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■ 白羽祭(しらはまつり)の夜
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このお話には未成年の方には不適切な性的表現が含まれております。
しかも読んでも全然役に立たないこと請け合いです。
未成年の方はもっと面白くて為になるお話を他で探してください!!
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■ 序章・人騒がせなお手紙
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・・・・・野菊の咲き乱れる広い広い野原で、少女は誰かを捜していた。
うっかり見落として、踏み潰してしまわないように足元に気を付けながら。

「どこにいるんだろ、レイおにいちゃん?」
キョロキョロと少女は足元を見回す。

「ん?あっ、いたいた!」
メキメキメキ!少女は邪魔な立木を引っこ抜いて木陰にいた人物に顔を近づけた。

「おっと、見つかっちまったか。おはよう、シルフィナ。」
木陰で休んでたのは、日焼けした精悍な男だった。
人間にはない緑色の髪は、男が妖精族の血を受け継いでいる証であった。

「レイロードおにいちゃん!きょうはあたしとあそんでくれる、やくそくだよ!」
シルフィナと呼ばれたエルフの幼い少女は、いきなり指先で蟻でも捕まえるように男を摘み上げた。

「ハハハ、そうだったな。悪かったよ。何して遊ぼうか?」
巨大な指で挟まれて、一瞬で山より高く持ち上げられているというのに、男は恐れも焦りもしていなかった。
・・・日が暮れるまで二人で遊び、やがて男が帰る時間になった。
男は北の国の国王であり、多忙な中を尋ねてきてくれたシルフィナの友人だったのだ。

「久しぶりに会えて楽しかったよ、シル。また来るからいい子にしてるんだよ。」
「・・・レイおにーちゃん・・・・・」
シルフィナは顔を少し赤らめなんだか言いにくそうにしていた。

「なんだい?」
「シルがおとなになったら・・・おにいちゃんのおよめさんにしてくれる?」
「えっ?」
一瞬、レイロード王は言葉に詰まった。

「おにいちゃんには『おくさん』がたくさんいるんでしょ?だったらシルも『おくさん』にして!」
「うーーーん・・・・・」
確かにレイロード王には正室の他に人間族23名、妖精族8名の側室がいた。
決して女泣かせというわけではなかったが、若い頃の『武者修業』の成果?と政治的理由によるものだ。

「いいよ。シルフィナちゃんなら私の妻たちも歓迎するだろう。」
レイロード王は笑顔で答えた。

「ほんと?やったぁ!」
ドシン、ドシン!ドシン!
大地震を起こしつつ、嬉しそうにはしゃぎまわる巨大な幼子を、レイロード王は寂しい瞳で見上げていた。
妖精族の母の血を継いではいても、姉たちと違って彼自身は普通の人間に近かった。
人間とエルフの寿命の差をシルフィナはまだ知らない。
彼女が大人になる日を待つことなく、人間のレイロード王の寿命は尽きる。
1レムル(1000年)にも満たない人間の寿命など、エルフにとっては幼子の成長にすら届かないのだ・・・

**********

「・・・・・レイロード兄ちゃんの夢かぁ。懐かしいなー。」
シルフィナは寝ぼけ眼でベッドから裸の半身を起こした。
ここは『シルフィナ観光』店舗兼事務所の屋根裏にある寝室。
夫でありシルフィナ観光唯一の正社員であるデュークは彼女の傍で寝息を立てている。

「フフッ、まだ寝てる。夕べは激しかったものね。」
ちょっと間抜けなデュークの寝顔をのぞきこんでシルフィナは笑みをもらした。
ここのところ仕事続きでご無沙汰だったため、久しぶりの休日となった昨夜は二人して燃えた。

「でも・・・まだ、少し物足りない・・・カナ?そうね、久々に貴方の全身を・・・受け入れたいわ。」
ジャイアント・エルフである彼女の本来の姿は身長5リムル(500m)を超える。
その大きさでなら男女の交わりの際に人間を胎内深く・・・秘所から文字通り呑みこむことも可能なのだ。
それにより得られる快楽は体の大きさに比例して巨大なものとなる。
人間サイズでの行為もなかなかに楽しい。
が、本来の姿で愛し合いたいという気持ちは常に心の底にわだかまっていた。
デュークを子宮のさらに奥まで行かせれば、受胎率も飛躍的にアップすると言う。
今は仕事も楽しいが、やはり子供も早く欲しい。

「でも、こんな街中じゃ無理なのよねー。ふう・・・」
シルフィナは小さな溜息をついた。
ここは大勢の人間たちが住む港町。
そこで巨大なエルフが夫と『夜の営み』を楽しんでしまったら、大嵐と大地震の直撃を食らったのと同じ事だ。
彼女が腰を激しく動かせば直下型地震のように家々は倒壊し、喘ぎ声を上げれば人々は塵のように吹き飛ばされてしまうだろう。
そんな事をすれば、シルフィナ観光は人間界で二度と営業できなくなる。

「仕方ないか?そうそう何度もオユキの旅館に宿泊するわけにもいかないし・・・」
旧友のオユキさんが経営する温泉旅館には巨大サイズの客でも泊まれる部屋や露天風呂があるのだが・・・
そーゆー巨大妖精用の部屋を備えた宿泊施設は人間界にはまだほとんどないし、あっても宿泊料金は高額だ。

「実家に帰ってナニするのも、父さんがうるさいからなぁ・・・おっ?」
トントントン。屋根裏部屋の天窓を誰かがノックしたのだ。
シルフィナは急いでガウンを羽織って窓を開けた。

バサバサ!一羽の鳩が飛びこんできた。嘴には一通の封筒をくわえている。
鳩は机の上に着陸し、封筒をそっと置いた。そしてシルフィナに向かって話し掛けた。

「シルフィナ様、早朝より失礼いたします。あるお方より郵便でございます。」
夜闇の中を飛来し、人語を解する鳩・・・妖精界からの使いであった。

「あるお方・・・ねえ?どうせ差出人は・・・・・」
溜息をつきながらシルフィナは封を切った。便箋には文字が書かれておらず青い円が描かれているだけ。
しかし、蝋燭の灯りの下に置くだけで青い円がキラキラと輝き始めた。
そして光の中にスゥッと小さな人型の映像が浮かび上がった。
薄いヴェールを何百枚もまとった、緑の髪の上品な美しい女性の姿だ。
単なる紙片に音や映像を焼き付けて送り先で再生させる高度な魔法。
それだけでも送り主の強大な魔力を伺い知ることができた。

「やっぱり・・・ルウリア女王陛下・・・」
女王陛下、と呼びはしたもののシルフィナの表情には敬意などなくむしろ、しらけきっていた。
そんなシルフィナの態度など気にもとめないかのように、映像はにこやかに微笑み、優雅に一礼して口を開いた。

「オッハー!!シルちゃんお元気ぃ?」
シルフィナはものも言わずに後方へずっこけた。
さっきまでの上品さと荘厳さと女王陛下の威厳も吹き飛ばす、良く言えば気さくな挨拶だった。
女王陛下の映像はお構いなしに喋り続ける。

「うちの旦那も子供たちも大・大・大元気よーっ!そっちはどーお?」
「相変わらずね、ルウおばちゃんったら!」
立ち直りつつもシルフィナは呆れきっていた。
実は女王ルウリアはシルフィナの亡き母の知り合いで、子供の頃はよく遊んでもらったものだ。

「デュークさんと仲良くしてるぅ?あ、そうそう子供はまだ?」
「大きなお世話よ!まったく・・・」
痛む後頭部を押さえつつ、シルフィナは映像を恐い目でにらんだ。

「あたしの方はねー、この間ついに100人目生んじゃったのよー!
ロイったら頑張っちゃうもんだから、えへへへ・・・・・」
「ロイおじさんも大変よね、こんなのが奥様で女王様なんだから・・・で、なんの用なのかしら。」
シルフィナはフゥッと溜息をついた。
世間では遥か昔に死んだとされる伝説の英雄王・ロイフォードがルウリアの夫なのだ。

「コホン・・・さて、本題に移りましょう。
大陸中央のテラメキルラ山脈の東の端にチョリンという名前の小さな町があります。
そこでは大昔、白羽祭という秘密の祭をしていました。
その後、街道の行き来が盛んになると何時の間にか廃れてしまい、文献に記録が残るだけになっておりました。
先日、夫がこの町を訪れた時に懇意にしておりました宿屋の主人から、このたび祭りを復活させると聞きました。
日頃この町の方々には並々ならぬご厚情を賜っており、ぜひ協力したいと思い立ちました。
よろしければ、そちらでもツアーのプランなど企画していただけないでしょうか?」
「よ−するに、町の人から客寄せ頼まれて、人のいいロイおじさんが断りきれなくなっちゃったのね。」
シルフィナは頬杖をついて呆れたように言った。

「ついでといっては何ですが、私どもの知り合いで祭りに行きたいと言うものがおります。2名予約ということでお願いできないでしょうか?」
「なーにが『私どもの知り合い』なんだか・・・自分がロイおじさんと一緒にお忍びで遊びに来るくせに!」
これがルウリアが人間界で遊びまくるときの常套手段であった。
つまりシルフィナ観光会社に無理矢理ツアーを組ませて、ツアー客に紛れて大陸中を遊び歩いているのだ。

「では旦那様・フレイナちゃんともどもお元気で・・・・・
追伸、さっさと子供作りなさいよ!貴方のお父様が心配してらしたわよー!」
「よーけなお世話よ!・・・っとにもーっ!!」
ビリビリビリッと手紙を破り捨てて足元のゴミ箱に叩きこむと、シルフィナは腕組みをして考え込んだ。

(確かにオモシロイ企画になりそうよね。このあたりの人は海しか知らないし、山の中も悪くないか・・・)

*********

「と、言うわけでね。これが白羽祭ツアーのパンフよ。すぐに港の観光受付に渡してきてちょーだい。」
「ふーーーん、白羽祭ねえ・・・。あれ?」
パンフレットを読むデュークの手が止まった。掲載された小さな地図の一点で指先が止まる。

「この町はもしかしてチョリンって言うんじゃ・・・」
「ええ、そうよ。知ってるの?」
この時、シルフィナがデュークの顔を見ていたら、なんとも困ったような表情を不信に思っただろう。
だが、泊まり宿の手配の書類を書いていた彼女は気づかなかった。

「あ、あのさ・・・・シル。」
「勤務中は『社長』と呼びなさい!」
デュークはピシッと背筋を伸ばした。

「あ、はい・・・社長、この企画は、その・・・・・
そう!ローカルすぎてあまりお勧めとは言えないのでは・・・」
「いいんじゃない、最近はローカルな企画が結構受けてるし。
それにルウおばさんはともかくロイおじさんの顔を潰すわけにいかないでしょ!」
ちょっとイラついたような声でシルフィナはデュークを怒鳴った。
ギクッとしたデュークは身を縮こまらせた。

「いや、でも・・・・・」
「あーっ、もうグダグダ言ってないでさっさとパンフ届けに行ってきなさい!
フレイナ!パパと一緒に波止場まで行って来てね。」
バターン!ドアが勢い良く開いて一匹のドラゴンが首を突っ込んできた。

「ハーイ!さあ、行こ、行こ。パパ!」
「コ、コラ!フレイナ、放しなさい、放しなさいってば!」
ドラゴンに襟首を引っ張られデュークは外へ連れ出された。
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■ 第二章・漂着した監視者
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ヒョォォォッ・・・
冷たい風の中をデュークを乗せたドラゴン・フレイナは降下を開始した。
眼下に何十もの倉庫が立ち並ぶ港が見えてきた。
大陸でも有数の港町だけあって、入航している大型貨物船・客船だけでも20隻以上、
小型の船は100隻を越えている。
一角には入国手続きや検査を行う大きな建物がもある。
観光局の事務所もここにあった。

「よぉーし、フレイナ!広場に着陸!」
「了解、パパ!・・・じゃなくて営業部長!」
デュークは営業部長であり、唯一人の社員であった。
そしてフレイナは唯一匹のアルバイトのドラゴンであり、デュークの養女でもあった。

「ん?」
「どうした、フレイナ?」
フレイナは急降下を中止し、翼を広げて空中静止に入った。

「ほら、パパ!アレ、なんだろ?」
フレイナが首を向けた先、桟橋のひとつに黒山の人だかりができている。

「なんだろね、パパ?船が入航してるわけでもなさそうだけど。」
「う〜ん・・・あれれ?」
海中を巨大な何かが桟橋に向かって近づいてくる。
一見、鯨のようだが鯨よりも遥かにでかい。しかも人を乗せた筏らしきものを曳航している。

ズザァァァッ。
やがてその影は大量の水飛沫を高々と上げて海上に半身をあらわした。
眩しい日差しに目を細める表情が巨大さにも関わらず可憐な人魚の娘だった。
首を一振りすると、潮に濡れたブルーの髪が水滴を雨のように降り注がせた。

「あれはマリーネちゃんじゃないか?どうやら遭難者を救助してきたみたいだね。」
デュークの言う通り、巨大な影は顔見知りの人魚であった。
彼女が曳航してきた、丸太を縛り合わせただけのお粗末な筏の上には座り込んだ人影が三人。
うち真中の一人は若い女性らしい。
全員が黒い服(というよりボロ布)に身を包み、疲労のあまり立ちあがる気力もないようだ。

「ねえ、あの人たち魔界の人じゃないかしら?」
「そうみたいだけど・・・」
魔界とは過去には緊張状態だったこともあるが、最近では緊張緩和されており、街中で魔界人を見かけることも多くなってきた。
しかし、魔界人が海で遭難しているのは珍事といえるだろう。

「おっと、見物してる場合じゃなかったな。さっさと観光課の連中と商談しなきゃ。」
「ハァイ!それでは着陸しまーす!」

**********

彼らはフラフラしながら、筏から船着場に這いあがり、よろけながら立ちあがった。

「大丈夫?」
背後の海中から顔だけだしたマリーネが声をかける。

「え・・・ええ、大丈夫よ、これくらい。」
真っ先に立ちあがったのは結構プロポーションのいい若い女。
黒いストレート・ヘアを肩の少し下まで伸ばし、どことなく気品のある顔立ちは生まれの良さを滲ませている。
かなりの美人だが、疲労のせいか青みを帯びた肌にはつやがない。

「あんまり無理しないほうがいいわよ。
大体あんな丸木舟でクラナリア海を横断しようなんて無謀通り越して馬鹿だよ?」
「ば、馬鹿とは何事か?我らがご主人様の・・・ご息女・・・に向かって・・・・・ウウッ、ウゲッ。」
ヒョロとした鼻のデカイ男と、背は低いがガッシリした筋肉質の男が付き従う・・・が、こちらも元気がない。
女はパンパンと自分の顔を叩いて気合を入れ、背筋を伸ばして町並みを指差した。

「見よ!我らはついに辿り着いたぞ!ここがターゲットが住んでいる港町だ!」
呆然とする周囲の野次馬の視線を無視して尊大な態度で宣言したのである。

「ハハッ!故郷を船出して僅か3ヶ月でここを探し当てるとは見事でございます、ギルーネ様。」
鼻のデカイ痩せ男が姿勢を正して応える。

「ふふふ・・・あまり誉めないでくれ、ナゲッキー。照れるではないか。」
女・・・「ギルーネ様」と呼ばれた女は妖しく微笑した。

「けど、ギルーネ様。」
背の低い筋肉質の男が異論を挟んだ。

「何かしら、タカトビー?」
「素直に船賃払って貨物船に乗ってたら3日で着いてたんやおまへんか?」
おかしな方言の男・タカトビーの一言でギルーネは沈黙し、うずくまった。

「そーよね、そよーね。私が衣装に無駄遣いしないで切符買ってりゃ予算オーバーしないで済んだのよね。
そーすりゃ、宿追い出されることもなかったし、お船にも乗れたし、海の上で迷って3ヵ月も漂流しないですんだよね。なーにもかも、私一人の責任なのよね・・・・・」
地面に「の」の字を描きながらギルーネはいじけていった。

「馬鹿!お前が余計なこと言うから、ギルーネ様いじけちまったじゃないの!」
「せやけど、ナゲッキーはん、予定より大分遅れてしもたし・・・」
困り果てる二人の前でギルーネは更にいじけ続けて地面は「の」の字だらけになっていた。

「お姉様たちみたく、すっごい魔法も使えないしさ、かけっこもビリだったしさ・・・」
イジイジイジ・・・いつのまにか地面は「の」の字で埋め尽くされていた。

「マズイでナゲやん、このままや仕事にならしまへん!」
「いやそれどころか、このままではご主人様からお仕置きされるかも・・・」
その時、ギルーネの耳がピクッと動いた。

「我らがご主人様は魔界でも名門中の名門、このような失態がバレでもしたら・・・」
「そう!今回の使命は我が父上直々の命令!グズグズしてはおれぬ!」
ズズズゥン!いきなり立ち直ったギルーナの体が気合で一気に巨大化した!
足元の灯台を一跨ぎできるほどの身の丈は6リムル(600m)!
漆黒の翼を大きく広げると陽光が遮られ、あたりは夜のように暗くなった。

「おもしろい人たちだね、パパ。」
人間の女の子に姿を変えたフレイナが楽しそうにギルーナを見上げて言った。

「魔界にも変わった人がいるんだな。」
デュークも面白そうに見ていた。

「ところでさぁ、あんたたちの使命って何?」
マリーネがシラケた顔で聞いてみた。

「フッフッフッ・・・内密の命令を貴様らごときに話せるものか!」
「あっ、そう・・・本当は自分達も知らないでしょ?」
「馬鹿なことを言うな!詳しくは父上直筆のこの命令書に・・・・あ、あれ?」
懐を探っていたギルーナの顔色がサッと青くなった。

「ない?ない!大事な命令書が!!」
ギルーナはポケットを、マントの裏を、シャツの下を、スカートの下を、靴の中を捜し続けた。

「あれがないとターゲットがわかんないよー!」
「あっ、そう・・・せいぜい頑張ってさがしてね。」
いかにもくだらないことで時間を潰したとばかりに、マリーネは泳ぎ去っていった。

「どーしよ?父上から預かった大事な命令書、無くしちゃったよーーー。」
「落ち着いてくださいよ、ギルーネ様。」
「そやそや、『慌てる者も歩けば藁をも掴む。』とか言うやありまへんか。」
半泣き声のギルーナを何とかなだめようとする付き人二人。

「あのー、これじゃありませんか?」
足元に落ちていた黒い筒をデュークは拾って差し出した。

「ああ!それよ、それ!ありがとうございますゥ!」
「アハハハッ、どういたしまして。困った時はお互い様ですよ。それより・・・早く何か着た方が・・・」
「えっ?あ・・・キャァァァ?私ったら裸・・・」
ギルーナは悲鳴を上げた。命令書を探すのに必死になりすぎて、着ている物をパンティ以外は全て脱ぎ捨ててしまったのに気づいていなかったのだ。
大慌てで服を着直したギルーナに命令書の入った筒を渡すと、デュークはフレイナの方を向いた。

「じゃあ、次は隣町の観光協会へ行こうか、フレイナ。」
「ハアイ!フレイナちゃん、飛竜モード・チェンジィィィ!」
グウゥゥゥン。フレイナは服を脱ぎ捨てながらその姿と大きさを変えた。
身の丈は人間の10倍ほどになり、僅かに膨らんでいた胸は鱗に覆われていった。
瞬く間に少女は小型のドラゴンへと変身していた。

「さ、今日中に後12ヶ所回らなきゃ。急いでくれよフレイナ。」
「了解、パパ!じゃあ背中に乗って。」バサッ、バサッ!
そしてデュークを乗せたフレイナは風を巻いて大空へ飛び去った。

「それで、ギルーナ様。命令書には何と?」
「ちょっと待ってて、今読むから・・・何々?
『かの地に在住するデュークとその妻を監視し、変化があらわれ次第報告せよ。』
ふむ、ではまずデュークという男を捜すとしよう。おい、そこの漁師!」
ギルーナは足元を通りかかった漁師を指差した。

「あ?オラのことだか?」
「そうだ、デュークなる人物の居場所を知っているか。」
先ほどまでの泣きべそは何処へやら、ギルーナは横柄な態度で詰問した。

「シルフィナ観光のデュークさんケ?勿論、知ってるだよ。」
「では教えてもらおうか、隠し立てすると為にならんぞ・・・」
「あそこだよ。」
漁師の指差す先、デュークを乗せたフレイナは既に遠く飛び去っていった・・・

「ああ?ちょっと待ってぇぇぇ・・・」
もうギルーネの声も届かないくらい遠かった。

**********

「ふっふっふっ・・・・ついに、ついに見つけたぞ・・・ふぅ。」
2日後、ギルーネたちはシルフィナ観光のドアの前にいた。

「流石はギルーネ様でございます。この広い街の中で僅か二日でターゲットの潜伏先を捜し当てるとは!」
「フッ・・・そんなに誉めるな。大したことではない。」
ナゲッキーのミエミエのお世辞に気をよくするギルーネ。

「けど、観光事務所で問い合わせたらすぐに分かったんとちゃいまっか?」
「・・・・・」
タカトビーの一言でギルーナは沈黙し、うずくまり、地面に指で「の」の字を描き始めた。

「そーよね、そーよね。素直に尋ねてりゃ2日も無駄足ふまないですぐにここへこれたのよね。
私って昔からドジで間抜けで役立たずって・・・・・」
うつむいたギルーナは半ば泣き声でつぶやき続ける。

「アー、もう!タカトビーの馬鹿!ギルーネ様がまたイジケちゃったじゃないの!」
「そ、そんなこと言うたかて、ナゲやん・・・」
ナゲッキーに叱られてオドオドするタカトビー。
ギルーネは依然としてイジイジいじけ続けている。
ナゲッキーは意を決して声をかけた。

「ギルーネ様、落ち込んでおられる場合ではございませぬ!」
「うぅぅぅ・・・・・・私なんか・・・私なんか・・・」
「貴方様は魔界にその人あり、と恐れられたアクマード様の末娘!」
「・・・・・」
「お父上より命ぜられた難業を成し遂げられるのは貴方様をおいてございませぬ!」
「それは・・・そうなんだけどぉ。」
「さあ、今こそ立ち上がる時がきたのです!貴方様の真の実力を世に示す時がきたのです!」
「フハハハ、分かっておるわ!我が真の実力、今こそみせてくれるわ!」
高笑いしつつ、ギルーネは立ちあがった。

「ご立派でございます、ギルーネ様・・・(ホント、単純なんで助かっちゃう。)」
タカトビーと一緒に路上で平伏しながらナゲッキーは安堵の溜息をついた。

「ところでなー、ナゲやん。」
「何よ、タカトビー?」
「この会社の名前なんやけど・・・」
タカトビーが見上げる看板には
『地上海中空の上、妖精界から魔界まで旅はお任せ!シルフィナ観光』
と書かれていた。

「『シルフィナ観光』ってあのシルフィナとちゃいまっか?」
タカトビーの言葉に一瞬三人は顔を見合わせた。シルフィナの名には記憶があった。
逆らう奴には容赦なし、魔界の猛者でも一目置いた『皆殺しのシルフィナ』。
ほんの数年前までエルフ族きっての極悪娘として名を馳せた無法者の名前として・・・

「フッ・・・心配はない。」
ギルーネは自信たっぷりに言いきった。

「と、言いますと?」
「まあ聞け、ナゲッキー。
命令書によれば確かにシルフィナというのはこの会社の経営者のエルフ娘の名前だ。
そして今回のターゲットのデュークとか言う男の妻だそうだ。」
「そ、それで?」
「私は『皆殺しのシルフィナ』のことならよーく知っておる。
間違ってもあの乱暴者と結婚しようなどという命知らずのアホな物好きなど世界のどこにもおらん!」
「では、安心してもよろしいので?」
「保証しようとも!私を差し置いて奴が結婚するなど、世の終わり・・・」
「どちら様ですかぁ〜?」
シルフィナ観光の店の向こうから建物よりも大きな顔がヒョッコリあらわれた!
恐らく座り込んで何かの作業をしていたのだろう。
今まで死角になって見えなかったのが、ゆっくりと立ちあがるにつれ途方もない大きさが初めて認識できた。
商店街の建物の高さなど彼女の膝までもない。
手に持った三十人乗りのゴンドラさえ小さな籠にすぎない。
銀色の髪が陽光に輝く様は流れ落ちる巨大な滝ようだ。

「お客様ですか・・・って誰もいないわね?声がしたと思ったんだけど。ねえ、レビィ?」
「お客サンとチガったか、社長サン?」
レビィと呼ばれた、女性の顔を持つ黒い巨大な怪鳥がバサバサと飛びあがり、巨大エルフの肩にとまった。
キング・ハーピー種として知られるこの怪鳥も街の一角を覆い隠すくらい巨大なのだが、エルフの肩にとまると鷹くらいの鳥にしか見えない。

「あのー、カウンターの中に入ってこられると困るんですけど・・・」
シルフィナ観光の向かい側のパン屋の店員は当惑していた。
怪しげな三人組が、いきなり店内に飛びこんできてカウンターの裏に隠れてしまったのだ。

「な、な、なんで『皆殺しのシルフィナ』が平和に観光会社なんか経営してんのよ!?」
歯をガチガチいわせながらギルーネは狼狽していた。

「そ、そんなこと言うたかて、アレ、マジでほんもんのシルフィナでっせ!」
タカトビーもカタカタと膝を震わせている。彼も『皆殺しのシルフィナ』の恐るべき噂の数々を聞いていたのだ。

「ギルーネ様、ひょっとしてターゲットの妻という情報はガセなのでは?」
「え?そうよ、そうに違いないわ!あのシルフィナが結婚できるワケが・・・」
「あら、デュークさん帰ってきたわ。」
店員の一言に3人はそーっとカウンターから首を出した。
今しも、デュークを乗せた一匹のドラゴンが降下してくるところだった。

「ただいまー!社長・・・」
「ただいまー!ママ!」
「お帰りなさい。二人ともご苦労様。」
シルフィナが差し出す手の平の上にフレイナはフワリと着地した。
大きく翼を広げたフレイナも巨大な手の上では小さな蝶々程にも見えない。
フレイナから降りたデュークは地上2リムルの高さを気にもせず、書類の束を差し出した。

「社長、アグリ市商店街から団体予約が入りました。これで定員枠は埋まりましたよ。」
「ふーん、どれどれ・・・・・よく見えないわ。」
手の平の上のデュークは書類を大きく広げシルフィナを見上げた。

「えっとですね、ここ・・・・・?!」
間近に巨大な唇が迫っていた!口紅の朱が艶かしい・・・

チュッ・・・
「ムグッ!ムグググ・・・・・」
布団のように柔らかく暖かな巨大な唇に押さえ込まれて、デュークはジタバタもがいた。
暖かく甘い香りで一瞬気が遠くなる。
やがて圧倒的な重圧は名残惜しげに引いていった。

「・・・あー、ビックリした!シル、今は仕事中なんだから、そーゆーコトは・・・」
「今は昼休み中よ、アナタ。一分前からね。」
「あ・・う・・・」
視界を占領した大きな笑顔がデュークをときめかせた。

「やってらんないデス。アタシまだ独身なのに、目の前でイチャつかれて・・・」
肩の上のレビィは不機嫌そうに愚痴をこぼした。

「ねーねー、パパ、ママ!これから子供作るの?」
シルフィナの周囲を旋回するフレイナがやや興奮気味に言った。

「な、なにをいきなり・・・」
「そうよ、これからってわけじゃ・・・」
「弟がいい!弟、弟!おと−とだよー!!」
真っ赤になってしどろもどろの言い訳をするシルフィナたちだが、フレイナは全然聞いてない。
そんなほほえましい風景の影で・・・

**********

「ほんと、いつまでも新婚気分の抜けない夫婦なのよねぇ。妬けてきちゃうわ。」
パン屋の店員は(少し羨ましそうに)溜息をついた。
しかし彼女の足元の人物は少し状況が違った。

「マジで結婚してたんでんな、あのデュークとかいう男。」
「しかも相手が『皆殺しのシルフィナ』とは驚きましたね、ギルーネさ・・・ま?」
ナゲッキーとタカトビーの前でギルーネはメラメラと炎のような妖気を発していた!

