この物語は未成年の方には不適切な性的表現を含んでおります。
道を踏み外したくなければ、直ちに全速力で待避して下さい。
道を既に踏み外してる方は『常識』も廃棄した上で危険行為を続行しましょう。

魔法使いとその(バカ)弟子・その2
−ルィーズちゃんのヤマタノオロチ退治−

私たちの住む世界とは違う世界。
科学ではなく魔法が支えるこの世界には大小幾つもの国々が散在する。
漆黒の破壊者と異名をとる大魔道士クローニクル=ハミルト。
彼は今、小国の一つケルベス王国で魔道士協会の会長を務める弟子のもとに逗留していた。
300年を超える生涯で最悪の女弟子とともに。
そして、物語は再び始まる。

**********
序章「第3の弟子」
**********

「おい、エルマー!いるのか?」
屋敷の玄関を荒っぽく開け放って、黒髪の少年が飛び込んできた。
体は3〜4才の子供。でも頭脳は300歳というどこかで聞いたよーな設定の大魔道士クローニクルである。
しかし子供になったプロセスは名探偵○ナンとは比べ物にならないくらい恥ずかしいのだが。

「あっ、お師匠様、大変なんです!」
長髪の青年が慌てて屋敷の廊下の奥からやってきた。
クローニクルの一番弟子&屋敷の主にしてケルベス王国魔道士協会会長のエルマー君である。
(ちなみにエルマー君は200歳過ぎだったりする。)

「いま、市場の噂で聞いたんだが隣国のスティックス王国にヤマタノオロチがでたそうじゃないか!」
「ええ、そうなんです。それで援軍要請の使者が城へ来てるんですが・・・」
エルマーは顔面蒼白で答えた。
ヤマタノオロチとは一つの体に八つの首を持つ巨大な蛇神である。
驚異的なパワーとタフネスで知られており、風雨や炎を自在に操ると言われる。
伝説の英雄神に退治されたといわれるが、その眷族らしき蛇神が数百年おきに出現する。
ただし本来は東方のホウライ国にしかいないはずの怪物なのだが。

「分かっている!魔道士の人出が足りないんだろ?
可愛い一番弟子のためだ。手を貸してやろう。
そこで報酬の件だが、最低でも2万ゴールドは・・・」
セコイ師匠である、だがエルマー君はそれどころではなかった。

「お師匠様、すぐにこの国を出てください!行き先は何処でもいい。」
「何をいきなり・・・」
「忘れたんですか、こういう時にステックス王国が誰を使者に立てるか?」
「ステックス王国だと・・・待てよ、宮廷魔道士をやってたのは・・・」
クローニクルの顔色がみるみるうちに青くなった。

「あいつ・・・か?」
クローニクルの問いにエルマーは無言で頷いた。

「あー、エルマー君。突然だが私は旅にでることになった。
ルィーズが買物から帰ったらすぐに出発する。」
いきなりソワソワし始めたクローニクル。

「それがいいと思います。」
エルマーは青い顔色のまま答える。

「しかし・・・お前はどうする?」
心配そうにクローニクルは弟子の顔をのぞきこむ。

「魔道士協会会長としてここを離れることは出来ません。心配しないで下さい」
笑顔をみせるエルマー君であったが、表情はまさに死刑囚のそれである。

「そうか、すまんな。・・・」
その時、背後から元気のいい女性の声がした。

「ただいまー、お師匠様、エルマーさん!」
金色の長い髪をなびかせながら、ルィーズが帰ってきた。
見かけはピンクの魔道士ルックが似合う、ちょっと可愛い17・8の女の子。
通称『史上最悪の馬鹿弟子』。

「おう、ルィーズ!いいとこに帰ってきた。これから旅に・・・」
クローニクルの黒い瞳は見開かれそのまま凝固した。

「ど・こ・へ・いくのかな?」
ルィーズの背後にいた女性が楽しそうに声をかけた。
年齢は見た目は20代半ば、クローニクルと同じ黒い髪と黒い瞳。
そしてマントも同じく黒一色である。

「えっと、この人はエルマーさんのお客様で、お名前は・・・」
ルィーズが言うより早く、

「ま、ま、ま、マーリア・・・」
クローニクルとエルマーは顔を引きつらせて後ずさった。

「うふふふ、来る途中でルィーズちゃんから聞いたけど、本当に子供になっちゃったんだ。」
クローニクルを見つめる目に妖しい光が宿る。そして・・・

いきなりダッシュでクローニクルに抱きついて、頬擦りし始めた!

「うーん、かっわいーわぁー、お師匠様!モロ私好みぃー!」
「ひいぃぃやめろぉ・・・」
恐怖におののく師に、馴れ馴れしくまとわりつく彼女をルィーズは睨んだ。

「エルマーさん!誰なんですか、この人?」
怒りながら尋ねるルィーズに恐怖に上ずった声でエルマーが答える。

「はぁ、お師匠様の3番目の弟子のマーリア=カーライルさんです。
通り名は『黒き処刑人』、火炎系攻撃魔法では最強と言われてます。
ルィーズさんや私を含めて、お師匠様には6人の弟子がいるのですが、その内で最も恐れられてる人でね。
通り名の由来も敵のスキャンダルを暴き立てて社会的に抹殺するからなんですが。」

「あーら、そんな事まで喋っちゃて大丈夫かしら、エルマーちゃん?」
微笑みながら問い掛けるマーリアにエルマーは硬直&沈黙した。

「それにしてもお師匠様に馴れ馴れしすぎるように思うんですけど。」
多分に嫉妬混じりの声でルィーズは言った。

「実は・・・お師匠様の実の娘さんなんです。」
エルマーは沈痛な表情で答えた。

**********
第1章「戦闘開始」
**********

「急げ!ヤマタノオロチが来る前に、迎撃準備を済ませるんだ!」
「矢はまだ届かんのか?時間がないぞ!」
「投石機、設置終了しました!」
荒々しい声が飛び交う中にクローニクルたちもいた。

『エルマー、そっちは準備いいか?』
『魔法陣は準備完了です、お師匠様。』
『了解、そちらは任せる。こちらはルィーズと上空から索敵に向かう。』
『了解、気をつけて。』
以心伝心による通信を続けながら、クローニクルは傍らの男を見た。
40代後半の厳格な印象の顔立ち、サレック将軍である。

「ふん、魔道士か・・・援軍なら兵の10人でもまわしてくれた方が助かるものを!」
不機嫌そうに将軍は呟いた。

「将軍!我が師に対し、それはあまりに失礼ではありませんか?」
背後からマーリアが声をかけた。

「そうですよ、将軍。我が軍は先のヤマタノオロチとの戦いで魔道士を失って困っているというのに!」
部隊長も割って入った。

「ふん・・・」
将軍はそれっきり無言でテントの方へ歩み去った。

「申し訳ありません、魔道士殿。普段はあんな人ではないのですが・・・」
恐縮する部隊長にクローニクルは笑顔を返した。

「気にしなくともいいよ。魔道士嫌いの人には慣れている。」
「そうですか、ところで魔道士殿は以前にもヤマタノオロチと戦ったことがおありとか!
どのように戦われたのですか?」
部隊長の問いにクローニクルは、

「今回と基本的には同じさ。
俺と俺の師匠がおとりになっておびき出し、兵力千人の弓矢と兄弟子たちを含む50人の魔道士の一斉攻撃で葬った。」
と答える。

「なんと!そんなに兵を動員して?
我が軍はたった380名、魔道士にいたっては15名しかいないというのに・・・」
動揺を隠せない部隊長にクローニクルは笑って答えた。

「心配ない。俺が16才のガキの頃、290年も前の話だ。
武器も魔法も比較にならん位に進歩している。
それにあの将軍さん、噂通りの切れ者だよ。布陣に一分の隙もない!」

「はぁ、そうですか?」
まだ不安そうな顔の部隊長であった。

「心配ばかりしてると禿げるぜ!まあ安心してな!
おい、ルィーズ!こっちも出発だ!」
「・・・・・はい・・・・・」
いつもと違い元気のない声でルィーズは答えた。

「・・・ギーギーちゃん、御願いね・・・」
「ギャッギャッギャッ!」
ギーギーとはルィーズが飼っている飛竜である。
翼長は15メートルを超すなかなか立派な飛竜である。

バサッ、バサッ。
ギーギーはルィーズとクローニクルを乗せて力強く飛び立った。

彼が部隊長に言った話には続きがあった。
兵士千人、魔道士50人中、戦闘終了時に存命していたのはクローニクルと彼の師のみ。
彼自身も大火傷のため10日間生死の境をさまよい、彼の師もその後数年をリハビリに費やした。

**********

「ルィーズ、しっかり捜せ。奴は必ずこの森の何処かにいる。見落とすな。」
「・・・・・」
クローニクルの命令にも彼女は答えなかった。

「ルィーズ、マーリアの事は隠してたワケじゃない・・・
お前が一人前になったら他の弟子たちにも会わせようと思っていたんだ。」

「・・・・・」
「マーリアの母親だって百年以上前に死んでいる。
ハッハッハッ、可笑しいだろ?マーリアの奴、若作りしちゃいるが実は155才の大年増なんだぜ!」

「・・・・・お師匠様、あたし・・・・・」
暗い顔でルィーズはぽつりと言った。

「気にしないでいいんだよ、ルィーズ。お前の・・・」
「あたし・・・マーリアさんの・・・・・
マーリアさんのいい『お母さん』になれるでしょうか?!」
クローニクルは思い切りずっこけた。ギーギーは迷惑そうな顔をした。

「いっ、いっ、いきなり何を言い出す・・・」
「ずっと、ずーーーっと考えてたんです。
あの人、あたしの事、『ママ』って呼んでくれるかしら?」
「お、お、お前は何を考えて・・・待て!」
突然鋭い目付きとなったクローニクルが眼下の森を凝視した。

「ルィーズ!シンクロしろ!雷撃呪文だ!」
「えっ、でも何もいない・・・」
「急げ!」
「はっ、はい!」
固く手を握り合うと、二人は全く同じリズムで呪文を唱え始めた。
クローニクルは現在、子供の体力しかないので大した呪文は使えない。
ルィーズは膨大な魔力を持っているが、呪文をまともに唱えられない。
しかし、この二人は精神を同調することで凄まじい威力の魔法を発動できるのだ。

ドガァーン!ドガァーン!ドガァーン!
上空に生じた黒雲から幾筋もの稲妻が森を襲った。

本陣も騒然となった。初老の参謀が怒った。

「なんじゃ、あの馬鹿魔道士は?何もないところを攻撃しおって?作戦がぶち壊し・・・」
「弓隊攻撃開始!目標、谷の東の森!」
サレック将軍の命令が響き渡った。

「お師匠様、どうして何もないトコを攻撃したんですかぁ?」
不思議そうな顔でルィーズが尋ねる。

「見てみな!」
「あれぇ、森が・・・動いてる?」
うねるような動きで森の一部が蠢いている。
動く森はだんだん変色し・・・もつれ合う巨大な蛇のおぞましい姿が浮かび上がった。

「保護色というやつだ。ヤマタノオロチが保護色使うなんて初耳だが・・・
だが皮膚の表面を少し焦がしてやったから、もう保護色は使えん。」
完全に森の一部に擬態していた敵を見破ったのは、幾度も死線を越えた男の目だった。

「それにしてもでかい。
体長約380メートル、推定体重150万トン、以前に見たやつの約5倍。
さて、今回は何人生き残れるか?」
クローニクルの表情は厳しかった。

弓矢の雨の中をヤマタノオロチは悠然と谷底を進む。
人間の頭ならば一撃で砕く石弓も、たいして効いていないようだ。
それどころか八つの首は猛烈な反撃に転じた。
数千度に達する炎の吐息が8本、弓部隊を襲う!

