この小説は未成年に有害な暴力的かつ性的表現を大量に含有しております。
熟読される時は自分の年齢とご相談の上、お読み下さい。
なお、副作用に侵された場合も当方は一切感知致しません。
巨大娘依存症候群発病の際はお近くのJGC会員にご相談下さい。

魔法使いとその(馬鹿)弟子3
−ルィーズちゃんと囚われのお姫様−

私たちの見知らぬ世界!
魔法文明の発達は人類に、かつてない繁栄をもたらしていた!
しかし・・・その繁栄の影に激しくぶつかり合う多くの勢力があった。

世界征服を企む、秘密結社の団体さん!

「(声を合わせて)我ら、悪役の未来と栄光の為に!!」

かたや、悪の秘密結社に対抗すべく世界の各地より集められた冒険のエキスパートたち!
その中に、『史上最悪の馬鹿弟子』に振り回される薄幸の少年魔道士がいた。

名を草間・・・じゃなかったクローニクル=ハミルト。
そして史上最大最強最悪の巨大女魔道士『ルィーズ=エミリア』!

「張り倒せ!ジャイアント・ルィーズ!!」
「がぉーーーっ!」

**********
第1章「黒いアイテムケース」
**********

ケイロン王国の山中深く、一人の魔道士が住んでいました。
訪れる者も少ない彼の山小屋に、その日は数人の客が訪れました。
それが、あの忘れ得ぬ『運命の1日間』の始まりでした・・・なんちゃって・・・・・

「どうだい、直りそうかい?」
青みを帯びた色の長い髪をかき上げながら、その青年が尋ねた。

「ふーむ・・・」
眼鏡をかけた小柄な男は唸った。
手にのせた小さなガラスのような球体を熱心に覗き込んでいる。
それはひび割れた義眼だった。
しょぼくれた目を2・3度しばたかせてから男は断言した。

「無理だね。コア部分までイカレちゃってる。修復不能さ!」
床の上に無造作に転がされた複雑な機械。
壁に所狭しと掛けられた魔法剣や鎧の数々。
山小屋の中は造りかけのマジック・アイテムで一杯だ。

「やれやれ、お気に入りの『幻視眼』だったのですが・・・」
長髪の若い青年(ただし若いのは見かけだけ、実は200才)、エルマー=スミス氏はがっくり肩を落とした。
代わりの義眼がないために、左目は今だ眼帯をしたままである。

「新しく作るかい?丁度、透明度の高い青水晶が手に入ったんだけど?」
茶色の髪の毛をクシャクシャとかきむしりながら、男は楽しそうにそう言った。
どうやら『なにか物を作るのが大好き』というタイプらしい。
そんな2人をテーブルの向こうから、眺める数名の人々がいた。

「あの人がお師匠様の2番目のお弟子さんなんですかぁ?」
金色のロングヘアーをリボンで束ねた可愛い若い娘がとなりに座った少年に尋ねた。
名はルィーズ=エミリア。駆け出し魔法使いである。
その青い瞳が見つめる先には黒髪黒い目のヒネた目つきの少年が腰掛けている。

「ああ、そうだ。名前はセオ=スタージオ。
マジック・アイテムを作らせたら世界一とまで言われた男だ。」
見かけは3・4才の子供だが、その実体は300才を超える伝説の大魔道士・クローニクル=ハミルトである。

「通称『ザ・クリエイター(創造主)』、この世に造り出せないものはないとさえ言われる人よ。」
クローニクルの傍らに腰掛けた、20代後半とおぼしき女性が紅茶をすすりながら続けた。
こちらも黒髪に黒い瞳が印象的なエキゾチックな美女、マーリア・カーライル。
クローニクルの弟子であり一人娘でもある。

「へー・・・、お師匠様のお弟子さんってスゴい人ばっかしなんですねぇ!」
金髪の娘・ルィーズは感心したようにそう言った。

「もっとも彼の場合、別の通り名の方が有名だけど。」
ちょっと困ったような笑顔でマーリアは付け加えた。
その間も交渉は難航していた。

「普通なら、70万ゴールドはするところだよ!
大マケにまけて48万!これでも破格の特別価格だぜ?」
「う〜ん、こっちも予定の収入が入らなくってさあ。もう一声、頼むよ。」
ちなみにこの世界では50万ゴールドもあれば、かなり立派な家が土地付きで買える。

「う〜ん・・・・・おっ、そうだ!よし超特別価格『無料』だ!」
「よし!その値段なら・・・えっ?」
いきなりの値下がり、どころか無料奉仕にエルマーは絶句した。

「いや、無料といっても僕の代わりにある仕事をして欲しいんだ。
秘密厳守の仕事だけど君たちなら大丈夫だろうし。」
「ヤバイ仕事かい?それはちょっと・・・」
「いや、国王直々の依頼さ。こう見えても僕は国王からは信頼されていてね。
魔法がらみの相談はよく受けるのさ。」
ちょっと自慢げにセオは言った。

「とにかく聞かせてくれないか?」
エルマーは声をひそめて話した。

「うん、実は・・・大きな声じゃ言えないんだが、先日この国のジュリア王女とスティックス王国のクリスティン王子の婚約が決まったのは知ってるかい?」
「ギクッ・・・あ、ああ、うん、も・もちろん知ってるとも!」
セオを除く全員がいきなり視線をそらして、白々しい態度をとった。
知っているどころか、その原因となる『ベルナレス市の崩壊』に深く関わっていたりする。

「その王女様が誘拐された!」
「へっ?」
全員が声を上げて驚いた。

「国王陛下はスティックス王国側に知られないうちに、事件を解決したいらしい。
縁組みがパーになったら、今度こそ王女様は『いかず後家』決定だからね。」
「どーゆー、姫様なんだ、そいつは?」
たまらずクローニクルも口をはさむ。

「しかし、それなら身の代金を払えば済む事じゃないのか?
幸いこの国の財政は超金持ち状態のハズだが。」
エルマーは疑問を口にした。

「僕も詳しくは知らされていないのですが、犯人からは何も要求がないらしいんです。」
「おかしな話ね、それも・・・」
セオの説明にマーリアも考え込んだ。

「幸いにも犯人とその居場所は判明しているので、親衛隊に攻撃させて王女様を奪回する事になったんです。
しかし、敵も手勢を集結してウケーレ市を占拠して、市長たちを人質にしてしまいました。
それに対抗できるように金に物を言わせて魔道士や傭兵をかき集めてるんです。」
「それなら我々の力を借りなくても・・・」
クローニクルの意見にセオは首を横に振った。

「犯人はウケーレ市の大聖堂の現職の大司教ヴァーリという男です。
並みの魔道士や親衛隊だけで相手するのはキツいでしょう。
私は皆さんと違って戦闘魔法はさっぱりですし・・・困っていたんです。」
セオは厳しい表情をした。

「引き受けましょう!人の命がかかっているとなれば見過ごせません。」
エルマーの言葉に、

「あたしも力を貸しましょう!スティックス王国には色々と義理もあるし・・・」
マーリアも同意する。

「俺は知らんぜ・・・面倒くさいしな。」
クローニクルは乗り気じゃなさそうだ。しかし

「お師匠様。」
「何だ?エルマー」
「お師匠様が私の屋敷に居候なされる事になった時に、確か
『面倒はかけん!自分の食い扶持くらい自分で稼ぐ!』
って言っておられましたよね。
そこで、これまでの食費と壊した物の修理費とここまでの交通費・・・」
「うむ!弟子の頼み事を無下に断るのもよくない事だな!任せておきなさい!」
・・・弟子にたかって生活する・・・情けない師匠もいたものである。

「はぁい、お師匠様のお手伝いしまーす!」
元気のいい声でルィーズも答える。
ただし、セオ君以外の者の顔はこわばってしまったが。

**********

「さて、そういうことなら義眼が壊れたままでは実力を発揮できないだろう?」
セオ君の目に異様な光が宿る。

「はっ?い、いや気にしなくても・・・」
何ゆえか、慌てるエルマー。

「いやいや、君と僕の間じゃないか。遠慮するな。」
そう言うと彼は真っ黒なアイテムケースを持ち出した。
そして中から小さな金色の球体を取り出す。

「これだ!対魔物レーダー兼トラップ・センサー内蔵、高性能赤外線暗視装置付義眼!
しかも50万度の熱線放射機能もある!これを貸してあげよう!」
「あ、あ、ありがとう・・・」
目から怪光線は撃ち出す自分の姿を想像して、エルマーは情けなくなった。

「よろこんでもらえて嬉しいよ!さてマーリアさん」
「あ、あたしは別に・・・」
「いや、君のような美しい女性は護身の為にもふさわしい武器が必要だ!」
そう言ってセオはマーリアの手に一本の万年筆を手渡した。
豪華な装飾を施した高級感ある逸品である。

「大気中から必要な成分を取り込んで1670万色のインクを無限供給する究極の万年筆さ!
スイッチ操作ひとつで厚さ30センチの煉瓦壁も撃ち抜く麻酔針・毒針も発射可能!」
「ど、どうも・・・」
「でも気をつけて下さいね、リングの目盛りをここに合わせると15秒で自爆ですから。」
「大切に・・・するわね・・・あまり・・・使わないようにして。」
永遠に使うまい、そうマーリアは決意した。

「さて、お師匠様!」
「俺は何も要らんぞ!」
「話は聞きました!強力な魔法は今は使えないそうですね!」
「何も要らん!」
「でもご安心下さい!こんな事もあろうかと究極の防具を私は完成させたのです!」
「要らんと言っとろーが!!・・・全然聞いてないな、こいつは!・・・・・?!」
クローニクルは絶句&停止した。
赤と白のストライプに金色のお星さまがちりばめられた、目も眩むような悪趣味なマントが目の前にあった。とどめにかわいい熊さんアップリケのポケットまである。

「このマントは魔法による攻撃を98%の割合で吸収します!」
「・・・・・」
「更に、更に!40個所の隠しポケットには各種の護符と薬品、高性能爆薬装填済み。
おまけに四方から迫り来る弓矢をも弾き返す先進のパワーシールド機能を採用!」
「・・・・・」
「これでどんな強敵が現れても絶対安心です!」
セオ=スタージオ。世界一のマジック・アイテム職人。
別名『マッド・サイエンティスト』。恐怖の発明品の数々で周囲の人間を恐怖に陥れる男。
断ろうとして両手を突き出した姿勢のまま硬直したクローニクルの腕に、ド派手なマントをかけると、セオはルィーズの方を向いた。

「えっと・・・ルィーズちゃんだね?はじめまして!」
「えへっ、はじめまして!」
元気に返事するルィーズ。
−そうだ、まだこの恐るべき娘がいたのだ!この娘に恐怖の超破壊アイテムが渡ったら−
事情を知らぬセオを除く一同が戦慄した。

「君はまだ魔法が上手くないそうだね?」
「えへ、よくお師匠様から叱られてますぅ!」
「うんうん、お師匠様は厳しいからね。僕も経験あるよ。そこでこんな物を用意した!」
彼はハートやお星さまがタップリついた思い切り少女趣味なステッキを手渡した。

「この水晶球の部分にね呪文のアンチョコが映しだされるのさ。
呪文を忘れそうになったら、このボタンを押せばいい。」
(まあ、その程度のアイテムなら危険はないな・・・)
クローニクル・エルマー・マーリアの3人は安堵した。

「わぁっ!『すてき』なステッキぃ!」
・・・『すてき』『ステッキ』、周囲が凍りつきそうな、ルィーズのオヤジギャグだった。

ヒュゥゥゥ・・・
室内だとゆうのに、寒々とした風が吹き過ぎていった。
一同の時間が氷結した・・・・・だが、セオだけは違っていた。

「・・・・・素晴らしい!なんて君は素晴らしい感性を持っているんだ!」
セオの目に感動の涙が溢れていた。

「これほどの感動は、久しぶりだよ!
君にはこの三連フォーグラードライブ駆動ディオデュック魚雷12連装バトルハンマーをあげよう!」
「わあ、ありがとー!」
超破壊力を内蔵した恐怖のアイテムが手渡されようとした瞬間!

「キャア!お、お師匠様?」
「止めろ、その馬鹿弟子どもを止めろォ!!」
叫びつつクローニクルはルィーズに飛びかかった!

「わわっ!何をするんですか、皆さん!?」
「セオ君、君は暴走している!」
エルマーがセオを背後から羽交い締めにした。

「こんな危険物をルィーズちゃんに近づけないで!」
マーリアが超バトルハンマーを奪い取った!

ドカン・・・
静かな山中に小さな爆発音が響いた。
・・・・・平和な午後であった。

**********
第2章『ウケーレ市ちょっと手前の惨劇』
**********

「ギーギーちゃん、もっと高度下げて。」
「ギー?ギー!」
飛竜ギーギーは背に乗せたルィーズの言うままに高度を下げた。

「親衛隊、傭兵、魔道士合わせて2000名か。壮観だな。」
ルィーズに背負われながらクローニクルは呟いた。
(情けない格好だが、こうしないと体重の少ないクローニクルは風で飛ばされてしまう。)

「だいじょーぶでしょーか?ヴァーリ大司教さんていう人、魔法の達人だって・・・」
「心配ないだろう。これだけの軍勢を出してるんだ、いくら何でも負けやしないさ。」
ルィーズの不安にクローニクルは気楽そうに答えた。
事実、敵の兵力は100人あるかどうか、全く勝負にならない程度である。

『お師匠様?』
地上から以心伝心の術で話し掛けてくる者がいた。

『エルマーか。どうした?』
『3572メートル先に遠隔視できない地域が現れました。
そちらから確認できませんか?』
『了解、直ちに確認する。行軍はしばらく待たせろ。』
ギーギーに速度と高度を上げさせ、ルィーズとクローニクルは先へ進んだ。

「あの丘の辺りですよね、お師匠様?」
「ああ、でも地図によればこの辺りに丘なんてない・・・ということは!」
「あっ、丘の上にお爺さんが立ってますよ!」
「奴がヴァーリ大司教らしいな。」
確かに丘の上に立っている老人がヴァーリだった。

「来たな・・・我らが『神』に刃向かう身の程知らぬ愚か者たちよ。」
自信に満ちた笑いを老人は浮かべていた。

**********

丘全体が大部隊によって完全に包囲されていた。
なんらかの罠が仕掛けられていると思われるので、丘には入らずに弓矢の準備が整えられた。

「大司教ヴァーリ!貴方は完全に包囲された!大人しく投降すれば、悪いようにはしない!」
司令官の脅しにもヴァーリ大司教は無反応だった。

「仕方ない!撃てぇー!」
号令とともに矢が豪雨のように大司教に降り注ぐ!

「おおお、我らが『神』よ!今こそ、そのお姿をあらわし給え!」
大司教の声と同時に彼の足元の大地が盛り上がった。

ゴゴゴゴゴゴ・・・・
「何だぁ?!」
司令官は驚愕の声を上げた。

「エルマー、マーリア、気をつけろ!奴め、何か仕掛けしてやがる!」
クローニクルも緊張した。

「ギーギーちゃん!高度をとって!」
ルィーズの命令にギーギーは巨大な土塊に激突寸前に急速上昇する。

大地を揺るがしながら土の塊が天に向かって伸びてゆく。
やがて100メートルを超す巨大な盛り土が出現した。

パラパラパラ・・・
土の塊が剥げ落ちてゆく。その下から銀色の金属面が現れてゆく。

ドォォォン!
そいつは一気に立ち上がった。
200メートル近い巨大な銀色の鎧だった。

「ゴーレム、いやリビング・アーマー?」
クローニクルはうめいた。
リビング・アーマーとは魔法で生み出されるモンスターの一種で、誰も装着していないのに勝手に動きまわる『生きた鎧』である。
しかし、通常はせいぜい身長10数メートル。

その10倍以上もある超バケモノが剣を抜いた。
全長100メートルのロングソードだ!

「ひ、ひるむなぁ!攻撃再開!」
恐怖しながらも司令官は攻撃命令を出した。
だがそれより早く長剣の一撃が軍団を襲う!

ドン!
振り下ろされた一撃が大地を叩く。
大地は真っ二つに裂け、地割れが数百メートルも伸びてゆく。
震撼する大地に兵士たちは立っていることさえできない!

バシュッ
再び巨大な剣が閃いた。
傍らの岩山の山頂が切り落とされ、大量の落石となって兵士を襲う。

「うわぁぁぁ!」
「バ、バケモンにゃ勝てねえ!」
「た、助けてくれぇ!」
兵士たちはたちまち総崩れになり、逃げ出した。

「お師匠様、あたしが戦います!あたしが巨大化すればあんなヤツ・・・」
「無理だ、成功率が低すぎる!第一、ここには魔法陣がない!」
ルィーズの巨大化現象については、ある程度判明していた。

①かなりの精神集中状態での呪文詠唱により、魔法陣から『大地』のエネルギーを引き出し、それを体内に取り込むことで巨大化する。
(ただし本人の集中力不足のためか、クローニクルと出来る限り強く同調した状態でさえほとんど成功しない。)

②元に戻るときは強く念じるだけでよい。

③魔法陣は直径1メートル以上のものならどんな種類でもよいが、直接に地面に描かれていなければならない。

④巨大化の限界は180メートル。(体重は内緒!)

