--------------------------------------------------

--------------------------------------------------
この物語は未成年に有害な性的表現を含んでいます。
未成年の方はこんな有害文書よりも、もっとまともな読み物を読みましょう!

ついでに、特殊な嗜好も含んでます。
しかも知性・理性・実用性・社会的常識は思いっきり欠乏しています。
自らを健全な人類であると自覚する方にはあまり愉快な物語ではないかもしれません。

以上をご確認の上、読み進むかどうか熟慮してください!


『魔法使いと馬鹿弟子・その7』
−ルィーズちゃんとクローン娘−

BY まんまる


--------------------------------------------------
■ 序章・穴
--------------------------------------------------
ザッザッザッ!ザッザッザッ!ザッザッザッ!
統制のとれた軍靴の足音が規則正しく響く。
時折、剣や槍が擦れあう冷たい金属音が聞こえる。
冷酷で虚ろな目の兵士たちの行進は延々と続いていた。
ある小さな国への死の宣戦布告を告げるべく、数万もの大軍は行進を続けていた。

その様子を遠眼鏡で覗いていた初老の男がいた。
峡谷の入り口に100名にも満たない戦力を配した軍(というより自警団と言ったほうが相応しい)の将軍であった。

「すごい大軍だ!やつらは本気で我が国に攻め込むつもりなのか・・・・・」
途方にくれた声で将軍はうめいた。
別に大国に喧嘩を売ったわけではなかった。
「水量の豊かな湖をわが国に割譲せよ!」との無茶な要求を「国民の生命線ですから渡せません!」と当然の理由で断っただけである。
こじつけで戦争をふっかけて、湖どころか国土全てを奪おうという大国の魂胆が見え見えであった。

「このままではわが国は滅ぶしかない。」
軍事大国に刃向かってまで援軍を出してくれる友好国などどこにもなかった。
さんざん諸国に懇願してまわり、門前払いを何十回も受けるだけに終わった。

「結局、あのような胡散臭い魔道士に頼るとはなぁ・・・藁をも掴むとはこのことか。」
将軍は疲れ切った表情で本陣の背後の大テントを見た。
旅のサーカス一座から譲り受けた、くたびれた青いテントである。
中にはある高名な魔道士と彼の弟子がいる・・・はずである。

「魔道士殿、大丈夫でしょうな?」
将軍はテントの入り口に入ろうとした。

「入ってはいけません!」
中から一喝され、将軍は凍りついた。
若い男の声ではあるが、圧倒的な威厳があった。

「偉大なる我が師は魔術儀式を他人に見られることを好みません。」
おんぼろテントの中から青い長髪の青年は姿をあらわした。

「しかし、エルマー殿!敵軍は目の前に・・・」
「ご安心なさい、この私、『青き守護神』エルマー・スミスが保証します。
我が師の秘儀により戦いの女神が間もなくこの地に降臨なさりましょう。」
「ならよいのですが・・・」
『青き守護神』の異名を持つ世界でも屈指の魔道士、の自信に満ちた返答に将軍は渋々引き下がった。

「そうだ、ひとつだけ伺いたいのですが・・」
「何でしょう?」
「先ほど、兵士のひとりが・・・『泣き叫ぶ少年がテントに無理矢理連れこまれるのを見た』と報告してきました。」
「ギクッ!な、なにかの勘違いでしょう。中にいるのは我が師と弟子だけです。」
笑顔で誤魔化そうとするエルマー。だが表情はこわばっている。

「まさか、生贄の儀式とかやってるんじゃないでしょうな?」
「とんでもない!そのような邪悪な儀式ではありません!」
「しかし、もしそんな儀式を行ったとあれば我が国の汚名に・・・」
「大丈夫です、大丈夫ですから!」
有名な魔道士らしからぬ取り乱し様でエルマーはその場を取り繕った。

**********

「ふう・・・」
将軍を追い返し、テントに戻ったエルマーは深い溜息をついた。
地面に描かれた魔方陣を踏まないように注意して歩きながら、問題がないか確認した。
それからテントの片隅で化粧台に向かっている若い娘に声をかけた。

「ルィーズさん、準備はいいですか?」
「あ、はーい!オーケーでぇーすぅ!」
明るい元気のいい声が返ってきた。
金色の長髪の可愛い女性が振り返った。
青い瞳がエルマーの姿をうつすと、ひとなつこい笑顔が満面に浮かんだ。

「うんうん、その衣装なら女神様で通用しそうだね。」
エルマーは笑顔でうなずきながら、太鼓判を押した。
ルィーズの纏っているのは真っ白なシルクに金糸銀糸で刺繍した舞台衣装。
ここへくる途中の古着屋で買ったものだ。

「えへへへ・・・そんなじっと見つめちゃ恥ずかしいですぅ。」
「おお、これは失礼!さて我が師の方は・・・」
視線を向けた先に黒髪の少年がいた。
少年の姿をしてはいるが、彼こそ波瀾に満ちた300年の人生を生き抜いてきた希代の魔道士であった。

「・・・・・」
寡黙な性格なのであろうか、彼は無言だった。
・・・・・口を封じたさるぐつわのせいかもしれない。
身動きひとつせず、じっと虚空を睨んでいる。
・・・・・鎖に手足を縛られて身動きがとれないせいかもしれない。
武者震いであろうか、僅かに体を震わせている。
・・・・・パンツにいたるまで脱がされて、素っ裸にされてるせいかもしれない。

「・・・・・確かに生贄の儀式に見えなくもないな。師よ、準備はいいですか?」
答えはなかった。代わりに怒りに満ちた視線がエルマーを射た。

「言いたいことはわかります。
 『借金を返せる儲け話がありますとか言って人を騙しやがって!今度こそ破門にしてやる!』
でしょう?ですが溜まりに溜まった宿代を支払える金額となりますと、こんな仕事しか・・・」
しゃしゃあと言い訳するエルマーを更に睨む大魔道士・クローニクル。

「ええ、勿論分かります!
 『何もこんな方法でなくてもいくらでも手はあるだろーが!』
と言いたいのですね?しかし先方のたっての希望ですからね。
相手が戦意喪失するような、できるだけ派手な方法で撃退して欲しいと・・・」
「ウーッ!ウーッ!ウーッ!」
うめき声を搾り出しての師の抗議をエルマー黙殺した。

「あのぉ、エルマーさん。そろそろ始めますから・・・」
ちょっぴり恥ずかしそうに化粧を済ませたルィーズはモジモジしながら言った。

「わかりました。では我らが師のことはよろしく頼みますよ。」
「はい!」
嬉しそうな返事を背中に聞きながら、エルマーはテントを出た。
ルィーズはクローニクルの側へ歩み寄り、さるぐつわを外した。

「ルィーズ、てめえ・・・ング?」
少年(見かけだけ)の小さな口を柔らかな唇が塞いだ。
蠢く舌がクローニクルの口腔に侵入し、彼の舌を絡めとる。

「んぐ・・・ぐ・・・・」
クローニクルの顔色が真っ赤になり、続いて青紫に変わった。
やがて彼の唇は解き放たれたが、ぐったりとしたままである。

「うふふふ・・・呪文唱えて逃げ出そーなんてさせないですよぉ・・・」
肺の中の空気を搾り取られてクローニクルは呪文どころか声もろくに出せない。
童顔に朗らかで淫らな微笑みを浮かべてルィーズは、自分のスカートの下に手を入れ、パンティをずらしながら、クローニクルのナニに顔を近づけた。

「う、う・・・やめろ・・・ルィーズ、やめてくれぇぇぇ・・・・あ、あああ!」
・・・・・やがてピチャピチャと何かを舐める音がテントの暗がりの中に聞こえてきた。

**********

「魔術師殿!まだですか?敵はもうそこまで・・・」
「お静かに!将軍殿。」
テントの外で耳を澄ましていたエルマーの眉が動いた。
(悲鳴が喘ぎ声に変わったな。そろそろか。)

「では将軍、こちらの軍を谷間の向こうまで撤退させてください。」
「えっ?し、しかしテントの中にはまだ・・・」
「急ぎなさい!巻き込まれたら命の保証はしませんよ。」
僅かな軍勢が慌てふためきながら撤退していくのを確認して、エルマーもテントを離れた。
その彼の背後で異変が起こった。

ゴォォォォォ!烈風が渦を巻きテントの布地が激しく波打った!
パァァァッ!!ライトグリーンの光が地面から吹き出し、幾本もの光の柱になった!

「さぁー、お師匠様!一気にフィニッシュですよぉ!」
元気のいい女の子の声が爽やかな風のように響き渡った!

「いーやーだぁぁぁぁぁ・・・・・」
悲壮な少年の泣きわめく声も聞こえたような気がする。

ボン!
大きなオンボロテントが丸く膨らんだ!
テントを固定していた太いロープがピンと伸びきり、プツンプツンと切れていく。
その勢いで深く地中に打ち込まれていた杭が引き抜かれ、弾け飛んだ。
ズ、ズ、ズザザザザザァァァァァ!
テント全体が内側で膨張する何かに地面から引き剥がされて持ち上げられて行く。

「な、なんだ?あれは!」
進軍する大軍の先頭に立っていた司令官らしき髭面の男は驚いて進軍を止めさせた。
ゆっくりと上昇して行くテントの下から太い2本の肌色の柱が見えた。
いや柱ではなかった。

「あ、足?!人間の足なのか?」
指令官も気づいたように、それはどう見ても腰を屈めた人間の足だった。
それもヒールの高いサンダルを履いているところからすれば女の足らしい。
兵士たちが驚き見つめる中で巨大な足の持ち主は立ちあがった。

「ウォ・・・ォ・・・ォォ・・・!」
声にならない感嘆の声が兵士たちの間であがった。
足の持ち主は驚くべきナイスボディの持ち主でもあったのだ。

ザシャッ!
上半身を覆うように絡みついていたテントが投げ捨てられた。
その下から現れた金色の長い髪が風の中に優雅に螺旋を描く。
何か運動で一汗かいてきたのだろうか。
艶やかな素肌から汗が星のようにきらめきながら軍隊の頭上に飛び散った。
深い湖を思わせるその瞳には優しさと力強さが同居していた。
かすかに微笑みを浮かべた口元には神々しささえ宿っていた。

これこそがルィーズだけが使える究極魔法・超巨大化魔法であった。
生まれつき強力な魔力を持ち、なおかつ大地のエネルギーを無限吸収する特異体質の彼女だけが200m近い巨人に変身するこの魔法を使うことができる。
しかし・・・いつでも好きなように使えるというわけでもない。
極めて高い集中力を必要とするのだが、彼女にはそんな集中力がない!
その彼女が集中力を発揮しするのは最愛の師・クローニクルが危機に陥ったときか・・・
思いっきりクローニクルと愛し合って(クローニクルは『強姦だぁ!』と主張しているが)一緒にイク時だけなのだ!

「おお・・・美しい。」
いきなり出現した巨人への驚きよりも恐怖よりも先に、女神を思わせる美しさへの感嘆が口に出た。
だが・・・その影ではさらに驚くべき現実があったことを彼らは知らなかった。
正確には『影では』ではなく『内側では』と言うべきかもしれない。

白地に銀の糸で彩られたスカートの内側、ルィーズお気に入りのウサギさんパンティの一部に奇妙な突起があった。
ちょうど両足の中間地点に位置する小さなその突起はモゾモゾと動いていた。
それこそが我らがヒーロー!大魔道士クローニクルその人であった!
・・・・・大魔道士のなれの果てと表現するのが正しいかもしれないが。

「くぉらぁ!この馬鹿弟子どもォ!師匠をなんだと思ってやがるぅぅぅ!!」
小さな体をルィーズの秘所に半ば呑みこまれながらも彼は必死で抵抗していた。

「放せ、放さんかぁ!」
半狂乱になりながらヌラヌラとぬめる粘膜を叩きまくる!
だが、ルィーズは彼のささやかな抵抗など問題にしてはいなかった。

(ん、お師匠様ったら・・・こんなに愛撫してくれてるぅ!う・れ・し・い!)
むしろ愛情表現と受け取っているようだ。
師の愛に応えるべく、ルィーズは腰を軽くひねった。

「あわわ!・・・・・」
グニュ。
クローニクルはピンク色の襞が形成する洞窟に完全に引きずり込まれた。
それでも諦めず、外に這い出そうと必死に襞を掻き分ける!

(あん・・・お師匠様、昼間から大胆ね・・・)
内部でのクローニクルの動きはルィーズの体に火をつけた!
活発化した膣の内壁は底無し沼となってクローニクルを奥へ奥へと引きずり込んだ。

「ウッ、ウッウッ・・・」
粘膜の圧倒的なパワーの差の前になす術もなく、ルィーズの胎内の深淵へと運ばれるクローニクル。

「うわァァァ!」
粘液にまみれた彼の頭上に巨大な臓器の一部がせり出してきた。

「ううう・・・お願い・・・勘弁してくれぇ・・・」
哀願するクローニクルを嘲笑うかのように巨大な子宮が大きく口を開けた。
愛する彼をその内側に呑み込むために・・・

(んん・・・・・よし!完璧に入ったわ!、これで準備オーケ−!)
ルィーズの体の奥からモリモリと力が尽きることなく湧いてくる。
これぞお師匠様の愛の力!(とルィーズは信じて疑わない・・・)
自信に満ちた面持ちで彼女は一歩踏み出した。

ズズズン!グラグラグラ!
「ウワァァァッ?!」
さりげない足運びは大地震を呼び、兵士たちは皆、尻餅をつくハメになった。
ルィーズが足を踏み下ろした地点は数メートルも地盤沈下した。

「ひひひひるむな!こんな物はまやかしにすぎん!」
指揮官の叱咤、というより悲鳴に体勢を立て直そうとする兵士たち。

「大弓隊、矢を放て!」
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
何百本もの矢がルィーズに向かって放たれた。
だがルィーズはキョトンと彼らを見下ろしているだけだ。

(何してんのかしら?)
矢は彼女の膝の高さにも届かなかったのだ。
何とか足に命中した矢も、色白の皮膚を貫くことなく跳ね返されて虚しく落下していった。

「魔道士部隊、あれを出せ!」
狼狽した指揮官の命令でフードをかぶった魔道士たちが登場した。
彼らの背後には象に曳かれた大きな機械あった。
避雷針を100本も集めたような奇妙な山のような形の機械であった。

「ライデン砲、発射準備!」
「カァァァッ!」
魔道士たちが気合とともに放った稲妻は奇怪な機械に集まった。
スパークに包まれた機械の上空にまばゆい球光が生じ、そこから凄まじい白熱光がルィーズに向かった!

『やれやれ・・・増幅強化雷撃魔法か。破壊力一点張りのつまらん魔法だな。』
ルィーズのお腹のあたりでつまらなそうな声がした。
『・・・・・光盾よ、我が身を守れ!』
同時にルィーズの体の前に半透明な円形のガラス板みたいなものが出現した。

ドォン!
白熱光はガラス板なものにぶつかり、あっさり消滅してしまった。

「馬鹿な!町ひとつ瞬間蒸発させる威力のライデン砲が防がれた?!」
「そんな・・・我が軍の切り札が無力とは!」
切り札をいともたやすく破られて浮き足立った軍勢をルィーズは冷めた目で見下ろした。

「いいですよ、ルィーズさん!例のセリフで決めてください。」
エルマーの声が耳元で響く。遠距離から魔法で声だけを飛ばしているらしい。
だが、ルィーズは黙ったままだ。

「ルィーズさん?どうしました?」
『無駄だよ、エルマー。』
ルィーズの代わりに子宮内に閉じ込められたクローニクルがいらついた声で応答した。

『この馬鹿、セリフをきれいさっぱり忘れてやがる。』
「・・・・・」
無言のルィーズの顔が恥ずかしさでちょっと赤くなった。

『仕方ない、俺が言うとおりに喋りな。・・・愚かなる人間どもよ!』
「愚かなる人間どもよ!私は戦いと正義の女神ルー・イーズであ〜る!」
よく通る澄んだ声が広大な渓谷に響き渡った。

「非道をもってか弱き国を滅ぼし、富を手にしようとは悪行の極み!
これ以上、道に外れた行いを成すならば我が怒りを受ける覚悟をせよ!」
驚きと恐怖で凍りついていた軍人たちであったが、ルィーズの脅しにジリジリと下がり始めた。

「そ、そうはいかん!陛下より指揮権を任された私がそんな虚仮脅しに・・・」
指揮官の言葉は途中で途切れた。ルィーズが握りこぶしを振り上げたからだ。

『ルィーズ、あんまり本気は出さんでいいぞ。』
「(は〜い!分かってま〜す!)我が一撃はァァァァァッ・・・・」
ブォン!
ルィーズの巨大な拳が風を巻き起こした。

「無敵なりィィィィィ!!」
ドカァーーーン!
拳が大地に激突した瞬間、大地は大地震などという表現で追いつかぬほど震えた!
大地は十文字に裂けて、数百メートルの亀裂が大地に口を開けた。
兵士も魔道士も敵も味方も腰を抜かして悲鳴も出ない。

「これでもまだ戦うというなら次は、つ、つ、つ、次・・・は・は・は・・・」
『おい、どうした、ルィーズ?』
(お、お師匠様、は、鼻に砂埃が・・・)
「ハックショーーーーーン!」
ブワォォォッ!
ルィーズのくしゃみで超大型ハリケーン並みの突風が発生した!

「わわわあぁぁぁ・・・」「飛ばされるぅぅぅ!」
数万の軍勢の半分が吹き飛ばされ地面に叩きつけられた!
地面は何百メートルの広さにわたって扇状にえぐられていた。
巨大娘はくしゃみでさえそれほどの威力を秘めているのだ!

「ひ!ひぃぃぃ!」「助けてぇ!」「おお、女神よ、お怒りを鎮めたまえ!!」
震える者、逃げ出す者、祈る者。歴史的大遠征軍は戦争にもならない状態で敗北した。

**********

この戦況を少し離れた山頂から、冷静な目で観察している3名の視線があった。

「いかがですかな、陛下。」
白髪のみすぼらしい老人が満足そうに喋り出した。

「・・・」
中肉中背の地味な身なりの中年男は何も答えない。

「確かに、強そうではあるがな?」
10代後半とおぼしき成金趣味のドレスをまとった少女が生意気そうな口を利く。

「世界最強と謳われた軍隊も巨大娘の前では蟻の軍隊に過ぎません。」
「・・・・・!」
「陛下のご自慢の軍隊は勝てますかな?あの巨大娘に。」
老人は皮肉タップリに言った。

「陛下に対して無礼だぞ!口を慎め!!」
少女は尊大な態度で老人を一喝した!

「・・・・・いいや、構わぬよアンジェ大蔵大臣。」
男は淡々とした喋り方で少女の怒気を制した。少女は不快そうな顔ではあったが引き下がった。
見かけはただの少女でも大蔵大臣などと呼ばれるところを見るとかなり大物らしい。

「我が配下の兵でも相手にさえなるまいな。」
陛下と呼ばれた男は渋々認めざるを得なかった。

「では、例のお話はいかがいたしましょうか?スキーン国王陛下。」
「本当に造れるというのだな?あの・・・・巨大娘を!」
「勿論でございます!あれ以上の巨大娘を作り出してご覧に入れましょう。」
「では、ただちに取り掛かるのだ、ヴァーリ大司教。」
「ヴァーリ大首領とお呼びくださいませ。」
ヴァーリ大司教いや大首領はニヤリと笑った。

「アンジェ大蔵大臣、御用商人としてヴァーリ大首領殿に便宜をはかってやれ。」
「ははっ!陛下の命とあらば!」
少女は、いやアンジェ大蔵大臣は一礼したその口元に僅かに笑いを浮かべていた。

**********

『さぁ、最後のセリフだ。ルィーズ、こんどはとちるなよ!』
「己の身のほどは分かったか?これ以上の争いを望むなら・・・」
「か弱き方々を脅迫などしてはいけませんわ、ルィーズお姉様!」
聞き覚えのある可愛らしい声が背後でした。
ルィーズの全身を嫌な予感が這いまわった。

「そ、そ、そ、その声は・・・?」
ギギッと、ぎこちない動きでルィーズは振向いた。振向きたくない気持ちではあった。
そして背後の人物を確認した瞬間、彼女は恐怖とおぞましさで身動きもできなくなった!

**********

『ルィーズ?どうした!シンクロが切れたぞ!何があった?』
クローニクルは焦った。ルィーズの動揺は精神のシンクロナイズを途切れさせたのだ。

精神をシンクロさせることにより、子宮内に閉じ込められたクローニクルはルィーズの知覚を通じて外の様子を見ることができ、ルィーズも強力な魔法を操れるようになる。
逆にシンクロがうまくいかないと、ルィーズは馬鹿力だけの巨人にすぎない。
これは極めて危険な状態と言えた。

『以前にもこんなことがあったが・・・まさか?また、あらわれたのか!奴が・・・」

**********

「お会いしとうございました・・・ルィーズお姉様!」
背後にはルィーズに匹敵する巨人のうら若き乙女が立っていた。
戦場には似つかわしくない白いドレスを着て、長い銀色の巻毛を垂らしたその巨大少女は目をうるうると潤ませてルィーズを見つめた。

「ジュ・・・ジュリアお姫・・・さま・・・・・」
引きつったルィーズの顔が蒼白になっていく。
絶対無敵のはずの彼女の震える膝はジリジリと後ずさりしていた。
ジュリア王女。『必要以上』にルィーズを慕う、やや『特別な嗜好』を持つ王女・・・

「お姉様、争いからは何も生まれません!」
「お、お姫様・・・こ、来ないで!」
「戦いからは憎しみが生まれるだけですわ!」
「や、やめて!それ以上近寄らないで!」
「そうですわ!私たちがしなければならないのは愛しあうことだったのです!」
「あ、ああああああ!!!いやぁぁぁぁぁ!」
「というわけですから・・・愛しあいましょうね、お姉様!・・・ウフフフフ!」
王女様の素早いタックル!
すんでのところでかわしたルィーズ!しかし!

「キャァッ!?」
ドサッ!
ルィーズの足元の地面がへこみ、直径100m深さ200m以上の大穴が開いた!

「なんでこんなところに落とし穴が!?」
「うふふふ・・ルィーズ様がここへいらっしゃると聞いて、私が夕べ掘っておきましたの!」
王女様は楽しそうに穴の縁からルィーズを見下ろした。
その瞳はとっても淫らな期待感に燃えていた!

スタン・・・
優雅ささえ感じさせる身のこなしで王女様も穴の中へ飛び降りた。

「この穴の深さは私のルィーズ様への愛の深さ・・・・・」
王女様の手の平が優雅な動きでルィーズの胸元を一撫でした。すると・・・

ハラリ・・・
「キャァァァ!?」
服の襟をとめていたボタンが全て外れて、民家に匹敵する巨大な乳房を収めたピンクのブラジャーが公開された。
呆然と見ていた兵士たちが溜息を洩らす。

「ふふふ・・・もう逃がしませんわ!私の愛の全てを無理矢理、受け取ってください!」
「う・う・う・受け取りたくないよーーー!!お師匠様、たーすーけーてーーー!!」
ルィーズの絶叫に腹部から答えがかえってきた。

『なんとか!なんとか俺とシンクロしろ!精神を集中するんだ!』
クローニクルとしてもこの王女様とは関わりたくなかった!

「無理ですぅぅぅぅぅ!ギャァァァ!!」
「まあ、ルィーズ様ったら一段と成長なさって・・・羨ましい。」
王女様の手にはピンクのブラが握られていた。
ルィーズの二つの乳房は遮るものもなく、その美しい釣鐘型のフォルムをさらけ出していた。

「いやぁぁぁ見ないで、見ちゃダメぇぇぇ!」
「いいえ、もっと見ていただかねば!ご覧下さい!
先ほどまであれほどいがみ合い憎しみあっていた軍隊の方々が、ルィーズお姉様の美しさに魅了されて、こんなにも穏やかな表情に!」
確かに猛々しい闘争心と恐怖心しかなかった兵士たちの表情は緩み戦闘体勢は解かれていた。

「あれは穏やかじゃなくて『鼻の下のばしてる』って言うんですぅぅぅ!」
ついでに大半の者が股間を膨らませ、鼻血をたらしている者も少なくない。

「勿論、ルィーズお姉様だけに恥ずかしい思いはさせません!」
泣き叫ぶルィーズの側におりたった王女様は・・・自らのドレスを下着ごと投げ捨てた!
今、王女様は完全戦闘態勢(?)に入ったのだ!!