「うわぁぁぁ!」
「熱いぃぃぃ!」
「た、助けて!」
生きながら肉体を焼かれ、兵士たちが倒れていく。
火だるまになりながら谷へ転落していく者もいる。

『エルマー、そっちは?』
『準備OKです、お師匠様。』
『マーリア?』
『こっちもOKよ!』
『作戦開始!』

谷の中程にオロチが進んだ時だった。
崖の中ほどに巧妙に隠された洞窟から呪文が轟いた。マーリアの火炎呪文だ!

「炎よ、我が敵を煉獄の彼方に沈めよ!」
崖の一点から生じた炎は燃える盛る炎の津波となってヤマタノオロチを襲う!
驚いたオロチは進路をわずかに狂わせた。

「今だ!」
エルマーは叫び、魔力を解放した。
谷底の各所に仕掛けられた魔法陣から紐状の光が無数に伸びる。
瞬時にヤマタノオロチは緑色の光の帯にからめとられ、動きを封じられた。
さらに魔道士たちの攻撃呪文と大型投石機の攻撃が降り注ぐ。

ガァァァァア!
苦鳴を上げるヤマタノオロチをクローニクルは冷静に見つめる。

「おかしいな・・・魔法攻撃の効果が思ったより薄い?
だがこの呪文ならどうかな?
・・・・・大地を守護せし番人よ、金剛の槍もて悪しき輩を打ち砕け!」
クローニクルが聞きなれぬ呪文を唱えると同時に、大地より高さ100メートルを超える透明な結晶の柱が出現した。

グァァァァァ・・・・
結晶の柱はヤマタノオロチの体を切り裂いた。2本の首が切断されて転がり落ちる!
激痛に身悶えする蛇神に魔法と弓矢と巨石の攻撃が集中する。人間側が圧倒的に優勢!
しかし首の一つが突然奇妙な行動をとる。
無理矢理、首の一つが呪縛結界を噛み裂いた。
さらに、その首の喉のあたりがパンパンにふくれたのだ。
鎌首をもたげ、カッと口を開いて何かを吐き出す動作をした。
しかし炎も何も出てこない。

「逃げろ!ギーギー!!」
クローニクルの叫びに驚き、慌てて身をかわすギーギーの翼を見えない何かがかすめた。
そして遥か後方の大型投石機がいきなり木っ端微塵になった。

「圧縮空気弾か・・・ヤマタノオロチにこんな隠し芸があるとは聞いたこともないが?」
クローニクルは冷や汗を拭いた。

「くそっ、さっきの攻撃は心臓を外しちまっていたか!だが次は外さん!」
クローニクルとルィーズはもう一度同じ呪文を詠唱し始めた。

「これで、終わり・・・」
『・・・邪魔ヲスルナ・・・』
「?!」
魔道士たちの間に張り巡らされた以心伝心の術による通信ネットワーク。
それに異質な思念が紛れ込んでいるのだ。

『誰だ?』
『ギアナ・・・』
問いかけを無視して思念は切れ切れに続く。

『どこにいる?』
『ボクハ・・・・・帰ル・・・』
「お師匠様ぁ!ああああれは?」
ルィーズの慌てふためく声にクローニクルは我に帰った。
ヤマタノオロチの首の一つが封印結界を強引にひきちぎり、有り得ない行動を取り始めたのだ。

「大気ニ・・・アマネク・・・オワス精霊ヨ」
「馬鹿な、ヤマタノオロチが何故、人間にしか使えない呪文を使える?
いや、そんな事よりこの呪文は!」
「今シバラク・・・ソノ手ヲ休メン・・・」
その時、世界から『音』が消えた。

「・・・・・」
ルィーズは何か喋ろうとしているが、何も聞こえない。
ギーギーの翼が風を切る音さえ消えてしまった。

『慌てるな、ルィーズ!こいつは沈黙魔法だ。』
何とか以心伝心の法は使えるようだ。

沈黙魔法、大気の精霊に干渉することで全ての音を打ち消す魔法である。
本来なら数メートル四方の音を消すのが限界なのだが、この時半径2キロ内が無音の世界となった。
ダメージを与える魔法ではないが、魔法使いは死んだも同然である。
音声なくしては呪文を全く使えないのだから。

同時に兵たちも大混乱に陥った。指揮系統もまた『声』で伝達されているからである。

沈黙魔法の発動前から作動していた呪縛結界は今だオロチを封じていた。
しかし唯一動かせる一本の首からの攻撃だけで部隊は次々と壊滅していく。

「逃げてくれ!私の魔力が尽きる前に・・・」
巨大な結界を一人で維持するエルマーは、既に限界に近い程に消耗していた。

やがてフッと呪縛結界が消えた瞬間、エルマーのいた魔法陣は灼熱の炎に包まれた。
そして殺戮が再開された。

**********

やがて、破壊の限りを尽くして蛇神は立ち去った。
無数の死体と投石機の残骸を残して。
何故か、体のあちこちからくすぶるような煙を上げながら。

**********
第2章「復活」
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「ううっ・・・」
「だいじょーぶですよぉ、兵隊さん!
街に着いたらすぐに治療してもらえますから!」
苦しげな声を漏らす瀕死の兵士をルィーズは必死に励ました。

「部隊長さん、街まではギーギーが送ってくれます。
あたしたちはもう少し生存者を捜してみます。」
「ありがとう、ルィーズさん。後は頼みます。」
ギーギーは翼を広げ、定員オーバーの十数名の負傷者を乗せて飛び立った。

「さてと、サレック将軍閣下・・・聞きたい事があるんだが?」
妙に殺気立った顔をクローニクルは将軍に向けた。

「なんだ?」
包帯を頭や手足に巻いた将軍はイラついた口調で答える。

「ヤマタノオロチが人間の作った呪文を使うなんてあるはずがないんだよな・・・」
「そうか?ワシは魔法には疎くてな・・・」
「ついでに言うと奴の精神の中に人間の思考が紛れ込んでいるらしいのだよ?」
「ワシの知ったことではないな。」
相変わらず将軍はクローニクルの方を見ようともしない。

「じゃあ、分かるように言ってやろう。
さっき、気がついたんだが奴の鱗には魔法は弾くコーティングがしてあるみたいなんだ。
それも人工的なコーティングがな!」
「お師匠様、それってどうゆう事なんですか?」
ルィーズにはちんぷんかんぷんだった。

「要するにだ。あのヤマタノオロチは人間の手で品種改良されているのだよ!」
「えっ、じゃあ悪い魔道士かなんかがあの『蛇お化け』を作ったってゆーんですか?」
ルィーズにもようやく理解できたようだ。

「正確には悪い魔道士じゃなくて『何処かの国』だな。
個人の力ではあそこまで巨大なバケモンは手におえない。
そこで質問なんだがね、将軍。
態度からして、あんたは最初から奴には魔法が効きにくいことも、この谷間を通過する事も知っていたな。
おまけに対応の早さから察するに、ヤツが保護色を使える事まで知ってやがった。
どうして魔道士の俺でも知らない事まで知っているのかな?
魔法にもヤマタノオロチの習性にも疎いハズのあんたが?」
「お師匠様、そんな事くらいで疑わなくても・・・」
しかしルィーズの言葉を遮り将軍は語り始めた。

「貴様等に何が分かる・・・守るべき国などない流れ者の貴様等に・・・」

*******************************

事の始まりは東方への使節団が持ち帰った卵だった。
調べてみると悪名高きヤマタノオロチの卵。当然ただちに処分されるはずだった。
ある研究者が自由にモンスターをコントロールする技術を研究していなければ。

大国の気まぐれに運命を左右される小国にとっては最後の切り札となるかもしれない。
卵は最終兵器として孵化させられ、生体改造が始まった。
試行錯誤を繰り返し、禁断の実験が続けられた。
そして、ある若い優秀な魔道士が精神をオロチとシンクロさせる事により完璧なコントロールが実現した。そのハズだった。

**********

「それがどうして・・・こんなことに?」
ルィーズには分からなかった。

「発狂したのさ、狂暴な野生と人間の理性は相容れない・・・
無理矢理シンクロを続ければ双方の精神に負担がかかり、やがて崩壊する。」
クローニクルの指摘は正しかった。

「そうだ、シンクロしていた魔道士は狂死。奴も凶暴性を増して研究施設を破壊、そこにいた魔道士も皆殺しにして逃げ出しおった。」

ガシィッ。
淡々と語る将軍の胸座をクローニクルは引っつかんだ。

「テメエは・・・悪魔に魂売るような真似を・・・!」
「危ない、お師匠様!!」
グガァァァァァ・・・
間近の林の影の中からヤマタノオロチの首が突然飛び出したのだ!
そのまま、体当たりをかけてくる!回避・・・不可能!