⑤巨大化中は魔力も数千倍に増強される。(ただし知力は元のままなんであまり意味なし)

「あ、危ないぞ!一時撤退!」
大軍はたちまち混乱し兵士たちは逃げ惑った。
その兵士たちに向かって巨人の剣が振り下ろされようとした!

ヒュン!
「?!」
鎧の巨人の目の前をかすめるように何かが飛び込んできた。
一匹の飛竜だった。

「これでも食らえ!」
飛竜の背から数発の火球が飛来する。
狙いは鎧の巨人・・・ではなく巨人の肩に立つヴァーリ大司教!
鎧の巨人はあわてて手の平で火球を叩き落とした。
一瞬、バランスを崩した巨人だが体勢をたてなおし、ギーギーを狙って剣を振り回す。

ブォン、ブォン!
「ギー!ギッギー?!」
「きゃぁ!ギーギーちゃん!」
からくもギーギーは剣をかわした、しかし巻き起こった突風に体勢を崩し錐揉み状態で落下し始めた。

「・・・心優しき風の精霊よ、我らの身を包み守り給え・・・」
景色が回転し地面が迫り来る窮地の中で、クローニクルは冷静に呪文を完成させた。

グォン・・・
地面に叩きつけられる瞬間に、ギーギーのまわりに強烈な気流が発生した。
腹を地面に激しく擦り付けられたものの、ギーギーの体は上空に吹き上げられた。

「はぁ、はぁ、くそっ!今の呪文で魔力を消耗しきっちまった・・・」
クローニクルは悪態をついた。
ルィーズは錐揉み状態のショックで気絶している。

『エルマー・・・逃げるぞ。頼む・・・』
それだけ言うとクローニクルも意識を失った。

「・・・ミスト・ラビリンス・・・」
エルマーは師が言わんとした呪文を完成させた。

巨人は攻撃を止めた。
いきなり濃霧が発生し、視界の全てが失われたのだ。

「追わずとも結構です、『神』よ。
ミスト・ラビリンス・・・霧迷宮を使えるとは中々の実力だ。
霧が晴れるまでは、行動不能か・・・」
肩の上で大司教が呟く。

「まあ、彼等もいずれは『神』である貴方様にひざまずく運命。
ここで性急な死を与える必要もありますまい。」
一方的な勝利に気をよくしたか、大司教は満足の笑みを浮かべていた。

「・・・いいえ、まことに神がいらっしゃるなら、貴方の思うがままにはいきません。」
鎧の巨人の頭部全体を覆う兜の内側から声が響いてきた。
驚くべきことに若い女性の悲しげな声だった。

**********
第3章『発令!ウケーレ市潜入作戦・・・食堂に落つ』
**********

「だめだな、通すわけにはいかん。」
「そんな事言わねえでくださいよぉ!」
ウケーレ市の門の前で門番と初老の農夫が話していた。
現在ウケーレ市は大司教配下のテロリストの手で占拠され、出入りはテロリストの手でチェックされている。

「明日の朝までに野菜を届けなくちゃいけねえですよぉ!」
農夫は幌馬車に積み込まれた野菜を指差した。

「それは分かるが、許可が出ているのはお前と女房だけだ!
荷台で寝てる娘さんと、男の子は駄目だ!」
女房とおぼしき女は、幌馬車の荷台でランプの掃除をしていた。
その向こうに、金髪の娘と黒髪の少年がスヤスヤと寝息をたてている。

「あっしが左目に怪我しちまって、上手く働けねえんで近所の娘さんに手伝いに来てもらってるだけですよぉ!」
怪我は本当らしく、農夫は日焼けした顔の左半分を包帯で覆っていた。

「ええ、それに息子を預かってくれる筈だった親戚のモンが風邪ひいちまって・・・」
黒髪の女房も門番に懇願した。

「なら明日まで待って許可を取り直せ!」
「困りますわ。こんなところで夜明かししたら息子まで風邪をひいてします・・・」
言いながら女房はこっそり門番に何か光る物−おそらく数枚の銀貨−を手渡した。

「・・・・・まあ、よかろう。怪しげな物もつんでおらんしな。通してやろう。」
「へい、ありがとうごぜえます。」
幌馬車は門を通り抜け、市場の方を目指して行った。

「あたりには、誰もいませんね・・・『変わり身の結界』解除。」
農夫が言うと同時に、彼の顔は『日焼けした初老の男』から若々しい長髪の青年へと変じた。
『変わり身の結界』。
エルマーのオリジナルの魔法で、体表に特殊な結界を張ることで別人にも無機物にさえも化ける事ができる。
幻影と違ってあまりに精巧な質感を備えているので、手で触れても見破ることはできない。
並みの魔道士では不可能な技であった。

「人質になってる市長さんたちを救出するのが先ね。」
マーリアの手にしたランプから1メートル程の大きな炎が吹き上がった。
彼女は平然と炎の中に手をさしいれ、炎の一部を取り出した。
炎は彼女の手の中で凝縮し、杖と短剣に変化した。
物質を炎のエネルギーに変換して、炎の中に隠す。これまた高等技術である。
続けてマントや様々な道具を炎の中から取り出しながら、不思議そうに彼女は言った。

「変よねぇ。こんなさびれた街にどうして立派な大聖堂があるのかしら?」
「昔はこの辺じゃ最大の都市だったのさ。300年前の魔王復活の前までは。」
起きだしてきたクローニクルが答えた。

「昔はプラチナと水銀の鉱山で栄えた大都市だったんだ。
だが街の地下に数万年前の神と悪魔の戦争の時作られたらしい大洞窟があるんだが、ここに魔王軍のやつらが兵器研究所を造ってしまった。
それをめぐる戦いのあおりで街がボロボロになっちまってな。以来、衰退の一途!」
「よく、御存知ですね?」
エルマーも話に入ってきた。

「研究所を叩き潰したのが、当時16才の新鋭魔道士、つまり俺と仲間の獣人娘だったんだ。
いやぁ、激しい戦いだった。俺もまだ未熟だった頃でな、苦戦したよ。
あの時は呪文の構成にも失敗してなあ。
小型の竜巻を一つ作るつもりが50個以上の大竜巻が発生して街中を乱舞するわ、呼んでもいない雷雲まで発生して落雷で鉱山が消し飛ぶわ・・・」
「街が衰退した原因は意外と身近にありそうですね・・・」
「作戦のチェックをしとこうか?」
エルマー君の冷たい視線をクローニクルは無視した。

「エルマーとマーリアは市民広場の集会場に突入、人質を奪回する。
ルィーズは市場で暴れて陽動作戦だが・・・まだ寝てやがる、のんき者め!
俺は大聖堂に忍び込んで、地下の施設を破壊する。
例の鎧の巨人もそこに隠されているはずだ。
このあたりであんなバケモンを隠せる場所は他にないからな。」
「一人で大丈夫?」
心配そうにマーリアが聞いた。

「施設の動力源をオーバーヒートさせて壊すだけだ。
そうすりゃ、例の鎧の巨人も大洞窟から出られなくなる!」
自信満々のクローニクル。

「ところで、市長たちは集会所に閉じ込められているらしいが、お姫さんの方は大聖堂内かもしれん。
俺が確認してみるが、お前たち、お姫様の顔を知ってるか?」
「あ!あたし写真借りてきたよ。」
マーリアは懐から一枚の写真を取り出した。
銀色の巻き毛を長くのばした、端正な顔立ちの上品な少女が写っていた。

この世界の写真は我々の世界のと違って、写真専門の魔道士が魔力で風景等を特殊な紙片に焼き付ける。
大きな町や有名観光地には大抵、写真魔道士が開業しているので比較的庶民的な楽しみとなっている。
印刷技術も発達しているので、国内有名人の写真集出版も盛んだ。
しかし、平民が楽しむ写真と、王室御用達の写真魔道士では格段の差がある。

ランプの光を近づけると写真に変化が生じた。
写っている王女がいきなり動き出し写真の外に、ミニチュアのように立ち上がった。

「はじめまして!ジュリアーナ=ネルム=ケイロニールと申します・・・」
そのまま優雅に一礼し、にっこり微笑むとまた写真の中に戻っていった。
動きや音声を記録できる写真となると、王侯貴族か大商人でなければ手にすることはできない。

「ほぉ・・・中々の美少女だな。性格ブスだって話だったが、そうは見えん。
どれ、ひとつ、この俺が男の魅力というモノを教えてさしあげようか?」
「国際問題の種を作らないでよね、全く見境ないんだから・・・
でも、その3才児相当の肉体でなにが出来るのか知らないけど。
それも、お師匠様の『保護者』次第でしょうけど・・・」
「俺の『保護者』?・・・ギュワァァァ!」
いきなりクローニクルは首を締め上げられ、宙づりにされた!

「あーたーしーとーゆーもーのーがぁー、あーりーなーがーらぁーーーー!
おーしーしょーさーまーのぉー、うーわーきーもーのぉーーーー!」
寝ぼけまなこのルィーズが怒りの炎に身を包んでクローニクルの首を締めあげていた。

**********

「ここが大聖堂ですね。着きましたよ・・・おや?」
エルマーが気づいたときには既に、クローニクルの姿はなかった。

「くっくっくっ、さすが我らの師、行動が早い・・・」
かすかに口元を歪めて微笑むエルマー。

「でもね、エルマー。ルィーズちゃんも・・・いないみたいなんだけど?」
「えっ?!」

ガチャーン!
大聖堂の中から何か皿のような物が割れる音が聞こえた。

「ああっ!泥棒だ!」
「妙な女が調理室でアップルパイを盗み食いしてやがるぞ!」
どうやら警備員の声らしい。

「ひひゃうもん!(ちがうもん!)
でぃよろびょうりゃにゃくてしゅぱいでやもん!(泥棒じゃなくてスパイだもん!)」
何かほおばっているらしきルィーズの声。

「この馬鹿!んな所で何やってんだ!」
クローニクルの怒鳴り声。

「あっ、こっちにも泥棒、それもまだ餓鬼だ!」
「しかも、ブランデーの瓶を1ダースも担いでやがる!とんでもねえ餓鬼だ!」
「げげっ、しまったぁ!」

ガシャン、ガシャガシャガシャーン!瓶の割れる音だ。
「んぐんぐ、駄目じゃないの、お師匠様!お酒は大人になってからだって!」
「とにかく、とっ捕まえてフン縛れ!!」
「ああーっ、お師匠様に何すんのぉ!」

ドカン、チャリチャリチャリーン。
どうやら、テーブルか何かを投げつけて、スプーンの類が床に散らばったようだ。
騒ぎを聞いているエルマーのこめかみに、青筋がピクッと浮き上がった。

「あ、あぶねえぞ、このバカ弟子!食器棚を担ぎ上げやがった!?」
「あたしは馬鹿じゃなぁーい!!」

ブォン。食器棚が空中を飛ぶ音がした。
ドゴォン。ガラガラガラ・・・。壁が崩れるような音が続く。

エルマー君は黙って懐から『頭痛薬』と書かれた小さな瓶を取り出した。
手の平に10数個の錠剤をぶちまけると、それを一気飲みした。
それからクルリと後ろを向く。

「さあ、ここはお師匠様達に任せて、人質の救出に向かいましょう。」
「エルマー・・・あなたも気苦労が多いわね・・・」

ドドドドドド・・・・・・・
幌馬車に揺られて去ってゆく二人の後方で、建物が完全倒壊したとしか思えない轟音が響
いてきたが、二人とも聞こえないフリをした。

**********
第4章『豪傑たちのメシ時−お昼の鐘、今だ響かず−』
**********

太陽は頭上に近くなっていた。
大聖堂の中、ヴァーリ大司教は窓の外の職員用食堂(の残骸)を見て溜息をついた。
朝食は抜きだった。昼食と夕食は近くの大衆食堂で済ませることになるだろう。

「で、犯人の泥棒というのは、その二人かね?」
見つめる先にはロープでがんじがらめにされた、クローニクルとルィーズが座っていた。

「泥棒ではない!貴様ら悪の秘密結社を偵察にきた、大魔道士クローニクル=ハミルト様と、オマケの弟子だ!」
「そう、そしてこのあたしこそは世界最強の女魔道士(の見習い)ルィーズ=エミリア!」

バキッ。
「誰が世界最強の女魔道士だ!この半人前の未熟者がぁぁぁ!(怒)」
「ひーん、お師匠様がぶったぁ・・・」
「泣きわめいとる暇があったら、魔法陣の一つでも覚えんか!このボケ弟子がぁぁぁ!」
「えーん、ごめんなさぁいぃぃぃ・・・」
際限なく続きそうな漫才を中断させたのは大司教だった。

「なるほど、『魔王封印の勇者と十戦士たち』ゴッコか。」
「いやゴッコじゃなくて、俺はその本人・・・・・」
「だが大魔道士クローニクル様の役はいかんなぁ。
酒癖女癖の悪い素行不良男の役はやめて、勇者役をやったほうがよいぞ。」
悪の軍団の首領とは思えない優しい言い方であった。しかし・・・

「・・・・・いいよ、どうせ分かってるんだ。300年前から俺は鼻つまみ者さ・・・」
部屋の隅でうずくまっていじけるクローニクル。

「いずれにせよ、偵察の為にここに忍び込む者なぞおらんはずじゃ!」
大司教はキッパリと言い放った。

「ほう・・・悪の秘密結社の存在を知らぬとでも思ったのかね?」
さすがに300才の大魔道士、立ち直りも早い!

「・・・?隠してなぞおらんぞ。表の看板に『悪の秘密結社・古代巨神教本部』と書いてあるはずじゃが?」
「へっ?!」
「ついでに昼間は寺院内見学自由となっておるから、偵察なんぞせんでも調べられると思うぞ。」
「・・・・・あんたらマジで世界征服を企む秘密結社なのか?」
クローニクルの胸に訳の分からない悪い予感がうずいてきた。

「当方では『公開された世界征服』をモットーにしておる。
第一、こっそりやっていては世界に認めてもらえんだろうが?」
「そりゃそうだが・・・」
クローニクルは考え込んだ。ひょっとして変な集団と関わってしまったのだろうか?

「だが、ここの地下の大洞窟にある物はどうかな?あれが秘密でないとでも・・・」
「ふっふっふっ・・・確かにあれは今は見せる訳にはいかんなぁ・・・」
「そうだろう、そうだろう。」
ようやく悪の軍団との戦いらしくなってきた。クローニクルはそう思った。

「あれの見学は1週間前に予約してくれんとな。洞窟内は普段は掃除してないのじゃ。」
「・・・(絶句)・・・」
「見学は無料じゃが、一人12ゴールド支払えばガイドさんとティーセットのサービスがついてくるぞ。」
「えっ、ティーセットもあるの。じゃあ2名予約御願いね。」
ルィーズははしゃいでいた。
クローニクルは重い疲労を感じた。悪の在り方も300年前とは変わったようだ。

「ええい、もう考えるのは止めだ!この町の何処かにジュリア王女が囚われているはずだ。
今すぐに会わせてもらおうか!」
「そうか、それで分かったぞ。お前たちは・・・王女の隠れファンじゃな!」
「へっ?!いやそうじゃなくて・・・」
「いやいや隠さずともよい。この町はあの方を崇める者たちの町なのじゃから。」
「そういうのじゃないんだけど・・・」
クローニクルは混乱した。『崇拝』?どういう事なんだ?

