誰かだ。

(創造主様!創造主様ではありませんか!迎えに来てくれたのですね、貴方様の不肖の作品である俺を・・・)
感涙にむせびつつ、ガルムは川の向こうへと飛んでいった・・・・・

**********

「ウウッ、すごく痛い、滅茶苦茶痛い・・・
でも、この試練を乗り越えてカイ君が『膜』を打ち破った時に、新しい世界の『幕』が上がるのね・・・」
完璧に自己陶酔の世界に没入するルーシー。・・・・・だが!

「いいえ、今日のところは幕を下ろしていただきましょう!」
背後で怒りを押さえた険悪な声!ルーシーはピクッと身を震わせた。

「そ、その声は・・・」
振り向いたルーシーは目線より少し上の空中に浮かぶ青いローブを羽織った人物を見上げた。

「エルマーおじさん!・・・何故、ここが?!」
「あれだけ大声出していればすぐに見つかります!それに貴方たちは遠くからでもよく目立ちますからね・・・」
エルマーがギッ!と睨んだだけで、ルーシーはギクッとした。

ぷしゅぅぅぅ・・・・・
「あ・・・・・魔力が切れた。」
はちきれんばかりのバストは二次元平面へと陥没し、雄大なヒップラインの曲線が縮んでいく。
魔力切れのルーシーの体はあっという間に縮んで、元の幼児体型に戻ってしまった。

「・・・とにかく家に帰ってから、話を聴かせてもらうとしましょうか。
ああ、その前にカイ君、早くそこから出たまえ・・・おっと!
私がいいと言うまでは目をつぶってなさい!君は自分の『現在位置』を知らないほうがいい。」
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■ 終章・野望の果てに・・・
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カイとルーシーはエルマーの館に戻ってきていた。
もちろん二人ともシャワーと着替えを済ませている。
二人は広々とした中庭に正座させられていた。
二人の前で先程からエルマーは不機嫌な顔で黙したまま、ゆっくりと行ったり来たりしていた。

「ね・・・カイ君、私たちこれからどーなるの?」
ルーシーは小声で足元に座ったカイに尋ねてみた。

「まさか、エルマー先生、アレをやる気じゃないのか・・・」
気のせいかカイの顔色が青い。勇敢な少年の顔には明らかに恐怖の表情が浮かんでいた。

「ううっ・・・なんで俺までこんな目に・・・」
ついでに天国への門ギリギリから生還したガルム君も正座(お座り?)させられていた。
全身に包帯を巻かれ、足や脇腹をギプスで固められたその姿は実に痛々しい。

「君たち、少し静かにしたまえ!」
「ハッ、ハイ!」「はぁい!(っとに何なのよ?)」「ハイ・・・なんで俺まで・・・」
エルマーにキッと睨みつけられて二人と一匹は背筋をピッと伸ばした。

「コホン・・・」
エルマーは小さな咳払いをして後を向いて深呼吸した。

「で、カイ君?エルマーおじさんは何をする気なの?ひょっとして体罰とか・・・」
ルーシーは小声で話したつもりだったが、エルマーには聞こえたようで『おじさん』の一言で肩がピクッと震えた。

「違うよ、体罰なんかじゃあないんだ。エルマー先生の『技』で一番恐ろしいそんな程度じゃない。
昔、この街に10万人の軍隊が攻めてきたことがあったんだそうけど・・・
その時、エルマー先生一人で軍隊を追い返したんだそうだ。」
「ふぅん?」
ルーシーは考えてみた。
魔道士としてのエルマーの実力はよく知っているから、10万の兵隊を追い返したというのも誇張ではないだろう。

「だいじょーぶよ、カイ君!どんな魔法で罰を与える気かしらないけど、私だって・・・」
ルーシ−は無意識に巨大な手の平でカイを庇うようにしていた。

「違う!魔法なんかじゃない、なんでもクローニクル様直伝の・・・・・」
「そこ!静かにしなさいと言ったはずです!」
エルマーの怒声が空気をビリビリと震撼させ、ルーシーとカイは思わず縮こまった。
再びエルマーは沈黙し、懐から『頭痛薬』と書かれた小瓶を取りだし蓋を開けた。
ジャラジャラと中身を全部自分の口の中に流し込み、バリボリと噛み砕いてゴクンと嚥下した。

「・・・・・貴方たちに言っておきたいことが色々あります。全員そこに座りなさい。」
「あのぉ、エルマーおじさん。私たちもう座ってますけど・・・」
「いいから黙って座って聞きなさい!」
「ヒィッ・・・ハ、ハイ!」
有無を言わせぬエルマーのド迫力に、さすがのルーシーも巨体を縮みあがらせてたじろいだ。

「いいですかルーシーさん!貴方を学校へ通わせたのは何のためだと思っているのです!
このような騒ぎを起こさないよう一般常識を身につけてもらうためなのですよ!
それが我が師でもあるお父上のクローニクル様よりお預かりした私の使命であり・・・・・」
「アウッ?このパターンはなんか記憶にあるよーな?」
延々と話し始めたエルマーを見て、ルーシーは彼の喋り方が彼女の父親であるクローニクルに非常に似ていることに気づき、次に恐怖を覚えた。

「カイ君・・・誰もが恐れるエルマーおじさんの恐ろしい技ってまさか?」
「うん、そうなんだ・・・・・『お説教』なんだ。」
そう誰もが恐れおののく師直伝の最凶の技・・・『お説教』!!

