一寸橋とヒメコ(IN神主)は大学へ向かって走っていた。
大学はショッピングモールを突き抜けた向こう側にある。
当然、二人のまわりは買い物客やビジネスマンでいっぱいだ。

「あ、あの、ヒメコさん」
「なぁに、一寸橋さん!」
「ちょっと、その。待っ……」
「今、急いでるから後にして!」
「…………はい」

緊張感あふれる会話を交わす二人、その二人を見つめる大勢の人々の視線。
ただし暖かい視線を向ける者は誰もいない。
2人を遠巻きにして冷たい視線、奇異なモノを見る視線、生暖かい視線。
まあ、考えてもみて欲しい。
脂ぎった中年男が若い男の手を強く握りしめて、内股で走っているのだ。
しかも全身からオシッコ臭い匂いを発散しながら。

「ナニよ、あれ……」
「オシッコくっせぇ―――ッ」
「あの二人、そーゆー関係?」
「スカもかよ?」

聞きたくもない言葉が囁かれ、一寸橋の小心者ハートをグサグサと突き刺しまくる。
就職浪人寸前というだけでも泣きたくなるくらいキビしいのに!
ホモ&おっさんLOVE疑惑が上乗せされたのだ!
一寸橋は天を仰いで、不運を嘆いた。

(ああ、僕の人生、ここまでなのか……)
「一寸橋さん!」
(ヒメコさんとエッチできたのが、せめてもの)
「あれはッ!」
(ああ……僕はどうしたら)
「一寸橋さんったら!」
「えっ、ヒメコさん?な、何ですか?」
「もう、しっかりして下さい!」

ヒメコ(IN神主)が目の前のアーケード街の入り口を指差している。
見てみると様子がおかしい。
全員が全力疾走でアーケード入り口から飛び出してくるのだ。
それも怯えて、大声で悲鳴を上げながら。
のんびり静かに歩いている者は一人もいない。

「なんだ?みんな、こっちに走ってくるぞ?」
「何かから逃げてるみたいね」
「でも一体何から逃げ……!?」

そいつは、通行人が逃げ出した原因は、アーケードの向こうからヌッと姿を現した。
さして大きくもないアーケードだが、そいつはアーケードの屋根を軽々と一跨ぎしてやってきた。
でかい、身の丈は50メートルを超えているだろう。
ツインテールの巨大な女、しかも全裸だった。

ズドン!ボニュン。

揺れる。

ズドン!ボニュン、ボニュン。

揺れる、揺れる!
一歩足を踏み出すたびに、あまりの重量に地面が、ビルが、道路が歩道が揺れる。
それ以上に、足を動かすたびに乳が揺れる。
縦に、上下にボニュン、ボニュンと揺れて街全体を長く長く揺らし続ける。
さらにその下に目を移せば?
おへその下、薄っすらと、淡い陰毛に隠れて艶めかしい色の割れ目がかすかに見える。

「イテテ?」
「もう!一寸橋さんのエッチ!」

そちらに目を奪われていると、ヒメコ(IN神主)が一寸橋の手の甲をつねった。
慌てて視線を上へ向けるなおす。
見上げれば双子富士というべき乳で半分隠れてしまう顔が、こちらを向いてニカーッと笑った。

「あ、いたいた!ユキ先輩、一寸橋さん見つけたよーッ♪」
「え?あッ!き、君はサキちゃん?サキちゃんなのか?!」
「はぁーい、サキちゃんどぇーす!」

一寸橋は腰が抜けるほど驚いた。
あらわれたツイテ巨大少女は大学の後輩、合コン荒らしの異名をとるコンビの片割れだ。
そしてもう一人、背後から地面を震わせる大声が。

「おー?そんなトコにいたか?面接先の会社行ったら、とっくに帰ったなんて言いやがってよ」
「ってユキさん?君まで巨人に?」

振り返るとこっちにはボブカットの巨大な全裸女子、同学年のユキだ!
こっちは4車線の広い道路を跨ぐ形で立っている。
サキちゃんとは対照的に。濃密な黒い森の奥から魔境のごとき黒ずんだ洞窟が、口を開けてこちらを吞み込まんとしている。
しかもこっちの方が一回り、いや二回りはバストサイズがデカい。
サキちゃんが大地を揺らすというなら、ユキ先輩は大地を砕くといってよかった。
ブワン、ブワンと乳揺れの度に、地面に伝わる反動で人間や自動車が宙に浮くぐらいなのだ。

「って、あの本社ビルへ、その恰好で?」
「おう、あいつら人を怪獣呼ばわりしやがって、アタマきたからビルごとケツで潰してやったぜ」

一寸橋は蒼白になった。
眩しく仰ぎ見たあの立派な本社ビルが?
全裸のユキ先輩の尻の下で!
押しつぶされていく様子が……ありありと、効果音付きで、目に浮かんだ。

(面接で追い返された時には『こんな会社ツブレちまえ』なんて愚痴ったけど)
(まさか本当に潰されるとは……)
(それも巨大女子大生の巨大デカケツで?)

