明日の英雄 ——フリーズ・ハート——

そこには、冷たく青い光があった。その大きな洞窟は床も、壁も、天井も透き通った氷でできていた。
その中央に一団の人々が身を寄せ合って震えていた。
若者も老人も子供も男も女も青ざめ震えていた。
寒さに?いいや、恐怖に震えていた。
「人間たちよ、どうした?寒いのか?」
冷たい声が響いた。優しいが、暖かさなどまるでない女の声。
氷の床から幻のように、山のように大きな女の頭部が現れた。
透き通った青い氷のような顔、ガラスの糸のような透明な髪。
ほっそりした肩が、豊かに盛り上がった胸が、やがて氷の彫像のような美しい姿が氷の上に音もなく現れた。
だが、その巨大さはなんというべきか。
震える人々のが背伸びしても彼女の足首にさえ届くまい。
「ああ、かわいそうな人間たち。こんなに震えて・・・」
青く透き通った巨大な手が人々に触れた。
「うわぁっ!」「キャァ?!」「つ、冷た・・・」
指先が触れた瞬間に、恐怖の表情で人間たちは凍りついた。
文字通り冷たい氷に包まれて氷結したのだ。
「あああ、まただわ。私が触れるもの全てが凍りつく。
この呪いある限り私はここから出られない。」
巨大な氷の女は溜息をついた。
「でも・・・もうすぐ、私はまた太陽の下へ戻れる。」
女は背後を振りかえった。氷の壁の中に人影が見えた。
高さ8リムル(800m)を越す壁の中に、緑の髪を壁面一杯に広げた巨大な娘の姿があった。
生気のない表情からは生きているのかさえ分からない。
氷の巨大女は氷中の巨大女にそっと頬をすりよせた。
「この体、この体に私の魂を移し替えれば・・・」
いとおしげに氷の女は氷壁に頬ずりした。
「・・・私は、また太陽の下を歩くことができる。」

ヒョォォォ・・・・・
身を切るような冷気を切り裂いて一匹のドラゴンが飛んで行く。
厚い雲に覆われた灰色の空の下、流氷に埋め尽くされた海原の上に、大きな氷山を見えてきた。
「見えてきたぞ!あれが氷の妖精・アイシュリーンの居城だ。」
ドラゴンは背に乗った二人の人間に話しかけた。
一人は古そうなロングソードを背負った不機嫌そうな青年。
もう一人は分厚い毛皮でグルグル巻きになった少年らしい。
「やれやれ、ロマリアの明日の英雄を目指す俺様が・・・
寒々とした氷原で、こうるさいドラゴンとクソ生意気なガキのお守りとはなァ・・・」
「こうるさいドラゴンとはなんだ!半人前の未熟者の分際で!」
ドラゴンの一喝に青年はビクッとなった。
「クソ生意気なガキって私の・・・僕のことかい!」
少年に詰め寄られて青年は後ずさりした。
「大体、仕事を選べる立場か!宿代まで使い込みおって!」
ドラゴンの怒りはまだおさまらない。
「その剣だって、質屋の借金を僕に立て替えてさせて返してもらったんだろ!」
「わ、分かってる!感謝してるよ、え・・・と?」
「私はエミリ・・・僕の名はエミール!さっさと覚えろ。」
「あ、そうだね、エミール君。シュバーン、高度を下げろ。」
「了解、海面スレスレを飛ぶぞ。」
シュバーンと呼ばれたドラゴンの左右に白波が立つ。
腹の鱗が海面に接触しそうなくらいの低空飛行だった。
「振り落とされるなよ、ラング!」
「了解!」
ラングと呼ばれた青年は不敵にニヤリと笑った。
* *********
「あれが入り口か。」
氷の裂け目からラングたちは氷の城の入り口を偵察した。
入り口は一ヶ所だけ、しかも見上げるような巨人娘の見張りが二人いる。
「1リムル(100m)級の下級妖精2人か、まともに相手をするのは厄介だな。ラング、どうする?」
「下級精霊といえど人間や雑魚モンスター相手とは違うからな。」
ドラゴンの指摘にラングは考え込んだ。
「でも、急いで貰わなきゃ!私の体、じゃなくて僕の妹が!」
幼い依頼人、エミールはひどく焦っていた。
「よし、名案がある!シュバーン、耳を貸せ。」
「ふむ、どんなアイデアだ?・・・ンギャァァァ?!」
ジュッ!シュバーンの耳にラングはたいまつの火を押し付けた。
シュバーンは熱さのあまり氷壁の裂け目から飛び出し、雪の上をのた打ち回った!
「ラ、ラング!何を・・・?」
ラングとエミールの姿は消えていた。そのかわりに!
「何事だ!」「侵入者だ!ドラゴンが一匹侵入したぞ!」
女巨人2名が氷雪を蹴散らしつつ、こちらに走ってくる!
「ワシを囮にする気か!覚えとれよ、ラング!」
シュバーンは命からがら逃げ出した!
その後を見張り2人が地響きを立てて追う!