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
「さあ!お姉様も下半身をも白日の下ににさらけだしてこそ真の平和が訪れるのです!
さあ、私と一緒に!ウフ、ウフフ、ウフフフフ!」
楽しそうに笑いつつも、王女様はルィーズのスカートを手馴れた素早い手つきで脱がせてしまった!
そのままパンティーの内側にするりと手を滑り込ませた。

「あ、あああ・・・・・」
「まあ!ルィーズお姉様ったら、もうこんなに・・・クローニクル様と楽しんでいらしたのね!
私もな・か・ま・に・い・れ・て!」
「いやあーーーーーー・・・・・・・・・あ・ああ・・・」
巨大な落とし穴の底からはグチュグチュという淫猥な豪快な音と、二人分の喘ぎ声が聞こえてきた。

「スゲェな・・・」
「最高だぜ!」
落とし穴の周囲には両軍の兵士が集まっていた。指揮官も指揮を忘れて穴の底を覗きこんでいる。
戦争などもうどうでもよかった。
目の前で繰り広げられる巨大女神の痴態の前には人間同士の戦いなど無意味であった。
争いも憎悪も支配もない、敵も味方もない真の平和が両軍の間に訪れたのだ。

**********

少し離れた山頂でもこの思わぬ事態に動揺していた。

「ヴぁ、ヴァーリ大首領殿・・・これは一体どういうことか!?」
アンジェが顔を赤くしつつも、尊大な態度を崩さぬよう努力して尋ねた。

「いや・・・そのぉ・・・巨大娘にも色々あるということでして・・・」
ヴァーリもしどろもどろに口ごもるしかない。

「と、とにかくだ!人工巨大女神製造はただちに計画をすすめよ!」
その場を誤魔化そうと国王は強引に話をそらした。

「仰せのままに!ヴァーリよ、巨大娘作戦1号発令だ!」
「ははーーーっ!」
アンジェの命令にヴァーリは平伏した。
・・・だが地に伏せた顔の陰では彼の目に不穏な輝きが滲み出ていた・・・・・


--------------------------------------------------
■ 第1章・実験
--------------------------------------------------
グォン、グォン、グォン・・・・・
薄暗い闇の中で機械の群れが重く低い音を立てていた。
広い洞窟の天井は青い揺らめく光で一面被われて、100m以上も下の機械設備を照らしていた。
その機械の間では100名ほどの男たちが忙しそうに働いていた。
ある者は薬品の入った薬瓶を台車で運び、ある者は計器を凝視し、ある者は自らの魔力を機械に送り込んでいた。
その誰もが口を開こうともせず何かに憑かれたように黙々と、しかし情熱的に働いている。

魔力で作動する機械群の中心に巨大なガラスの円柱形の水槽があった。
柔らかな光で照明された、直径3m高さ20mのその内側は透明な液体で満ちていた。
その傍らに一人の若い娘が老人とともに立っていた。

「これが巨大娘製造装置か?大袈裟なしろものだな!」
傲慢な態度で若い娘=アンジェ大蔵大臣は傍らの老人に言った。
黙って座っていればなかなかの美少女なのだが、人を見下した態度を隠そうとさえしない。
老人以外のまわりで働いていた人々はアンジェの態度に一様に不快な表情になった。

「さようでございます。巨大な神を作り出すには設備もこのくらいは必要でして・・・」
老人・ヴァーリはうやうやしく頭を下げて答える。

「まったく、金のかかるものだ!失敗したらどうなるのか分かっておろうな!」
「ハハァッ!ようく存じ上げております!」
老人は気を悪くした様子もなく、少女にへりくだっていた。

「では、ここの施設のご案内を・・・」
「要らぬわ!どうせ私には魔道機械のことなど分からぬ。」
「それでは、お茶など・・・」
「無用だ!帰るから出口まで案内せい!」
アンジェはヴァーリや周囲の労働者への嫌悪感を隠そうともせず命令した。

「分かりました・・・助手A!アンジェ大蔵大臣殿を出口まで案内してくれ。」
「ハイ!大臣、こちらでございます。」
一人の若者が先導して洞窟の出口へ通じるドアに向かった。
ドアを閉める直前アンジェは振りかえりもせず言い放った。

「忘れるでないぞ。この廃坑を研究所に造り変えらせたのは国王陛下だが・・・
資金を調達したのは全て私だということを。」
「勿論、よくわかっておりますとも!完成の暁には陛下より先にお伝えしますゆえ・・・」
叛意としかとれない会話を最後にアンジェ大蔵大臣は退出した。
残されたヴァーリはニヤリと笑った。

**********

「では気をつけて御帰りくださいませ。」
洞窟の出口に止めてあった馬車の扉を助手Aは優雅な動作で開いた。

「助手A、いや我が下僕Aよ。ヴァーリから目を離すな。」
「心得ております、我がご主人様。」
「あやつの挙動は全て私に報告せよ。」
「分かっております。研究成果が入手でき次第・・・」
馬車は走り出した。

「ふっ・・・巨大娘か。恐るべき軍事力もあったものだ。
だが、主人の椅子に座るのは私一人でよい。とくに世界の主人の椅子はな。」
後方に流れ行く景色を眺めつつアンジェはほくそえんだ。

**********

「おっ、助手Aか。小娘大臣は帰ったのかね?」
「はい。あの女は何も気づいてはおりません。」
ヴァーリの問いに助手Aはニヤリと笑いながら返答した。

「あの小娘も国王陛下も・・・我々『巨大娘製作委員会』の結束を甘く見たものよのう。」
「全くです!女神様の真の偉大さが理解できぬ俗物ばかりで困りますね。」
うんざりした口調で先ほどまで主人と呼んでいた少女をこき下ろす助手A。

「では計画の最終段階に入ろうか。」
「準備はもうできておりますよ。大首領。」
助手Aがレバーのひとつを操作すると天井からの光が増光した。
この地下研究所の真上は大きな湖になっていた。
湖底からの浸水がこの坑道が廃坑になった理由なのだが、人工巨大娘製造に必要不可欠なのが実はこの湖だった。
天井が崩壊しているので本来なら研究所全体が水没してしまうのだが、魔力フィールドで大量の湖水の落下を支えているのだ。

「太陽エネルギー収束開始。」
天井からの光が収束し、白い光の柱となってガラスの水槽に降り注ぐ。

「助手B、助手D、収束率を上げてくれ。助手Cは力場発生開始!」
「了解。」
ここの設備は全て太陽エネルギーで賄われていた。
湖の水の屈折率と透明度をコントロールすることで湖全体を巨大なレンズとし、太陽エネルギーを集めていたのだ。

「よし、始めるぞ!」
ヴァーリは手にした杖を掲げた。杖先に小さな光が灯る。すると・・・
巨大な円柱水槽の両脇に一回り小さなガラス管がせり出してきた!
透明な液体に満たされた左側のガラス管には長さ5mほどの金色の海草状のものが、右のガラス管には同じく銀色の海草状の物体が納められていた。

「おおっ、あれが!」
「ヴァーリ様秘蔵中の秘蔵コレクション!」
その場にいた全員が羨望の眼差しをガラス管に送る!

「左は以前発見された天然産巨大娘の、右はわしが作ったプロトタイプ巨大娘1号から命がけで採取した例の毛じゃ!」
「おおお・・・・・」
「素晴らしい!」
どよめきと興奮が男たちの胸に湧き上がった。

「助手Aよ、仕上げじゃ。」
「よろしいのですか?こんな貴重なコレクションを。」
「投資を渋っておってはよい結果は生まれぬ。さあ、やるのじゃ!」
キュォォォーーーン!
ところ狭しと並べられた機械群が甲高い音を立て始めた。
同時に金と銀の『例の毛』が溶解しはじめた。
数秒のうちに2本のガラス管の中の溶液が金色・銀色の染まった。

「人工羊水注入。」
「注入開始します!」
両脇のガラス管内の溶液の水面が下がりだした。
同時に中央の大水槽に透明な液体が注ぎ込まれる。

「A液、B液注入!」
大水槽の人工羊水に新たな液体が加わった。
透明な液体中に金色の液体と銀色の液体が2本の糸のように回転し、渦巻き、絡み合いながら広がって行く。

「太陽エネルギー注入!」
洞窟内の照明が全て消えた。
闇の中で機械が放つ青い光だけが緊張した男たちの顔を照らす。

「エネルギー最大!」
円柱形大水槽が白く眩しく輝いた!目を開けていられないほどの光量だ!
液体内の金と銀の溶液にも変化が生じた!
液体に意志が生まれたかのように水槽の中央に集結して行ったのだ。
やがてそれはサッカーボールほどの大きさの黄金の球体となった。

「人工羊水中に生命反応を確認しました!」
人々の間に歓喜が巻き起こった!

「やったぞ!」「我々の神がお生まれになった!」
手を取り合って喜ぶ人々であったが・・・

バリバリ!
機械の間でスパークが散った!

「エネルギー低下しています!」
「人工羊水、一部分解!」
ヴァーリの表情が険しくなった!

「全エネルギーを人工子宮に回せ!卵細胞さえ助かれば他は構わん!」
操作員がせわしく動き回り、金属的な機械音が高まった!
だがヴァーリの必死の指示にも関わらず光はドンドン弱まっていく!

「エネルギー消滅しました。」
「生命反応・・・・・消・・・消えました・・・」
オペレーターの沈痛な声。
ヴァーリはその場に膝をついた。

「そ、そんな・・・何が足りなかったというのじゃ?」
失意と絶望が彼の心を捕まえていた。
だがその上に、さらに悪いことが起こった。

「お遊びはそこまでになさい、見つけたわよ、ヴァーリ大司教、いいえ今は大首領だったかしら?」
聞き覚えのある妖艶な女の声が背後から聞こえた。

「誰じゃ?!・・・・・お、お前は!」
「久しぶりね、女忍者の一件以来だったかしら。」
「『処刑人』魔道士マーリア!」
黒髪の美女魔道士はドアにもたれかけて『巨大娘製作委員会』の面々を見ていた。

「なんだか知らないけど失敗したみたいね。私には関係ないけど・・・
元・大司教ヴァーリ!貴方を反逆罪・誘拐罪・窃盗罪・身分詐称および食い逃げの罪で逮捕します!」
マーリアの一声に洞窟内の全員が殺気立った!

「おい、お嬢ちゃん!誰だか知らんが女一人でここから生きて帰れると・・・」
一人の大男が長い鉄の棒を持って彼女の前に出た。

「出でよ、火焔蝶!」
マーリアのケープの端から赤い蝶が一匹飛び出した。

「ケッ!たかが蝶々くらいで・・・ギャァッ!!」
真っ赤な蝶々を叩き落したとたんに男は炎につつまれた!

「無駄な抵抗はするな・・・とは言わないわ。好きなだけ無駄な抵抗をしなさい。」
大火傷で失神した男を踏んづけてマーリアはヴァーリの前にやってきた。

「ううう・・・」
ヴァーリもそこそこの戦闘魔法を使えはするのだが、戦いになれば勝ち目はない。

「お縄を頂戴する気になったかしら?」
自信満々のマーリアに対し誰も何も答えない。

「さて、逮捕のついでにここも破壊しとかなきゃね!」
「ま、待ってくれ!ここには我々の夢が!」
取りすがって嘆願するヴァーリを無視してマーリアは呪文を唱えた!

「出でよ、炎の魔獣サラマンドラ!全ての邪悪なるものを焼き滅ぼせ!」
マーリアの足元から灼熱の炎が噴出した!
炎は急速に拡大し、その場にいた者を出口に向けて追い立てた。

「ヴァーリ様!はやく逃げなくては!」
「放せ、助手A!わしの夢が、わしの巨大女神様がぁぁぁ!!」
炎は広々とした洞窟の全てを舐め尽くした!
ヴァーリが最後に見たのは、炎の中で沸騰し破裂する人工子宮の水槽部分だけだった・・・

**********

「ふーーーぅ、久々にスカッとしたわ!」
いかにもさっぱりとした声でマーリアは元・地下研究所を見まわした。
洞窟一杯に設置されていた機械はことごとく溶解し、床の上の小さな金属塊となっていた。
通路もドアも人工物があった形跡さえ燃え尽きている。

「まあ、これで再建不能になったわね。さぁて帰ると・・・」
突然、マーリアの表情がこわばった。暗闇のどこかに何かが・・・いる!

「何処?」
ドシャッ!真上で何かが崩れるような物音!

「上か!」
咄嗟に身をひねり、真上からの大きな落下物をかわす!
同時にマーリアの指先から一筋の炎が走り、落下してきた『何か』を切りつけた!

バシュッ!
「な!なにかしら、これは?」
彼女が斬りつけたそれはスライム・・・に酷似していた。
しかし金色に輝きながら蠢くアメーバ上の体はスライムのそれとは明らかに違う。

「とにかく殺さなきゃ!」
マーリアは再び、奇怪な生物に炎の剣を振り下ろそうとした。

パン!
「キャッ?!」
剣先が触れるより早く金色アメーバの体はシャボンのように膨らみ弾け散った!
粘液状の欠片がいくつもマーリアの体にへばりついた。

「???・・・な、何?体が・・・動かな・・・」
マーリアはその場に倒れこんだ。
倒れた彼女の体を覆い尽くすようにアメーバの破片がモゾモゾと集まってきた。

**********

「おい!オヤジ!酒はどーした!!」
赤ら顔の客(客といっていいものかどうか)にすごまれて酒場の店主は渋々ボトルを差し出した。
黒髪に黒マントの少年はボトルをひったくり、グラスにも注がずに直接喉に流し込んだ。

「坊や・・・そんな呑み方しちゃあ・・・」
「だーれが坊やだぁ!俺様は300歳の大魔道士クローニクル様らぁ!!」
とんでもねェ餓鬼だな、と思いつつ店主は溜息をついた。
酒を出さなきゃ店を丸焼きにしてやると脅され、実際テーブル2つと椅子5脚を灰にされた。
そーゆーわけで仕方なく酒を出してやったのだが、とんだ酒乱の餓鬼なのだ。

「ちっくしょお、どいつもこいつも俺をコケにしくさってぇ!」
「分かった、分かった・・・」
酒場のオヤジは聞き流すことにした。

「これでも伝説の十戦士の一人なんらろぉ!」
「それはもう聞いたよ・・・」
「その俺様がだ・・・こともあろうに馬鹿弟子の玩具だとよぉ・・・・」
「そりゃあ気の毒に・・・」
オヤジもうんざりするほど長々と愚痴をこぼしつづける。

「今じゃ俺のあだ名も『内視鏡男』なんだとよぉぉぉ・・・泣けてくるぜ。」
「荒れてますね、クロー。」
親しげな声で応えたのはオヤジではなかった。
いつのまにやってきたのか、酒場の入り口にひとりの痩せた長身の男がたっていた。
真っ黒なぴっちりしたスーツに身を包んだ男は微笑みを浮かべていた。
まるで蝋人形のような無感情な微笑みを。

「なぁんだ、誰かと思えばおまえか・・・」
クローニクルはチラリと彼を見ただけでつまらなそうに言った。
だが酒場のオヤジは黒服の男を見ただけで全身の血が凍る思いがした。
同時に店内にいた客全員が会話をやめ、酒を口へと運んでいた手を止めた。

「国際指名手配犯の・・・殺し屋『首なし』!」
オヤジが聞いた噂では殺し屋のうちでもとびきり危険な男であった。
酒場の空気が瞬時に冷たくなった。

「あ、オヤジさん。僕にはウィスキーを頂けませんか?」
にこやかに酒を注文する黒衣の殺し屋。
ガタガタ震えるオヤジがコップの中身を半分こぼしながら持ってくる間に、『首なし』はクローニクルの隣に座った。

「久しぶりだね、クロー。忍者の一件以来だっけ?」
親しげにクローニクルに語りかける殺し屋の声は、親友の声としか言いようがなかった。
思わずニヤリと笑ったクローニクル。
だがクローニクルが口にした言葉は余人には思いもよらぬものだった。

「おい、忘れてんじゃねーか?俺は俺たちの師匠から『お前を殺せ!』と命じられてんだぜ?」
「あー、そう言えばそうだったね。でも君は先生の命令をまともに実行したことがないな。」
「クソジジィの言うことなんかきいてられっかよ!可愛い女の子の言うことなら別だがな。」
「だから先生は君にだけ僕の抹殺を命じたのかな?」
殺し屋『首なし』は静かにコップを傾けた。

「ところで用事はなんだ?指名手配犯が旧友と一杯やりにきたわけじゃあるまい?」
急に真顔になってクローニクルは尋ねた。

「君の弟子の、いや実の娘さんのマーリアちゃんのことだが・・・消息不明になったのは知っているかね?」
能面のような表情を崩すことなく首なしは言う。

「連絡が途絶えたくらいで心配するようなヤワな修行はさせていない。」
クローニクルは視線をそらし、ぶっきらぼうに答えた。

「詳しい事情は分からなかったんだが、ヴァーリのところに囚われているらしい。」
「マーリアがあの変態ジジイごときに捕まった?どういうことなんだ!」
クローニクルは首なしのむなぐらを掴んで詰め寄った!

「僕も連絡を受けただけだから詳しくは分からなかった。とにかく場所はここだ。」
首なしは一枚の紙切れを渡した。

コトン。テーブルにグラスを置く音がした。

一瞬、グラスに視線を移した店のオヤジが視線を戻すと、席に座っていた二人の姿は消えていた。
幻か幽霊でも見ていたような気分のオヤジがある事実に気づくまで数分を要した。

「あいつら・・・呑み逃げだ・・・」

--------------------------------------------------
■ 第2章・受胎
--------------------------------------------------
「ここか、変態ジジイのヴァーリが巣くっているのは。」
クローニクルは一人でとある湖の側に来ていた。
本来ならルィーズも連れてくるのだが・・・
例の王女様がルィーズを離そうとしないのだ。

「まあいい、あの馬鹿弟子にはお姫様の相手をさせとこう。
奴ら程度の相手なら今の俺ひとりでも十分だろう。」
クローニクルは敵の本拠地である、洞窟の様子を藪の影からうかがっていた。

「むむっ、様子がおかしいな?」
洞窟の前には数十人の研究員とおぼしき白衣の男たちが座り込んでいた。
だが、だれ一人洞窟に入ろうとはせずに入り口をボンヤリと見ているだけなのだ。
その中にクローニクルもよく見知った白髭禿げ頭の老人の姿もあった。
クローニクルはしばらく考え込んでいたが、やがて藪の影から出て堂々とヴァーリの方へ歩いて行った。

「おい、ヴァーリ!」
「お前は?確か・・・クローニクル・・・」
「大魔道士のクローニクル様だ!単刀直入に尋ねるがここへ黒髪の女魔道士が来たはずだ。何処へやった?」
少年の姿をした伝説の魔人が居並ぶ大人たちを完全に威圧した。

「あのマーリアとかいう魔道士は・・・この洞窟の奥にいる。」
「無事か?!」
「ああ・・・傷一つない。ただ・・・」
「ただ?なんだ!」
「我らが神に愛されておる。」
クローニクルはヴァーリの答えの意味が分からず、キョトンとした。

「どういう意味だ?」
「ワシらにも分からん・・・知りたければ直接会ってみるといい。」
クローニクルは、ヴァーリに背を向けスタスタと洞窟に向かって歩き出した。

「邪魔するなよ、邪魔すれば殺すからな。」
だがクローニクルの脅しにヴァーリは無関心だった。

「勝手にすればよい、洞窟に入ることを許されたのはお前だけだ。
ワシらは神の御尊顔を拝することも許されてはおらん。」
さらに不可解なヴァーリの発言を無視してクローニクルは洞窟に入った。

**********

入り口から数十メートル進んだところでクローニクルは立ち止まった。
行く手を青い炎のゆらめきが塞いでいた。
狭い坑道の天井まで達する炎の熱気は衣服から煙が上がるほどの高温だ。

「これは・・・マーリアの張った進入阻止結界だな。
こんな物を自分で張れるということはマーリアは無事ということか。」
熱風を苦にもせずクローニクルは炎の壁に近づいた。
すると炎は左右に分かれ、道が開かれた。
クローニクルは左右の炎の壁を恐れることもなく坑道の奥へと進んだ。
やがて現れた鉄の扉を前にクローニクルは小声で呪文を唱えた。

「我が前を塞ぐことなかれ・・・」
ザザザ・・・
鉄の扉は微かな音をたてて砂になって崩れ去った。
そして彼は天井からの青い光に満たされた広大な空間に出た。

「真上の湖の水を魔法で支えているな。太陽エネルギー集積装置らしい。」
床には溶けて固まった金属が散らばるだけで何もない。

「マーリア!いるのか?!」
村のひとつくらい収まりそうな広々とした青い空間にクローニクルの声がこだました。

「マーリア!マーリア!無事なのか!」
「来たの?!お父さん、いえ、お師匠!」
マーリアの声は前方斜め上からした。

「怪我はないか!?無事か!?」
「怪我はないわ。無事とは言えないけど・・・」
「どうしたんだ!」
「あ、ちょっと・・・」
クローニクルは声のした方向に走り出して・・・立ち止まった。
彼の左右に何かがあった。
最初、彼はそれを遺跡か何かの石柱が倒れたものかと思った。
だが、触れてみると柔らかい。そして暖かい。何より脈はくのような規則正しい振動があった。

視線を前方に戻した。暗い光にも目が慣れて正面に黒いモジャモジャした苔か草むらみたいなものが見えた。
視線を上に向けて行くと明らかに岩肌とは違うツルリとした滑らかな平面が上へ上へと続き・・・
釣鐘型の二つ並んだ巨大な突出があり、その上にマーリアの顔があった。

「マーリア・・・お前」
「これが外へ出られない理由よ・・・」
「そうか、確かに出られんよな・・・・・素っ裸では人前に・・・」
ゴゴゴゴゴゴ・・・
マーリアがズッコケた瞬間、坑道は激しく揺れ壁のあちこちに亀裂が入った。

「あ、あのねえ・・・他に言うことはないの?」
「うーむ?・・・・・しばらく見ないうちに、胸も腰も立派に育ったなあ!」
ズドドドーーーン!
再びずっこけて、壁に頭をぶつけるマーリア。
今の彼女にとってはこの洞窟はとっても手狭だった!

「でも、とーさんはとっても嬉しいぞ、娘でなかったら今ごろ手を出して・・・ウワッ!」
ドカーーーン!
クローニクルの目の前の巨大な拳が振り下ろされた!
ちなみに拳の大きさだけで現在のクローニクルの身長の20倍はあるだろう。

「こ、こら実の父親にむかって・・・」
「くだらないギャグとばすからでしょ!まったく・・・」
100m近い天井付近から睨みつける黒い瞳にクローニクルはちょっとビビッた!

「普通は私が巨大化したことに驚くモンでしょーが!!」
「お?おお!そー言えば・・・」
マーリアは広大な坑道一杯の大きさに巨大化していた。しかも全裸で・・・

「いやーすまん、すまん。最近こーゆー状況に抵抗感ないもんで・・・でどうしてこんなコトに?」
「分からないのよ。金色のスライムみたいな奴にやられて気を失って・・・
気がつくとこんな姿に・・・」
「うむ、とにかく調べてみよう。」
クローニクルは再び歩き出した。マーリアの・・・股間に向かって。

「ちょ・・・ちょっと?!」
「勘違いするな、調べるだけだ!ルィーズの時みたいに潜り込んだりはせん!」
「で、でも・・・あまり、見つめないで・・・」
「これでもお前の父親だ。実の娘に欲情はせんよ。」
「う、うん・・・・・」
マーリアは黙った。だがクローニクルが自分の大切な部分を見つめている、そう思うだけでとっくの昔に忘れ去った羞恥心が蘇ってくるのを感じた。

(何故?どうして?私の父親なのに、恥ずかしがることなんてない・・・のに。)
だがクローニクルの接近にあわせて彼女の鼓動は高まって行く。体温は上昇し肌はほのかに赤く染まる。

(あああ・・・私は一体どうしちゃったの・・・)
「おい、お前なにやってんだよ?」
「・・・・・えっ?」
「いい年しておもらしかよ?」
「え・・・・・ええっ?!」
ドドドドドドドド・・・・・・・
マーリアの秘所からは轟音をたてて黄金色の液体が溢れだし、滝となって流れ落ちていた!

「ち、ちがうわよ!これは・・これは!この液体は一体?」
「おい、マーリア。これは・・・この液体はもしかすると・・・」
答える余裕もなく、マーリアは黄金色の液体の流れを目で追った。
液体は急速に広がって、マーリアとクローニクルを円形に取り囲んだ。

「こいつが私にとりついて巨大化させているのね!液体状のモンスターかしら?」
「違う・・・これは・・・まさか、『原初の海』か?」
クローニクルの表情に狼狽と・・・彼がめったに見せない恐怖の色がかすかに浮かんだ。

「何なの?その・・・『原初の海』って?」
魔道の造詣の深いマーリアでさえ初めて聞く言葉であった。

「・・・・・抹消された神代の記録、全ての命を生み出した母体だ。
だが何故だ?なぜこいつが現代にあらわれたのだ?」
「気をつけて!こいつの狙いは・・・貴方よ!」
マーリアの言葉が終わらぬうちに、広い洞窟全体に広がった液体が動き出した!
高い粘性を持った液体は山のように盛り上がり、クローニクルを取り込もうとしているようだ。

「危な・・・い!?」
手を差し伸べてガードしようとしたマーリアの動きが止まった。

「うううっ、動けない?!まだ私の体の中に・・・こいつの残りが・・いるの?」
金縛りになった彼女の目前で、今にも金色の津波がクローニクルを呑みこもうとしていた。

「ふん!」
ヴォン!
少年の姿をした魔道士の腕の一振りで金色の津波は跡形もなく消し飛んだ!
だが・・・一瞬の間をおいて天井からクローニクルの頭上に金色の水飴状の物体が降ってきた。

「甘いな・・・」
パチン!
クローニクルが指を鳴らしたとたんに、水飴は空中停止し、干からびて塵となって消えた。
獲物の思わぬ抵抗にたじろいだのか、金色の液体はクローニクルを遠巻きにして様子をうかがっている。

「とにかくだ、こいつを完全にお前の体から叩き出して消滅させなければ、この世界は・・・」
言いかけてクローニクルは愕然とした。足が動かない!
足元を見ると靴の裏の砂地から金色の粘液が染み出している。

「しまった!こいつ砂に染み込んで近づいてきたのか!」
ドバッ!
足元から金色の水柱が吹き上げた。
だが・・・液体生物の手?に残ったのはボロ靴だけ。

「危ねえなあ・・・間一髪だった。」
クロニクルはマーリアの太腿の上に飛び乗っていた。
暖かく柔らかな感触が裸足の足の裏から伝わってくる。

「捕まったかと思ったわ。」
「そんなにのろまじゃないよ・・・ウッ!」
いきなりクローニクルの全身が痺れた!