ドォォォン・・・

**********

「うっ・・・・・ここは?」
意識を取り戻した時、クローニクルの体は木のてっぺんに引っかかっていた。

「くそ、切り落とした首がまだ生きていたとは迂闊だった・・・
でもどうして俺はこんなところに?
そうか、ルィーズが俺を投げ飛ばして・・・?
ルィーズ?どこにいる?」
彼は木から飛び降りてルィーズを捜し始めた。

「ルィーズ、どこにいる?返事をしろ?」
あたりを捜しても見つからない。
彼が焦り始めた時、ルィーズの声がかすかに聞こえた。

「・・・お師・・・あたし・・・ここ・・・」
「ルィーズ・・・・・ああっ・・・なんて事だ!・・・」
クローニクルは絶句した。
ルィーズの体は百数十メートルを吹き飛ばされ、岩肌にめり込んでいたのだ。
顔色は既に死者のそれだった。

*********

「しっかりしろ!今、俺の魔法で治してやる。」
ルィーズの体を谷川まで運び水を飲ませた。
しかし絶望的なのは明白だった。今まで息があっただけでも奇跡だった。

「お師匠様、・・・あた・・・し・・・死んじゃう・・・の?」
「お前なら殺したってくたばりゃしねぇよ!気をしっかり持て!」
「お・・・師匠・・・様・・どこ・・見えない・・・」
「ここにいるじゃないか。しっかりしろ!」
クローニクルの目に涙が浮かんだ。
何度もこうして彼の前から大切な者が奪われていった。
親友も恋人も、そして今、一番手をやかせた弟子が奪われる。
(いやだ!もういやだ!!これ以上・・・)

「あた・・し・・・やりたいコト・・・一杯あ・・・ったのに
・・・欲しいモノ・・・あった・・・のに・・・」
「何が欲しい?言ってごらん。」
覚悟を決めたクローニクルは優しい声で言った。

「・・・何でも・・・・・いい・の?」
唇から血を滴らせながらルィーズは真っ青な顔を上げた。

「ああ、俺の持っている物なら何でもくれてやる。」
涙を浮かべ声を詰まらせながらクローニクルは答えた。

「じゃあね・・・じゃあね・・・お師匠様の童貞いっただきまーす!」
「なにいぃぃぃ?」
いきなり跳ね起きたルィーズはクローニクルを押え込んだ!
それどころか嬉々として彼の衣服を剥ぎ取り始めたのである!

「てっ、てっ、テメエ死んだフリしてやがったなぁ!」
「あーら怪我したのはホントなんですよぉ。ほらタンコブできちゃったし、口の中も切っちゃたし・・・」
「お前は不死身か・・・」
ふつうは即死するはずのダメージなのだが・・・

「さあ、お師匠様の童貞・・・約束通りいただきまーす!」
既に自らの服も脱ぎ捨ててルィーズは圧倒的な体格差でクローニクルを押さえこんだ。
両手はクローニクルの両手を岩肌に押さえつけ、さらに顔面を柔らかな二つの乳房が押さえつけている。
オマケに顔には実に嬉しそーな、楽しそーな、期待タップリの笑みを浮かべている。

「待て!俺は童貞なんかじゃ・・・」
「あたしがお師匠様を生む前はそーよね・・・でもぉ、あたしが生んでからはどの女にも手を出していないハズ!」
そう、ある事情から彼は一度は胎児にまで若返り、ルィーズの胎内で育ったのである。

「さあ、観念し・・・あら、かわいい・・・」
「ふっふっふ、残念ながら3才児相当の一物では童貞を奪いようもないな・・・ってなんで咥えるんだぁ?」
ルィーズはムケてもいないモノを咥えてしゃぶり始めたのだ。何やら呪文を唱えながら。

「うっ、あああああ、とっ、とっても気持ちイイけど、はなせぇ!」
ポン。と音がして彼のモノは解放された。しかし

「こ、これは一体?」
クローニクルは驚愕した。
彼の一物は堂々たる大人のソレへと変貌していた。

「へっへっへっ、『週間女性マジック』今週号連載講座『亀頭増大魔法アレコレ』大成功!」
「どうしてお前は変な魔法ばっかし使えるんだぁ?
なんて言ってる場合じゃない、とにかく逃げ・・・あら?」
クローニクルはその場にへたり込んだ。まるで貧血のように。

「そうか、血がぜーんぶアレに集まっちゃったから、貧血に・・・」
「さあ・・・お師匠様、IT’S SHOW TIME!」
乳房を揺らしつつ、迫り来るルィーズの魔の手!大人と子供の体格差では抵抗も不可能!
クローニクル、貞操の大ピンチ?

「待て、ルィーズ。お前は自分の息子を毒牙にかける気か?」
クローニクルは冷静に言い放った。

「へっ?」
「さっきお前自身が言ったように俺を生んだのはお前だ。つまりお前は俺の母なのだ!」
「あっ、その?」
「つまりこれは近親相姦、禁じられた愛の形なのだ!」
「がーーーーん!!!」
実際は血のつながりなどないのだから、ただの『強姦』なのだがルィーズの脳味噌では理解できていなかった。

「そういうことだ・・・諦めてくれ、っておい?」
いきなり押さえつけるルィーズの手に力がこもったのだ。

「許されない愛・・・そうよ!あたしは禁断の愛に身を焦がす女なのよぉ!!」
火に油・・・彼は今自分の常識で計れぬ弟子であったことを思い出した。

「くそぉ乱暴だが、こうなりゃ呪文でコイツをぶっ飛ばして・・・ムグゥ?」
呪文でぶっ飛ばすことは出来なかった。ディープ・キスをかまされて唇を封じられたのだ。
沈黙魔法より完璧な呪文封じであった。

**********

森の中に誰かが倒れていた。
起き上がろうとしている一人が倒れたままのもう一人に声をかける。

「大丈夫?エルマー。」
「ええ、なんとかね。ありがとうマーリア。
それにしても炎の中に孤立した私を、炎と同化することで救出にくるとは・・・さすが世界一の炎使いですね。」
「その後、爆風で気を失ったりしなきゃ完璧だったんだけど。お師匠様たちは何処かしら。」
エルマーの右目が不思議な光を放つ。

「ちょっと待って下さい。・・・・・反応ありました!
南南東300メートル、ルィーズさんと谷川にいます。」
「無事かしら?」
「・・・無事ですよ、一応は・・・」
何故か、エルマーはちょっと不機嫌になったようだ。

「じゃ、早速合流しましょ!ところであなたの左目、どうしたの?」
「えっ、左目?」
エルマーは慌てて左目に手をやった。そしてなんと・・・自分の眼球を抜き取ってしまった!

「ああっ?」驚きの声を上げるエルマー。
手の平の眼球はひび割れから真っ二つに割れてしまった!

「あああ、50万ゴールドもする最高級の『幻視眼』が台無しだ・・・ツイてない。」
エルマー君は泣きたくなった。

**********

「うーん、久しぶりに堪能、堪能!自然の中で愛し合うってとってもいーわぁ・・・」
ルィーズは谷川の岩の上で一息ついていた。

「うっうっうっ、どうして俺がこんな目に・・・」
ようやく解放されたクローニクルは泣いていた。
ただし下半身はルィーズと結合したままである。

「でも溜まってたんですねぇお師匠様。あたしの中に3回も出すなんて。
いままで気づいてあげなくてゴメンなさいね、うふっ!」
「夢だ、これは悪夢なんだぁ・・・(泣)」
「いっけなぁーい。今日は安全日じゃないんだ。できちゃったかなぁー、うふふ。」
「もう立ち直れない・・・こんなトコ他の弟子どもに見られなかっただけでもマシか・・・」
だが希望は微塵に打ち砕かれた。

「見られなかったらどうなんですか?お師匠様・・・」
怒気をはらんだ声がした。エルマー君がすぐそばに立っていた。
マーリアもこちらを睨んでいる。

「まったく、死にそうな目にあって心配していたとゆうのに・・・」
エルマーの険を含んだ言葉がクローニクルのハートに突き刺さる。

「そうよ、あんたなんか、お師匠様でなければ・・・
私の父親じゃなければ・・・とっくの昔に・・・・」
マーリアも相当、頭にきてるようだ。

「私がじっくりと、頂いちゃってたのに、残念だわ!
あらヤダ、つい本音が・・・」
全員の脅えたよーな視線が照れ笑いを浮かべるマーリアに集中した。
マーリア=カーライル、『抹殺者』の異名の他に、少年愛好癖でも恐れられる魔女。

「あああああ、とにかく!もう俺は終わりだぁ・・・」
頭を抱え込むクローニクルにルィーズは優しくささやいた。

「だいじょーぶ、お師匠様はあたしが守りますから・・・あたしの力で・・・
あ・た・し・の・ち・か・ら・・・ア・タ・シ・ノ・・・」
「どうしたルィーズ?」
クローニクルはルィーズの様子が変なことに気づいた。

「ア・タ・シ・・・・チ・カ・ラ・・・慈悲深キ大地ノ女神ヨ、今一度ソノ豊饒ノ力我ニ与エヨ。」
「ルィーズ?その呪文は一体?」
クローニクルさえ知らぬ呪文だった。

呪文に呼応するように谷間の全ての魔法陣が緑の炎を吹き上げた。
攻撃用魔法陣も防御用魔法陣も呪縛結界魔法陣も、無傷の魔法陣も半壊した魔法陣も全てが緑に輝きだした。

「なんだ?」驚くクローニクル。

「これは?」エルマーもあたりを見回す。

「一体?」マーリアにも何が起きたか分からない。

「あ、あたし、今なんかしましたかぁ?」
ルィーズ自身にも何が起きたか分からなかった。

緑の炎は天高く伸びていった。
空中で一つに合流し大きな緑の光の玉となった。
そこから光の滝が降り注いだ。まっすぐにルィーズめがけて。

「危ない!ルィーズちゃん、逃げて!」
しかしマーリアの言葉は間に合わず、ルィーズの裸体は光に包まれた。

「あ、ああっ、ああああんんんんっ・・・・」
ルィーズの体内に暖かく、力強い何かが流入してきた。

ドクン。

「えっ?」
一同は目を疑った。ルィーズの体が少し膨張したように見えたのだ。

ドクン。ドクン。

「目の錯覚・・・じゃないわ?」
マーリアの言う通り、ルィーズの体は確実に大きくなっている。
165センチほどだった彼女の身長は2メートルを超し、さらに急速に大きくなっていく。