「・・・・・行ったか。頼むぞ、シュバーン!」
ラングは飛び去っていくドラゴンを手を振って見送った。
「最低だわ、仲間を囮に使うなんて!」
仲間のドラゴンへの仕打ちにエミールは憤慨していた。
「心配ないよ、シュバーンは捕まるほどノロマじゃない。」
「そんなこと言ってるんじゃないわ・・・ないよ!」
エミールは露骨に不信の目をラングの後姿に向けた。
(ルウリア姉様はこいつが未来の勇者だって言ってたけど。
こんな卑怯者が!こんな甲斐性なしが勇者なの?)
姉の言葉を信じ、この青年に依頼したことが悔やまれた。
「おい、急ごうぜ!お前の妹、助けるんだろ?」
「・・・・・」
エミールは口も聞きかずにラングの後をついていった。
「なあ、エミ−ル?」
「何か用・・・キャッ!?」
女の子のような悲鳴を上げてエミールは飛び下がった。
ラングがいきなり、エミールの胸元に手を突っ込んだのだ。
「な、な、な、ななななななな!」
驚きと怒りでエミールは言葉も出なかった。
「やっぱ、男かぁ・・・もしかして女かと思ったのに。」
ラングは本気で落胆したようだった。
「いいいいいい!一体、何を・・・」
「小生意気なガキでも女なら少しは楽しかったのに。」
ブツクサ言いながらラングは先へ進んだ。
(違う、絶対に勇者と違うわ!こんなセクハラ男!)
エミールはマジで殺意すら覚えた。
二人は果てしなく続く暗く長い氷のトンネルを歩きつづけた。
「おい、エミール。」「今度は何よ?キャッ!」
まだ腹を立てているエミールをラングは突き飛ばした!
「ど、どういうつもり!」「隠れてろ!」
ラングはトンネルの奥に目を凝らした。
「お出迎えだ。見つかっちまったらしい。」
先ほどの見張りのさらに倍も巨大な妖精女がいた。
氷の鎧に氷の盾に氷の剣で完全武装している。
「まずいわ、あいつはフリーズ・ナイト!」
エミールの顔がこわばった。
「氷の妖精の一種か?」
「そうよ、あの剣に触れたらどんな物でも凍りついて砕けちゃう。あの鎧と盾には人間の力じゃ傷ひとつつけられない。」
「そうか・・・」
ラングは背中の剣を抜いた。
「無理よ!一旦引きましょう!」
エミールの忠告にラングは沈黙で答えた。
ズシン、ズシン!
こちらを見つけたらしい!フリーズ・ナイトはラングを睨み、氷の回廊を揺らしながら歩いてきた。
ラングは無言で左手に剣を構えた!
「そんなオンボロ剣で妖精族と戦えるわけないでしょ!」
「ガキは黙って隠れてろ!」
エミールはラングの剣幕に圧倒されて、物陰に隠れた。
「無謀なる侵入者よ、生かしては帰さぬぞ!」
フリーズ・ナイトは冷たい輝きを放つ剣を振り上げた。
対するラングは身を低く屈めた。
「死ねィ!」「ハァッ!」
シュッ!
フリーズナイトが巨大な剣を振り下ろし、ラングが跳躍した。
殺気と気合が交差し、空気を切り裂いた。
ズッ・・・「ば、馬鹿な・・・人間ごときに?」
フリーズ・ナイトの右肩から斜めに線が走り、体がずれた。
「剣技『飛燕烈空斬』・・・」
ラングが着地したと同時にフリーズ・ナイトは崩れ落ちた。
「強い・・・」
エミールは驚愕していた。
フリーズ・ナイトは最強、とまではいかないが、かなり上級の氷系妖精であった。それを人間が一撃で・・・
「凄いわ、ラング!妖精族をたった一撃で・・・」
「俺の婆さんはもっと凄かったがな・・・」
婆さん、と言った一瞬だけ、ラングは淋しそうな顔をした。
「でもこんなに強いなら正面から乗り込んだって・・・」
「いくら強くても城の兵隊全員を相手にはできんさ。
ま、見物人がガキ一人じゃ、気分も乗らないし・・・」
エミールの心に芽生えた尊敬の念はあっと言う間に枯れた。
「それに・・・いや、何でもない。」
ラングは言いかけて口をつぐんだ。
さっきの一撃で剣に小さなひび割れが入っていた。
**********
「あそこに何かあるようだな。」
天に届きそうな巨大な扉が行く手を塞いでいた。
「間違いありません!この中から私の体の波動が・・・
あ、いえ・・・とにかくこの中です!」
エミールは狂喜して扉へ向かった。
「待て!迂闊に近づくな!」「えっ?」
エミールが触れた瞬間に扉に変化が生じた。
何百、いや何千という氷柱が槍のように扉から生えてきた!
「危ない!」
ラングはエミールを抱えて跳躍!間一髪、槍から身をかわした。
「大丈夫か、エミール!」「それよりラングさんの方が!」
ラングの右足首が深く、えぐられていた。
出血は多くないが、足の自由はきかない!
「・・・・・たいしたことはない。ほんのかすり傷だ。」
「でも・・・」
エミ−ルを下がらせて、ラングは身構えた。
立っているのがやっとの激痛にもラングは顔色一つ変えない。
扉はさらに変形し、直径2リムルの大きな女の顔となった。
長い髪が針のような氷柱となって巨大なイガグリか、ウニのような奇怪な姿が空中に浮かんだ。
「我はゲート・キーパー。ここから先は誰も通さない。」
無感情な声とともに何百本もの氷の針が襲ってくる!