「どうしたの?!」
「しまっ・・・・・・・・た?」
クローニクルの両足に金色の粘つく液体が付着していた。
それはマーリアの皮膚から染み出していた。

「そうか・・・汗腺から出てきて・・・」
「お師匠様!・・・お父さん!!」
クローニクルな体はマーリアの太腿から落下し・・・黄金色の海へ落ちた。
半透明な金色の水飴はクローニクルを受け止め、包み込み、しっかり捕らえて戻り始めた。

「あっ!ダメよ、そこは!!」
・・・・・自分が出てきた場所へ、マーリアの秘所の内側へ。

「だめだったら!そいつと私は親子なのよ、近親相姦に・・・あン・・・」
ゴポン・・・水音を残して『原初の海』はマーリアの中へ吸い込まれていった。
当然クローニクルも一緒に・・・

「は、入っちゃった・・・・・どうしよ・・・うっ!」
マーリアはお腹を抱えて苦しみ出した。

「あ!アアア!私の胎内で・・・な・に・が・お・こっ・て・る・の?」
彼女の腹部は急速に膨れ上がった。まるで妊婦のお腹のように。

**********

自分の娘の胎内に引きずり込まれたクローニクルも大変なことになっていた。

「うぐうぐうぐぐ・・・・・」
金色の粘液塊は彼をがっちり掴んで離そうとはしなかった。
一瞬で膣口に引きずり込まれ膣内を通過し、子宮内に連れ込まれた。

「ぷはぁっ!」
粘液を突き破って顔を出したものの既にマーリアの子宮内、強力な攻撃魔法を使えない!

「くそ!ヤバイことになっちまった!これじゃ近親相姦・・・なにぃ?!」
粘液の動きが活発化した。その動きはまるで・・・

「あ?こら!やめろ!なんで俺の服を!わわわ?パンツまで!やめろったら!」
『原初の海』はクローニクルの身につけている物を下着にいたるまで剥ぎ取ってしまった!

「何のつもりだ!?!?あ!やめろ!やめろ!や・め・・・あ・あ・あああああ!」
金色に輝く半透明な液体はクローニクルの全身を・・・舐めまわすように愛撫し始めたのだ!
それもかなりのテクニックで!

「あああ・・・・・・・・・・・・・・・あ。」
数分後、クローニクルは耐えきれずについに粘液中に放った。
用は済んだとばかりに、粘液塊はクローニクルを離れてスルスルとひきさがった。

「・・・・・ううううう、まずい。自分の娘の中で中出し・・・」
滴り落ちる生暖かい体液の雨にうたれながらクローニクルは顔をあげて・・・仰天した。

「な・・・なんだ、これは?」
彼の眼前には金色の真円の球体があった。
それは血管らしき赤い紐で子宮の中央に固定されていた。
心臓のように脈動する球体にスッと割れ目が入りニ分割された。
更に横線が入り四分割、八分割・・・・・

「細胞分裂?い、いや成長してるのか?!」
分割するだけでなく、大きく膨らんで行く。
形も球体から細長い形状となり、片側のアンバランスに膨らんだ部分に黒い小さな球体が二つ生じた。

「目玉ができやがった・・・何者なんだ、こいつは!」
魚類を思わせる、まぶたのない目玉がギョロリと動いてクローニクルを見た。
無感情な視線だ。

「危険だ、こいつは・・・マーリア、すこしだけ我慢してくれ!」
クローニクルは呪文の詠唱を始めた。
彼の両手の平の間に小さな白熱光が生じた。詠唱が進むに連れて白熱光は大きくなっていく。

ズボッ!
「なにぃっ!」
謎の胎児を包む皮膜を突き破って何かかが飛び出してきた!

「グフッ!」
腕だった。関節も定かでない未完成な胎児の腕がクローニクルを捕まえた。
そしてつかまえたまま羊水の中に引きずりこみ・・・・・

「く、食われる?!」
出来たばかりの歯も生えていない巨大な口がクローニクルの目前にあった。
世界が真っ暗になった。

--------------------------------------------------
■ 第3章・誕生
--------------------------------------------------
「さあ、ルィーズ様・・・こちらのお召し物にお着替え下さい。」
「い、いや・・・いやですぅぅぅ・・・」
うつむきかげんの姿勢のメイドがうやうやしく衣装ケースを差し出した。
メイドの差し出したのは、目に鮮やかな赤のナイト・ドレス。
大きく開いた胸元はルィーズの豊かなバストの魅力を100%、いや200%全開で引き出すであろう。

「そう警戒なさらいでくださいませ。おかしな仕掛けなどありませんから・・・」
「あ!あなたは!?」
顔を上げたそのメイドにルィーズは見覚えがあった。

「あなたは・・・毬藻さん!」
「お久しゅうございます。先日のご無礼は平にお許しを・・・」
「な・なんで貴方がここに?」
「実は・・・カシュミ谷忍軍解散後、ジュリア王女様に雇われまして・・・
このように堅気の職につけました。」
堅気の職とはいうものの・・・まともな職場でないことは毬藻の首につけられた、でっかい首輪が証明している。

「お着替えいただかなければ、王女様から私が叱られてしまいます。
・・・・・叱られるのも嬉しいのですけれど・・・」
ポッと顔を赤らめる毬藻。
既に彼女は王女様の趣味に完全に染められているらしい。

ギィーィー・・・
その時、背後のドアが開いて王女様が入ってきた。

「ルィーズ様の着替えは終わりましたか?」
ルィーズは声も上げずに飛び下がり、恐怖の表情で壁にへばりついた。

「まあ、マリモさんったら・・・まだ着替えが終わってないではありませんか?」
「申し訳ありません、王女様。」
「着替えのお手伝いひとつ満足にできないなんて・・・なんて恥ずかしい。」
「ああ、お許しくださいませ・・・」
「マリモさん、貴方にはあとで罰を与えなければいけませんね。うふふふ・・・あ・と・で・ね!」
「あああああ・・・・・嬉しい。」
王女と毬藻の周囲の空間は何やら歪んだ空気が充満していた。
ルィーズは硬直したまま、理解を絶した会話を耳を塞ぐこともできずに聞きつづけた。

「とにかくルィーズお姉様の着替えを。ウフフフ・・・」
「はい、承知いたしております。ふふふふふ・・・・」
二人はルィーズの方に向き直り、妖しく目を輝かせて迫ってきた!

「い、いや・・・お師匠様!助けてぇーーー!!」
ルィーズは窓の鉄格子にしがみつき、泣きながら絶叫した。

「ああそうだ、クローニクル様ならこの別荘にはいらっしゃいませんわよ。」
ジュリア王女が思い出したように言った。

「えっ・・・?」
「確か『野暮用ができた。』と言ってお出かけになられました。」
「・・・・・野暮用?」
「『馬鹿弟子をよろしく』とおっしゃってました。」
「・・・・・・・・・!」
「ですからこの機会によろしくさせていただこうかと・・・ハッ!?」
ジュリア王女と毬藻は思わずたじろいだ!
後姿のルィーズから凄まじい殺気が放出されていたのだ!
揺らめく炎のような嫉妬のオーラの中に怒れる魔神の姿が見えた・・・ような気がした。

「お師匠様、さては・・・このあたしをほったらかして・・・他の女のところへ!!」
バキッ!
十人がかりでも曲がりもしない鉄格子がルィーズの手の中でたやすくへし折れた!

「ル、ルィーズお姉様!?キャツ!」
「王女様、危のうございます!」
バシッ!バシッ!
王女様と毬藻は見えない何かに弾き飛ばされて部屋の端まで吹っ飛んだ!
薔薇が咲き誇る華麗な庭のあちこちに緑の光が灯った。
貴族や金持ちの庭には魔除けの為に魔方陣がいくつも描かれているのが普通だった。
それがルィーズの怒りに呼応してエネルギーを吹き上げていたのだ。

「ゆ・る・し・ま・せーーーーーーーん!!」
ドッカーーーン!
爛々と目を光らせたルィーズの気合で別荘の一角が爆発した!
光の柱が幾つも立ちあがり、炎と煙の中に巨大な人影が出現した。

「ふっふっふっふっふっ・・・このルィーズちゃんが教育的指導して差し上げますですぅ!!」
爆炎と煙の中から怒りに震えるルィーズの声だけが聞こえてくる・・・
ズシン、ズシィン!庭の木々を蹴り倒し、塀を蹴り倒しながら巨人の人影は進む!

「ふっふっふっふっふっ・・・覚悟してなさぁいぃぃぃぃぃ!」
ルィーズの声は遠ざかっていった。そう、巨大な虎は野に放たれたのだ。

カラカラカラ・・・
別荘の瓦礫の中で何かが動いた。

「お怪我はありませんか、王女様?」
「ええ、大丈夫よ。」
石くれの下から立ちあがったのはジュリア王女と毬藻であった。

「私がついておりながらルィーズ様を逃がすとは申し訳ありません。
ただちにルィーズ様を捕まえて参り・・・」
「その必要はありません。」
王女様は取り乱した様子もなく、毬藻を止めた。

「ですが・・・」
「ルィーズ様を無理矢理留めようとした私が間違っていたのです。
あれほどまでにクローニクル様をお慕いしているのを力ずくで止めようなどとは、私が愚かでした。」
そう、ジュリア王女もいつまでもわがままな王女様ではなかった。人間的に大きく成長して・・・

「ルィーズお姉様のように素直にならなくては・・・ふふふ、さあ、素直に追いかけましょう!」
とても楽しそうな表情で王女様は言った。・・・・・全然、成長してなかった。

**********

「ルィーズさん、こちらで間違いないのですね?」
エルマーはルィーズを見上げた。
巨大化した彼女の顔はエルマーのすぐ真横にあった。

「クンクンクン・・・におう、におうわ!お師匠様の匂いが・・・」
ズズン!ズズゥン!
四つん這いになって地面に鼻をこすりつけるようにしながら進む巨大娘。
地面にまで垂れた金色の髪は陽光を乱反射して、まるで黄金の藤の花のように美しい。

(ルィーズさん一人で行かせるわけにもいかなかったが・・・犬だな、まるで。)
エルマーはルィーズの横を歩きながら、少し恐くなった。
今のルィーズは地上最大最強の猟犬といえるであろう。

「このあたしから逃げようなんて10年と三ヶ月と11日早いわよ、お師匠様!」
口元からのぞいたルィーズの八重歯がキラリと光る。まるで牙のように。
エルマーはこれから師が受けるであろう過酷な運命を想像して溜息をついた。

**********

「ヴァーリ!これはどういうコトだ!」
「く、苦しい・・・ま、まあ落着いてアンジェ大臣・・・」
孫と言ってよいほどの若い娘に首を絞められてヴァーリの引きつった作り笑いは土気色になっていた。

「貴様では話にならん。助手A、何が起きたのか説明しろ!」
横柄な態度で命ずるアンジェだが、助手Aも困った表情で首を振るばかり。
いまいましげにアンジェは研究所のあった坑道を見た。
ゴォォォォォ・・・・・
坑道の入り口からは青い高温の炎が噴出し、入ることはおろか近づくこともできない。
坑道の上の湖も異常現象が起きていた。
青い光の玉が水中をいくつも走り、時折、湖面から天に向かって稲妻がほとばしっていた。

「この研究には私の全財産を投じたのだぞ!それが・・・」
アンジェの顔に怒りと後悔の表情があからさまに浮かんだ。
一方、元・研究所内では更なる変事が起きていた。

**********

「はぁ、はぁ、は・・・ぁっ。」
マーリアは胎内から絶え間なく送られつづける苦痛と快感の波に翻弄されていた。
100倍以上に巨大化させられた彼女の裸身は広い洞窟でさえ手足を伸ばすこともできない。
そして腹部は風船のように膨れ上がり、鼓動にも似た音をたてて脈動していた。

「私の体の中で、何が・・・起こっているの?」
膨れ上がった腹部は内側から、ほのかに金色の光を発していた。
頭上に見える湖の底からは青い光の柱が降り注ぎ、莫大な量の太陽エネルギーが吸収されているのが分かった。
恐らくは、町ひとつ、いや国ひとつを瞬時に蒸発させるだけのエネルギーが蓄えられているはずだ。

「父さん・・・生きているみたいだけど・・・」
クローニクルの血を引くマーリアには、自分の胎内で父がなお生存していることが感じられる。
通常なら胎内のクローニクルと以心伝心の術で連絡できたのだが、今はとても精神集中できる状態ではない。

「うっ?!・・・ぐ、ぐ、ぐはぁっ!!」
下腹部を襲う痛みが一段と激しくなった!
思わず力をこめた足が岩壁を蹴飛ばした。

ドゴォォォン!
「な、何じゃぁ?」
ヴァーリたちの目の前で、坑道入り口のある高さ100m以上の絶壁を真っ二つにする亀裂がが入った!

「うわぁぁぁ!!」
「グェェェェッ!」
「ヒャァァァァ!」
「ああああああ、気持ちイイ!」
崩れ落ちる崖の中から巨大な人間の足が突き出され、研究所員十数名が蹴飛ばされて飛んでいった。
一部、喜びながら飛んでいったヤツもいたようだ。


「危ない!湖水が流れ出すぞ!逃げろ!!」
「ヒーッ!助けて!!」
崩れ落ちた崖の一角から白い飛沫が吹き出した。
それは恐るべき勢いの鉄砲水となり、ヴァーリを、アンジェを、所員たちを襲った!

「だ、大首領!どうすれば・・・」
「助けてくれぇーーー!」
泥水の激流が人間たちを一気に押し流した!

「ううう・・・・・」
マーリアは混濁する意識の中で自分の中にいる何かが外へ出ようとしているのを感じていた。
巨大で強い力を持った、とても危険な何かが・・・

(駄目・・・『こいつ』を外へだしては・・・・・)
ザザザァァァ・・・
魔力障壁で支えられていた水の天井が破れ、流れ落ちてきた冷たい水が彼女の火照った体を冷却した。

(こいつ・・・を・・・・・)
マーリアの意識は暗黒の中に落ちた。そして・・・
『こいつ』はズルリと外へ出た。

**********

「なんとか助かったか・・・どれ、アンジェ大臣殿、怪我はありませんか?」
太い木の枝に登って鉄砲水から逃れたヴァーリは泥水の中からアンジェを引き上げた。
水を飲んだのか、彼女の呼吸は苦しげだ。

「ヴァーリ!この責任はどうとるつもりだ!」
「お待ち下さい、あれをご覧下さい。」
崩れた崖のほうを見たアンジェは、溺れかけた苦しさをも忘れた。

「あれ・・・なのか、ヴァーリ?」
「恐らく・・・・・」
二人の視線の先、たった今、おぼつかない足取りで立ちあがったもの。

「あれが・・・・・」
「神です。我々が作り出した・・・」
アンジェは畏怖の目で、ヴァーリは感動の目で巨大な赤子を見つめた。
それは生まれて間もない赤ん坊であった。
ただし身の丈は平民の家よりも遥かに高く、おおよそ30mはあるだろうか。

「・・・女の子だな。」
「いいえ、女神の子でございます。」
生まれたての巨大な赤子はふらつきながらも自分の両足で立ち、ゆっくりと目を開いた。
黒真珠のような可愛らしくも美しい無垢な瞳があたりを見まわした。

ドシン!
濁流の引いた泥の大地を踏みしめ巨大な赤子は第一歩を踏み出した。

ドシン!ドシン!
「おお、まだ成長なさっておられる!」
ヴァーリの顔には喜び、それも狂気寸前の喜びが浮かんでいた。。
彼の言うとおり、赤子の髪の毛も肩口まで伸び、身の丈も50m近くにまで成長していた。
最初のうちは頼りなげだった足運びも数歩のうちにしっかりしてきた

「・・・・・?」
赤子は好奇心旺盛な目でキョロキョロしていたが、やがて足元の半ば泥に埋もれた大木に目を止めた。
その大木には数名の研究所員がしがみついて難を逃れていた。

「お、おい!こっちに来るぞ!」
「逃げたほうがいいぜ。」
「で、でもどこにどうやって・・・ワワワァッ!!」
メキメキメキ・・・
赤子は無造作に大木を掴み、すごいパワーで引きぬいてしまった。

「うわ・・・」「ヒッ・・・」
所員たちは怯えた。巨大娘を研究していたとはいえ、こんな間近で見ると恐怖を感じた。
黒い綺麗に澄んだ瞳が木にたかった人間たちを不思議そうにジッと見つめた。
続いて顔をスッと近づけてクンクンと鼻を鳴らして匂いを確かめる。

ペロ。
「うわ!やめてくれ、くすぐったい!」
大人の体よりも大きな舌が所員の一人を舐めたのだ!
見た目には愛らしい動作なのだが舐められた本人は恐怖の絶頂に達した。

ケホン!ペッペッペッ!
泥の味がお気に召さなかったのだろう。巨大幼児はむせこみ、口に入った泥を吐き出した。

ポイ!
「ギャァァァ・・・・」「ヒヒィィィーーー!」
ボチャン!
興味をなくしたのか、巨大幼児は手にした大木をしがみついた人間ごと無造作に投げ捨ててしまった。
地面に厚く堆積した泥の層がなければ、所員全員が墜落死するところだった。

「・・・・・」
この辺にはもう興味をひく物がない、という態度で巨大幼児はプイと背を向けた。

「お待ち下さい、我らが神よ!」
泥に膝まで浸かりながらヴァーリが駆け寄ってきた。
巨大幼児は面倒くさそうに振りかえった、いや既に彼女は幼児ではなくなっていた。
身長はそろそろ100mに達しようとしていた。
長い黒髪は腰を過ぎ、体形は全体に丸みを帯び始め、胸は微かに膨らみ始めている。
ただ顔は逆光になり見えない。

「おい・・・こいつは人間の言葉が分かるのか?」
アンジェはヴァーリの耳元で囁くように尋ねてみた。

「はい、基本的な知識は受精卵合成時に移植されております。
・・・・・我らが神よ!今しばらくお待ちを!」
「・・・・・・・・・・何だ、お前たちは?」
ヴァーリたちを見下ろした少女は尊大な態度で問いただした。

「貴方様を崇める下僕にございます。」
「ほーぉ?下僕風情が何故私を引きとめるのだ?」
巨大少女の態度は足元の人間を見下しきっていた。

「だが、こちらの言うことを聞かずに暴れ出したりしたら?」
アンジェが心配するのも当然で、暴れ出したら彼らなど一たまりもない。

「その心配もありません。深層心理への暗示で創造主たる私には逆らわぬよう設定してあります。」
妙に自信満々のヴァーリ。

「答えよ!何用であるか?」
ひときわ大きな声で『神』は問いただした。

「はっ!偉大なる神として我らをお導きください!」
「やーよ。」
『神』はプイと横を向いてめんどくさそーに答えた。

「ははっ!光栄に存じ・・・あの、何とおっしゃいました?」
「いやだって言ったのよ、そんなめんどい仕事。」
「・・・・・あの?」
「第一、あんたらみたいなむさっくるしいのをなんで私がメンドーみなきゃいけないの!」
「えっと・・・・・」
不機嫌な女神を前にヴァーリは言葉に詰まった。

「ヴァーリ、話が違うではないか!?」
「ちょ、ちょっとお待ちを、アンジェ殿。我らが神よ、どうかもう一度お考え直しを!」
「嫌なものは嫌!!」
落着きを失ったアンジェと慌てて平伏するヴァーリだが巨大少女は一顧だにしそうにない。

「それよりさー、あたしの名前どうすんの?」
「はっ?名前ですか?」
「そーよ!『我らが神』なんて名前がないのと一緒で格好がつかないもん。」
「名前、名前っと・・・」
ヴァーリはしばらく考えた。

「では神に相応しく『大アンゴルモア・・・ハグッ!?」
ズシン!
ヴァーリの頭上から巨大な足の裏が降ってきた。
ヴァーリは自分の体よりも大きな親指に押さえつけられ、泥の中に沈みこんだ。

「どこの世界にそんな物騒な名前をこんな可愛い女の子につける馬鹿がいるのよ!」
「で、では・・・『ブラック・ジャイアンテス』というのでは・・・ゴボゴボゴボ!」
足指に力がこめられ、ヴァーリは再び泥水をタップリ飲まされた。

「そんな悪の組織の女幹部みたいなダサダサの名前なんか却下よ、却下!
まったく爺さんのセンスじゃ話にならないわ。やっぱり名前は本当のパパにつけてもらお!」
「ほ・・・ほんとうのパパ?」
泥にまみれた顔を上げたヴァーリは少女を見上げた。
身長は120mを越えたくらいか。胸は少女というより女らしく丸みを帯び始めている。
うっすらと恥毛の生え始めた少女はそろそろ大人へと変わり始めていた。
相変わらず顔は逆光のためよく分からない。

「本当のパパって・・・生みの親といえるのはこのワシだけしかおらぬはず!」
だが、ヴァーリの主張を巨大少女は完全に否定した。

「ちゃぁぁぁぁんといるもん!あんたなんかより100倍も可愛くて1000倍も素敵なパパがね。」
「残念だけど、そのパパとやらに名づけて貰う時間はあげませんですぅ。」
巨大少女の背後で女の声が響いた。
金色の髪をなびかせた怒りの巨大娘がそこにいた!
匂いひとつを手がかりにクローニクルを追ってきたルィーズの到着だ!

「貴方がお師匠様をたぶらかそーとしてる女ですねえ!お師匠様はあたしだけの・・・!」
ルィーズははっとして思わず身構えた!
すっくと立った巨大少女の後姿はルィーズよりはまだ背が低かったが、何か・・・異様な迫力があった。

「気をつけて、ルィーズさん!あいつからは強大なエネルギーを感じます!」
エルマーの額を冷たい汗が流れ落ちる。
魔界の邪神かそれ以上の敵、熾烈な戦いで培われた彼のカンはそう告げていた。

「や、やる気?」
ルィーズは狼狽しながらも、拳を固めてファイティングポーズをとる。
黒髪の巨大少女はゆっくりと振向き、ルィーズと向かいあった。

「・・・・・えっ?」
ルィーズは相手の顔を見た瞬間に呆然となった。そこには見なれた顔があった。
無邪気で能天気なルィーズ自身の笑顔が。

「ママ?・・・あたしのママなのね!」
「えっ?」
「会いたかったよ!!ママ!!」
「ええーーーっ!?」
巨大少女は涙さえ浮かべて喜びの感情をあらわにした。
一方、ルィーズはあまりに意外な展開に混乱の極みにあった。

ダダダダダ!ドシン!!ズッシーーーン!
全速力で駆け寄ってきた巨大少女に抱きつかれルィーズは地響きを上げて転倒した。

「ママ!あたしのママ!!」
巨大少女ルィーズに乗っかって嬉しそうに胸に頬を擦りよせてくる。

「アタタタ・・・なに?あなた何者?なんであたしがママにされるんですかぁ!」
「あっ・・・そうか。ママは何も知らないんだっけ。」
少し落ちついた少女はニコニコしながらチョコンと座りなおした。
見れば見るほどルィーズそっくりで、違うのは黒い瞳と黒髪だけである。

「あのねー、あたしはねー!ママの遺伝子をベースに作り出されたクローン人間なの!」
「く・くろーん?」
「強化のために他の遺伝子も組み込んであるけど、そこにパパの精を加えることで完全体になれたの!」
「なんですって!それじゃあ・・・、え・エルマーさん!」
ルィーズは足元のいたエルマーと顔を見合わせた。

「そうです・・・彼女は魔道技術で作られた人工生命・・・」
「いえ、そうじゃなくてエルマーさん・・・『いでんし』ってなんですか?」
・・・・・ルィーズと巨大少女以外の全員が声もなくずっこけた。

「あ・・・後で教えてあげますから・・・」
「エヘヘヘ・・・ありがとですぅ。」
「とにかくですね、その少女はルィーズさんの娘と言っても間違いでは・・・」
エルマーは言いかけて口をつぐんだ。
巨大少女の顔立ちと体つきは間違いなくルィーズの血を受け継いでいる。
だが、髪の毛は?瞳の色は?