「確かにあの方は地下洞窟におられる。そういうことなら、今から特別に謁見させてやろう。」
「じゃあ、よろしく!あっ、ティーセットも御願いしまーす。これ2人分の料金ね。」
ルィーズはお財布から取り出した金貨を大司教に渡した。

**********

「はにゃー・・・すごい洞窟ですねぇー・・・」
ルィーズは思わず感嘆の声をあげた。
祭壇の裏の隠し扉をくぐり、数百段の長い階段を降りると、そこは見たこともない大洞窟。
天井までの高さはゆうに数十メートルはあった。
ところどころに青く発行する石板が埋め込まれており、月明かり程度に洞窟内を照らしている。

「ここは、まだほんの入口、この先は直径数百メートルに達する世界最大の洞窟となっております。
あっ、お客様、足元にお気を付け下さい、濡れて滑りやすくなっております。」
実に手慣れた調子で大司教自らガイドをやっている。

「でも、こーんなおっきい洞窟が出来ちゃうなんて自然ってスゴイですね。」
「それは違うぞルィーズ。ここは天然洞窟ではない。」
クローニクルはあたりを見回しながらそう言った。

「そのとおり、ここは自然ではなく何者かが作り出した施設の一部と言われております。
数万年前の神と魔族の戦争の遺跡とも言われておりますが、正確な事は不明です。
300年前の『魔王封印戦争』では魔王軍の研究施設があったため、最も過酷な戦場の舞台となりました。」
「ああ・・・・・そうだったな。」
大司教の解説を聞くクローニクルの瞳に一瞬、悲しげな光が宿った。
一行は洞窟を奥へと進む。
通路の所々には奇妙な彫像や、作動中の機械が点在していた。
その機械の一つの前でクローニクルは足を止めた。

「ん?何だいこの機械は?まだ新しい所を見ると魔王軍が残した施設じゃないようだが?」
「それは当方での世界征服計画遂行の為、設置致しました『大地エネルギー収束機』の一つでございます。」
「何に使うんだい?」
「用途は間もなく分かりますので・・・・・」
やがて一行はとてつもなく広い場所に出た。天井までの高さは数百メートルはあろう。

「洞窟内に随分と手を加えてあるな。とてもあんた個人で出来る仕掛けじゃない。」
クローニクルは断言した。

「ふっふっふっ、分かってしまいましたか。確かにある組織から援助を受けております。」
「組織とは?」
「われわれの間では『闇のユニオン』とよばれております。」
「聞いたことがないな、どんな組織なのだ?」
尋ねるクローニクルの胸は期待に高鳴った。
謎の悪の組織と陰謀!これぞファンタジー冒険物の定番!!

「組織の正式名称は・・・『悪の秘密結社相互扶助共済組合連合』!!」
「!?」
クローニクルの胸の高鳴りは一瞬で停止した!

「つかぬ事を伺いたいが、組織の活動内容って、戦闘員の労働条件の改善とか、年金の管理だとか言うんじゃ?」
「何だ、知っておったか。
他にも資金難な秘密結社への低金利貸し付けや人材派遣もやっとるぞ。」
「聞くんじゃなかった・・・」
こんな情けない悪の組織と真面目に戦えというのか、クローニクルは悲しくなった。

「それだけではない!構成員向けに不動産の斡旋や劇場優待チケット・コンサートの予約も取り次いでおる!」
「えっ、コンサートもですか?」
ルィーズは思わず身を乗り出した!

「よせ、ルィーズ!奴の言うことを聞くんじゃない!」
「更に結婚を控えた方の為に低金利マイホームローンもあるのだよ・・・・・」
大司教の目が妖しく光る。ルィーズはフラフラと一歩前に踏み出していた。

「更に更に!当組織特約の旅行代理店を使えばハネムーン『南の島ロマンチック7日間の旅』が何と市価の半額でOK!」
「ああ、コ、コンサート・・・まいほーむ・・・あたしとお師匠様だけの愛の巣・・・はねむーん・・・南の島で7日間・・・ろまんちっくな夜・・・」
既にルィーズの目は夢遊病者のそれだ!大司教がニヤリと笑う。

「今この場で入会頂ければ入会金は無料。月々10ゴールドの会費のみで全てが君の物だ。
さあ、この契約書にサインをするだけですよ・・・」
「ああ・・・」
大司教が取り出した契約書を、ルィーズは受け取りペンを握った。その時!

「目を覚ませ、ルィーズ!!」
ゲシッ!
ルィーズの顔面に強烈な飛び蹴りを食らわせたのはクローニクルだった。
書きかけの契約書を奪い取り破り捨てる。

「あああ・・・、まいほーむがぁ・・・あたしとお師匠様の夢のはねむーんがぁ・・・」
ルィーズは破れた契約書にすがってシクシクと泣き始めた。

「おのれ、わが弟子の心を踏みにじり、泣かせるとは許さん!
今こそ俺は自らの意志で貴様等の敵に回る!!」
「・・・・・今、泣かせたのは我々じゃなかったと思うのだが・・・・・」
どうも納得がいかない大司教であった。

「やかましい!悪の秘密結社なんだから、そっちがとにかく悪いに決まってる!
さあ、さっさと王女様に会わせてもらおうか!」
「ふむ、ではお客様しばしの間お待ちを・・・
王女様、謁見を望む者達が参りました。どうかこちらへ・・・。」
しかし広大な闇の中に動く者の気配はない。

「・・・仕方ないのう。あの方は内気でしてね。さあ、こちらへ来い!」
大司教は何故か自分の左手のブレスレットに話し掛けるように命令した。

ズシン。
「?な、なんだ!」
闇の中に重々しい轟音が響いた。

ズシィン、ズシィン。
「足音だ!?こちらへ近づいてくるぞ?」
クローニクルは身構えた。こんな足音の主は奴しかいない!
最強とうたわれたケルベス国正規軍を壊滅させた『鎧の巨人』!!

ドォォォォン・・・・・
そいつは姿を現した。身の丈200メートル近い白銀の鎧の巨人が。

「我らの、いや明日の世界の人類全ての『神』です。
さるお方より伝えられし秘術により、我らは古代の巨神を復活させたのです。」
得意満面で大司教は紹介した。
クローニクルは言葉を失った。
確かに古代の神を復活させる秘術の存在は知っていたが、確かそれには生け贄が必要だったはず・・・それも高貴な血筋の乙女が・・・

「まさか、お前たち・・・王女を生け贄に?」
「馬鹿な事を言わないで欲しい。我々は婦女子を犠牲にするような真似はせん!
さあ、鎧を外してこの者たちに謁見を!!」

巨神は兜に両手をかけた。
ゆっくりした動作で兜を持ち上げてゆく。

さらさらさら・・・
鎧と兜の隙間から、銀色の滝が流れ落ちた。髪の毛だ。

「まさか、あなたが・・・お姫様・・・?」
ルィーズが驚きの声をあげる。
クローニクルは声も出ない。
あらわれた素顔は悲しそうな美しい少女であった。

**********

「太古、大地の女神は魔族に対抗すべく偉大なる巨神を生み出した。
その巨神の力をこの秘術により王女様に注ぎ込み、巨神の力を復活させたのじゃあ!!」
悲しそうにうつむく巨大王女の前で、興奮気味のヴァーリ大司教の声が響き渡った。

「呆れた・・・」
クローニクルは呟いた。

「明日にはこの国の全てが王女様の、いや神の前にひざまずく!」
大司教の言葉に、ジュリア王女はますます首をうなだれた。

「頭痛い・・・」
クローニクルはうめいた。

「いまは王女様お一人だけだが、大地の女神の血を引く女は世界にもっといるはず!
その娘たちを巨神に変えて、巨大アマゾネス軍団を作り出す!
そして欲望と醜さに汚染されたこの世界を、真の美と平和と愛に溢れた世界に変えるのだ!」
「まあ、なんて恐ろしい計画なんでしょう!」
「・・・ルィーズ、お前意味分かってんのか?」
「えへっ、あんまりよくは・・・(汗)」
「やっぱ、関わるんじゃなかったよ、こんな変な連中に・・・」
クローニクルは心底後悔した。
その時、司祭の一人がやってきた。

「大司教様、午前の祈り時間です。至急お戻り下さい。」
「おおっ、もうそんな時間か!お前たちはこころゆくまで王女様と語らうがよい。
古代の巨神の力がいかに偉大であるかを体感するがいい。」
それだけ言うと大司教は洞窟の闇の向こうに立ち去っていった。
彼等の姿が見えなくなるのを確認して、クローニクルは上を見上げた。
先ほどからクローニクルとルィーズを見ていた王女様と視線がぶつかった。
王女はつらそうに大きな体を縮こまらせて顔を背けた。

「・・・・・見ないでください。このおぞましい姿を・・・・・」
「ご安心なさい。我らは貴方をお救いするために参上したのですから。」
クローニクルはひざまずき、子供らしからぬ落ち着いた口調で答えた。
幼い少年とは思えぬ堂々たる態度に王女は視線を戻した。

「あなたたちは一体?」

**********

「お師匠様、なんか分かりましたかあ?」
家くらいもある巨大な兜の上に座って、クッキーをかじりながらルィーズは尋ねた。

「うむ、何とか分かってきたとこだ。」
紅茶をすすりながら、王女様の手の平の上で−−テニスができそうなくらい広々とした手の平なのだが−−クローニクルが答えた。

「貴方様があの有名な伝説の魔道士様だとは・・・もっとお年を召した方だとばかり思っていましたわ。」
王女様は驚きのまなざしで手の平の上のクローニクルを見た。
鎧の類は脱ぎ捨てて、半袖のシャツとズボンのみの軽装姿になっている。

「ちょっとした失敗で若返りすぎてね・・・」
照れくさそうに笑うクローニクルに王女もまた顔をほころばせる。
ルィーズはちょっとムッとした。

「王女様、ちょっと降ろして・・・」
言われるがままにジュリア王女はクローニクルを乗せた手の平を洞窟の床に降ろした。

「ルィーズ、お前の場合と同じだ。
『大地のエネルギー』を吸収することで肉体を巨大化させている。
お前と違うのは、王女様の場合はエネルギーが自然流出しやすいために封印を施して巨大化状態を維持している点だな。」
手の平から飛び降りながらクローニクルは淡々と説明した。

「えっ?ではルィーズさんも巨人になれるのですか?」
王女様もさすがに驚いたようで、まじまじとルィーズを見つめた。

「えへっ、スゴイでしょ!
お師匠様に手伝ってもらわなきゃできないんだけど・・・」
ルィーズは王女様を見上げてニコッと笑った。
ジュリア王女もニコッと微笑みかえす。

「そうするとルィーズ、お前のほうが王女様より『大地の女神』の血を濃く残しているということらしいな。」
この時代には、神の血を引く人間はそう珍しい存在ではない。
ただし特別な力を有するわけではなく、せいぜい魔法を使うときに相性がいい程度だ。

「そうすると、ルィーズさんもどこかの王族の血を?」
王女様の質問にクローニクルは答えた。

「分からないのです。ルィーズは5才ごろに、とある宿屋の下働きでこき使われてたのを300ゴールドで買ってきた娘でね。それ以前のことは不明なんです。」
その宿屋の強欲婆さんは奴隷商人から買ったとしか言わなかった。
クローニクルも今まで気にしなかった。
そんな境遇はこの世界では珍しくなかったし、彼自身似たような境遇だったから。

「でも、すごいですわ。私の場合は司祭30人がかりで3日もかかりましたのに・・・」
「どんな術式だったか覚えてますか?出来るだけ詳しく・・・」
クローニクルはいくつかの質問をした後で考え込んだ。

「元の大きさに戻すことは可能だ。」
「本当ですか!ではすぐに御願いします!!」
ジュリア王女の顔がパッと明るくなった。

「今は無理だ。解呪には少なくとも2日間を要する。」
「そんな・・・それでは間に合いません!
正午の鐘の音とともに大司教たちは王都に進軍するつもりなのです。」
王女様の顔は曇った。

「では、元の大きさに戻すのは後回しにして一旦脱出しましょう!」
「それも無理です。実は知らないうちに、何かの術にかけられていたようで大司教のどんな命令にも従ってしまうのです。
逃げ出しても『戻れ!』と命令されればお終いです。」
「昨日、軍隊と戦わされたのも、その術のせいだったか。」
クローニクルは考え込んだ。

「大司教のブレスレットがそのためのアイテムなのですが、奪っても意味はないでしょう。
スペアが沢山あるようですから。このせいで私は、私は・・・」
王女様は声を詰まらせた。巨大な体を投げ出し泣き始める。

「兵士たちが傷ついたのは貴方のせいではない!そんなに泣かなくとも・・・」
「それだけではないのです!私の体を自由に操れるのをいいことに・・・
私の恥ずかしいポーズの写真を満載した『巨大王女様官能写真集 パート1』なるモノを発売する気なのです!」
「なんと!しかもパート1とは?」
思わず身を乗り出すクローニクル。

「全5巻だそうです。」
「ご安心を!そのような写真集など人目に触れぬよう、発売と同時に全て買い占めてご覧にいれます!!」
異常な程の熱の入ったクローニクル。しかし・・・

「いいえ、いまの貴方様にはそれは不可能・・・」
王女様は崩れるように、その場に座り込んだ。
巨体の下の岩場がメキメキと音をたてて、ちょっぴり(3メートル程)沈み込んだ。

「何故です!この私の実力をもってすれば・・・」
「不可能です。18歳未満禁止の本なのですから!」
「何と!?」
確かに、3才くらいにしか見えないクローニクルは本屋で門前払いであろう。

「くそっ、そんな本の発行は何としても阻止しなければ!しかしどうすれば?」
「お姫様の封印を解除する方法って他にないんですかあ?」
ルィーズは聞いてみた。

「封印パターンを解読する以外の方法なら・・・『ニセの鍵』を魔力で作り出すという手もあるがな。
そのためには大人だったころの俺やエルマー級の魔道士がざっと20人は必要なんだよ。」
「うーん・・・・・あっ、そうだ!良い方法がありますぅ!!」
ルィーズがいきなり大声を出した。

「・・・良い・・・方法・・・お前が?」
クローニクルの胸を不安がよぎった。この天然スペシャル馬鹿弟子のアイデアだと?

「ふっふっふっ、世界中でこのルィーズちゃんとお師匠様にしか出来ない、あの方法が!」
「なんだその方法とは?なんで俺のマントを脱がせる?」
「ルィーズちゃんも巨大化すれば万事おーけー!魔力もドーンとパワーアップするしぃ!」
「巨大化魔法はシンクロしても成功率1%以下じゃないか!なぜ俺のシャツを脱がせる?」
「シンクロ率を極限まで上げきれば成功率も上がるはず!
そしてシンクロとは!身も心も一つになるということ!『身』も心も、『身』も心も!」
「どーして『身』ばかり強調する!どーして俺のパンツを脱がせるぅぅぅ!」

「あの・・・ルィーズさん。そのシンクロとやらを成功させる方法って?
もしかしてその・・・『セッ・・・」
「・・・クス』よ!」
「!」
聞いたとたんに王女様は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

「ルィーズ!テメーは何を言い出しやがる!しかも王女様の前で!!」
「これも世のため人のため・・・そしてちょっぴりあたしのため!・・・うふふ。」
ルィーズは自分の服に手を掛けたと思ったとたん、一瞬にして服を全て脱ぎ捨てていた。
形のいい大きな乳房がプルンと揺れる。

「あのな、ルィーズ!」
「何ですか、お師匠様!この期におよんで往生際の悪い・・・」
「魔法陣もないトコで何の魔法が使えるとゆーのだ!この間抜け!」
「ううっ・・・」
ルィーズは言葉に詰まった。
確かに大地のエネルギーの入口たる魔法陣なしではいくらシンクロ率が上がっても無意味だ。

「しかも、魔法陣を描く道具も時間もないんだぞ!それでどうしようってんだ!」
「あ、あたしがなんとかしますぅ!」
それを聞いたクローニクルの表情が意地悪く変化した。

「まあ、そこまで言うんならやってみろ。お前がまともに暗記してる魔法陣があればな?」
「くううっ!」
「まともなのが描けたなら、好きなだけお前につきあってやる。」
「ぬううっ!」
「くっくっくっ・・・どんな手を使っても構わんぞ。」
「・・・やってみせます。」
肩を震わせながら、スタスタ歩いていくルィーズをクローニクルはニヤつきながら見ていた。
しかしその後ろ姿の影でルィーズが微かに口元に浮かべた笑みには気づかなかった。

「始めます・・・」
ルィーズは広々とした洞窟の中央に立った。
そして、髪をとめていた髪飾りからガラス玉を一つ外した。

「何をする気だ?魔法陣を描ける道具は全部取り上げられているのに・・・」
クローニクルは不思議に思ったが、ルィーズはお構いなしに作業を続けた。
作業といっても、やったのはガラス玉を岩肌に落としただけだった。

コツン。
小さな音がした。驚いたことに大して重くもなさそうな小さなガラス玉は岩にめり込んでいた!