「おのれ、シルフィナ!『この世で最も男と縁遠い女』と呼ばれた貴様がッ!
私より先に男ひっかけて結婚しているとは!認めん、認めんぞッ、断じて!」
「あのー、ギルーネ様?もしかして嫉妬してるんですか?」
「やかましい、ナゲッキー!」
バコッ!「ウギョッ!?」
ナゲッキーは床板に顔面を叩きつっこまれて沈黙した。

「私に恋人の一人もいないことも、ロクな縁談もないこと関係ない!」
「あーあ、本格的にヤキモチ妬いてまんなぁ・・・プゲッ!」
ズガッ!タカトビーは思いっきり蹴飛ばされて壁にめり込んだ!

「シルフィナめェ、いずれ目にモノ見せて積年の恨みを晴らしてくれるわ!フハハハ・・・」
「ちょっとお待ちを・・・」
高笑いしながら復讐を誓うギルーネの肩にポンと手を置いた者がいた。パン屋の店員だった。

「ん?何だ、貴様に用などない・・・?」
ギルーネは店員の凄まじい形相に圧倒された。

「貴方がたった今壊した床と壁の修理代、お支払い願えますか?」
「・・・・・ご、ごめんなさい、今は持ち合わせが・・・あああ!どうか、冷静に・・・」
復讐は前途多難なようだった。

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■ 第三章・出発の朝
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「いよいよ出発だねー、シルちゃん。」
「ハイ、さようでございます、お客様。」
客の一人、品の良さそうな妙齢の美女がシルフィナに親しげに話しかけてくる。
緑色の髪からすると妖精族らしいのだが・・・妙になれなれしい態度でシルフィナにつきまとっている。
対するシルフィナは必要以上に事務的な応対だ。

「ホントに楽しみよねー、どんなお祭になるのかしら。」
「それは到着してからのお楽しみでございます、お客様。」
「シルちゃん、最近、なんだか私に冷たいのね。」
「別にそういうわけではございませんわ、お客様・・・」
「反抗期なの?それとも私が嫌いになってしまったの?亡くなられた貴方のお母様になんと言い訳すれば・・・」
「あーモウ!こっちは仕事中なんですから!」
とうとうシルフィナは怒りだし、さっきからまとわりついてくる女性客を一喝した。

「・・・・・しばらく大人しくして頂けませんか、女王陛下!」
「まぁ?『女王陛下』だなんて他人行儀な呼び方をするなんて。
もう『ルウお姉ちゃん』とは呼んでくれないのね、なんと悲しい・・・。」
シルフィナは頭を抱えた。これが妖精界を治める女王だというのだから・・・
女王ルウリアと言えば本来、多忙でこんなところにいられるハズがない人物なのだが、
恐らく仕事を全部、妹のエミリアに押し付けて逃げて来たに違いない。

「子供が100人もいる相手を『お姉ちゃん』なんて呼べますか!せいぜい『おばさま』が相場でしょ。」
「・・・クスン、仕方ないわね。過ぎ去った青春の時はもう戻せないのね。」
「とにかく!出発までジッとしていてください!!分かりましたね?」
泣いたフリをするルウリアを放り出してシルフィナはゴンドラの外へ出た。
外へ出るとデュークがゴンドラの下部に荷物を縛り付けているところだった。

「ルウおばさんは大人しく乗ったかい。」
「乗せたわよ、大人しくはないけど・・・ね?!」
いきなり後から突き飛ばされてシルフィナは顔面から地面に突っ込んだ!

「ヤッホー、デュークちゃんったらお久しぶり!お元気ぃ?」
「あ?ルウリアさん、こ、困りますよ、仕事中なんですから!」
ルウリアがシルフィナに体当たりをぶちかまし、デュークに抱きついたのだ。

「あ、あのですね、あんまりくっつかないで・・・」
「だってぇ、デュークちゃんってからかうと面白いんだもん・・・ハッ!この殺気は?」
強烈な視線に振り向くと土を払いながら立ちあがったシルフィナが、にこやかに微笑みながら物凄い視線をぶっつけていた。

「お客様・・・・・出発時刻ですので・・・・・席にお戻りくださいませ。」
「あ、あのね、シルちゃん。これはホンの冗談だから、そんなに殺気だたなくても・・・」
「お・も・ど・り下さい!(怒)」
「ア、アハハハハハ・・・じゃあ、またねデュークちゃん!」
「・・・・・ほんとにもう、いつまで立っても子供なんだから、あの人は。」
ぶっきらぼうに言い放ったシルフィナは荷物に目を止めた。

「ねえ、それ・・・・・」
「ああ?商店街の会長の息子さんから途中にある村の友人まで届けてくれって頼まれてさ。」
・・・木箱の中でゴソゴソと何かが動く音がした。

**********

「ギルーネ様、あいつら気ィついておりまへんで!」
「流石はギルーネ様、目のつけどころが我等凡人とは違いますな!」
「ふっふっふっ・・・甘い、甘いぞ、シルフィナよ・・・
高貴なる魔界の者にとっては体の大きさを変えるなど朝飯前!小さな木箱の中とて、このとおりよ。」
木箱の中でギルーネはほくそえんだ。
実のところ、シルフィナたちが今日出発するのを知り、ギルーネは焦った。

(『絶対目を離すな!』と父上から厳命されていると言うのに!
もし追跡できなかったら父上からどんなお仕置きが・・・)
何とかついていく方法はないものか?と探しまわった挙句に積荷の木箱に気がついた。
そして体の大きさを手の平に乗るくらい小さくして蓋の隙間から潜り込んだのであった。

「フハハハ・・・我等の目から逃れようとは片腹痛いわ!」
「『皆殺しのシルフィナ』も所詮は平和ボケしたというところですな!」
「ホンマ、あいつらアホとちゃいまっか!ワハハハ!」
薄暗い木箱の中に3人の笑い声が反響した。

**********

「・・・何処の誰だか知らないけど、叩き出してやる!」
シルフィナは頭に血を上らせ、箱の蓋に手をかけた。
だがデュークがそれを止めた。

「いや、このまま気づかないふりをしてあげよう。」
「でも・・・」
「昨日、パン屋さんで聞いたんだけど、この三人、魔界から出てきたばかりでお金がないらしい。
今、パン屋の屋根裏部屋に住み込みでバイトしてるんだそうだ。」
「それがどうしたのよ?」
「お金がなくて旅行どころか、街中に遊びにも行けないらしい。だから・・・大目にみてあげよう。」
「まあ、貴方がそう言うのなら・・・今回は見逃してあげる。」
こうして、招かれざる客3名様の潜む木箱は無事、ゴンドラの中へ運び込まれた。

「全員乗ったわね、っと・・・あらら、ロイおじさんが来てないみたいだけど?」
「あっと言い忘れてたけどロイはね、急なお仕事入っちゃってこれなくなったのよ。」
いかにも残念そうにルウリアが答えた。

「ふうん、珍しいこともあるわね、ロイおじさんが来ないなんて?まっ、とにかく全員集合か。」
ゴンドラの中へ入ったシルフィナは乗客名簿を確認し、35人の老若男女の前へ立った。

「本日はシルフィナ観光をご利用いただきまことにありがとうございます。
これより秘境の名案内人デュークと飛竜フレイナの導く山間の古都・チョリンへと、
世界最高速のキング・ハーピー、レビィが皆様をお運び致します。
申し遅れましたが、わたくしはガイドのシルフィナと申す者。
到着まで皆様のお相手を勤めさせていただきます。」
「わぁーっ、綺麗なお姉ちゃんだぁ!」
パチパチパチ・・・前列に座っていた男の子が一生懸命拍手した。
子供から「綺麗なお姉ちゃん」と呼ばれて、シルフィナも悪い気はしない。

「ありがとうございます、かわいいお客様。」
「とっても綺麗よォ、シルお姉ちゃん!」
わざとらしくおだてるルウリアだったが、もちろんシルフィナは黙殺した。

「では、皆様。シートベルトをしっかりとお締めください。」
全員がシートベルトを締めたのを確認して、シルフィナはサッと右手を上げた。
レビィが漆黒の翼を広げた。地面に広がる影が広場全体を薄暗くした。

「では、離陸だ。フレイナ!」
「了解、パパ!」
フレイナが皮膜質の翼を広げると、足元から土埃が立ち上った。
周囲の重力場に微妙な変化が生じ、フレイナの足が地を離れた。

「発進!!」
デュークの掛け声でフレイナは軽やかに、レビィは力強く羽ばたき、広場に一陣の突風を巻き起こした。
背に人間を乗せた一匹のドラゴンとゴンドラ掴んだ巨大な怪鳥は雲を突き抜け青空へと駆け上った。

**********

早朝に離陸してから半日、日が高くなってきた頃に一行は壮大な山脈の上空を飛んでいた。
乗客たちはお菓子と飲み物を手渡されくつろいでいた。
子供たちが窓から下を、入れ替わり立ち替わり覗きこんでははしゃぎまくっていた。

「わぁー、すごい、すごい!」
「ガラスでできたお山だぁ!」
「お日様が当たっていろんな色に光ってるぅー!」
「とってもきれいー!」
シルフィナははしゃぐ子供達に微笑み、ガイドを続けた。

「眼下に広がる大渓谷をご覧いただけますでしょうか。
この地、クリスタルグラス・キャニオンは幅8000リムル(800km)、長さ90000(9000km)リムル、深さは最深部でなんと550(550km)リムルに及ぶ、全てが水晶でできた谷間でございます。
この地に妖精たちが訪れる以前から存在したとされるこの風景は、世界が生まれた時からの全てを記憶しているとも言われております。
事実、この地の水晶は目の前で起きた光景を記録し、強い光を受けるとそれを再生するという不可思議な性質があり、太古の世界の姿を時に浮かび上がらせることさえございます・・・」
シルフィナの言葉を証明するように、左手の大きな水晶の一面に何かの大群が空を飛ぶ様が映し出された。

「あ!ドラゴンだ!ドラゴンの群れが飛んでいるよ!」
驚く客の前に巨大な水晶の柱にはは新たな光景が次々と映し出された。

「こっちは隊商の行列だ。荷物をあんなに沢山つんでいる。」
「あ、あれは戦争かな?大勢の人間が戦っているぞ。」
「海だ、海が映ってる。ここらは昔は海だった時代もあったんだ。」
「見て見て!ピクシーさんたちが踊ってるよ、あんなに大勢で。」
水晶に映し出される過去に客は驚き興奮した。

「この不可思議な谷は悠久の時の彼方の出来事を忘れることなく、鮮明に永久に記憶し続けるのでございます。」
流暢に楽しそうに解説するシルフィナを見てルウリアは何かを思い出したように口を開いた。

「ねえ、シルちゃ・・・じゃなかったガイドさん。」
「は?何でしょうか、ルウおば・・・失礼、お客様。」
「少し、ほんの少しでいいから寄り道してくれないかしら?」
「えっ、しかし・・・観光飛行コースは決められておりまして。」
シルフィナは少し困った。
この飛行コースはお客様に喜んでもらえそうな綺麗な風景が見えるルートを事前視察して決めたものなのだ。

「ほんの少しだけなのよ。ね、お願い。」
「はあ、他のお客様に了解していただけるなら・・・」
いつもふざけてばかりいるルウリアの真剣な目にシルフィナはコース変更を承諾した。

「ねーねー、パパ。こっちに何があるのかな?」
「さあ?このあたりは俺もまだ見たことがないからね。お、あの水晶だな。」
フレイナの背の上でデュークは前方に注意を集中した。
前方にはひときわ大きな水晶の柱がそびえていた。
天を貫くような先端に雲がかかる高さは30リムル以上といったところか。
一行が接近するとそこにも何かが映像を結びはじめた。
最初はぼやけた人の姿にしか見えなかったものが、ピントが合うにしたがって一人のエルフの姿を映し出した。
右手に水晶球を、左手に一輪の百合の花を持ったその女性は穏やかに笑っていた。
子供に微笑みかけるような優しい笑顔だった。

「あれは・・・あの人は確か・・・」
「パパの知ってる人?」
「・・・知っているよ、会うことはできなかったけどね。」
「ふうん、ちょっとママに似てるね。」
デュークの答えは声の調子を少し落としていた。
そしてシルフィナは、ガイドに許されないことではあったが、沈黙していた。
動かすのを忘れてしまった唇から、ただ一言だけを外へ出した。

「・・・お母さん・・・」
デュークに出会う少し前に他界した母の元気な頃の姿がそこにあった。

「だんだん、母親に似てきたわね・・・」
瞳を潤ませるシルフィナの横顔を見て、ルウリアは顔をほころばせた。
それからルウリアは傍らの木箱に視線を向けた。

**********

「外、楽しそうですね、ギルーネ様。」
「・・・」
「お菓子やらなんやら、美味そうでんなぁ。」
「・・・・・」
「お腹すきましたね。」
「・・・・・フン。」
「何や、わびしいでんなぁ。」
「あーっ!うるさぁーい!!言われなくても分かって・・ムゲガッ!?」
小さな木箱の中で大声を張り上げたギルーネをナゲッキーとタカトビーは慌てて押さえつけた。

「ギルーネ様、お静かにったら、お静かに!」
「そやで!こんなところで他の乗客に気づかれたらどないしまんねん!」
と言っても、デュークたちにはとっくにバレているのだが。

「わかったわよ、モウ・・・それにしても、この荷物は何なのだ?」
彼等が潜む木箱の中には10冊一組の封をした本らしきものが入れられていた。

「対衝撃保護の魔法がかけてあるのはわかるとしても、この厳重な封は何の為に?」
ギルーネは積み上げられた本を見上げた。
週刊誌程度の厚さの本だが、今の彼女の大きさでは家の屋根よりも高い。
一冊一冊が帯留めで封印され、ハサミかナイフで切らなくては本を開くことはできない。

「もしや・・・父上が探れと命じた秘密がこの本に?ナゲッキ−、封を切れ!」
「ハハッ、仰せのままに・・・エイヤッ!」
ナゲッキーの右手が一瞬銀色に輝き、薄闇を一閃した。
本の封は鋭利な刃物に切られたかのように切断されて落ちた。

「ふむ、では・・・」
ギルーネは本の上に飛び乗り、表紙を蹴り上げた。

「オオッ!これは?これは一体・・・・・」
本の上に飛び乗ったギルーネは目を見開き、身を硬直させた。

「ギルーネ様、何が書いとりまんねん?」
「何かの格闘術の解説らしい。人間どもの武術の極意書かもしれん。」
タカトビーの問いに半ばうわの空で答えるギルーネ。

「していかなることが書いてあるのですか?」
「奇妙な掛け声を出しながら相手を組み伏せようとしているぞ。」
「奇妙な掛け声?」
ナゲッキーは首をかしげた。

「『うふーん』『あは〜ん』とか・・・」
「はぁっ?なんか変な極意でおまんなぁ?」
タカトビーも首をかしげたが、ナゲッキーの方は顔が強張った。

「筋肉の動きがよく見えるように裸で組み手をしておるな。」
「あ、あの・・・ひょっとして男が女を押し倒してる絵では・・・」
「おお、そうとも!よく分かったなナゲッキー。いやこちらには女同士の組み手も・・・」
ナゲッキーは慌てて本の表紙を見た。丁寧な装丁に金色で書かれた題名は・・・

『インビー・ジョーンズ 最高の性戦−−未成年の方はご遠慮ください−−』
ナゲッキーは血相を変えてギルーネに飛びかかり、本が読めないよう彼女の目を両手で押さえた。

「ワッ!こ、こら、ナゲッキー!なんで目隠しをする?」
「見てはなりませぬ、お嬢様にはまだ早すぎ・・・」

**********

カタカタと揺れ動く木箱を見て、ルウリアは溜息を洩らした。

「ふぅ・・・アクマードの奴、もっとマシなのを派遣できなかったの?
魔界も人材不足なのかしらねぇ?・・・・・あら、シルちゃん、何かご用?」
何時の間にかシルフィナが木箱の前にやってきていた。

「ん?ああ、この荷物の届け先はね、この真下の村なのよ。ここで投下するように頼まれてるの。」
言いながらシルフィナは木箱を担ぎ上げ、窓を開けた。

「ちょっと?!シル・・・」
「えい。」
開かれた窓からシルフィナは木箱を無造作に投げ落とした。
すごいスピードで落下していく木箱はすぐに雲に隠れて見えなくなった。

「よし,配達完了!っと・・・」
「あのね、シルちゃん、これ今の木箱に取り付けるはずだったんじゃ・・・?」
ちょっとうろたえ気味のルウリアの手には荷物投下用パラシュートが握られていた・・・
一瞬、シルフィナの表情が引きつった。

「だ、大丈夫よ!中身には対衝撃魔法がかけてあるから、このくらいの高度なら・・・」
「荷物は大丈夫かもしれないけど・・・誰か人が入っていたんじゃ・・・?」
一瞬、シルフィナの顔が蒼ざめた。

「だ、大丈夫よ!魔界の者だったみたいだから、頭にタンコブつくる程度よ。きっと・・・」
「そ、そうかしらねぇ・・・」
笑って誤魔化そうとするシルフィナにルウリアはちょっとあきれた。

**********

「うーむ、確かこの辺に落ちたと思ったんだべが?」
広い野原に若い男がウロウロと歩いていた。
何かを慌てて捜すようにキョロキョロしていた。

「村の衆に見つかると恥ずかしいからのう、はよう見つけにゃ・・・おっ、あった!」
粉々になった木箱の破片が散乱する空き地に男は駆け寄った。
大急ぎで散らばった本を拾い集め、土を払い落とし懐にしまい込んだ。

「8冊、9冊・・・あと1冊は、っと・・・あった、あった!」
封が破けたのか最後の一冊は開かれた状態で地面に落ちていた。

「これこれ!このレア本を忘れちゃ・・・なんだべ?!」
地に落ちていたエロ本がカサカサと動いたのだ。
ビックリして動くのも忘れた男の前でエロ本がスッと浮き上がった。

「よ、よ、よ・・・よくも私をこんな目に。」
エロ本を持ち上げたのは手の平に乗るくらいの小さな人影だった。
黒いレザースーツに身を包んだ人影はムクムクと大きくなり、人間くらいの大きさになり、さらに巨大化した。

「な、な、な、何事じゃぁ?!」
思いがけない出来事に男はペタンと座り込み、山よりも高くなった女の尻を見上げた。
日差しを遮る女の影は、かなり離れた村さえも覆い尽くしてしまった。

「すげえぇ、色っぽい巨大ねーちゃんが飛び出してくるとは、やっぱり都会のエロ本は違う・・・」
男は鼻の下を伸ばしながら、巨大女の尻を見上げ続けた。

「フッフッフッ・・・木箱に私が潜んでいるのに気づき、先手を打って私を投げ落とすとは。
流石は『皆殺しのシルフィナ』と呼ばれた大悪党よ・・・イタタタ。」
ギルーネは頭を押さえてしゃがみこんだ。どでかいタンコブができていた。
ちょっぴり涙が流れた。

「大丈夫でございますか、ギルーネ様!」
「エライ酷い目に遭ってしもうたがな。」
従者2名もフラフラしながら空中浮揚していた。

「と、と、とにかく!今度あったらただじゃおかないからね!なにしてんの、すぐに追いかけるのよ。」
「しかし、ギルーネ様。追えといっても・・・」
「どっちへ行ったらええんやら・・・」
広い空にシルフィナ観光一行の姿は既にない。
残されたのは行く先すら知らない間抜けな追跡者たちだけだった。
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■ 第四章・懐かしの我が家
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チョリンという名の小さな町があった。
かつては、戦略上の重要地点として城砦が築かれた山の周囲に自然発生的にできた村で、現在は品質のいい石炭と高山杉の産地として知られていた。
そのメイン・ストリート(といっても町で唯一の舗装歩道というだけだが)を二人の男が歩いていた。
ひとりは白髪混じりの初老の男、もうひとりはまだまだ少年の面影を残す若者だった。

「ビート、さっさと歩かんかい!ったく、のんびりしおって、誰に似たのやら!」
大きな薪の束を背負った初老の男はそう言って若い方を怒鳴りつけた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、父さん。お客様御一行が到着するまでには発着場に着くよ。」
ビートと呼ばれた若者は変わらずのんびりと応える。

「ん?あれじゃないかい、父さん。」
ビートが指差す先の空に黒い大きな鳥のようなものが飛んでいた。
かなり距離があるのに姿がはっきり分かるほど大きな黒い怪鳥だ。

「むむっ?確かにロイ殿が言っておったシルフィナ観光の送迎キング・ハーピーらしいな!」
「あのスピードなら、あと10分ほどで発着場に着くね。」
「こうしてはおれん!ワシはすぐに帰って支度するから、お前はお出迎えに行け!」
言い終わる前に親父はさっさと駆け出していた。

「ああっ?ちょっと父さん!・・・もうすぐに面倒な仕事は押し付けるんだから。」
ビートはブツブツ文句を言いながら町外れの発着場へと歩を速めた。

**********

「町の北にドラゴンの発着場がある。そこに着陸だ。」
「ハーイ。でもパパこの辺のことよく知ってるね。来たことあるの?」
フレイナの質問にデュークは身を固くした。

「あ、う・・・その、少しだけ来たこともあったかな?」
とぼけてみたものの内心は穏やかではなかった。
(できれば誰にも気づかれずにおきたい!知り合いに会いませんように!)
密かにデュークは心の中で祈っていた。

「着陸地点確認。町の北の発着場へ!」
先方を飛ぶフレイナの背からデュークの声が届く。

「了解!皆様ただいまより着陸体制に入ります。シートベルトをしっかりとお締めください。」
乗客が全員シートベルトを着用したのを確認するとシルフィナはゴンドラの扉を開けた。
ヒュゴォォォ・・・冷たい突風が吹き込んでくる。
地面まで3〜4リムルというところだろうか。

「それでは、しばし失礼いたします。」
シルフィナは乗客に向かって微笑み、床を蹴って空中に飛び出した。

**********

「フウフウ・・・なんとか間に合ったようだ・・・えっ!?」
急な坂道を駆け上がったビートは目を疑った。
巨大な怪鳥が吊り下げたゴンドラから人影がひとつ落ちたのだ。

「事故か!?・・・いや、違うか。」
人影は風に吹き上げられるかのように優雅に空中を舞い、ゆっくりと地上へと降りて行く。
やがて、人影は金色の光に包まれた。

「そう言えばシルフィナ観光のガイドさんはエルフの方だって言ってたっけ。」
ビートが見上げる上空で人影を包む光は爆発的に膨らんだ。
金の光の粒が乱舞する空間を人影は急速に拡大していった。
光がおさまった時にはドラゴン10匹が着陸できる大きな発着場を一跨ぎする巨大なエルフの姿があった。

「綺麗な・・・人だなぁ。」
見上げたビートは、ほんの少しだけ頬を染めた。
目の前のエルフの肌は巨大化してもきめの細かさは少しも変わらず、瞳は深い静かな湖面を思わせた。
銀色の髪が日の光に透けて光の粉を散らしている。
巨大さからくる威圧的なところは少しもなく、ただ美しさと躍動感が伝わってきた。

「あ?すいません、そこの人。」
「・・・・・」
「そこの人!」
「あ?は、はい、なんでしょうか。」
自分の事だと気づいてビートは慌てて返事した。

「あんまり、下の方へは来ないでくださいね・・・スカートの中見えちゃいますから。」
「あ・・・・・す、すいません!」
純情にも顔を真っ赤にしてビートは後へ下がった。

「では、お客様、失礼いたしまーす!」
シルフィナは腕を伸ばしてレビィからゴンドラを受け取った。
それをそっと地上へと下ろす。

「お疲れ様でした。ただいま、目的地チョリンに到着いたしました。
皆様、シートベルトを外してお降りください。」
そしてゴンドラのそばに先導係らしきドラゴンも着地した。

「やっぱ、都会の女の人って、あかぬけてていいよなぁ・・・いけね!お客様をお出迎えしなきゃ!」
ポゥッとなってシルフィナに見とれていたビートはこのとき我に返った。
大急ぎでゴンドラの傍へ立つシルフィナのもとへ駆け寄ってきた。

「すみませーん、遅くなりました。旅館『明け烏亭』の者で・・・・・」
ビートの挨拶は途中で消えた。先ほどのエルフがドラゴンから降りた男を手の平に乗せキスしていた。
男の顔は見えなかったが、エルフの表情を見れば二人がどんな関係は誰にでも分かった。

(そーかぁ、もうお相手がいたのかぁ・・・)
ビートは小さな溜息をついた。青年のほのかな恋心は1分もかからずに失恋を迎えていた。
気を取りなおしてビートは二人に近づいていった。