「あなたがあたしをママって呼ぶのはわっかりましたけどぉ・・・じゃあパパって?」
「わからない、ママ?ほらこの髪と・・・瞳でさぁ。」
黒曜石のような艶やかな黒髪、黒真珠のように深い漆黒の瞳。
この付近の国々では珍しい東方の異国の民族の特徴だ。
そして、そんな民族的特徴の持つ男はルィーズの知る限りひとりしかいない。

「まさか・・・・・?」
「そうよ、ママ。・・・・・ママのお師匠様、最大にして最強の伝説の魔道士、クローニクル・ハミルトがあたしのパパなの。」
物音ひとつ聞こえなくなった。誰も何も言わなかった。

「じゃあ、じゃあ、あなたは・・・」
「そうよ、ママ!」
「あなたは・・・お師匠様とあたしの愛の結晶!」
「そう、そうなのよ!」
再び全員がずっこける中でルィーズと少女は立ちあがり見つめあった。

「ママ、ママ!とっても会いたかった!」
「・・・・・」
少女は涙を浮かべ、ルィーズは戸惑いつつも微笑みながら両手を広げた。
背景には美しい薔薇の花が浮かんでいるかのようだった。

「ママーーーっ!」
「・・・・・」
巨大少女はルィーズの胸に飛び込み、ルィーズは裸の少女を優しく受け止め・・・

「グゥェェェッ!」
ルィーズは右腕で少女の頭部をホールドし、左腕を首に巻きつけて締め上げた!
スリーパー・ホールドというヤツらしい。

「ま・・・ママ、ぐ・ぐるじい・・・」
「娘だろーとなんだろーと!あたしからお師匠様を奪おうなんて許さないんだから!
さっさとお師匠様を返しなさい!」
「わ、わがっだがら・・・ぐ、首をじめないで・・・」
真っ青になって泡を吹いていた巨大少女はなんとか解放された。

「ふう・・・パパは無事だよぉ。ここにちゃんといるわ。」
屈託のない無邪気な(まだちょっと青ざめた)笑顔の巨大少女は胸を張った。
育ちかけの二つの丘陵の間の肌の上にプツプツと水疱のようなものが生じた。

--------------------------------------------------
■ 第4章・君の名は・・・
--------------------------------------------------
朝もやの草原を彼は歩いていた。重大決心を実行するために。
彼女はこの時間はいつもこの草原でくつろいでいる。深い付き合いの彼はそれを知っていた。
見つけた。朝日の逆光の中に金色の長い長い髪をなびかせて彼女は座っていた。

「おはよう。」
「・・・・・」
彼の挨拶に返事はなかったが、朝日の中の彼女は笑っていた。
彼は彼女の顔を見上げた。
ちなみに彼女は座り込んでおり、彼は立っていた。
それでも彼女の顔は彼よりも頭ひとつ高い位置にあった。
断っておくが、彼の身長は人並みより高いほうだったし、彼女は別に高い台の上に乗っているわけでもない。
二人とも平らな地面の上にいた。

「今日もいい天気だね。」
彼女は相変わらず笑っている。彼が側にいることが嬉しくてたまらないのだ。

「・・・・・グルル。」
彼女は喉を鳴らして甘えるように擦り寄ってきた。
毛深い喉を彼がなでると嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らす。
そのまま沈黙の時が流れた。
やがて沈黙に耐えきれなくなった彼は深呼吸し、たった一言。

「結婚しよう。」
「・・・・・?」
怪訝な表情を浮かべた彼女を見て、彼は己の失策を悟った。
彼女は『結婚』などという難しい単語はまだ覚えていないのだ。
三日がかりで考え抜いたプロポーズの言葉は全て無駄になった。

「えーっと、結婚っていうのはな!ほら、隣の牧場の爺さんと婆さんみたいに一緒に暮らしたり!
今、俺たちが宿泊してる宿の親父さんと女将さんみたいに子供を何人も作ったりとか・・・」
延々と必死に説明するうちに、考え込んでいた彼女の顔がパツと輝いた。
満面の喜びを体全体で表現するかのように、彼女は彼を草の上に押し倒し押さえ込んだ。
体長3m、体重400キロの巨体は彼を身動きできないくらいしっかり抱きしめた。

「ウーーー、ウッ、ウッ!!くろートあたしイッショにくらス!
あたし、くろーノこども生ム!クローとあたしけっこんスル!」
覚えたての人間の言葉を知っている限り繋ぎ合わせて、彼女は求愛に応えようとした。

「そう、そうなんだよ!それが結婚なんだ、ウーフー!
この戦いが終わったら俺の師匠のトコに挨拶して、俺の故郷の山奥に家を建てて!
子供の名前だってもう考えてるんだぜ!
男の子だったらクロノース!女の子だったら・・・・・」

**********

「夢・・・か。」
クローニクルは瞼を開くのが辛かった。
300年前に終わってしまったことなのに、昨日のことのように鮮明に思い出す。
奪われて永遠に失われていった彼の全て。

「・・・ここは?」
まず澄みきった青空が目に入った。太陽がまぶしい。
風がヒュウヒュウと耳元を吹き抜ける。
地面が随分と下の方に見える。彼は高い崖の上にでもいるようだ。
視線を正面に戻すと、驚いているらしい女の顔が見えた。

「お師匠様!!」
「ルィーズ?そういえばさっき俺はマーリアの胎内に引きずり込まれて・・・
それから・・・・・ここはどこだ?!」
朦朧としていた意識が回復した。彼は裸のまま壁のようなところに埋め込まれていた。
慌てて体を動かそうとしたが、自由になるのは首だけだった。
左右の壁は緩やかなラインで盛り上がり、その頂点にはピンク色の突起。

「気がついた?パパ。」
頭のすぐ上で子供っぽい声がした。
見上げた瞬間、クローニクルも呆然となった。
そこにもルィーズがいた。正確にはルィーズと同じ顔を持つ女の子が。

「ルィーズ!?い、いや違う・・・お前は誰だ!」
「エヘヘヘ・・・初めまして!あたしはクローニクル・パパの娘でぇす!
名前は、えっとぉ・・・あっ!名前まだなかったんだっけ。」
「む・娘って・・・俺の?」
(俺にはマーリア以外に娘なんて・・・心当たりは・・・
いや、15年前に暴漢から助けた貴族の娘のジェミーちゃんの時は確かナマで、
いや、それならば酒場で知り合ったリンゼちゃんは危ないかもって言ってたし、
ああ、あの時の女情報屋のシュルネイさんも・・・)
心当たりは腐るほどあった・・・・・

「お師匠様・・・あたし以外の女しか思い浮かべてないでしょ!」
「あわわわ!ルィーズ・・・」
眼前に嫉妬メラメラのルィーズの巨大顔面が迫っていた!

「そーよ、パパ!あたしはパパとルィーズ・ママの『愛の結晶』なんですからね!」
巨大少女は微笑み、嬉しそうに『父親』に告げた。
一瞬にして・・・クローニクルの表情は凝固し、思考は無の世界に突入してしまった。
血の気の失せた顔に脂汗がダラダラと流れ落ちる。
(違う、違う!お、俺は、は、は・・・あああ、ルィーズにナマで何度も犯されてるぅぅぅ!)

「落ちついてください、我が師よ!
この巨大娘はルィーズさんの遺伝子と貴方の精から作り出された人口生命体です!」
パニックした師の窮状を見かねてエルマーが正確な真実を伝えた。

「人工・・・生命?」
クローニクルはしげしげと巨大少女の顔を見上げた。
その時、少女は悲しげな沈痛な表情になり、クローニクルから視線をそらした。

「人工生命だけどあたしは、・・・あたしはパパの娘だよ・・・・・」
少女の言葉の語尾には力がなく、消え入りそうな声になってしまった。

「そ、そんなコトよりさぁ、あたしに名前、つけてよ、パパ!」
「名、名前?」
「そうよ!それが親の義務でしょ!」
「・・・そんなこと言ったってなぁ。」
クローニクルはさすがに困惑した。子供の名前なんて考えたこともないのだから。
そもそも自分には父親になる資格などない、と思っていた。

「無理言うなよ、俺には・・・父親になる資格は・・・・・」
「隠したって駄目よ、パパはきっといい名前を考えてくれてる!」
「そんな・・・ウッ?な・なんだ、頭の中が???」
クローニクルは自分の頭の中に何かが侵入してきたのを感じた。
それはクローニクルを傷つけるわけではなかったが、頭の中を引っ掻き回すようだった。

「お師匠様!どうしたの?ちょっとアナタ、何したの?」
クローニクルに何か危害を加えられたと思ったルィーズは巨大少女に詰め寄った。

「静かに、ママ。ちょっぴり我慢してネ、パパ・・・・・」
少女は目を硬く閉じて一心に何かを念じているようだ。
いきなり、少女はニカッと白い歯を見せて顔をほころばせた。

「あーーーっ、やっぱりあたしの名前考えてくれてたんだ!パパったら人が悪いんだから。
そう、あたしの名前は・・・ルーシー。ルーシー・ハミルト!」
少女は、ルーシーは心からの嬉しさをガッツポーズで表現した。
一方、クローニクルは愕然としていた。

「その名は・・・その名前は・・・俺の記憶から読み取ったのか。」
確かに彼が考えた名前だった、300年も前に。

「名前決まったんだったら、もう用はないでしょ?お師匠様返しなさい。」
ルィーズは怒りで頭から湯気を出しながら、クローニクルを埋め込んだ巨大少女の胸の谷間に手を出そうとした。

「ダ、駄目よ!まだ・・・」
ルーシーは慌てて身を引いた。ルィーズの手は空を切った。

「か・え・し・な・さ・い!」
「だーめ!」
「返しなさい!」
「やーよ!」
「返せっていってんのよ!」
「いやよ!」
凄い剣幕のルィーズをキッとにらみ返して、ルーシーは胸の膨らみごとクローニクルをキュッと抱きかかえた。

「まだ、パパと一緒じゃなきゃ・・・あたし一人じゃ何も出来ないもん!」
「い、一体何をするつもりなんだ?」
成長途上の胸の間で押し潰されそうになりながら、クローニクルは聞いてみた。

「うーーーーーん、とりあえずは・・・世界征服よね!」
ルーシーはニコニコしながら、とんでもないことを言い出した!

「せ・か・い・せ・い・ふ・くぅぅぅ!?」
居合わせた人々は驚き、というより呆れた声を上げた。
もっとも目を輝かせて喜んだ奴もいた。
もちろん、ヴァーリ大首領である。

「おおお!それでこそ我らが神・・・」
ズシン!プチッ。
『神』の足指の裏の下でヴァーリは沈黙した。

「貴様ごとき下僕のためではない!あたしが世界を征服した暁には・・・ふっふっふっ。
パパとあたしの『禁断のただれた愛の世界』を築くのよぉ!」
一瞬、世界は沈黙した。
クローニクルは自分の中で何かが崩壊していくな・・・とボンヤリと他人事のよーに思った。

「そーはさせません!」
「ママ?邪魔する気?」
「お師匠様と『禁断のただれた愛の世界』を築くのはこのルィーズちゃんの役ですぅ!」
ムッとしてルィ−ズを睨み返すルーシー!
同じ顔を持つ二人の巨大娘の視線が衝突し、火花が散った。

「俺は・・・俺の立場はどうなる・・・」
勿論、クローニクルに自分の運命を選ぶ権利などないのだ・・・

「いいえ!そうはさせない!」
ガラガラガラ・・・
崩れた崖の下から巨大な腕が岩石を押しのけて突き上げられた。
そして、そこから姿をみせたのは・・・

「マーリアちゃん!」
ルィーズは叫んだ。マーリアの体は今だ巨大化したままだった。

「あなたをこの世に解き放つわけにはいかない。この『処刑人』マーリアの名にかけて!」
巨大な岩塊を軽々と押しのけて豊麗な肉体が姿を見せた。
ドッシリとしたバストがブルン、ブルルンと揺れ、重量感のあるヒップラインは豊饒の女神を連想させた。

「生まれたばかりで気の毒だけど、この場で貴方を倒し・・・エッ?」
「お・か・あ・さん!」
巨大少女・ルーシーは子犬のように嬉しそうにマーリアに飛びついてきた!

ズドォォォン!
予想外の展開でマーリアは後ろにひっくり返った。
倒れたマーリアの上に少女はじゃれつくように飛び乗った。

「わ、わたしが、お、おかあさんですって?」
「うん、そーだよ!」
ルーシーは相変わらずのニコニコ顔で答える。

「マーリアちゃんったら、いつの間におかーさんになっちゃたんですかぁ?」
ルィーズも思わぬ展開に不思議そうに言った。

「ふざけないでよ!なんでわたしが・・・」
「だって私、おかあさんのここで育ったんですもの。だからマーリアは私のおかあさんなの!」
少女はマーリア上に乗っかり、腹部を撫でながら言った。

「冗談じゃないわよ!」
「『おかあさん』じゃ嫌なの?」
悲しそうに少女はマーリアの瞳を覗き込んだ。

「当たり前じゃないの!私は独身なのよ!第一・・・」
「じゃあお姉さんっていうコトでいいわ。一応血はつながっているんだしぃ!」
「うっ、確かに・・・何てじゃれあってる場合じゃなかったわ!」
マーリアはルーシーを手荒く押しのけた。

ドシン!グラグラグラ!
「いったぁーーーい!お姉ちゃんたら乱暴よぉ!」
尻餅ひとつで大地震を起こしたルーシーはふくれっ面で立ちあがった。
そんな彼女に対しマーリアは両手を突き出す姿勢で身構えた。
手の平の間の空間に赤い火の玉が出現する。

「コラ、マーリア!お前は俺まで巻き添えにする気か!」
焦るクローニクル。マーリアは彼に構わずルーシーを焼き殺すつもりらしい。

「伝説の魔道士でしょ?自分でなんとかしなさい!」
冷たい、というよりクローニクルの実力なら脱出できると信じての攻撃であった。

「マーリアちゃん・・・」
「ルィーズちゃん、少し下がってて!」
ルィーズもそれ以上割り込もうとはしなかった。
クローニクルに危害が及ぶような行動をマーリアは取らないと知っていたから。

「お姉さん、やめといたほうがいいよぉ。体力限界なんでしょ?」
ルーシーの指摘通り、マーリアは立っているのやっとの状態であった。
先ほどの『出産』で体力のほとんどを奪われていたのだ。
足をふらつかせ、脂汗をにじませながらもマーリアは手の平の火球に魔力の全てを注ぎこんだ。

「焼き尽くせ、火の魔神よ!」
シュゴォォォッ!
膨れ上がった火球に恐ろしい魔神の顔が浮かびあがり、猛スピードで放たれた!

「・・・・・あーあ、無駄だと思うけどなーーー!」
迫り来る炎の魔神に対し、ルーシーは片手を差し出した。

「空間よ、歪め!」
ルーシーの一言で前方の空間が陽炎のように歪み、風景が渦を巻いた。

「なんですって?!空間を曲げた?」
驚くマーリアの目前で火の魔神は空間の渦に音もなく吸い込まれ・・・

ドグォォォーーーーーン!
大爆発した。

「キャァッ!」「ウワァァァ!」
マーリアもルィーズも地上に残っていた人間たちも塵のように吹き飛ばされた!

「ケホケホケホ・・・お、お師匠様、どこですかぁ?」
拡散する炎と煙で視界を奪われたルィーズは必死にクローニクルの姿を求めた。

「ウッ?!」
何者かがルィーズの首筋に触れた瞬間、彼女の体は麻痺し、その場に崩れるように倒れた。
見上げるとルーシーがニコニコしながら倒れたルィーズを見下ろしていた。
そして動けないルィーズの胸元を掴み、服を引き裂いた。
形のいい乳房が二つプルンとゼリーのように揺れる。

「あ・・・な・・に・・・を・・・」
「心配しないでネ、ママからチョッピリ栄養を分けてもらうだけだから・・・
あたし育ち盛りなんだモン!ママにオッパイもらうのは当然よね。」
「・・・あ・・・・・」
チュバッ。
ルーシーはルィーズの乳房にしゃぶりついた。まるで母犬におねだりする子犬のように。

ゴクンゴクン・・・
おいしそうに喉を鳴らしながらルーシーは乳首を吸いつづけた。
ルィーズは左右の乳房から全身の力が吸われていくのを感じた。
やがてルィーズは気を失った。

「ふうっ、やっぱママのお乳が一番おいしーわね。
さて、あたしの体はまだ成長しきってないし、この場は逃げたほうがよさそうだけど・・・」
満腹したルーシーはあたりを見まわしてみた。
足元に小さな人間が座りこんでいるのに気がついた。
爆風で気絶していたのが、意識を取り戻したらしい。

「くぅ・・・私としたことが、それにしてもなんという怪物・・・!」
ガンガンする頭を押さえながら上半身を起こしたアンジェは真上から見下ろす視線に凍りついた。

「ふうん、それでは下僕よ、この場はお前に協力してもらうとしようか。」
ルーシーは妖しげな薄笑いを浮かべながら、身動きもできない小さな哀れなアンジェに手を伸ばした・・・

--------------------------------------------------
■ 第5章・侵攻
--------------------------------------------------
「ルィーズちゃんの具合はどう?」
マーリアは心配そうに頭上からエルマーに尋ねた。
あれから数日が経過していた。
彼らは近くの村の教会に避難していた。

「体には異常はありませんが、ふさぎこんだままです。」
エルマーは窓のカーテンの隙間から部屋の中を覗いた。
薄暗い部屋の中、ベッドに座りこんだまま壁に向かってうずくまっている人影が見えた。

「お師匠様は行方知れず、例の巨大娘も見失った。八方塞がりですね。」
エルマーは重い溜息をついた。

「お師匠様は生きてるわ、私には分かる。そしてあの巨大娘・・・ルーシーも生きてる。」
マーリアは重々しく言った。

「私の体が元のサイズに戻らないのが証拠。」
マーリアは巨人のままだった。
これは巨大化の元凶であるルーシーが健在であることを意味していた。
ちなみに裸のままでは村の青少年の教育上よろしくないということで、赤い炎をヴェール代わりにして全身に巻きつけて服がわりにしていた。

「なんとか居所だけでも・・・おい、本当に心当たりはないのか、ヴァーリ!」
エルマーは怒りをあらわにして傍らの立木を見上げた。

「知らんわい!それよりいい加減にワシを下ろしてくれい!」
ヴァーリは立木の天辺に荒縄でくくりつけられていた。
牢屋にでも監禁すべきなのだが、この平和な村には牢はなかった。

「けしからん!貴様等には敬老精神はないのか!」
「生憎だが、こっちの方がお前ごときより年上だ!それより知っていることだけでも喋って貰うぞ!」
エルマーの剣幕にヴァーリは身を縮こまらせた。

「ワ、ワシだってどうしてこんなことになったかさっぱり・・・
そもそもワシの命令には絶対服従するように意識下に暗示を埋め込んでおいたのに・・・」
「あのルーシ−とか言う巨大娘はどうやって作り出した?」
エルマーはやや落ちついて、ただし凄みを増した声で聞いた。

「うむ?まずルィーズちゃんの遺伝子をベースにジュリア王女様の遺伝子の一部を組み込んでな。
それから、知識はそのマーリアとかいう魔道士の脳から直接読みこんだんじゃろう。
そこに伝説の大魔道士・クローニクルの精が加わって最強の巨大娘が誕生・・・」
「・・・まともに人の言うことを聞かない人物ばかりですね。」
エルマー君の御指摘に一同、沈黙。

「あああ、盲点じゃったぁぁぁ!!」
ヴァーリは頭を抱えた。他の全員も頭を抱えた。
その時、あわただしく駆け込んできたものがいた。
制服からするとこの国の国境警備隊の伝令らしい。

「たったったったったったった大変で〜〜〜〜〜〜〜す!!!!!
となとなとなとなとなとなり、隣町に!きょっきょっきょっきょ・・・」
「どうしました?落ちついてください。」
エルマーはとりあえずコップに入った水を差し出した。

「はっ、はっ、はっ・・・ごくごくごく・・・取り乱して失礼致しました!」
「で、隣町で何があったのですか?」
ようやく落ちついた伝令にエルマーは改めて尋ねた。

「はい!隣町に15名の巨大な娘たちが出現!町は完全に占拠されました!」
「なんだって!」
「隣町だけではありません、近隣の国々に何十人もの巨大娘が侵攻を始めているのです。」
エルマーも、マーリアも蒼白となった。

**********

話は数時間前にさかのぼる。
ヨークシャン・タウンと言う町にアンジェ大蔵大臣の屋敷があった。

「うっ・・・」
アンジェはベッドの上で目覚めた。
見なれた自分の部屋の天井と、初老の主治医の顔が見えた。
老メイド長始め35名のメイド全員が枕元に集合していた。

「おお!メイド長殿、アンジェ様が意識を取り戻されましたぞ!」
初老の医師が傍らの老女にそう言った。
壊滅した研究所から救出されて以来、アンジェは意識不明の状態が続いていた。
アンジェは虚ろな目を医師とメイド長に向け、それから自分の腹部に手を当てた。

「あっ・・・」
アンジェの表情が苦悶と・・・快感に歪んだ。

「どうなされました!」
メイド長と医師が心配そうにのぞきこんだ瞬間に変事が起きた。

ドカッ!
「グェッ!?」
毛布を跳ね除けた何かが医師を突き飛ばしたのだ。
医師は広い寝室の端まで吹っ飛ばされ、開いていた窓からバルコニーを飛び越えて庭に転落した。

「?????」
残されたメイド長の見た物、肌色をした円柱状の巨大な物体がモゾモゾと動いていた。
それはアンジェのネグリジェの下、両足の間から生え出していた。
ツルリとした曲がった板状のものが張りついている。
それが爪であり、円柱状の物体が人間の指であることに気づくまで数秒を要した。

ジュル、ジュル、ジュル!
ねとつく液体に濡れた2本目の指がアンジェの両足の間から出現し天井をぶち抜いた。
天井から梁や板が落下し、壁が崩れ、部屋を支える柱も倒れた。

「アンジェ様、アンジェ様!」
「き、危険です、メイド長!ここは逃げましょう!」
なおも留まろうとするメイド長を引きずって、メイドたちも崩れる部屋から逃げ出して行った。

「ああ、あああ、まだ出ないで・・・もうしばらく私の中に・・・」
アンジェの声は既に大蔵大臣の威厳も誇りもない、淫戯にふける女の声であった。
彼女は自分の胎内に潜む何者かに更なる快楽を懇願していた。

「あ、あああ・・・・・」
ズゴゴゴゴゴ・・・・・
庭に避難したメイドたちは聞いた。
彼女たちの女主人が絶頂を迎える声と屋敷の一角が崩れる音を。
そして見た。
崩れる屋敷の屋根をぶち抜いて天に向かって伸びて行く巨大な腕を。
驚きと恐怖で呆然と立ち尽くすメイドと、何が起きたのかと集まってくる町の人々の前に・・・
無邪気な笑顔と白い歯のチャーミングな黒髪の巨大娘は出現した。

「うーーーん、やっぱり外って気分いいわね!」
巨大娘・ルーシーは大きな屋敷よりさらに二回りは大きな体で伸びをした。
膨大な肉量で形成された巨大な乳房がブルルンと揺れた。

「いくら空間を曲げている侵入したとはいえ、人間の子宮って狭いんだもん。
パパも窮屈だったでしょ?」
ルーシーは胸元を見た。
そこには体半分を胸の谷底に埋め込まれたクローニクルがいた。

「とんでもないヤツだな、お前は・・・」
クローニクルはルーシーを心底恐れた。
空間を自在に曲げたりつないだりする魔法は上級魔道士でもほとんど不可能なレベルだ。
それをこれほどの規模でたやすく行うだけでも驚異であった。
おまけにクローニクルの魔法も封じ込められ逃げることも、弟子たちに連絡することもできない。

「それで・・・これから何をするつもりなんだ?」
「ん?決まってるじゃない、世界征服計画実行・・・の前に、この町の征服なのよね。」
メキメキメキ・・・!
ルーシーは座りこんだ。彼女のお尻の下でアンジェの屋敷は見る影もなく潰れて行った。
そのとき、屋敷の前に町の警備隊と思われる武装集団が到着した。

「た、隊長。あ、あれが現れたモンスターでありますか?」
「う、うむ・・・」
「しかし、我々で太刀打ちできるのでしょうか。」
彼らの武装は剣と弓矢だけである。
強盗団や狼の群れならともかく、巨大娘に対抗できるような武器はない。
魔道士も何人かいるが、護身程度の魔法がせいぜいなのだ。
ルーシーはそんな彼らを気にもとめなかった。

「さあて、始めちゃおうかなーーー・・・・・ん・・・・」
ルーシーは気合を入れ、下腹部に力を込めた。
すると額に白く眩しい輝きが現れた。
同時に秘所のあたりからピンク色の霧が生じて広がり始めた。

「な、なんだ?毒ガスか・・・・・」
人々が驚き恐怖する暇もなく、町は瞬く間にピンク色の霧に包まれた。

「これは・・・なんだかが・・・」
「ルーシー・・・さま・・・」
霧に触れた瞬間町の人々は虚ろな目つきになった。

「ルーシー・・・様・・・万歳。」
「ルーシー様に栄光あれ。」
人々はルーシーの巨大な姿に対してひざまずき、平伏した。

「これは・・・マイインド・コントロールか?」
妖しげなピンクの霧の中でもクローニクルだけは正気だった。

「ふうん、パパにはやっぱり薬物に耐性があるんだ?」
「ああ、そうとも!昔、嫌というほどこの手の攻撃を受けたせいでな。」
だがクローニクルもそれ以上は結局何もできなかった。

「さあて、これでもの町は征服完了次は・・・ん?」
「ああ、ルーシー様・・・私にもっと快楽を・・・」
足元にアンジェがひざまずいていた。
彼女の胎内にルーシーが潜んでいる間に受けた快感が忘れられないらしい。

「ふむ?じゃあ私の手伝いをすれば快楽を約束してあげるわ!まず服をお脱ぎなさい。」
「はい、なんなりとお申し付けを・・・」
アンジェは服を脱ぎ捨てた。
やや小振りの乳房を、金色の恥毛を、何の羞恥もなく人目に晒す。

「エイッ!」
「あ!ああ!」
ルーシーの姿がグニャリと歪み、細い紐状となって宙に踊り、アンジェに股間へと流れ込んだ。

「あ、あああ・・・あああ!」
耐えきれぬ快感に身を貫かれるアンジェ。
その彼女の肉体がいきなり倍の大きさに膨れ上がった!
さらに金髪だった髪の毛は根元から徐々に黒く染まって行く。

ズ、ズズズ、ズズズズズ・・・・
身もだえしながらアンジェは巨大化した。
見上げる人々は羨望の眼差しで巨人と化していくかつての大蔵大臣を見上げた。

「あ・・・」
ズシン。
達してしまったアンジェはその場にへたり込んだ。
尻餅で町が揺れ家々が倒れたが誰も気に留めない。

ズルリ・・
アンジェの膣口が大きく口を開け、中からルーシーのずぶ濡れの巨体が軟体動物のようによじれながら這い出してきた。

「うふふふ・・・あたしの遺伝子とエネルギーの一部を授けたのよ。」
ルーシーは楽しそうに地上を見下ろした。
そこにはルーシーとアンジェを見上げるメイドたちの一団がいた。

「なかなかの美人揃いね。あなたたち皆を巨大化すればきっと壮観よねーーー・・・
決ーーーめた!量産型巨大娘製造計画発動でぇすぅ!」
世界征服ってとても楽しいな、とルーシーは思った。

数時間後、ヨークシャン・タウンの町から百数十名の黒髪巨大美女軍団が侵攻を開始した。

**********

「この町で攻略すべき目標は・・・」
「あれよ!商店街の向こう側。」
ある町に現れた巨大娘たちは第一攻撃目標を発見し早速攻撃を開始した。
この町は軍の駐留地であり、多数の武器を保管した倉庫と主力部隊が置かれていた。
同時に交易の中継地でもあり、大量の物資が市場や商店街にあった。

裸の巨大な女の子を前にうろたえる軍人たちを蹴散らし、踏み潰す・・・
どころか無視して軍隊を一跨ぎ!
真上を見上げた若い軍人の中には、モロ見えのサービスに鼻血の大出血サービスで応える者が続出!
出血多量で重態に陥る者もいた。

ズシン!ズシン!ズシン!
進路上にあった家は横一列になって歩く巨大裸女に踏み潰されていった。
石畳で固められた路上には家が10軒くらい建設できそうな巨大な足型が延々と続いた。
慌てた弓兵が背後から攻撃をかけたが全く効果なし!
あっという間に娘たちは『攻撃目標』を取り囲んだ。

「ここね?」
「ここだわ。」
「では、さっそく征服ね。」
娘たちは『目標』を取り囲むようにして座りこんだ。そして・・・

「マスター!あたしチョコレート・パフェ!」
「私はクリーム・サンデー!」
「あの、あたしには・・・抹茶パフェを・・・」
第一攻撃目標、町一番の甘味処・陥落!