コロコロコロコロ・・・・・・
そのまま岩をえぐりながらガラス玉は転がってゆく。ある図形を描きながら・・・

ピタッ。
図形を描き終えるや、ガラス玉はルィーズの髪飾りに自力で戻った。

「えへへ!セオさんから貰った全自動魔法陣メーカー『魔法陣スラスラ描ける君1号』ですぅ!」
ポカンと口を開けてるクローニクルにルィーズは勝ち誇った。

「なーにが『魔法陣スラスラ描ける君1号』だ!自力どころか完全な反則じゃねーか!」
「そんなぁ〜」
「ケッ!無効だよ、無効!」
そのとき上空から王女様の声がした。

「あのー、クローニクル様?」
「こんな時に何ですか、王女様?」
「今のルィーズさん、反則じゃありませんよ。」
「・・・えっ?」
「さっきクローニクル様は『どんな手を使っても構わない』とおっしゃいましたから。」
クローニクルの顔は一瞬にして情けない表情に変わってしまった。

「というわけであたしの無罪は証明されました!」
クローニクルの背後で楽しそうな声がした。
振り返ると素っ裸のルィーズがすぐそばに、仁王立ちしていた。

「さあ、お師匠様!世界平和のために励みましょーか?」
両手を広げてクローニクルを捕らえようとするルィーズ!
クローニクルは『蛇に睨まれた蛙』状態に陥った。

「さあ!愛と平和のために!・・・あれ?」
愛しのお師匠様を捕まえようとしたルィーズの両手は空を切った。
クローニクルの体はいきなり空中高く持ち上げられていた!
ジュリア王女が指先でつまみ上げてくれたのだ。
王女はクローニクルを右手の手の平の上にそっと置いた。

「あ、ありがとうございます。おかげさまで助かりま・・・した?」
王女はルィーズをもつまみ上げ、クローニクルのそばに置いたのだ!

「あ、あの王女様?」
クローニクルは王女の真意をはかりかねた。

「あの、ぶしつけですけど・・・お二人に御願いがあるんです。
その、・・・言いにくいんですけど・・・あの・・・
これからお二人は・・・その・・・なさるんでしょう?」
「ち、違いま・・・ムグッ!」
「うん、そーだよ」
クローニクルの口を押さえたルィーズが答える。

「その、・・・わたしもいずれ結婚する身ですし・・・
でも、・・・殿方とのコトは・・・よく知りませんし・・・
侍女たちもあまり教えてくれませんし・・・
ですから、その・・・・・・・・・・お見せ願えたら・・・・・・」
視野一杯に広がる顔を真っ赤にして王女様はお願いしていた。

「ムグッ!?ムググググッ!」
「そうね、色々知りたいお年頃だもんね!うん、特別に許可してあげる!」
「あはぁ!ありがとうございます。」
「ムグウーーーーー!ぷはぁっ、ルィーズ、なんちゅうことを言い出すんだァ!」
クローニクルは必死に抗議した。

「以上、3対1の圧倒的多数決でお師匠様の抗議は却下されました。」
「こらこらこらこら!3人しかいないのに何で3対1になるんだ!」
「だってホラ、お師匠様の『息子さん』も賛成してるし。」
「まあ!本当に・・・」
王女様も顔を赤らめて覗き込んだ。
クローニクルは自分の下半身を見た。
彼の意志に反して、小さいながらも『息子さん』は自己主張していた。

「ううっ、自分の分身にまで裏切られるとは・・・」
もはやクローニクルの抗議は聞き入れられそうになかった。

「お師匠様、いえクロー・・・何も考えないで・・・」
「ルィーズ?」
「今はあたしだけ見つめて・・・男と女として・・・」
暖かいものが彼の唇を覆った。
情熱的なキスに続いて、柔らかな胸の感触が彼を押え込んだ。

(ああっ・・・結局、俺って流されてしまう運命なんだよな・・・)

**********

「まあ・・・これが殿方との・・・愛の姿・・・・・」
ジュリア王女は自分の手の平の上で繰り広げられる行為に見入っていた。

「ルィーズさんって・・・情熱的な方でしたのね・・・
えっ!?そ、そんなトコロを咥えてあげるの?
ああっ、でも・・・クローニクル様も、とっても気持ちよさそう・・・」
王女様の独り言はだんだんと熱を帯びてきた。
そして巨大な二つの眼に見つめられて、ルィーズはいつも以上に燃えていた。
やがて、ルィーズの唇がクローニクルのモノを解放する。あくまでも一時的に。
それは既に子供のモノにあらず、大人のソレへと変化していた。

「まあ!こ、これが殿方のモノの真の姿!!
今の私から見ても、大きいのが分かるなんて!
しかしグロテスク・・・でもキノコさんそっくりでちょっとカワイイわ・・・
でも、一体コレをどうやって・・・えっ?・・・ええっ!
ルィーズさん?そ、そんなトコロへ?
・・・スゴイ、どんどん呑み込まれていく。
これが、女体の秘密・・・ん、・・・・・何だかヘンな気分・・・
私の・・・カラダが・・・・・熱い。」
何かを求めるがごとく宙をさまよっていた王女様の左手が自分のズボンのベルトにかかる。

ガチャリ。意識してるのかしてないのか、ベルトを外した。
ゴトン。落下したバックルが岩肌を砕く。
もどかしげな手つきでジッパーを下ろすと、その下に広大な三角地帯を覆う青いパンティが露出する。
サーカスのテントぐらいは作れてしまいそうな大きな布地の下に、巨大な左手がためらうことなく侵入する。

「ん、んん・・・・・」
手の平の上の小さな二人の痴態から目をそらさず、瞬きさえせずに王女様は指先を動かした。
王女様の『三角地帯』を隠す広大な布地の一点に染みがあらわれた。

グシュッ、グシュッ・・・・・
「ああ、ああっ・・・・・」
指先の動きが激しさを増すにつれて、『染み』も拡大してゆく。
唇−−馬車一台が丸ごと納まりそうな巨大な唇−−から漏れてくるのは、もはや激しい息遣いと初々しい喘ぎ声だけだった。

**********
第5章『真実のお姫様−過ぎ去りし少女の日−』
**********

地上の集会所内。
市長はじめ数十人の人々が軟禁状態にあった。

「市長、大司教様を止めることは出来ないのでしょうか?」
「もう、我々の言葉など耳を貸してくださるまい。あとは祈るしかない。」
初老の男−市長は溜息をついた。
本来は彼等は『巨大女神様の力でこの世に愛と平和をもたらす』志を一つにする同志だった。
しかし、強硬論を展開した大司教たち武闘派に『巨大娘による町おこし』を主張する穏健派は破れ軟禁されているのだ。
隙を見て国王に情報を流したのだが失敗だったようだ。

「おや、市長?誰かこの建物に近づいてきますよ!」
窓から外を見ていた事務の女性が注意を促した。
確かに住民の接近さえ禁止されている集会所に魔道士らしき長髪の男が歩いてくる。

**********

『マーリア!建物の内部はサーチできました。人質は2階の東から2番目の部屋にいます。
王女様の姿はありません。やはり大聖堂の方らしいですね。
そちらはお師匠様に任せるとして、作戦開始です。よろしく頼みますよ。』
『了解、エルマー、頑張ってね。』
以心伝心の術による通話を切ってエルマーは集会所の門を見た。
十数人の弓矢や槍で武装した男たちが威嚇している。

エルマーはニッコリ笑ってスタスタと門に接近していった。
何十本もの矢が雨のように降り注いだ。
無数の矢を意にも介さずに、エルマーは進んだ。

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
矢は空中で全て砕け、地に落ちた。
驚愕する男たちに、エルマーは優しく微笑みかけた。

「無理をすることはありませんよ・・・・・」

**********

「ふう・・・よかった・・・どうだった、お姫様?」
「・・・・・」
ルィーズの問いにも王女様は無反応だ。
恍惚とした表情とボンヤリとした目で空中をみている。

「お姫様?ねえ、お姫様ったら!」
「・・・・・えっ、あっ、どどどどどうもああああありがとうごごごごございました!」
王女様、慌ててズボンのジッパーを上げ、ベルトを締め直す!

「感謝いたします。男女の事が分かったような気がします。」
「なら良かったわ。分からない事があったら何でも聞いてね!
このルィーズちゃんが教えたげるから。」
「はい、御願いします!」
「じゃあ、一休みしましょう。ちょっと疲れちゃったし・・・」
「そうですね!うふふふふ・・・」
ジュリア王女は手の平の上のルィーズと向かい合って笑った。

「おい・・・テメーら・・・・・目的を・・・忘れちゃ・・・いねえか?」
一滴残らず絞り尽くされたよーな声でクローニクルはうめいた。

「目的?何だったかしら?」
目的を完璧に忘れてるルィーズ。

「私の社会勉強・・・じゃなかったのかしら?」
目的を完璧に見失ってる王女様。

「巨大変身して、魔力をパワーアップして、王女様の封印を解くんだろーがぁ!(怒)」
「あっ?そーだったっけ、お師匠様!」
「すっかり、忘れてましたわ!」
あまりに呑気な二人の答えに、クローニクルは重い疲労感に沈んだ。

「それじゃあ始めまーす。お姫様、あたしたちを下ろして!」
王女様は手を床に下ろした。
クローニクルを小脇に抱えたルィーズがヒラリと飛び降りる。

「さてと、呪文は・・・慈悲深き大地の女神よ!・・・
えっと次は何だったっけかなあ?ま、いーか適当で!
・・・あたしをおっきくしてちょーだい!」
「んないい加減な呪文があるかぁぁぁぁぁ!!」
怒り狂うクローニクルだった。しかし・・・

「でも、魔法陣が作動してますよ?」
王女様が指し示す先をみると、魔法陣が緑の輝きを放っていた。

「嘘・・・あんないい加減な呪文で?」
クローニクルの驚きをよそに魔法陣から緑の光の柱が吹き上がった。
光は洞窟の天井に衝突し、砕けて緑の霧となり洞窟内に充満した。
やがて、光る霧はルィーズの体にまとわりつくように集中しはじめた。

「あ、あああああ、ああ・・・ん・・・」
苦鳴とも喜悦ともつかぬルィーズの声。

ドクン。
大気を震わす鼓動とともにルィーズの肉体は一回り大きくなった。

ドクン、ドクン。
緑の霧が吸収されるにつれ、豊満な肉体が加速度的に巨大化してゆく。
既に大抵の民家よりもでかい。

「あ、あ、ア、ア、ア、アアアア、アアアアアア・・・・・!!!!」
ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクッ!ドクッ!
圧倒的な迫力の裸体がひときわ強い輝きを放った。

ビキビキビキ・・・
ルィーズの膨大な質量に両足の下の岩盤が悲鳴をあげて砕けてゆく。

洞窟を満たしていた緑の光が消え去った。
ルィーズは閉じていた目を開いて自分の体を見た。
身長180メートル、人間はおろかモンスターをも超越した体力と魔力のみなぎる裸体を。

**********

「時間がないから、さっそく解呪を始めるが・・・その前にっと!」
聞きなれぬ呪文をクローニクルは唱えた。
すると周囲の岩から、キラキラと輝く砂粒のようなものが大量に飛び出してきた。

「お師匠様、何ですかコレ?」
「まあ、素っ裸じゃ作業がやりにくいからな。
洞窟内じゃこの前みたいな『風のベール』は空気の動きが少なすぎて作れないし・・・」
クローニクルの言葉が終わらぬ内に、輝く砂粒は一つに溶け合い、空中に透明な流動体の塊を作り出した。

「キャッ・・・」
流動体はルィーズの体に巻きつき、レオタード風の形態を取った。
透明だった素地の中に虹色の光彩が生まれ、ルィーズの身を包んだ。

「まあ、ルィーズさん!とっても奇麗!」
王女様も思わす嘆賞してしまう程の美しさ。

「わあ!ありがとうございます、お師匠様!」
「岩に含まれる石英を抽出して作り出すクリスタルの鎧。
着用者をあらゆる衝撃から保護する、名づけて『シンデレラ・ドレス』!
この魔法を使うのも300年ぶりだな。」
クローニクルは大威張りで自慢した。

「じゃあ、解呪に入るぞ。ルィーズお前の肩の上に俺をのせてくれ。」
この世界のどんな塔よりも高いルィーズの肩の上でクローニクルは呪文を唱えだした。

「・・・・・全てを見通す真実の瞳よ、隠されし印を我らが前に明かすべし!」

「ああっ!これは?」
王女様は自分の右手を見て驚いた。
手の平に強力な輝きを放つ星型の魔法陣が出現したのだ。

「それが6番目の封印です。同じ物があと5個所、あなたの体の何処かに隠されている。」
「それで、どうすれば?」
王女様の問いに答えるかわりにクローニクルは、

「うむ、ルィーズ!お前の出番だ。お前は左手を出してみろ。」
「はい!・・・・・あっ、お姫様と同じ模様が!?」
ルィーズの左手にも封印と同じ形の魔法陣が出現していた!

「それが封印を解除する『合鍵』だ!王女様の封印に重ねてみろ。」
「あっ、あたしの左手とお姫様の右手が引き合ってます!」
吸い付くように手の平が触れた。一瞬、強力な輝きを発して光の魔法陣は消えた。

「これでよし・・・次の封印と『合鍵』が現れるはずだ同じようにして解除しろ。」
「あっ、今度は私の左手に!」
「ルィーズちゃんの方は右手に出ましたぁ!」
先ほどと同様に二人は手の平を合わせ、解呪は成功した。

「次は3つ目か、まだあらわれないか。」
「はい、まだ・・・あっ・・・」
「えっ、こんなトコに?」
ルィーズとジュリア王女の二人が同時に頬を赤らめた。

「?どうしたんだ。何処にあらわれたんだ?」
「あの・・・2つ同時に出たみたいなんですが・・・」
王女様はなぜかモジモジしている。

「ここなんですよ、お師匠様!」
ルィーズはいきなり『シンデレラ・ドレス』の襟をつかんで胸をはだけた。

「ばっ、馬鹿!いきなり・・・へっ?」
クローニクルは驚いたようにルィーズの胸を見下ろした。
・・・・・魔法陣は出現していた。乳首の先に・・・・・

「あの大司教・・・変態か?」
クローニクルは思い切り呆れた。

「とにかく、封印を解かなきゃ!お姫様、女同士だから恥ずかしがらなくてもいいよ!」
「はい、ルィーズさん・・・」
明るいルィーズの声に王女様も安心したようだ。
シャツに手を掛け脱ぎ始めた。クローニクルも固唾を飲んで見守る。

バキッ。
「ギエエエェェェ!」
「お師匠様はあっち向いてなさい!」
ルィーズがクローニクルの頭をつまんで後ろに向けたのだ。

「クローニクル様どうかなされましたか?首が変な方向を向いてますけど・・・」
「何でもないわ・・・(ちょっぴり怒)・・・さあ続けましょう。」
ルィーズはジュリア王女の体を引き寄せた。
胸をはだけた美女二人が抱き合うような形で、互いの乳首を触れさせようとしている。

「んしょっと、お姫様もちょっと右へ・・・」
「こ、こう・・・ですか?」
「ああそう・・・駄目。今度は左がずれちゃった。」
「難しいですね・・でも、ルィーズさんって立派な胸をお持ちですね。羨ましい・・・」
「そう?」
「私なんか、全然・・・ああやっぱり、上手く合わないわ。私の胸が小さいからかしら?」
バストサイズの違いで乳首の位置がうまく合わないのだ。

「どれ、俺が手伝いましょう。」
何時の間にか復活したクローニクルがそう言った。
ルィーズの髪の毛をロープがわりにスルスルと胸元まで降りてくる。
そしてルィーズの乳首にまたがって、王女様の乳首に腕を伸ばし引き寄せた。

バチッ・・・
軽い音と一瞬の閃光を残して封印は消滅した。

「どうも、ありがとうございます。」
クローニクルに向かって深々と頭を下げる王女様。

「いえいえ、気になさらずに・・・オゴォォォ!?」
突然、クローニクルの体はルィーズの目の高さまで持ち上げられた。
顔面を巨大な指先でつままれて。

「・・・・・おーしーしょーさーまーーーー・・・・・」
ルィーズの青い瞳の奥に紅蓮の炎が燃えていた。『嫉妬』という炎が・・・

「る・る・る・ルィーズ・・・(恐怖)」
「そぉんなに『おっぱい』が好きなら・・・たっぷり堪能させてあげる・・・・・」
ルィーズは指を離した。
クローニクルはまっさかさまに岩肌に叩きつけ・・・られなかった。
弾力ある物体に柔らかく受け止められたのだ。ルィーズの胸の谷間だった。

「おい、こら、何のつもり・・・」
「ぐれーと・おっぱい・ぼんばー ばーじょん 2.0!!」
「プギュウゥゥゥゥ!?」
クローニクルの体は左右からの推定数万トンの柔肉の重圧に挟まれた!

「続いて ばーじょん 2.01『横揺れしぇいく』!!」
「ヒャオオオオォォオオォオオ・・・!」
ブォン!ブォン!
巨大な乳房が突風を巻き起こす!人類未体験の横Gがクローニクルを襲う!
しかも心地よい感触に押さえつけられて逃げ場なし!