「シルフィナ観光の方ですね?遅れてすいません!ホテル『明け烏亭』の者です。」
「ああ、どうも!私はシルフィナ観光社長兼ガイドのシルフィナと申します。」
ようやく足もとのビートに気づいたシルフィナは手を地上に下ろしてデュークをビートの前に置いた。

「こっちは営業部長兼案内人のデュー・・・どうしたの、デューク?」
デュークは口を大きくあけ、目の前の青年を凝視していた。
対する青年も驚愕の表情で凝固している。

「お前・・・ビートか!?」
「やっぱり・・・デューク兄さん!!」
「ええっ!」「えっ?何?なに?パパの弟さんなのォ?」
今度はシルフィナとフレイナが驚く番だった。

「ビート!」「デューク兄さん!!」
二人は感無量の表情で駆け寄った。大きく腕を広げお互い抱きしめあい・・・

バキッ!
「あ痛ッッ!」
ビートの右フックがデュークの顔面に炸裂した。

「家出してから今まで何してたんだよ、兄さん!心配してたんだぞ!」

**********

「おっ、デュークじゃねえか!久しぶりだな。」
「家出して以来だね、デュークちゃん。」
「みんな、あんたのことを心配してたのよ。」
「もう親に心配させちゃ駄目だよ。」
道行く人が皆、デュークに声をかけてくる。

「だから帰ってきたくなかったんだ・・・」
腫れ上がった頬骨のあたりを押さえながらデュークは悪態をついた。
小さな町では皆顔見知り。デュークが昔、家出したことも帰ってきたこともすでに知れ渡っている。

「つまり今ではシルフィナさんと結婚して、フレイナさんを養女にして、観光会社に勤めてる・・・
というわけなんだね、兄さん。」
「そういうことだ。クソ、だからこの町へは来たくなかったんだ!」
旅館へ続く路上を再会した兄弟は肩を並べて旅館へと続く歩道を歩いていた。
その後を、シルフィナが家々の屋根をかるーく一跨ぎしながらついてくる。
お客さんたちを手の平に、半人半竜の姿のフレイナを肩に乗せて。

「おまけに何で親父は旅館なんぞ始めたんだ?ウチは先祖代々由緒正しい鍛冶屋じゃなかったのか?」
「鉱脈を掘り尽くしたみたいでさ、鉄鉱石が採れなくなったんだ。
森林浴ブームで観光客も増えたし商売変えなら今のうちってわけさ。」
「なるほどねぇ、確かに観光客相手の店ばっかだな。」
ビートの答えを聞きながらあたりを見まわすデューク。
周囲に建っているのは小奇麗なレストランや若人向けのブティック、怪しげな土産物屋ばかりだ。

ズシン。「デューク、ちょっといいかしら?」
遥か頭上からのシルフィナの声にデュークはビクッとした。
にこやかな笑みを絶やさぬようにしてはいるが、彼女の不機嫌ぶりはビシビシと伝わって来る。

ズシン。ズシン。「あなた・・・以前に『家族はいない。』って言ってたわよね。」
背後から妙に圧迫感のある足音がついてくる。

「い、いや、それは・・・勘当されてたし。」
ズシン!ズシン!ズシン!
「私と結婚したことも連絡してないわけよねー。」
足音のプレッシャーが一段と増し、言葉に鋭い刺が加わった。

「まあ、あの頃は、その、色々あったし・・・」
ズシィィィン!
「今夜は色々話したほうがよさそうね・・・」
笑顔は相変わらずだが、シルフィナの怒りのオーラが天まで届いていた。

「兄さん・・・尻に敷かれてるんだね。」
しみじみとビートは言った。

「うん!パパねー、いっつもママの尻に敷かれてんの!」
「こ、こら!フレイナ、お前まで何もそんな・・・」
恥ずかしそうに言い返そうとするデュークだが、フレイナの暴露は止まらなかった。

「でもねー、パパは尻の下にいるほーが好きなんだってぇ!この間、レビィが言って・・・ムギュッ?」
やっぱり顔を赤くしたシルフィナが肩の上のフレイナを巨大な手の平で押さえ込んだのだった。
人間からすれば、フレイナだって二階建ての家よりも高い巨大美少女?(美竜女?)なのだが、シルフィナからすれば小鳥と変わらない。

「まー、やーね。このおマセさんったら・・・あ、ほらホテルに着いたわよ。」
彼等の前、シルフィナの足元に真新しい白い大きな三階建ての建物があった。
『明け烏亭』の看板も作られたばかりらしく、ピカピカである。

「では、お客様・・・お部屋に案内いたします。こちらへ・・・」
ビートが客の荷物を抱えて結構豪勢な作りの玄関へと入っていった。客も後に続く。
はずだったのだが、お客のうち、1名が列を離れて外へと向かった。

「あっ、ちょっとルウおばさん、どこへ行くの?」
「私はちょっと散歩してくるから、荷物を部屋に放りこんどいてね。」
「えっ?ちょっとぉ?」
単独行動を取ったルウリアはシルフィナの言うことなど無視して、さっさと人ごみの中へと姿を消してしまった。

「あ〜ぁ、行っちゃった・・・ま、いいか。」
「そう言えば、今回は夫のロイさんも来なかったし、何かあったのかな。」
デュークの言うように、今までルウリアはどんなツアーでも夫婦で参加してきた。

「今回はロイおじさん、急用で参加できなくなったそうよ。それより貴方のご両親に紹介してよ!」
「ううっ・・・気が重いな・・・ん?」
ビュン!ドガッ!
「クケッ!?」
何か黒い固そうなものが横から飛んできてデュークの頭を直撃した!
束ねられた薪の束だった。更に続けて建物の影から何者かが飛び出してきた。
ひっくり返ったデュークの上に馬乗りになったその男は!

「この、馬鹿モン!馬鹿モン!馬鹿モン!どの面さげて戻ってきおった!」
ポカ、ポカ、ポカ!デュークの頭を小突き回した。

「よ、よせ!やめて!ご、ごめん!悪かったよ、親父!」
デュークは馬乗りになった初老の男に必死で謝っていた。

「お、親父って・・・じゃあ、この人がお義父様なの?」
「んー?なんじゃい、あんたらは?」
驚くシルフィナとフレイナを男は訝しげに見上げた。
シルフィナはピシッと背筋を伸ばし緊張しつつ答えた。

「初めまして、お義父様!わたくしデュークのつ・・・妻でシルフィナと申します!」
「そんでねー、あたしがねー、養女でフレイナだよー!」
巨大エルフとドラゴン娘の自己紹介を男は呆然と聞いていたが・・・バキッ!
デュークにトドメの一撃をぶち込んで沈黙させてから立ち上がった。

「結婚しとったのなら、連絡くらいせんか!この馬鹿息子!!
初めまして、私がこの馬鹿の父でダリオと申す者です。
恥ずかしながら、ホテル『明け烏亭』を経営しておりましてな、ハハハハハ・・・
おお、こんなところで立ち話もなんです。まあ、お上がりください。」
「は・・・はぁ、ではお言葉に甘えて。」
シルフィナは体の大きさを人間大にまで縮め、フレイナも普通の少女位の体格に縮小した。

「おい、親父・・・」
「なんじゃ、馬鹿息子。」
ようやく起き上がってきたデュークに振り向きもせず父は答えた。

「俺の時と全然態度違うじゃねーか!」
「当たり前じゃイ!親不孝なボンクラ息子と可愛いお嬢さん方を同じに扱えるかい!」
「チッ・・・で、母さんは何処だよ?」
息子の問いに後姿の父の動きが止まった。

「母さんか・・・少し遅かったな。」
「エッ?」
表情は分からないが、ダリオの肩が小さく細かくプルプルと震えていた。

「遅かった、って、もしかしてお義母様は・・・」
「3日前に、風邪を、こじらせてなぁ・・・」
ダリオはつらそうに言葉を途切れさせながら悲しそうな声で続けた。

「まさか、まさか・・・母さんが?そんな・・・」
デュークの顔色が真っ青になっていく。

「・・・苦しそうじゃった。最後まで『デュークの顔をもう一度見たい。』と言いながら・・・」
「そんな、そんな・・・母さん!」
デュークの目に涙が浮かんだ。

「そう言いながら・・・・・今朝なぁ。」
「母さん、母さん!すまない・・・」
「今朝、全快して今お前の後ろに立っておる。」
「・・・・・えっ?」
振り向いたデュークの目に大きなフライパンの底が見えた。

パコォーン!「グギャッ!?」
「どの面さげて戻ってきた?この放蕩息子!」
デュークの背後に仁王立ちした小太りなおばさんがフライパンを振り上げて怒鳴っていた。

「シル・ママ、パパの家族ってすっごく面白いねー!」
「そ、そうね・・・(ついていけないわ、この家族。)」
シルフィナは何だか頭が痛くなってきた。

**********

「さて、そろそろロイと連絡とらなきゃ。」
ルウリアは祭の準備で忙しない表通りを離れ、人通りのない路地裏へと入った。
そして小さな鞄から巻貝のような物を取り出し、耳にあてた。

「こちら『女王蜂』、応答せよ『渡り鳥』!」
返事はすぐに巻貝から返ってきた。

「こちら『渡り鳥』、大至急報告あり。『矢が壊れたため、代わりの矢を放った。』どうぞ。」
「『代わりの矢』とはどういう意味か、どうぞ!」
「・・・なあ、ルウ。普通に話したほうがいいんじゃないか?スパイごっこじゃないんだから。」
怪しげな通信相手はルウリアの夫・ロイであった。

「えーっ?だってこのほうが面白いじゃないの!・・・で、『代わりの矢』って何があったの?」
「うむ・・・確かに『例の依頼』は愛と豊穣の女神を指名して頼んだんだけど・・・」
「つまり『矢が壊れた』というのは・・・」
「女神様がギックリ腰で寝込んじゃって・・・」
ズテン!誰も居ない路地裏でルウリアは一人寂しくずっこけた。

「ギックリ腰ったって・・・どーすんのよ!デュークちゃんとシルちゃんはもう連れてきちゃったのよ!」
「それで『愛の神殿』でも信用に関わるからキャンセルしないで代打を出してくれたんだけど・・・」
ルウリアは安堵の溜息をついた。

「なら、心配ないわね。」
「それが、そうでもないんだよ。代打の担当者が報酬の一部変更を要求してるんだけど。」
「んー?仕方ないわね、まあ『愛の神殿』の推薦の代打なら腕は確かでしょ。で、どんな報酬を?」
一瞬の間をおいてロイの応答が返ってきた。

「要求された報酬は『野苺のケーキ12段重ね』なんだけど。」
「なぁんだ、そのくらいなら別に・・・なんですって?!」
ルウリアの顔色が見る見る青くなっていく。
彼女の知る限り、報酬に甘いお菓子を要求する愛の妖精は一人しかいない。

「まさか、まさか、アイツじゃないでしょーね!?」
「そのまさからしいんだな、これが・・・」
ルウリアは手にした巻貝型通信機をポロリと落とした。顔から完全に血の気が引いていった。

「あ、あの、問題児が・・・?」
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■ 第五章・愛のテロリスト?
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バシッ!「よお、デューク!結婚してたんだって?」
バシッ!「可愛いお嫁さんねー!」
バシッ!「羨ましいね、この色男!」
道で人にすれ違うたびにデュークは声をかけられ、張り倒されてきた。

「あだだだ・・・畜生、どいつもこいつも遠慮なしにぶん殴りやがって・・・」
「自業自得でしょ?でも私は嬉しいな。」
そっと身をすりよせてきたシルフィナと視線が絡まる。

「皆、『おめでとう!』って言ってくれるんだもの。この町に来てよかったわ。」
「シル・・・」
デュークは足を止め、シルフィナと向かい合った。
彼女も少し恥ずかしかったのだろうか?伏目がちで、こころなしか頬も赤い。
見詰め合った二人の唇が自然に近づいていく・・・・・。

「パパーッ、ママーッ!おはよー!」
頭上からのフレイナの大声で二人は焦って、顔を離した。

「何してたのぉ、パパ?」
「別に何もしてないよ・・・ん?お前その服・・・」
フレイナは家の屋根より少し高いくらいの高さで羽ばたいて空中静止していた。
しかも華やかな刺繍をあしらったオレンジ色のドレスを着ていた。
背中に入れた切れこみから翼を、お尻の丸穴からは尻尾を出せるように仕立て直してある。

「てへへへ・・・おじーちゃまに買って貰っちゃった。」
フレイナは嬉しそうにグルングルンと空中で踊った。
巨体が独楽のように回る度にフリルのついた裾めくれあがり太股が見え隠れする。

「親父のヤロー、息子の俺には服一着買ってくれなかったくせに・・・
こ、こら!そんな格好で空飛んだりしたら下から下着が見えちゃうだろ。」
「平気だよー!パンティ見られたりしないように、今日は穿いてないから。」
「なるほど、穿いてないなら見られる心配はない・・・って余計にマズイだろ!」
「じゃあ、行ってきますー!ママ、デートの邪魔してゴメンね!」
笑いながらフレイナは町の中心にある広場の方へ飛び去っていった.

**********

「ギ、ギルーネ様・・・と、到着したようですぞ。」
ちょっぴりふらつきながらナゲッキーは前方の町を指差した。

「あ、あそこでんな、チョリンとか言う町は・・」
かなりふらつきながらタカトビーも歩を進めていた。
彼等の背後からは文字通り山のような、いや周囲の山々よりも頭ひとつ高い巨大な影・・・
のはずなのだが地面に這いつくばっているおかげで周囲の木々よりも高い、という程度だ。

「ふ、ふ、ふ・・・し、シルフィナめ、これしきのことで我等の追撃をかわせるとおもったの・・・か。」
ギルーネは地面をはいずりながら前進していた。
一応断っておくが、発見されるのを警戒して匍匐前進している・・・というわけではない。
ゆっくり進む彼等の脇を山のような荷物を積んだ馬車が追い抜いていく。

「待てィ、そこの馬車!」
ギルーネは声を振り絞って馬車を呼びとめた。

「ん?なんだね、あんたら?なんか用かい?」
手綱を握った御者は呑気な顔で聞き返した。
ギルーナは咳払いして、ふらつきながらもその場に立った。

「貴様に頼みたいことがある、心して聞くが良い!」
「だから、何かね?」
ギルーナたち三人は顔を見合わせそれから・・・・・その場にひざまずいた!

「お願ぁーい!何か食べる物分けてちょーだい!」
「昨日からなんにも食ってないんですぅー!」
「荷物運びでもなんでもお仕事やりますよってー!」
三人は恥も外聞も忘れて泣いてすがった・・・

**********

「ねぇ、シル。あれ、なんだろう?」
「あれって、何が?」
「ほら、そこの木箱の影にさ。」
デュークが指差す先にシルフィナは目を凝らした。
木箱の影に人差し指くらいの小さな人影があった。

「祭見物にきた小人族かな?」
「シッ、黙って。」
シルフィナたちが見ているのに気づかず、その小人は何やら怪しげな行動を取り始めた。
暗いのでよく分からないが女の子らしいその小人は肩に下げた袋から弓を取り出し、構えて弦を引く。

「矢もつがえずに何をする気なのかな?」
「静かに!気づかれるわ!」
シルフィナは足音を忍ばせて小人の背後へと近づいていく。

「風力3、向かい風仰角33度・・・目標、ロックオンですー。」
小人の狙いは人ごみの中、盛んにキョロキョロしている若い女性らしい。
確か、昨日デュークたちが乗せてきた客の一人だ。
パシッ!そして弦を引き絞った指を離した。
銀色の砂のような微かな光の粒が女性のポケットに命中した。

「何をやったんだ?」
デュークが注視している中で女性のポケットからハンカチがスルリと引っ張り出され、ハラリと地面に落ちた。
・・・それだけだった。しかし、それには続きがあった。

「お嬢さん、ハンカチが落ちましたよ。」
真後ろにいた若い男が落ちたハンカチを拾い上げた。

「あ・・・すいませ・・・・・」
「いえ、どういたしま・・・・・」
若者と娘の瞳が互いを映した瞬間に言葉が途切れた。二人とも顔を赤らめ、しばしの沈黙。
やがて若者の方が口を開いた。

「あ、あの、どなたかお捜しなんですか?」
「は、はい。友人とはぐれてしまって・・・困ったわ、ガイドマップは友人が持っているのに。」
「もし・・・よろしければ・・・俺、い、いや私がご案内しましょうか?」
「まあ?是非お願いします。」
そして二人は連れ立って人ごみの中へ消えていった・・・
あまりにベタな展開に呆れかえるデュークだけが残された。
木箱の影の小人娘の方は今度は小さな巻貝を取り出し、それに向かって話しかけた。

「あーあー、こちらラミラナ、愛の神殿応答願いますですー。依頼ナンバー0120は完了しましたですー!
約束の報酬チョコエクレア1ダースを13番祭壇に振り込むように依頼人に連絡をしてくれですー。」
それからタバコを懐から出して口に一本くわえて火をつけた。

「ったく、このラミラナ様にこんな地味な仕事ばっかり回すじゃないですー。
やっぱ私みたいな腕利きに相応しいデカイ仕事を回してほしいですー・・・グェッ!?」
「とーとー、見つけたわよ、ラミラナ!」
背後から近づいたシルフィナがラミラナを小さな体を力いっぱい掴んだのだ。

「ヒァァァッ?シルフィナちゃん、お久しぶりですー!」
「お久しぶりじゃないわよ、この天然ボケ妖精!」
ギュウゥゥゥ・・・
「痛いですー!放してくださいですー!」
手の中でジタバタもがくラミラナをシルフィナはキッ!と睨みつけた。

「おいおい、シル。一体どうしたんだ?この妖精は知り合いなのか?」
「デューク・・・コイツはね、ラミラナっていう愛の妖精よ。」
「愛の妖精?なんだい、そりゃ?」
「ひ、人々の出会いを演出して恋愛の縁結びをする真面目なお仕事ですー。」
シルフィナの手の中で窒息寸前のラミラナが声を搾り出した。

「一目惚れの演出したり、ムードを盛り上げたりして愛を育むお手伝いする地味なお仕事ですー!
シルフィナちゃんの恨み買う覚えないですー!」
「ほぉー、覚えがないですって?」
シルフィナはニコニコ笑いながら、指にさらに力を込めた。
指の間からメキメキッという嫌な音と悲鳴が聞こえてくる。

「おいおい、シル。大事な仕事をする妖精さんみたいじゃないか。そんなにいじめなくても・・・」
「騙されちゃ駄目よ、デューク。コイツは通称『ラブ・テロリスト』とんでもない奴なのよ!
こいつの手段を選ばない強引な縁結びのせいでいくつの町や村が壊滅したことか!」
デュークは一瞬、どう反応していいのか分からなくなった。
(縁結びで町が壊滅?本当なのか?一体どんな過激な手段を?)

「貴方と私のあの恥ずかしい出会いだってコイツが裏で糸引いてたんだから!」
「えっ・・・・・」
デュークの脳裏に鮮やかに蘇える出会いの思い出・・・
配達の仕事の途中で道に迷った彼は森の奥で絵に描いたような美しい湖を見つけた。
そこで見たものは。
間を流れ落ちる水が滝を思わせる、山脈に匹敵する胸の二つの丘陵地帯。
集中豪雨のように水滴を飛ばす長い銀の髪。
水面から出るか出ないかの所に見え隠れする白銀の草原地帯。
広い広い湖の静かな湖面にそびえる巨山のごとき輝く裸体・・・
あの後、デュークは覗き魔として逮捕され、未婚のエルフの肌を汚した罪に問われた。
そして掟により、水浴していた巨大エルフ娘の父親から『死か?さもなくば責任を取るか?』を選ばされた。
結果、シルフィナと結婚することになったのである。

「・・・・・デューク、思い出す度に鼻の下伸ばさないでちょうだい。」
「・・・あ?ゴメン!でもさ、糸引いてたって?」
「あとで父さんから聞き出したのよ!私ってその・・・昔は少し乱暴者で有名だったから・・・」
ちょっと言いぬくそうなシルフィナ。

「まあ、シルフィナちゃんったらー、少し乱暴者だなんてどころじゃなかったですー。
『皆殺しのシルフィナ』と言えば魔族でも震えあがるくらいの不良少女だったですよー。」
掴まれたままで、笑顔でツッコミを入れてくるラミラナ。

「アンタは黙ってなさい!
・・・それで縁談とか断られることがあってさ、父さんコイツに縁結びを依頼したらしいのよ!」
「で、僕が相手に選ばれた、という訳かい?」
デュークも呆然となってしまった。あの劇的な出会いが仕組まれたものだったとは!

「だから、思い出す度に鼻の下伸ばさないでよ!」
「ご、ごめん!でも、そういうことなら感謝しなきゃ。おかげで君と出会えたんだからね。」
デュークの言葉にシルフィナも言葉もなく、ただ恥じらいの微笑みを返した。

「ううっ、なんか悔しいですー。カップル作るのが仕事なのに、こっちは彼氏いない歴更新中ですー。」
いじけるラミラナの声で二人はハッと我に返った。

「そうね、デュークの言うとおりね。」
「じゃ、そーゆーことで放して欲しいですー。」
「駄目。」
シルフィナは解放するどころか指にギュッと力を込めた。

「ええーっ、なんでですーぅ?」
「私の知り合いにも貴方の被害者が大勢いるのよ!特にアルテーあたりは『ラミラナ見つけたら八つ裂きにして、釜茹でにして、石に封じこめてから世界で一番深い海に沈めてやる!』っていつも言ってるわ。」
「ヒェッ?あの『切り裂きアルテー』ちゃんがですかー?!」
「ま、彼女の場合は真昼間の街中で彼氏と全裸巨大踊りさせられた挙句に本番シーンを町中の人全員に見られたんじゃ、仕方ないわね。」
殺伐とした会話を聞きながらデュークは思った。
(『皆殺しのシルフィナ』に『切り裂きアルテー』?シルフィナの過去ってどーなってるんだろーか?聞くのが恐い・・・)

「そーゆーことだからあんたは被害者一同の会まで連行・・・」
「助けてですー!これあげるから見逃してですー!」
ラミラナは綺麗な虹をあしらったイラストのチケットらしきものを差し出した。

「なによこれ?『虹の谷間』無料サービス券?こんなもので誤魔化せるとでも・・・ハッ?」
シルフィナの手に捕らえられていたはずのラミラナが何故かテルテルボーズにすりかわっていた!

「じゃーね、私これからまだお仕事あるですから、失礼するですー。」
声だけ残してラミラナは広場の方へ飛び去って行った。

「これは、変わり身の術?!逃げられたか、あのインチキヤロー!(怒)」
シルフィナは悔しそうにテルテルボーズを地面に叩きつけ、ラミラナの飛び去った広場の方をギッと睨んた。
広場ではイベントの用意をしているらしく、サーカスの大テントや屋台の列が忙しく開店準備をしている。
その中に山を一跨ぎできるほどの巨大な人影がテントの組み立てをしているのが見えた。
身長は6リムル(600メートル)近いだろうか。
年若い女性らしいが、背中を向けているので顔は分からなかった。

「ん?魔界人みたいね。人間界でアルバイトでもしてるのかしら?」
シルフィナはどこかで見たような気がしたが、ラミラナのことで気が回らず、思い出せなかった。

**********

町の広場ではサーカス一座の興行準備が始まっていた。

「おい、新入り!次は、舞台の組み立てを手伝え!」
「ハ、ハイ!わかっておりますです。」
ナゲッキーは金槌片手に走り回った。

「あんたは支柱運んでてくれ。」
「はいな、持って来ましたで!」
タカトビーは木材担いで右往左往していた。

「そこ、天幕を張るの手伝ってちょうだい!」
「なんだと、貴様!この私に肉体労働などという下賎な仕事を・・・」
「あんただけ晩飯抜きでいいか?」
「あーっ、肉体労働って素晴らしいわー!・・・・・・・・・なんで、私がこんなことを。」
ギルーネはしょぼくれながら大きなテントの布地を持ち上げた。
広場を覆えるくらい大きなテントの布地なのだが、彼女の今の大きさからするとせいぜいマントくらいのものである。

「あっ・・・・・しまった!」
テントの端が建てたばかりの支柱にひっかった。
バタン。
引っかかった支柱が倒れ隣の支柱にぶつかった。
バタン、バタン、バタァーン!12本の支柱がドミノ倒しのように連鎖的に倒れてしまった。

「なにやってんだ、新入り!せっかく半日がかりで建てたのが台無しじゃねーか!」
「すいませぇん、団長・・・」
「ったく全然役に立たねぇんだから・・・今度やったら晩飯抜きだぞ!」
「ぐっすん・・・ハァイ。」
ギルーネは泣き出したいのを堪えつつ、倒れた支柱をマッチ棒細工みたいに建てなおし始めた。
その時、サーカス団員の一人が団長になにやら耳打ちした。
団長はびっくりしたらしく、しばらく腕組みして考え込んでからギルーネに声をかけた。

「おい、新入り!そこはもういいから別の仕事をやってくれんか?」
「えっ?どんなお仕事ですか?」
「街中でやるアトラクションの魔女役だ。衣装と小道具はそこにある。
頼んでいたエルフ族の役者が祭の振舞い酒で酔いつぶれてリタイアしちまったんだ。」
団長が指差す荷車には、テントより巨大な真っ黒なフードと、巨大な玩具の弓と白い羽で作った矢が積まれていた。

**********

「ねえ、デューク。白羽祭ってどんなお祭なの?」
アイスクリーム5ダースでなんとか機嫌を直してくれたシルフィナが聞いてきた。

「この地方にはね、大昔に神隠しの伝説があったんだ。」
−−−−−−−−−−
かつて、この町がまだ小さな村だった頃、大干ばつが村を襲った。
雨は一滴も降らず、湖は干上がって湖底の泥さえも渇ききり、森の木々は枯れ、人々は飢えと渇きでバタバタと倒れていった。
陸の孤島となった村は、もはや神に祈るしかなかった。
そんなとき村長の夢枕に女神が現れ、こう言ったのだ。

『明朝、村民の家のひとつに白羽の矢が飛んでいきます。
その家にいる一番若い男を生贄として山の頂上まで一人で行かせなさい。
そうすれば村は救われるでしょう。』
翌日、村で一番貧乏な老夫婦の家の屋根に長さ1.5リムル以上はある巨大な矢が突き刺さっていた。
そして夫婦の間には村一番の働き者と言われる、若い息子がいた。

村長もさすがに、老夫婦から子供を取り上げるようなことはできずに悩んでいた。
しかし事の真相を知った息子は自分から山の頂上へと向かっていった。
やがて恵みの雨が降り、村も森も湖も蘇った。
しかし息子は二度と戻っては来なかった。

それから村では生贄となった若者の魂を慰めるために、若者が姿を消した日に祭りをするようになった。
−−−−−−−−−−

「まあ、伝説だけどね。実際は雨乞いの儀式が原型らしいってさ。」
「ふ〜ん?で、実際のお祭では何をするの?」
「それは・・・」
「まず年男の前に白羽の矢を突き立てるのさ。」
デュークが答えるより早く声をかけてきた者がいた。弟のビートだ。
いきなり現れたビートは真っ白な服を着て真っ白な帽子をかぶっている。

「ほー、今年の年男はお前なのか?」
意外そうにデュークは言った。

「そうなんだ・・・ああ、年男というのはね、義姉さん。生贄になった若者役を演じる男の人なんだよ。
町の人間で未婚の男性から選ばれるんだ。」
「じゃあ、ほんとに生贄の儀式とか・・・」
シルフィナは恐々と尋ねたがデュークとビートは顔を見合わせて笑った。

「まさか!魔女役の女の人がやってきて矢を目の前に突き立てられたら、魔女役の先導に従って山の中へ隠れるだけさ。後は夜明けまで呑めや歌えの乱痴気騒ぎってわけ。
ちなみに年男を出した家には免税とか祝いの品とか色々特典もあるんだ。」
ビートは嬉しそうに胸を張った。

「さて、そろそろ正午か。魔女が現れる時間だな。」
「今年の魔女役は女優志望のエルフ族の女の子らしいよ、兄さん。」
デュークとビートは北の方角、ひときわ高い山の頂上を見た。

**********

「なんで、なんで高貴なるこの私が!こんなダサイ悪役の格好しなきゃならないのよ!」
「押さえてください、ギルーネ様!」
「そや、そや!今度しくじったら晩飯パーでっせ!」
山の影で待機中のギルーネは大噴火寸前だった。
悪の組織の女幹部みたいなセンスのない黒マントに三流プロレスラーみたいな顔面ペイント。
魔女というより化粧に失敗した道化師にしか見えない。

「それもこれもあれもどれも!あのターゲットがこっちの迷惑も考えずにチョロチョロするからよ!」
「・・・・・。」
ナゲッキーもタカトビーももう何も言わなかった。長い付き合いなので何を言っても無駄だと分かっていた。

「こーなったら、あのデュークとか言うターゲットを捕らえて魔界へ連れかえるしかないわ!」
突然ギルーネはとんでもないことを言い出した!