「うるさい!貴様の相手をする暇はない! 」
ラングの剣の光が爆発的に輝き、氷の粒の乱反射で視界が染まる。
「奥義『剣気・真空千方陣』!!」
キュィィィン!硬い金属が削りあうような音が響く。
ゲート・キーパーの氷柱が見えない刃に切られたように一瞬にして全て切り落とされた!
ガゴォン!バランスを崩したゲート・キーパーはフラフラと墜落し、トンネルの壁に激突して動かなくなった!
「・・・まずいな」
ラングはつぶやいた。足の傷はとにかく、今の戦いで剣が技に耐えきれずに、真中あたりでへし折れてしまったのだ。
「ここは?」
扉の向こう側に街一つ収まるほど広いホールが見えた。
エミールはホールに入り、ラングも続いた。
「なんだ、こいつら?」
氷壁の中に恐怖の表情のまま凍りついた人間がいた。
一人二人ではない。少なくと千人以上が氷の壁の中にいた。
人間ばかりではない、妖精らしき姿も幾つか見える。
「死んでいるのか?」
「いえ、仮死状態ですから氷から出れば蘇生します。」
エミールはキョロキョロと何か探している。
「あったわ、私の・・・」
エミールの声に歓喜が宿った。
10本の柱の影に巨大な女の裸身が氷づけになっていた。
「あれって、ありゃ妖精族じゃないか。捜してるのは妹だろ?」
「あ、いや、その・・・あの位置に封印があってですね。
少しでも氷を割れば全ての氷が溶かせるんです。捕まっている妖精を味方につければアイシュリーンも倒せます。」
「そうか、では試してみるか。」
ラングは折れた剣を構えた。あと一撃くらいなら・・・
だが、ラングは動かなかった。
「あのぉ・・・ラングさん?」
「・・・・・」
「ラングさん!」
「ふーむ、間近でみると・・・こりゃまたなんとも。」
だらしなく鼻の下を伸ばしたニヤケ顔の剣士。
透明な氷は全裸の妖精の美を一切隠すことがなかった。
少し開かれた両足の間を、ちょうど足元から見上げるようなアングルは絶好のポイントと言えた。
「乳の張り具合も、腰の締まり具合も文句なしだな。
このチャンスにしばらく目の保養・・・グゲッ!」
ボゴッ!ラングの後頭部にエミールの飛び蹴りが炸裂した。
「この・・・セクハラ男、セクハラ男!セクハラ男!」
倒れたラングを、何故か顔を赤らめたエミールの怒りの蹴りの嵐が襲う。
「うわ、すまん!今度は真面目に!・・・逃げろ!」
「そんな、言葉で、誤魔化される、とでも・・・キャッ!」
巨大な氷の両手がエミールに迫ってきた。10本の氷柱に見えたものは人間10人でも囲めないほど巨大な指だった!
「くそぉっ」!バンッ!
咄嗟にラングは剣を振り払った。剣から放たれた光が爆発し巨大な両手の進行を弾き飛ばした。
「取り返しにきたのね、この肉体を!」
床から出現した巨大な氷の妖精がラングたちを見下ろした。
「この肉体は私の希望!私の夢!私の全て!誰にも渡さない!」
巨大な妖精の周りに冷気と殺気が充満した。
「エミール!俺の背後に!」
少年を庇うように、ラングは刀身のなくなった剣を構えて立ちはだかった。
「身のほど知らずの人間よ、死ね! 」
妖精の呪詛の言葉とともにラングを高密度の冷気塊が襲った!
「ハァッ!」
柄だけになった剣を構えた剣士の手元で白い光が爆発した!
* *********
ドドォーン!氷山の一部が爆音とともに吹き飛んだ!