「あんど ばーじょん 3.02 『縦揺れしぇいく』!!」
「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!??」
グォォォォォォォ・・・・
乳首の先が風を切る!
急上昇と急降下の繰り返しが、身動きもできぬ超重力と一瞬の無重力を生む!
ルィーズの暖かな体温と激しい鼓動を感じつつ、気分はもう宇宙感覚!

「最新ばーじょん 4.03 『はいじゃんぷ海老投げ大回転分身しぇいく』!!」
「・・・・・・・」
ドゴォォォォォ・・・・ン。
洞窟全体がビリビリと震撼する!
想像不能の荒業の前にクローニクルは失神していた。

「ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・どう、お師匠様!満足した?(怒)」
「ご・ごめなひゃ〜い(ごめんなさい)・・・
もうひみゃしぇ〜ん(もうしません)・・・・・」
胸の谷間に挟まれたまま、クローニクルは泣きながら謝っていた。
これでも伝説の大魔道士なんだろうーか?

**********

ルィーズの必殺技の衝撃は地上にも影響を及ぼしていた。
地上の寺院は午前の祈りの儀式の最中だった。

「何事だ!この地域に地震なぞ、500年間なかったというのに?」
ヴァーリ大司教も大計画の直前のアクシデントに狼狽気味だ。

「大変です!地下洞窟への通路が今の地震で崩れて不通です!」
「なんだと、ただちに復旧・・・いやそれより、別通路から急行せよ!
我らが王女様の安否を確認するのだ!」

**********

「スゴイ揺れだったな。しかし地震ではない。地下の大洞窟とやらで何事かあったのか?」
エルマーはポツリと言った。
数十人の敵に囲まれていながら、その危険を全く意に介していない。

「かかれ!相手はたった一人なんだぞ!しかも身を守ってるだけだ!」
隊長らしき男の号令で再び数十本の矢が降り注ぐ、だが全て空中で弾かれた。
数人が剣を振りかざして襲いかかる、しかしこれまたあっさりと吹き飛ばされる。

「時間がないようですね。ここらで遊びは終わりましょう!」
バチッ!エルマーの言葉と同時に軽い音がした。
その場にいた全員の剣や弓が半ばから折れた。いや正確には切断された。

「結界で作り出した『切断フィールド』です。
まだやるなら、今度は剣じゃなくて体が真っ二つですが?」
エルマーの言葉を待つことなく、敵兵は逃げ出していた。

「そっちは片付いたようね。こっちも終わったわよ!」
2階の窓から声がした。
見上げるとマーリアと人質とおぼしき男女がエルマーを見下ろしていた。

**********

「でも、凄いですわね!胸が大きいとそんな必殺技が使えるんですね、羨ましいわ。」
王女様が羨望のまなざしをルィーズの胸に送る。

「だいじょーぶよ!女の子はこれからバンバン成長するんだから!」
「そうそう!それにこの馬鹿弟子みたいに脳味噌に回る栄養まで胸に行っちまうより、貴方のような理知的なタイプの方が好み・・・・・ギィャアアアア!」
余計な台詞を吐いたクローニクルは再び頭をつままれ、胸の谷間から引きずり上げられた。
待ち構えるのは当然ながら全身を嫉妬のオーラで包んだ、ルィーズの怒りの形相!

「お師匠様の浮気者ォ!全然反省の色がなーい!!」
怒りの絶叫に大気が震え、洞窟が揺さぶられた。
クローニクルは今度こそ鼓膜が破れたと思った。

「・・・・・ふう・・・やっぱり、あたしの教育方針が甘かったのね。」
ルィーズは溜息をついた。

「仕方ないわ。しばらく『あたしの中』で反省させなきゃ・・・ウフッ。」
「えっ、ルィーズさん、どういうことですか?」
怪訝な顔の王女様。

「おい、まさかお前・・・また俺を・・・あの中に!?」
ビビりまくるクローニクルの問いには答えず、ルィーズは身を岩肌に横たえた。
薄笑いを浮かべたまま・・・

巨大な顔が真下からクローニクルを見つめる。

彼を捕らえた指先がゆっくり移動する。目から、鼻の上へ、そして唇の上へ。

「おい、よせ!やめろ!」
唇の間から、伸びてきた巨大な舌がクローニクルの体を舐め回す。
精一杯の抵抗も彼女にとってはちょっとした刺激に過ぎないようだ。
やがて指先は再び動き出す。
乳房という名の豊満な双子の丘陵を見下ろし、なだらかな腹部の平原の上空を通過、小さな窪地・おへそを超えてその向こうへ、魔の三角地帯へ・・・

「おい、やめろ!王女様の前なんだぞ!」
ちらりと王女様の方を見た。王女様は・・・何が起こるかと期待に目を輝かせてる!

ルィーズは空いている方の手を両足の間を隠す布地−正確には流動体状のガラスだが−の下に入れた。
差し込んだ手を持ち上げると、その下から黄金の『草原』と柔らかいピンク色の大理石でできた『鍾乳洞』が露出した。

「ふふふ・・・悪く思っちゃ駄目よ、お師匠様。
これも世界平和のため、お姫様の性教育のため、お師匠様のしつけのため。
それからちょっとだけ・・・あたしのため・・・うふふふ・・・」
主に何のためかは、嬉しそうな表情をみればモロバレだ。

「やめんかーい!年頃の女の子のすることじゃねーぞ!」
クローニクル君必死の抗議。

「うふふふ、照れちゃって・・・ウブなのね、クローちゃんたら。
でも駄目よ、全国1000万人のファン待望の瞬間なんだから。」
「何なんだ、そのの1000万人のファンってのはぁ〜?」
「さあさあ、駄々こねないで・・・Let’s come in!」
ジュブ・・・。
クローニクルの肉体は飢えた巨大な牙のない『口』に呑み込まれた・・・かに見えた。

「イタタタタ!あーっ、何してんのよ、お師匠様!」
ルィーズが悲鳴を上げた!
なんとクローニクルは手近にあった黄金の『草原』の長く伸びた一本をつかみ、命綱がわりに踏ん張っていた!

「痛い痛い!女の子のそんなトコつかむなんて失礼よ!」
「やかましい!むざむざ放り込まれてなるものか!この命綱は絶対はなさんぞ・・・」
秘所の中と外で繰り広げられる息詰まる戦いであった!
降着状態に陥るかに見えた決着は、意外なところで着いた。

「あのぅ、ちょっと失礼します。」
王女様が遠慮がちに声をかけてきた。
身をかがめて、ルィーズの大切な場所を覗き込む。
それから、おもむろにクローニクルの体の両脇に親指と人差し指をあてた。

「あっ、駄目よ、お姫様!邪魔しないで」
「いいえ、この馬鹿弟子から助けてくださるのですね!ありが・が・がぁぁぁ?」
「こちょこちょこちょ・・・」
王女様は楽しそうにクローニクルの脇の下をくすぐり始めたのだ。

「ははっははははは・・・!?な・なにを・・・はっ、し・しまったぁ!」
ジュボォッ・・・
笑いすぎて両手から力が抜けたとたん、彼は神秘の洞窟に呑み込まれていった。

「あ・・・ありがとう・・・・」
「どういたしまして!」
にっこり微笑む王女様をマジマジと見つめながらルィーズは思った。

(あなどれないわ,このお姫様!)

「でも、ルィーズさん。閉じ込められたクローニクル様は大丈夫なのですか?」
「だいじょーぶ・・よ・・んっ・・・空気のない所でも・・んんっ・・・・呼吸できる魔法が・・あン・・あるから・・・」
「でもルィーズさんの様子も変ですけど、具合が悪いのですか?!」
心配そうな王女様。

「ううん・・・違うの。具合は・・・あああ・・・とってもイイの。
お師匠様が・あたしの中から逃げようとして・・もがくんだけど・・・それが微妙感覚で・・とっても快感・・・なの・・・・・うふっ!無駄な抵抗よ・・・」
「まあ、殿方との交わり方ってバリエーションに富んでますのね!」
「そうよ、・・・んんっ!・・・・アアアアァァァァ!!」
「こ・今度は何なんですの?」
王女様はいきなりのルィーズの大声に驚いた。

「んっ、はあんん・・奥にいくまでの途中にね、・・・ナントカ・スポットていうトコ・・・があってね。
そこでモゾモゾされると頭に突き抜けるくらい感じちゃうのぉぉぉ・・・!
ああもう我慢できない。ちょっとだけ締めちゃう・・・・・」
キュッ。キュキュッ。
どこかで絶叫が響いたような気がしたが、王女様もルィーズもお構いなしだった。

「ああ、ルィーズさんたちに会えてよかった!『女体の神秘』の真の姿を初めて知ることができました。」
王女様の巨大な瞳は感激に輝いていた!

「んふ、そんな大袈裟なコトじゃないわ。さあ、お師匠様も無事(?)奥に納まったし。」
「しかし、クローニクル様がお腹におられては何かと不便ではないのですか?」
「いいえ、大丈夫!お師匠様はね、あたしのお腹の中で9ヶ月も暮らしたこともあるのよ!
それにこの中に入れとけば浮気もできないし、迷子になる心配もないし・・・」
「まあ、それは便利ですわね!」
その時、思いっきりお気楽な会話は突然の怒声に遮られた。

「この馬鹿弟子がぁぁぁ!いつも迷子になって泣いてんのはテメエだろうがぁぁぁ!
いい加減なフカシこいてんじゃねぇぇぇ!!」
声は空中から響いていた。無論そこには何もない。

「えっ、クローニクル様の声が!?」
「あ、あたし知ってる!空中から声や音楽を発生させる魔法で確か『ダイレクト・メール』っていうの・・・」
王女様の疑問にルィーズが魔法の知識をひけらかす。

「ドアホーーー!『ダイレクト・ボイス』だろうが!何年、俺の弟子やってんだ!」
「きゃあ、ごめんなさぁい!」
「だいたい、お前は記憶力ってモンがないのか!呪文は忘れるわ、魔法陣は間違うわ・・」
「ごめんなさぁい!今度からちゃんと勉強しますですぅ!」
いきなり説教を始めた自分の下腹部にむけてルィーズは必死で謝った。

「クスクスクス・・・あっ、笑ったりしてすいません!」
際限なく続きそうなクローニクルの『必殺お説教モード』を停止したのは王女様の含み笑いだった。

「いえ、笑うつもりじゃなかったんですが・・・でも羨ましいです。」
「へっ、この馬鹿弟子と俺が羨ましい?何でまた・・・」
クローニクルは王女様の言う意味が理解できなかった。

「私のまわりの者達は皆よく尽くしてくれます。
でもそれはこの国のためで、私のために心から叱ってくれる人はいないのです。
婚約相手のクリスティン王子だってお会いしたことさえない。どんな方なのか・・・」
そこにいるのは気高い『王女』では既になかった。
運命に流され不安に脅える気弱な、平凡な、小さな少女にすぎなかった。
ただし、直径200メートル強の洞窟の天井にほとんど届きそうな『小さな』少女だが。

「クリスティン王子は幼いながらも、利発で優しい立派な方だ。」
「えっ、クローニクル様は王子を御存知なのですか?」
「面識はない。だが俺の弟子の一人から聞いた。信頼できる方だそうだから心配はいらない。」
無愛想なクローニクルの口調には幼子を諭すような優しさが含まれていた。
ジュリア王女は嬉しそうに頷いた。

「おいルィーズ!王女様の解呪を再開するぞ・・・さてと、そろそろ次の封印があらわれるハズなんだが?」
「あっ、あらわれました!」
「そうか、どこだ?」
「ひひゃのうえへふ!」
「ルィーズ?一体何を言っておるんだ?」
「ルィーズさんは『舌の上です。』とおっしゃてますわ。」
「ああ、そうか。それでうまくしゃべれんかったのか。じゃあ舌と舌をくっつければ解呪はできるな・・・」
「ムグゥッ?!」
「?どうしたルィーズ?いきなりシンクロが切れたぞ!」
答えはない。
子宮の内壁から伝わる鼓動がいきなり激しくなったが、過激な運動をしている訳ではない。
クローニクルはおかしいと思ったがそれ以外の異常はない、

(何だ?外で何が起こっている?)

「ムググ・・・」
「・・・・・・」
ルィーズは喋れる状態になかった。彼女の唇は塞がれていたのだ。
王女様の唇で。

「んむぅ・・・」
「・・・・・」
胸をはだけたまま、抱き合って唇をむさぼりあう、200メートル級巨大娘二人。
生暖かいものがルィーズの口腔に侵入してきた。舌だ。
ルィーズが驚きのあまり目を見開いているのに対し、王女様は固く目を閉じたまま。
そしてその表情は恍惚としていた。黙ったままの二人の巨大な舌と唇が絡みあう。

パチッ!
口の中で弾けるような音がした。5番目の封印が解けたのだ。

「んぐ・・・ぐぐ・・・ぷはぁっ!」
王女様を半ば突き飛ばすようにしてルィーズは離れた。
王女様は・・・・・未練がましい目でルィーズを見つめている!
ルィーズの背に冷たいものが走った。

「ごめんなさい、ルィーズさん。いきなり封印の引きあう力が強くなったものですから。
決して変な気持ちじゃないんですよ。」
「ああああああ、そそそそそうよね!べべべべつにキスしようとしたわけじゃないよね?」
思い切り動揺するルィーズ。一方、王女様はポッと頬を赤らめた。

「あの、ルィーズさん・・・」
「な、何かしら?」
「ルィーズさんのコト・・・『お姉様』ってお呼びしてよろしいかしら・・・」
はにかむ王女様の姿を見て、ルィーズの全身に鳥肌がたった。

「ルィーズ!さっさとシンクロを戻せ!外の様子が分からんじゃないか!」
クローニクルの声が虚空に響く。

「は・はぁい!」
「何か変な事でもあったのか?」
クローニクルは尋ねてみた。

「いえ!・・・いいえ・・・何でも・・・ないと思います。」
「?そうか、まあいい。そんな事より、そろそろ最後の封印があらわれるはずだが・・・」
「あっ?・・・お師匠様・・・何か変です!封印があらわれないで・・・あたしのお腹の中が熱くなった感じで・・・?」
「私もですわ、クローニクル様。お腹の中がボーッと熱をもってる感じで!」
「あれ?これって・・・ちょうど、お師匠様のいるあたりが?」
腹の中のクローニクルは黙ったままだ。その彼が口を開いた。

「・・・・・封印はあらわれている。ただしルィーズ、お前にじゃなくて俺の体に!」
見事な複雑さを備えた光る魔法陣が、クローニクルの小さな背中に出現していた。

「お師匠様!それって、どーゆー事なんですか?」
「俺の現在位置と対応する場所に、何かのマジック・アイテムが埋め込んであって封印はそれにセットされてるとしか考えられん?」
「あのクローニクル様、その『場所』ってやっぱり?」
「そう、貴方の『子宮』の中だ。」
断言するクローニクル。

「心当たりはないんですかぁ?」
ルィーズが王女様に問う。

「そう言えば、この街に着いたばかりの頃に、アノ日が来ちゃって・・・その時、確か生理用品・・・挿入式のを寺院の方に用意してもらったことが・・・」
「そいつに細工がしてあったようだな!」
クローニクルは考え込んだ。そんな場所にある封印を解呪するためには・・・

「解呪は中止します。」
「ええっ!そんな!」
クローニクルの言葉に王女様は焦った。当然であろう。
このままでは大司教に操られるまま自国の兵士と戦わねばならない。

「仕方ありません!解呪のためには俺が貴方の胎内に入らねばなりません。
それは・・・その・・・貴方の『処女』を奪うという事で・・・婚約の決まった方にそんな事はできません!」
「そうですよ!お師匠様を完全挿入してイイのは。あ・た・し・だけですぅ!」
「ルィーズ!てめえは黙っとれ!そういうわけですから、この場はとにかく逃げるだけということで・・・?!ルィーズ!今度は何だ?」
再びルィーズとのシンクロが切断されたのだ!