「ギルーネ様!それではお父上の命に背くことに!」
「そやで!わてらが仰せつかったんは、監視だけで・・・」
お付きの二人は驚き、震えあがった。主の命令の背けばどんなお咎めがるか分かったものではない。

「案ずるな・・・父上の真の狙いは分かっておる。ふふふ・・・ふははははは!」
自信タップリに笑うギルーネ・・・とは逆にナゲッキーとタカトビーは不安倍増していった。

ゴーン、ゴーン!
「おっ、正午の鐘か!ではまずこの矢を年男とかの前に突き立てるのだったわね。」
ギルーネは白い羽のついた矢を持ち上げた。
大陸高山地帯にだけ生える高さ2リムルにも達する巨木を丸ごと矢に仕上げたものだ。

「まずは年男を探さなきゃ・・・えーっと・・・?」
「白い服に白い帽子ですよ、ギルーネ様。」
「あ、あそこやおまへんか?」
広場に通じる通りのひとつに白い服に白い帽子の若い男が立っていた。

「あそこね・・・?アッ、あいつらは!」
だがギルーネの目は見つけた年男にではなく、彼の隣で立ち話していた男女に注がれていた。

**********

「僕を見つけられないのかな?」
「もう少し、見通しのいい場所に立ったほうがよくないか?」
ビュン!ビートとデュークがそんな話をしているうちに山影から何かが飛び出した。
ガコン!その何かは町を飛び越して南の山の山腹に突き立った。
山をもあっさり貫通する巨大かつ破壊力のある白羽の矢だった。

「・・・・・外したのかな?」
「大丈夫なの?あんなでかい矢を外して他の人に当たっちゃったら・・・」
「心配ないよ、シル。祭で使う矢には生き物に命中しないよう魔法がかかってるから。」
ビュン!ガコン!三人が話している間にも二射目が放たれた。
今度は村長の家他数軒の屋根を衝撃波でふっ飛ばして森の中へ墜落した。

「・・・・・かなり弓矢が下手なエルフらしいわね。」
シルフィナが白けた顔でボソリとつぶやいた。

ズズズ・・・・・
地を揺るがせて山の背後から巨大な人影が出現した。
黒いマントにボディラインを浮き彫りにする、ややSM系の安っぽいレザースーツ!
この地方ではほとんど見かけない黒い髪を振り乱しと、飛び散った汗が空中でキラキラと輝く。
顔にプロレスラーまがいのド派手なペイントしているせいでよく分からないが、彫りの深さからしてかなりの美人らしい。

「おおっ・・・今年の魔女はナイス・プロポーションだな。」
「化粧のせいでわかりぬくいけど、なかなかの別嬪さんらしいぜ。」
「チープな悪役ファッションが板についてるわねー。」
尾根を軽々と一跨ぎする彼女の勇姿に町中の人間がどよめいた。

「んー?あの娘はエルフじゃないわね、魔界の人みたいだけど・・・どっかで会ったようーな?」
「代役でも立てたんだろうか?それに僕も見覚えが・・・」
デュークとシルフィナが首をかしげている間に巨大魔女娘はズシンズシンと地面を陥没させながら歩いてきた。
やがてデュークたちの目の前で立ち止まり、矢筒から最後の一本の矢を取り出した。
ドグサァッ!手にした矢をデュークたちの目の前に突き立てたのである。
どうやら弓の腕前には自信がなくなったらしい。

「わ、我は、えっと・・・世を支配する魔女なり!そ、それから・・・」
「それから『我に聖なる生贄を捧げよ』ですよ、ギルーネ様!」
「我に聖なる生贄を捧げよ、されば豊かなる恵みを約束しよう!」
耳元に潜むナゲッキーの読むカンニングペーパーをそのまま棒読みでやっとギルーネの台詞が終わった。
ビートは黙ってうなずき、一歩前に出ようとしたその時・・・

「あーっ、思い出したぞ!君はこのあいだ難破してた魔界人のギルーネさん!」
「あーっ、思い出したわ!私たちのグループで元パシリやってた『泣き虫ギルーネ』でしょ!」
広場にいた全員の目が一瞬デュークとシルフィナに集中し、それからギルーネに集中した。
ギルーネの顔が引きつった。

「な、難破?も、元パシリ?な、なんのことやら?
私は船賃ケチって丸木舟で三ヶ月も漂流したことなんかないし、半人前扱いが嫌で家出して不良グループに入ってそこでも半人前扱いされてたなんて記憶に全然ないわ!」
ギルーネは焦って弁解したものの、かえって自分の過去を暴露していた。

「兄さんたちの知り合い?」
「ん?まあ知り合いというかなんというか・・・ワッ!」
ギルーネがいきなり手を伸ばし、デュークの体を摘み上げたのだ!

「あっ、ギルーネ!私の旦那に何するのよ!」
「ああ、違いますよ!今年の生贄役は僕の方で・・・」
慌てるシルフィナたちを尻目にギルーナはマントを翻した!
瞬間、陽光が消え去り、辺りは闇夜のような暗闇に包まれた。

「フハハハハハ!確かに生贄は頂いていくぞー・・・!」
「こらー、待ちなさいギルーネ!」
叫ぶシルフィナであったが、世界に光が戻った時、ギルーネの巨体は影も形もなく消え去っていた・・・

**********

この騒ぎを屋台の影で見守っていた人物がいた。
人間の手の平に乗るほど小さなその人物は手にした巻貝にコソコソと話しかけた。

「あーあー?こちらラミラナ、『虹の谷』応答せよですー。」
「こちら『虹の谷』です。どうぞ!」
「ターゲットその1とターゲットその3が接触、逃走したですー。
そちらの侵入禁止結界を緩めて店内に誘い込んで欲しいですー!どうぞですー!」
「了解しました!どうぞ!」
「私は予定通りターゲットその2を誘導していくですー!以上交信終了ですー!」
ラミラナは巻貝を背中の袋にしまうと、代わりに男物のハンカチを引きずり出した。

「昨日、失敬したデュークさんのハンカチですー。これ使ってシルちゃんをおびき出すですー!」
「その件、詳しく聞かせていただけるかしら?」
ラミラナが振返ると、見知った顔が彼女を見下ろしていた。

「あ、ルウちゃ・・・いえいえ女王陛下!おひさしぶりですー!」
背後にはルウリアが立っていた!
両手には、焼きドラゴンバーベキューの串と、綿飴と、アイスクリームと、フルーツジュースのコップと、玩具のヨーヨーと、射的ゲームの景品をいっぱい抱えて・・・

「ルウでいいわよ、女王陛下なんてかたっくるしいし。」
「じゃあ、ルウちゃん。」
「とにかくラミラナ、なんで貴方が私たちの大事な依頼にしゃしゃり出て来るのよ!
シルは恩人の娘さんだし、デュークと私たち夫婦の関係は貴方も知っているでしょ!
下手なことして台無しになったらどーすんのよ!」
かなりキレかけているルウリアに対し、ラミラナはおっとりしたものだった。

「でもぉ、仕方ないですー。この依頼は元々、ずっと昔に私がシルちゃんとデュークさんから直接受けた依頼だしぃー、おっと?あの頃はまだ『デュークさん』じゃなかったですねー。」
「ずっと、昔に依頼を?」
「はい、シルちゃんがまだ子供の頃に頼まれたですー!依頼料はキャンデー1瓶だったですー!」
ポカンとするルウリアに対して、ラミラナはニコニコと笑っていた。

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■ 第六章・危険な情事?
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「まったくもー、内緒で監視する任務だったのに!誘拐してどうするんですか?ギルーネ様!」
「そやで!正体もバレてしもたし!」
「うるさいわね!それを今考えてるんじゃないの!」
口やかましいナゲッキーたちを両肩に乗っけて、手の中には気絶したデュークを掴んでギルーネは飛行していた。

「とにかくどこか隠れるところを・・・おや、あそこは?」
眼下を流れる川の上流、険しい谷間に何かの遺跡らしい石組みの壁が見えた。

「しめた!ここなら、身を隠す場所もありそうだわ!」
蝙蝠のような翼をいっぱいに広げてブレーキをかけ、ギルーネは音もなく谷へと降り立った。
敷き詰められた平らな石で造成された広場らしき場所にそっとデュークの体を置いた。

「うっ・・・ここは?」
頬に触れた冷たい石の感触がデュークの意識を取り戻した。

「気がついたか、人間よ。」
頭上からの声に見上げると、谷スレスレの高さから見下ろすギルーネの顔が見えた。
更にデュークの左右からは人間サイズの魔族・ナゲッキーとタカトビーがジッと彼を見つめていた。

「で、ギルーネ様。これからどーするんですか?」
「そやそや。このままやと任務失敗でわてらお父上からお仕置きされてしまうで!」
不安を隠せぬ二人の下僕に対し、ギルーネは自信タップリであった。

「心配はいらぬわ。父上の真の目的はコイツを監視することではないのだからな!」
「監視?僕をかい?何故だ?」
デュークには魔界から監視されなければならないような覚えはなかった。
魔界人とトラブルを起こした記憶はないし、彼自身も平凡な人間だ。
妻の知り合いのルウリアは妖精界の女王だが、それが原因とは考えにくい。
そんなデュークの考えを知ってか知らずかギルーネは話しつづけた。

「父上はこう言われた。お前の身にある兆候が現れたら直ちに通報せよ、とな。」
「僕の身にある兆候が・・・?ってなんですか。」
デュークにやはり心当たりはなかった。

「正確にはお前の身に、ではない。お前の妻の身に、だ。」
「シルフィナの!?あんたたち一体何を・・・」
ギルーネの唇の端がクッと歪んだ笑みを浮かべた。

「・・・・・妊娠だ。」
「・・・・・はぁ?」
デュークは一瞬耳を疑った。

「貴様の妻・『皆殺しのシルフィナ』が貴様の子供を身篭る時を父上は知りたがっておるのだよ!」
「ええっ!」「なんでや?」
二人の下僕も驚いたが、一番驚いたのはデュークだったろう。

(な、なんで魔界側がうちの家庭内事情に関心を持つんだ?!)

「何故かは私にも分からんが、父上の目的はコイツ自身ではなくコイツの子供と言うことだ。」
「し、しかしそれじゃコイツを捕まえても意味ないんじゃありませんか?」
「分かっておらんな、ナゲッキー。コイツではなく子供を手に入れさえすればよいのだ。
おい、貴様・・・出してもらおうか。」
得意満面のギルーネはデュークに意味不明の命令をした。

「えっ・・・出せって、何をですか?」
思わず聞き返したデュークにギルーネはちょっと不愉快そうに答えた。

「人間とはそんなことも分からん程、馬鹿なのか。子種に決まっておろうが。」
ギルーネ以外の全員が口をポカンと開けたまま止まってしまった。

「ええい、さっさと出さんか!お前の子種を一刻も早く父上に届けねばならん、時間がないのだ!」
「えっ、いや、あの、急に・・・そんなこと言われても。」
デュークは焦って混乱して訳が分からなくなった。

「おい、ナゲッキー、タカトビー!そいつを押さえつけろ!」
「ハ?ハイ!」「分かりましたけんど・・・」
「あああ、ちょっとやめてくださいよ!」
下僕ふたりはジタバタするデュークの手足を二人がかりで押さえつけた。

「さてと、どこかに子種とやらを隠し持っているはずだ。捜し出せ。」
偉そうに命令するギルーネだが、ナゲッキーもタカトビーも困惑したままだ。

「捜し出すもなにも、子種は男のココから出て来ると決まっとるやおまへんか?」
タカトビーは『ココ』を指差した。すなわちデュークの股間を。

「何、そんなところから出て来るものなのか!」
「そうですけど・・・」
ちょっと恥ずかしそうに答えるデューク。だが事態はさらに深刻化した。

「なるほど隠し場所は分かった!では隠し場所を見せてもらおうか!」
「わーっ!何するんですかぁ!」
ギルーネの巨大な指先が迫ってきた。人間を蟻同様に潰せる巨大な指が!
ビリビリビリリリ・・・
デュークのズボンはパンツもろとも凄まじい力で引き裂かれその部分を露出した!

「・・・・・グロテスクな隠し場所だな。」
「余計なお世話だよ!(ああ、シルフィナ以外の女に見られてしまった!)」
「まあよい、さっさと子種とやらを出せ。」
・・・・・結局、ギルーネは全然分かってなかった。

「あの・・・ギルーネ様。子種ってどうゆうものかご存知ですか?」
「?見たことはないのだが、ナゲッキー、お前知っているのか。」
ナゲッキーは深い溜息をついた。

「あのですね、子種というものはですね。
男がある特殊な状況に遭遇した時にだけ自然放出されるというモノなのです!」
「特殊な状況?それはどんな状況なのだ?」
さすがのナゲッキーも答えをためらった。が意を決して口を開いた。

「それは、女性の裸を見たときとか、女性にココを触られた時とか、舐められた時とかです。」
異様な沈黙が場を支配した。

「女性の裸か・・・困ったわね。近くに女なんて・・・?」
デュークを含む男3人の視線がギルーネに集中していた。

「女って・・・・・ひょっとして?私だけ!?」

**********

森の上空を一匹のドラゴンが飛んでいた。
背にシルフィナを乗せたフレイナだった。

「う〜ん、パパどこへ行ったのかなー?」
「まったく、ギルーネのヤツ!ひとんちの旦那誘拐するなんて何考えてるのよ!」
デュークの(貞操の)大ピンチなど知らないシルフィナは思い切り腹を立てていた。
ここ数時間、上空を飛びまわって捜しているのだがデュークもギルーネも見つからない。

「遠くに逃げた様子はないから、まだ、近くにいるはずなんだけど。・・・ん?」
シルフィナは一本の木の枝に目をとめた。布片らしきものが引っかかっていた。

「フレイナ、あの木に近寄せて・・・やっぱり。」
それには見覚えがあった。デュークのハンカチの切れっ端だった。
見まわすと少し離れた木にも同じ布地が引っかかっていた。

「近いわね・・・逃がさないわよ!」
「あっちだね、シル・ママ!」
方向を定めてフレイナは木々の布片の跡を辿って森の上を滑空していった。

**********

「わ、私に裸になれと言うのか、貴様等は!」
顔を怒りと恥ずかしさで真っ赤にしてギルーネは怒鳴った。

「大義のためですぞ、ギルーネ様!」
「そや、そや!」
だが下僕二人は一向にひるまない!

「高貴なる魔族の私がそのような下品な真似などできるか!他の女にやらせるがよかろう!」
「そんなこと言ったって若くて美しい女性といえばここにはギルーネ様しかません!」
ナゲッキーの言うとおりであった。
近くには彼等以外は誰もいないし、魔界から他の女を呼び寄せるにも時間がない。

「さあ、お急ぎください、ギルーネ様!」
「時間があらしまへんで、さっさと脱いでくれへんと!」
「わ、わかったわよ、モウ・・・」
妙に張りきり出した下僕二人に促されてギルーネは渋々と身につけた物を脱ぎ始めた。
ファサァッ・・・まずは黒いマントを肩から外し、傍らの岩山へと引っ掛けた。

「まったくなんでこんなコト・・・」
続いて、これまた真っ黒な鋲つきのボンテージスーツを足元に脱ぎ捨てた。

「恥ずかしいったら・・・」
最後にブツブツ文句を言いながら靴下を脱ぎ捨てた。

「さあ、これで満足であろう!さっさと子種を出すがよい!」
「・・・はぁっ?」「・・・と言われても。」「これくらいじゃ・・・ちょっと。」
山々よりも大きなギルーネの巨体を見上げる3人の男達は不満を洩らした。
確かに露出度は上がったものの、シャツとショートパンツのラフな姿になっただけだった。

「・・・?これ以上何を脱げと言うのだ?」
「ハァーーー・・・だめ、ダメ、ぜーんぜんッ!駄目でございますよ、ギルーネ様!」
いかにもがっかりしたというポーズでナゲッキーは言った。

「今時、そんな刺激じゃ子供にだって馬鹿にされますよ。」
「それじゃあ、ひょっとして・・・・」
「全部ですよ、全部脱がなきゃ!」
「オールヌードぐらいやらんと、男は承知しまへんで!」
異常なくらい熱のこもった口調でナゲッキーとタカトビーがまくしたてた。

「そんな・・・父上にも見せたことないのに!」
「何をおっしゃいます!今こそ『時』が来たのです!おい、人間!あんたもそう思うでしょ!」
「えっ?」
いきなり話を振られてデュークも答えに困った。

「いや、確かに男というものはそーゆートコロもあるかなーとか思ったりもするけど・・・」
「ホラお聞きなさい、ギルーネ様!捕虜もこーいってるじゃあーりませんか!」
勝ち誇ったように断言するナゲッキーのド迫力!

「ううっ・・・わ、分かったわよ、モウ。」
泣きそうな顔でギルーネはシャツを脱ぎ捨てた。
「お?」
デュークたちの頭上を巨大なシャツがヒラヒラと覆い被さってくる。
ベッドのシーツの下に潜り込んだ蟻のようにシャツの端から必死で這い出る彼等の前に・・・

「おお!」
巨大なショート・パンツが脱ぎ捨てられ石畳を覆い尽くしていた!改めて見上げるとそこには!

「ウオオッ!」
下着姿で恥ずかしげに顔を赤らめてうつむくギルーネの姿!
外洋大型船の帆布よりも大きな三角形の布地で作られた純白のパンティとブラは青い肌で構成されるラインを見事なほどに際立たせている。
恥ずかしさで涙を浮かべるその表情が男達の視線を釘づけにした。

「・・・で、では、ギルーネ様!いよいよクライマックスを・・・」
「イヤ・・・ダメ・・・これ以上はもう無理!」
ズズン!ギルーネはうつむき座り込んだ。彼女が膝をついただけで遺跡のある谷全体がグラグラと揺れた。

「カーッ、もう!これだからお嬢様育ちは根性足りないのよ!仕方ない、今回のビックリドッキリメカ発進!」
ナゲッキーは懐から小さな金属の箱を取り出した。小さなボタンが二つついている。

「なんやねん、それ?」
「これはだな、タカトビー君。この私が永年の苦労の末に完成させた遠隔操縦装置なのだよ。」
ナゲッキーはボタンのひとつに指を乗せた。

「では・・・ポチッとな!」
ポチッ。一瞬の間を置いて、どこからともなく一匹の白い蝶々が飛んできた。
優雅に空を舞う蝶々はやがてギルーネのブラの中央、ホックの部分にとまった。

ポン!「キャァッ?!」
ギルーネのブラのホックで小さな爆発が起こった!
ポン!ポン!続いて両肩のあたり肩紐の部分が切断された!

「オオッ!」ゴクリ!
唾を呑みこむ男たちの前に寸断されたブラがヒラヒラと舞い降りてきた。

「イヤァァァァァ!」
ギルーネは慌てて剥き出しになった乳房を両手で隠し、その場にうずくまった。
しかし巨大な体をいかに縮こまらせても、胸の二つの緩やかな隆起は隠しきれようはずもない。
指の間から柔らかそうな肉の半球とその頂上にある巨大な切り株のような乳首が震える様が見え隠れする。

「さあ、いよいよ今週のクライマックス!ギルーネ様、覚悟を決めてくださいな!」
「そんなのイヤに決まってるでしょー!」
「そーはいきません!全国のファンのためにも・・・ポチッとな!」
ポチッ!運命のボタンがついに押された!
今度は数十匹の蝶々が押し寄せてきた。真っ直ぐにギルーネのパンティを目指して!

「いやぁっ、こないで!来ちゃダメェッ!」
片手激しく揺れる乳房を隠しつつ、残る片手でギルーネは群がる蝶々を追い払おうとした。
ビュゥン!ビュゥゥゥン!
激しく振りまわされる腕が突風を巻き起こし、生い茂る木々を吹き飛ばし、蝶の群れを追い払った。
しかし!めげることなくまとわりつく自爆蝶の前に巨大魔女・ギルーネも息切れし始めた!

「はぁっ、はぁっ・・・ダメ・・・モウ・・・」
その時!ついに一匹の蝶が巨大パンティに到達した!
ポン!
張力を失ったパンティがゆっくりとずり落ちる。

「おおっ!」
「オオオオオ!?」
「おっ!おっ!おおっ?」
地上から見上げる3人の男たちの口から驚きとも歓喜ともつかぬ叫び!

「イヤァァァ!もう、いやぁぁぁっ!」
ずり落ちかけたパンティを必死で押さえるギルーネに、無情にも残りの自爆蝶軍団が殺到した。

ポン!ポン!ポン!ポン!ポン!
連続する小爆発のあとには『かつてはパンティであった』僅かな黒コゲの布切れが宙に舞うばかり。

「やりましたで、ナゲやん・・・」
「悔いはない・・・我が人生に一片の悔いもないぞ、タカトビー君。」
感動の涙で目を潤ませて抱き合う男たちの魂・・・

「ふぇ〜ん・・・(泣)」
完璧に泣き出したギルーネ!だが、まだ終わってはいなかった。

「さあさあ、ギルーネ様!いつまでも泣いてないで、仕上げにかかりますよ!」
「これ以上ナニやれって言うのよ、ナゲッキー?」
「ま、この人間をご覧下さい。」
ナゲッキ−とタカトビーが両脇からデュークを挟むようにして引っ立てた。

「わわっ?何をする!」
「ギルーネ様の魅力のおかげで、このように子種放出体勢は完璧でございます。」
ナゲッキーの解説通り、デュークの丸だしの下半身は完璧に発射寸前になっていた。

「うわっ・・・ますますグロテスク・・・でも、これをどうすれば?」
「ふっふっふっ・・・ギルーネ様のソコに!」
ナゲッキーは大げさなポーズで、ギルーネが必死に手で隠す秘所をビシッと指差した!

「こいつを叩きこみ!子種をギルーネ様の胎内に注入させ、魔界へと持ちかえるのです!」
「・・・・・ヒェェェッ!」(←ギルーネの叫び)
「・・・・・ひぇぇぇっ!」(←デュークの叫び)

「こ、こ、これって、私の初体験なっちゃうの!?いやよ、こんな初体験絶対やーよ!」
「こ、こ、これって、俺の不倫になるのか!?いやだ、シルフィナにブッ殺されちまう!」
「キミタチ、わがまま言ってちゃダメだよ!ササッと済まして魔界に帰りましょうね。」
ナゲッキーはデュークを羽交い締めにして、座り込んでたギルーネの太股の間を引っ立てて行く。

「ほな、ギルーネ様もちょっくら我慢してもらいまひょか。」
「ああ、なにすんのよ、タカトビー!」
ギルーネの秘所をしっかりガードする指先に組み付いたタカトビーが、物凄い怪力で巨木のようなギルーネの指を押しのけようとしていた!

「ヌゥー!!」
ギチギチギチ・・・
少しずつ指が開くにつれ、その間からヌラヌラと光る粘膜状の巨大な亀裂が見え始めた。
初々しいうすい桃色の襞がピクピクと震えているのがよく分かる。

「い、いや・・・やめて。」
あまりの展開に腰がぬけたのか、ギルーネは泣きながら座り込んだままだった。

「い、いやだ・・・やめろ!」
なおも抵抗するデュークだが、洞窟の入り口まであと僅か、既に手を伸ばせば届く位置だ!
・・・しかも下半身の一部は全然抵抗していない!・・・とゆーか、やる気満々!

「ああっ、もうダメ・・・」
「ああっ、もうダメだぁっ!」
ああっ、ついに不倫成立か!?・・・・・その時!

バコォッ!「グヘェッ!?」
ドコォーーーンンン!
物凄い打撃音に続いてギルーネの巨体が浮き上がり、デュークたちの頭上を飛び越え谷の片側の崖に激突した!