ドクン、ドクン、ドクン。
心音はドラムのようにあたりに響き渡り、それに合わせるかのように若々しい裸体は巨大化してゆく。
身長5メートル。7メートル、10メートル。
森の木々の高さも超えてさらに大きくなってゆく。

ドック、ドック、ドック
「ああああああああああああ・・・・・・・」
早鐘のような鼓動とともに、彼女の喉からは苦痛とも喜悦ともつかない声が漏れ出した。
その間にも巨大化は加速する。30メートル、50メートル・・・
既にこの世界に存在するいかなる城よりも巨大だ。

「んんんっ、んんん。ああぁ・・・・・ん・・・・・」
緑の光は薄らぎ、やがて消えた。同時に巨大化も停止した。
二人の弟子たちは、後輩の巨体を仰ぎ見るばかりだった。
推定身長180メートル以上の『人間』を見るのは長生な魔道士たちにしても初めてだった。
瑞々しい肉体が太陽の光を浴びて健康美に輝いていた。
ルィーズは先輩二人を見下ろしてニコリと笑った。

「エルマーさん・・・ちょっとあっち向いてくれません?恥ずかしいですぅ・・・」
「・・・・・あっ、すいません。」
顔を赤らめて一般市民の家屋より巨大な胸を隠すルィーズに、エルマーは背を向けた。

「お前ら・・・俺の事、完璧に忘れやがってぇ!」
クローニクルの(情けない)怒鳴り声がルィーズの腰の下、金色の『繁み』あたりから聞こえてきた。
彼はまだ巨大な『亀裂』に挟まれたままだったのだ。

*********
第3章「再戦準備!」
*********

「どうなの、ルィーズちゃんの具合は?」
ルィーズの膝の上に乗って何事か調べているクローニクルにマーリアは問いにかける。

「地のエネルギーの大量流入による一時的な巨大化現象のようだ。
以前に巨大化した時にエネルギーの流入しやすい経路が体内に形成されていたらしい。
エネルギーを大地に逆流させれば元に戻る。」
振り返りもせずに、クローニクルは答えた。
さすがにフリ○ン姿ではやりにくいのか、黒マントだけ羽織っている。
しかしルィーズは・・・

「あのーお師匠様、あたしもちょっと寒いんですけど・・・?」
勿論、彼女が羽織れるような大きな布切れなどこの世に存在しない。

「そうだな・・・まず俺とシンクロしてみろ。」
「?はい・・・。」
「世界を満たす大気の精霊、風の御使いよ、その息遣いもて、我が身を守り給え・・・」
呪文とともにルィーズの体の周囲に、音もなく気流が生まれた。

「わあ・・・きれいねぇ!」
マーリアが思わず感嘆の言葉を洩らした。
最初は透明だった風の帯のあちこちに、鮮やかなピンク色の光の粒が生じた。
光の粒子は次第に増え、ルィーズの体は半透明なピンクのベールに包まれた。

「『風のベール』の呪法、これでよし・・・と、エルマー!ヤマタノオロチの現在位置はつかめたか?」
クローニクルは一番弟子に声をかけた。

「捕捉しました。既にベルナレス市の市街地に入っています。」
近くの岩の上で精神集中していたエルマーが答えた。

「映し出せるか?」
「はい。」
エルマーの右目が青く輝いた。すると空中に霧のような物が生じた。

「あのエルマーさんの目って一体・・・」
ルィーズが不思議そうに尋ねた。

「ああ、両目とも義眼なんです。子供の頃に事件に巻き込まれてね。
魔法のおかげで不自由はしてませんが・・・ね。」
ルィーズの問いに答えるエルマーの顔はなんだか寂しそうで、それ以上は何も聞くことができなかった。
やがて空中の霧にくっきりとヤマタノオロチの姿が映った。

煉瓦造りの建物を砕き、街路樹を焼き尽くす蛇神の巨体が街の中心目指して進む。

「市民の避難はおおよそ完了しているようですが、まだ数十人の残留者の反応があります。」
冷静なエルマーの声が状況を告げる。

「救助は・・・絶望的だな。そうだ、マーリア!ギアナって名前の女を知らんか?」
「な、何よいきなり・・・?」
「知らんのか?」
「確か、王妃様の侍女にそんな名の娘が・・・確か結婚退職して今はベルナレス市の寺院に務めてると思うけど、知り合いなの?」
マーリアは不思議そうにクローニクルの顔を見た。

「ちょっとな、エルマー!寺院の様子を映してみてくれ。」
「はい・・・これは?」
寺院の前には先ほど撤退したはずの兵士たちが整列し戦闘準備をしていた。

「寺院の内部にも複数の生命反応があります。うち一つはかなり弱っています。」
「動かせん程の重傷の兵士がいたな、治療がすむまでは医者も動けんという事か?」
クローニクルの顔に焦りが浮かんだ。

「見捨てるしかないわね・・・」
辛そうな表情でマーリアが呟いた。

「いや、このままだと。我々も助からん・・・」
クローニクルは重々しく口を開いた。

「どういうことですか?我が師よ?」
「エルマー、さっきヤマタノオロチの体から煙が上がってるのをみたろう?
奴には周囲の自然界のエネルギーを取り入れて、魔力に変換して貯える能力があるようなんだが・・・
それが暴走して、エネルギーが貯まる一方になっているらしいんだ。」
「では、放っておいても自滅・・・」
「自爆だ。半径100キロ四方は消滅。呪力汚染で千キロ以内には人が住めなくなる。」

沈黙が支配した。

「解決方法は?」
エルマーは冷静な声で尋ねた。

「自滅する前に奴を倒し、魔力の源である心臓をえぐりとるしかない。
しかし今の我々にそんな事ができる者は・・・」
言葉を止めて、クローニクルは一人の弟子を見上げた。
他の二人もその視線を追う。

「えっ、あたしまた何かしましたぁ?」
ルィーズはいきなりその場の全員から注目されて慌てた。

「できるかもしれんのが一人いた・・・けど・・・。」
クローニクルは余計に不安になった。

*********

「あたしが一人で・・・あの蛇お化けと戦う・・・ですかぁ・・・」
泣き出しそうな顔でルィーズは言う。

「今のお前の膨大な魔力と馬鹿力があれば、勝機は十分ある!」
「でもぉ・・・」
「頼む・・・」
クローニクルがルィーズに頼み事をするのは初めてだった。

「分かりましたぁ・・・」
渋々、末弟子は頷いた。
しかし・・・座っていてもなお100メートル近い巨体が頼りなげに見えた。

「心配するな、俺もお前に同行する。
お前一人じゃ今使ってる『風のベール』も維持できないからな」
クローニクルは笑顔を弟子に向けた。

「しかし、どうやって同行するのですか?シンクロは体を接触させていないとできませんよ?」
エルマーの指摘にクローニクルも困った。

「肩の上にでも、乗っけてもらうさ!」
「落っこちたらどうするんです。あの世へ直行ですよ!」
エルマーの言うことは確かだった。

「う・・・じゃあ、手に持っててもらえば・・・」
「片手が使えないんじゃ、ルィーズちゃんが不利でしょーが!」
これもマーリアからクレームが入った。

「じゃあ、どうしろと・・・」
「だいじょーぶですぅ、こうすれば・・・」
クローニクルの言葉を遮ってルィーズが口をはさんだ。

「えっ・・・うわっ!」
ルィーズの指先がクローニクルの体をつまみ上げたのだ。
そのまま、彼を自分の膝の間へ・・・
そして黄金色の『繁み』の下、湿った『亀裂』と押し当てた。

ジュブ。
卑猥な音と共に彼の体は巨大な秘唇に呑み込まれ、消えた。
呆然とそれを見ていたエルマーたちの頭脳に師の思念が伝わってきた。

『暗いよー!生暖かいよー!狭いよー!潰されちゃうよー!恐いよー!』
「怖がることないですよぉ!今度は気をつけますからぁ!」
・・・数年前の恐怖がよみがえったようである。それにしても情けない・・・

『辺り一面ネバつくしぃぃぃ・・・おまけにイカくさいしぃぃぃ・・・!』
「3発も中出しするからですぅ・・・自業自得だと思いまーす!
さあ、お師匠様もっと奥まで進んでください!この中なら絶対安全ですぅ!」
ルィーズは(実に嬉しそうに)自分の秘所に向かって話かけた。

『冗談言うなぁ!以前この中で俺を殺しかけたの忘れたかぁ?』
「うふふふっふっふ・・・。以前のあたしとはもう違いますのよ・・・
3年間の秘密特訓のすえにあたしは生まれ変わったのです!
今やあたしのココは金属バットをも押しつぶすパワーと、生卵やお豆腐さえ崩さずに奥の奥まで運ぶ繊細な動きをモノしたのよ!」
胸を張って宣言するルィーズ!

『・・・お前、魔法の修行もせんと・・・』
クローニクルは頭を抱えた。

「・・・で、でも、どんな修行なのかしら?興味あるわ!」
ちょっぴり顔を赤らめて、何やら期待しているマーリアだったりする。

「・・・その前に聞きたいのですが、ルィーズさん?
10日前の夕食はあなたが作った東方の伝統料理『スキヤキ』でしたが、あれにも生卵とお豆腐が使われてましたね。
あれをその『秘密特訓』とやらに使っていたなんてことは・・・」
顔色の悪くなったエルマーの問いにルィーズは、

「てへっ!」
ちょっぴり舌を出して、照れくさそーに笑っただけだった。
巨体に似合わぬ可愛い仕種であった。
ただし、エルマー君の顔色はさらに悪くなったが・・・

『とにかくだ、俺をさっさと外に出せ!!』
「もぉー聞き分けないんだからお師匠様は・・・育て方、間違ったかしら?
いいわ、こーゆー時の為の必殺技使っちゃうんだから・・・」
『な、なんだぁ!?』
ルィーズの言葉が終わらぬうちにクローニクルを取り囲む肉壁に変化が生じた。
うねるような動きで彼の体に巻き付くや、肉の大波と化して彼を奥へ奥へと押し流し始めたのだ。

『うあああぁぁぁ、やめてくれぇぇぇぇ・・・』
「ん、んんっふん・・・抵抗・・・しない方が・・身のため・・ですよぉ。」
気持ちよさそうな表情でルィーズは身をくねらせる。
膣壁を自在に操り、呑み込んだ獲物を翻弄する。
まさに温泉芸者もビックリの大技である。

「ぐおおお、このままでは3年前の二の舞いに・・・そうはさせんぞぉ!」
気合とともにクローニクルの体から紅蓮の炎が吹き出した!