「な・・・ぜ?」
ドォゥゥゥン・・・
ルィーズは岩盤を押し砕きながら倒れ、意識を失った。
首筋に手刀が振り下ろされたのだ。王女様の手によって・・・

「クソッ!先刻から外では何が起こってるんだ?・・・うわっ!!」
クローニクルの体が強力な力に引っ張られた!
猛烈な勢いで子宮壁にめり込み、引きずられるように転がっていく。

「封印の吸引力か!しかし何故こんなに強烈に・・・」
言い終わるより早く、彼はルィーズの巨大子宮から吸い出された。

**********

「ごめんなさい、『お姉様』。クローニクル様・・・・・貴方をお借りします。
私は何としても元に戻らねばならないのです。」
言いながら王女は自らズボンを脱ぎ捨て、パンティを脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿となった。
小ぶりな乳房を無意識に両手で隠し、未成熟な亀裂はかすかに濡れ始めている。
横たわるルィーズに足の方から近づき、腰を下ろした。
ルィーズの両足を開かせ、その間に自分のお尻を滑り込ませる。

ルィーズの股間を保護する『シンデレラ・ドレス』の一部をずらせて、『草原』と『鍾乳洞』をむき出しにする。そして・・・

「んんっ・・・」
ルィーズの『鍾乳洞』の入口を自らの『鍾乳洞』の入口で塞いだのである。

『お、起きろルィーズ!何とかしてくれ!!』
「んっ?あっ・・お師匠様、おはようございま〜す!」
以心伝心の術による呼びかけでルィーズは意識を取り戻した。

「挨拶はいい!それより何とかしてくれ!」
「えっ?キャッ!お・お・おおお・お姫様?何してるのよぉ!」
ルィーズは王女様と下半身の『唇』でキスしてるとゆー異常事態にようやく気づいた。

「あっ、お姉様!お目覚めですか?この技は『秘貝あわせ』といいまして、以前に護身術の家庭教師の方から伝授して頂いた・・・」
「そーじゃなくてぇ、どーしてあたしをこんな目に会わすのかって聞いてんの!」
「ごめんなさい。でも私は今すぐにでも元の大きさに戻らなくてはいけないのです!
そのためには申し訳ないですけど、クローニクル様をお借りしたいのです。」
「駄目だってばぁ!」
しかし膣内のクローニクルは確実に引きずり出されていく。
ずぶ濡れの粘膜には彼がつかまれる部分はなきに等しい。

「駄目よ、お師匠様・・・そっちへ行っちゃ・・・」
「そ、そんな事言っても!」
クローニクルはチラリと『出口』の方を見た。
グネグネと蠢くピンク色の粘膜の膣口がわずかにこじ開けられている。
そのむこうに、明らかにルィーズのモノとは色調の違う粘膜が絡みつくように蠢いている。

「んっく・・・」
無理矢理体を引き剥がそうとルィーズが身をよじった。

「無駄ですわ、お姉様。中の空気を抜くことで吸い付いているから、もう離れられないの。
ホラ、こうやって!」
バフッ。接点で空気が吐き出される音がした。

「ああっ、何なのぉ!この未体験感覚は?」
「うわああああ!な・何とかならんのかルィーズ!」
吸い出されていく空気と愛液の激流に、膣壁にへばりついたクローニクルも翻弄される!

「駄目、お師匠様は・・・渡さない!」
キュッ。
クローニクルの体を引き止めるべく、ルィーズは渾身の力を振り絞って締め上げた。

メキメキメキ・・・・・
赤く充血した肉球がクローニクルの肉体に地殻変動並みの圧力をかける。
クローニクルの頭蓋骨は歪み、肋骨は悲鳴を上げた。

「ギャァァァァァ・・・・・ルィーズ・・・締めすぎ・・・」
「あっ、ご・ご・ご・ごめんなさぁい!?」
ルィーズは慌てて力を緩める。しかしその時・・・

「あっ!」
「あっ?」
同じ叫びが正反対の意味で二人の巨大娘から漏れた。
ルィーズの胎内から師の気配が消えた。
王女様の敏感な部分が乱暴な侵入者の到来を告げた。
二人はようやく離れた。

「あ、ああ・・・・・」
「・・・・・嘘・・・・・」
ルィーズは見た。座り込んだ王女様の両足の間に小さな赤い水溜まりができているのを。
王女様は苦悶と快感を同時に浮かべた表情のまま。
人間砲弾と化したクローニクルは見事に『処女の証』を突破したようだ。
これ以降、『女好き』『不良魔道士』『尻軽魔法使い』等、大魔道士クローニクル=ハミルトの数多い通称の一つに『ジャイアンテス・バージン・ブレイカー』が加わる事となる。

「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
大ショックを受けたルィーズの絶叫が地下大洞窟全体を、いや地上の都市をも揺さぶった。

ピシッ!ピシッ!
岩壁に小さな亀裂が走る!

ガコォォォン。
氷柱のような鍾乳石が砕けて落下する!

ズズズズズズズ・・・・・
地上には不気味な地鳴りがいつまでも響いた。

『ルィーズ聞こえるか?」』
「あっ、お師匠様!早く私の中へ戻ってきて・・・」
『無理だ!吸引力が強すぎて外に出られん!
このまま奥まで進んで王女様の子宮内の封印を解除するしかない!後は頼む!』
「ええっ、そおんなぁ!」
もはやクローニクルの返事はなかった。

「それにしても王女様の内側ってのは、ルィーズとは結構違うもんだな。
ルィーズを熟した果実とすりゃ、こっちは青い果実ってトコか?
しかしどうせなら・・・普通サイズの時に俺の一部分だけで侵入したかったなぁ!」
魔法の灯りで内部を照らしながらクローニクルはぼやきいた。
まだまだ硬さの残る薄桃色の襞をかき分けてクローニクルは前進した。

「あああ!クローニクル様が・・・モゾモゾと私の中を侵入してくるう!なんて・・・不思議感覚ぅ!」
ついつい、興奮気味の声を上げる王女様。

「ううっ、お師匠様を『味わって』イイのはあたしだけなのに・・・」
ルィーズは落ち込んでいた。

「はあうううっ!頭まで突き抜けるような稲妻にも似たこの感覚ぅ!
こ・これがウワサのナントカ・スポットォォォ!
ク・クローニクル様ぁ、ほんのちょっとだけ締めさせて・・・」
キュッ。
またしてもどこかで絶叫が響いたようだが、今や誰も聞いてはいない。

「ああっ、お師匠様への『キュッ』はあたしの特権だったのにぃ・・・」
ルィーズはさらにさらに落ち込んでいった。
洞窟内に聞こえるのは王女様の喘ぎ声と、股間より滴り落ちる水音だけであった。

**********

「痛たた・・・王女様、マジで締めてきやがるとは・・・死ぬかと思ったぜ。」
クローニクルはようやく奥への『扉』の前に辿り着いた。
せりだしてきた、巨大なツルンとした臓器の真ん中にわずかな窪みが見て取れた。
クローニクルの体も強烈にそちらへ引き寄せられている。

「さあ、鬼がでるか、蛇がでるか・・・」
クローニクルは窪みに手をかけ一気に押し開けた。

「あっ・・・・・」
王女様の口から小さな叫びが漏れた。
その瞬間、クローニクルは聖なる器官・子宮に吸い込まれていった。

「何なんだ、コイツは?!」
吸い込まれたクローニクルは子宮の中央の空中に位置する黄色い円筒状の物体に引き寄せられ、背中合わせに張り付いていた。
大きさは1メートル程だが、無数の触手を子宮の内壁に伸ばして空中に自分を固定している。
何より金属等の無生物ではなく、何かの幼虫のような生き物でピクピクと動いている。

パシッ!封印が解除され、怪生物から離れたクローニクルは柔らかな床に着地した。

「ホムンクルスか。そうか!こいつが王女様の体を操ってやがるな!」
ホムンクルスとは魔法科学により作り出される擬似生命を持った人工生物である。
知的労働・肉体労働や風俗での違法労働まで様々な用途に使用されるが、ある種のホムンクルスは人間に寄生し宿主となった人間を自在に操るものもいると言われる。

「何とかしなきゃな。しかし王女様の胎内で使える攻撃魔法と言えば・・・麻痺させる程度の電撃とノックアウトできる程度の振動波くらいか・・・」
クローニクルは身構えた。

「何者ダ?」
ホムンクルスが触手の先の目玉をクローニクルに向けて喋った。

「ほう?言葉を解するとは高等なホムンクルスらしいな!俺は人間だ!」
「?嘘ヲツクナ!コンナ所ニヤッテクル変態ナドイルモノカ!新種ノ寄生虫カ?」
「き・・・寄生虫だとぉ!」
「ソウカ、御主人様ニ頼ンデオイタあしすたんとダナ!コノ仕事ハ疲レルカラナ。
サア新入リ、サッサト俺ノ肩デモ揉メ!」
「何処に肩があるかも分からんよーな寄生虫風情がよくも俺様をコケにしくさったな!」
クローニクルの右手で小さな稲妻がスパークした。左手で空気が歪み脈動した。

「生意気ナ新入リダ!礼儀ヲ教エテヤロウ。」
寄生虫ホムンクルスの体から新たな鞭のような触手が伸びだしてきた!

**********

「アアン、クローニクル様!刺激が・・・強すぎますぅぅぅぅ!!」
突如、王女様の下腹部が激しく波打ちはじめた!
そればかりか、濡れた秘所からはパチパチと音を立てて稲妻が放出されている!

「ああ・・・お師匠様ったら!電撃サービスとバイブレーションサービスまでやってるぅ!
あたしにも滅多にやってくれないのにぃぃぃ・・・・・」
ルィーズは絶望したように、その場に膝をついた。そしてシクシクと泣き始めた。
そんなルィーズに王女様は申し訳なさそうな顔で近づいた。

「ごめんなさい貴方を泣かせてしまうなんて・・・私の責任なんですね。
でも信じて下さい。クローニクル様はちゃんとお返ししますし、この件の責任も私が取りますから・・・」
「シクシクシク・・・分かってる。分かってるけど・・・」
「クローニクル様を本当に愛していらっしゃるのですね。」
「うん・・・(涙)」
泣き顔のルィーズを見て、王女様は心を傷めたようだ。

「本当にごめんなさい・・・分かりました!
クローニクル様がお戻りになるまでの間、私が代わりを勤めさせて頂きます!」
「へっ?!・・・ウグゥッ?」
ルィーズの唇が再び王女様の唇で塞がれたのだ!

「・・・・・プハァッ!おおおお姫様?一体何を・・・」
力ずくで抱きついた王女様を引き剥がすルィーズ!

「ふふふ・・・最初に会った時からカワイイ方だと思っておりましたの・・・
でも大きさが違いすぎるから無理だと諦めておりましたのに・・・
同じ大きさになってくれるなんて、ジュリアとても嬉しかった・・・」
王女様の顔には無邪気な、しかし淫らな喜びが浮かんでいた。

「おおおおおお姫様?、もしかしてレズ・・・・・」
「ヒドイわ、ルィーズお姉様!私は変態さんじゃありません!
ちゃんと殿方のことにも興味あるし・・・
ただ、お姉様のようなカワイイ方をみると仲良くなりたいだけなんです!」
この瞬間、ルィーズは理解した。
−性格に問題のある王女様で、見合い話が御破算続き−というウワサは正確ではなかった。
『性格』ではなく『性癖』に問題があったのだ!

「さあ、お姉様・・・クローニクル様がお戻りになるまで楽しみましょう!」
全体重をかけて、ジュリア王女が飛びついてきた!その勢いでルィーズは後方の岩壁に倒れ掛かる!

ガラガラガラ・・・
二人会わせて100万トン以上の巨重に加えて洞窟の老朽化のためか、もたれかかった岩壁はあっさり崩れ落ち、ルィーズは押し倒された。

「さあ、女同士の友情のキスを!」
「そんなの友情じゃなーい!」
咄嗟に王女様を突き飛ばすルィーズ!

ドコォーーーーン!
幾つも石の柱を砕きながら王女様は飛ばされて倒れた。
しかしすぐに起き上がる。

「うふふふ・・・刃向かう獲物を屈服させるのも好きなの・・・お姉様!」
股間から稲妻と淫水を滴らせながら無自覚変態王女様が再びルィーズに迫る!その時

ピシッ!ピピピピピピッ!ピキピキピキ・・・
壁・床・天井を問わず洞窟内に無数の亀裂が走った!

ガラガラガラ!
亀裂にそって、壁も天井も崩れていく。

ゴゴゴゴゴゴゴ!
不気味な地鳴りとともに洞窟が崩れだした!


**********
第6章『罪なヤツ』−全てはビッグ王女様のために−
**********

「何事だ!地震ではないぞ!」
揺れる大聖堂の中でヴァーリ大司教が叫ぶ。
窓の外を見た彼は驚愕した。
辺りの建物や遠くの山々がゆっくりと上昇していく.
いや、そうではない!大聖堂を含む街の一角がゆっくりと沈下していくのだ。

「この街の地下で何が起こっているんだ?」
エルマーは焦った。地下洞窟内にいると思われる師とは全く連絡がつかない。

「そんな事より早く結界を!」
「うむ!」
マーリアの声に我に帰ったエルマーは崩れ行く集会所の中に防御結界を出現させた。
人質たちを守りつつ数分、揺れはようやく納まった。

「一体、何があったのかしら?」
「今から、大聖堂へ直行します。マーリア、貴方も来て・・・」
そこまで言いかけてエルマーはある音に気がついた。

ヒュルルルルル・・・
「何だ?なにかが飛んでくる?」

ドッカーーーーン
「なんだぁ?!」
集会所の中庭に落下した物。それは一軒の酒場(の残骸)だった・・・
それだけではない!空中を幾つもの建物や大岩が飛来してくる!

**********

沈下した一角は1キロ四方に及んだ。
逃げ出した人々は恐る恐る巨大な穴の周囲から底の方を見た。
そこには崩れた家々や、むき出しの岩盤が露出している。

ドッ!
その中央付近の土砂がいきなり盛り上がった!

ドドドドド!
人々の驚きの視線を集めながら山が形成されていく。

ガラガラガラ・・・
山頂付近から土砂が剥げ落ちていく。その下からあらわれた者・・・
輝くコスチュームに身を包んだ、金髪を風になびかせる、うら若き一人の巨大娘!

「オオオッ、これは?」
何とか原形を保っている大聖堂の、傾いたテラスからヴァーリ大司教は驚きの声を上げた。

「まさかワシ以外にも『超巨大娘理論』を完成させた者がいるというのか?
いや、そんなハズはない!ではあれは・・・『天然物』の巨大娘が実在したのか?!」
大司教は呆然と巨大なルィーズの姿を見つめる事しかできなかった。

「ハァーッ、参っちゃった。いきなり崩れちゃうなんて・・・ん?」
土煙にむせびながら、ルィーズは体に付着した埃を払い落とした。
百数十メートル以上も陥没した穴の底から、頭一つ外に出ている女巨人の出現に街の者は皆、驚愕した。
そのときルィーズは周囲の崩壊した街(の瓦礫)に気がついた。

「これって・・・あたしのせい?(冷や汗)・・・・・
いいえ、あのヴァーリとかいうおっさんが悪いのよ!
きっと洞窟の補強工事とか手を抜いてたのよ!おのれ、許すまじ、悪の秘密結社!」
いきなり責任転嫁にはしる巨大娘にヴァーリ大司教は返す言葉もない。

「あーーーーーっ!!いけなぁい!お師匠様入りお姫様まで埋まっちゃってるぅ?」
慌ててルィーズはあたりを掘り返し始めた。

「お師匠様やーい、お姫様やーい!どーこーでーすーかー?」
「うわぁっ!」
「お助けぇ!」
ほじくりかえされた瓦礫や大岩がスゴイ勢いで町中に飛び散った!
降り注ぐ瓦礫と逃げ惑う市民たち。街は大混乱に陥った。

「とにかく、あの厚かましい巨大娘には責任を取ってもらおう。」
降り注ぐ破片を避けながら、大司教は左腕のブレスレットに呼びかけた。

「ジャイアント・プリンセス発進!」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・
地響きとともに陥没した街の一角が揺れ始めた。

ドッコーーーン!
爆発的に土砂が弾ける。

「オオオッ?」
人々の注目を集めて、たちこめる土煙の中にそそり立つその姿は!

「お、王女様?そのお姿は・・・?」
大司教までも驚愕させたその姿とは・・・当然『おーる・ぬうど』!

「あら、恥ずかしいですわ!こんなハシタナイ姿を大勢に見られて・・・」
王女様は顔をポッと赤らめた。もっとも恥じらいの表情の中に幾分か『見つめられる喜び』の表情が含まれているようだが。
そんな彼女の股間を激しい稲妻が覆う。どうやら内部のクローニクルも健在のようだ。

「あっ、無事だったのね!お師匠様入りお姫様!」
「あの、お姉様!『お師匠様入り』はやめてくれませんか?
オマケ入りキャラメルみたいで、なんだか・・・」
「そーおー?でも無事でよかった!」
街を踏み散らかして駆け寄ってくるルィーズ!

「あっ、いけない!私に近寄っては危険です!」
「キャア?」
ドズーン!!
ルィーズの体は空中で1回転して大地に叩き付けられた。

「あたたた・・・何するのよォ、お姫様!」
「ごめんなさい!でも私じゃなくて・・・」
「ハハハハハハハ!このワシの力なのじゃ!」
傾いだテラスの上で高笑いする、ヴァーリ大司教!