ラングの体は吹き飛ばされ空中に舞った。
「ラ、ラングさん!しっかりして!」
ラングは意識を失ったままエミールを抱きかかえていた。
だが数秒後には氷原に叩きつけられ、絶命するであろう。
バサッ!「ラング!無事か?」
耳元で羽音と耳障りな声。
落下するラングたちを飛来したシュバーンが受け止めた。
「ラング!ラング?しっかりせんか!」
「やかましいな、ちゃんと聞こえてるよ・・・」
ラングは弱々しい声でシュバーンに答えた。
「よかった・・・アイシュリーンは追ってこないな?」
シュバーンは遠ざかりゆく氷の城を振向いた。
「あいつは呪いで城から出られませんから・・・
申し訳ありませんが、この依頼は取り下げます。」
そう言いながらエミールは完全に失意の底にいた。
この依頼は奪われたエミール自身の本来の肉体を取り返すための依頼だった。
エミールの本当の名はエミリア。妖精族の王女である。
人間界をお忍びで視察する、という名目で正体がばれないように魂を体から分離し、人間の少年を装って見物していた。それが遊びまわっている間に隠していた自分の肉体を盗まれるという失態を演じてしまったのだ。
人間界に詳しく彼女の姉でもある女王ルウリアの紹介で冒険者を雇い、自分の体を取り返そうとしたのだが、これ以上はラングたちを危険に巻きこむわけにはいかなかった。
「確かになぁ、我々の手には負えそうにない・・・」
「シュバーン、火竜山へ行け。」
シュバーンの言葉をラングは遮った。
「火竜山だと!ラング、正気か?」
「急げ!あそこにある魔剣・サラディーナが必要なんだ。」
ラングの表情からは一切の甘さが消え去っていた。
**********
火竜山!麓は吹き上げる火柱と噴煙による大迫力の景観を楽しむロマリアの一大観光地である。
しかし、観光客に知られていないもう一つの顔があった。
「かつてこの地に強暴な魔界の火竜・サラマンダーが現れた。
建国王ロイフォード一世は妖精の力を借りて火竜を倒し、この山の地底深くに封印した。」
ラングは噴煙を厳しい目で見つめた。
「時は流れ、火竜の魂は浄化され、炎の妖精へと転生し、さらに一振りの魔剣へと変化した。婆さんから聞いた昔話だ。」
「ラングさん、もういいんです!止めてください!」
「引き受けた依頼を放棄したら、俺は冒険者でなくなる。」
エミールの声をラングは無視して噴火口に降り立った。
「依頼料はお支払いします!もう無理はしないで!」
エミールは声を振り絞った。
「冒険者になるために俺は・・・何もかも全て捨てた。
地位、名誉、親友、婚約者、叔父の期待、両親の遺言までな。」
ラングの前に白い祭壇があった。
その上に置かれた一振りの真紅のロング・ソード。
その剣から凄まじい炎が高く吹きあがった。
3リムル(300m)を越す炎柱が赤髪の女性の裸身へと変じ、ラングたちを嘲笑うかのように見下ろした。
「あたいはサラディーナ!お前もあたいが欲しいのかい?」
「そうだ、お前を俺の剣にする!」
ラングは火の精霊の巨身を睨み返した。
「こりゃ、情熱的なプロポーズだねぇ。でも腕前次第だね。
あたいを満足させられるだけの剣技を振るえるかな?」
ラングは無言で剣に手を伸ばした。
ボッ!柄をつかんだ瞬間ラングの左腕を炎が包んだ!
「ラング!やめろ!そいつはもう千人以上の剣士を焼き殺しているんだ!」
シュバーンの悲痛なまでの絶叫が噴火口にこだました。
**********
氷のトンネルの奥、ゲート・キーパーが浮かんでいる。
先ほど受けた深手は完全に補修され、氷の針に代わって十枚の羽状の刃が取り付けられている。
「やはり戻ってきたか、人間よ。」
ラングは一人で冷たい床に立っていた。
左腕は無惨に火傷を負い、剣らしきものは持っていない。
「二度は通さん!」
フォン!フォン!フォンフォンフォン!
氷の羽を扇風機のように高速回転させながらゲート・キーパーは迫ってきた!
ラングは左手を掲げた。手の平に小さな炎が生まれる。
「行くぞ、サラディーナ!」「あいよ、ご主人様!」
炎が燃えあがり剣の姿となった!
シュバッ!空間を赤い輝線が切り裂いた。
「?!?!こ・・・これは・・・」
ゲート・キーパーの体は真っ二つになり、溶け、蒸発した。
「流石だねぇ、ご主人様!惚れ惚れしちゃうよ。」
蒸せかえる蒸気の中で真紅の剣は楽しそうに喋りつづける。
「お前こそなかなかの切れ味だぜ、サラディーナ。」
「うーーーん、サラって呼んでよぉ、ご主人様ァ。」
甘えるような声で応える剣。
「じゃあ、サラ。アイシュリーンの奴を片付けるぞ!」
だがサラはすぐには答えなかった。そして何かをねだるような口調でラングに話しかけた。
「ところでご主人様、剣の腕前は見せてもらったけどサ。」
剣の姿を解除し、妖精の巨大娘の姿に戻ったサラは妙に艶っぽい流し目をラングに送った。
「なんだ、サラ?まだ不足があるのか。」
山のようなサラの巨体を見上げてラングはキョトンとした。
「剣の手入れもして欲しいんだけどナ・・・」
「手入れ?ああ、研いだり磨いたりしてほしいのか。」
だが、サラは不満そうな表情をあらわにした。
「それは普通の剣の話!武器の妖精の手入れはネ・・・」
「お?おい、サラ!」