**********

「エルマー様、大変です!」
「どうした、伝令君!」
「町中の甘味処とレストランが次々と巨大娘に食いつくされています!」
「なんだと?私の計算では・・・3ヶ月で世界じゅうのお菓子は食い尽くされてしまうぞ!」

**********

もちろん、攻撃目標は何も甘いものだけではなかった。

「や、やめてください!これ以上うちのお菓子を無料食いしないで!」
ケーキ屋さんの看板娘の悲痛な叫びがこだました。
彼女の目の前では丹精こめて焼き上げてたケーキたちが、巨大娘の口の中へショーケースごと放り込まれて行く。
巨大娘はしばらく口をもごもごさせた後、ゴクリとケーキを飲込んだ。
それから看板娘の方を見た。

「あら、可愛い娘。」
「えっ・・・」
巨大娘に見つめられて看板娘は思わず後ずさりした。

「うふふ・・・ねえ、あなた。私とイイことしてあ・そ・ば・な・い?」

*********

「た、たた、大変です!エルマー様!」
「今度はなんです!伝令君?」
「巨大娘たちは征服した町の美少女たちをたぶらかし自分たちの仲間にしておりますです!」
「ぬうう、ジュリア王女の趣味が遺伝子を通じて感染したのか?
このままでは1ヶ月で世界じゅうの処女が巨大娘にされてしまうぞ!」

*********

「待て!僕のお姉ちゃんに何をする気だ!」
ケーキ屋の看板娘を毒牙にかけようとする巨大娘に背後から怒鳴った者がいた。
その勇気ある者は年端もゆかぬ少年であった。
恐怖に足を振るわせながらもモップを振り上げてしっかり身構えていた。
巨大娘は驚いたように少年を見つめていたが・・・

「坊や、年はいくつ?」
「えっ?八歳だけど・・・」
「名前は?好きな食べ物は何?」
「えっ?えっ?」
「ねえ・・・お姉ちゃんと遊ばない?いいコト、お・し・え・て・あげる・・・」
淫猥な笑みを浮かべた巨大娘が少年に迫ってきた・・・

*********

「た・たた・たたたた・・・え・え・えるえる・・・」
「しっかりしてください?伝令君!」
「は、はい!巨大娘たちはめぼしい美少年を次々と陵辱しております!」
「なんだと!そうか、マーリアの趣味まで伝染していたのか?
このままでは・・・1週間で世界じゅうの美少年がいただかれてしまうぞ!」

*********

「ルィーズさん、起きていますか?」
「あっ・・・エルマーさん。」
ルィーズは相変わらず部屋にこもりっぱなしだった。
ろくな魔法もつかえない半人前魔法使いの彼女は、この非常時には誰からも相手にされない。

「明朝、ヨークシャン・タウンに向けて各国の連合軍が反撃にでます。」
「それじゃあお師匠様は・・・」
「軍がクローニクル様の命を優先してくれるとは思えません。」
「!じゃあ、お師匠様は・・・」
「心配はいりません。私とマーリアがこれから助けに行きます。」
エルマーは部屋を出て教会の出入り口へと歩き始めた。

「あたしも行かなきゃ!」
ルィーズも彼の後について教会をでようとした・・・が?

パコッ!
「はにゃっ?!」
扉のところで何かにぶつかって進めなくなった!
ガラスか何かのような感触だが目には何も見えない。

「教会のまわりに結界を張りました。ルィーズさんの腕力でも破れはしません。」
エルマーの後ろ姿が優しく告げる。

「な、なんであたしを閉じ込めるですかぁ?」
「今の貴方では連れて行くには危険が大きすぎます。僕とマーリアだけでいきます。」
ドカッ!ドカッ!ドカッ!
必死に見えない壁を叩くルィーズにエルマーは微笑んだ。

「マーリアちゃぁぁぁん!出してくださぁい!」
「私もエルマーと同じ意見なの・・・明日まで待てば他の弟子たちがここへ到着するわ。
彼らと合流するまで待ちなさい。私たちが帰らなかったらその時は・・・お願いよ。」
ドコォッ!ドコォッ!ドコォッ!
見えない壁に握り拳を叩きつけるルィーズをなだめるようにマーリアは話しかけた。

ベキッ!ベキッベキッ!
「あ・・あのルィーズさん、この結界は物理的な力では突破不可能で・・・」
バコッ!バコッ!
「そんなに頭をぶつけたら・・・」
ドコォォッ!・・・バタッ。
「静かになったな・・・」
エルマーが恐る恐る振り返ると、ルィーズはひっくり返っていた。
頭に大きなたんこぶをつくって・・・

「今のうちに行きましょうか、マーリア。」
「ええ、そうしましょう。」
マーリアはエルマーを拾い上げ、自分の肩の上に乗せた。
そして彼らは静かに・・・いや、村全体を足音で震わせながら騒々しく出発した。

--------------------------------------------------
■ 第6章・戦い
--------------------------------------------------
真夜中の冷たい空気の中、寝静まった村にその男は闇を身にまとって現れた。
人形のような見せかけだけの陽気な笑顔をした闇の世界の住人。
国際指名手配殺人犯・殺し屋『首なし』と呼ばれる殺し屋が。

「ルィーズさんはいらっしゃいますか?」
彼は気軽に教会のドアをノックした。
通過不能な結界を空気のようにすり抜けて。
村を警護しているはずの番兵に見咎められることもなく。

「はい・・・どなたですか?」
憔悴しきったルィーズが扉を開けた。

「今晩は、美しいお嬢さん・・・おお、そんなにやつれて、いかがなされました?」
「なんでも・・・ありません。それよりあなたはどなたですかぁ?」
一睡もせず泣き続けて腫れ上がったまぶたをこじ開けて、ルィーズは訪問者を見た。

「これは失礼!私はクローニクルの友人の・・・『首なし』とお呼びください。
貴方をクローの奴のところまでお送りするようにと仰せつかっておりまして。」
「えっ!ホントですかぁ?!」
首なしの言葉を聞いたとたんにルィーズの顔が輝いた!

「ええ、本当ですとも。ホラ、貴方の愛竜のギーギー君も連れてまいりましたよ。」
「ギー!!」
首なしの背後には翼を広げた飛竜がいた。ルィーズの顔を見ると飛竜は嬉しそうに鳴いた。
知り合いの女忍者の実家に預けていた乗用飛竜のギーギー君だ。

「わあ、ギーギーちゃん来てくれたんだね!」
ルィーズはギーギーの首に抱きつき、頬を摺り寄せた。

「ではすぐに出発しましょう・・・」

**********

「あのぉ・・・・・」
「首なし、とお呼びください。本名はもう百年以上も使っていませんから。」
ルィーズと首なしはギーギーの背に乗って飛んでいた。
一路ヨークシャン・タウンへと向かっている。

「首なしさんはお師匠様のことよく知っているんですよね。」
「はあ?そりゃあ、弟子入りしたての子供の頃からの友人ですから。」
「じゃあ、ウーフーさんていう名前の女の人ご存知ありませんかぁ?」
ウーフーという名前を聞いて首なしは一瞬言葉を詰まらせた。

「・・・・・知っていますよ、一度だけお会いしたこともあります。」
「あのぉ、やっぱりお師匠様の恋人か何か・・・」
「300年も前の話ですが、クローの・・・・・奥さんでしたよ。」
ルィーズは驚きで自分の息が止まるのを感じた。
だが首なしの次の一言はさらに想像していないものだった。

「・・・ただし8時間だけの。」
首なしの声に、悲しいまでの痛々しさが宿っていた。

「えっ?」
「クローと彼女は『十戦士と』呼ばれた当時最強の戦士たちの一員でした。
彼らは魔王との戦いの直前に仲間だけでささやかな結婚式を挙げ・・・
その日の夕刻、クローと老剣士だけが生還しました。」
首なしの答えに、ルィーズは何の言葉も出なかった。

「詳しいことはいつかクロー自身からお聞きなさい。あいつもルィーズさんになら、きっと答えて・・・」
首なしは言葉を途中で切った。そして背後に顔を向けた。
地平線上の朝日に照らされて黒い雲が浮かんでいるだけだ。

「危ない!」
ヒュン!
雲の中から数本の細い黒線が飛び出してきた!

「ギッ!ギィーーー!!」
焦ったギーギーが咄嗟に高度を下げてかわしたところに第二射襲来!
かわしきれない数本がルィーズに迫る!

ドスッ!
何かが突き刺さる重い音がした。

「首なしさん!」
ルィーズは見た、彼女をかばうように立ちあがった首なしが黒い棒状の物体に刺し貫かれるのを。
首なしは声も立てずに倒れた。

「何者も近づけるな、とのルーシー様のご命令だ!」
黒雲の中から勝ち誇った女の声が響く。
声と同時に雲は吹き飛ばされ巨大な蝙蝠のような何かが姿をあらわした。
黒い翼を持つ女の一糸纏わぬ巨大な姿が空を覆い隠した。

「貴方は誰?」
「我が名はアンジェ!ルーシー様の忠実なる下僕なり!」
ルィーズの問いかけに答えたアンジェ。
蝙蝠の翼のように見えるのは長い黒髪で編み出した巨大な凧であった。

「これ以上は何者もルーシー様に近づけさせぬ。死ね!!」
黒髪の数本が大きくたわみ、バネのように弾き出された。
髪の毛は飛来する槍となった!

ボッ!ボッ!ボッ!
髪の毛はギーギーに追いつく寸前に、いきなり炎に包まれて燃え尽きた。
上半身を起こした首なしが真紅に染められた呪符を片手に再び立ちはだかったのだ。
だが右目を貫いた『髪槍』は後頭部へ抜け、心臓にも深々と突き刺さっている。
どう見ても即死確実の致命傷のはずだった。

「く、首なしさん?」
「ご安心をお嬢さん。僕の頭と心臓は大昔に失くしちゃってね。痛くも痒くもない・・・」
だが首なしの声は苦しげだ。右足の太腿を貫いた傷からは真っ赤な鮮血がドクドクと溢れ出している。
完璧な不死身というわけではないらしい。
急いでルィーズは自分のケープを引き裂き、包帯代わりに傷口に巻いた。

「やさしいんだね、お嬢さん。君のような女性が側にいるなんて、クローの奴がうらやましいな。」
「首なしさん・・・あなたは・・・」
「心配ないよ、君だけでもクローのところへ送り届けるから・・・・・南天守護神・朱雀招神!」
首なしはギーギーの背から飛び降りた!地上までの高さおよそ3000m、死へのダイビング!
驚くルィーズの視界の中で落下する首なしの姿が炎に包まれた!

ギュオォォォ・・・
炎は巨大な鳥の形となり、天空へ舞い上がった!

「首なしさーーーん!」
ルィーズの横を通りすぎるとき『火の鳥』は微笑んだように見えた。
なおも追いすがろうとする巨大アンジェの蝙蝠と、それを阻止しようとする首なしの『火の鳥』。
化け物同士の激烈な空中戦がルィーズの後方に遠ざかり、雲間へと隠れていく。

**********

「困りましたねぇ。」
エルマーは苦笑した。

「本当に困ったわ。」
マーリアも苦笑した。
彼らの前には立ちはだかる10人の巨大娘がいた。
200m近い全裸の女の子が横一列にずらりと並べば壮観である。

「ここより先には行かせない!」
「ルーシー様のご命令ですもの!」
「進みたければ、私たちを倒して行きなさい。」
口々に叫ぶ巨大全裸娘軍団を前にエルマーたちは立ち往生していた。

「倒せないこともないんだけどね・・・」
マーリアは考え込んだ。巨大とはいえ戦闘技術などない女の子ばかり。
殺すのなら簡単だ。だが・・・

「操られているだけの女性を傷つけては師匠に申し訳がたちませんからねえ。」
エルマーはマーリアの肩から飛び降りた。
重力を無視するかのようなゆっくりした落下速度でフワリと地上に着地する。

「エルマー?どうする気?」
「こうする気ですよ、マーリア。」
エルマーの足元から地面に白い光が走った。
蛇のようにうねりながら走る光が巨大娘たちを取り囲む。

「ヒィッ?」
「キャッ!」
光の蛇が走った跡からガラス板のようなものが発生し、急速成長して巨大娘たちを閉じ込めてしまった!
透明なガラスの中に閉じ込められた巨大娘たちは人形のように身動きもできなくなった。

「私はここで彼女たちを押さえておきます。マーリア、貴方は先へ進んでください。」
「ありがとう、エルマー。」
チュッ・・・
マーリアは腰を屈めてエルマーの側に顔をよせ、感謝のキスをした。
キスというより全身を柔らかなマシュマロに押し潰されかけたようなものだったが。

「ふう・・・急ぎなさい、マーリア。」
窒息寸前だったエルマーが顔を上げると、既に遥か向こうに歩き去って行くマーリアの巨大な後姿だけが見えた。

**********

「キャァーーーーー!!」
「ギッ?ギッーーーーー!!」
突風にあおられてギーギー君は錐もみ状態で墜落していった。

「はっはっはははぁーーーっ!ルーシー様に近づく者はみーんなこうなるのよ!」
「そーよ、そーよ!」
「こびとさんごときが私たちルーシー様親衛隊を突破できると思ってるの?」
町が見えてきたところでルィーズとギーギー君は巨大全裸娘軍団十数名と遭遇してしまったのだ。

「ギーギーちゃん、頑張って!」
「ギーッ!」
ルィーズの願いにギーギーは森の木々をかすめながらも、何とかバランスを立てなおして急上昇!
再び巨大娘たちの頭上突破を狙う。
だが巨大娘たちはニヤリと意地悪な笑みを浮かべて口をすぼめた。

フゥーーーーーッ!
娘たちの吐息で猛烈な突風が巻き起こった!

「キャァァァァ!」
「ギィィィィィ!」
突風に吹き飛ばされて失速し、前以上の速度で墜落するギーギー君!
暗い森が回転しながら目の前に迫ってくる。
森に突っ込んで大木か地面に激突すればルィーズもギーギーもジ・エンドだ!

「???あれぇ?」
「ギッ?ギギィーーー!」
地面に激突・・・したはずが何の衝撃もない。第一、地面の上にしては感触が妙に柔らかで暖かい。

「あっれーーー?ここは一体・・・」
「間に合いましたのね、ルィーズお姉様。ああ、良かった・・・」
頭上からよく知っている、そしてルィーズにとってはあまり聞きたくない声が聞こえた。
ルィーズは硬直する首をギギッと動かし、青ざめる顔を上へ向け、恐怖する瞳で見上げた。

「お姉様に怪我がなくってジュリア、とっても嬉しい!」
「・・・・・あうぅぅぅ・・・・・」
ルィーズは恐怖のどん底に叩き落された。窮地を救ってくれたのは正装した・・・
超巨大変態王女であった。

「貴様は何者・・・」
「お黙りなさい、無礼者。」
王女がひと睨みしただけで巨大娘軍団は思わず退いた。
温室育ちのお姫様とは思えぬ威圧感を王女は生まれながらに持っていた。
王女は巨大娘たちに軽蔑の眼差しを向け、それからルィーズに向かって言った。

「ルィーズ様、今の貴方ではとてもここは突破できません。巨大変身しなくては・・・」
「えっ?でもここには魔方陣はひとつもないし・・・」
魔方陣があればそこから大地のエネルギーを引き出し、ルィーズは巨大化する。
だが、魔道士劣等生のルィーズは未だに魔方陣の描き方を暗記できていない。

「ご安心くださいませ。ルィーズお姉様のために秘策を用意してきましたわ。」
「ひ・・・秘策?」
秘策と聞いてルィーズは悪い予感がした。

「今日、私は巨大化エネルギーを二人分吸収してきましたの。使わずに体の中に残してあるエネルギーを差し上げます。」
「で、でも・・・」
ルィーズは焦って承諾することに危険を感じた。
ジュリア王女の言葉の裏に・・・下心があるような気がしてならない。

「お姉様、ためらっている時間はありませんわ!」
「い、いえ、その・・・」
「こうしている間にもクローニクル様がどんな危険な目にあっているのか・・・」
「・・・・・やる!」
ルィーズはついに決断した。
だが、嬉しそうにニッコリと笑った王女様を見て、少し後悔した。

「分かりました!ではルィーズお姉様のため、このジュリア王女が一肌脱ぎましょう!」
王女様は左手のルィーズを(逃げられないよーに)しっかりつまんで、右拳をグッと握り締めた。

「ヒィィィッ!?」
王女様の右手が握り締めているモノを見たルィーズは恐怖した!

「パンティ脱いでるゥゥゥ!」
「お姉様のためなら一肌でも二肌でも、一枚でも二枚でも全部でも脱いじゃいます!ウフフフ・・・」
ズシン!
王女様は地面を揺らしながら腰を下ろした。
バッ!
スカートの裾を優雅に軽やかにまくりあげる。当然ながらスカートの下は・・・何もはいていない。

「うふふふ・・・巨大化エネルギーは私の子宮に貯蔵してありますのよ。」
「ま、まさか・・・あたしに中に入っていけと?」
「さあ、これも世界の平和とクローニクル様のため!恥ずかしいけど、中へ入れて差し上げますわ。」
「ヒィィィ・・・・イヤですぅぅぅ!!」
泣き叫ぶルィーズの目前にうっすらとした銀色の草原と湯気を上げるほんのりピンク色の『地割れ』が迫ってきた!

「イヤァァァ!助けてェェェ!」
「ん・・・・・あ・・・あ・・・ん・・・」
ぐちゅっ。
粘り気のある音とともにルィーズは押し込まれた。

「あ・・だめよ・・・ルィーズお姉様、そんな、暴れては・・・
ああ、ジュリア感じてしまいます・・・・・」
内側で暴れるルィーズの抵抗を楽しみつつジュリア王女は自らの指を動かした。
せわしなく、リズミカルに、大胆に指を動かしつづけた。

「のわぁぁぁ!出してぇぇぇ!!」
泣き叫び、粘液にまみれながら必死に粘膜を叩きまくるルィーズ!
だが1トン級の巨大熊をもKOするルィーズの鉄腕も巨大王女様の前では、いや内側では無力!
逆に粘膜を刺激し膣全体を興奮させ、活性化させるばかり。
だが、それも真の恐怖への序曲に過ぎなかった・・・!

「キャァァァッ!?」
ルィーズは悲鳴をあげた。肉襞の間から誰かがルィーズの足首を掴んだのだ!

「お久しぶりでございます、ルィーズ様。ウフフフ。」
「あ?あなたはマリモさん!」
ズルリ、と肉襞の間から裸身をあらわしたのは毬藻であった。
スレンダーな肢体は愛液でテカテカと光り、ヌラヌラとぬめっていた。

「さあさあ、ルィーズ様。着替えの用意は出来ております。奥へいらしてくださいませ。」
「いやですぅぅぅ!」
「うふふふ、抗っても無駄。姫様の愛液の中で自由に泳げるのは夜毎、愛液のプールで水練をした私のみ。」
いかなる水練をしていたものか、毬藻はねとつく愛液の中を巧みに泳いでルィーズを捕らえた。
そして無数の襞の隙間を奥へ奥へと引きずり込んで行く。

「ああ・・・マリモさんたら・・お上手・・・はぁ、はぁ。」
ジュリア王女の息遣いは激しくなっていった。
白く細い指先が自分の中へ滑りこみ、透明な粘液の糸をまとって出入りする。
滴り落ちる液体はお尻の下の地面を広範囲の沼地に変えた。

「あ、そうよ!そこよ!そこ・・・・・」
王女様の表情は恍惚と、そして陶然としてきた。
愛の液体はもはや滴り落ちる液体などではない、透き通った清流の滝となって地に降り注いだ。
王女様の両足の間には小さな澄みきった池が誕生した。

ザァァァッ・・・
白い指先と薄桃色の粘膜のてかりの間からほとばしる清水の急流に何かが流された。
ルィーズの着ていたピンク色のフードだ。
続いてシャツと短いズボンと靴が愛液の滝を流れ落ちる。
そして大きめのブラジャーが、最後にフリルのついたかわいいパンティが・・・

「あ、あの・・・どうしましょう?」
自称・ルーシー様親衛隊の巨大娘は隣にいた仲間の巨大娘に聞いた。

「私に聞かれても・・・」
ルーシーから受けた命令は「私とパパに近づく者は追い返せ!」だけであった。
近づくわけでもなく、ひたすら自慰行為にふける変態王女をどうしていいか判断がつかない。
だが、事態は思わぬ方向に急変した!

「ああっ!き、来ましたわ!」
王女様の顔が苦痛と快感で歪む。彼女の秘所が・・・眩い緑光を発したのだ!
しかも光は急速に強く大きくなって行く。

「くっ?もう、見過ごしてはおれん!」
「あの、露出狂の痴女を取り押さえろ!」
ドドドドド!
大地を揺らしながら巨大裸女軍団が行為にふける王女に迫る!
しかし一瞬早く、あの瞬間がきた!

「あっ、あーーーっ!ジュリア、行きまぁーーーす!」
チュドォオオオォォォン!
王女様の股間で光が爆発した。

「キャァァァ!」「グギャァ!」「ヒィィィ・・・・」
爆風に200m級の巨大裸女軍団は軽々と吹き飛ばされた。
数キロ四方を覆い隠す爆煙が湧き起こり視界を闇に閉ざした。
そしてその煙の中から・・・

ギュォォォン!
まぶしい緑の光に輝く巨大な光球がマッハの速度で飛び出した!
バババババッ!
弾道に沿って衝撃波が大地を引き裂く!
ズドォーーーン!
行く手を塞ぐ山脈が砂山のように砕け散る!
遥か地平線上の街に向かって光はまっしぐらに突き進んだ・・・

「・・・お姉様、行ってしまわれたのですね。ジュリアもイッてしまいました・・・・・」
満足そうな至福の微笑を浮かべてジュリア王女は失神した。

「・・・・・ギィ。」
ちょっと離れた木の上に避難していたギーギーは溜息をついた。
彼のご主人様はまたしても彼の力の及ばぬ所へ行ってしまった。
ご主人様、どうかご無事で・・・

--------------------------------------------------
■ 第7章・決戦
--------------------------------------------------
「うっふっふっふっ・・・次は何してパパと遊ぼーかな?」
心からの喜びを隠すことなくルーシーははしゃいでいた。
座りこんだ太腿の下では家、商店、公共施設がメキメキと崩壊していく。
邪魔な小人たち全てを街から追い出して、彼女は思うがままに振舞っていた。

「くっ・・・いい加減にしろよ、貴様・・・」
クローニクルはあれ以来、ルーシーの胸の谷間に埋め込まれたままだ。
この数日間、この状態でいいようにルーシーの玩具にされてきたのである。

「まあ、そんな乱暴な口のきき方するなんて!ルーシーちゃんの愛情で矯正してあげます、エヘヘヘ。」
「わわっ!やめろォ!」
「ぐれーと・おっぱい・ぼんばー・スペシャル!」
「のわぁぁぁ?!」
身動きできない状態で左右から巨大な乳房が彼をはさみこんだ。
甘い体臭に包まれたポワポワと暖かくムニムニと柔らかな巨大プリンの圧迫がクローニクルをソフトに喜ばせ・・・
あ、いや違った、ハードにいたぶった!