「我が奥義を尽くした秘術により、今や王女の肉体は我が思いのまま!」
「・・・・・変態。」
「ううっ?!」
立ち上がりながらのルィーズの呟きが大司教のハートをえぐった。

「女の子を魔法でオモチャにするなんて根の暗いヤツ。」
「ウォォオオ?!(苦悩)」
「だいたい魔法使わなきゃ女の子に相手にされないよーな陰険ジジィだから、悪の秘密結社なんて根暗な仕事できるのよネ!」
「ウォォォォォ・・・!(号泣)」
巨大な小声でささやかれる心無い言葉が大司教のナイーブな内面をズタズタにしてゆく。

「ルィーズさん、悪の首領とはいえ失礼ですよ!
ああ見えても大司教様は女性にも人気あるのですよ。
・・・・・おもに65才以上の御婦人にですけど・・・」
「ノォォォォォ・・・・・!(血の涙)」
さりげなくトドメをさす結構エグイ王女様。

「ウウウウウ、おのれ!ワシのナイーブでシャイなハートを傷つけおって!
行け、ジャイアント・プリンセス!その巨大無礼娘を捕獲せよ!」
怒りに燃えまくる大司教。

「ああっ、お姉様・・・逃げて!」
「ううっ、お姫様には手出しできないし・・・」
ドズゥゥン、ドズゥゥゥゥン。
王女様は命じられるがままに、ルィーズに向かっていく。
傾いた家や、ひび割れた石畳を踏み潰しながら。
一方、ルィーズは困り果てた。救出すべき王女様を傷つけてはマズイ!

「とにかく取り押さえなきゃ!」
ルィーズは王女様の手首を掴んだ。そのまま地面に押さえつけようとした瞬間だった!

ブゥン!
「へっ?・・・キャァァァ・・・」
ドッコーーーン。
ルィーズの巨体は軽々と宙を飛び、巨大な陥没穴の外に放り出された。
数十軒の家々が彼女の下でペシャンコになった。

「イタタタ・・・、お姫様、ひょっとして格闘技か何かやってない?」
「・・・あっ、ごめんさい、お姉様!護身術に東洋のアイキドーを少々・・・」
言いながらもルィーズを追って、王女様も穴の底から飛び出した。
野生のカモシカを思わせる身軽な跳躍だった。
どうしたものかと思案にくれるルィーズの頭に『声』が響いてきた。

『ルィーズ!』
「あっ、お師匠様!ご無事だったんですね?」
『それより、何とかしてお姫様をとっ捕まえて動けなくしてくれ!このままじゃ戦えん!』
「ええっ、お姫様を捕まえるぅ?!」
『頼むぞ!』
「ああっ、ちょっとぉ!」
以心伝心の術はあっさり切られた。途方に暮れるルィーズ。

「ふっ、捕まえるのはこっちの方じゃ!
巨大マスコットガールとして王女様とは桁違いのそのバストでお色気キャンペーンにこき使ってくれるわ!ゆけ、ジャイアント・プリンセス!」
聖職者とは思えない低俗発言をする大司教!
だが彼は『バスト』の一言で王女様の額に一瞬だが青筋浮かんだのに気が付いてなかった。

パシッ!バキッ!
「オゴォッ?!」
王女様が蹴飛ばした小石(とゆうか直径1メートル程の大岩)が『偶然にも』大司教の顔面を直撃した。

「あら、ごめんなさいね・・・・・運の悪い方・・・クスッ!」
いかにもワザとらしく王女様は謝罪した。
どうやらコントロールが完全ではないようだ。

「さあ、ルィーズお姉様!ジュリアのコトをつ・か・ま・え・て!」
「ううっ、多少手荒でも捕まえなきゃこっちが危ないし・・・」
「早く捕まえてくれなきゃ、ジュリアがお姉様を捕まえちゃうから
・・・あっ、それもいいかな?」
「あああああ、捕まえてもやっぱりこっちが危ないよーな気がするぅ!!」
とか何とか言ってる間に王女様の魔の手がルィーズに迫る!

「あああああ、やっぱ来ないでぇ!」
とっさに渾身の一撃でぶん殴るルィーズ!
その手首を掴み、王女様は軽くルィーズの体を振った。
それだけでルィーズの巨体は軽々と投げ飛ばされた!

ドン!ドドン!ドォォォン!
「あいたたたっ・・・」
千メートルほど空中移動したルィーズの体は、地面の上で3回転してようやく停止した。
500メートルばかり大地をえぐり、勿論そこにあった建物はすべてペシャンコである。

「あれでも倒れぬとは、なかなかシブトイ巨大娘じゃわい!よし、例の『奥義』を使え!」
「えっ?アレはちょっと・・・」
自らの意志に反し、大司教の命令に反応して王女様の肉体は猛然とダッシュ!
町並みを根こそぎ蹴散らして突進してくる王女様に、ルィーズは回し蹴りで迎え撃つ!

「キェェェェ!・・・あ・あれ?お姫様が消えちゃった?」
ルィーズの蹴りは突風を起こしただけで空振りだった。
慌てて左右を見回すが、あるのは壊れた街だけである。

「?!」
ふいにルィーズの顔に影が落ちた。
天を仰いだルィーズが見たものは・・・体操選手のように、いや妖精のように宙を舞うジュリア王女の美しい肢体であった。
呆気に取られるルィーズの頭上で見事な月面宙返りを決め、そのままルィーズの肩に舞い下りる!

ドスン!
「!!」
両肩に衝撃を受けルィーズがよろめく!
二人合わせて100万トンを超える過重が大地を陥没させる!
加えて肩車のような体勢から王女様の両足が首に巻き付く!
バランスを失って前のめりに倒れるルィーズ!倒されれば圧倒的に不利!!

「おーっとっとっと・・・なんのこれしき!」
崩れた体勢を凄まじい馬鹿力で無理矢理、立て直すルィーズ!
なんとか持ちこたえたかにみえた。だがそれは罠だった。

「ハァッ!」
気合とともに、王女様は体をひねりを加えて大きく振った。
力を逆用される形でルィーズは後方へひっくり返った!

「???」
ルィーズは自分の両足が大地を離れるのを感じた。
足の下に青空が見えた。
次の瞬間、さかさまの景色と大音響と頭から爪先へと抜ける衝撃が襲った。

ドズゥゥゥ・・・ン!
大地が揺れた!巨大な地割れが走り、街は端から端までまっぷたつに裂けた!!
ルィーズの巨体は頭から大地に突き刺さり、硬直したままゆっくりと倒れた。

「ウウッ・・・き・効いたぁ〜!」
フラフラしながらも立ち上がるルィーズ。頭からはダラダラと流血している。

「まあ、凄いわ、お姉様!奥義『天逆地衝』を受けて首が折れなかったのは、お姉様が初めてよ!」
「・・・ンな危な技、使わないでよ・・・・・」
ガンガンする頭を押さえながらルィーズは立ったものの足元はガクガク。
次に一撃くらえば終わりであろう。

(こんなヒドイ目にあったのは子供の頃のお師匠様の修行以来だわ・・・)
ルィーズの心の中に子供の頃の思い出が鮮やかに蘇ってきた。

−回想−

「いいか?魔法使いだからといって、いつでも自由に魔法が使えるとは限らん!」
記憶の中の−まだ子供に若返る以前の−クローニクルは言った。

「はい!」
元気よく答える7〜8才くらい少女はルィーズ自身。

「それゆえ、お前にも肉体のみでの戦い方の基礎を教えた。だがしょせんは魔道士が身につけられる体術などたかがしれておる。」
「はい。」
「そこでこれから教えるのは『裏の技』!論より証拠だ、体験してみるがよい!」
「はい!!」
数秒後、彼女は頭からダラダラと大量出血し倒れていた。

「この技は禁じ手とする。理由は今のお前にはよく分かるだろう。
・・・しかし、命の危険が迫ったときはためらわず使うのだ・・・」
「・・・・・はい、お師匠様。」
薄れゆく意識の中でルィーズは返事をするのが精一杯だった・・・

−回想終了−

「お師匠様、禁を破らせて頂きます・・・
今こそ、命の危険が、いや貞操の危険が迫ってしまいましたぁ!」
ルィーズは指先に意識を集中し、身構えた。
すり足で、倒れまくった家々をすり潰しながら間合いを詰める。

「本気ね。お姉様・・・」
ジュリア王女も、いつのまにかマジになってる。
大きく足を開いて、どっしり腰を落として身構える。
上空を仰ぐ市民たちは絶えず放電を続ける大迫力の秘所に見入った。
互いの射程距離まで、後一歩!

その時、ルィーズの殺気が消えた。
何かに気づいたらしく、ルィーズは虚空を見上げて宙の一点を指差す!

「あっ!空飛ぶ円盤!!」
「ええっ!どこですか?」
バキッ・・・・・
つられて宙を仰いだ王女様の後頭部に、情け無用の後ろ回し蹴りがめり込んだ。

「あっ・・・姑息なお姉様も・・・素敵・・・・・」
ズドドドォォォンンン・・・
50キロ四方に響く地響きとともに王女様は倒れた。

「馬鹿な・・・我が最高傑作『ジャイアント・プリンセス』が破れるとは!」
大司教はガックリと膝をついた。

「勝った・・・」
ルィーズもその場にへたり込んだ。
あまりのくだらなさと卑怯さ故に『禁じ手』とされた技であった。

「ルィーズさぁーん!」
上空から彼女を呼ぶ声がする。
見上げると数百メートルの高みに、といっても今のルィーズからすればちょっとジャンプすれば届く高さなのだが、直径30メートル程の半透明な薔薇の花のようなものが漂っていた。
そのとなりには巨大な鳥・・・の形をした炎が空中で静止している。

「エルマーさん!マーリアちゃん!!」
ルィーズは安堵の溜息をついた。

「王女様が巨大化させれてるのは市長から聞きましたが・・・この惨状は一体どういうことなのです?」
「説明は後でします!とにかく今は王女様がこれ以上、暴れないようにしなきゃ!!」
「そうですね、それは私がなんとかしましょう!」
薔薇状の浮遊結界内のエルマーも今はそうするしかなかった。

「その前に父は、あっ、いえ・・・お師匠様はどこ?」
炎の鳥の上からマーリアが心配そうな顔で尋ねる。
やはり弟子としてより娘として、マーリアも父親であるクローニクルが心配なのだろう。

「この中!」
ルィーズは相変わらず稲妻に覆われた王女様の腰を指差した。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が支配した。
エルマーは黙って懐から『頭痛薬』と書かれた小瓶を取り出した。
蓋を外して中身を手の平の上にぶちまけた。
数十錠の薬を一気飲みすると、どこか虚ろな目でルィーズの方に向き直った。

「分かりました。ややこしい話は後で聞きましょう。しばらく待っていて下さい。」
「私も手伝うわ。ここにいると気が変になりそう・・・」
二人は魔法陣を準備できる場所を捜して去っていった。

その場に残ったルィーズは倒れたままの王女様に目を向けた。

「ごめんね、でももうちょっと我慢してね・・・」
その時!瓦礫の街のあちこちでドヨメキが生まれた。

「おい!見ろよ、あれを!」
「スッゲェー!」
「キャッ、ヤッダァーーー!」
「おうおう、いいのう若いモンは・・・」
瓦礫の間から多くの市民たちがルィーズを見ていた。
何故か、男性の好色な眼差しがほとんどだ?

「みんな何を見て・・・?・・・!!」
何気なく自分の体を見たルィーズは凍りついた!
体を覆う七色に輝くコスチューム『シンデレラ・ドレス』から輝きが消え、透明なガラスに変わり果てていた!
豊満な乳房も、ピンクのカワイイ乳首も、キュッとくびれた腰つきも、黄金の三角地帯も、健康的な色合いの神秘の洞窟も、全てが文字通りの「ガラス張りの明朗さ」で公開されていた。

「イヤ!」
真っ赤になって慌てて体を隠そうとするルィーズ!
だが、その瞬間『ガラスの靴』ならぬ『ガラスの服』は粉々に砕け散り、白い砂となって町中に降り注いだ。
・・・『シンデレラ・ドレス』はクローニクルが魔法で生み出した鎧。
術を維持するクローニクルがいなくなれば効果が切れ、当然こうなるわけである。

「イヤァァァァァァッ・・・・!!!!!イヤッ!イヤッ!イヤァァァッ!!」
「おおっ!ますますスゲエぞ!」
「ヒョッヒョッヒョッ・・・眼福、眼福!」
「おおっ、主よ!罪深き我らに更なるお恵みを・・・」

「駄目ぇ!お師匠様以外は見ちゃ駄目ぇぇぇ!」
ルィーズは絶叫した。町中の人間の鼓膜が破れたかと思える程の絶叫だ!
愛するクローニクルには無理矢理にでも見せても、不特定多数にハダカを見られて嬉しいわけではないのだ。

「ひえええ!」
「女神様がお怒りだぁ?」
しゃがみこんだルィーズは手近にあった物を引っ掴み、群集に向かってブン投げた。
頭上から降り注ぐ建物の破片や、引っぺがされた地面に群集はパニックに陥った!

ドゴン!ガッシャーン!ドドン!
無事残っていた建物も次々と直撃を受けて壊れていく!
街のあちこちから火の手が上がり混乱は広がってゆく.

ガシッ!
錯乱したルィーズの手首を何者かが掴んだ!

「いけませんわ、こんなに散らかしては・・・お姉様ったら!」
「?!お・王女様・・・」
何時の間にか意識を取り戻した王女様がニッコリと笑った。

「お姉様、落ち着いて・・・ね?」
「う、うん・・・」
「さあ、ほーら!」
「キャアアアアアア???」
王女様はルィーズを立ち上がらせて、大事な部分を隠していた両手を引き剥がしたのだ。

「オオーッ!!」
歓声が上がった!
山よりも巨大な超迫力の裸体は再び民衆の目に大公開されたのだ!

「さあ、国民の皆様に美しいお姉様の姿を瞳に焼き付けて差し上げましょう!」
「おおおお王女様は、はははは恥ずかしくないのぉ?!」
「恥ずかしいですわ、とっても・・・
でも今この国では『開かれた王室』キャンペーン実施中ですの!
王室の全て国民の目にさらす事は重大な義務ですわ!」
「わたしは王室と関係なーい!」
「では王室の一員たる私ともっと関係を深めましょう!」
「それもイヤァァァ!」
ズズゥゥゥン!
王女様は足を絡ませるとルィーズをそのまま瓦礫の上へ押し倒した。

「よくやったぞ、ジャイアント・プリンセス!そのままそいつを第2秘密基地へ連行するのだ!」
大司教の命令!しかし王女様は反応を示さない。

「ええい、何をしている!お楽しみなど後にせい!」
「・・・・・うるさいですわね。まったく、お年寄りは小言が多いんですから・・・」
ブツブツ言いながら王女様は近くにあった民家を掴み上げた。

「えいっ!あーっ、手が滑ってしまいましたわ?」
実にわざとらしい声とともに民家は空を飛び、大司教がふんぞり返っていた寺院に激突した。
壮麗な由緒正しい大聖堂は脆くも崩れ落ちた。

「王女様、あなたって一体?」
「うふふふ、大司教様ってば操縦が下手なんだから。うっふふふ・・・」
ルィーズは恐怖の目で王女様を見上げた。

「さあ、お姉様。もう邪魔は入らないわ。」
「んんっ・・・」
倒れてるルィーズの頭を固定すると濃厚なキスをかました。
まずはオーソドックスな攻め方をするつもりのようだ。
ルィーズは持ち前の馬鹿力で突き放そうとした、しかし・・・

『おうっ、ルィーズ!動きが止まったぜ!
どうやら王女様を取り押さえるのに成功したな!』
以心伝心によるクローニクルの声が頭の中に響いた。

「あっ、お師匠様?、い、いえそうじゃなくて・・・」
『このまま、しばらく動かないでくれ!すぐカタをつける!』
「あああああ、ちょっと待ってぇ!」
通話は切れた。もはやルィーズは動くことも出来ない!