『ふはははは!少々手荒だが仕方ない!大事なトコロに火傷をしたくなからった今すぐ俺を外に・・・』
「ふっふっふ、そぉんなチンケな炎でどうする気?」
『何だと?』

ドドドドドドド・・・・
『うわぁっぷ?』
奥の方から押し寄せてきた、大量の淫水がクローニクルの全身を洗い流した。
猛火は一瞬に鎮火した。

『ならば、氷漬けにしてやるぅ!』
彼の体から今度は凍気が吹き出した。『生きた洞窟』はたちまちにして氷の洞窟に変じた。
内側ばかりか外の金色の『繁み』まで霜がおりて、まるで樹氷のような美しさだ。

『よし、今のうちに外へ・・・』
「んふふっ・・・。ひんやりして気持ちイイわ!でも、この程度の氷ではお師匠様への愛の炎は消せませんわぁ!」
『おおっ!?』
急速に高まる体温が肉壁を覆う氷をあっと言う間に溶かし去った。
濛々たる湯気の中、さらに急速膨張した襞が彼に絡み付く!

『おのれ!最後の手段だぁ!』
強力な電撃がほとばしった!
健康的な薄桃色の肉壁の全面を稲妻が襲った。

「あああアアンンっ・・・シビレるぅ・・・」
『やった!効果ありか?・・・アレ?』
確かに効果はあった。
刺激を受けた膣全体が活性化し、さらに加速した動きで彼を奥に運んだのである。
分かりやすく説明すると

『うわああああ、もしかして『逆効果』・・・?』
その通り。

**********

「もぉーお師匠様ったら、いつまでもそんなトコにしがみついて・・・」
クローニクルは襞のひとつにしがみつき、必死に持ちこたえていた。
彼の眼前には白っぽい巨大な臓器が待ち構えていた。
3年前、彼を9ヶ月に渡り幽閉していた器官『子宮』である。

『いやだ・・・いやだ・・・いやだいやだいやだいやだぁ!』
「そこはお師匠様の第2の『故郷』なんですよぉ!たまには里帰りしてくださぁい!」
『ぜったい、ヤダ!』
「んっもう!仕方ないわねぇ・・・じゃあ最後の手段!」

グニュ・・・グニュニュ・・・
不気味な音とももに子宮は自ら口を大きく開いた。
まさにクローニクルを吸い込もうとするかのように・・・

「ここまで自分の内臓を操るとは・・・恐るべき弟子よ・・・はっ!しまったぁ!」
いきなりクローニクルの足に粘膜が絡み付き、挟み込み始めたのだ。
そのまま食虫植物に捕らえられた虫のように彼は押さえつけられてゆく・・・。

「た、たすけてぇ!・・・あれ?」
肉襞の動きが止まった。

パシッ!
「うわぁぁぁ・・・」
体をくわえ込んでいた、襞がいきなり元に戻った!
その反動で彼の体は植物の種のように弾き飛ばされた。
飛ばされて行った先は勿論・・・・・子宮!
彼が入口を通過するや、女体の神秘的器官は満足げに口を閉じた。

「んっ・・・えんとりー・ぷらぐ挿入完了・・・しんくろ率400%・・・」
意味不明な独り言をトロンとした目つきでルィーズは言った。

「さぁ、エルマーさん、マーリアちゃん、準備OKですよぉ!出発しましょ!」
「・・・ああ、そ、そうだね。ま、街までい、急がなきゃ・・・」
震える声でエルマーは答えた。
彼は常識が崩れ落ちる音を聞いたような気がした。

「ま、まあ問題も解決したみたいだし・・・多分・・・」
マーリアも上ずった声で答えた。
人間のレベルでは計れない現実もあるのだと理解した。

「とにかく、他の問題は放っといてベルナレス市に急ぎましょう。」
エルマーがそう言って歩き出した時だった。

「・・・ルィーズ、そのお二人を街まで送って差し上げなさい・・・急いでね・・・」
怒りを押さえた思念が響いた。

「えっ?」
「きゃあ?」
いきなり二人はルィーズにとっつかまり、そのふくよかで巨大な胸に抱きかかえられた。

「じゃあ、発車しまーす!」
「うわわわわ・・・ちょっちょっと待って・・・」
「きゃあああああああああああ!?」
ルィーズは山を飛び越え、谷を飛び越えて、全力疾走し始めた。
地響きを上げ、大地を震撼させ、二人の絶叫とともに。

**********

「着きましたよぉ・・・どーしたんですか、二人とも?」
「気持ち悪い・・・・・」
「は、吐きそう・・・」
15分後、一行は町外れの山の後ろに到着した。
エルマーもマーリアも真っ青な顔でへたばっていた。
時速150キロ以上で急発進・急加速・急旋回・急停止おまけにジャンプに着地も加わって、気分はジェットコースターである。
もっともこの世界にはジェットコースターなんて物はないのだが。

『どうだ馬鹿弟子ども、俺の苦労が少しは理解できたか?』
小気味よさそうなクローニクルの思考波であった。

「・・・な、なんで、お師匠様は・・・平気・・・なんですか?」
エルマーは聞いてみた。

『この中は妙なエネルギーで飽和状態になっててな、衝撃は大幅に吸収される。
おまけにクッションも効いてるし、多少の衝撃じゃビクともせん。
なんなら、お前等も入ってみるか?』
「遠慮しとくわ・・・」
マーリアはそれだけ言うとぶっ倒れた。

一休みして、彼等は街の様子をうかがった。
あちこちから火の手が上がっているが、消火活動をする者もいない。
ヤマタノオロチの進路にそって、家屋は踏み潰され、なぎ倒されて地面までえぐられている。
肝心のヤマタノオロチは悠々と進路上の全てを粉砕しながら進んでいく。
「奴の体から上がる煙はだんだん多くなってきました。しかもまっすぐに寺院に向かってます!」
エルマーが報告する。

『エルマー、マーリア、先回りして寺院の非常用防御結界を強化しろ。
自然災害用の結界だけでは1秒ももたん!』
「分かりました、しかし・・・」
エルマーは心配そうな顔をしながらも空中浮揚にうつり、高速飛行を始めた。

『ルィーズの腹の中なら例の沈黙魔法もシールドされているから大丈夫だ。それより急げ。』
「気をつけてね・・・お父さん・・・」
マーリアもまた心配そうに言うと体を一塊の炎に変え、炎上する街へと飛び込んでいった。

**********
第4章「リターン・マッチ」
**********

「お師匠様・・・あの蛇お化けの思念にあった『ギアナ』さんていう人・・・」
彼女は自分の下腹に話かけた。

『ああ、恐らく実験台に志願した魔道士の妻だな・・・
魔道士の意識のカケラが奴の意識に焼き付いてしまったのだろう・・・
妻の元へ帰りたい、という意識だけがな。
それに導かれて妻がいるハズの寺院を目指してるわけだ。』
胎内からクローニクルが答える。

「殺さなきゃ・・・いけないんですか?」
妻の元へ帰りたい一心の魔道士の心情を哀れんでいるのだろう。

『あれは死んだ魔道士じゃない、思考をコピーされた、ただの発狂した化け物だ。』
しかし、クローニクル自身も割り切れないものを感じていた。

『できれば、奴を街から引き離したい・・・ルィーズ、奴の注意を引け!』
「へっ?!そ、そんな事言ったってどうすれば?」
『何でもいい!とにかく奴の目を引くんだ。』
「えーっと、えーっと・・・そうだ!アレをやれば・・・」

**********

寺院の前に10数名の兵士が整列していた。
部隊長以下、無傷のものは誰もいない。

「これより、最終作戦行動に移る・・・その前に諸君に言っておく。
今日まで私の指揮下でよく戦ってくれた。心から感謝する。以上だ!」
全滅は確実だった。
やがて部隊長は一人の若い兵士の前に足を止めた。

「お前は・・・先月入隊したばかりだったな。
まだ、わしらと運命を共にするには若すぎ・・・」
「中で治療を受けているのは私の兄です。」
笑って逃がそうとする指揮官に若者は笑って答えた。
二人ともそれ以上は何も言わなかった。

「敵、前方1500メートルに接近!」
遠眼鏡を構えた偵察兵が叫ぶ。

「総員、戦闘配置!」
部隊長の恐らくは最後の命令が発せられようとした瞬間であった。

「部隊長、街の外に新たな化け物・・・いや・・・女です・・・巨大な・・・」
偵察兵の報告は不明瞭なまま途切れた。

「何を言って・・・」
部隊長自身が目にした光景を信じることができなかった。
確かに街の外に胸を張って立つ女の姿が見えた。
美しい薄桃色のベールを身に纏い、絶対の自信と威厳をもって巨大な建築物をも見下ろす巨大で神々しい女の姿が。

「部隊長・・・・・あれは一体?」
眼前の危機も忘れて兵士たちは巨大な女の姿に見入った。
しかし、老練な部隊長にしても知るはずもない。

「・・・・・女神?・・・・・」
たった一言だけ部隊長は呟いた。

冷静に考えてみれば、部隊長以下の兵士の中にはルィーズと顔を合わせてる者もいるのだが、雰囲気のあまりの違いに同一人物とは思わないようだ。
もっともコスチュームと髪型変えただけで家族や親友でさえ正体を見抜けなくなるアニメも多いから当然かも知れない。

**********

『ルィーズ、何をやらかすつもりなんだ?』
「まあ、大船に乗ったつもりで見ててくださいな!」
クローニクルの胸に悪い予感が暗雲のように広がった。
コイツが自信たっぷりに言う時はロクなことがない・・・

彼女はビシッとヤマタノオロチを指差し、キッと睨みつけた。

「待ちなさぁい!そこでのたくるお化け蛇!!」
『おっ、おい?!』
「真面目に働く兵隊さんをいじめるわ、善良な市民の皆さんのお家を壊すわの悪行三昧!
天が許してもこのあたしが許さなぁーい!!」
『あのー・・・ルィーズさん・・・・・?』
「超巨大美少女魔道士セーラー・ルィーズ!
月に代わって・・・お仕置きよ!!(・・・ふっ、決まったわね・・・)」
その瞬間、居合わせた全ての者の思考が停止した。