「さあ、タップリお召し上がりくださぁい。ルィーズ・ママより20%増量のオッパイですよぉーーー!」
「ぷぎゅぅぅぅるぅぅぅ・・・」
「ウフフフ・・・気持ちいーでしょ?」
「プグプグプグ・・・」
ルーシーに圧倒的パワーに際限なくもてあそばれるクローニクル。
実に羨まし・・・失礼、恐るべき拷問が果てしなく続く。
やがて乳房を支える手が疲れたのか、ルーシーは柔らか圧力地獄からクローニクルを解放した。

「ふぅ・・・助かった・・・」
「と、思うのは甘ーーーい、コレからがメーン・イベント!」
「なにぃ?何をする気だ!」
「ふっふっふっ・・・題して『無残!実の父親に処女を奪われる悲劇の美少女』開演でぇすぅ!」
「ちょっと待てぇぇぇ!それはヤバイぞぉぉぉ!」
もちろん、主演男優の抗議は却下された。
巨大愛娘の皮膚に半身を埋め込まれたクローニクルはズルリズルリと流されるように移動し始めた。
山々を思わせる胸の谷間を下り、視界の開けた腹部の上を流れ、窪地のようなヘソの横を通過!
さらにその先にある黒き密林地帯へと・・・

「ひぇぇぇぇぇぇっ!誰かとめてくれぇっ!」
そのとたんにクローニクルの移動がピタリと止まった。

「んーーーっ?何だろ、あれは・・・」
ルーシーは立ちあがり、街の外の遥か彼方、地平線に目を凝らした。
小さな緑色の光点が見えたのだ。

「えーーーとぉ・・・ンギャァッ!」
小さな点に過ぎなかった光は数瞬で間近に迫った、と思った瞬間にルーシーの側を掠めたのだ。
直撃でもないのに、ルーシーの巨体は超音速の衝撃波で吹っ飛ばされ宙を舞った。

ドドドドドド・・・・・
緑の光球は街路をえぐり、煉瓦造りの家を吹き飛ばしながら街の中ほどまで進んで、やっと停止した。

「・・・・・な、何が飛んできたの?」
顔面を泥まみれにしながらルーシーは謎の超音速飛行物体の着弾を見た。
そこには地面からさかさまに突き出した2本の・・・女の足!

「ま、まさか・・・」
ルーシーの見ている前で「足の持ち主」は地面にめり込んだ体を何とか引きぬいて一息ついた。
よく知っている金髪の巨大な娘であった。何ゆえか、純白のウェディング・ドレスを着ているが。
彼女はルーシーとクローニクルの視線に気づき、慌てて体じゅうについた泥汚れを払い落とした。
そして立ちあがり、ビシッとポーズを決めて開口一番!

「この晴れのよき日に、私の大事なお師匠様を誘拐してくなんて許せない!
愛の戦士『ウェディング・ルィーズ』ちゃんが神に代わって天罰をプレゼントしてあげる!」
・・・風が吹いた。乾いた、冷たい、シラけた風が。
(俺が15年かけて教育した成果が、この究極お馬鹿弟子なのか・・・)
クローニクルはとっても情けない気分になった。

「・・・クッ、流石はママ!登場シーンのセリフが決まっているわ・・・」
厳しい表情を見せたルーシーが思わずひるむ。
・・・・・感覚にどこか常人と違うところがあるらしい。

「ルーシーちゃん、お師匠様を返しなさい。あたしたちの愛の結晶と言えど勘弁しませんよぉ!」
「やーよ、ママは今までずっとパパと一緒だったんだから少しくらいいーじゃない!」
「駄目です、すぐにパパを返しなさい!」
「いーやーだーよぉぉぉ!」
(あああああ、いつのまにか俺が完全にパパ扱いされていやがるぅぅぅ?)
クローニクルをめぐるオリジナルとクローン、いや母と娘?の間に火花が散る。

「仕方ないわね、言うことを聞かない悪い子ちゃんには御仕置きあるのみ!」
ルィーズは右手を高々と上げ、人差し指を天に向けた。

「1ラウンドじゃないわ。1分よ!このアホ娘をブッ殺すのはね!」
・・・・・『明日の○ョー』か、お前は・・・・・
それに答えるかのようにルーシーも人差し指を高々と掲げる!

「1分じゃないわ、1秒よ、この馬鹿ママを冥土までブッ飛ばすのはね!」
「なんですって!じゃあ0.1秒で貴方ごときはあの世行きよ!この間抜け娘!」
「それがどーしたのよ!0.01秒、次元大介も真っ青の早撃ちでこのボケ親を沈めたげる!」
「なんの、0.001秒!」
「おのれ、0.0001秒!」
・・・・・・・・

「10臆分の・・・ゼェゼェ、やるわね。ママ・・・」
「一兆分の・・・・1秒、はぁはぁ、あなたこそ・・・」
「いい加減にやめんか、貴様らぁぁぁ!」
さすがに巨大馬鹿娘よりもクローニクルのほうが先にキレた。

「ご、ごめんなさい、お師匠様」
「は、ハイ、パパ!」
慌てて姿勢を正す巨大娘二人。

「二人とも座れ!」
「で、でもぉ・・・」
「いいからさっさと座れ!!いーか?大体お前らは普段の生活態度からして・・・」
この後の正座させられた二人への説教、1時間47分30秒。

**********

「分かったな、二人とも!」
「は・・・はひぃ・・・」「わがりまじだぁぁぁ・・・」
説教が終わった時にはルィーズもルーシーも意識が朦朧としていた。

「と、とにかく真面目に戦うわよ、ママ。」
「おう!何処からでもかかってきなさい!」
バン!バン!
地面を激しく震わせて、土煙が爆発のように広がった。
二人の巨体は7〜800m上空に跳躍していた。

「南○獄屠拳・・・!」
「・・・北○飛燕拳!」
どこかで聞いたよーな技の名前を叫びながら二人は空中で交差した。

「あれぇ?」「ひぇっ!」
と、思ったらルーシーの腕がルィーズのドレスの裾に絡まった。

「アワワッ!」「ヒャァァァ?」
ズダーーーン!ズズーーーン!
空中でバランスを崩して二人とも墜落!顔面で着地するはめになった。

「ママったら、なんでそんなヒラヒラ着てくるのよ!」
「そっちこそ、気をつけなさいよ、もぉ!」
ちょっと沈黙・・・・

「ふっふっふっ、流石はママ!空中戦は互角のようね!」
「ならば地上戦で葬り去ってあげますぅ!」
ルィーズは自信に溢れた笑みを浮かべて立ちあがり、背を前へ傾けて両手をブラリと下げた。
それに応じるように、ルーシーも同じノーガード体勢をとる。

「はっはっはっ、何処からでも打ち込んできなさぁい、ママ!」
「ひっひっひっ、サービスですぅ、ルーシーちゃんに先に打たせてあげますぅ!」
「ふっふっふっ、先制攻撃はママに譲ってあげますぅ!」
「へっへっへっ、遠慮しなくてもいいですぅ、ドンドンうってきなさぁい。」
「ほっほっほっ・・・」「ほっほっほっ・・・」
・・・・・無意味な不毛な笑い声だけがいつまでもいつまでも続く。

『両手ブラーリ戦法』
わざと隙を見せて挑発し、相手の渾身の一撃を誘い、起死回生のカウンターをブチこむ。
某ボクシング漫画の名作で御馴染みの戦法なのだが・・・
双方とも同じ戦法でくれば先に手を出す者がいないので、話が全然進まない。

「おい貴様ら、また俺の説教をくらいたいらしいな・・・」
ルーシーの胸の谷間でクローニクルがすごんだ。

「ウッ!フッ・・・流石はママ!ならば奥義で倒してあげるですぅ!」
「猪口才な!ならばこちらも奥の手を見せてあげるですぅ!」
今度はごく普通に身構えて向き合った。
ジリジリと間合いを詰める巨大娘たち。
擦り足の下では家々がすり潰されメキメキと音を立てる。
突然、ルィーズは斜め上の空を見上げた。
同時に、ルーシーも足元の建物の影に視線を向けた。

「あっ!空飛ぶ円盤!」
「あっ!ツチノコ!」
「えっ!?」
「どこ!?」
ブァキィッ!ブァキィッ!
ものすごい打撃音が重なった。
まるで鏡に写したように同じ姿勢で、互いの回し蹴りが互いの後頭部にめり込んでいた。

「・・・・・だ、だまされちゃったわ。」
「・・・・・ひ、卑怯ですぅ、ママ。」
ドォォォーーーン!
二人とも、またまた同じポーズで地響きを上げて倒れた。

「ううっ・・・情けない。」
クローニクルは心底、悲しい気分になった。
この馬鹿馬鹿しい戦闘が世界征服をめぐる決戦だというのか。
しかも双方とも自分の関係者ときている。
そうこうしてるうちにルィーズが額から流血しながら起きあがってきた。

「あたたた・・・痛かったぁ〜。」
ガンガンする頭を押さえながらルーシーに目をやると、彼女も鼻血をたらたら流しながら起きあがってくるところだった。

「ううっ・・・流石ね、ママ。一応、誉めてあげましょう!」
鼻血をぬぐい、何とか立ちあがるルーシ−。その顔に自信に満ちた不敵な笑み。

「でも、これならどうかしら?炎よ、天を焦がすほどに燃えあがれ!」
ルーシーは手を高々と差し上げ、ルィーズの足元に向かって振り下ろした。

「いかん!ルィーズ、距離をとれ!攻撃魔法がくるぞ!」
クローニクルの絶叫も既に遅し!

ドォン!
「ヒェェェッ?!アチチチチ!!」
ルィーズの足元から高さ数百メートルの赤い火柱が噴き上がった!

「それ、それ、それそれそれぇ!!」
ドォン!ドォン!ドォォォォン!!
「アチ!アチ!アチアチアチチ!!」
火の海と化した街を滅茶苦茶に踏み潰しながら、高熱にあぶられた必死の形相のルィーズが出鱈目なサンバのリズムで踊り狂う!

「フッフッフッ・・・ママ、降参しないと焼豚にしちゃいますよぉ!」
「ううっ!あたし『焼豚』って言われるほど太ってないですぅ!!」
炎の柱を避けながら半泣き顔で抗議するルィーズ。

「まずい・・・魔法勝負ときてはルィーズに勝ち目は・・・全く、全然、完璧にない!」
クローニクルは歯噛みした。
魔法使い見習とはいうものの・・・ルィーズは今だ呪文ひとつ暗記できない。
あれでも一応、魔道士修行歴15年なのだが・・・
クローニクル自身の魔法で援護できればいいのだが、ルーシーの胸に埋め込まれている今、彼の魔法は完全に封じられている。
だがその時、救いの手がさしのべられた。

「・・・爆炎よ、吹き散らせ!」
火の海の向こうから、ややハスキーな女の声が響いた。

ブォン!熱風が街を一撫ですると、街中に広がりつつあった大火災はアッサリと吹き消された。


「大丈夫だった?ルィーズちゃん。」
「あっ、マーリアちゃん!来てくれたんですねぇ!」
黒い煙を背景にして赤い炎を身に纏い、足元に市街地を見下ろす巨大な黒髪の美女がいた。

「マーリア、来てくれたのか・・・」
クローニクルは僅かながら希望の光が射してきたような気がした。
多少、性癖に問題はあるものの、自分の実の娘の魔道の実力は誰よりもよく理解していた。

「ふっふっふっ・・・」
ルーシーちゃ大ピンチ!と思いきや・・・余裕の含み笑い。

「2対1ですかぁ、でもぉ、その程度でこのルーシーちゃんが倒せるとでも・・・」
「いいえ、私もおりますわ!」
背後からその声がした瞬間、ルィーズは硬直した。
同時にクローニクルも希望の光にかげりが見えた・・・ような気がした。

「ジュ・ジュ・ジュ・・・ジュリア・・・王女様・・・」
引きつった喉からその名前を搾り出した時には、既に色白の腕がルィーズの首筋と胸元にまとわりついていた。ついでに襟を緩めて胸の谷間に美しい指先を滑りこませている。

「あああ・・・ルィーズお姉様、心配しておりました。」
硬直したルィーズの体をさりげなく触りまくりながら巨大お姫様登場。
足元では何十軒かの民家がベキベキと踏み潰されていく音がするのだが、王女様の世界には聞こえていない。
ついでに言うと、先ほどの『巨大娘大砲』の衝撃波で王女様のドレスは引き裂かれ、腰から下はすっぽんぽん状態。

「クッ・・・ジュリアお母様までくるとは・・・」
初めてルーシーの表情に焦りが浮かんだ。

「エッ?私が『お母様』って?」
ジュリア王女は不思議そうに聞き返した。まあ身に覚えがあるはずもないのだが。

「そうよ!あたしはルィーズ・ママをベースに作られたケド・・・
一部にジュリア王女、つまり貴方の遺伝子も組み込まれているの・・・」
「まあ、それでは貴方は・・・」
「そうよ、お母様・・・・・」
「私とルィーズお姉様の愛の結晶!」
「そう、そのとおり!」
その瞬間ルィーズはあまりのおぞましさにうずくまり、蒼白な顔色で耳を塞いでしまった。
そんなルィーズを尻目にルーシーと王女様は見つめあい、歩みより、そして・・・

「お母様!」
「ルーシーちゃん!」
下半身丸出しの王女様と完全ヌードのルーシーが力強く抱き合った!
ふくよかな胸を小さな胸が圧迫し、大きな谷間の小さな隙間にいたクローニクルを窒息させた。
チュ・・・・・
唇が(異常なほど)情熱的に重ねられ、
クチュ・・・・・
互いの指先がもっとも敏感な部分に自然に滑りこむ。
白百合の背景が似合いそうな美しき親子愛(を越えたアブノーマル)がそこにはあった。

「ん・・・・・」
「・・・・・ハァッ。」
数分間の抱擁の後二人は離れた。二人とも呼吸は荒く、頬は赤く染まっている。

「う、噂以上ですわ、お母様・・・」
「そ、そちらこそ・・・もうちょっとでイッてしまうところでしたわ?」
マーリアもルィーズも成す術もなく見守ることしかできなかった。
何か割り込めないものを感じていたのである。
・・・とゆーか、生理的に割り込みたくなかっただけかもしんない・・・

「でも、それはそれ、これはこれ!貴方の野望を見逃すわけには参りませんわ!」
王女様はルーシーを指差して、ビシッと言い放った。

「うっ・・・ねえ、ママ。3対1ってちょっと卑怯じゃないかなぁ・・・」
ちょっぴり弱気になったルーシー。

「いいえ!世の中には5人で怪人ひとりを倒して正義名乗ってる人たちもいるのよ!
3対1なんて当たり前くらいのモノなのよ!」
平然と胸をはって答えるルィーズ!・・・卑怯以外の何者でもないのだが・・・

「ではいくわよ!来れ、炎の魔神!」
マーリアの手の中に巨大な火球が出現する!
炎の中に強暴な魔神の顔が浮かび、炎の大蛇となってルーシーに襲いかかる!

「ふん!前に破られた魔法じゃないの!」
ルーシーの胸元の大気がグニャリと曲がった。この空間の歪みに巻きこめばどんな魔法攻撃も届きはしない。

「・・・同じ手を使うと思ったの?お馬鹿さんね。」
「エッ?!」
炎の蛇はルーシーの手前で急停止し、粉々に分解して赤い粒子となって散らばった。
粒子はルーシーを囲むように散らばり・・・
ズドォーーーーーン!
粒子の一つ一つが一斉に爆発した!

「やったか?」
だが、爆炎の隙間を縫うように一筋の肌色の糸が飛び出してきた。
糸は地面に落下すると急速に膨らみ、腰を落として身構えるルーシーの姿を再構成した。

「あ、危なかった!空間歪曲で変形しなかったらやられて・・・」
ルーシ−は言葉を切った。いきなり自分の立つ位置が日陰になったのだ。
空を見上げると、太陽を背に拳を突き出して上空から落下してくるルィーズが見えた。

「ハリケーン・ボルトォォォ!」
BAGOOOOOONN!
激突の瞬間、土煙は3000m以上の高さにまで噴き上がった。

「チィッ!外したか!」
着地したルィーズの足元には直径500m、深さ50m以上の噴火口のような穴ができていた。

「ううっ!何とか直撃はかわせたが・・・」
必殺技の名を叫びながら突っ込んでくるルィーズを紙一重でかわしたルーシーであった。
が、肩を少しかすめただけでさえ右腕は痺れて動かなくなった。

「隙あり!」
「グッ!」
両肩に何かが乗ってきた!
後ろ斜め上を見上げた時、まるで座禅を組むような体勢で肩の上に座っている王女様と視線が合った。

「しまった、何時の間に・・・」
「裏・転蓮華・・・」
如来様のような微笑をたたえた王女の唇から恐るべき技の名が発せられる。

−−転蓮華−−
某格闘漫画ご愛読の方はご存知であろう。
座禅のような体勢で相手の首を極めて、全体重をかけて一回転!
首をへし折る、と言うよりねじ切るという中国拳法・烈○王秘伝の殺人技である!
・・・・・だが、その『裏』とは?

「ムプゥーーー!?!?」
ルーシーは素っ頓狂な声を上げた。いや、声をあげられなかったと言うべきか。
彼女の口も鼻も完全に塞がれていた。

「ウフフフ・・・いかがかしら、私の香りに包まれた感想は?」
ルーシーの頭部を押さえ込んだ王女様が勝ち誇る。
ルーシーの顔面は押さえ込まれていた・・・王女様の下半身の三角地帯に!

裏・転蓮華・・・全体重で一回転して相手の首を折るのではなかった。
一回転して相手の前面に回りこんでから、顔面を全体重をかけた自分のアソコで押さえ込むとゆー恐るべき技なのだ!
しかも相手が苦しめば苦しむほど、技をかけた方は気持ちよくなってしまうという二倍お得な技でもある!

「おおお、こりゃ凄い・・・」
一番いいポジションにいたクローニクルは目を血走らせて真上を見上げた。
王女様のアノ部分が前も後ろも絶妙のアングルで・・・

「さあ、今度こそ降参するか、それとも私の香りの中で息絶えるか・・・ハァア?ウウウッ・・!」
ドシィーン!
おお、どうしたことだ?王女自ら鉄壁の固め技を解き、地面をのたうちまわった!
見下ろすルーシーが荒い呼吸をしながら口をぬぐう。

「お母様・・・あたしを舐めんねぇ!あっ、舐めたのはあたしのほうか・・・」
ルーシーの口のまわりは粘液と唾液でベトベトになっていた。

「よ、よくぞ気がつきましたね、この技を抜ける方法は・・・アソコを舐めまわすしかないことに・・・」
必殺の技?を破られた王女様は動揺していた、でもとっても気持ちはよさそうだ。
ちなみにこの間、ルィーズもマーリアを想像を絶する展開に唖然としているだけだった。

「と、とにかく・・・そっちの不利は変わらないわ!」
マーリアは言い放った。とにかくシリアスな戦いのムードを取り戻さなくてはならない!

「ふっ・・・・・それはどうかしら?」
またもルーシーの余裕の微笑み。ルィーズたちに緊張が走る!

「時間稼ぎは十分だわ、見なさい。」
ルーシーが指差す地平線上、そこに濛々たる土煙が見えた。

「あ、あれは?!」
ド、ド、ドド、ドドド、ドドドドドドド!
ォォォォオォォォオオォォオオオオオオ!
ルィーズは聞いた、遥か彼方から響く地響きを。見た、雄叫びを上げながら殺到する巨大裸女の大軍団を!

「フッフッフッ・・・遠征していた下僕ちゃんたち全員集合させたのよ!」
ルーシーは勝ち誇っていた。あっという間に街は巨大な娘たちに包囲された。
大きな胸の娘、小振りの胸の娘、長い髪の娘、短い髪の娘、街を包囲した巨大裸女軍団は約百人!
個々の戦闘能力はルィーズたちに比べ遥かに低いとはいえ、圧倒的戦力差と言えた。

「あぅ、囲まれちゃいましたぁ・・・」
ルィーズはオロオロしているばかり。

「厄介ですわね・・・」
王女様も困ったような顔をしている。

「戦えば傷つけちゃうし・・・面倒だわ。」
マーリアも忌々しげに悪態をついた。

「さあ、下僕ちゃんたち!ママたちをやっつけちゃいなさぁい!」
上機嫌で偉そうに命令するルーシー!しかし・・・誰も動き出そうとしない?

「どうしたの?さっさと・・・!」
ルーシーの目の前で、巨大娘たちに異常が生じた!
ある者は膝をついてへたり込み、ある者は仰向けに倒れた。
全員が蒼白な顔で呼吸を乱している。

「こ、これは一体なにが起こったの?!」
大袈裟に驚くルーシー。

「はぁ、はぁ、ルーシー様ぁ、『戦え!』なんて無理ですぅ。」
「あたしたち、ここまで、全力疾走、してきたんですよォ!」
「ちょっと・・・休ませて・・・」
「・・・・・」
ルーシーは黙り込んだ。それから・・・・・

「エヘヘヘッ、ルーシーちゃんったら、ちょっぴし失敗!」
笑って誤魔化した。
ルィーズ・マーリア・ジュリア王女ら3人の冷たい視線が集中した。

「ねっ、ねっ!ちょっと待って!い、いま奥の手を出すから!」
必死に弁解するルーシーだが周囲の反応は冷淡だった。

「奥の手って言うけど・・・これから考えるっていうんじゃないでしょね!」
思いきり険悪な目つきでルィーズが詰め寄った。

「ギクッ!そ、そんなコトないって・・・えーっと、うーん・・・そうだ!」
ルーシーの顔がパッと輝いた!
両手を広げ、天に向かって高らかに叫ぶ!

「見てなさい、あたしの真の実力をお見せするわ!
日輪の力を借りて、今!必殺の・・・チェンジ!真・ルーシーちゃん!スイッチ・オン!」
パァァァッ!

「な、何んですぅ、この光?」「眩しいですわ!」「気をつけてルィーズちゃん!」
太陽から白い光の柱が降ってきた!あまりの眩しさにルィーズたちが思わず両腕で眼を覆う。
ルーシーの体は巨大な光の柱の中にフワリと浮かび上がる。
同時に、周りでへたばっていた巨大娘たちの体も浮かびあがった。

「ル−シー!何をする気だ・・・ムグググッ!」
「まあまあ、パパは黙って見ていて・・・」
クローニクルの姿はルーシーの体の内側に引きずり込まれるように沈んで行った。
空中に浮遊する巨大娘軍団は光の柱の周囲をグルグルと回転しはじめた。
ゴォォォォォッ!
やがて回転は加速し、空中に巨大な大気の渦が生まれた。
ルィーズたちの巨大な肉体さえ吹き飛ばしてしまいそうな強力な風の渦だ!

「ルィーズお姉様!大丈夫ですか!!」
「と、飛ばされそうですぅ!ってドサクサに紛れて変なトコ触らないでぇ!」
「ち、違います!私はただルィーズ様が飛ばされないように支えて・・・
まあ、また胸のあたりが一段と成長なされて・・・うふふふ。」
ルィーズと王女様から少し離れたところでマーリアも地面にへばりついていた。

「この風の中じゃ火炎魔法での攻撃はできない・・・これが切り札なのかしら?」
「ホーッホッホッホッ!いいえ!切り札は今お見せするわ!」
風の向こうからルーシーの哄笑が答えた。同時に風はピタリと止まった。

「あれぇ?誰もいない・・・」
ようやく視界の戻ったルィーズが見まわしたが、ルーシーの姿はおろか、あれほど大勢いた巨大娘軍団も一人もいない。

「・・・あれは!?」
ジュリア王女指差す先には巨大な柱・・・街の外についさっきまでなかった巨大な柱が建っていた。
緩やかな曲線を描く肌色の柱の太さは巨大なルィーズたちでさえ一抱えはありそうだ。

「何かしら、この柱みたいな・・・」
「マーリアお姉ちゃん、柱じゃないわよぉ!」
マーリアの疑問に対する答えは頭上から降ってきた。
振り仰いだルィーズたちは信じられないものを見た。

「どーぉ?地上最大のダイナマイト・ボディよぉん!」
ルーシーがそこにいた。ただし既に巨大という表現では不充分だろう。
背丈は200m級のルィーズたちのさらに五倍以上。手を伸ばせば雲にだって届くだろう。
数千mにも及ぶ黒髪をかきあげて色っぽい流し目を送ってくる。
その雄大な裸体は近隣の国々からもはっきりと見えそうだ。
文字通り山脈に匹敵する乳房が揺れると、ゴウゴウと風の渦巻く音がした。

「ふん!そんな虚仮脅しが通じるもんですか!炎の魔神よ!」
マーリアの手の平から赤い火球がいくつも放たれる!

ポン!ポン!ポン!
ルーシーの胸の上で赤い炎の花が幾つも開く。

「なあに、それ?全然効かないわよ。」
余裕たっぷりにルーシーが笑う。
一撃必殺、都市を蒸発させる攻撃魔法の成果は僅かに乳房を揺らしただけだった。

「隙ありぃぃぃ!」
爆発の炎の死角からルィーズが飛び出す。必殺の飛び蹴りがルーシーの顔面に迫る!