王女様はルィーズの両肩を自分の両膝で押さえつけた。
そのまま顔をルィーズの秘所に近づける。

「うふふ、奇麗よお姉様・・・それに良い香り・・・」
「やめて、御願い・・・そこは・・・お師匠様専用の・・・」
「まあ、クローニクル様専用なの?そんな大切な場所なら、もっと清潔にしなくちゃね。
私に任せてくださいな・・・・・レロ。」
「ああっ?」
ルィーズの粘膜地帯を王女様の舌先がなぞった。

「レロ。レロレロ。」
「ああ!ああああ!」
「レロレロレロ。レロロロロロロロロ!」
「ああああああ!あああああアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
蛇のような執拗さと巧みさで巨大な舌先が、ルィーズをこじ開け侵入してくる。
王女様の絶技、いや舌技の前にルィーズの体は敏感に反応していく。

「もう駄目・・・お師匠様、助けて・・・」
「お姉様ってば、クローニクル様のことを本当に愛してらっしゃるのね・・・
じゃあ特別にクローニクル様とキスさせてあげる。間接キスだけど。」
「へっ?どどどどうやって・・・」
焦るルィーズの顔面に向かって、王女様は自分の秘所の『唇』を下ろしていった。

「ななななな何をする気?」
「うふっ、そこはクローニクル様を呑み込んだ私の唇。クローニクル様のお味がしますわよ!」
「イヤァァ・・ングププ・・」
想像だにしなかったモノにより、ルィーズの唇は塞がれた。

「アアン、お姉様ったら・・・そんなに激しくされたら、ジュリア感じてしまいますぅ!」
ジタバタ暴れるルィーズの上で王女様は高まっていく。

「ング・・・ンギィ・・・クップゥゥ!」
更に激しく攻める王女様の舌先!
直径5〜6メートルの『生きた洞窟』に家一軒ぐらい乗りそうな巨大な舌が侵入する。
滝のように流れ出す液体は王女様の唾液か、ルィーズの愛液か・・・
もはや、ルィーズが堕ちるのは時間の問題か!

ヒュン。ヒュルルルン!
瓦礫の隙間から白く輝くロープ状の物が飛び出した。

「な・何ですの?!」
驚く王女様に輝く数十本のロープが王女様の体に蛇のように巻き付いた!

『遅くなりました、ルィーズさん,大丈夫ですか?』
「あ・・・エルマーさん・・・ぎりぎり・・・あぶなかったですぅ・・・」
『しばらくジッとしていて下さい。
この『呪縛蛇』は動くものに反応して縛り上げるのです。』
ルィーズの見上げる中で王女様は縛り上げられ動くこともままならなくなった。

「やれやれ・・・助かったあ・・・」
安心したルィーズはゆっくりと立ち上がった。

『ああっ?ルィーズさん、まだ早すぎ・・・』
「キャァァァ?」
白く輝く蛇は今度はルィーズに襲いかかった!

『駄目です!動かないで!』
「ンな事言ったってぇぇぇ」
既にルィーズの体には数十本の光のロープが食い込んでる!しかも大事なトコロに!!
パニックしたルィーズはロープを引き千切ろうと腕を振り回す!
その結果・・・さらに多くのロープに襲われてますます泥沼状態!

「エルマーさん!何とかしてぇ?」
『今やってますが・・・こう数が多いと。』
「イヤァァァァァ・・・」
「ああ、お姉様!」
ルィーズと王女様は向かい合って抱き合うような形で縛り上げられてしまった。

「ああっ、お姉様って『縛り』の趣味もありましたのね。でもジュリア受け入れてみせます!」
「ちーがーいーまーすぅぅぅぅぅ!」
ボコォォォッ!
ますますもがくルィーズのパワーで『呪縛蛇』を発生させている魔法陣があたりの地面ごと引き抜かれた!

ドゴン・・・
「グェェッ?!」
凄まじい勢いで引き抜かれた地面は数百メートルを飛び・・・ルィーズの頭を直撃した。
白目むいて倒れるルィーズ。

ドドドオン!
絡み合ったままルィーズと王女様は地面に倒れた。
衝撃が大地を伝わり、市内の建造物はひとつ残らず崩壊した。

「とにかく終わりましたね。」
「そうね、エルマーでも事後処理が・・・えっ?」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・
エルマーとマーリアが上空から見下ろす中、街は新たな轟音に包まれた。
そしてゆっくりと街全体が沈んでゆく。その上の全てを破壊しながら・・・

「エルマー・・・この街の地下って無数の洞窟が走っているんだったわね。」
「そうでしたね、マーリア。」
「その上で100万トン以上の重量が暴れまわったんだよね。」
「そうですね・・・」
エルマーは黙って懐から『頭痛薬』と書かれた小瓶を取り出した。
蓋を外して中身を手の平の上にぶちまけようとした。空っぽだった。

「マーリア、頭痛薬持ってませんか?」
「胃痛薬ならあるわよ・・・」
こうして、300年前に未熟者の魔法使いによって壊滅寸前まで追い込まれた長い歴史を持つ街は、その弟子によって今ここに完全に壊滅した。

*********

静寂に包まれた瓦礫と荒野の中、王女様は自分の下で白目むいてるルィーズを見つめた。そしてキスした。

「し・あ・わ・せ、うふっ!・・・・・んっ?あっ・・・」
秘所に微妙な快感を感じて王女様は声を洩らした。

バシャッ。
軽い水音とともに王女様の秘所の扉が内側から押し開けられた。
その中からずぶ濡れの少年が姿を現した。手には幼虫みたいな生き物をつかんでる。

「この俺様をてこずらせやがって!」
少年・クローニクルはヒョイと王女様のお尻の上に飛び乗った。
そして手につかんだホムンクルスを真上に高く投げ上げる。

ボッ。
ホムンクルスは一塊の炎となり、灰となって四散した。

「これで・・・ようやくお終いか・・・?!」
クローニクルはようやくあたりの惨状に気がついた。

「あの・・・・・王女様、これは一体・・・」
「クローニクル様、幸せ(=快楽?)って犠牲なしには得られないモノかもしれませんわね・・・」
王女様の笑顔は相変わらずかわいかった。

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最終章『大団円・・・去りゆくは麗しき幻のティータイム』
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壊滅した都市から遠く離れた岩山の洞穴。
入口にはご丁寧にも『悪の秘密結社・古代巨神教 第2本部』と張り紙がしてある。
一人の老人が中に飛び込んでいったのはホンの数分前である。
内部は結構豪華な家具や実験室、資材や多数の資料が保管されているようだ。

「ふう、何とか助かったか。それにしても巨神の末裔がいたとはな・・・」
老人、いや大司教はニヤリと笑った。

「だが、今回は失敗したが・・・これは次の『GR計画』の始まりに過ぎぬ!
そう、あの巨大娘の力を手に入れさえすれば・・・」
「いえ、その前にやる事がありますよ!」
「誰だ?!」
謎の声は背後から聞こえた。
振り返ると全身黒ずくめの無表情な男が立っていた。

「お前は『闇のユニオン』の・・・・・組合費集金お兄さん!
今月分の組合費は払ったハズじゃぞ?」
「今日は集金お兄さんとは違います。直営金融機関『世界征服金融ローン』の監査官と呼んで頂きましょう。」
「ウウッ!こ、今回の作戦はまだ失敗したわけでは・・・」
「本部は今回の作戦での資金回収は不可能と判断しました。
失敗した場合のことは御存知ですね、ヴァーリ組合長?」
能面のように無表情な男の言葉に大司教は狼狽した。

「失敗には・・・・・死・・・」
「死より過酷な運命を!ですよ。」
男の言葉と同時に背後の暗闇から十数人の黒装束の虚ろな表情の男たちが出現した。
手には血のように真っ赤な呪符を持っている。

「やれ!」
無表情な監査官の言葉と同時に黒装束の男たちが音もなく大司教を取り囲んだ。

「やめてくれ!」
大司教の悲鳴が合図であったかのように男たちは・・・・・大司教を無視して部屋中を調べ始めた!

「銀の燭台セット、査定価格1万2千ゴールド!」
「アンティーク家具セット、キズあり、7800ゴールド!」
「魔法大全12巻不揃い、8200ゴールド!」
「まいったな、今日もまた徹夜だぜ・・・」
室内の物に次々と赤い呪符が貼られていく。
呪符には書かれた呪いの言葉はもちろん『差し押さえ』。

「これでは、到底足りんな・・・背中の隠しポケットの中身も出して貰いましょう。」
「せめてこれだけは・・・再建資金に・・・」
「駄目だ!」
渋々と大司教は大きな紙袋を渡す。

「ふっふっふっ、『巨大王女様官能写真集 パート 1』原稿か。発売はこちらで滞りなく行いますから安心して下さい。」
「・・・・・」
落胆する大司教。しかしそれだけでは済まなかった。

「しかし、これでも足りんなあ!」
監査官の右手に鋭利なナイフがあらわれた。大司教の目に恐怖が浮かぶ。

シュバッ!
「ヒイッ!」
だが、床に落ちたのは血飛沫ではなかった。
切られた大司教の袖口から10数枚の紙片が床に散らばった。
監査官はその一枚を拾い上げた。

紙片の上に素っ裸のルィーズと王女様の姿が浮かび上がった!
『ななななな何をする気?』
『うふっ、そこはクローニクル様を呑み込んだ私の唇。クローニクル様のお味がしますわよ!』
『イヤァァ・・ングププ・・』
紙片の上では街を破壊しつつ、よがりまくる巨大王女様とルィーズの姿と音声が何度も再生された。

「おおっ?さすが、魔法写真家としても名高いヴァーリ殿だ!
表には出せぬが闇オークションでも1枚10万ゴールドは下るまい!
では、この資産引き渡し書類にサインを御願いします。」
放心状態のヴァーリ大司教は虚ろな目でサインをするしかなかった。

「それと、来月の組合費の徴収は金融機関休日の都合で1日早くなります。詳細はこの回覧版にありますから組合員への連絡をヨロシク!」
相変わらず無表情な監査官から回覧版を受け取ると大司教はへたり込んだ。
監査官−いや今は集金お兄さんと呼ぶべきか−は薄暗いランプを見つめ独り言を言った。

「それにしてもクローニクルの奴、しばらく会わない間に面白い弟子を育てたものだ・・・再会が楽しみになったよ。」

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ウケーレ市の大惨事から1週間が過ぎた。
あれほどの大惨事にも関わらず死傷者はゼロ。考えられない幸運と言えた。
再建作業は翌日から始まっており、既に整地は終わっているという驚異的な復興と言えた。

「まあ、幸いだったよなー、怪我人だけで済んだっつーのは!」
「・・・・・」
クローニクルの言葉にもルィーズは無言だった。

「おまけに崩れ残った大洞窟の一部からプラチナの鉱脈が発見されたそうだ。
昔以上にこの都市は栄えるだろうよ!」
「・・・・・」
ルィーズはやはり無言だった。脅えてるようにも見える。

「そう、心配すんなよ。街一つ潰した事も、王女様の・・・その・・・ロストバージンの事も不問ってことになったんだし。」
「・・・・・」
彼等はウケーレ市の地下、崩れ残った洞窟の一つに来ていた。
報酬を王女様の手から直接渡したいとのことだった。

「さあ、お師匠様。準備が整いました、いらして下さい。」
マーリアの声がした。彼女はステックス王国のクリスティン王子の頼みで、魔術顧問として王女様のサポートをすることになったのだ。

「それにしても何でこんな場所で報酬を渡すことになったんだ?」
「ギクッ?さ・さあ私は何も聞かされてないし・・・」
ちょっとマーリアの態度も怪しい。
そのまま彼等はポッカリ開けた広大な空間へ案内された。

「何だい、ここは?」
幾つもの機械が設置されカタカタと音を立てている。
床と天井には巨大な魔法陣が描かれている。
そして魔法陣の中心には二人の人物が待っていた。

「お・王女様?!」
「あっ、お久しぶりです、クローニクル様。」
なぜか作業服姿でツルハシを担いだ王女様が嬉しそうに挨拶した。
視線が合ったとたんにルィーズはクローニクルの後ろにくっついてガタガタ震えだした。

「そ・それに・・・」
「始めまして、クリスティン=アルワ=スティックスと申します。
お噂は聞いておりますよ、大魔道士殿。」
まだ少年というべき王子は、にこやかに礼儀正しく挨拶した。

「こりゃあどうも!しかし、俺達に何の用なんです?
たかが報酬を渡すためにわざわざこんなトコに呼び出したワケじゃないんでしょう?」
「はい、それなのですが・・・その前に見ていただきたい物があるのです。
マーリア様、始めて下さい。」
クリス王子に命じられるままに、マーリアは機械の操作を始めた。
王子は王女様をその場に一人残して魔法陣を出てクローニクルたちの側へ来た。

「?・・・王女様、何を!」
呆れるクローニクルの前で・・・

「何だとぉ?」
魔法陣は緑の光に包まれた。
そして光の中で王女様の姿はドンドン巨大化していく!

「うふふっ、スゴイでしょ!」
巨大王女様は実にカワユイぶりっ子ポーズを取った。

「どーやら、巨大化しやすい体質になっちゃたらしいのよね。
ここの施設を使えば簡単に巨大化に必要なエネルギーも集まるし。」
ウンザリしたような口調でマーリアは言った。

「うふふふ、地上の整地作業も私一人でやったんですの!」
「確かにスゴイけど・・・それと我々とどう関係が?」
クローニクルには王女様の言わんとするところが分からなかった。
ルィーズも師の背後に隠れながらキョトンとした顔をしている。

「さあ、大魔道士殿、中へ入りましょう!」
王子様はいきなりそう言うと自分の服を脱ぎ始めた。

「入るってどこへ?それになぜ服を脱ぐのです?」
「とぼけるなんて嫌だなあ!決まってるじゃありませんか。」
「ここへ!ですわ!!」
王子様の屈託のない笑みに答えるように王女様は作業服のズボンを下ろした・・・下着ごと!
薄い銀色の芝生の向こうに濡れ始めた『亀裂』が見えた。

「・・・・・」
クローニクルは無言で硬直した。

「夕べは一人で入ってみたのですが『ナントカ・スポット』とかいうのがどこにあるのか分からなくてね!
まずそのあたりからクローニクル様に教えていただきたいのです。」
楽しそうに王子様は硬直したままのクローニクルに微笑みかけた。

「その間は私がルィーズ様のお相手をいたしますし・・・」
王女様はやはり硬直したままのルィーズにウインクした。

「さあ、お入り下さいませ・・・あれ?」
『入口』を自分の指でこじ開けた王女様だったが、クローニクルたちの姿は忽然と消えていた!

「クローニクル様!ルィーズ様!どこへ行かれたのです?」
「・・・やれやれ・・・」
慌てて探しまわる王女様たちをマーリアは溜息をつきながら見ていた。

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よく晴れた午後、国境近くの宿屋でエルマーは紅茶を楽しんでいた。
新調した義眼の調子もよく、ここ数年ぶりの心地よいティータイムであった。
窓の外を見ると、師とルィーズが元気よく駆け回っている。
窓を開け、彼は爽やかな笑顔で声をかけた。

「元気そうだね、お師匠様、ルィーズさん!」
「あっ、エルマーさん!」
「テメエか、裏切り者は!!」
走り回る二人の後を血相を変えた群集が追いかけていた。

「そっちへ逃げたぞ!」
「逃がすな、二人そろって20万ゴールドだ!」
「傷はつけるな、賞金が出ねえぞ!」
喧騒を聞きながらエルマーは壁の貼り紙を見た。
金髪のかわいい娘と、ひねた顔の黒髪の悪餓鬼の人相書きに添えられた言葉。

『上記の者、王女の元へ連れ来る者に20万ゴールドの褒美を与え・・・』

「エルマー、貴様が俺たちの居場所をチクりやがったなぁぁぁ!」
「はぁ・・・すみませんねえ、国交断絶するって脅されたもんですから。」
「それでも俺の弟子かぁぁぁ!」
「でもご心配なく!情報提供量はタップリふっかけときましたから。」
「破門してやるぅぅぅ!」
「ご安心を!お師匠様たちへの報酬は私どもの方で預かっておきました!」
「鬼ぃぃぃ!悪魔ぁぁぁ!」
「あああっ、お師匠様それどころじゃないですぅ!!」
凄まじい形相の賞金稼ぎの団体に追われて二人は森の中へ逃げ込んでいった。

数十秒後、森のはずれから一匹の飛竜が飛び立った。二人を乗せたギーギー君だ!
だが・・・ギーギーの後に続いて、数匹の飛竜、怪鳥に乗った男、空飛ぶ絨毯や背中から羽を生やした人間まで追いかける!
そして極めつけは、山々の後ろから響いた大声だった!

「おーねーえーさーまー!!!そこにいらっしゃったのですねぇぇぇぇ!!」

ドズゥゥゥン!
山を飛び越えて巨大な王女様が着地した。
工事現場から直接来たのであろう、作業服姿のままだった。
そのまま、森林破壊しながら全力疾走でルィーズたちを追いかける。

ド、ド、ドドドドドドド・・・・・

「なぜ逃げるのですぅぅぅ!お待ちになってぇぇぇ!!」
巨大王女は賞金稼ぎ軍団をも蹴散らしてどこまでもどこまでもルィーズを追いかけていき、やがて地平線の彼方へ消えた。

王女様の起こした大地震で傾いた宿屋のバルコニーで、エルマーは再びティーカップを手にした。
一口紅茶をすすり、満足げに笑みを浮かべた。

魔道士の午後とは、かくも麗しくありたいものである。

−完−