「ななな・・・」「何が起こったんでっか!」
崖に上半身をめり込まされたギルーネを見て、驚くナゲッキーたち。振りかえってみると!

「・・・・・あんたたち、うちの旦那に何してるの?」
「あっ、パパ見っけ!あーっ、パパ裸になってなにしてんの?」
見上げると崖よりも遥かに背の高いエルフが額に血管浮かばせて目を吊り上げて睨んでた。
肩には一匹のドラゴンがとまってこちらを見下ろしている。

「あう・・・こ、これはですね、ご婦人・・・」「いや、わてらはその・・・命令でしかたなく。」
「・・・・・」
シルフィナは無言で人差し指と親指の輪を両手につくり、ナゲッキーとタカトビーの前に持っていった。

「?・・・あの、何をなさるおつもりで・・・」
「こうなさるおつもりよ!」
パチン!パチン!
ナゲッキーの問いに答えるようにシルフィナは指を思いっきり弾いた。

「ホゲェーッ!・・・・・」
虫のように弾き飛ばされた二人はとっても青い空へと消えていった。

ガラガラガラ・・・
崖を崩しながら痛む頭を押さえてギルーネは立ちあがった。

「ううっ、誰よ!人を後から蹴っ飛ばした馬鹿は?」
「私がその馬鹿よ、パシリのギルーネちゃん。」
瞬間、ギルーネは硬直した。そして一歩、二歩と後ずさりし崖に追い詰められた。

「あの人もパパとおんなじ、裸で遊んでるんだ?」
無邪気なフレイナの一言が場の空気をさらに険悪なものにした。

「フレイナ、貴方は今すぐ帰りなさい。」
「えっ、ママ?どうして?」
不思議そうに尋ねるフレイナにシルフィナはにこやかな笑顔で答えた。

「教育上問題のある暴力的描写がこれから始まるからよ・・・」
「・・・・・ひぃぃっ・・・」
シルフィナの台詞でギルーネは自らの運命を悟った。
フレイナが飛び去ってしばらくして、谷間に猛烈な打撃音と悲惨な悲鳴が交互にこだました。
そして・・・・・

「またこんなマネしたら、今度はあの世に特急便で送ってあげるわよ!」
ドバキッ!ギャァァァァァ・・・・・
谷間から血まみれのギルーネのぐったりした体がドーンと打ち上げられ、ピューッと雲の上を飛んでいって、山々の彼方へと消え去り、ちょっとしてからズドォーンという落下音が微かに聞こえた。

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■ 第七章・虹の谷へようこそ
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「やれやれ、助かったよ、シル。一時はどうなるかと・・・?」
「・・・・・あら、お邪魔じゃなかったかしら。」
「あ?いや、これは奴等に無理矢理・・・」
「言い訳なさってる暇があったら、サッサと服を着たら?」
シルフィナの不機嫌さは増すばかりだった。
おさまりきらない怒りは今度はデュークに向けられた。

「な、なあ、シル。浮気かなんかと疑ってるんじゃ・・・!」
ズシン!鼻先ギリギリをかすめて、巨大な靴が踏み下ろされてきた!

「お、おい!誤解しないでくれ!俺はやましいことは何も・・・」
「とかなんとか言ながら、下半身はしっかり反応していたみたいね。」
大急ぎで縫い合わせた服を着ながら弁解するデュークだが、シルフィナは一顧だにしない。

「そ、それは、その、男の本能、というものでして、俺の意志とは・・・」
「この・・・・・・浮気者!!」
そう、貞操の危機?を脱したはずのデュークは離婚の危機に直面していたのだ!

「ううっ・・・ごめん!すまない!今度から気をつけるから!」
「フン!どうだか・・・あら?」
シルフィナのポケットから不思議な光が洩れていた。淡い七色の綺麗な虹の光だ。

「なにかしら?」
ポケットの中を探ってみると、光を放つ紙切れが出てきた。

「確かそれは、ラミラナさんから貰った無料招待・・・」
「お客様2名様、ご案内ィーーー!」
デュークが言い終わる前に間延びした女の子の声が谷間に響いた。

「なんだ?」
「これは、この谷間の遺跡は一体なにかしら?」
二人の前で変化は劇的に起こった。
崩れかけていた広い祭壇が真新しい大理石の祭壇へと変貌した。
生い茂る藪はよく手入れされた広い芝生へと変わった。
古びた敷石は舗装されたばかりのモザイクの床になった。
干上がっていた窪地は満面の澄んだ水をたたえた池と噴水に変化した。
そこは遺跡ではなくなっていた、美しい広大な庭園であった。

「な、なにが起きたんだい、シル?」
「私にもわからないわ、エルフの魔法で風景を偽装していたみたいだけど・・・」
そのときデュークの足元で何かが動く気配がした。
目をむけるとそこには4人の小人の女の子がいた。

「いらっしゃいませー!」
「久しぶりのお客様だね!」
「ここんとこ客足全然だったもんねー!」
「宣伝足りないのよ、きっと!」
口々におしゃべりする大きな帽子に赤、青、黄色、緑のブカブカの服をきた4人の小人。

「あの、あなたたちは?」
「あ、申し遅れました。私の名はラッシィです。」
「ミリィでぇす!」「ラナ、と申します。」「ナッキィとおよびくださいませ。」
4人の小人娘たちは元気な声で自己紹介をした。

「私たち、当店の従業員でぇーす!」
「当店?」
オウム返しでシルフィナとデュークは聞いた。

「ハイ!愛の神殿スーパー・サービス部門『虹の谷』支店です!」
「えっ?あの有名なスーパー・サービス部門の?」
シルフィナには聞き覚えがあった。
人々の恋愛を守り育てる崇高な使命を持つのが『愛の神殿』なのだが・・・
何らかの特例に対処すべく極秘裏にスペシャルなサービスを行う部門が存在するという噂を。

「それで・・・ここではどんなサービスをしてるの?」
シルフィナは興味津々で尋ねてみた。すると小人娘たちはキョトンとした様子で顔を見合わせ・・・

「キャハハハ・・・!」
大笑いし始めた。

「もぉーっ、お客さんたら!」
「オトボケはなしにしましょーっ。」
「どんなサービスかご存知だから来たのでしょう?」
「そうじゃなきゃ、ここへは来れないんですよ!」
4人とも笑うばかりで何が何やら全く分からない。

「いいわよ、もう。帰ってこの人とっちめなきゃならないんだから!」
「うわわっ?イテテッ!痛い、痛いよ!シル!!」
シルフィナは蟻でも摘み上げるみたいにデュークの体を指先で摘んだ。
(ちょっぴり、力を強いめにして。)

「ああ、そんな!」
「困りますぅ!」
「何にもしないうちに帰ったら、私たちが店長に怒られます!」
「せめて店長が戻るまで、お待ち下さい。」
4人の小人娘がすがるような目をウルウルさせて嘆願した。流石にこれでは帰りぬくい。

「仕方ないわね、じゃあ、店長さんとやらが帰るまで待ちましょう。」
「わ〜い、よかった、よかった!」
足元で小人娘たちが輪になって踊っているのを見て、シルフィナは嘆息した。

「それでは、お飲み物をお持ちいたしますのでしばしお待ちを・・・」
そういうと彼女たちはフッと姿を消した。

**********

「もう日が沈むね、シル。」
「・・・・・」
「みんな心配してるだろうね、シル。」
「・・・・・」
「あのさぁ、シル。」
「・・・・・」
「やっぱりまだ怒ってる?」
「当然でしょッ!」
ゴォッ!怒声が突風となって、手の平の上のデュークを吹き飛ばしそうになった。

「心配してきてみれば若い女の子にデレデレして!」
「いや、そんな、デレデレなんて・・・」
「心配したんだからね!私のこと忘れちゃったじゃんじゃなかって!」
「そんな・・・」
デュークは言葉を詰まらせた。間近に迫ったシルフィナの顔に現れていたのは『怒り』ではなかったから。
『不安』『恐れ』、それが瞳に浮かんだ感情の全てだった。
彼の全身を映す大鏡となった瞳は今、涙で塗れていた。

「ごめんよ、ごめん・・・・・」
「ううん、いいのよ。信じてるから。」
シルフィナは涙を拭き、ようやく笑った。

「これからも・・・信じさせてね。」
「ああ、勿論だとも。」
シルフィナはデュークを乗せた手をそっと自分の口元に寄せた。
デュークは手の平の上をゆっくりと歩いて唇へと近づいた。
そして・・・・・・・・・・・・・・長い長ぁ〜いKISS。

「お待たせいたしましたぁっーーー・・・・あれ?お邪魔でしたか?」
「あ?いえ、別に邪魔なんて!」
「い?いや、そんなことはない!」
いきなり現れた小人娘たちに驚いた二人は赤面して離れた。

「お飲み物をお持ちしましたーーーっ!当店自慢のスペシャル・ドリンクでぇす!」
小人娘のうちの3人が大樽100杯分の酒が入りそうな巨大なグラスに、真っ赤な液体を満たして持ってきた。

「旦那様にはこちらをどうぞ!」
小人娘の最後の1人が人間用の小さなグラスに同じく赤い液体を注いだ。
甘くさわやかな良い香りがする。

「特に変わった飲み物でもなさそうね。じゃ、頂きます。」
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ・・・・・
ルビー色の甘い液体はたちまち飲み干された。

「あーっ・・・美味しかった!これ、なんていう飲み物なの?」
「はい、このカクテルはジェイコリア・クラッシュと申します!」
「ふぅん・・・どしたの?デューク?」
同じくカクテルを飲み干したデュークは少し首をかしげた。

「ん、まあいい感じなんだけど。少しアルコール入ってるね?」
「えっ?ええ、勿論・・・でもほんの軽〜いやつですから差し支えは・・・」
「ま、これくらいのアルコールならば酔う心配もないか。
シルも最近は結構アルコールに強くなってき・・・た・・・しぃ?!」
何気なく、シルフィナを見上げたデュークの顔がたちまち蒼ざめた!

「えっ?」
蒼ざめるデュークのまわりを囲む小人娘たちはキョトンとした。

「でゅーくちゃぁぁぁん、なぁにぃおしゃべりしてるのぉぉぉ?」
嫌な予感に囚われつつも小人娘たちはギギッと首を動かし上を見た。
頭上の空をシルフィナの巨大な赤ら顔が占領していた。

「お?おい、シル!そんなに強いお酒じゃなかったぞ?なんで酔っ払って・・・」
「うーーーっ?わぁたぁしぃは酔ってないもーーーん・・・と。」
巨大エルフは完全に酔っていた。

「あーそーだそーだ、今、思い出しました。カクテルに使ったエルエル草は別名・エルフマタタビと申しまして。
エルフ族が服用すると微量でも酩酊状態になることも・・・」
「そーゆーことは先に言ってくれよ!ま、まずいぞ、このままじゃ・・・。」
妻の上機嫌な赤ら顔を見てデュークは思い出した。
結婚当時のまだ酒に弱かった頃のシルに悪戯で呑ませてみたあの時の惨劇を!

「でゅーーーーぅくぅぅぅ・・・・・なんでわたしを無視するのよぅ。」
上機嫌のシルフィナだったが、突然ポロポロと大粒の涙を流し始めた。

「くすん・・・わたしなんかより小人さんたちとおはなしするほうがたのしいのね!」
デュークたちの頭上からしょっぱくて暖かい涙の大雨が降り注いだ。

「あわわわ!涙の集中豪雨警報だわ!」「奥さん、泣き上戸だったんですか?」
「それだけじゃない!」
「きゃーはっはっはっ!でゅーくったらずぶ濡れー!おっかしぃーーー!」
シルフィナは今度はいきなり大笑いを始めた。

「あらあら、ほんとは笑い上戸だったんですね。」
「それだけじゃないんだ!」
「くぅぉら、でゅーく!きさまはたるんでおる!いいたいことがたっぷりあるからそこへすわれ!」
地面に正座させたデュークにシルフィナは説教を始めた。

「・・・からみ上戸だったんですね。」
「ちがう、シルはね・・・泣き笑い怒り・からみ・いじめ・だだっこ上戸なんだよ!」
一瞬全員が顔を見合わせ、それからデュークに全員の・・・哀れみに視線が集中した。

「大変なんですねぇー、旦那さんも。」
ほっといてくれよ、とデュークが言おうとしたときだった。
さらに・・・事態をややこしくする登場人物が帰ってきた。

「ただいまですー!お客様はいらっしゃったですかー?」
「あ、店長!お帰りなさいませ。」
「あのな、店長さん・・・あんたは!」
デュークはこのとんでもない店?の文句を言うべく『店長』の方を振りかえった。
そして言葉を失った。

「あらら、デュークさん、シルフィナちゃん、いらっしゃいませですー。」
「・・・・・あ、あんた・・・ラミラナ・・・さん?」
足元にいたのは風呂敷包みを背負った蝶のような羽を生やした小妖精、『この世で最も過激な恋愛仕掛け人』ラミラナであった。

「あららららー、らみらなおばちゃんじゃないですかー。おひさしぶりですぅー!」
今度は幼児退行を起こしたらしいシルフィナの馬鹿能天気な声にデュークはハッとした。

「あ〜ら、シルちゃんご機嫌ですねー?」
「あのな、ご機嫌じゃないよ!あんたのトコの店員とやらが変な酒なんか飲ますから・・・はわわわっ!」
ラミラナに気を取られた瞬間にシルフィナの指がデュークを摘み上げたのだ。
デュークは大人数でないと囲めない巨木のような指の間でジタバタしたが、シルフィナの指はビクともしない。
一瞬にしてデュークは山々の頂きを見下ろす高みにいた。

「や、やめ!シル、下ろしてくれ!危ないよ!!」
「だーめ、でゅーくちゃんはぁ『うわき』したから、おしおきしなきゃ。」
「うわぁーっ!助け・・・わ?わわわ!わはははははははは!!」
デュークはシルフィナの手の平の上で大笑いを始めた。

「こちょ、こちょこちょ、こちょこちょこちょ!」
「や、やめ、シル、くすぐったいよ!わははは・・・」
シルフィナはニコニコ笑いながら、『くすぐりの拷問』を続けた。
手の平の上で転げまわるデュークが気に入ったようで、近くにあった台座に腰掛けてゆっくりといたぶった。

「つぎはですねー、『ぺろぺろのごうもん』ですよー。」
ぺろぺろぺろぺろぺろ・・・・
「うわっ、シル!危ないよ、悪かった、俺が悪かったから・・・」
デュークは必死に謝ったが、当のシルフィナは謝罪などどうでもいいらしかった。
実に楽しそうに、舌先でデュークを突き飛ばし、押さえつけ、持ち上げ、よーく味わっているようだった。
可哀相なデューク君はフラフラになるまで、生ぬるい唾液でネットリした舌先と甘い吐息に追いまわされる羽目になった。

「つぎはねぇー、『ふわふわ・ぽかぽかのごうもん』しちゃうよー!」
「へっ?何だい、その拷問・・・ワァッ!」
意味不明の拷問の正体を知る前にデュークは手の平から落とされた!
地上までは約3リムル(300メートル)、墜落死確実の高さ!

ぽぉん、ぼよよぉ〜ん・・・
だが、地上に激突するはるか手前で、デュークの体は柔らかなクッションに受け止められた。
妙に、プヨプヨフカフカした感触にデュークは閉じていた目を開けた。

「た、助かったけど・・・ここは!」
「はぁーい、シルちゃまのおっぱいのうえでぇす!」
シルフィナの、大きく開けた胸元からふくよかな胸の上へと落下していたのだった。

「さあ、アナタ。他の女にデレデレした罰です。存分に味わいなさい。」
またまた人格が変わってしまったシルフィナは自分の乳房を服の上からガシッと鷲づかみにした。
そして巨大な左右の『プリンちゃん』を谷間にいるデュークに押しつけ、挟み込んだ。
這い出ようとするデュークの苦労など問題にもならず、彼はただただ肉の巨山の前に翻弄されるばかりだ。

「あ・・・はぁん・・・デューク、罰として私のおっぱいを吸いなさい。」
「こ、こら!シル、何も人前で・・・」
急にお色気モードに突入したシルフィナにデュークは焦った。
流石に人前で夫婦間のナニを公開するほどの好き者ではなかった。

「あ、デュークさん、お気になさらずとも結構ですー。ここは元々そーゆー場所なんですー。」
「へぇ?それってどーゆーことなんですか?」
驚くデュークの問いにラミラナは咳払いをしてから、説明を始めた。

「こほん!むかし、むかぁしのお話ですー。
この山の向こうにエルフたちが住む小さな村があったですー。
その村では不思議なことに女の子しか生まれなくなってしまったですー。
原因もわからなかったし、近くには他のエルフ村もなかったので、人間のお婿さんを探すことになったですー。
でも今みたいに人間と妖精族の間に行き来がほとんどなかったですー。
エルフたちは『頼みに行っても断られるかもしれないし、変な噂がたったりしたら大変』と考えたですー。
だから強引だけど、近くの人間の村からイイ男をさらってくることにしたですー。
幸い人間の村は日照り続きで困っていたのですー。
そこで雨を降らせるっていう条件で生贄として好みの男の子を指名してここへつれてきたですー。
後はですねー、ここでですねー、むふふふ・・・しちゃうんですぅーーー!ムフフフ・・・・」
ラミラナの説明を聞いてデュークは愕然とした。
子供の頃に聞かされた雨乞いの悲劇の生贄の伝説・・・その正体がエルフの婿さがしだったとは!

「だから、ここでは目一杯、遠慮なく、思う存分、しちゃってだいじょーぶですー!!」
「店長!」「お客様の邪魔しちゃだめです!」「私たちはここまで!」「失礼しました、お客様!」
「ああ〜!なにするですかー、私はこれからお二人にイロイロと指導を・・・」
ドカッバキッベキッゴキッ!
ラミラナ店長は店員小人娘たちにとっ捕まえられ、縛り上げられ、引きずられていった。

「では、ごゆっくり〜!」
「いや、ごゆっくり〜なんて言われても困・・・はわわわっ!」
左右からの圧力が一段とアップして、デュークの体はプヨプヨ・フカフカの中で潰れそうになった。

「でゅーくぅぅぅ、私以外の女とお喋りしてちゃダメでちゅよぉぉぉ・・・」
「うぐぐぐ、苦し・・・気持ちいい・・・苦しい・・・でも気持ちいい・・・」
苦痛と快感を同時に味わわされてデュークの意識が朦朧としてきた。
(もうダメだ・・・・・)
意識が途絶える直前にデュークは解放された。
シルフィナが豊かなバストを押さえつける力を急に緩めたのだ。

「はわわわわわわぁぁぁぁぁ・・・!」
胸の谷間からこぼれ落ちたデュークは服の内側、シルフィナのお腹の斜面を転がるように落ちていった。
必死になって振りまわした手が何処かにひっかかって何とか止まった。

「た、助かった、ここは・・・ヘソか。」
運良くヘソに引っかかったようだ。下を見ると青くて薄いレース地の布が見える。

「おっ、あれはシルのとっときの勝負パンティ!やっぱり今夜はその気だったのか!」
一瞬、デュークの顔がだらしなーく緩んだ、今夜以前に今を乗り切れるかどうかも問題なのだが。

「ん?シルのやつ、何する気だ?」
シルフィナの人差し指と中指が視界の中に入ってきたのだ。スカートの中に自分の手を突っ込んだらしい。
その二本の指がレース地の端に引っ掛けられた。

「お・・・おおっ!」
おヘソの穴から身を乗り出したデュークはついつい楽しそうな声を上げた。
指先がパンティの端を引っ張り、その内側をさらけ出したのだ。
銀色の縮れた藪が生い茂るその部分をデュークは我を忘れて見入っていた。

グラグラグラ!
「はわぁーっ!」
突然の揺れでデュークはヘソから放り出されてしまった!
そのままレース地の内側、銀色の藪の中へと頭から突っ込んだ!

「あ・・・デュークったら、もう。せっかちさんなんだから。」
かすかな忍び笑いをもらすと、シルフィナは指先を太股と下腹部が織り成すラインに滑らせた。
そして指を止める。人差し指の下に小さな異物がムズムズと動いてる気配。
指先にちょっとだけ力を入れる。潰さないように優しく、逃がさないようにしっかりと。

「おわわっ?シル、無茶しないでくれよ!」
頭上一面の青い布地が指先に圧迫されて楕円形に突き出した。
デュークの体の数倍の広さがある突出は、優雅に弧を描きながら迫ってくる。
やがて銀色の縮れっ毛の藪に囚われたデュークの真上に指先が到達した。

「ウギュッ・・・」
布地越しの青い光の中で、何千本もの背丈より高い銀色の藪草が上からの圧力で地に押しつけられた。
上からは圧倒的に強大で、それでいて繊細で優しい愛撫。
下のきめ細やかな肌からは心地よい暖かさ、緩やかな呼吸の大きなうねり。

「ああん、デューク・・・私のパンティに忍び込むなんてイケナイ子ね。罰としてもっと気持ちよくしてネ。」
シルフィナの指先の動きが強く、激しく、貪欲になった。

「はぁ、はぁ・・・ん、あ・・・ん・・・」
緩やかだった呼吸が乱れ、声の質が少しずつ変わっていった。

「ううっ、滅茶苦茶危ないんだけど、これはなかなか・・・」
銀毛にとらえられ、指先の動きに翻弄されつつもデュークは男としての悦びに浸っていた。
下方から絶えず吹き上げてくる濃密な香りに、思考力を奪われていたからかもしれないが。

「そうよ、もうちょっと。もうちょっとだけ、下へ・・・」
「おっ?あそこに見えるのは?」
シルフィナの指先に押されてデュークは少しずつ下方へと移動していった。
そして銀毛の藪の途切れたところにそれは見えた。

「流石に・・・デカイぜ!」
粘液を絶え間なく吹き出す亀裂の上部にツルツルした光沢のあるドーム状の突起が出現した。
もはや、デュークが抱えきれないほどの巨大なそれは、興奮してほのかなピンクからルビーのような赤へと変色を始めている。

「ウォッ・・・!」ムギューッ・・・
最後の一押しがデュークのささやかな肉体をドームの頂上へと押しつけた。

「ハッ・・・・・!」
息もつまるほどの快感がシルフィナを突き抜けた。
大量の液体が亀裂から吹き上げ、青いパンティの広々とした内側を隅々まで濡らした。

**********

谷の絶壁の中ほどに外からは分からないように作られた人工の隠し部屋があった。
その覗き窓からジッと見つめていたのは言わずと知れたラミラナ店長さんであった。

「いやはや、シルちゃんてばとっても大胆ですー!
まだまだお子様かと心配してたけど、立派なオトナになっちゃって嬉しーですー。」
ラミラナは涙を拭うふりしながら、二人の激しい行為になおも見入っていた。
部下の小人娘たちも気が気ではない。

「店長!感慨深げに覗き行為を正当化する発言をするのやめてください!」
「お客様のプライバシーを侵害してますよ!」
「愛の神殿本部にばれたら厳罰です!」
「この間だってヤバかったでしょ!」
口々に抗議する部下の言葉にもラミラナは耳も貸さずに覗き窓にへばりついていた。

「う〜ん?デュークさんのほうに効果が出てこないですー?
カクテルの調合に失敗したかもしれないですー・・・・」
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■ 第八章・真の狂祭
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「・・・・・ん、気持ち・・・よかったぁ・・・」
シルフィナは半ば夢見心地で半身を起こした。

「ヤダ、大事なトコがベトベトしちゃってるぅ!水浴びしなきゃ・・・」
おぼつかない足取りでシルフィナは立ちあがり、歩きはじめた。

「ん・・・シル。何処へ向かってるんだろ?」
何千本もの銀毛に絡みつかれ、べとつく液体で妻の敏感な部分に貼りついたまま、デュークは薄目を開けた。
しかし、目に映るの銀の密林とその下に広がる肌色の大地と頭上を覆う青い布地だけ。
パンティの内側の世界からは外の状況は分からなかった。

ズ・・・ズズン、ズ・・・ズズン。
一歩進むたびに足元がフラつき、敷石を陥没させたり、祭壇を蹴飛ばして粉々にしたりしながら、シルフィナは澄んだ水を満々とたたえるプールの前へとやってきた。

「ちょっぴり水浴びしましょ!」
そして彼女は服も脱がずに深く青い水の中へと飛びこんだ!
ドボォーーーン!
湖並の広さを持つプールから大空の雲に届くほど巨大な水柱が上がった!

「うわっ!?なんだなんだ!!」
デュークは驚いた。いきなり大量の水がパンティの中へと侵入、というより激流となって押し寄せてきたのだ!
銀毛に絡みつかれて動きがとれない彼は、縛り上げられて水中に沈んだのと同じだった。
(グボボボ・・・息ができない。このままじゃ溺れちまう・・・)

「ふぅ・・・冷たくて気持ちイイよね・・・アッ?だ、だめよ、デューク!いきなりそんな!!」
彼女の最も敏感な部分に貼りついていたデュークが突然暴れ出したのだ。
予想外の強烈な刺激にシルフィナの肉体も激しく反応した!

「アアッ!!でゅーく、デュー・・・!!」
ズガン!ズガン!!ドガン!ドガン!!
振りまわした腕がプールの側壁を叩き壊し、巨大な足が水底を踏み抜いた!