サラの肉体を覆っていた炎のオーラが消え去った。
育ちきる寸前の乳房が、淡い赤毛の茂みがさらけだされた。
「・・・ご主人様に可愛がって貰うのサ。」
サラの赤い皮膚が高ぶる期待感に更に赤く染まった。
寝そべったサラの媚態がラングの視界を占領した。
ゴクン。ラングは思わず生唾を呑んだ
(そーいや、最近ご無沙汰だったしなァ・・・)
サラは片手で秘所を申し訳程度に隠していた。
ラングは見上げるような高さの臀部へ直行しかけたが、思いなおして脇の下へと回りこんだ。
「来てくれないの?ご主人様?」
「急がば回れってね・・・」
腋毛をロープ代わりに山のごとき女体へ登山した。
「ふぅ、まずはここをベースキャンプにしてと・・・」
ギュッ。
「ハァァァゥッ!」
サラは一瞬息が止まった。ラングがいきなり乳房を駆け上がり、乳首を抱きしめたのだ。
「ふーむ?成長途中ながら好反応!では味わいはと・・・」
ぺろぺろぺろり・・・
「うっ・・・流石はご主人様・・・お見事な舌さばき!」
「フフフフフ、我が愛刀にしてはまだまだ経験不足だな。」
「こ、これからもっと、しょ、精進するから・・・」
「よかろう!では今、少し経験値をくれてやろう。」
ラングは乳房の谷間へと駆け下り、ふわふわするお腹の上を歩いてそのまま下半身へと向かった。
「ほう?ここの毛も炎なのか?」
秘所を覆う赤い恥毛に見えていたものは炎であった。
ラングは揺らめく炎に手を触れた。
「だが、この炎は少しも熱くないな?」
「あ、あたいの炎はご、ご主人様だけは焼くことができないのサ。」
乱れた荒い呼吸のサラが答える。
「では、早速拝見させてもらおうか・・・」
ラングは炎をかき分けて禁断の三角地帯へ侵入した。
「オオオオオ!これは・・・未熟なる果実!」
ラングは足元の肉の亀裂に見入った。
「ご主人様、そんなに見つめちゃ恥ずかし・・・アッ!」
ラングは肉の亀裂の中に乱暴に手を突っ込みかき回した。
「アアアアッ!ご、ご主人様!!」
「フフフフフッ、経験値アップするのを感じるだろう?」
快感にのたうつサラの秘所にへばりついたラングは振り落とされまいと粘膜を手荒くつかんだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁ・・・・・ハ、ハイ、ご主人様。」
「ようやく大人しくなったようだな・・・では。」
ラングは『亀裂』をまたぐように仁王立ちし、自分のズボンのベルトを外した。
「ご主人様、その・・・」
「ん?どうした。」
「あ、あたい・・・初めてなんだ・・・」
「ほほう、硬い刀だけに身持ちもカタいというわけか?
いいだろう、これから俺様が懇切丁寧に教えてやろう。
ありがたく思えよ。」
「ハ、ハイ!ありがとうござい・・・アアッ、ウッ!」
「ではいよいよ、本格的な手入れを・・・」
鬼畜な笑いを浮かべつつズボンとパンツをおろす。その時!
「ほう・・・ナニを手入れしようというのだ?」
怒りをはらんだ険悪な声が背後から聞こえた!
ズボンを下ろすラングの手がピタリと止まる。
「ラングさん、あなたと言う人は・・・」
押さえきれない怒りに震える少年の声。
強張った表情で振りかえったラングは見た。怒りと殺気を充満させたドラゴンと少年の姿を!
「心配して来てみれば、お楽しみの最中とはな!」
シュバーンの鋭い鉤爪がギラリと光る。
「最低よ、最低だわ・・・」
エミールは堅い樫木の杖を握り締めた。
「ち、違うんだ!これは武器の手入れであって・・・」
必死に弁解するラングであったが、状況証拠は完璧だった。
「サラ、お前からも説明してやってくれ!」
「ご主人様・・・とっても強引なトコが好き・・・」
半ば夢見心地のサラの一言。
この瞬間、ラング容疑者の罪状は確定した。
「やはり股間の武器の手入れか・・・未熟者の分際で!」
「・・・この鬼畜男!これは天罰よ。」
シュバーンとエミールが殺意をみなぎらせて近寄ってくる。
「誤解だ!冤罪だ!話せば分かる!ギャーーーッ!」
数分後、打撲傷と引っかき傷とで顔面変形したラングは氷の回廊をトボトボと歩いていた。
不信の目をしたシュバーンとエミールを引き連れて。
**********
再びラングは大股で氷の大広間に入った。エミールとシュバーンも続いてくる。
「出て来い!アイシュリーン!決着だ!」
「愚かな冒険者ね、命だけは見逃してやったものを。」
目の前の空間に氷の結晶が集結した。氷の女の巨大な姿が広間を占領した。
「炎の精霊を連れてきたのね。その程度で我が結界内で戦えるとでも思ったのかしら?」
余裕の笑みであった。とたんにラングたちの視界が白くなった。
「な?ふ、吹雪?」「ラングさん!炎で防御・・・」
剣から噴出した炎が壁となって冷気を遮る。だが・・・
「押されているぞ、サラ!」
「や、やばいよ、ご主人様!この城の中には奴の力を増幅する結界が張ってあるんだ!」
シュバッ!炎の壁は吹雪にたやすく吹き散らされた!
魔剣サラディーナは吹雪に飛ばされて床に刺さった。
「エミール!シュバーン!外へ逃げろ!」
「ラング!」「ラングさん!」
ラングの足が凍りつき、右半身も凍結した。
シュバーンとエミールも半分氷に閉じ込めれた動けない!