ビシッとキメのポーズを取ったままの巨大ルィーズ。
無感情な目で彼女を見つめるヤマタノオロチ。
目の前の現実を理解できぬまま硬直した兵士たち。

ヒュゥゥゥゥゥゥ・・・・・
時間が停止した町中を乾いた、冷たい風が吹き抜けていった。

兵士A証言
「い、一体どうゆう意味なのでしょう?」

部隊長証言
「わしにも分からん!もしや神の国の呪文では・・・?」

マーリア=カーライル女史の意見
「・・・殺されるかもよ、セーラー戦士のファンクラブの方々に・・・」

エルマー=スミス氏の見解
「漫画以外の本も読んどいた方がいいと、常々言っておいたのですが・・・」

最後にクローニクル=ハミルト師匠より一言
『ルィーズ・・・20才過ぎ+非処女のお前が美『少女』を名乗ること事体、果てしなく無理があるぞ・・・』

「な、何よ、何よ!とにかくお化け蛇の注意は引いたんだからいいじゃない!」
思わぬ不評にルィーズは焦った。
しかしヤマタノオロチも残っている6つの首を全てルィーズに向けている。
無表情な爬虫類の目がじっと闖入者を見つめ、その口から呟きがもれた。

「・・・ア・・・アブナイ奴・・・・・」
この瞬間ルィーズの中で何かが『ぶちっ』と音を立てて切れた。
モノスゴイ形相でオロチを睨みつけるや、ドスドスと足音を響かせて街中へ入っていった。

「このアホ弟子ーーーっ!オメーが街中へおびき出されてどーすんだー!?』
師匠の絶叫も彼女は聞いちゃいなかった。

**********

ベルナレス市内の繁華街の一角、ベーカリー・ショップ『ジーンのお店』店内。
一人の老人が無気力な視線を天井に向けて腰掛けていた。
店主ジーン=ハックル、75才。
5才で親方に弟子入りして以来70年、パンを焼き続けてきた頑固な職人。
16才で親方の娘と恋に落ちて、周囲の反対を押し切って駆け落ち。
借金をしてベルナレス市の繁華街にこの店を持った。
妻に支えられて何度も挫折しそうになりながら、5人の子供を育て、店を『ベルナレス一番の味』と言われるまでにした。
子供たちが独り立ちしたのに安心したのか、妻は2年前に他界した。
以来、無気力な日々を彼は送っていた。

「ヤマタのなんとかという化け物が来るから避難しろ、か・・・
もうええんじゃよ、このまま婆さんの待っている天国へ、この店と一緒に・・・」
疲れた目で彼は窓の外を見た。そして凝固した。

「女神・・・様?」
それだけ言って、彼は戸外に駆け出した。

ずしん!ずしん!ずしん!
巨大な、美しき女神がこちらへ歩いてくる。
無人の街を踏み砕き、石畳を陥没させながら。

「おっ、おおっ、おおおっ・・・」
彼は絶句した。巨神は彼の事など気にもかけぬ様子でやってくる。

ずしぃぃぃん!

「な、なんとぉ?!」
見上げる老人の事など全く無視して黄金の髪の女神は目の前にやってきた。
彼の頭上をひとまたぎして、彼の店をあっさり踏み潰す。
呆気に取られながら真上を見上げる老店主を残して、そのまま蛇神へと向かっていった。

「すっ、すごい・・・」
先ほどとはうって代わったギラギラした瞳で、彼は女神を見送った。
踏み潰された店の事さえ彼の意識にはなかった。

「50年ぶりじゃ・・・あんな新鮮なのを見たのは!」
老人の鼻孔からダラダラと鼻血が流れ落ちた。
今、妻の死から一人の男が立ち直った!
ノーパンの女神の神秘の力で!!

**********

『ルィーズ!短期決戦だ!!心してかかれ!』
「りょーかい!お師匠様。」
クローニクルは市街に敵を引きずり出すという作戦を捨てた。
接近して分かったことだが、
−ルィーズの目にした光景はシンクロ中ならクローニクルの精神に転送される−
ヤマタノオロチの体からは煙どころか火の手が所々上がっていた。
既に、時間の余裕などなくなっていたのだ。

『気をつけろ、もう射程距離・・・』
クローニクルの言葉が終わらぬうちに先制攻撃が来た!

ゴオオオオォォォッ
熱量数千度、鉄をも溶解する炎の吐息がルィーズを襲う!

「バスト・ファイアー!」
ルィーズの掛け声と共に彼女の豊満な乳房が二つとも白熱した。
ナイスなプロポーションを覆う風の一部が軌道を変えて熱風となった。

ドン!
灼熱の炎と凄まじい熱風が正面衝突し、拮抗した。
木造の家が瞬時に燃えあがり、燃え尽きた。
美しい石畳の道が、たちまち溶岩の川に変わる。

ググゥゥゥ?
必殺の攻撃を封じられたヤマタノオロチに動揺が走る。
その一瞬をルィーズは見逃さない!
湖を思わせる深いブルーの瞳がキラリと光った。
いや、マジで彼女の両目が光った。

「魔法力ビィィーム!!」
『変な名前を技につけるのはやめろぉ!』
変な名前の技でも、両眼から放たれた強力そうな山吹色の光が蛇神の巨体を襲う。

バリバリバリ!
スパークに包まれた巨大な蛇の体からの肉の焦げる匂いが鼻をつく。

**********

「スゴイ・・・、こうしちゃいられない。あたしも加勢を・・・」
「およしなさい。」
寺院の屋根の上に実体化したマーリアを空中から飛来したエルマーが制止した。

「どうしてよ!奴を倒すチャンスじゃない!」
「ご覧なさい・・・
口から火を吐いたり、目から怪光線出したりするよーな戦いに人間ごときが参戦できると思いますか?
寺院の緊急防災用結界を強化するだけで精一杯ですよ。」
「・・・・・そうね。」
確かにキング○ドラVSマジン○ーZの戦いに参加できるよーな魔道士はファンタジー世界には存在するまい。

**********

『くそっ、奴の鱗の対マジック・コーティングのおかげで致命傷にならん!
ルィーズ、接近して奴を殴り倒せ!』
「えっ、でもぉ・・・」
『大熊でも投げ飛ばすお前の馬鹿力なら奴にも勝てる!さぁ、行け!』
「でもぉ、あたし蛇さんとか蛙さんとか苦手だしぃ、気持ち悪くて触れないしぃ・・・」
一応、女の子らしく爬虫類とか両生類とかはダメらしい。
クローニクルは仕方なく、ある決断をした。

『残念だな・・・あいつを倒せたら、お前と二人で『熱い夜』を楽しめると思ったのに・・・』
「お化け蛇!あたしの正義の鉄拳で地獄へお行きぃぃぃ!」
単純娘は蛇神に向かって真っ直ぐに突撃した。

「危ないわ、ルィーズちゃん!正面から突っ込んだりしたら・・・」
マーリアの危惧通り、ヤマタノオロチは狙いを定めて口を開いた。

ドォン!圧縮空気弾発射!
咄嗟に身をかわすルィーズ。

ドォォォォン・・・・
圧縮空気弾は空しくルィーズのいたあたりを通過し、遥か遠くの山々を砕いた。
・・・だが・・・

「おっとっと・・・きゃぃ?」
ばしゃん!
何とか攻撃をかわしたルィーズだったが、はずみで市内を流れる川に足を取られてしまった。

「ひぇぇぇぇ!」
ドグォォォォォン・・・・・
地響きとともにルィーズはすっころび、顔面から地面に突っ込んだ。
猛烈な振動が大地を揺らし、市内の建造物の大半が倒壊した。
倒れ込んだあたりから放射状に地割れが走る。

「ヒーン・・・、お鼻すりむいちゃたよぉー・・・(涙)」
一同がずっこける中、ヤマタノオロチが第2射の体勢に入る。

ドォン!ドォン!
この状態での回避は不可能!しかし・・・

「えっ?」
その場にいた者全てが目を疑った。
着弾寸前、ルィーズの姿は幻のように消えたのだ。
必殺の攻撃は空しく土埃を舞い上がらせるだけに留まった。

「馬鹿な!あの巨体ではあたしたちの目でも追えない程、素早く動けるわけがない・・・」
マーリアにも分からなかった。

「そうか!転移術か!なら転移先は・・・」
エルマーが看破した通り、ルィーズの胎内に潜んだクローニクルが、あらかじめ転移呪文を唱えていたのだ。
その時、上空から『声』が轟いた。

『100万トンキィィック!!』

バキャァッ!
真上を見上げた、ヤマタノオロチの首の一つにドロップキックが決まった。
ヤマタノオロチはそのまま後方に吹き飛ばされた!
1500メートル上空からの直撃を食らった首は半分、千切れかけて動かなくなった。

ドォォォオオオン!
更に、女神の軽やかな着地は500メートルに及ぶクレーター状陥没地形を出現させた。

**********

「おおっ・・・」
「何とゆう・・・」
兵士たちからどよめきがもれた。ただし・・・

「見たか?一瞬だったが。」
「ああっ、確かに見たとも!」
「くそっ、まばたきしたから見逃しちまった・・・」
兵士たちの目は血走っていた。
彼等の瞼には垣間見た、ピチピチした張りのある健康な肌のヒップラインが焼き付いていた。

「ルィーズちゃんに教えてあげたほうがいいと思う?
あんまり激しく動くと風のベールの隙間から大事なトコが見えちゃうよって・・・」
マーリアの意見にエルマーは首を横に振った。

「今は止めておきましょう・・・戦闘中に気が散っては・・・」
一方、そんな会話には全然気づかない、お間抜け師弟コンビは・・・

「お師匠様・・・あたしの体重は『100万トン』もありません!(怒)」
『景気づけだよ、けーきづけ!それよりチャンスだ、一気に行け!』
起き上がろうとした蛇神に向かってルィーズはダッシュした。
蹴り上げられた家が、橋が、道路が破片となって宙に舞う。

ヤマタノオロチの残る5つの首が牙をむいて襲い掛かる!
が、ルィーズは余裕の笑みすら浮かべる。

「無駄、無駄、無駄無駄、無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
嵐のような攻撃を軽やかなフットワークでかわしていく。