**********

「大変です、店長!」
「お客様がすごく暴れてます!」
「プールが決壊しました!」
「破損した水道を修理しないと、大洪水です!」
矢継ぎ早に被害報告が真っ青になったラミラナに届けられた。

「あうあうあわわ・・・どーしましょ?ですー・・・なんとか考えなくっちゃですー。」
勿論、いい考えなどあるわけもなかった。

**********

「あーびっくりしたぁ、だめよぉ、デュークいたずらしちゃぁ・・・?」
シルフィナは濡れたスカートを自分でまくりあげ、パンティの中を覗いた。
そこに捕獲しておいた筈のデュークの姿がない。

「デューク・・・?逃げたわね、これからが本番という時に!」
これから何をする気だったか分からないが、シルフィナの顔に凄惨な怒りをはらんだ笑顔が浮かんだ。
グッと握った拳骨を無造作に崖へと叩きこむ。

ドガアァーーーン!ガラガラガラ・・・
縦横に亀裂が入った崖が盛大な轟音とともに崩壊していく。

「待っていなさい、デューク!この『皆殺しのシルフィナ』様から逃げられると思わないでね!アハハハハ!」
森を揺るがす高笑いとともにシルフィナは谷を去って行った。
しばしの静寂の後、岩の下から這い出してきた小さな影が5名・・・

「お客様、帰っちゃいましたよ。」
「本日の被害、プール全損、芝生のベッド水没、水道破裂、それから・・・」
「大損害ですよ、店長。」
「神殿からの謹慎処分確実ですよね。」
4人の部下がジト目で詰め寄ってくる。だがラミラナは決して屈しなかった。

「このくらいで大事なお仕事をあきらめたりはしないですー!!」
そう、未熟者といえどラミラナも愛の守り神の一人なのだ・・・

「野苺のケーキとアップルパイを賭けた大仕事ですー、あきらめるもんかですー!!」
・・・・・未熟者はやはり目的も未熟であった。

**********

「ギルーネ様、やはり諦めたほうがよろしいのではないかと・・・ううっ!」
「これ以上無理したら、わてらマジでやばいでっせ・・・ヒッ?」
腫れ上がった顔を恐怖に引きつらせてナゲッキーとタカトビ−は沈黙した。
二人ともギルーネの怒りの鉄拳をしこたまブチこまれたのだ。
普通の人間ならとっくの昔にぺちゃんこになってあの世直行である。

「・・・グダグダ言ってる暇があったらサッサとシルフィナたちをお捜し!
このまま手ぶらで帰ったら父上からどんな恐ろしい罰を食らうと思ってるのよ?」
イライラしながらギルーネは下僕2名の小さな体をグッと握り締めた。
二人とも苦しげな声で抗議したが、ギルーネは耳も貸さない。
その時、ギルーネは前方の山がグラグラと揺れ、崩れはじめるのを見た。

「おっ、あっちからやってくるのは・・・シルフィナ!」
山を一跨ぎしようとしてつまずき、山肌の半分をえぐって転んだシルフィナが目前にいた。

(チャンスだ!何故かわかんないけど、足元がふらついてる今なら・・・倒せる!)
ズゥン!自信満々でギルーネは足音を響かせつつ、シルフィナの前に立った!

「久しぶりね、シルフィナ!決着をつける時が・・・」
「邪魔。」
ブワチィッ!
ものすごい衝撃音が右頬でしたと思ったら、ギルーネの視界がグルグルグルグルと回転した。
バガァーーーン!
高速で横転した彼女の顔面直撃で山が真っ二つになって砕けた。
ドガァーン!
その隣の山に頭から突っ込み、2、3度痙攣してからギルーネは完全に動かなくなった。
そんな悲惨なギルーネにもシルフィナは無関心らしかった。

「う〜ん?でゅーくの匂いがこっちからするぅ・・・」
ズガン、ズガン、ズガン・・・足元の山を踏み潰しながらシルフィナは歩き去っていった。
ピクリとも動かなくなったギルーネを残して。

**********

ルウリアは祭の人ごみから少し離れた橋の欄干に座っていた。
川面をぼんやりと見つめながら一人静かに思い悩んでいた。

(『確実に成功させる。』って言うからラミラナに任せてみたけど・・・)
考えながらも手にしたコップの木苺のジュースを一口飲んだ。

(なんせ愛の女神の中で一番の問題児だもんなー、あの娘・・・)
右手に持った林檎飴を一口かじり・・・

(でも、腕は確かなのも事実だし・・・)
指の間にはさんだ綿菓子をひと舐めし・・・

(少しばかりやりすぎるのだけが問題なだけで・・・)
射的遊びで獲得した小熊のぬいぐるみの頭をなでて・・・

(ああ、その『少しばかり』が大問題だった・・・)
指にはめたヨーヨーを2、3度回した。

「ああっ、もう・・・気になってお祭も楽しめやしない!・・・あ?あれぇ!?」
しっかり祭を楽しんでるルウリアだったが、水面を流れてくるものを見たとたんに、お祭気分は完全に吹っ飛んだ。

「でゅー・・デュークちゃん?!なんでこんなところに?」
川の水面をゆっくりゆっくりと、目を回したデュークが流れくだってきたところだった・・・

「あ・・・・・ルウリア・・・さん?」
「デュークちゃん、しっかりして!」
ぐったりしていたデュークはルウリアの手で岸辺へ引っ張り上げられた。

「一体何があったの?!」
「いや、そのなんというか・・・ラミラナさんていう妖精に変なお酒を飲まされて・・・」
「ラミラナーーー?!」
ルウリアは頭を抱えた。そして己の見通しの甘さを呪った。

「それで俺もシルも酔っ払っちゃって・・・・・ウッ?」
「どうしたの、デュークちゃん?体が・・・すごく熱いわよ?」
デュークの体が風邪でもひいたように熱くなっていた。
それも尋常な体温ではなく体から湯気が立ち上るほどだ。

「・・・何か飲まされたって言ってたわね、どんなお酒を?」
「・・・た、たしか・・・ジェイコリア・クラッシュとか・・・」
ルウリアの顔が引きつった。ある『特殊な効能』を持つ木の実から醸造される酒だが、あまりに過激な効果ゆえ製造禁止になっている酒である。
さしものルウリアも女王らしからぬ悪態をつこうとしたその時だった。

「あ〜、でゅーく君、見っけ!」
山の向こうからヒョコリと顔を出して、巨大酔っ払いエルフがやってきた・・・
しっとりと濡れた服が豊満な体のラインをあらわにし、大きくはだけた胸元はノーブラ状態!
ギリギリ乳首が見えるか見えないかというきわどい状態であった。

「お、ありゃあ、デューク坊ンとこの嫁っ子でないかい?」
「なんか、ミョーに色っぽい格好しとるのー?」
「お、こっちへ来るぞ・・・・・」
そう、シルフィナは真っ直ぐ・・・いや、千鳥足で町の中へ入ってきた。
足元にある家も人間も気にかけずに・・・
ズシン!バリ!ズシン!バリバリ!
「キャーッ!私の家が!!」
「なんだあ?これもお祭のアトラクションかぁ?!」
家々の屋根を踏み抜き、敷地ごと陥没させて、ニコニコ笑顔のシルフィナがやってくる。
足元にいた人々は踏み潰されそうになり、血相変えて逃げ惑った。

「こらー、ラミラナ!近くにいるんでしょ!」
「はいはい、なんですー?」
ルウリアの一声で小さな妖精は目の前の空中に姿をあらわした。

「どーすんのよ、ラミラナ!この騒ぎを?」
「心配ないですー。こんなこともあろうかと準備しといたですー。」
「じゃあ、さっさとなんとかしなさい!」
「はいですー。」
ラミラナは背中の風呂敷包みから白い液体の入った小瓶を取りだし、栓を開けた。
赤い液体はたちまち気化して赤い煙になり、希薄化しながら町中に広まっていった。
そして、巨大エルフ奥様狂乱にパニックに陥っていた人々は気づかぬうちにその煙を吸いこんでいった。

「キャァァァーーー・・・あ、あら?」
「助けー・・・・・・んん?」
煙を吸いこんだ人々は逃げ回るのやめ、足を止めた。そして・・・ニコニコと上機嫌に笑いはじめた!

ドゴン!間近に踏み下ろされた巨大な足にも、人々は驚かなかった。それどころか・・・

「オーッ!デュークの嫁さんじゃねぇか?元気いいねー。」
「わーっはっはっはっ、おめえ家踏み潰されちまってるぜ!愉快だねー!」
「なーに言ってやがる、お前ん家だって蹴飛ばされて山の天辺に引越してんじゃねーか!」
怯える者も逃げる者ももう誰もいない。どいつもこいつも陽気に呑気に大笑いしているだけだ。
そう、町中の人間が酔っ払っていたのである!

「大成功!町中の人が酔っ払えば多少騒ぎが起きても誰も気にしないですー。」
呆然とするルウリアの傍らでラミラナは一人ご満悦であった。

「あーんーたーって娘ははぁぁぁっ!」
「あうー!?ルウちゃん、痛いですー!!」
キリキリキリ・・・渾身の力でラミラナを握り締めたルウリアの怒りは爆発寸前だった!

「いつもいつも無茶苦茶ばっかして!少しはデュークちゃんの迷惑も考えて・・・あれ?
デュークちゃん、何処にいるの?」
辺りにいるのはバカ笑いしながら踊り歌い狂う人々ばかり。デュークの姿は何処にもない。
さっきの騒ぎでデュークとはぐれてしまったようだ。

「でゅーくぅぅぅ、かくれてないで、でてらっしゃいぃぃぃ!いーコトしてあげるからぁぁぁ・・・」
更に悪酔いしまくってるシルフィナの陽気な声が夜の空気を震わせた。

**********

「よぉー、デュークじゃないか!結婚したんだって?」
デュークが顔見知りの雑貨屋に逃げ込んだったんに、親父がこれまたバカ陽気に話しかけてきた。

「悪い、親父さん!しばらくかくまってくれ!」
デュークは酔っていなかった。全身を駆け巡る熱い何かが酔いを拒んでいた。

「なあんだぁ?夫婦喧嘩かぁ?いかんぞー、嫁さんは大事にせにゃあ・・・」
「シルの酔いが醒めるまでだよ!くっそー、なんでこーゆーことに?」
デュークは床の上にどっかり胡座をかいた。とにかく今は時間をかせぐしかない。

「でゅーくぅぅぅ、さっさとでてきなさいぃぃぃ・・・でてこないとおしおきだぞーーー!」
外では相変わらず酔っ払ったシルフィナの声が聞こえる度に床も壁もビリビリと振動した。
しかもシルフィナの後から町中の人間がゾロゾロと行列をなしてついてくる。

グワッシャーーーン!ミシミシミシ!
「ワーハッハハハ!また誰かの家を踏んづけちまったぞ。」
「あらら、そそっかしいわねー、あの奥さん。」
「おーい、でゅーく!さっさと出てこねえと町がなくなるぜい!」
シルフィナが家を蹴飛ばし踏み潰すたびに拍手と歓声と大爆笑が巻き起こる。
全員が赤ら顔で歌い踊りながらのお祭進軍なのだから始末が悪い。

「う〜っ!熱くなってきたぁっ!風の精霊さ〜ん、涼しくしちゃってぇーーー!」
ビョォォォッ!シルフィナが大きく腕を一振りすると、竜巻のような風が巻き起こった!

「ひゃぁぁぁ・・・」「飛ばされちまいそーだー!」
後からついてきた酔っ払いの大軍団も吹き飛ばされそうな突風に、シルフィナのスカートが翻った。

「キャッ?」
さしもの酔っ払いモードのシルフィナもパンチラは恥ずかしかったのか、慌てて裾を押さえた。

「うーん、青か・・・イイ趣味してるねぇ。」
「おい、親父さん!他人の妻のパンチラで興奮しないでくれ!」
デレーっとしてる雑貨屋の店主にデュークはマジでくってかかった。

「んー?デューク、そういうお前こそ随分元気になってるじゃないか?」
「えっ?」
一瞬、キョトンとした間抜けな表情の後で、デュークは自分の下半身を見た。

「わわっ?なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
デュークの一物はズボンが窮屈になるほど膨れ上がり、いきりたっていた。
普段の勃起なら恥ずかしいだけだろうが、様子がおかしい。
彼の一物は腕ぐらいの太さにまで膨張し、赤黒い先端部がズボンからはみ出しつつあるのだ。

「ほぉーっ、ガキだと思っていたら随分立派なモン持ってるじゃないか。」
「お、親父さんそれどころじゃ・・・うわわわっ!」
ビリビリビリッ!デュークの一物は太股くらいに肥大し、ズボンとパンツを引き裂いた。
まるで股間から丸太でも生えているような状態でデュークはしりもちをつき、寝そべる格好になった。

ドグンドグンドグン・・・
一物は更なる膨張、いや巨大化を続けて天井に向かって伸びてゆく。

「何が・・・どうなって・・・うっ・・・」
先端部が天井に達したが、急成長は止まらなかった。
鋼鉄並の硬さとなった亀頭は天井をやすやすとぶち抜いた。

「オイオイ、デューク・・・人の店壊すなよ。」
「そ、そんなこと言ったってどうやったら止まるんだか?!」
「そーだよなぁ、男っていうものは走り出したら止められねぇ。いや止まっちゃいけねぇんだ!」
遠い目をした店主の前でデュークの『男のシンボル』は屋根を貫通し、夜の町の空気の中へ頭を出した。

「あら、見覚えのあるものが・・・」
いきなり出現した赤黒い肉棒の塔にシルフィナが気づかないわけがなかった・・・

ズシン・・・ズシン・・ズシン、ズシンズシンズシンズシィィィン!
早足で一直線に途中の障害物全部踏み潰してシルフィナはやってきた。

「あ〜ら、珍しいところに珍しいキノコが生えてるわねぇ・・・」
シルフィナはニタリと笑った。

「ううう・・まずい!こんなまずい状態で見つかってしまうとは!」
「デューク、年貢の納め時ってことだぜ。」
「あのなぁ、親父さん・・・ウッ!」
大きく暖かいものが、充血して鋭敏になっている先端に触れたのだ。
店の中なので屋根の上は見えないが、シルフィナがデュークの一物をギュッと握ったらしい。

メキメキメキ!ガラガラ・・・
凄い勢いでデュークの体が上に引き上げれた。

ビョォォォ・・・
冷たい夜風が吹き抜ける空中、大穴の開いた雑貨屋の屋根が遥か下方に小さく見えている。
そして・・・視界は愛する妻の巨大な笑顔に占有されていた。

「あ〜ら、デューク君見っけ!もお逃がさないわよー。」
引きぬいたばかりの巨大『肉棒キノコ』を指先で摘んでもてあそびながらシルフィナは楽しそうに笑った。

「シ、シル・・・悪かった!もう逃げないから、とにかく下へ降ろしてくれ。」
「だぁーめぇ!このキノコは私が見つけたんだから私がいただいちゃうの!」
巨大な舌が巨大な唇をペロリと舐める。さしものデュークもギョッとした。

「あ、あのさ、シル。まず冷静に落ち着いて・・・」
「まずは逃げらんないようにしっかり抱っこしてあげるなきゃ・・・」
シルフィナは赤子を抱きかかえるようにそっと脈動する一物を抱きしめ・・・

「うぅぅおおおっ?!」
恐怖におののいていたデュークも思わず声を上げる気持ちよさ!
巨木と化した一物をシルフィナは巨大な火山のような乳房で左右からはさみこんだのだ。
心地よい暖かさと柔らかさが、いきりたつデュークを優しく力強く包み込んできた。

「シ、シル・・・ウワォォゥ・・・」
ピチャピチャピチャ・・・
感じやすくなっている先端部を生暖かい濡れた何かが這い回る。
巨大な乳房の影になって見えないが、肉棒の先端をシルフィナが舐めまわしているらしい。

「シル、人前でそんな大胆な・・・うっ・・・」
ちゅばちゅばちゅば・・・
吸いつくような音に変わり、大木と化した肉棒を伝って幾筋もの唾液が細い滝のように滴ってきた。
いきり立っていた肉棒はもう大爆発寸前だった。

**********

少し離れたお祭用のやぐらの上でこの狂態を冷静に観察している女たちがいた。
ルウリアとラミラナ+部下四名であった。

「大性交、じゃなくて大成功ですー!超精力剤に超催淫剤効果を加えたお酒はよく効くですー!」
「まったく・・・なんて代物飲ますのよ、私のデュークちゃんに!」
ルウリアはさっきから頭を抱えたままだ。

「ルウちゃん、過保護すぎですー!第一、デュークちゃんはもう貴方の・・・」
「分かってるわよ!現世では私とデュークちゃんは赤の他人よ、でも・・・それでも・・・」
ルウリアは言葉を飲み込み、それっきり黙ってしまった。

「ホント、『子離れ』できてないんですよねー、ルウちゃんは。」
ラミラナはからかうようにルウリアの顔の回りを飛びまわった。

「そんなんじゃないわ・・・・・いけない!」
遠目に見えるシルフィナの動きに危険な変化があった。
彼女は平衡感覚を失ったようにフラフラと倒れそうだった。
もし倒れれば、その衝撃波だけで町は壊滅的打撃を受けるだろう。
危険に気づいたルウリアは透明な水晶で作ったネックレスを外し、夜空に投げ上げた。

**********

「おおい!シル、大丈夫か!!」
「だい・・・じょーぶ・・・れーすぅぅぅ!」
ドグシャッ!グワラララ・・・
酔いが回りすぎたのかシルフィナはまともに立っていることさえできず、町を踏み潰し続けた。
足元では足が踏み下ろされる度に家が10軒以上踏み砕かれ、硬い煉瓦の壁が粉になっていった。
足元で踊り狂う人間を今だ一人も踏み潰していないのは奇跡に近かった。

「で、でも、こんなにフラついてるぜ?」
「だいじょーーーぶ、だった・・・らぁ?!」
ズガーーーン!
足をもつれさせたシルフィナは大げさに転倒した!
既に踏み潰されていた町の残骸が一瞬で消し飛び、音速に近い衝撃波が同心円状にいくつも広がり、町の残った部分を吹き飛ばしていく!
巻き上がった土ぼこりが山間に充満して、辺りは何も見えなくなった。

「あーあ、痛かったぁ・・・」
大して痛そうでもない声を上げながらシルフィナは上半身をムクリと起こした。

「ケホケホッ!クッ・・・やっちまった!町の皆は?」
シルフィナの胸元で巨大バストにはさまれたデュークも無事だった。
なにしろ山に匹敵する巨大クッションに守られていたのだから無傷も当然かもしれない。

「あー、町の人ォ?誰もいないわよォ!」
「えっ・・・まさか、いまのショックで皆吹き飛ばされたんじゃ・・・」
デュークは蒼白になった。彼の生まれ故郷の町だった。
両親も弟もいる、子供の頃から友人も、世話になった近所のおじさんやおばさんだって・・・
それが、まさか自分達のせいで・・・

「違うわよォ、私が倒れる寸前に皆パッと消えちゃったの。」
「・・・消えた?!」
「んー・・・・あの消え方からするとルウおばちゃんの瞬間移動魔法みたいね。
今、この町には生き物は犬一匹いないわよ。」
「そうか・・・よかった・・・」
デュークは安心して胸をなでおろして・・・いられる状態ではなかった!

「じゃあ、本格的に頂いちゃおうかナ?デューク君特製のキノコ料理を、ウフフフ・・・」
「エッ・・・?ヒエェェェッ?!」
片手にしっかとデュークを(正確にはデューク付きの肉棒を)持ち、もう片方の手はシルフィナはスカートを捲り上げた。

「ジャーーン!やっぱりキノコはこっちで味わわなきゃね!チャァーーーン、チャラララ・・・」
そして、ムードを出しながらユックリと自分のパンティを下ろしたのであった!
そう、下半身の『唇』はまるで御馳走の前で涎でも垂らすように濡れ始めていた。
それを見たデュークの一物はビクンと脈打ち、これは以上ないと思えた硬さを更に増していた。

「うわわわっ、シル!無茶はやめろ!」
「・・・・・いっただきまぁ〜す!ん・・・・・」
ズブッ・・・勢い良く巨大肉棒列車は粘膜トンネルへと突っ込んで行った。

「ウッ・・・シル、無理・・・」
「ああ〜ん、サイズぴったりよ。デューク!」
ズブズブッ!
小さな抗議の声など無視してシルフィナは肉棒をさらに自分の奥深くへと捻りこんだ。

「う・・あ・・・」
デュークは言葉を搾り出すこともできなくなった。
並の状態でも挿入は快感の頂点を極めるほどの快楽なのだ。
しかも、彼のアレは現在は数百倍の大きさに巨大化し、受け入れる側も十分なキャパシティを持っている!
発狂寸前のエクスタシーの大波、いや大津波がデュークを襲っていた。

「ああん、デューク!やっぱり貴方って最高!サイコーよ!」
自らの手でデュークの欲棒を操り、自らの内側をかき回し、エルフの若奥様は昇りつめていった・・・

**********

「う〜ん、ウルサイなぁ・・・」
寝ぼけ眼をこすりながらフレイナは首を持ち上げた。
彼女は窮屈な宿屋の部屋に泊まるのより、外で寝る方が好きだったので、レビィと一緒にドラゴンの発着場で寝ていたのだが、騒音で半分目を覚ましてしまった。

「ねーねー、レビィ。なんかパパとママが騒いでるみたいだけど」
レビィも薄目を開けた、といっても鳥目の彼女には何も見えなかったのだが、声を聞けばシルフィナがどういう状態なのかはよく分かった。

「気にしないで、おねんねするデス。パパとママは大事なご用あるネ。」
「ファ〜ぃ・・・ぐぅ・・・」
再び寝息をたてはじめたフレイナをレビィは大きな翼で優しく覆った。
イキまくってるシルフィナの声が届かないように。


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■ 第九章・大蛇目覚める?
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「ね!ね!ラミラナおねーちゃん!お願いだよ!」
「う〜ん、困ったですねー・・・」
愛の妖精・仮免許申請中のラミラナは悩んだ。
彼女の前で一生懸命お願いポーズを繰り返してしているのは、知人のエルフの少女だった。
その横には、というより少女の足元ではやはり困ったような顔で笑っている壮年の人間の男がいた。

「私なら構わんよ、ラミラナさん。」
「でもぉー、レイロード王?勝手にそんなことしたら貴方のお母様のルウちゃんに私、怒られるですー。」
レイロード王と呼ばれた男はニコニコと笑ってうなずいた。

「内緒でやればいいさ・・・」
「でもぉ、シルフィナちゃんと貴方の縁結びしようったって寿命・・・」
レイロード王は(言わないで!)と言うように唇に人差し指をあて、ラミラナは黙った。
まだ幼子というべきシルフィナが美しい大人のエルフへと成長する頃には、人間であるレイロードの寿命は尽き果て、骨の欠片すら残ってはいないだろう。
寿命の違う者同士では縁結びなど最初から不可能なのだ。
だが今の少女には理解できないし、悲しませたくもなかった。

「分かりました・・・じゃあ、シルちゃん、レイちゃん。ここに名前書いてね。」
野原一杯に巨大な契約書が広げられた。

『わたし、しるふぃなは、れいろーどおにいちゃんと、けっこんします。
かわいいあかちゃんも、たくさんほしいです。
ほうしゅうとして、キャンディひとびんをまえわたしいたします。』
覚えたての字を必死に書いている巨大な少女の可愛い姿を見て、レイロード王は寂しくなった。
(この子の成長した姿を、自分は生きているうちに見ることさえできないか。)
その当たり前の事実がつらく、悲しく思えた。

「おーし、契約成立ですー!後は私にお任せ!ですー!」
履行不可能なはずの契約に異常に闘志を燃やすラミラナを見てレイロード王は言い知れぬ不安を覚えた。
だが、どっちみち不可能な縁結び契約なのだ、不可能なはずなのだ・・・・・

**********

「う〜ん、またレイお兄ちゃんの夢見ちゃった。何だか、うれしーな・・・」
浅い眠りから目覚めたシルフィナは大きく伸びをした。そして辺りを見た・・・

「・・・・・えっ?」
胸もあらわな姿で寝そべっている自分に気づき、少し思い出した。
・・・・・恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「それにしてもここは・・・」
廃墟と化した町の中にいることにシルフィナは気づき、かなり思い出した。
・・・・・とんでもないことをしでかしたと思い、顔が真っ青になった。

「・・・・・あ、デュークは何処に?」
「・・・・・ここ・・だよ・・・シル。」
すぐ近くで微かな声がした。いや、近くというよりも・・・

「ここだよぉ、シル。」
「え?アンッ・・・?」
よくお馴染みの、しかし刺激的な快感が両足の間で生じた。
シルフィナが急いで自分の剥き出しになっている秘所を覗きこむと・・・
銀色の茂みの隙間から情けない顔を出しているデュークがいた。

「な、なにしてんのよ!デューク!!」
「・・・なにしてるって・・・君が無理矢理押しこんだんじゃないか。」
「あっ・・・・・そうだったわね。」
シルフィナは完全に思い出した、悪酔いに任せての行いの数々を。

「と、とにかく貴方をそこから抜かなきゃね。それからラミラナの奴を捜し出して何とかさせるわ。」
「頼むよ、自力では動けないんだ。」
今のデュークは『付属物』が巨大すぎて、というよりデュークのほうが一物の付属物のような状態なので、自分では動くこともできないのだ。
シルフィナは自分の中に突入している肉棒の外に出ている後半分を掴んだ。

「ウワッ・・・」
「ごめん!痛かった?」
「い、いや痛いというより気持ちよくて・・・いいよ、引っ張り出してくれ。」
「わかったわ。(ちょっともったいないけど・・・)」
シルフィナは慎重に力を込めて肉棒を引っ張り出そうとした。だがしかし!

「やぁ〜ん?ヌルヌルしてきてつかめなぁい?」
突如としてシルフィナの粘膜の隙間から生暖かい透明な液体が染み出してきたのだ。
ヌラヌラした液体にまみれた肉棒は、まるでウナギのように力を入れれば入れるほど滑ってつかめない!

「まだ抜いちゃダメですー!こっからが本番なんですー。」
後から聞こえた声に振りかえるとラミラナがいた!

