Ci-enで公開しているもののサンプルです。『ももいろランドスケープ』の続編。


 通学路途中のコンビニのスイーツコーナーの棚。
 先週まであったはずのお気に入りのわらび餅風スイーツ(160円ぐらい)がなくなってた。
 まただよ~。人気が出たお菓子はみんなこうだ。数ヶ月したら復活!とか何とか言って、劣化版みたいなのが出るんだ。
 このパターンにはもううんざり。

 ここはニーニェ先生の街なんだから気に入らないことなんて何もない、なんてことはない。このコンビニだって世界の理から完全に切断されることなく、緩やかに繋がり続け、模倣を繰り返している。のだろう。きっと。

 わらび餅風スイーツがあった場所に置き換わっていた羊羹をお買い上げして、帰り道でぱくぱくと食べる。
 代替品の味だ。
 コンビニスイーツは日々進化を続けていて、庶民の僕の舌をそれなりに満足させてくれる。
 でも専門店で売っているような『本物』からは到底遠い。
 それなりどまりってわけ。

 まあ僕だって専門店の味をそう多く知っているわけじゃないから、それだって『本当の本物』からは遠いのかもしれないけど。

 まあそんなことはどうでもいい。

「あ~オナニーでもしよ」

 家族のいない部屋に戻ってきて、ようかんの包み紙をくずかごに捨てて、カバンをそのあたりに放り投げる。
 わらび餅とか羊羹なんてどうでもよくなる重大なもやもやがずっと僕にはのしかかっている。

 ──せんせーはね、有川ちゃんのこと、欲しかったんだ。

 あんなこと言っておいて。あんなことしておいて。
 別にニーニェ先生は、恋人らしいことなんてひとっつもしてこない。
 一週間経ってるというのに、やり取りはあくまで教師と生徒……
 本当に教師と生徒として適切なやりとりかなんてわからないなあ。
 ニーニェシティ(仮称)に来るまでのことなんて記憶が曖昧だし……

 焦らしてるつもりなのか?
 それともやっぱ僕のことなんて、どうでもよくなったのか?
 ていうか、単なる僕の勘違い?

 初恋した中学生みたいなこと考えちゃってる。
 まあ似たようなもんだけど……

 制服のままベッドに横たわって、スマホでアルバムを開く。
 一面のピンク色のツインテール。いろんな笑い方をするニーニェ先生の写真。
 そのうちの一枚をタップして全画面表示に。
 こんなんじゃ全然足りない。
 本物のニーニェ先生じゃないと。
 でも今はこれしかない。
 脚の間、よれたプリーツスカートの奥に手を伸ばし……

「あ~~~っ!! オナニーしてる~~~」

「ウワアアアアアアアアアアアア」

 部屋の窓。
 十倍ぐらいに巨大化したニーニェ先生のピンクジルコンの瞳が、僕を覗き込んでいた。

「びびびびびびびっくりした。
 そんなトイレ入ってるのを見つけた男子小学生みたいな!!!」

 大声でオナニーとか言うのやめてほしい。顔が真っ赤になる。
 まあこの街の人たちはニーニェ先生が急に恥ずかしいこと言い出すの慣れてるんだけど。
 だからいいってもんでもない。

「えへへ……せんせの写真見ながらオナニーしてくれるなんて? 
 恥ずかしい? でも? うれしいなっ? ほら早く続きしろ?」
「ムチャ言わんといてくださいよっ」

 かわいくクネクネする仕草で植え込みとか道路標識が破壊されてる。
 まあそこもかわいいんだけど。

「どーして~? 写真じゃなくて本人が来たんだよ~?
 思う存分オナペットにできるじゃ~~~ん」
「本人前にしてやるの気まずすぎるでしょ。
 どんだけ豪胆なのを想定してるんですか」

 こんなしょうもない話してる時点でもう全然そういう気分じゃなくなっちゃった。 
 ニーニェ先生はかみさまみたいな人だから、どこでどうしてたって見られてるのかもしれないけど。
 そういう問題ではないのである。

「な~るほど。本人が最高のオナペットなのに、実際に本人が登場するとやりづらい……大いなる矛盾だね~
 というわけで今回はその問題を解決する商品をご紹介します!」

 声がすぐ近くから聴こえる。
 ニーニェ先生がいつのまにか普通の大きさになって、僕の部屋に入ってきてた。
 さすがに居住まいを正す。つま先ぴしっ。

「はいどーぞ。今回は特別に無料っ?」

 渡されたのはわざとらしくリボンでラッピングされた箱。

「開けていいですかうわっパンツだパンツだあああああああああ!!」
「早~~~い」
「嬉しいい!!!!!!!!」

 の中に入っていたのはたたまれたショーツ。
 きちんと折りたたまれたショーツって、なんかマシュマロみたいでかわいいよね。
 食べちゃいたい? 食べません。

「なるほど。オナペットを提供してくれたってわけですね。使用済みですか?」
「もはや恥ずかしげもなく訊くじゃん。もちろんそうだよ」
「なるほどねえ。ちょっとさわり心地確かめてみまうわなんか動いてる! 中なにかいる!!」