「理解できたかしら、自分たちの無力さが?」
ズシン!アイシュリーンは広間を揺るがせつつ歩み寄った。
「サラ、お前の炎でも駄目なのか。」
ラングは歯をガチガチいわせながら悪態をついた。
「クスッ・・・他愛ない。強いといっても所詮は人間なのね。」
凍りついて身動きが取れないラングにアイシュリーンは大股で近寄ってくる。
「ううっ?俺を踏み潰す気か・・・?」
アイシュリーンはラングを跨ぐように立ち止まった。
「無謀なる勇気に免じて最後の快楽を貴方に与えましょう。」
シャン、シャン、シャン・・・
アイシュリーンの体から冷たい氷の粒が降ってきた。
「ラン・・・グさん! 」
やはり凍りついて動けないエミールの目前でアイシュリーンの・・・マントが上着が氷の粒になって消えて行く。
「オオッ!絶景かな!」
見上げるラングの頭上で、青く透き通る氷の裸体の妖精が妖艶な微笑を浮かべた。透き通った氷の秘部もまた、複雑精緻なガラス細工の薔薇のように透き通っていた。
「勇敢なる愚か者、我が肉体の内にて安らかな永遠の眠りにつきなさい。」
アイシュリーンは身を屈め、両膝をついた。
透明な氷の花弁が頭上からゆっくりとラングに迫ってくる。
「ええっ?そんな!ちょっと!まさか、俺を・・・俺をアソコから呑みこむつもりかよ?」
樹氷のように白く輝く陰毛の間に巨大な花弁が口を開けた。
花弁から滴り落ちる冷水がラングの顔を濡らす。
「ウワップ・・・」
柔らかい氷というものを想像できるだろうか?ラングの顔に触れたものはまさにそれだった。
透明な巨大クラゲに包み込まれるようにラングはアイシュリーンの肉体の門に呑みこまれていった。
「ふふふ・・・しばしの間、楽しませていただくわ。」
腰を下ろした姿勢から寝そべるアイシュリーン。その透き通ったボディの尻のあたりにラングの影がモゾモゾと蠢いているのが見えた。
「ラング・・・しっかりせい!そのままでは・・・」
「そいつの胎内で凍りついちゃう!」
だが、シュバーンとエミールの叫びも虚しく、ラングの影はさらに氷の妖精の秘所の奥深くへと呑みこまれて行く。
「おのれっ!女のアソコの内側からの攻めは俺の得意技!
そう簡単には負けないぜ!うりゃ!うりゃ!うりゃ!」
ラングは柔らかな襞を拳で叩きまくった!
鉄拳がめり込むたびに襞はゼリーのようにプルプルと震えて、透明で粘りのある液体を滴らせた。
だが喧嘩では無敵のパンチも軟体動物のような粘膜には通じない、それどころか・・・?
「お?おお?おおおおお!すごくイイ具合だわ、この男!」
アイシュリーンは予想外の快感に喜んだ。
今まで何人も人間を試しに挿入してみたのだが、すぐに凍りついて動かなくなり、楽しむには至らなかったのだ。
「ひ、久々に掘り出し物だわ、この人間!」
グニュ・・・パワーアップした膣壁がラングを拘束する。
「ぐぐぐ・・・恐るべきヒンヤリ名器だ、このままでは!」
体温を奪われつつもラングは圧倒的な膣圧に抵抗し続けた。
「ひぅっ?・・・さ、最高・・・」
アイシュリーンは快楽のままに腰を動かした。
「うぐっ・・・か、体の感覚が無くなってきた・・・」
ラングは零下の膣内からの脱出を試みようと、必死に襞をかきわけ、這い出そうとした。だが・・・
「駄目よ、逃がさないわ!もっと私を悦ばせて!」
アイシュリーンが腰を震わせると、圧倒的な力で収縮した膣がラングを引き戻した。
「ぐわぁぁぁっ!ここからは逃げられんのか?」
氷点下の粘膜に包まれたラングの手足は、もう動かない。
「俺様の華麗なる人生がアソコの中で・・・終わるとは・・・」
視界が真っ暗になった。
「ふふふ・・・完全に凍りついたらしいわね。」
満足したアイシュリーンは下腹部をさすった。
「これほど楽しませてくれた人間はお前が初めてだわ。
記念に私の子宮の中に永久冷凍保存してあげる・・・ん。」
アイシュリーンは自分の秘所に指をつっこみ、動かなくなったラングをさらに奥へと押しこんでいった。
**********
「・・・ああ、気持ちいいなあ。ここはどこだろう?」
ラングは意識の底の暗黒の中に沈んで行った。
ふと、背後に人の気配を感じた。
振り返ると品のよい老婦人が微笑んでいた。
「ばあちゃん!ばあちゃんじゃないか!」
死んだ両親にかわってラングを育ててくれた祖母。
厳しくも優しい剣術の師であった祖母。
そしてラングが冒険者になる直前に死んだ祖母。
「迎えに来てくれたんだね、俺を・・・」
老婦人は優しく微笑み、それから・・・
「この未熟者!何てぇザマだい!情けない!」
「わわっ!ご、ごめんなさい!」
いきなりすごい剣幕で怒鳴られてラングは縮こまった!
「罰として素振り千回!」
「えっ、でも・・・」
「さっさとなさい!このウスノロ!」
「ハ、ハイィィィ!1、2、3、4・・・」
ラングは必死に剣を構える姿勢をとり、素振りを始めた。
「ウッ!?」
アイシュリーンの表情が急変した。
いきなり膣内を激しく刺激されたのだ!
「き、貴様まだ生きて・・・ハッ?ウウッ・・・・・」
ズシン!
死んだと思って、油断していたところにいきなり激しい刺激を加えられアイシュリーンは床にへたりこんだ!