「こらー、ラミラナ!こっからが本番ってどーゆー意味・・・?ハゥッ!?」
立ちあがろうとしたシルフィナの膝から力が抜け、地響きをたててへたり込むはめになった。
ズズズズズ・・・・・
既に倒れ掛かった柱や煉瓦壁が残るだけになっていた町は、彼女のお尻の下で挽き潰され、文字通り粉に変わっていった。

「や、やめて、デューク!こんな時に・・・」
「ちちち違う!俺じゃなくて俺の『息子』が勝手に!!」
シルフィナの中に挿入されていたデュークの物が突然激しく動き、いや暴れはじめた!
蛇がうねるようにシルフィナの内側を押し広げ進んで行く。
そしてシルフィナの膣壁もまた・・・侵入者を呑みこもうとするかのように激しく収縮した。

「おーっ、効いてきたですー!生殖器に擬似意識を持たせる秘薬成功ですー!」
「ぎ、擬似意識ィーッ?なんなのよ、それは!ハ?アァァァ・・・」
これ以上の進入を食い止めようとするシルフィナの指をデュークの一物は振り払い、さらに深く食い込んだ。
先端部は既に最深部に達し、さらにその奥への扉を強引にこじ開けようとしていた。

「生殖器に本体とは別の意志を持たせる秘薬ですー。
意志を持った生殖器は生殖本能にのみ基づいた行動を自らの判断で実行するですーっ!」
「何が成功だーっ!なんとかしろー!!」
必死の抗議も虚しく、デュークの眼前を一段と大きく口を開いた薄いピンク色の粘膜が占拠した。

「うわぁぁぁっ・・・お助けぇぇぇ・・・」
ピンク色の滑らかな粘膜の鍾乳洞が超巨大サイズのデュークの肉棒、いや肉巨柱を完全に呑みこんだ!
そして『息子の付属物』化したデューク自身もシルフィナの内側の闇の中に引きずりこまれていった。

「ふうう、これで第2段階終了ですー。そしてつぎこそ本命の第3段階・・・」
「いーかげんにしてよね、ラミラナねーちゃん!」
ドラゴンも逃げ出す物凄い形相で、疼く下腹部を手で押さえつつシルフィナは立ちあがり・・・

「さっさとデュークを元に戻しなさい!!・・・あふ?」
ガクッ・・・ベキベキベキ・・・・・
膝に力が入らなかったのであろう、膝をついてまたひっくりかえった。

「あんまり動いちゃだめですー。貴方の子宮でデュークさんが大事なお仕事してるんですー。」
「私の子宮で・・・大事な仕事?ハッ?うっ・・・」
シルフィナは子宮・・・デュークがいるあたりを押さえてのけぞった。
痛みや苦しみではない、太く硬く力強い何かが内臓をくすぐるような感覚が彼女の自由を奪っていた。

**********

女体の神秘の奥の更に奥、シルフィナの子宮の中。
人間のスケールからすればちょっとした邸宅が丸々納まる広々とした鍾乳洞。
そのど真中に天井に届くほど巨大な鍾乳石・・・ならぬ赤黒い肉の巨柱一本。

「おい、貴様!こんなところまで入りこんでどういうつもりだ?」
デュークは遥か頭上の天井に向かってそそり立つ自分の『息子』に向かって怒鳴った。
もちろん『息子』が答えるはずはない。

「とにかく、さっさと外に出ろ!いや、それより先に元の大きさに戻れ!」
デュークの怒鳴り声が聞こえたわけでもないだろうが、巨大『息子』は蛇のように鎌首をもたげてデュークの方を見た。

「俺の『息子』なら俺の言うことを聞け!」
しかし『息子』は興味なさそうにプイと横を向いた。そして意外な行動に出た。

ドシン!
「あっ?!ウッ・・・」
ドシン!ドシン!
「ウッウッ、こら、何しやがる!!」
ドシン、ドシン、ドシン!
「止めろ、うっ・・・止めろといってるだろうが!」
超巨大『息子』が蛇のように身をくねらせて子宮の内壁に頭を叩きつけているのだ。
亀頭が子宮の内側の粘膜とこすれあうたびに、イッてしまいそうな快感が走る。

「やめ・・やめ・・・・・や・・・・・」
数千倍化した気持ちよさにデュークの思考はとろけて、やがてまともな判断力を失っていった。
そうなると『息子』は完全に歯止めがきかなくなって、子宮の内壁に更に激しく頭突きを食らわせはじめた。
ドシン、ドシン、ドシン・・・・・ズボッ!
手当たり次第にかましてきた頭突きが偶然、壁の一角の窪みに命中した。
そこはさきほどの進入路であるシルフィナの膣へと通ずる『出口』であった・・・

**********

「フハハハッ!!見つけたぞ、シルフィナ!!この私から逃れられると・・・何をしておる?」
先ほど意識を取り戻し、焦って空を飛んできたギルーネは間の抜けた顔で問いただした。
何しろお目当てのシルフィナが下半身丸出しで悶えているのだから。

「あ・・・ふうううん・・・ん・・・」
「あの・・・シルフィナ、さっきから何を?」
「だ、だめよ、デューク・・・大人しく・・・」
「ちょっとぉっ!私を無視しないでよー!!」
だがシルフィナはもうギルーネの事など完全に目に入っていない。
胎内で大暴れするデュークの一物にひたすらもてあそばれ、よがり狂うだけだった。

「お待ちを、ギルーネ様。あれをご覧下さい。」
「えっ、ナゲッキー?あれって・・・」
ナゲッキーは黙ってシルフィナの下腹部を指差した。
そこに異様な変化が起きていた。滑らかな色白の皮膚がポコン、ポコンと波打っていたのだ。
波打つ、というより体の内側から何かが突ついているらしい。

「何なのだ、あれは!?」
「もしや、あれこそが懐妊の兆しやもしれませぬぞ!」
驚愕するギルーネにナゲッキーは冷静に答えた。

「でも、ナゲやん・・・子供できたからゆうても、あないに変にはならへん思うんやけど・・・」
「甘い、甘いぞ、タカトビー!!今回の任務は何か忘れたか!」
「そら、『デュークとかいう人間とシルフィナというエルフに子供できたら知らせろ。』とご主人様が・・・」
「そう、我等が主・アクマード様が気にかけておられるほどの妊娠なのだ!普通と違って当たり前なのだよ!」
自信タップリに断言するナゲッキー!・・・・・いや、あながち間違ってはいないんだが・・・・・

「では、これで任務は・・・」
「左様、完了でございます、ギルーネ様。」
「ああっ、よかった。これで帰れる・・・もう、パン屋の売り子や朝の牛乳配達や新聞配達や深夜の道路工事や路上の怪しげなアクセサリー売りのバイトもしなくて済むのね!」
ギルーネの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
魔界の貴族のお嬢様だった彼女にとって人間の世界での辛い、つらーいビンボー暮らしがついに終わりを告げようとしていたのだ!

「では、早速魔界へ帰って父上に報告・・・」
「いえ、それだけでは手柄というには不充分でしょう。ここはあのエルフ女を魔界へ連れかえれば・・・」
「父上に誉めていただける・・・というわけね?よかろう!
我が下僕、ナゲッキーよ!タカトビーよ!ギルーネの名において命ずる、汝のあるべき姿に戻れ!」
瞬間、ナゲッキーとタカトビーの黒衣の姿が崩れ、二条の細く長い黒煙と化した。
ナゲッキーの変じた黒煙がギルーネの腕に絡みつき、何かの形を取り始めた。

「嘆きの大鎌よ!ここに!」
ナゲッキーは巨大な大鎌へと姿を変えた!刃渡りはゆうに5リムル(500m)はあろうか。
同時にタカトビーの黒煙もまた姿を変えつつあった。
ギルーネの巨大な体を覆い、肉体に密着する形へと。

「飛翔の鎧よ!ここに!!」
漆黒の巨大な翼を背に持つ暗黒の鎧、それがタカトビーの本来の姿であった。
そして小さな町を覆い隠す巨大な姿の不吉な黒いエンジェル・・・それがギルーネの真の姿であった。
そこには先ほどまでのどこか間の抜けた魔族の小娘の面影はなかった。
見る者の心を凍りつかせる恐怖と冷酷の象徴のみが存在していた。

「さあ、シルフィナよ!観念して我が手に落ちるがいい!ホホホホホッ!」
思いっきり格好つけてギルーネは高笑いした。本当に嬉しかった。
(やった・・・毎晩、喉から血が出るまでやらされた『悪の高笑い』の成果がようやく日の目をみたわ。)

「あのー、シルちゃん連れて行かれたら、困るんですー。」
思いきり間の抜けた声が高笑いに水を差した。

「誰よ、こんな時に・・・むっ?」
見ると横たわり悶えるシルフィナの胸の上にチョコンとすわっている小人らしき五人の姿が見えた。

「私は愛の神殿の妖精・ラミラナと言いますー。今、シルちゃんに子宝を授けるお仕事中なんですー。
だからー、邪魔されるとすごーく迷惑なんですー!」
「子宝だとぉっ?ではシルフィナは確実に妊娠しているというわけなのね!」
ギルーネは内心でほくそえんだ。愛の神殿の妖精が絡んでいるならば妊娠は絶対確実に違いない。

「はい、ですからそのー邪魔しないで・・・」
「ならば!なおさら譲れぬわ!シルフィナは我が父上の元に連れて行く!」
ギルーネは大鎌を振り上げラミラナたちを威嚇した。
(愛の神殿直属の妖精とはいえ、所詮は非戦闘員。少し脅してやれば尻尾を巻いて逃げ出すでしょう。)

「あやや?あの魔族さん、マジで襲ってきますわ。」
「こっちは戦いは本職じゃないのにぃ!」
「このままでは仕事に支障が出ちゃうよ。」
「どーするんですか、ラミラナ様」
ラッシィたち4人組が困った様子でラミラナの指示を求めた。
目を閉じ、彼女にしては珍しく真顔でラミラナは口を開いた。

「やむを得ないですー。久々にアレをやるですー!」
その言葉を聞いた瞬間、ラッシィたちの顔から血の気がスゥーッと引いた。

「ア、アレ?アレはヤバイんじゃ・・・」
「そーですわ、愛の神殿に知られたらタダじゃ済まないですわ。」
「それでなくてもラミラナ様は目をつけられてるのにぃ!」
「アレだけは止めておいたほうが・・・」
猛反対する部下に向かってラミラナは再び口を開いた。

「みんな、私たちの使命を忘れたですかー?」
いつもはチャランポランな上司が発した『使命』という似合わない言葉に皆、一瞬言葉を失った。

「私たちの使命は愛し合う人々を命にかえても守り抜くこと。そのためには罰を恐れてはいけないのですー。」
静かに語るラミラナの言葉にラッシィたちは首をうなだれた。

「ラミラナ様、そんなに強い使命感をお持ちだったのですね。」
いー加減な奴にしか見えなかった彼女たちの上司が輝いて見えた。

「皆、分かってくれたですかー?」
「ハイッ!」
涙を浮かべた妖精たちの力強い返事が返ってきた!

「では、いくですー!愛のファイナル・フォーメーションですー!」
妖精たちは羽を広げて宙へ飛んだ。
幸いだったのは、その時ラミラナの口からこぼれた独り言が聞こえなかったことだろう。

「ふぅーっ、ここでキャンセルしたら『野苺のケーキ12段重ね』がフイになってしまうです−。」

「ん?抵抗する気か。」
ギルーネの前にラミラナを中心に小妖精五人が立ちはだかった。

「だまらっしゃいですー、お邪魔族!」
「お、お?お!お邪魔族ぅ?」
ギルーネはさすがに面食らった。今の彼女からすれば蟻に満たない奴がえらく強い態度にでてきたのだから。

「貴方なんかにシルちゃんたちは渡さないですー!」
「あのなぁ、渡さないといってもお前等程度じゃ話にも・・・ウワッ?」
パアアアッ・・・
ギルーネは思わず手で目を覆った。太陽のような強烈な光がラミラナたちの体から発せられたのだ。

「な、なんだ?なんのマネだ?!」
「ラミラナ・・・フォーメーション・・・ゴッデス・モード・・・」
輝きに包まれたラミラナたちの体から何千本ものレースのような白い布地が吹き出し、姿を覆い尽くして行く。
まもなく彼女たちの姿は全く別の形へと変わっていった。
ラミラナは大きなハート型の胸飾りをつけたドレスと巨大なとんがり帽子へ。
ラッシィとミリィは家々を乗せられるほどに巨大な一組の手袋へ
ラナとナッキィは同じく町の一区画を一踏みで踏み潰せそうな巨大ブーツへ。

「合体!ラミラナ・パーフェクト!」
最後の掛け声とともにブーツと手袋がドレスの中に引きこまれ、そしてあらためてそれらを身につけた色白の手足がドレスの中から勢いよく飛び出してきた!
最後に白い歯をキラリと輝かせながら微笑む顔がドレスの中せり出してきて、とんがり帽子をかぶった。
光が収まった時そこには小妖精の面影など微塵もない、身長8リムル(800m)を越す、優雅な微笑みを絶やさぬ穏やかな女神の姿が宙に浮かんでいた。

「な、なんだ、こいつは?タカトビー、ナゲッキー、あれは何者だ?」
様々な妖精や魔族を見てきたギルーネも、いきなり変形合体するような変な妖精は初めて見た。
動揺して、大鎌と鎧に姿を変えた部下に問いただす。

「落ち着いてください、ギルーネ様。多少姿を変えたところで我等の脅威にはなりません!」
「そやで!いっくら合体できたかて、所詮は非戦闘員やでぇっ!」
「そ、それもそうね・・・私としたことが焦ったわ。」
ギルーネは気を取りなおしてもう一度、大鎌を振り上げた。
ラミラナは・・・微笑んだまま動かない。

「邪魔をするならば死・・・」
「愛の強さを教える鉄拳制裁ですー!」
ボゴッ!余裕かましてたギルーネの隙だらけの顔面にラミラナの拳骨がめり込んだ。

「な?・・・・・」ヒュルルル、ドッカーン!
何が何だかわからないままギルーネは真後ろにひっくり返って町外れの空き地に墜落した。
墜落地点に開いた巨大クレーターの底からフラつきながら立ちあがろうとした時に・・・

「愛の痛みを教える殺人キックですー!」
ズドゴッ!「オグェッ!?」
間延びした声と共に背中に猛烈なドロップキックをお見舞いされた。
ギルーネは顔面から地面に突っ込み、脳震盪を起こして立ちあがれなくなった。

「更にトドメはぁー、愛の厳しさを教える愛の鞭ですー!」
びゅううぅぅぅん。ラミラナは袖の中に隠し持っていた薔薇の鞭を取り出した。
所々に薔薇の花が咲いている優雅で美しい鞭だが、トゲトゲが凄く痛そうだ!

「そ・・・そういえば、思い出したぞ。グエエエッ!」
地面を這いながら少しでも逃げようとするギルーネの背にブーツの踵が突き刺さる。

「愛の女神でありながら、依頼完遂のために手段を選ばぬ過激なやり口が問題化して・・・
その力を五分割されたとんでもない愛の女神がいると!さてはこいつがその問題児か?」
「あららら・・・問題児だなんて心外ですー。私はですねー。
ただ真実の愛を成就すべく全力を尽くしてるだけの、平凡で律儀で真面目な愛の女神ですー!。」
慈愛と信念に満ちた微笑を絶やさず、愛の女神・ラミラナは薔薇の鞭を振り上げた。
その時、背後で変事が起こった。
恍惚の表情で失神していたシルフィナが激しく痙攣しはじめたのだ。

「んーーー?」
振りかえるラミラナはシルフィナの秘所から滝のように溢れ出す愛液を見た。そして愛液とともにせり出してくる異形の一物の赤黒い頭を・・・
ズルリ、と巨大エルフの秘所から粘液に全身をテラテラさせながら大蛇のように這い出てきたそれは、紛れもなくデュークの超巨大化した陽物であった。

「あらら・・・胎内で暴れすぎて、はみだしちゃったみたいですー。どーしよーか?ですー。」
困り顔のラミラナは脚の下でもがくギルーネに蹴りを一発入れて大人しくさせると、シルフィナたちのほうに向き直った。

「あのーデュークさぁん・・・て、ゆーかデュークさんの立派な息子さぁん!」
ラミラナの声が聞こえたのか、大蛇のような『デュークの息子さん』は頭をラミラナへと向けた。

「すいませんですけどぉーシルちゃんの胎内に大人しく戻って頂きたいんで・す・け・どぉぉぉー?」
ラミラナは仰天するハメになった。いきなり『デュークの息子さん』が何十リムルもの長さに伸びだして、あろうことかラミラナめがけて飛びかかってきたのである!

「きゃぁぁぁ!私に何するですかぁー!?」
顔面に突っ込んでくる充血した先端部を何とか、かわしたまではよかったが、後続の蛇のようにうねる胴体部分が一瞬でラミラナの体をがんじがらめに絡み取ってしまった。
町を楽々一巻きできるほどの巨大さと長大さを獲得した『デュークの息子さん』はパワーも尋常ではなかった。
8リムルを越すラミラナの巨体を軽々と持ち上げ、空中で身動きできないように縛り上げてしまったのである。
そして予想外の行動を(いやアレならば当然の行動というべきかもしれないが)とった!
両足首に巻きつき力づくで足を開かせた。
そして、自身の先端部の照準を両足の間に合わせたのである。

「あややや、ヤバイですぅ!私を強姦する気らしいですーーー!」
のんびり屋のラミラナもこれには慌てた。性交を成功?させる裏方とも言える彼女が当のターゲットに強姦されては本末転倒・任務失敗・責任問題である!

「だ、だ、だめですー!デュークさん、やめるですー!」
愛の女神の必死の訴えだが、デューク本人ならともかく性欲の化身ともいうべき超巨大なアレを説得できるはずがなかった!
獲物を狙う蛇のごとくにジリジリと間合いを詰めた、そしてドレスの中へと潜り込んできた。

「あ、あ、あ、だめですー、やめるですー、シルちゃんに怒られちゃいますですー!」
だが、欲望のまま以外の行動はできない肉棒君がやめたり止まったりするすることはありえない!
熱い男の欲望がヒラヒラとたなびくレースのドレスの下を一気に突き進んだ!
目指すは無論、女体のいや、女神様の神秘への入り口ただ一点!

「あー、ヤバイですー。女神の貞操が危険ですー!この場は逃げるですー!」
間一髪、『デュークの息子さん』が入り口に触れる寸前にラミラナの全身がピカッ!と光った。

ビュゥン。
長大な一物の突撃は空を切った。あれ程、巨大なラミラナの姿が忽然と消えてしまったのである。
渾身の一撃が空振りに終わった『デュークの息子さん』はキョロキョロと周りを見まわして消えた獲物を探している。

「はぁーマジで危なかったですー。」
少し離れた丘の物陰で合体を解いて小人サイズに戻ったラミラナは安堵の溜息をついた。
彼女を取り囲むように他の4人も空中に浮かんでいる。

「で、これからどうなさるつもりなんですか、店長?」
「うーーーーーん・・・」
部下の厳しい視線に冷や汗をタラタラ流しながらラミラナは考え込んだ。

「仕方ありませんですー、ここはルウちゃんたちに見つからないうちにトンズラ。
いえ戦術的撤退を・・・ギュゥ!?」
「・・・・・却下。」
この一言は部下の者ではなかった。
背後に忍び寄ったルウリアがラミラナの全身を足で踏んづけて押さえたのである。

「いいえ手遅れと言うべきかしらね。久しぶりねぇ、ラミラナ。」
「あ、あ、あぅ。ルウちゃんいきなしヒドイですぅーーープギュッ!」
足の下の旧友の抗議に対するルウリアの答えは更に体重をかけることであった。

「でも、どうしたものかしら?今近づいたら私まで強姦されちゃいそーだし・・・」
足の下でもがき苦しむ旧友の存在を忘れ、ルウリアは対策を考えなければならなかった。
でも、やっぱり何も思いつかなかった。
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■ 第十章・帰りきたれ、我が元へ、我が内へ
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ビュン!(あれぇ?せっかくの獲物がいなくなっちゃったよ。)
ビュン、ビュゥン!(逃げられちゃったかなぁ?)
ビュン、ビュン、ビュウウウン!(惜しかったなあ、もうちょっとで一発決めたのに。)
『デュークの息子さん』は悔しそうに首を振りまわした。
ヌラヌラした全身から飛び散る愛液が、まるで汗か悔し涙のようだ。

ビュン。(仕方ないか。)
ビュン、ビュゥン。(他をあたろう。)
ビュ・・・ン(見つけた・・・他の獲物。)
ビュン・・・・・(すぐに見つかるなんて超ラッキーだね。)
かくして新たな獲物を発見した彼は文字通りの欲望、いや欲棒の権化と化して獲物ににじりよっていった。

「大丈夫でっか、ギルーネはん?」
「しっかりなすってください、ギルーネ様。」
「あたたた、うう・・・あの極道女神め、今度会ったらタダじゃおかないからね。」
鎧と大鎌に変身中の部下の必死の呼びかけでギルーネは半身を起こした。
踏んづけられて蹴飛ばされた頭の中では鐘の音がガンガン鳴り響いていた。
ふと、何かの気配がした。顔をあげるとそいつと目線があった。
いや、相手が相手だから目線とは言えないのだろうが。

「な、なによ?私になにをする気なのよ!」
ヌメヌメした液体にまみれてテラテラと光る蛇のような全身。
赤黒くグロテスクに肥大した亀の頭部を思わせる先端部。
ギルーネと向き合った瞬間からそいつの脈動は激しさを増し、明らかに興奮しているのが分かった。
男性経験のないギルーネにもそれが彼女を狙っていることだけは理解できた、それもよからぬ目的で。

ヒュン!そいつは体を鞭のようにしならせた。
「きゃっ?」ズコッ!
咄嗟に身をかわすギルーネ。一瞬の差で槍と化した肉棒がギルーネの倒れていた地面を突き刺した!

「きゃっ?」ズコッ!「きゃっ!きゃっ!」ズコッ!ズコッ!
「きゃっ?きゃぁぁっ!ひぇぇぇっ!」ズコッ!ズコッ、ズコッズコココココッ!!
凄まじい速さの突きのラッシュが地を転がって逃げ回るギルーネを襲う!
転がりまわる度に家や塀や道路がギルーネの胸やお尻で押しつぶされて砕け、破片となって舞い上がった。
そして建造物全てを根こそぎ破壊されて更地となった町に、亀頭部分だけでも家より大きい欲棒がガンガンと突きを食らわして、穴ぼこだらけにしていった。

「おのれ、ギルーネ様を強姦しようとは!このナゲッキー様が成敗してくれる!」
大鎌に変身したナゲッキーがバチバチッと火花を刃先から飛ばした。

「頼むわよ、ナゲッキー!」
「お任せあれ!」
ギルーネは大鎌を振り上げた。
硬い岩でも鉄でも切り裂く『嘆きの大鎌』がデュークの大切な一物に振り下ろされる!

「覚悟ォォォ!」グワッキィッ!
異音が響いた、敵を両断して振りぬけたはずの嘆きの大鎌は止まっていた。
敵に触れた瞬間の位置でピタリと停止してしまったのだ。

「な、な、な・・・」ピキピキピキ・・・
驚くギルーネの目の前で大鎌にヒビが入った。黒い金属の破片がパラパラとこぼれおちた。

パリン!
「・・・ぎ、ギルーネ様、申し訳ありませぇぇぇん・・・」
刃が粉々に砕けると大鎌はかき消すように消えた。大ダメージをくらって魔界へ強制送還されたのだ。
恐るべきことに肉欲でパワーアップした『デュークの息子さん』は鋼鉄をも凌ぐ硬度を備えていたらしい。

「きゃっ!やだ!やめなさい!」
虚をつかれたギルーネは熱く脈動する生きたロープに、たやすく巻きつかれてしまった。

「ご安心を、ギルーネ様!わてがおる限りお肌には指一本、ナニ一本触れさせまへん!」
「お、お願いよ、タカトビー!アンタが最後の頼みの綱なんだから!」
「お任せあれ、この『飛翔の鎧』はいかなる攻撃力もいかなる魔力も跳ね返し・・・」
ビキビキビキキキ・・・・・
猛烈なパワーで締め上げられた鎧に細かい亀裂がいくつも生じた。

「ちょ、ちょ、ちょっと、ナゲッキー!大丈夫なの?」
「すんまへん、ちょっと力が足らへんかったようでおます・・・・・ほな、さいなら。」
「あああっ!ちょっとォッ!?」
バキン!鎧が粉々になり消え去った。
今や、ギルーネは裸同然、いや、本当にハダカにされていた!

「あ、あ、あ・・・」
怯えるギルーネに湯気を立てている赤黒い先端部が迫る。
彼女の胴を縛り上げた肉棒のロープがピクピクと脈打ち、体温をさらに上昇させているのが伝わって来る。

「い、いや・・・こんなの。」
ギルーネは顔を背けた。だが『デュークの息子さん』は情け容赦なく迫ってくる。

「こんなのが初体験だなんて・・・嫌よ。」
だが、嫌といいながらギルーネは抵抗できなかった。
拒否する心のどこかで(これまでまともな男と全然縁がなかったし、このまま一生バージンていうのも恥ずかしいし、このまま失うのもいいかもしれない・・・)そんな声がするのだ。
身動きひとつできない彼女の両足の間に分け入った肉棒がゆっくりと接近してくる。
ギルーネは目を硬く閉じた。
ああ、もうすぐだ。熱い気配が彼女の鋭敏になった部分へと接近してくるのがわかる。

(姉様たちが言ってらしたように痛いのかしら?気持ちがいいのかしら?)
だが、それは結局わからないままだった。
粘膜接触寸前まで接近していた肉棒の動きがピタリと止まってしまったのだ。
いや止まっただけでは済まず、落城一歩手前のギルーネの両足の間からサササッと撤退してしまった。

(ん、なんで?どーして途中でやめちゃうのよ!人がせっかく覚悟決めたって・・・ギクッ!)
薄目を開けたギルーネは肉欲の権化たる一物が行動を止めた理由を知った。
ギルーネと『息子さん』を見下ろすような体勢でシルフィナが仁王立ちしていた。
笑顔の裏に激怒を、きらめく瞳には殺気をあらわにして!