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かつて侵略戦争に明け暮れる某国の無敵軍団の前に一人の魔道士が立ちはだかった。
10万の軍勢を前に臆することなく魔法さえ使わずにその魔道士は、歴戦の猛者どもを相手に延々と説教を始めた。
27時間18分後に説教から解放された軍団は戦意喪失して帰国。
軍を率いていた将軍は出家して俗世間を離れ、兵士たちの中からも引退して故郷に帰る者、宗教に走るものが続出。
怒った国王は問題の魔道士を捕らえんとしたが、当の魔道士が城に乗り込んできて国王にまでお説教を始めた。
32時間22分後に放心状態の国王が泣いて許しを請うまで、『お説教』は続いたと公式記録に残されている。
こうしてその軍事大国は数年を経ずして軍事力全面放棄するはめになった。

**********

「カイ君、君も君です!精神に隙があるからたわいもない幻術にひっかかたりするのです。
いいですか、貴方のお父上の若かりし頃などは・・・・・」
エルマーの説教は延々と、果てしなく、際限なく、繰り返し、絶えることなく、尽きることなく、終わることなく、延々と・・・(以下略)
ルーシーもカイもクラクラとめまいがして、頭の中が真っ白くなって、そのうち何も考・え・ら・れ・な・く・・なっ・・・て・・・・・

「うううっ・・・なんで俺までこんな説教を聞かされにゃならんのだ?」
「そこ!ガルム君!!人が話しているときによそ見するんじゃありません!だいたい30年前に貴方が封印されたのも元はと言えば・・・・・」
いつ終わるとも知れぬ説教をガルムは泣きながら聞いていた。
封印が解けたと喜んでたら、ワンちゃん呼ばわりされ、成金小娘に蹴飛ばされ、拳法小僧にぶん殴られ、巨大娘にボコボコにされ、訳の分からない魔道士の説教を食らって・・・
今回、最大の被害者は他ならぬガルム君かもしれない。

「ねえ、カイ君?何か忘れてる気がしない?」
「うん?そういえば忘れてるような・・・」
「コラ!そこの二人!私語は慎みなさい!!」
「ハイ!」「はぁい!」
「大体、貴方たちは落ち着きというものが・・・」
ま、忘れているくらいだからたいしたことではないだろう。

**********

ビュウゥゥゥ・・・・・
耳元を吹きすさぶ風が肌に冷たい。
よく晴れた空は暗く星々の冷たい輝きが目に突き刺さりそうだ。

「ここは何処ですの?いえ、どうして私はこんなところにいるの!?」
忘れられた少女・ウェルシーは凍えた手に精一杯の力を込めて、鋭角的な屋根から突き出した避雷針にしがみついた。

「どうやって子供があんな所に?」「救助隊はまだ来ないのか?」
足の下、60メートルほどの街路には大勢の人々がいて、彼女を驚きと心配の目で見上げていた。
ウェルシーは街で一番高い建物、広場の時計台の尖塔の天辺、つまり屋根に上にいた。
ものすごい炎が迫ってきた、と思ったら次の瞬間にはここにいた。
目もくらむような高さに悲鳴をあげて、それを聞きつけて野次馬が集まってきたのだ。

「お嬢様ァーッ!ただいま救助に参りますゥー!しばしお待ちをーッ!」
「パーカー!!さっさと助けにきなさい!」
寒さと怖さでガタガタ震えながらも、ウェルシーは考えていた。

(こ私がこんな目に遭うのも、あの大馬鹿巨大娘のせいだわ!)
「今にみてらっしゃい!いつか必ず目に物見せてくれるわ!」
「ああーっ!お嬢様!!手を放されては危険ですゥーッ!」
「キャアアアーーー・・・・・と、とにかく、覚えてらっしゃい!貧民巨大娘ェェェッ!」
屋根の縁にから落っこちそうになりながらも、ウェルシーの闘志は消えることはなかった。
**********

こうして、ルーシーの『ロスト・バージン&カイ君童貞奪取計画』は夕日とともに潰え去った。
だが、安心してはいけない!ルーシーは虎視眈々と次の計画を立てているかもしれないのだ。
負けるな、カイ君!頑張れ、ウェルシーちゃん!くじけるな、ガルム君!
そして・・・・・薬の服用しすぎには十分注意しよう、エルマーおじさん!