「三十一、三十二、三十三・・・」
「や、やめ・・・そんな、乱暴に・・・私、おかしく・・・
ウオッ?ウオォォォ!オオオォォォ・・・ァ。」
膣内で素振りの練習などされてはたまったものではない。
アイシュリーンはたちまち達してしまった。
「はぁ、はぁっ・・・・・はぁっ・・・・・ん・・・」
ドパァッ・・・
おびただしい量の液体がアイシュリーンの秘所から、さながら早春の雪解け水のように放出された。
「百二十二、百二十三・・・ううっ?俺は助かったのか?」
ラングは濡れた床の上に倒れている自分に気がついた。
大量の愛液放出は見事にラングを胎外に押し流していた。
「うぐぐぐ、この私が人間ごときにイカされるなどと!
恥辱だわ!今度こそ完全に凍らせて砕いてやる!」
恥辱に激怒したアイシュリーンの足音がラングに迫る!
全身凍傷のラングは立ちあがることさえままならなかった。
「さあ、今度こそ覚悟おし!」
アイシュリーンはユックリと足を上げた。
「ごめんよ、ご主人様・・・風が少しでも風があったら。」
「風?風があったならどうなるんだ?サラ!」
「風は炎に力を与える。そうすりゃこんな奴・・・」
「それを先に言え!シュバーン!!」「おうよ!」
パシッ!シュバーンの尻尾の先が魔剣を弾き飛ばした。
飛ばされた剣をラングの左手がキャッチした。
「まだ悪あがきするのね!早々に死に絶えるがいいわ!」
アイシュリーンの靴底がラングの頭上に迫る!
「・・・・・吹けよ!烈風!」
ラングの周囲の気流がダイナミックに動いた。
旋風が幾つも発生し、ラングは風に包まれた!
「こ、これは風の精霊力?何故、人間のお前にこんな力が?」
驚愕するアイシュリーンの目前で風は激しくうなる!
風に煽られた炎が激しく燃えあがった。
「この風は?この風の精霊力の気配は?」
エミールは風の中にある気配を感じた。よく知っている気配だ。
「まさか、でも何故?」
エミールは見た、エミールだけに見えた!
渦巻く風の中に、幻のように立つ、緑の髪の美しい妖精の姿を!
『我が子孫あるところ常に我が力あり・・・』
幻の妖精は手にした杖を優雅に一振りした。
渦巻く風が一段と強さと激しさを増した。
「ルウリア姉様!じゃ、ラングは姉様の人間界での子孫なの?」
ルウリアはエミールの方を向き、微笑んだ。風が嵐となった!
「行け、サラ!『烈風火焔走弾』!」「オウ、ご主人様!」
ラングの剣先から大きなオレンジ色の火球が発射された!
「ヒィッ!」
顔面を襲う高温の炎の弾丸に驚き、アイシュリーンは冷気の塊を叩きつけた!
バンッ!火球は冷気を一瞬で貫通し、真っ直ぐに突き進んだ。
咄嗟に身をよじったアイシュリーンの頬を掠めて後方へ・・・
ドゴォン!アイシュリーンの背後で虚しく爆発音が響いた。
「・・・ふう!最後の悪あがきも外してしまったようね。」
アイシュリーンはホッとした。直撃を受ければ危なかった。
だが、予想外の言葉が凍りついたラングの口から出た。
「これで・・・いいの・・か?エミール。」
「はい、ラングさん・・・ありがとうございます。」
喜びの声がエミールの口からも囁かれた。
「お前たち、何を言ってるの?・・・・・まさか!」
アイシュリーンは振向いた。背後の氷壁にはエミリア(すなわちエミール)の肉体が封じ込められている。
「・・・最初から、これが狙いだったのか!」
エミリアを封じた氷には大きな亀裂が入っていた!
「ありがとう、ラングさん。あとは私に任せて!」
「・・・・・エミール?」
パァァァッ!エミールの体が眩しい光に変わった!
一条の緑の光線となったエミールが、裸身の妖精の胸に吸い込まれて行く。
氷の中の妖精がパチリと両眼を開いた!深い緑の瞳だった。
ピシピシッ!氷の亀裂が広がった。
四方の氷壁が全て解け出した。氷に閉じ込められていた人々と妖精たちが目覚め始めた。
「あああ、私の城が!私の夢が!」
アイシュリーンは焦ったが、どうすることもできない。
パリン!「ふぅ・・・私の体、返していただきましたわ。」
氷を砕いてエミリアの巨体が宙に踊り出た。
エミリアの4枚の透明な羽が空気をかきまわす。
踊るような優雅な動きは優しい春風を生み出した。
風が吹き渡った床の氷は消えうせ、色とりどりの花の咲き乱れる春の大地へと変わった。
ラングとシュバーンも氷から解放されていた。
「ウオォォォ!」ゴォォォォォッ!
まさに鬼神の貌のラングの剣から吹き上げる炎は、氷の天井を貫き、城をぶち抜き、氷山を両断しても、なお止まらずに厚く垂れこめた雲を突き抜けた。
空に巨大な真紅の炎の薔薇が花開き、雲を消し去り、古来より一度として晴れたことのない北の果てに青空に呼んだ。
「ハハハッ、覚悟しな!氷細工みたいに解かしてやるぜ!」
天を覆うほどまでに巨大化したサラは高笑いしながら吼えた。
「か、体が動かな・・・い?」
アイシュリーンは怯えていた。春の暖かな空気に包まれた状態では冬の冷気を作り出すこともできないし、体の自由もきかなかった。この状態で極大化したサラの力を受ければ魂まで砕かれて再生もできないだろう。
「いいぞぉ!」「やれぇ!」「殺しちまえ!」
氷から解放された人々の怒りの罵声がアイシュリーンに叩きつけられる。
(私はこんなに憎まれていたの?)