「あらあらあら・・・無理矢理私の中に潜り込んできたクセに・・・今度は他の娘に潜り込みたいの?」
ズシン!ズゴゴゴ・・・巨大な足の一歩に大地が鳴動し、空が曇り雷鳴が響いた。
まるで、シルフィナの放つ怒りのオーラに天地が怯えるかのように。
強姦行為を中断させた『デュークの息子さん』もそれを感じているのか、シルフィナに亀頭を向けたまま硬直、いいや!ブルブルと震えているではないか。
ジロ・・・瞳の奥に烈火を灯した視線はギルーネをも貫いた。

「あ、あのシル先輩。お、落ち着いてくださぁい。これは、その、あの・・・」
「しかも、奥さん途中でほっぽっといて若い娘をコマそうなんて・・・いい度胸ねぇ。」
とりあえずギルーネの方は放っておいて好き放題してる夫のナニを片付けるつもりらしい。
(後でギルーネにも地獄を見せるつもりなのだろうが。)

「さぁ・・・こっちへ来なさい・・・・・」
シルフィナはスッと片手を差し出した。『デュークの息子さん』はビクッとして恐怖したのか、逃れようとするかのように少しずつ後ずさりした。

「お馬鹿さん、逃げられるわけないでしょう?だって・・・んっ!」
シルフィナは下腹に力を入れた。とたんに『デュークの息子さん』はバタバタと苦しみだした!
シルフィナの胎内に残っていた部分を猛烈な膣圧で締め上げられたのだ。
鋼鉄を凌ぐ強度の海綿体も、超巨大粘膜トンネルのパワーには太刀打ちできないらしい。
もがき苦しむ(?)ナニはたやすくシルフィナの巨大な手につかまれた。
動きを封じられては易々と捕まるしかなかった。

「ほんとに世話が焼けるわね。さあ、どんなお仕置きしちゃおーかな?」
手の中でブルブルと怯えるナニをシルフィナは顔の前に持ってきてニヤッと笑った。
赤黒く肥大した亀の頭が心なしか真っ青になったように見えた。そして・・・

チュ・・・
巨大さには似合わない小さな音が夜のしじまに響いた。
シルフィナは優しくキスしたのだ。

「エッ・・・?」
ギルーネは目を見張った。処女の彼女には想像できなかった大胆な行動だった。
だが、無論それで終わりではない。

「んぐ・・・ムグ・・・ムグッ・・・」
シルフィナは家よりも大きく膨れ上がったグロテスクな亀頭をそれよりも、さらに大きな自分の口腔内へ押しこんだ。そしてまさに庭付き豪邸を建てられる程の広々とした舌を絡ませてきたのである。

「ム、ム、ムグゥッ・・・・・」
「・・・す、すごい。あんなコトまでしちゃうの?」
ギルーネも肉欲棒に縛られた自分の身も忘れて目の前の乱れっぷりを凝視し続けた。
剥き出しの下半身、膣口から這い出した蛇のような肉棒は、町を一巻きできそうな弧を空中に描きながら激しく脈打ち、シルフィナの口の中で踊っていた。
肉棒のリズムに合わせてシルフィナの頬がポコポコと動き、その度にシルフィナは苦しげな、しかし心地よさそうな恍惚の貌を見せた。

「あああ・・・私まで変な・・・気分に。」
ギルーネを縛り上げる肉棒からも興奮の脈動が伝わってくる。
それを感じるうちに彼女もまた体の奥に何か熱い火が灯ったような気持ちになった。

「・・・・・ん。」ポン!
シルフィナは口の中、いや半ば喉まで入りこんでいた夫の肉棒を引きずり出した。
引きずり出された『デュークの息子さん』はまだまだ物足りないのかもう一度シルフィナの唇の間へと潜りこもうとする。

「うふふふ・・・最後までやってくれなきゃヤダ、って顔ね。でもね・・・」
ズズズズズン!
シルフィナは腰を下ろした。瓦礫ばかりになっていた町にシルフィナの尻を中心に地割れが走り、崩壊していた家や役場や道路や駅馬車待合所を地の底へと呑み込んでいった。
ズザザザザッ。
地に腰を下ろしたシルフィナが足を開くと、巨木何千本分の太さの太股が建物のあった形跡すらも押しつぶして、ただの広い荒地へと変えた。
周囲の惨状も忘れているのか、シルフィナは愛の営みを続けた。

「さ、貴方の帰ってくるところはここしかないのよ。私のココしかね。」
興奮しきっている肉棒の先端部を彼女は自分の銀毛の三角地帯の下部にそっとあてた。
肉棒が抜け出してきている深い洞窟の淵へ・・・
濡れきった粘膜同士が擦れあい、さらにヌルヌルとした液体が染み出してきた。

「さあ、入りなさい。そして、今度こそ思う存分私の内側で暴れなさい。」
シルフィナは手にグッと力を込めた。

「ん!!」ニュル・・・
さっき内側から外へ逃げ出した熱い肉棒、そして今、外から胎内へと帰還した同じ肉棒が彼女の膣内で縄目のように捻れ、絡み合い、押し広げ、翻弄した。

「ん!ん!んん!んーーー!!」
一本の肉棒を2本分味わいながらシルフィナは更に高まった。

**********

「は、はぁ、はぁ・・・畜生!俺の息子は外で何やらかしてるんだ?」
薄暗い子宮の中に取り残されたデュークは焦っていた。
自分は巨大化した自分のナニに押さえ込まれて身動き一つできず。
シルフィナからはなんの応答もなし。
息子から伝わって来るのは何かが触れる感触のみ。
さっきまでは何か硬い物ががぶつかってくる感触だったが、途中でねっとりした柔らかくて暖かいものに包まれる感触になり、何度もイキそうになった。

「まあ、気持ちよかったけど・・・おっ、帰ってきやがったな、馬鹿息子!」
子宮の出入り口を無理矢理こじ開けて巨大な紫の亀頭部分が頭上に突き出したのだ。

「やい、貴様!胎外でなにやらかしてやがった!」
巨大な息子は親元の方を見て、恐縮したように頭を下げた。
それは家出していた子供が反省して帰ってきて、照れ笑いしているのにも似ていた。

「とにかくだ、まず元の大きさに戻ってだな・・・おい、何をしている!?」
ズドォン!ズドォン!
巨大息子は再び子宮内壁に頭突きをかましはじめたのだ。まんべんなく子宮の内側を探るように、それは何かを捜しているようだ。

「お、おい!いい加減にし・・・そこは?」
ある一点に触れた瞬間に息子の様子が変わった。今度は慎重に狙いを定めているようだ。
その一点にはデュークも記憶があった。彼はかつてその奥にも進んだことがあったから。

「あ・・・あの奥は確か卵管とかいって卵巣に続いて・・・まさかそこへ行くつもりなのか?
ちょっと待て!そこじゃ狭すぎて今のお前じゃ取りぬけられないぞ!」
その部分は確かに女体の神秘の奥へと通じる道がある。
だが、シルフィナが巨大化している今でも人一人通るのがやっとの通路なのだ。
鯨よりも大きくなった一物が通過可能な通り道ではないのだ。
親の心配も知らぬ息子は弾みをつけるため、大きく身を反らした。

「こらー!よせー!シルが壊れちゃうだろー!!」
ビュゥウン!ズドン!
「な、なにぃ!?」
恐るべきというべきか、激突の瞬間に卵管の出入り口が一瞬だけ数十倍の大きさに拡張して、巨大な通行者の通行を許可してしまったのである。

「う、ぐ、ぐわわわっ・・・・!」
デュークは思い出していた、卵管とかいう通路には数万本の触手のような絨毛がびっしり生えていたことを。
そして普段は卵子を子宮へと運ぶその絨毛は、認められた連れ合いの侵入を感知すると逆に胎内の最深部へと強制連行する触手へと変じることを。そして・・・

「ウググワワワッ!!も、燃えてきやがったぁぁぁ!」
性的興奮を促す分泌物を大量に侵入者へと吹きかけることを!

**********

「ん、あ、あああン!!」
シルフィナは何度も身を捩った。さっきまではお腹の奥が熱かった。
しかし今は全身が熱い。体の中が燃えあがる海となり、何度も激しい波が荒れ狂った。

「す、すごい・・・これが大人同士の・・・愛し方・・・・・」
ギルーネはもう目をそらすことはできなかった。
シルフィナの動きが目に焼きつけられ、喘ぎ声が耳に刻み込まれた。
そして、彼女はクライマックスを目撃した。

「あ、何かしら?」
シルフィナの下半身から出ている肉棒(肉縄?)の一部がプックリ膨れているのだ。
ネズミを呑み込んだ蛇みたいなその膨らみはスーッと移動しギルーネの方へやってきた。

「?・・・熱いわ。」
肉のロープの内側を何かが通っている。
それはギルーネを縛っている部分をスルスルと通過し、またシルフィナの方へと戻って行く。

「一体なんなのかしら?」
好奇の目で膨らみの移動を追うギルーネの前で、膨らみはシルフィナの内側へと戻った。

パン!
「アウッ!」
何かが弾けるような大音響が響きシルフィナが全身を引きつらせた。

「な、なんなのよ!・・・アッ!また!!」
再びシルフィナの中からコブのような膨らみが出現した。しかも今度は二つも!
それはやはりギルーネの傍を通過し、シルフィナの中へと戻り・・・

パン!パパン!
今度は二回、シルフィナは声をたてることもできないほどの、盛大なのけぞりようだった。

「こ、これって・・・ああっ、今度は四つも!?」
何か大量の液体が『デュークの息子さん』の内側を通過しているのだ。それも半端な量ではない。

パ、パパッパパパッ!豪快な連続音が響いた。
一瞬、シルフィナは両手両足を天へ突き上げ、そのまま力尽きて大地に大の字になった。

「あ、凄い・・・・・」
ギルーネは動けなかった。手足を縛り上げた肉棒が緩み、自由を取り戻しても動けなかった。
先までの光景が何度も何度も脳裏に浮かび、それ以外は何も考えられなかった。
力尽きた肉棒は縮小しながらシュルシュルと巻き戻され、シルフィナの胎内へと収納された。

ドドドドド・・・・
やがてシルフィナの膣口から白いネットリした液体が滝のように流れ出した。
液体は、さながら大瀑布のように流れ出し、かつて町があった場所を強烈な匂いを放つ白い湖へ変えていった。

**********

「ねぇ、レビィ?こんどはヘンなにおいがするよ〜?」
再び目を覚ましたフレイナが鼻をヒクヒクさせている。
猛烈にイカ臭い液体の湖が発着場のすぐそばにできたのだから匂いで目を覚ますのも当然だろう。
レビィも薄目を開け、匂いを確かめた。
彼女には相変わらず何も見えないが、何の匂いかはすぐに分かった。

「我慢するネ。一晩我慢すれば、フレイナに弟か妹ができるデスヨ!」
「うわぁ〜い!パパ・・・弟がいいな、でも妹も欲しいな・・・グゥ。」
フレイナが眠ったのを確かめてからレビィも瞼を閉じた。
きっと明日は良い日になるだろう・・・・・

**********

「・・・・・一体、なんだったんだよ。」
シルフィナの子宮内も巨大な洞窟湖となっていた。
そのド真中にデュークはプカプカ浮かび漂っていた。
まわりの液体全部が彼の放出した精液であることは勿論である。

「つ、疲れた・・・俺はこのまま溺れ死ぬのか?自分の放出した液に沈んで・・・」
だが、その心配は無用だった。

ザ・・・
「ん?何だろう、何かが俺の足に触ったぞ?」
ザ、ザ、ザザザ・・・
「おっ、おおっ?」
彼の体は真っ白な水面から持ち上げられた。
小船ほどの大きさの透明な球体が浮かび上がり、沈みゆく彼を救ったのだ。

「こ、これは、一体なに・・・い、いや、違う!君は誰なんだ・・・まさか?」
デュークの問いに答えるように、そして嬉しそうに球体はプルプルと震えた。
そして球体の中心では、まだ目に見えないほど小さな何かが時を刻み始めた。そう、生命の『始まりの時』を。

**********

「はっ?」
我に返ったギルーネは町の様子を見てギクッとした。

「ま、まずいかもしんない!忘れてたけど『くれぐれも騒ぎを起こすな!』と父上から厳命されてたんだっけ。」
町はシルフィナたちの大暴れで完全に破壊された上に、精液の大洪水で跡形もなく流されちゃっている。
下手をすれば魔界・妖精界・人間界の間で国際問題になってしまう。

「仕方ないわね、父上に気づかれないうちにしばらく身を隠して・・・」
「もう手遅れだぞ。この大馬鹿娘めが!!」
声は地の底から響いてきた。恐ろしい声が響く度に大地が震え、空は一瞬にして暗雲に覆われていた。

「そ、その声は・・・ち・ち・う・え?」
「我が愛しき末娘よ、お前の活躍振りはとくと見せてもらった。
まず聞かせてもらおうか、そのエルフ娘の監視だけを命じた筈が何故このような馬鹿騒ぎになったのか?」
一応猫なで声を出してるつもりらしいが、押さえきれない怒りが随所に滲み出している。

「いえ、これは私のせいでは決して・・・その・・・」
「ワシが監視を命じたのはな、妖精界の女王がそのエルフ娘と人間の男の事をひどく気にかけているようなのでな。
念の為に極秘調査しておきたかっただけなのだ。それを・・・我が一族の名に泥を塗ってくれたな。
この間抜けがっ!お仕置きだ。」
「ヒエエッ!父上お許しを・・・」
ズドォッ!ドッカァーーーーーン!
天から真っ赤な火の玉が降ってきてギルーネを直撃爆破!
ヒュゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・
爆心地には巨大なキノコ雲がモコモコと立ち昇った。・・・なんとなく髑髏によく似た爆煙だった。

「ゴ、ゴメンナサイ・・・もうしわけありませぇ〜ん・・・」
黒コゲになって情けない格好で地面に突っ伏してるギルーネの巨体を、天から降ってきた炎の帯が投げ縄のように絡め取った。

「もう許さん、お前は我が魔界城の地下牢で反省するがよい!」
「ししししし城の地下牢?!嫌、あそこだけは勘弁してよォ。ねえ、パパァ!」
「大馬鹿者めが、勘弁ならぬわ!」
炎のロープがキリキリと巻き上げられてギルーネは宙吊りになった。
と、ギルーネを連行しようとするロープが急に動かなくなった。

「あ、あれ?この風は?」
ヒュォォォッ!
猛烈な風が気流となってギルーネの体を引き戻していた。ギルーネは風の発生地点を見た。

「シルフィナ先輩!(嬉)」
「魔界公爵だかギルーネのパパだか知らないけどね、勝手な事されちゃ頭に来るのよね!」
風はシルフィナが魔法で起こした物だった。

「やっぱり私を助けてくれたんですね!」
「何水臭いことを言ってるの・・・コレだけ無茶苦茶しといて、アンタ落とし前つけてないでしょうが!」
「ヒイイッ!殺される?」
爽やかなシルフィナの笑顔の裏に本気の殺意をギルーネは見た。

「ふん、エルフの小娘風情がワシに逆らうか?貴様の風など・・・」
フュッ!パチッ!
「キャッ!」ドシン!
シルフィナの放った風は魔界公爵の吐息ひとつでたやすく吹き戻され、彼女の巨体も軽々と飛ばされて手痛いしりもちをつくハメになった。

「あっ、痛ーい・・・なんて奴!魔力に差がありすぎるわ。」
地面に巨大なクレーターのような尻型を残して何とか腰をあげたシルフィナだったが、連れ去られようとするギルーネを前に歯軋りするしかなかった。

「たっくもう!こーゆー時にルウリアおばさん何処へ行っちゃったのよ!肝心の時に役に立たないんだから。」
憤慨するシルフィナであったが、これほどの大騒ぎにも関わらず妖精界女王ルウリアは一向に姿を見せない。

**********

「悪かったわね、役立たずで。」
山の背後に隠れていたルウリアは溜息をついた。

「でも私がでしゃばってあの魔界のお嬢ちゃんを助けたら戦争問題になりかねないのよね。
ま、公爵令嬢には気の毒だけど、殺されたりはしないでしょ。」
妖精界の女王と魔界公爵アクマードの間で揉め事を起こしては、悪くすれば魔界・妖精界全面戦争もありえる。
個人的な問題では手を出すべきではなかった。

「あら?変ね、何か・・・誰かが近くで魔力を放出してる?でも何処から?誰が?」
ルウリアは目を閉じ気配を探った。

「ダメ、何処の誰なのか全然分からない?こんなに強い魔力なのに・・・」

**********

「ほう?」
魔界公爵アクマードの声には驚きと・・・感嘆が含まれていた。
ジャイアントエルフの魔力でも断てない炎の呪縛縄がいきなり引き裂かれ、分解して消えてしまったのだ。

「キャアァアァアァァァ・・・」
ヒュルルル・・・ドカァン!
いきなり空中で放り出されたギルーネは魔法で空を飛べることも忘れていたらしく、足をバタつかせながら落下、地上へ顔面から着地して気を失った。

「エッ、何が起きたの?誰がやったの?」
シルフィナも誰がどうやって炎のロープを断ち切ったのか、分からなかった。

「そうか、その粗忽者がそんなに気に入ったのか?」
「あん?いや私は全然気に入ってなんか・・・」
「よかろう、ならば大馬鹿娘は貴様にくれてやろう。」
「ええっ?別に欲しくはないんですけど。」
アクマードとシルフィナの会話がどうも噛み合わない。
というより、アクマードの言葉は誰か他の人物に向けられているらしい。

「貴様の所有物の証だ。」
カシィッ!耳障りな音がギルーネの首筋でした。
見ると鋼鉄の頑丈そうな首輪が彼女の首にはめられていた。

「ではエルフの小娘よ、とりあえずはお前に我が娘を預けるとしよう。せいぜいこき使ってやるがいい。」
地の底から響くような声が止んだ。同時に空は雲ひとつない澄んだ夜空に戻っていた。

「預けるって・・・どーすんのよ、もう?」
完全に目を回してるギルーネを押しつけられてシルフィナは途方に暮れた。

**********

「ふうん、そーゆーことだったのね。これがアンタのもうひとつの『仕事』だったというわけね、ラミラナ。」
ルウリアは指先で摘んだ旧友をジト目で見た。

「そーですー。ひとつはシルちゃんたちに子宝を授けるコトだったんですけどーとっても大変だったですー。
まずレイロード王の生まれ変わりのデューク君捜し出すだけでも大変だったですー。」
「で、無理矢理シルちゃんと引き合わせて結婚しなきゃいけない状況に追いこんだワケね。」
ラミラナの得意満々の自慢話にルウリアは呆れつつもどこか少し嬉しそうだった。
自分の娘のように思ってきたシルフィナが自分の息子の生まれ変わりの青年と結ばれる。
それは自分のことと同じ位、幸せなことなのだと思った。

「ま、もうひとつのお仕事もうまく片付いたみたいね。先々ちょっと心配だけど・・・」
ルウリアは一瞬、真顔に戻って考え込んだ。

「さて、お仕事は終わったし、お邪魔虫してないで格好よく去るのみですー。」
ラミラナはフワリと地上に飛び降り、クルリと背を向けて歩み去って・・・

ズン!プチッ!
ルウリアの足がラミラナの頭上から降ってきて、思いっきり踏んずけたのである。
「グベッ?なななななななにするんですー?」
「ちょっと待ちなさい、大ボケ愛の女神様!」
ルウリアはニコニコと笑っていた、額の血管をピクピクさせながら。

「あうー、もう用はないハズですー!」
「あのね・・・この惨状が目に入らないとは言わせないわよ。」
「惨状って・・・」
足裏と地面の僅かな隙間からラミラナは見た。
かつて静かな山間の町だった場所は今や精液の湖と化し、僅かな木片や石積みが残るばかりである。

「生き物たちは避難させたけど、夜明け前までに町を元通りにしなきゃ・・・手伝ってもらうわよ。」
「・・・・・ううう、肉体労働ですかー?」
そして妖精女王と愛の女神の重労働は夜明け前まで続いた。

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■ 終章・ほんの少し先の未来へ
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蒼き山々が連なる山脈の果て、ひときわ高い山の頂上に、この地を守り続けた神殿があった。
山の麓から続く石畳の参道は大勢の人間や妖精たちで切れ目がない。
観光客向けの土産物屋や屋台は道ばかりか石段の両脇にまで建ち並んでいる。
古代より現代に至るまで、この神殿には参拝客の絶える日がない。
その神殿の入り口の前で一人の老人が立ち往生していた。
場違いなスーツ姿に古ぼけた山高帽をかぶり、でかい風呂敷包みを背負った姿は、田舎から出てきたばかりの典型的な『おのぼりさん』であった。
恥ずかしそうに受け付けに道を聞いている様からすると、広い神殿内で迷子になってしまったらしい。

「あ、あのまっことに申し訳ないんじゃが、13番祭壇へはどう行けばよいものやら・・・」
「まことに申し訳ありませんが・・・現在13番は・・・そのォ、担当者が不在でして・・・」
13番祭壇には何か事情があるらしく、受付嬢もひどく困った様子だ。

「13番の担当者の居場所なら知っていますよ。私も行くところなんです。」
丁度その場へ、同じく参拝者らしい中年の男が通りかかり、気さくに声をかけてきた。
日に焼けた、逞しい体つきの剣士らしい男で大きな箱を肩に担いでいた。

「私も彼女の、ラミラナさんの所へいく予定なんです。ご一緒しませんか?」
「おお、そりゃあ有難い!どうかお願いしますで。」
男と老人は一緒に長い廊下を歩き始めた。
廊下の突き当たりは更に地下へと続く階段となっていた。その暗闇の奥では・・・

「はぁーーー・・・・・・・・ちゃんとお仕事成功したのに、罰くらっちゃったですー・・・」
ラミラナが天井から吊り下げられた檻の中で溜息をついていた。
正確には「檻」でなく虫かごと呼ばれる代物だが。

「当たり前ですよー、店長。」
「アレだけ大騒ぎ起こしたらそりゃバレますよねー。」
「おまけに私達まで罰を受けさせられるなんて!」
「最悪よー、最悪だわー。」
ラミラナの部下(というより彼女の分身体なのだが)四名も同じ罰をとばっちりでくらっていた。
皆、ラミラナへ送る視線は冷たく、刺すように鋭い。
もっともラミラナは部下の非難の視線も全然こたえてないようだ。

ぐぅううううーーー、きゅるるるーーー。
お腹の虫が鳴く。懲罰室の食事は朝夕2回だけ、それも不味さで評判のお粥だけ。

「はぅーーーっ、お腹もすいたですー。」
「ほう?それはナイスタイミングだったようだね。」
男の声は音もなく開け放たれた扉の向こうからやってきた。

「ああっ、ロイちゃん!」
ラミラナの声に嬉しさと驚きが宿る。中年男性の方は昔からの知己であった。

「オイオイ、いい年齢したおじさんを『ロイちゃん』なんて呼ばないでくれよ。」
楽しそうに笑いながら、男−−かつては荒鷲王・ロイフォードと呼ばれた伝説の王ーーは担いでいた箱を床に置き、蓋を開けた。
甘い香りが薄暗く冷たい懲罰室にパァッと広がった。

「やったーですっ!!!野苺のケーキ12段重ねですー!!!」
ラミラナの悲鳴に近い歓喜の声が上がった。
ロイは約束の報酬を届けにやってきたのであった。

「では、ゆっくりと召し上がれ・・・とその前に。」
ロイは後からついてきた老人の方を振りかえった。

「貴方も報酬の支払いを済ませますか?アクマード公爵殿。」
ロイと老人の間に一瞬、冷たい火花が散った。

「なんじゃい、気づいておったのかい。せっかく平凡な人間の変装してきたというのに。」
おもしろくなさそうに老人は背中の風呂敷包みを下ろした。
包みを開くとこれまた甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「キャーッ!またまたやったです−!アップルパイ超特大デラックスですー!!」
ラミラナの狂喜は狂気寸前の所まで達していた。

「それにしてもとんでもない縁組をやってくれる愛の女神じゃわい。
生まれてもいない半エルフの男の子と我が娘をめあわせるとはのォ。」
老人は、いや魔界公爵アクマードは呆れたような、それでいて嬉しそうな顔で遠くを見つめる目をした。

**********

「全員整列!現状報告!」
狭い事務所の中でシルフィナの命令で男たちが整列した。

「ケニオワン渓谷での宿泊予約、大人30名と子供11名を確認しました。」
デュークは手にした書類を読み上げた。

「レビィさんの飛行準備とゴンドラの点検、完了しております!」
ナゲッキーがキビキビと答えた。

「飛行経路上の天候、良好でおます!」
タカトビーもビシッと答えを返した。

「準備はOKね。後は・・・・・」
シルフィナは窓の外をちらりと見た。

ズシン、ズシン、ズシン・・・町を揺るがす重い足音が近づいてきた。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・た、只今戻りました、社長・・・」
青い肌に黒髪の女巨人は抱えた馬車くらいの大きさの竹編みの籠を地面に下ろした。

「お客様全員のお弁当2食分受け取ってきましたぁ〜ゼィ、ゼィ、ゼィ・・・」
「遅いじゃないの、ギルーネ。出発時間ギリギリよ!」
シルフィナはすました顔でピシャリと叱責した。

「そんなコト言ったってェ〜、この子が邪魔を・・・アタタタ!」
ギルーネは顔をしかめて、胸元を見た。
半球型の巨大な二つの乳房の丁度中間、ペンダントのような小さな籠の中にいるそいつが、また髪の毛を引っ張ったのだ。

「仕方ない子ねぇ。あんまりギルーネお姉ちゃんのお仕事を邪魔しちゃだめよ、リートーちゃん。」
「キャハ?キャハハハ!」
シルフィナに返されたお返事は笑い声だった。まだ言葉は無理らしい。
なにしろ、まだ這い這いもできない赤ん坊なのだから当然か。
大きさは人間サイズなのだが、半分はジャイアント・エルフの血を引いているためかパワーは物凄いので始末が悪い。

「じゃあ、私たちはすぐに出発するから留守番お願いね。ギルーネちゃん!」
「ええっ?!また私一人お留守番ですかぁ?」
ギルーネはいかにも嫌そーな声と態度で不服を訴えた。

「一人じゃないでしょ?我が社の『跡とり息子』も一緒よ。」
シルフィナは至極サラリと言ってのけた。

「そんなぁ〜、無理ですよォ〜、私一人でリートー坊ちゃんの相手するのは・・・」
ギルーネの心情は不服を通り越して、途方に暮れる状態であった。

「あらぁ、仕方ないでしょ?お仕事に赤ちゃん連れていけないし。
第一、リートーったら母親の私より貴方になついているくらいだもの。」
「あううう、なつかれたくないですよー!」
「じゃ、後は任せたからヨロシクね!」
「そんなぁぁぁぁぁ・・・・・はぁ・・・・・」
抗議も虚し、ギルーネは自分の手の平の丁度真中に乗せた揺り篭の中の赤子を見た。
視線があうと赤子は嬉しそうに笑顔を返した。

「キャハッ。」
その笑顔はまさしく天使の微笑み・・・

「アイタタタ!!髪!髪!髪の毛引っ張らないで下さい!お願いですから、坊ちゃん!!」
「キャハハハ・・・」
よく晴れた空の下で明るく楽しい笑い声がいつまでもいつまで続いていた。
幼子の明るい未来を暗示しているかのようだった。

「ダメ、ダメですよォ!髪引っ張らないで・・・・・」
若干一名にとってはちょっぴり不運な未来かもしれないけども・・・・・