「ふっ、そんなノロマな攻撃・・・お師匠様のシバキの足元にも及ばないわ!」

バシィッ!バキィィィッ!
強烈な左ストレートを受けてヤマタノオロチは地響きを上げて倒れた。

「ク・・・クロス・カウンター?」
エルマーの驚きの声が上がる。

「あの二人、本当に魔法の修行してたのかしら?」
マーリアの疑惑も当然である。しかし事情を知らぬ兵士たちの視線は違った。

「こ、今度は見たか!乳首だ、乳首だぞ!」
「おおっ!しかもとびっきりフレッシュなピンクの乳首!!」
「ホントかよ!俺また見逃しちまったぜ!」
・・・ファンタジー世界でも軍隊は女っ気がないらしい。

「馬鹿者!格式ある王立軍の兵士たるもの破廉恥な言動は慎め!」
さすがに部隊長・・・と言いたいところだが、彼の目もやっぱり血走っていた。

**********

倒れたヤマタノオロチの尻尾を、ルィーズの巨大な両手が掴む。

「はぁぁぁ・・・」
気合を入れて持ち上げると、そのまま蛇神の巨体を風車のように振り回した。

グォン。グォン。グォン。
竜巻のような突風が発生した。瓦礫が天空に巻き上げられていく。
音速に近いスピードと遠心力の前にはヤマタノオロチのパワーも通じない。

ブチィッ!ドッゴオン!!
遠心力に耐え切れなくなった尻尾がちぎれ、ヤマタノオロチは数百メートル先の地面に激突した。

『とどめだ・・・右手で心臓をブチ抜け!』
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、・・・はい!」
息を切らせるルィーズの右手にエネルギーが集中し、赤く輝きだした。
そのまま動かなくなった蛇神に近づいていく。
勝負は決まった、誰もがそう思った。

ビュッ!
「キャア?!」
手刀を振りかざし、最後の一撃を加えようとした女神の首に何かが巻き付いた。

「あっ、さっき千切れた尻尾が?」
慌てて、巻き付いた尻尾を振り払うが・・・

グガァァァァ!
いきなりヤマタノオロチが飛び掛かってきた!
おぞましい体をくねらせて、そのままルィーズの全身に絡み付く!

「おお!」
「あの技は、まさか・・・コブラツイスト!!」
兵士たちの言うとおり、蛇神は意外な高等テクニックを持っていたのである!

ギシギシギシ・・・

「あ、あああああっ!」
ルィーズの全身をキリキリと魔の関節技が締め上げる。

**********
第5章「決着、そして終幕」
**********

「なんとかならないの?時間ももうないのに!」
焦りの声がマーリアから上がる!

「やっかいだな、攻撃すればルィーズさんにも命中してしまう・・・」
エルマーにも名案はなかった。しかし・・・

「ふっふっふっふっふっ・・・これで勝った思わない事ね・・・」
妙に自信ありげな台詞をルィーズは不敵な微笑みとともに口にした。

「関節の固い男ならともかく、このルィーズちゃんの若々しい柔軟なカラダにこんな見かけ倒しの関節技が役立つと思って?」
全くノーダメージのルィーズに、ヤマタノオロチは慌てて噛み付こうとする!

『おっと、そうはいかんな!』
クローニクルによって一段と強化された風のベールが鋭い牙を阻止した。

『さあ、ルィーズ!反撃だ!』
「はぁい!!・・・うっ?」
ルィーズの様子がおかしい?!

『どうした、ルィーズ?』
「あ・あ・あ・あ・あ、や、やめて!」
『何だ?何があった?』
牙は封じたハズだった。一体何が彼女の身に・・・?

「あっ、あれを見ろ!」
「反則じゃねのか、あんなのは?」
兵士たちも怒りの声をあげた。
確かに蛇神の牙はルィーズの素肌には届いていない。
しかし別のもっと細いものが風の結界の隙間を抜けて届いていたのだ。
・・・先が二つに割れた、赤い細い蛇の舌先が。

「あ、ああん・・・駄目・・・」
悩ましげなな声をルィーズは上げた。
無論、舌先が肌に触れたぐらいではダメージにならない。
問題は触れた部分が感じやすい『乳首』だという事だった。

「いい・・・けど・・・駄目ぇ・・・」
ヤマタノオロチには性感帯など分かるはずはないのだが、それでも急所であることには気づいたようだ。
左右両方の乳首を攻められてルィーズは身悶えした。

『我慢しろ、ルィーズ!なんとか脱出するんだ!』
「は、はい・・・はっ、そ・そこはぁ・・・」
運悪く敵はさらにもう一個所の急所も発見した!
太股に巻き付いていた首が舌先を彼女の股間へと伸ばしたのだ。
子宮の内壁が小刻みに痙攣し始めた。

「ああああああああああ・・・・・」
クリちゃんに細い舌先が巻き付いた。
ざらつく舌の表面が、クリクリクリと彼女を攻め、いや責め立てる。

「あっ、これはスゴイ!舌先が、舌先が・・・
ああっ、しかも割れ目にそってあんなコトを〜・・・!!!」
遠眼鏡を覗き込む偵察兵が支離滅裂な実況中継を続ける。

「ええい、貴様の報告は要領を得ん!遠眼鏡をワシによこせ!」
部隊長が遠眼鏡をひったくろうとする。

「いえ、偵察は私の任務であります!この遠眼鏡は死んでも離しません!」
「ずるいぞ、テメエだけ局部どアップで楽しみやがって!」
「俺にも見せろ!」
「あっ、お前は『マーリア様ファンクラブ』の会員じゃねぇか?お前に加わる資格はない!」
「いや、俺は若くてピチピチした肌の素晴らしさを否定したわけでは・・・」

ヒュルヒュルヒュル・・・ドカン!
遠眼鏡争奪戦を繰り広げる兵士たちのど真ん中で、寺院の屋根から飛んできた火球が炸裂!
兵士たちを見事に吹き飛ばして、遠眼鏡争奪戦は水入りとなった。

「・・・あら、呪文間違えちゃった・・・」
涼しげな顔でそう言うマーリア。

「・・・恐ろしい女だ・・・失言でした!」
エルマーは恐怖の目で彼女を見つめた。

**********

外野のギャラリーが馬鹿やってる間に、ルィーズの身に最大の危機が迫っていた。
腰に巻き付いた首がゆっくりとルィーズの背後、お尻の割れ目に迫り始めたのだ。

「ああ・・・やめて、そこだけは・・・」
涙を浮かべつつ、ルィーズは懇願した。
しかし、化け物に通じるはずもない。

「そこは、そこは、まだなの。まだ・・・お師匠様にも捧げていないのよ!」
『いや、俺はそっちの方はあんまり・・・』
「今夜はソコをタップリとお師匠様に可愛がってもらう予定なのよ!!」
『そんな勝手な予定立てられても・・・』
「いやぁぁぁ、後でもう一回、巨大化してお師匠様を丸ごとソコにブチ込んで一晩中楽しむ予定なのよぉ〜」
『おのれはそーゆー事ばっかし考えとったんかい!(怒)』
師弟の漫才を無視してヤマタノオロチは巨大なお尻の割れ目に顔を埋めた。
そのまま彼女の菊門に舌先を走らせ、舐め、つつく。
粘膜の亀裂からは大量の温い液体が滝のように路上に流れ落ちた。

「ああああああああああああ・あ・あ・あ・あ・・あ・・あ・・・・・」
ルィーズは遂に堕ちた・・・
全身から力が抜けた。目も焦点を失った。

『しっかりしろ!しっかりするんだ!!』
師の叱咤ももはや届かない。

カアァァァァ
とどめをさすべく、ヤマタノオロチは圧縮空気弾の準備を始めた。
首の一つが凄まじい勢いで空気を吸い込んでパンパンに膨らんでゆく。

「やばい、あれを食らったら・・・」
しかしエルマーたちは結界強化だけで手を離せない。
そうこうしている間に既に空気弾発射寸前!

『ルィーズ?ルィーズ!しっかりしろ!!』
「うっ・・・駄目・・・うごけない・・・」
絶体絶命!その時、クローニクルは最後の決断をした。

『残念だよ、ルィーズ・・・戦いが終わればお前と『3日3晩の熱い夜』を過ごせると思っていたのに・・・』
「ルィーズちゃん、大復活!!」
ハネ起きたルィーズの右手が、圧縮空気弾発射寸前の頭を引っ掴んだ!!
締め上げられて発射不能となった空気が、喉のあたりを急速に膨張させる。

ボン!
蛇神の首が内側から炸裂した!

ギャァァァ!
激痛にのたうつヤマタノオロチを見下ろしてルィーズは胸を張った。

「ふっ、そんな猪口才なテクニックごときで、このあたしを堕とそうなんて10年早い!」
『イキかけてたクセに・・・』
「・・・(汗)・・・とにかく!邪悪な力など愛と正義と勇気と友情と自由と平和と希望と・・・『3日3晩の熱い夜』の前には無力なのよ!!」
『ううっ、形勢逆転と引き換えに大事なモノを失ったよーな気がする・・・』
クローニクルは果てしなく落ち込んでいった。

「お師匠様、あなたは・・・遂に堕ちるトコロまで堕ちてしまわれたのですね・・・」
エルマー君の目にも涙が浮かんだ。

『ルィーズ、もう時間がない。次の一撃で決めるぞ!!』
「りょーかい!!」
高々と差し上げられたルィーズの右手に再び赤い輝きが宿る!
その時、寺院ニチラリと目をやったルィーズが異変に気づいた。

「大変!お師匠様!!兵隊さんたちが苦しんでます!」
『何!ヤマタノオロチが仕掛けてきたか!』
確かに、ある者は顔を押さえ、ある者は腹部を押さえて苦しんでいる。
血を吐いているらしい者もいる。
ただし正確にはヤマタノオロチはなくルィーズが原因だった。

「ち、ちくしょぉぉぉ、嬉しすぎるぜ、女神様ぁ!」
「感激だ。生まれて始めての感動だぁ!!」
「だ、駄目っす、部隊長。モロ出しなんて久しぶりすぎて・・・」
「ばかもぉん!軍人たるもの如何なる時でも誇りを失っては・・・」
「でも、部隊長のジュニアだって限界では?」
「ううっ、兄上にも見せたかった・・・(涙)」
顔を押さえていたのは、緩みそうな表情を押さえる為だった。
腹を押さえていたのは、腹ではなく暴発しそうなムスコを押さえていたのだった。
血を吐いているように見えたのは、実は『鼻血』だった。

「エルマー・・・やっぱり教えてあげたほうがいいんじゃないかしら。
エネルギーを集中させると『風のベール』が色抜けして丸見えになっちゃうよ、て。」
「もう手後れですね・・・」
淡々と語り合う弟子二人であった。
確かに手後れであった。
ルィーズの身長180メートルに及ぶ超ド迫力の『生まれたままの姿』は50キロ四方に大公開されていた。

寺院の丸い屋根より巨大な超巨乳、全開!
若さ溢れる、張りのあるお肌のキュートなヒップ、モロ出し!
神秘の黄金の草原地帯、無修正!
その奥の神秘の洞窟、ああこれ以上は描写不能!
気づいてないのは本人とその師匠のみ!