口もきけずにガタガタと震えている一寸橋をチラッと見て、ヒメコ(IN神主)は一歩進み出た。
ビシッ、ビシッと巨大女子高生二人を指差して声を張り上げる。

「あなたたち!……一寸橋さんとッ!どういう関係なのッ?」
「え……ちょっとヒメコさん?」
「あ、違った、ゴメンナサイ。あなたたち、鬼姫様に会ったわね!」

鬼姫という言葉に二人は止まった。
首を傾げて、ちょっと考え込んでから、ポンと手を打つ。

「おーおー、そうだった!鬼姫様に命じられてきたんだった!」
「あははは、すっかり忘れてたー」
「おい、一寸橋!ちょっと付き合え」
「鬼姫様がお呼びだよーん!」
「えっ、オレ?鬼姫……さまが?」

突然、たいして親しくもない相手から名指しされて一寸橋は慌てた。
逃げまどっていた群衆も、足を止めて一寸橋に視線を集中させる。
そして……もっともっと強烈な視線を送るものが一寸橋の隣にいた。
ヒメコ(IN神主)は一寸橋の手を固く握りしめた……骨が軋む音が聞こえるくらいに。

「イ?痛いよ!ひ、ヒメコさん?」
「一寸橋さん、安心してね。決してあの……クサレ祭神の鬼姫になんか渡しませんから!」

巨大女子大生二人から感じる以上の恐怖を、ヒメコ(IN神主)から感じるのは気のせいか?
反射的にヒメコ(IN神主)から離れようとしたが、あまりに強く握りしめた手は微動だにしない。
しかも取り巻いていた群衆から聞こえる呟きが、更なる危機を予感させた。

「オイ、あいつらって」
(あいつらって……ぼ、僕も含まれてる?)
「ああ、あのオトコを取り合っているらしい」
(取り合って……いや、確かに狙われてるけど?)
「で、でも?巨大怪獣女2人にオッサンLOVE?」
(えっ、違う!僕にそんな趣味はない!)
「しかも『おにひめ』ってのも絡んでるのか?」
(いえ、名前知ってるだけです!全ッ然、面識ないです!)
「三角、いや四角、いや五角関係とは!?」
(そんな!関係なんかして……ヒメコさん以外とは……)

これ以上は耐えられない!
身の潔白を主張しようと、一寸橋は口を開きかけた……のだが。
ささやかなチャンスすら神はお与えにならなかった。
ヒメコ(IN神主)が堂々と宣言したのだ。

「一寸橋さんは私のモノよ!ロクに生えそろってもいないガキや、使い込みすぎのクサレお○ンコになんか負けないから!!」

一寸橋にできるのは口をパクパクさせるだけだった。
衆人が彼に向ける目は、もはや人間に向けるモノではなかった。
含まれる感情は嫌悪?畏怖?いいや、まさか羨望?
いずれにしても一寸橋の社会的生命は、ここで終わった……

「あの青年そこまで……」
「並みの変態じゃねェ……」

水を打ったような静けさ、というが生暖かーいぬるま湯を頭からブッ帰られたような気がした。
もう就職がどうこういってる状況ではなかった。
しかも異常な空気にあてられたのか、群衆に異常性が伝染していった。

「さすが変態青年!」
(えっ?)
「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!」
(エッ?エッ?)
「そこにシビれる!あこがれるゥ!」
(……?エ―――ッ!!!)

崇拝された!?
ついにッ!
群衆までもッ!
魔の領域に引きずり込んだのかッ、一寸橋ィッ!
敵、味方、通行人までも日常から魔界に……

「宣戦布告か?面白れぇ……一寸橋はアタシが貰う……」
「じゃ、私も私も、一寸橋さんもーらい!」
「渡さないって……いってるでしょ!」

殺気!ヒメコ(IN神主)の体から殺気が発せられているッ!
ヒメコ(IN神主)・ブレイク・ダーク・ジェラシー・フェノメノン!!

ユキ先輩の乳首の皮膚が鋭く硬質化しツンと上を向いたッ!
ユキ先輩・リスキニニップル・セイバー・フェノメノン!!

股間から出る特殊な粘液で足元をビチョビチチョに濡らす、サキちゃんの欲情現象のひとつッ!
サキちゃん・ラヴジュース・ヴァギナ・フェノメノン!!

これが、これがッ!これが地雷女欲情現象だッ!
そいつに触れることは『人生のお終い』を意味するッ!
そして巨大女子大生×巨大後輩少女×クサいオジサンの三つ巴の戦いが始まった。