ぺちっ。
「ヒェェェ・・・グェッ!」
ヒュルルルル・・・!ペチャン!
空を覆い尽くすほど巨大な手の平による平手打ち一発でルィーズはあえなく撃墜された。
地面に叩きつけられてフラフラするルィーズの真上から、大平原のような足の裏が降ってくる。

「危ない、ルィーズお姉様!」
ドドォン!
巨大な素足が街の1区画をまるごと踏み潰した。
咄嗟に飛びこんだ王女様が間一髪、ルィーズを助け出していた。
ゆっくりと上げられた足の下には平らになった家・家・家・・・
200を越える数の家屋が瓦礫さえ粉砕されて、足型の盆地の底に貼り付いていた。

「ふっふっふっ・・・圧倒的よねー!」
余裕タップリのルーシーはゆっくり腕を振り上げ・・・
ブォン!ルィーズたちめがけて勢いよく振り下ろした。

「危ない!散れ!」
マーリアの声と同時に三人は三方へジャンプした。

ドカーーーン!
一瞬おくれで巨大な拳が大地に炸裂する!
地面は文字通り爆発したように吹っ飛び、煙を噴出す巨大な穴をあけた。
舞いあがった小さな岩と石が豪雨のように降り注ぎルィーズの肌を打つ。

「どーぉ?さっさと降参したほうが身の為よぉん。」
「くっ・・・」
小生意気な態度でふんぞり返るルーシーをルィーズたちはどうすることもできなかった。
その時、虚空から聞きなれた声がした。

『いい気になってるんじゃねーぞ、小娘!』
ルーシーはギョッとした。声はクローニクルのものだった。

「パパはあたしの体の奥に封じ込まれてるはずなのに?ど、どうして喋れるの?」
『考えが甘かったようだな、巨大合体にエネルギーを取られすぎて俺を完全に封じられなくなったんだ。』
「あっ、そーか!しまった・・・・・」
『ついでに言うとだ、この状態でお前のエネルギー源である太陽光線がなくなったらどうなると思う?』
「えっ?!それは困るわ!やめてよ、パパ!」
『ルィーズ、マーリア!唱和しろ!雲よ、集え!大いなる慈愛をこの地にもたらせ・・・』
クローニクルの呪文に合わせて、マーリアもルィーズも詠唱を始める。

「・・・この地にもたらせ。日輪よ、熱き輝きをいましばらく隠し・・・」
「・・・隠したまえ。この空を厚きカーテンの元に・・・」
呪文が詠唱される中をルーシーはうろたえていた。
とにかく呪文を中断させなければ・・・マーリアかルィーズのどちらか一方だけでも止めれば!
ルーシーは自分に近い位置にいるマーリアに狙いを定めた。

「呪文をやめなさぁいぃぃぃ!」
ド、ド、ド、ド、ド!
地面を陥没させながらルーシーはマーリアに迫った!
手を伸ばして、マーリアをつかまえようとする。
呪文に集中するマーリアは巨大な手を避ける余裕もなかった。

「あれぇ?」
ズドォォォン!
ルーシーは空中で一回転して転倒した。

「私をお忘れになられては困りますわ!」
足元から溌剌とした声!ジュリア王女が絶妙のタイミングでルーシーの足首にタックルをかましたのだ。

「チィィィッ!」
「キャァッ!」
立ちあがることもせず伸ばした腕でルーシーはジュリア王女とマーリアを掴んでいた。

「グゥッ・・来れ、黒雲よ、風よ!・・・」
だが、マーリアは強大な握力による激痛をものともせず、呪文を唱えつづける。

『我は望む、女神の涙!』
「我は望む、女神の涙!」
「我は望む、女神の涙!」
クローニクル、ルィーズ、マーリア、3人の呪文が完成した。

「しまった・・・」
ルーシーは空を見上げてうめいた。晴れ渡った青空のあちこちに黒い入道雲が芽生え、拡大していた。
数秒のうちに空は暗雲に覆われ、ポツリポツリと冷たい水滴が落ちてきた。

ザァーーー・・・・・
水滴は大粒の雨に変わった。シャワーのような豪雨の向こうに太陽は隠された。

「ルィーズお姉様、ジュリアは・・・ここまで・・・です・・・・・」
「ルィーズちゃん!後は・・・お願い・・・・・」
ジュリア王女とマーリアはルーシーの手の中で気を失った。

「呪文は完成したようだったけど、手遅れね。」
降りしきる雨の中、ルーシーは上機嫌で手にした二人を放り出した。

ズズーン!
完全に失神した王女様たちは、幾つもの煉瓦造りの建物を巻きこんで人形のように転がった。

「残念ながらママたちもここまでよ。パパは呪文を使い過ぎて気絶したわ。
あたしのエネルギーも残り少ないけどサ、ママひとりを片付けるくらいならお釣りがくるわ。」
余裕の態度で胸を張るルーシー。雨は彼女の裸体の上を滝のように流れ落ちていく。
対してルィーズはうつむいたままだ。濡れて型崩れしたウェディング・ドレスが頼りなく見えた。
そんなルィーズにルーシーの超巨大な手がゆっくりとつかみかかる。

「さあ、大人しくノックアウトされちゃってね・・・!?」
ルーシーの手が止まった。いや、止められた。
ルィーズが片手でルーシーの中指を掴み、押し返したのだ。

「無駄な抵抗・・・!!」
ルーシーは愕然とした。手が全く動かない?!
思いきり力を込めているのに、ルィーズを捕まえることができないのだ!

「ふっふっふっ・・・」
手の平の影からルィーズの可愛いが、不気味な笑い声が聞こえてくる。

「マーリアちゃんったら・・・『後はお願い!』ですって!うふふふ・・・」
なんかミョーにうれしそうなルィーズの声。

「マーリアちゃんの父親であるお師匠様のことをヨロシクお願い!
・・・ってゆーことは、あたしを母親として認めたってゆーこと!
つまり、あたしは名実ともにお師匠様のお嫁さんと認められたのよ!」
意味が違う・・・と言っても今のルィーズには通用しないだろう。

「というわけでぇ、あーいーのー目覚めぇぇぇ!」
「エエエエッ!?」
凄まじい力がルーシーを圧倒し始めた!慌てて目一杯の力で押しきろうとしたが・・・

「ふっふっふっ・・・体格差のある今なら勝てるとでも思ったですかぁ?」
押しきるどころかルーシーの手首の方がミシミシと音を立て、今にもへし折られそうだ。
もう片方の手も添えて全身の体重をかけて、ルィーズを押し潰しそうとした。・・・だが!

「エヘヘヘ・・・両手なら負けるワケがないとでも思ったですかぁ?」
渾身の力を込めたルーシーを呑気な、どこか間の抜けた声があざ笑う。

「てぇい!」
「ヒッ!?」
ブォン!ドドン!
気合一閃!足元の感覚が喪失したと思った瞬間、ルーシーの体は空中で一回転し大地を叩いた。

ゴゴゴゴゴゴ!
「こ・・・こんな馬鹿な・・・」
町の半分を背中とお尻で押し潰したルーシーは立ちあがることもできずに呆然としていた。
体格差からいっても蟻が巨象を投げ飛ばしたようなものだった。

「たんたかたーん、たんたかたーん・・・・・」
調子はずれの結婚行進曲を口ずさみながらルィーズが近づいてくる。

「ま、まずい!体が動かない!」
ルーシーは焦った。本来ならこの程度の投げ技など対してダメージにならないのだが、無理をして限界以上の巨大化をしているため、自重から受けるダメージも桁外れに大きくなってしまうのだ。
何とか起きあがろうともがいている間にルィーズがルーシーの首を抱きかかえた。

「ふっふっふっ・・・これもお師匠様とあたしの幸せのため!敗北を知ってもらいますぅ!」
ルーシーの首の関節を極め、ルィーズは全身に力を込めた。

「う・・・嘘ぉ?」
ルーシーの肉体は浮き上がり、足は空中を虚しくバタついた。
100倍以上もの体重差をも凌ぐルィーズの愛の馬鹿力パワー!

「テヘヘヘ・・・たんたかたーん!たんたかたーん!」
最早、ルーシーの抵抗などルィーズの眼中にはなかった!
目に映るのはクローニクルとのうれしはずかし結婚式の幻のみ!

「グッ・・・ゲッ・・・」
頚動脈を締め上げられて口から泡を吹くルーシーの目の前が急速に暗くなる。
(駄目だ、このままじゃ負ける・・・イチかバチか・・・)
ルーシーは最後の賭けに出た。

「オープン・ゲェーーーット!」
ピカァッ!
意味不明な掛け声をルーシーが上げると、全身から発した眩い白い光が視界に充満した。

「な、なに、なんなのなんなの?キャッ!」
抱えていたルーシーの感触が消え、幾つもの生暖かい大きな塊がルィーズに激突した。

「に、人間?」
弾丸のように飛んでくるのは、気絶した巨大娘たちだった!
視界を奪われながらも野生のカンで必死にかわすルィーズだったが!

ドカッ!
「グフッ?!・・・」
ルーシーの腹部に何者かの蹴りが叩きこまれた・・・

「ハァッハァッ・・・ハァ・・・」
荒い息を弾ませてルーシーは立ちあがった。彼女の肉体は200m級の大きさに戻っていた。
足元には悶絶しているルィーズがいた。
そして周囲には、やはり気絶している巨大娘軍団が累々と横たわっている。

「咄嗟に合体を解いて、体当たりをやったけど・・・危なかったぁ・・・」
ルーシーはがっくりと膝をついた。ギリギリの勝利であった。

「ん?」
周囲に散らばっていた巨大裸娘たちに変化が起きていた。
最初はゆっくりと、だんだん加速度的に体が縮み始めたのだ。
同時に髪の毛の色の黒から元の金髪や赤毛に戻って行く。

「あーあ、注入した巨大化遺伝子の効果が切れちゃった。」
ルーシーはがっかりした。
所詮はインスタント巨大娘、巨大化効果には限りがあったのだ。
巨大な姿を維持しているのはルーシーとルィーズ、王女様とマーリアだけであった。

「やっぱ、『いにしえの神』の遺伝子を受け継ぐ人間でなきゃ効果薄いのよね・・・
こんなんじゃ世界征服には使えないわ。何か別の手を・・・」
そこまで言ってルーシーは足元のルィーズを見た。
そしてニタリと笑った。

「うん!いーコト思いついちゃった!」

--------------------------------------------------
■ 第8章・裏切り
--------------------------------------------------
「ここは・・・」
意識を取り戻した朱鷺、マーリアは縛り上げられていた。
手足に絡みついているのはロープなどではなく、長く伸びた髪の毛のようだ。
すぐ隣にジュリア王女も黒髪に巻きつかれて捕まえられていた。こちらはまだ気を失っているようだ。

「負けた・・・の?そうだ、ルィーズちゃんは?」
首だけはなんとか動かせた。
キョロキョロと見まわすと、少し離れたところに地面に縛りつけられたルィーズが見えた。
大きな屋敷の前の広い庭一杯に手足を伸ばして横たわっている。

「あいつ、何を・・・?」
ルィーズの側にルーシーが立っていた。ルィ−ズを黙って見下ろしている。

「パパ、気がついたのね?いよいよパパの出番よ。」
ルーシーは何のためか、背を丸めて自分の股間を覗き込んだ。

**********

「・・・?どこだ、ここは。」
意識を取り戻したクローニクルの目に映ったのは背の高さ以上に生い茂る雑草の影だった。

「いや、雑草じゃねぇ!これは!」
一面に生い茂っていたのは剛毛だった。巻きうねる黒い剛毛の林!

「それに俺の体もなんか変だ?妙に皮膚が敏感つーか・・・」
そのときクローニクルは茂みの向こうからの視線に気がついた。

「お目覚めね?パパ。」
茂みの向こうからルーシーの愛らしい声と大きな笑顔。

「ルーシ−?俺に何をした!」
「えっへっへ・・・パパとあたしのクリちゃんを融合させてみました!」
「・・・・・なにぃぃぃ!そんなトコロと融合?な、なんで・・・」
「まぁ、それはこれからのお楽しみ!うっふふふ。」
何か企んでるのが見え見えの笑い声をたてながら、ルーシーはそっとかがみこむ。
眼下には大の字になって横たわるルィーズがいた。
気を失っているうえに数千メートルにも伸びたルーシーの黒髪で四肢を縛られている。
腕を縛った髪の毛の端は無骨な岩山に繋がれ、足を繋ぎとめる髪の毛は何百軒もの家屋敷に結びつけられている。

「おい!ルィーズに何をする気だ!」
「エッヘヘヘ・・・知りたい?こーすんのよ!」
バリッ!
ルーシーは手でルィーズのドレスの襟を掴み、一気に引き裂いた。

「ウウッ?・・・キャァッ!なななな何を・・・」
ようやく気がついたルィーズは意外な展開に困惑した。
剥き出しとなった胸を隠そうとしたが生憎、両腕は自由を奪われている。

「ルィーズ!怪我はないか?!」
「あっ、お師匠様!なんでそんなトコに?」
「お、俺にもさっぱり・・・おお、凄い眺めだ・・・」
状況も忘れてクローニクルは目を見張った。
ルィーズの髪は地面に扇状に大きく広がり、まるで黄金の絨毯を敷き詰めたよう。
縛り上げられた手足に食い込む黒い髪が痛ましさを感じさせる。
無残に引き裂かれたウェディング・ドレスの裂け目には双子の岳のように起立し、波のように揺れる巨乳。
これを絶景といわずしてなんと表現すべきか。

「ヤ、ヤダ、そんなに見つめられたら恥ずかしいですぅ・・・」
恥じらいにポッと顔を染めつつも、クローニクルの視線を独占して嬉しそうなルィーズ。

「うーむ、じっくり見るとなかなかの・・・いや、いかん!俺はあいつの師・・・ぐぅ!なんだ?」
クローニクルの体に急激な変化が起きた!
何か熱いものが全身に流入してくる!顔が、胴体が赤く充血し肉芽が盛り上がる。
たちまち彼の小さな肉体は二倍三倍と膨れ上がる。
手足は盛り上がる肉の中に埋もれ、頭部は赤紫に変色し、パンパンに腫れ上がった。
胴体はドンドン長く伸びボコボコと血管が浮き上がった。

「なんじゃ、こりゃぁぁぁ?!」
「あああ、お師匠様!なんておいしそーな姿に、じゃなかった、変わり果てた姿に!」
クローニクルの姿は驚くべき、とゆうか実に似つかわしい姿へと変身していた。
そう、全長30mの逞しく反り返った巨大な(自主規制)へと!

「うっふっふっふっ・・・パパとぉっても素敵ですぅ。」
「あ、あうぅ!やめろぉ」
ルーシーは自分の股間の一物と化したクローニクルを愛しげに撫でた。
今や一本の肉棒と化したクローニクルの体がルーシーの手の中でピクピクと痙攣する。

「本番前に、パパの威力をちょっと試しとくですぅ。」
ルーシーは半壊したアンジェ大臣の屋敷の前に片方の膝をついた。

「アタタタタタタタ!アチョーーーッ!」
ズガガガガ!
掛け声と同時にルーシーは激しく腰を振り、マシンガンのような轟音が響き渡った!
一瞬で屋敷には丸い巨大な穴が7箇所、北斗七星の形で貫通していた。

ガラガラガラ・・・
「とぉっ!」
崩れ去る屋敷に背を向けてルーシーは跳躍!街の中央にただひとつ残っていた教会の尖塔の前に着地した。

ピシッ!
尖塔に縦方向に亀裂が走り、そこから左右に裂けて崩れ落ちた。

「フッ・・・流石は『希代のナンパ魔』と謳われたパパの一物ね。切れ味が違う・・・」
手も足も使わず股間のナニのみの凄まじい破壊力であった!

「ひ、人の体を玩具にしやがって・・・」
クローニクルは思いきり自分が情けなくなった・・・

「では、本番いきまーす!ママ、準備いい?」
「じゅ、準備?一体何の?」
何がなんだかわからないルィーズにルーシーはウィンクした。

「えーとね、これからパパを使ってママを強姦しまぁす!」
「おおお?俺を使ってだとぉ?!」
「だってぇ、昔から『立ってるものは親でも使え。』って言うしぃ!
こぉんなに立派にたっちゃったら思いきり使いまくるしかないって感じだしぃ!
でもってね、あたしが大量生産したパパの精液をママにちゅーにゅーしまぁす!」
「ちゅ、ちゅーにゅーって言ったって・・・」
「そしてママにあたしの妹を沢山生んでもらってね。家族みんなで世界征服しちゃいまぁす!」
「そ、そんな!」
「名づけて『世界征服明るい家族計画』!」
これには流石のクローニクルも真っ青になった!

「おい、コラ!勝手にンな計画たてるな!」
「そうですぅ!あたしも強姦されて妊娠なんていやですぅ!いくらお師匠様の精液だからって・・・?」
ルィーズはしばし考え込んだ。

「ムン!」
それからいきなり四肢に力を込めてふんばった!
結わえ付けられた岩山に黒髪がギチッと食い込んだ。

ガラガラガr・・・
無数のひび割れが岩肌を覆い尽くし、一瞬で山を砕いた!

ボコン、ボコン、ボコボコボコン!
足を繋ぎとめていた町じゅうの建物という建物が凄い勢いで引きぬかれバラバラに分解した!

「ママ?なんて凄いパワーなの・・・」
驚愕するルーシーの前にルィーズは立ちはだかった。・・・そして!

ビリビリビリッ!
自らスカートを引き裂き、脱いだパンティを背後に投げ捨てた!
呆然とするクローニクルに微笑むと、たった一言。

「さあ、ルーシーちゃん!何時でもママはOKよ!」
「わあ、ママって話せるぅ!」
「ちょっと待たんかい、お前ら!」
ルーシーの股間でクローニクルが思わず抗議するが・・・

「お師匠様の精液=お師匠様の子供を妊娠=責任追及=電撃入籍&結婚式=お師匠様とあたしの明るい家庭!!フッ・・・フフフッ、フフフフフフフフフフ!」
既に頭の中はパラダイス状態のルィーズが聞いてくれているワケはなかった・・・

「じゃあ、ママ!ルーシ−ちゃん行きまあす!」
「よぉーし!どこからでも、かかっていらっしゃぁ〜い!」
「きーさーまーらぁぁぁ、やーめーんーかぁぁぁ!」
ズダダダッ!ズシィン!
弾みをつけてダッシュしたルーシーがルィーズを押し倒し、その上に覆い被さるようにのしかかる。

「おい、マーリア!ボーっと見てないでなんとかしてくれ!」
「はっ?い、いけない!つい驚いちゃって・・・火神よ、来れ我が元に・・・」
クローニクルの必死の叫びにマーリアは我に返った。慌てて呪文を唱え始める。
だがルーシーは横目でマーリアをチラリと見てニヤッと笑った。

「あー、そうだ!ついでに弟も作っちゃおうかな?パパそっくりの可愛い弟。」
「・・・えっ?」
ルーシーの呟きにマーリアの呪文が止まった。

「楽しーだろな、『お姉ちゃん!』と読んでくれる弟に色々教えてあげるのは、イロイロね・・・」
「・・・・・」
ルーシーの聞こえよがしな独り言にマーリアはちょっぴり頬を赤らめた。
そして・・・はにかんで、おねだりするよーな目でクローニクルをジッと見つめる。

「マーリア、俺を裏切る気か!」
「そ、そ、そ、そんな気はないけどサ・・・家族が増えるっていいことだし、ネ?」
期待するような眼差しの底では既に、幼い弟にアレコレ仕込む計画を立て始めていた。

「マーリア様!だまされてはいけません!」
「えっ?あ、王女様・・・」
ようやく意識を取り戻した王女様が毅然とした態度で断じた。

「どんな理由があろうと、世界征服などという大それた野望を認めてはいけません!
この私が阻止してみせます。」
ジュリア王女は身をよじった。黒髪の束縛から縄抜けの要領で脱け出すつもりらしい。

「・・・おお、流石は一国の王女様だ!変態とはいえ、良識がある!」
クローニクルは王女を見なおしていた。彼女がこれほど頼もしく見えたことなど初めてだ。

「せかいせーふくしちゃえばさぁ、世界中の可愛い女の子と仲よくなれるのにねえ・・・」
王女様の方を振向きもせずに呟かれたルーシーの一言。
この言葉を耳にした瞬間、王女様の動きは止まってしまった・・・

「世界を支配するなど確かに良くないことかもしれません。
しかし、世界を支配するかどうかよりも大切なことがあります!それは愛と友情!
世界に愛と友情を広めるためならば、世界征服もやむを得ないことだってあるのです!
さあ、クローニクル様!愛の世界の為にどうか助力を!」
「・・・・・だ、だめだ、こりゃ・・・」
クローニクルは絶望のどん底へ叩きこまれた。
このメンバーに常識を求めていた自分がいかに甘かったか思い知らされた。

「さぁーて、では続行しまぁす。」
ぴちゃ、ぴちゃ・・・・
山のような乳房をルーシ−の巨大な手が鷲掴みにし、大きな舌が人の背丈よりも高くなった乳首を攻める。

「あ・・・ん・・・」
「うふふふ、ママの乳首って感度いいのね?こっちはどうかな?」
ルーシーの右手が蜘蛛のようにルィーズの腹部を這い進み、両足の隙間へと侵入する!。

くちゅくちゅくちゅ・・・
「だ、だめ・・・もっと優しく・・・」
「ワァーオ!しっとり絡みついてくるぅ?準備OKなのね!」
ルーシーは軽く腰を浮かせた。慎重にルィーズの秘所に照準を定める。

「ウフフフ、5000リットルの精液でママも一発御懐妊ですぅ!さぁ、パパ!レッツ・ゴー!」
彼女は全身をしならせて反り返り、ルィーズの秘所への一突きを入れようとした。

「何がレッツ・ゴーだ!そうはいくもんか!」
迫り来る大洞窟の直前でクローニクルは目一杯、体をそらした。
ズルン。
間一髪、クローニクルはヌルヌルした粘膜の層の上を滑り、難を逃れた。

「駄目じゃない、パパ!もう一回!エィッ!」
「ちぃぃぃっ!させるかぁぁぁっ!」
ルーシーの動きに合わせてクローニクルは首を横に振り、再び彼を呑み込もうとしたルィーズの下の口から逃げおおせた。

「えーーーっ、これじゃあ入らないよぉ!」
「フン!挿入なんぞされてたまるものか・・・グェッ!?」
ルィーズの右手がしっかりとクローニクルを掴んでいた!

「ウフフフ、お行儀の悪い子にはおしおきしちゃいますよぉ?」
「ル、ル、ル、ルィーズ?俺に何をする気だ!」
巨大な顔面がクローニクルの頭に迫り来る。
淫らな笑いを浮かべたルィーズの唇が大きく開く。
薄暗い口腔内で大きな舌が大蛇のようにうねる。
その奥には喉へと続く深淵なる闇。

「お、おい!やめ・・・」
パクッ。亀の頭と化したクローニクルの頭部をルィーズは咥えた。

ぬちゅぬちゅ・・・
「ぬあぁぁぁ?!」
「うふっ、伝統技『尺八』・・・」
ペロペロペロ・・・
「ぬおぉぉぉ!!」
「奥義『横笛』・・・」
レロレロレロ・・・
「ぬぐぐぐ!」
「秘技『ハーモニカ』・・・」
ちゅぱちゅぱちゅぱ・・・
「神技『トランペット』!!」
「ぬふっ・・ふ・・・」
「おおっと、口内射精はさせませんよぉ、フフフ・・・」
放出しかけたクローニクルの先をルィーズは指で押さえつけた。む、むごい・・・

「す、すごい・・これがママのホントの実力・・・」
ルーシーはヘナヘナとへたり込んだ。
クローニクルが味わわされた強烈な快感はルーシーにも伝わり、腰から力が抜けていった。
そっと、しかし強引にルィーズはルーシーを地面に組み敷いた。
ベキッベキッベキッ・・・
ルーシ−の背中でペチャンコになった木造家屋が100軒くらいはありそうだが、もう誰も気にしていない。

「フッフッフッ・・・完璧金縛り状態ですねぇ、お師匠様・・・」
「貴様、師をなんだと思って、あ、ああ・・・」
ルィ−ズは先っちょを押さえた指先をほんの少し動かした。
硬直したクローニクルが手の中で僅かに身悶えする。
横たわるルーシーの体のうち、クローニクルが変化した『超大型肉の塔』部分だけが灯台のように直立不動の勇姿を保っていた。

「さあ、いよいよ覚悟してもらうですぅ・・・」
「ママ、恐い・・・」
怯えた瞳でルーシーは遺伝子上の母親を見上げた。

「うふふ・・・恐がらなくてもいいのよ。」
「ママ・・・わたし初めてなの、お願い。」
「分かっているわ。優しくしてあげるから、ママに全て任せなさい。」
「はい・・・」
ルーシーは素直に返事をして、目を閉じた。襲う者と襲われる者の立場は完全に逆転していた。

「待てぇぇぇ!俺の立場はどーなるーーー!」
クローニクル君の無益な遠吼え。彼の立場など作者でさえも考慮してなどいない。

「では、いきます!たんたかたーん、たんたかたーん・・・」
超ヘタクソな結婚行進曲を歌いながらルィーズはルーシーの腰の上にまたがり、ゆっくりとゆっくりと腰を下ろし始めた。

「・・・・・たんたかたんたかたんたかたーん、・・・」
ルーシーも声を合わせて歌い始めた、狂いまくった旋律で。

「たんたかたーん・・・」「・・・たんたかたーん。」
マーリアとジュリア王女様までつられて神聖なメロディを口ずさみはじめた。
音程もリズムも狂いまくった四重唱が地獄の底の呪いの歌のようにクローニクルの脳味噌を直撃した。

「う、うわっ!やめろ!ストップ!とまれ!考え直せ!・・・」
上方から下がってくるヌラヌラした粘膜面に恐怖するクローニクル。

「た、助けて・・・・・」
ズプッ・・・
クローニクルの叫びはルィーズの肉体の内へと消えた。

「ん・・・お師匠様って・・・太い・・・」
苦悶と快感がルィーズの可愛らしい顔をゆがませる。
灯台ばりのサイズの肉棒は『入り口』を極限までこじ開けながら、彼女の胎内へと徐々に呑まれていく。

「ママの中って・・・とっても柔らかい、とっても暖かい・・・」
ルーシーも生まれて初めての感覚に翻弄されていた。頭が痺れるような感覚の中で彼女は冷静に考えていた。
(つい数日前にこの世に生を受けたばかりで、処女喪失もまだなのに先に童貞喪失なんて・・・
これが終わったら処女もパパにあげちゃおうかな?・・・ん!あぁ・・・!)
このときクローニクルは完全にルーシーの中に挿入された。

「ぬうう?なんたる柔軟さ、心地よい暖かさ、適度な締まり具合!文句なしランクAだ・・・
はっ?!評価してる場合じゃなかった!で、でも、オウオウ、オオオ・・・」
完全な闇の中でクローニクルは悶えた。
滑らかな粘膜の壁が捻れ、震え、膨張し、伸縮し、脈打ち始めた。
ルィーズとルーシーが同時に腰を使い始めたのだ。

「ああ、感じる、パパの逞しさを・・・パパを通して感じる、ママの暖かさを。
パパがあたしとママをしっかりとつないでるんだ、これが家族の絆というものなのね・・・」
ルーシ−は感激の涙を流した。人工生命の自分にも家族がいるのだ、孤独ではない・・・

「ま、まずい!」
闇のすぐ向こうで何かが蠢く気配がする。
子宮が活動をはじめたのだ、クローニクルの精液を求めて・・・

「ぬ・ぬ・ぬ・・・この俺をなめるんじゃねぇ!
脱出不可能というならば、ルィーズ!貴様を先にイカせてこの窮地を切り抜けるのみ!
見よ、『世紀末のナンパ王』と呼ばれた我が伝説の技を!
コオォォォ!『性道波紋疾走』!!」
ブルブルブル!クローニクルの全身(といっても今やアレだけになってるが)が激しく震えた。

「あ?ああああああアアアアアア!!!」
ルィーズが思わずのけぞった。内側からの会心の一撃は痛烈に効いた!