**********

『ルィーズ、一発で決めろ!』
「おおっ、おおおおおおっ!!」
ルィーズの赤熱する右手の輝きが増した!
赤から青へ、そして白熱した。

「おおおおおっ!おおおおあああああっ!
あたしのこの手が輝き叫ぶぅっ!
勝利を掴めと轟き叫ぶぅっ!!」
『いや、決めゼリフはいいから・・・』
「シャイニング・ゴッデス・フィンガァァァァァ!!」
『恥ずかしいから、技の名前叫ばないで・・・』
右手の光がルィーズの巨大な肉体の全てに広がった。

ザッザッザッ!
大地を踏み砕き、陥没させながら輝く巨大な裸体が助走する。

バッ!
ヤマタノオロチめがけて、美しき女神が跳躍する。

ゴオォォォォ!
ヤマタノオロチも炎の吐息で迎え撃つ。
だが超巨体の超音速の突進が生み出すソニック・ウェーブが、炎を粉砕する!

ドォン!ドォォン!
とっさにパワー不足ながら圧縮空気弾を打ち出してくる。

ボン!ボン!直撃!
それでも女神の突進は止まらない!

ドゴォッ。
突き出された白熱する右手が、残った首を全て粉砕した!
そのまま、右手は蛇神の胴体に深々と突き刺さる!。

おぞましき蛇神と美しき女神は一体となって一直線にすっ飛んだ。
二つの巨体が街をえぐり、衝撃波が街の残骸を吹き飛ばした。
一気に街を突き抜け、二つの巨重が岩山を直撃した。

ズドォーン!
岩山は一瞬で吹き飛んだ.

ガゴォン!ドォン!
二つ目の岩山も貫通し、三つ目の岩山に深々と蛇神をめり込ませて、巨体はようやく停止した。
岩山より巨大な裸身から輝きが消える。
ゆっくりと女神だけが立ち上がる。

ズボォッ!
蛇神を貫いた右手をゆっくりと引き抜いた。
寺院の丸屋根ほどの巨大な内臓がその手に握られている。
脈打つ不気味な器官、心臓だ。

ブチッ、ブチッ!
心臓と蛇神をつなぐ赤黒い血管が音を立ててちぎれてゆく。

シュォォォォ・・・
数百メートル上空にまで血の噴水が吹き上がった。
えぐりだされてなお脈打つ心臓をつかみ、裸身を返り血で赤く染め、凄惨なまでの巨大な女神の美しさ・・・
手の中の心臓が自然発火した。
熱のない青い炎の揺らめきの中で心臓は瞬時に焼失した。

「終わっ・・・・・た・・・」
安堵の表情を浮かべるルィーズ。

『気をつけろ!奴はまだ・・・』

バシュッ!
「キャッ?!」
死んだかに思われたヤマタノオロチがいきなり跳ね起きた!
そのままルィーズの全身に絡みつく!
慌てて振り払おうとするルィーズ・・・だがその手が止まった。
喜びに満ちた、かすかな思念が伝わってきた。

(・・ただいま・・・ギア・・もう、どこへも・・ずっと・・・・・)

ルィーズの目に涙が溢れた。
ゆっくりと崩れ落ちる大蛇の体を抱き留めようとした。
しかし力を失った蛇神はルィーズの両腕から滑るように抜け落ちた。
その全身を心臓と同じく、青く冷たい炎が包んだ。
炎が消え去ったとき蛇神の無残な骸も、巨大な女神の姿も消え失せていた。

**********

ルィーズは寺院の中を歩き回っていた。
寺院内は負傷者と家を失った人々で一杯だった。
一人の老僧を見つけた彼女は声をかけた。

「あのー、おじいさん?ちょっとお尋ねしたいんですけど?」
「なにかな、お嬢さん?」
人のよさそうな笑みで老僧は答えた。

「ここでギアナさんっていう人が働いているって・・・」
「可哀相じゃが、もうここにはおらん。」
悲しそうな口調だった。

「じゃ、引越しか何か・・・」
「1月程前じゃが、薬草を取りに山へ出かけて・・・
足を滑らせたのじゃろう。崖下に倒れておった。
そのまま意識は戻らんかったよ。」
ルィーズはどんな表情をしてよいのか分からなかった。

「可哀相な娘じゃ・・・折角、よい男に巡り合えたとゆうに・・・
サレック将軍も落胆しとったなぁ・・・」
「えっ、どうして将軍が?」
ルィーズは混乱した。

「知らんのかね?相手の魔道士というのは・・・」

**********

『了解。ルィーズ、お前は負傷者の看護をそっちで手伝ってくれ。
俺はこっちでもうしばらく、生存者を捜してみる。』
クローニクルは破壊された、本陣のそばにいた。
半壊状態の大型投石機や兵士の死体が散らばっている。

「なるほどね、妙に感情的だと思ったら自分の息子を実験台にしてたのか?」
クローニクルは倒れかけた投石機の横に立つ人影に話しかけた。

「貴様には関係ない!」
半ばから折れた剣を握り締め、サレック将軍は怒気を込めて言い放った。

「それもそうだ・・・で、俺に何の用だ?」
いいながら身構えるクローニクル。

「我が国に、危険な兵器開発の事実はあってはならない・・・」
暗い目つきで将軍はうめくように言った。

「なるほど、当然だな。そこで秘密を知った者を口封じというわけか。」
クローニクルの手の平で青い火花がパチパチと音を立てた。

「・・・勘違いするな。貴様のような馬の骨が何を喚きたてたところで誰が信じるものか!」
吐き捨てるように言うと将軍は懐から何か取り出した。

「お前に頼みたいのは、これだ!」
無造作にそれをクローニクルに向かって投げる。
受け取ってみると、小さな壷と封筒がひとつ。

「その壷には息子の遺骨が入っておる。
ベルナレスの共同墓地にギアナさんの墓があるから、一緒に葬ってやってくれ。」
「おい!そりゃ、あんたの役目・・・」
「封筒は我が家の執事に渡してくれ。わしの遺言状が入っておる。」
「なに?!ちょっと待て・・・」
すでに将軍は剣を振り下ろした後だった。

ピキン。
崩れかけた大型投石機を支えるワイヤーが切断された。

「証人が存在してはならない。全てを知る計画の総責任者はな。」
将軍は頭上から降ってくる木材など気づかぬかのように喋り続けた。
晴れやかな笑みを浮かべて。

「貴様等には世話になった。心から感謝・・・」
台詞の最後は瓦礫が崩れ落ちる轟音にかき消されて聞くことはできなかった。

**********
終章「祈り」
**********

「・・・・・ルィーズ。」
優しい声でクローニクルが呼びかける。

「・・・・・ん?」
ルィーズの声は眠たげだ。

「この国の王子とケイロン王国の姫君との婚約が決まったそうだ。」
穏やかな声が話し続ける。

「・・・熱い。」
ルィーズは興味ないらしい。

「婚約と言えば聞こえはいいが、ベルナレス市の復興資金を借りる代わりに8才の王子に『性格ニ難アリ』で嫁の貰い手のなかった18才の姫を押し付けたたわけさ。」
裸の上半身に汗をかきながらクローニクルの話は続く。

「お師匠様ぁ・・・」
ルィーズも額の汗をぬぐい、物憂げな表情で問い返す。

「何だい、ルィーズ?」
「あたしたち・・・何してんのかしら?」
「はっはっはっ、馬鹿だなあ。
約束の『3日3晩の熱い夜』を楽しんでるじゃないか。
あと1日、タップリ楽しませてもらうよ・・・」

「こらー、そこのガキ!火勢が足んねえぞ!お喋りしてないでもっと石炭をくべんかい!」
「はぁーい、親方、分かりやしたぁ!」
野太い声に怒鳴られて、クローニクルは燃え盛る炎に石炭をくべた。

「おー、そこのネエちゃん。もうちょっと粘土持ってきてくれ!」
「・・・・・はい・・・・・」
荷車に一杯の土を引きながらルィーズはとぼとぼ歩き出した。
満天の星の下、あたりには煙を上げる窯が幾つも並んでいる。
熱気みなぎる中で、上半身を真っ赤にして汗を流す男たちがせわしく動き回っている。
ここは『ベルナレス市復興用仮説煉瓦製造所』。

もともと、あまり豊かとは言えない小国の上に、軍隊と都市一つを壊滅させられて、スティックス王国は赤字財政に転落した。
マーリアも見かねて、宮廷魔道士の職を辞職し退職金を兵士の遺族への香典にあてた。
そういう事情でクローニクルたちも報酬を辞退したのである。
その結果・・・・・帰りの旅費が足りなくなったため、徹夜で煉瓦製造のバイトに励むハメになったのだ。

「ううっ・・・詐欺よ・・・詐欺だわ・・・(涙)」
泣きながら重量300kgの荷車を、とぼとぼと引いていくルィーズ。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、クローニクルは石炭を投げ込み続ける。
その手がふっと止まった。
彼は満天の星空を見上げた。

「・・・魔道士てのは恋愛向きの職じゃないのかな・・・」
思い当たる事でもあるのか、感慨深げにそう呟いた。
会ったことさえない魔道士の夫婦、幽霊とさえ言えない『思い』だけを残した恋人たち。
クローニクルにとっては他人事ではないらしい。

「安らかに、眠りな・・・」
ただ一言、彼は呟きをもらした。

「お師匠様!、ルィーズさん!お茶が入りましたよ!」
エルマーの声が聞こえた。

「あ〜あ、今回はタダ働きかぁ!
とにかく・・・一休みするか。ルィーズ、こっちへおいで!」
魔道士たちの夜は今夜も静かだった。

END