(そんなつもりはなかたのに!)
(私は淋しかっただけなのに?)
混乱した思考がアイシュリーンの心をかすめた。
「キェェェッ!」ラングは魔剣を振り下ろした。
炎が滝となってアイシュリーンに迫ってきた。
アイシュリーンは恐怖に身を強張らせて目を閉じた。
(もう一度だけ・・・太陽の下を歩きたかった。)
悲しかった。淋しかった。目頭が熱くなった。
**********
アイシュリーンは目を開いた。
頭上すれすれに炎の刃が停止している。
(何が起きたの?)
「失せろ・・・・・行け!」
ラングの声がした。
「何故、私を助ける・・・」
「そうだ、そうだ!」「殺すべきなんだよ、そいつは!」
解放された人々の罵声は今度はラングに向けられた。
「うるさい!」ラングの一喝で皆が沈黙した。
「泣いてる・・・女を・・・斬れるかよ!」
疲労と凍傷で消耗しきっていたラングはそれだけ言うとふらつき、バタリと倒れた。
アイシュリーンはラングを支えようと手を差し出した。
「しまった!私が触れたら皆、凍って・・・凍らない?」
彼女の手はラングを凍らせることなく、支えていた。
「お行きなさい、アイシュリーン。」
エミリアの声が背後でした。
「貴方が涙を流した時に、『凍れる心』の呪いは解けました。
貴方はもう自由なのです。」
エミリアの言葉にアイシュリーンは頷いた。涙がアイシュリーンの目から溢れていた。
大地に滴る涙でできた水溜りに澄みきった青空が映っていた。
* *********
「ん・・・・・」
ラングが目を覚ました場所は氷の城の中ではなかった。
ふわふわした柔らかく暖かいものに全身を包まれていた。
頭上の隙間のようなところから僅かに漏れてくる光で肌色の壁に囲まれた場所だと分かる。
居心地はそう悪くない、それどころか快適だ。
「どこだ、ここは?」
体を動かしたとたんに!
「キャッ?」グラグラグラ!
「な、な、な、何だ、どうした?」
「もぉっ!いきなり動かないでよ、ラング!
くすぐったいじゃないの!」
頭上から若い娘の声!
「誰だ、お前は?何処なんだ、ここは!」
「私よ・・・ってこの姿では挨拶まだかしら?」
頭上の隙間が大きく開き緑の髪の妖精の笑顔が覗いた。
「わわわっ?」
開いた隙間からラングは大きな手の平に転がり落ちた。
「お前は氷の中にいた妖精・・・いや!お前は?」
「エミール君改め、エミリアちゃんよ!よろしくね。」
ラングは返す言葉もなく、妖精娘の裸の上半身を見上げた。
「あっ?じゃあ俺が今、いた場所は?」
「そう、特別サービスで私の胸の谷間で解凍してあげたの。」
悪戯っぽい笑顔でエミリアは答えた。
そしてラングを地上にそっと降ろした。
「騙しててごめんなさいね。でも助かったわ。」
巨大な顔が接近してきた。
「これはお礼よ・・・」チュッ。
勇者は全身を押さえつけられるようなキスを受けた。
「・・・・・エミール、いやエミリア、君は何者なんだ?」
「ただの妖精よ、また会いましょうね。セクハラ勇者様!」
ポン!金色の光の粒を残してエミリアの姿は消え去った。
「なんだったんだ、この依頼は・・・」
「一つだけ確かなことがあるぞ、ラングよ。
あの妖精め、依頼料を払い忘れていきおったわい!」
十秒後、シュバーンの言葉を理解したラングは悪態をついた。
* *********
道行く人々がみんな好奇の目で振りかえった。
街道の上空を剣士を乗せたドラゴンが飛んでいくのを。
ロマリアではたいして珍しくもない風景だが・・・
背後に雲の上に頭を突き出した赤と青の巨大妖精がついてくるのは珍しいのかもしれない。
「おい、アイシュリーン!なんで敵だったお前がご主人様にくっついて来るんだ!」
「私はラング様のおかげで自由の身となった。ならばラング様にお仕えするのが道理!
貴方こそラング様につきまとわないでよ、サラディーナ!」
「あたいはご主人様の愛刀なんだよ!誰の命令だか知んねえけど、とっとと帰りな、水ぶくれの年増妖精!」
「なんですって!青二才の火遊び妖精のクセに!」
「・・・」
背後な派手な口ゲンカをラングは黙って聞いていた。
「早く次の仕事を見つけないと宿代も払えんぞ!」
「・・・・・」
口うるさいドラゴンの小言もラングは黙って聞いていた。
「このおミズ系年増女になんとか言ってやれよ、ご主人様!」
「ラング様!この暑っ苦しい火遊び娘を追い出して!」
「大体、お前は女に甘すぎるからこうなるのだ!未熟者め!」
「・・・・・・・(涙)」
ラングは心から思った。
(ドラゴンも妖精も女もいない世界に行きたい・・・)
−完−