『性道波紋疾走』
男性自身の勃起の正体は海綿体に流入した大量の血液である。
この血液つまり水分に巨大な波紋を起こし相手の膣壁へと叩きこむ!
このテクニックは、己を発狂する寸前にまで追いこむ荒行を条件に実在する、と言われている・・・
−−リン・ミンメイ書房刊『男の古流鍛錬法』より−−

「さ、流石は、お師匠様ですぅ。でもぉ、ルィーズちゃんの修行の成果も負けませェん!
秘伝継承技『千段締め』!」
ぎゅっ、ぎゅぎゅぎゅっ・・・
「ぐはぁっ?!こ、この技は・・・」
膣内のクローニクルは驚愕した!膣壁が数百段階にも分かれて収縮運動を始めたのだ!

『千段締め』
巧みな膣壁の操作によって3段階に分けて男性自身を絞めつける名器『三段締め』はご存知であろう。
だが更に過酷な鍛錬を続けることにより、それを遥かに凌ぐ名器を体現したのが『千段締め』である。
この技を身につけるには達人でも二十年はかかるといわれ、現代ではこの技は絶えたとされている。
−−リン・ミンメイ書房刊『女体・その神秘なる内的宇宙』より−−

「スゴイわ。こんなレベルの闘い、初めて見る・・・」
マーリアでさえ呆然としてルィーズとクローニクルの真剣勝負を見ていた。
まあ、実の父親がサカッてるときの姿などあまり見る機会はなかっただろうが・・・
だが、そんな彼女も・・・傍観者ではいられなかった!

「んぐ?!」「ん・・・」
背後から近づいてきた王女様にいきなり・・・くちづけの洗礼を受けてしまったのだ!

「ん!んー!!、ぷはっ!お、王女様?な、なんで・・・」
「ごめんなさい・・・ルィーズお姉様たちを見ていたらうずいてしまって・・・我慢できなくて。」
言いながらも王女様の指先がマーリアの乳首を弄くる。

「あ、あのですね!私の趣味はそっちじゃなくて・・・」
「分かっておりますわ!でも今私にできるのはコレだけ・・・できるだけのことはしなくては!」
「だ、だめだって!アアッ!せ、せめて美少年と・・・」
ピチャピチャピチャ・・・マーリアの股間に顔をうずめた王女様の口のあたりで卑猥な音がしはじめた。

**********

「じ、地震か!」
「でかいぞ!」
ゴゴゴゴゴ・・・・・
堅牢な石組みで組み上げられた城は激しくゆれていた。
城下の町もあちこちで煉瓦の壁が崩れ、火の手が上がっている。

「お、おかしいぞ?こんなに長く揺れがおさまる気配がない!」
「エルマー様、この地震は一体何事なのでしょう?」
警備隊の隊長が空中に浮揚して座禅を組んでいたエルマーに尋ねた。
エルマーはヨークシャン・タウンから100km以上はなれたこの国の首都にいた。
途中で捕らえた巨大娘軍団の娘たちの巨大化と洗脳が解けたので安全なところまで届けてきたばかりだった。

「・・・今は打つ手がないか。」
エルマーは虚空を睨んだまま呟いた。彼の千里眼には事のあらましはすべて見えていた。

**********

「始まったか・・・」
首なしは揺れる大地の上に座りこんだ。
ズボンは大量の出血で真っ赤に染まっている。
立っているのもつらいくらい、常人なら意識を保ってさえいられないだろう。

「やっぱり『殺さないで倒す』というのは難しいなあ。」
傍らには素っ裸のアンジェが大の字になって失神している。巨大化も先ほど解けて今は普通人間サイズだ。

「それにしても我が師も人使いが荒い。破門した僕をこき使うんだからな。」
首なしはポケットから安物のタバコとマッチを取り出した。
タバコを作り物の首の唇にくわえ、火をつけた。作り物の首は右半分が粉々に砕けている。

「今日はこれ以上助けてやれそうにないよ、あとはお嬢ちゃんと上手くやれよ、クロー。」
首なしは烈震の大地の上に横になると、のんびりとタバコふかしはじめた。

**********

「ルィーズ、しぶとい奴め!今度こそイッてしまえ、『究極深波紋疾走』!」
ズズズズズ!
「お師匠様、負けを認めなさぁいですぅ!奥伝『百万匹のミミズちゃん』!」
ゴゴゴゴゴ!
師と弟子の闘いは激化の一途を辿っていた!
激しい腰使いが巻き起こす大地震は大地を文字通り波打たせ、すでに建築物すべてを崩壊させていた。
耐震構造建築など巨大娘の性欲の前にはなんの役にも立ちはしない。
闘いは両者互角のまま果てしなく続いていた。
だが、この均衡が今、崩されようとしていた。

「あ、う、あ、う・・・・・駄目だわ、ついていけない・・・」
ルーシーは焦り始めた。ルィーズとクローニクルに比べれば素質はともかく経験値の差がありすぎるのだ。
ましてや生まれて初めて体験する本格的な体験である。

「このまま持久戦になったら、あたしだけ先にイッちゃう・・・そうなったら失敗だわ。」
ルーシーだけが先に果ててしまえばせっかく大量生産した五千リットルの精液を放出できなくなる。
それでは『明るい家庭で世界征服計画』は第一歩で挫折してしまう。

「な、何か手は?パパの記憶の中に何かの方法が・・・あった!」
ルーシーは狂喜した。クローニクルの古い記憶の片隅にその技は封印されていた。

グッ!
ルーシーは下半身に残ったパワーを振り絞って立ちあがった。
ルィーズの巨体をナニ1本の力のみで支えて仁王立ち!
古い言い方をすれば『駅弁スタイル』というやつか。

「ルーシーちゃん?どうしたの?」
ルィーズは新鮮な体位に喜びながらも不思議そうな顔をルーシーに向けた。

「あ、あのちょっと王女様。」
「何ですか、マーリア様?・・・これからイイところなのに・・・」
「・・・(恐)、あ、あのですね、何か始まるみたいですよ?」
王女様は未練はあったが、マーリアの秘所から口を離した。
マーリアの秘所の真下は愛液と唾液でとっくにドロドロの沼地になっている。

ズズズズズ・・・
ルィーズとルーシー、二人分の巨重を支える大地はルーシ−の脚の下で沈下していく。
不安定な足元を気にしつつもルーシーは両足の間のスタンスを広くとり、正面を向いて身構えた。
膣内に閉じ込められたクローニクルも事態の異常に気がついた。

「ルーシー、何をする気だ?ハッ!この体勢はまさか、あの禁じ手を!?」
クローニクルが300年前にある相手のためにだけ体得した究極の禁じ手!

「今から使用する技は、パパが昔、無茶苦茶タフな獣人娘をイカせるために体得した究極の技・・・
この最後の作品をママ、貴方に捧げますぅ・・・」
ルーシーはどっしり腰を落とした体勢から後方に体重をかけて・・・
一瞬、ルィーズとの結合部分が霞んで消えた!

パン!大音量の破裂音が響く!

ゴオン!
「キャァッ!」「な、なに?!」
見えない壁のようなものがマーリアと王女様を跳ね飛ばした!
ズゴゴゴゴゴ!
宙に舞う二人は見た。ルィーズたちを中心に見えない壁のようなものが円形に広がり、街の残骸を吹き飛ばし大地を剥ぎ取って行く様を!

シュゥゥゥゥ!
ズシィン!ドシィン!
「あいたたた・・・」「何が・・・起こったのでしょうか?」
王女様たち二人は更地となった街の上に落下した。

「ルィーズちゃんたちは?」
ルーシーとルィーズは先ほどと同じ位置に立っていた。ただし周りには建築物の残骸さえ残っていない。
岩盤がむき出したクレーター状の大地には、今では街の痕跡さえ見つからない。

ルィーズはニヤけた笑いを浮かべ、口からよだれを垂らしたまま完全に白目をむいていた。
結合部分から上がる水蒸気は摩擦熱で気化した愛液であろうか?
気絶したルィーズに語るようにルーシーは口を開いた。

「いい音でしょう?達人が鞭を使用する際に空中で生ずる強烈な破裂音。
あれは物質が音速を超えたこと報せる音、音の壁を破る音だと言う。
足の親指から始まる関節の連動を足首へ、足首から膝へ、膝から股関節へ、股関節から腰へ。
同時5ヶ所の加速の性交、じゃなかった成功がこの奇跡を生むのですぅ!」
ルーシーは再び腰を引いた。そして・・・再び腰が霞んで消える!

パパパパパン!
「ヒッ!」「今度は連射?!」
王女様たちは再び見えない空気の壁に跳ね飛ばされて後方に投げ出された!
意識を失ったルィーズの体だけが反応して激しくのたうつ!

**********

「ウウ・・・・・」
ルィーズは既に果てていたが、クローニクルは暗い闇の中でまだ持ち堪えていた。
クローニクルを支える持久力は膣内では急激に消耗する。
スタミナが残り少なくなると持久力は低下し、放出を押さえきれなくなり始める。
そしてもし、スタミナが尽きてしまったら!
クローニクルは二度と独身生活を謳歌できなくなってしまうのである!
がんばれ、クローニクル!残された時間はもうあと僅かなのだ!!

**********

「パパ、まだ立ってるのね・・・何がパパを支えるの?
意地か面子か・・・それともそれがナンパ道か。
パパにもわかるハズよ。その信仰にも似た精神力で支えられた肉棒も次の一撃で確実にイクのよ。」
ルーシーは時間をかけて体勢を整えた。最後の『音速突き』を敢行するための体勢を。

**********

途切れそうな意識の中でクローニクルは歌っていた。遠い昔の歌を。

たった一夜をともにして、一夜で忘れるはずの名が

旅の魔道士に愛されて、たった一夜の夫婦のちぎり

五回六回粘りぬき、一滴も出さぬ”侠客立ち”

とうに精魂尽き果てて、されど萎えない”侠客立ち”

とうに精魂尽き果てて、男一代”侠客立ち”

−クローニクル・ハミルト−

**********

「さあ、パパ!ママ!明日は世界征服よ!」
嬉々として身構えるルーシー、口を開こうとする者はもう誰もいない。
その時、ルーシーは何を思ったのか振り返った。
そして王女様に向かってとんでもないことを言った!

「ママが済んだら、あなたたちもすぐ種付けしたげるからね!」
マーリアも王女様も一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「あ、あの種付けって・・・?」
「だぁってママ一人に沢山生ませたんじゃ大変だもん!ご協力感謝しまぁす!」
あっけらかんと言うルーシーにマーリアは大慌てした!

「駄目よ駄目駄目!そいつと私は実の父子なのよ!近親相姦になっちゃうじゃない!」
「私も婚約者がいる身ですし、そーゆー協力はちょっと・・・・・」
王女様だって困ってしまった。だがルーシーは気にする様子もない。

「へーき、平気!世界征服しちゃえば誰もそんな細かいこと言わなくなるし!
それにいずれは世界中の『いにしえの神』の遺伝子を持つ女の子全員に種付けしちゃうんだし!
そのほうがパパだって沢山エッチできて喜ぶ・・・アイダダダ!?」
激痛がルーシーの注意を引き戻した!
ルィーズに目を向けたルーシーの動きが止まった。

「なんだい、こりゃ?」

**********

「痛い!イタタタ!ななななんだ?外で何が起きたんだ?」
激痛はクローニクルの意識も覚醒させた。
心地よい快適空間は万力に挟まれたような拷問部屋へと瞬時に変貌していた。
四方の肉壁は鉄の壁となり、肉棒を押し潰すべく押し寄せてきた!
同時に根元まで呑み込まれているクローニクルを、更に奥へと引きずり込もうとする猛烈なパワーが働き始めた!

**********

「ママ!?」
力なくダランとなっていたルィーズの両足がルーシーの腰に巻きつきガッチリとホールドしていた。

「図ニノリヤガッテ・・・」
ルィースの声でルィーズではない誰かが喋った。
ルィーズの貌でルィーズではない何かが笑った。
ルィーズの肉体から炎のように赤いオーラが吹き出す!

「グッ、ママやめて!パパの体がちぎれちゃうよ!」
ルーシーの懇願は届かない!そう、既に目の前にいる者は『ルィーズ』ではないのだから・・・
炎のようなオーラの中に影絵のような忌まわしい貌が浮かぶ。激しく怒る魔神の貌が!

「駄目だわ、凄い吸引力でパパを引き抜けない!空間歪曲で脱出しなきゃ!」
ルーシーのまわりの空間が陽炎のように揺らめいた。
いかにルィーズの膣の吸引力が強かろうと空間の歪みに飛びこめば楽々脱出できる、そのはずだった。

「何故なの!離れられない?」
ルーシーは愕然とした!空間の歪みに飛びこんだというのにルィーズから分離できないのだ!

「キャァッ??」
それどころか逆にルーシーの両足が膣内に吸いこまれた!
ズズン!支えを失った二人の体が地上に落下する!

「歪めた空間ごとママの中に引きずり込まれてる!?」
あっという間にルーシーの腰までがルィーズの膣口へ吸いこまれていた!
必死に地面に爪を立て何とか脱出しようとするルーシ−。
だが圧倒的吸引パワーはルーシーの腕力を凌駕していた!

「助けて!お願い、ママ!助けて!!」
もはや首と片手だけを膣口から出して泣き叫ぶルーシー!
しかしそれも長くはもたなかった。

「助け・・・」
ズブン。声と同時に頭も呑み込まれた。
腕だけがしばらくもがいていたが、それも完全に呑み込まれた。

「・・・・・」
マーリアも王女様も沈黙した。異常事態には慣れていた彼女たちも想像を超えていた。

ボコボコ・・・
ルィーズの腹部が十倍の大きさに膨らんだ。
妊婦というより膨らんだ蛙みたいな姿だった。
その風船みたいな腹部がボコンボコンと変形した。
内側ではメキメキ、バキバキと何かがへし折れちぎれるような音がした。

ギャァァァァァ・・・・・
断末魔とおぼしき絶叫!
続いてシュォーーーと音を立てて鮮血の噴水がルィーズの秘所から噴き上がった!

ボン!ボン!
時折、大きな肉塊の混じる血の雨が大地を濡らした。
鮮血の雨がやんだ時、全ては終わっていた。


--------------------------------------------------
■ 終章・娘
--------------------------------------------------
ここは、どこ?あたしはどうしちゃったの?
・・・問いかけても闇の何処からも答えは返ってこなかった。

**********

「助かったのか、俺は?」
クローニクルの意識がはっきりしたのは、自力でルィーズの膣から這い出してきた時だった。
あたりは一面、血の海となっている。
股間から巨大な乳房が邪魔でルィーズの顔は見えないが、まだ失神しているようでだ。
王女様も少し離れたところで山のような巨体を横たえている。
マーリアもそのそばにいるが、何故か普通サイズに戻っている。
そして・・・ルーシーの姿は何処にも見えない。

「オイ、馬鹿弟子!起きろ!!」
「ん、あ?お師匠様おはようございまーす!で、種付け上手くいきましたぁ?」
起きぬけに間の抜けた挨拶を返してくるルィーズ。
プッツン・・・クローニクルの中で決定的な何かがキレた。

「何がおはようだ!何が種付けだ!!今度という今度は勘弁ならん!破門にしてやるっ!!」
「ひぇ!?ひぇーん!ごめんなさいですぅぅぅ!」
ルィーズちゃん、お師匠様の逆鱗に触れ大きな体を縮こまらせて平謝りに謝った!

「まあまあ、クローニクル様・・・」
「それくらいで勘弁してあげたら?悪気はなかったんだし・・・」
マーリアと王女様がとりなそうと割って入ってきた。

「てめーらも同罪だろーが!」
クローニクルの怒鳴り声に全員耳を塞いだ。

「あ、あのお師匠様、ところでルーシーちゃんは何処でしょーか?」
「ああ、・・・・・・・・あれだ。」
キョロキョロするルィーズにクローニクルは憮然と指差した。

「・・・あれが?」
指差す先には差し渡し50mほどの、血まみれの肉塊があるだけだった。

**********

肉塊はまだ微かに蠢いていた。脈打っていた。

「これがルーシーちゃん?!でもどうして・・・」
ルィーズはおどろきを隠せなかった。
目の前にあるものは巨大娘どころか生物と言えるかどうかも定かではない。

「元々、ルーシーは原始細胞から発生して数日しか経過していない。
本来ならまだ胎児同然の体しかなかった。
だから俺と半融合状態でいることで生命活動に必要な機能を俺から得ていたんだ。
それが俺と分離したために維持できなくなった・・・」
クローニクルが自力で逃走しなかった本当の理由がそれだった。
逃げればルーシーは数分を経ずして死ぬ。見捨てることは彼にはできなかった。

「何か・・・助ける方法はなにですかぁ?」
「肉体の崩壊が限界まで進んだ、もう死ぬ以外の道はない・・・」
悲しそうな声でクローニクルは答えた。その時、一同の頭の中に声なき声が聞こえた!

パパぁ!ママぁ!お母様ぁ!マーリアお姉ちゃぁん!何処にいるのぉ?
暗いよぉ!寒いよぉ!恐いよぉ!淋しいよぉ!

幼い子供の泣き声が思念となって届いた。

「ルィーズ。」
「はい・・・」
ルィーズはクローニクルを手の平に乗せた。それから蠢く肉塊の上にそっと降ろした。
クローニクルは不安定な肉塊の上に裸でうつぶせになると、そっと肉芽の一つを抱きしめた。

「ルーシー、パパはここにいるぞ。」
あっ、パパ!来てくれたんだね。
「ああ、ママも王女様もマーリアも皆いるよ。」
よかった、あたしひとりぼっちじゃないんだね。

話をしている間にも肉塊の脈動は弱まり、形は解け崩れ、体温も失われて行く。
確実に死が近づいていた。
ルィーズは泣いていた。マーリアも王女様も泣いていた。

パパ?
「なんだい?」
信じられないくらい優しい落ちついた声でクローニクルは応えた。

あたし・・・もうすぐ、しんじゃうの?
「・・・・・ああ、そうだ。」
あたし・・・わるいコだったカナ・・・
「いい子にしてたとは言えないな。」
そっか・・・ごめんネ、パパ
「もういいよ、終わったこと・・・」
クローニクルは声を詰まらせた。

おしえ・・・て、パパ・・・・・あたしのこと・・・キライ?
「・・・・・」
キライ・・・・・なの?なら・・・しんじゃっても・・・いいんだよね・・・
「・・・・・嫌いなもんか!死なせたいもんか!俺はもう・・・誰も失いたくない!!」
クローニクルは滝のように涙を流しながら絶叫した!
力一杯、肉の一片を抱きしめた!

「ルーシ−ちゃん。」
ルィーズはクローニクルを乗せた肉塊を抱き上げた。
美しい素肌が血にまみれるのも構わず、裸の胸に抱きしめた。
血にまみれた肉塊がだんだん冷えていくのが肌に直に伝わってくる。

よかった・・・パパもママも・・・・・あたしのコト・・・キライじゃなかったん・・・だ。
「そうよ、ルーシーちゃん。みんな、あなたのことが好きよ。」
ルィーズの声はまさしく母親の声そのものであった。
肉塊の脈動が止まった。

ぱぱ・・・まま・・・あたし・・・あたし・・・・・
「なんだい?パパに言ってごらん?」
あたしね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ルーシー?ルーシー!!」
途切れがちだった思念が完全に途絶えた。



「あたし、死んじゃうのやーめた!」
「・・・えっ?」
バリッ!肉塊の表面を突き破って二本の巨大な腕が飛び出した!
幼児のものらしい手がしっかりとクローニクルを抱きかかえる!

「えへへへっ!新生ルーシーちゃん復活でぇす!」
蛹から羽化する蝶のように、肉塊の中から黒髪の小さな?巨大少女が姿をあらわした。
全員が思考停止している中で、子供らしい笑顔でとっつかまえたクローニクルに頬擦りする。

「・・・・・ハッ!コラ!お師匠様から離れなさい!」
我に返ったルィーズがクローニクルを取り戻そうとする。

「べーっだぁ!ママ恐ーーーい」
舌を出してルィーズをからかう幼児バージョン・ルーシー!
大喜びのジュリア王女と呆れてなにも言えなくなったマーリア。
クローニクルはようやく思い出した。
ルーシーがルィーズの常識はずれの生命力も受け継いでいたことを・・・

「俺の、俺の人生はどうなるんだ?これから・・・・・」

**********

「いいか、こんなことはお前にしか頼めん!」
「分かっております、師よ。」
エルマーは言葉少なく頷いた。

「俺たちはしばらく旅を続けなければならん。こいつを頼めるような常識人はお前だけだ!」
クローニクルは滅多に下げない頭を何度も弟子に対して下げた。

「じゃあ、ルーシーちゃん!パパとママはお出かけしてきますからねぇ。
エルマーおじちゃんの言うことをよく聞いていい子でお留守番するんですよぉ。」
ルィーズは城の上を見上げて大声を出した。

「はぁい!」
とっても元気な大きな声で返事がかえってくる。
見上げるとお城の向こう側から女の子が愛らしい笑顔を覗かせている。
ルィーズとお揃いのピンク色のフードをかぶった黒髪の愛くるしい子供だ。
ただし手前にある城より頭二つ背の高い少女で、右手で城の見張り台を引っこ抜いて振りまわしてる。

「あーっ!駄目でしょ、よそのお家壊しちゃ!」
「あっ、ごめんなさぁーい。」
「元通り直しなさい!」
「はぁーい!」
ルーシーは見張り台を元の位置に置いた。
元通りとはいかずに斜めに傾いてしまったが気にする様子もない。

「・・・・・努力はしてみます。手伝ってくれる人も心当たりありますし・・・」
エルマーは自信なさそうに言った。

「すまん・・・」
クローニクルは申し訳なさそうに言うのが精一杯だった。それからルーシーの方を向いた。

「じゃあ、ルーシー!エルマーおじちゃんを困らせるんじゃないぞ!」
「はぁい!」
「せめて、『おじちゃん』と呼ぶはやめて欲しいな。『お兄さん』とは言わないが・・・」
エルマーはブツクサ愚痴を言った。

「ああ?そうだ、エルマー。ヴァーリの奴はどうなったんだ?」
ヴァーリ元大司教・元大首領は逮捕され拘束されていたが、ジュリア王女が身元を引き受けていた。
高齢を考えての恩赦ということであった。
一生涯、ルーシーちゃんに仕えることを誓ったらしいのだが。

「彼なら、秘密研究室の巨大娘関係の研究資料を処分に行きましたよ。
『御仕えする方が決まった以上もう研究の必要はない。』ということのようですね。」

**********

老人の手の中で古文書は青い炎に包まれて燃え尽きた。

「書類はこれで全部だったな。あとは金庫のサンプルの処分だけじゃ」
ヴァーリはガランとした研究室を満足そうに見回した。
人がどう思うかは知らないが、彼は満足していた。
70年以上を巨大娘復活にかけた人生に後悔はない。
これからはルーシー様の忠実な部下として余生を全うするのだ。

ガチャリ。
この金庫を開くのも今日が最後となろう。
金庫の中には未完成サンプルの試験管が数本あるだけだ。
手前の一本をまず取り出した。

ボッ!
青白い炎が試験管の中身を瞬時に灰にした。
手にした試験管の中身は次々灰になっていく。

「さて、これが最後の1本じゃ・・・」
だが、ヴァーリはその試験管に触れることはできなかった。
横から差しこまれた手が素早く横取りしてしまったのだ!

「!?助手Aではないか!無事じゃったのか?」
ヴァーリの目の前に部下のうちでただ一人だけ行方不明となっていた助手Aがいた。
手には奪い取った試験管を持っている。

「とにかく無事でよかった。さあ、それを処分せねばならん。返してくれ。」
だが助手Aはヴァーリの命令を実行しなかった。
ただ、一礼し一歩下がった。

「助手A?お前は・・・なんと?!」
ヴァーリの目前で助手Aの姿は消えた。

「幻覚や目くらましの類ではない!転移法か!」
瞬時に遠く離れた場所に移動するのは不可能ではない。高度な魔道技術を持ってすれば・・・
だが知る限り助手Aにはそんな才能はなかった。誰かが手を貸したとしか考えられない。

「何かが起ころうとしている・・・」
ヴァーリは虚ろな目で何もない宙を見つめた。

魔道士には心安らぐ時はないのかもしれない。