 もぞもぞっ!
 指で突っついてみたらなんか動いたので思わず放り投げちゃいそうになってしまった。
 虫? いかにも男子小学生のやりそうないたずらだ。
 ひょっとしたらニーニェ先生は男子小学生だったのかもしれない。
 先生が男子小学生でも……好きですよ。

「違う違う。よく見てよ~」
「ええ……」

 指でつまんで、花びらをめくるような慎重さでショーツを剥がす。
 そうすると……中で動いていたのは……

「人間」

 手足を持った、小さな、人間がショーツの中でうずくまっていた。
 子ねずみぐらいの大きさ。
 白い肌に、ももいろの髪を持った。
 というか。

「これニーニェ先生じゃないですかあ!!」
「わわっと」

 本当に箱ごと放り投げてしまったので、先生があわててキャッチしてくれた。
 改めて差し出し直される。

「プレゼントは、わ・た・し?」
「なるほど~、確かにニーニェ先生をいただけるならそれ以上のものはないんですけど」

 いや、情報量多すぎ。ニーニェ先生が小さく? そして二人?
 どっちが本物? 
 どう処理していいのかわからない。
 もう一度顔の間近に持ってきて、ニーニェ先生の匂いをかぎながら、中に入ってるニーニェ先生らしきものを確認する。

「すっ、はっ、すっ、は……」

 どうやら、夢中でショーツの中にこもった匂いを吸っているらしい。
 僕が小さくなっても多分そうするだろう。わかる。
 でもニーニェ先生自身もありがたがったりするのか?
 なんかあまりにも夢中で、僕に気づいてないのがなんか気に食わない。
 つまんでひっくり返しちゃえ。くるっ。
 ……あれ?
 なんだろう。
 なんか、オシロイバナみたいな突起が、脚の付け根から生えてるなあ。
 ……

「うわ―――――っ!!! ちんちんだ―――――――っ!!!!」

 いくら指先サイズだったとしても。
 脚の間に本来あるはずのないものがあったらそりゃわかる。
 おけけの生えてないそれはちょっとかわいらしいと言えなくもない。
 僕はうら若き乙女だけど、さすがにアニメの美少女みたいにポッ……って顔を赤らめて中途半端に指で視界を覆ったりはしない。
 それこそいやらしい漫画とかで見たことあるし。いや、さすがに実物は家族以外だとはじめてだけど。

 ミニニーニェ先生は僕を見上げて、ぽうっとした顔を見せる。
 まるで僕に恋い焦がれてるみたいだ。
 その様子にはどきっとするけれど。けれども。

「ニーニェ先生って男の子だったんですかぁ~?」
「そういう疑惑の向け方されるとは思わなかった。どう見ても女の子でしょ!」

「ほら……最近は男の娘(最後の一文字を強調したイントネーション)とかいるじゃないですか」
「確かに胸はないかもしれないけど前にパンツ見せてあげたでしょ~が!」
「確かにもっこりしてませんでしたね」
「というか、それわたしじゃないよお。有川ちゃんの元同級生の男の子だよ」
「もっとびっくりする事実!」
「前に巨大化したときさ~、パンツのとこにへばりついてくる男の子がいたんだよね。小さくなったときに、そのままくっついてきちゃったの」

 ニーニェ先生が巨大化からもとに戻る時、誰かがくっついてると、一緒に小さくされて小人になったまま戻らなくなってしまうのだ(おさらい)。

「それが、これ(指差し)って言うんですか?
 いくらなんでもニーニェ先生そっくり過ぎますよ。ガチ勢?」
「うん。もともとは全然違う姿だよ。
 有川ちゃんにプレゼントする用にちょちょっと見た目いじったの。
 男の子ってとこはそのままだけど」

 ちょちょっとって。
 そんなネットゲームのアバターいじるみたいに整形できるの?
 現実の人間を?

「ちっちゃいわたしを飼ってもらうのって興奮するじゃない」
「え? どういうこと」
「大きな有川ちゃんに飼われて、愛されて、ごはん与えられて、ただ生きているだけのことを、人間でないことを許してもらうの……」
「それは、わかりますけども」

 僕が普段妄想してることですし。

「でも先生は先生という立場があるからね。
 それに多分一日で飽きちゃうし。他にもっと面白いことあるもん」
「そこで、適当な生徒を自分そっくりの姿に変えて、代わりに飼われてもらおう、ってことですか。
 頭いいなあ。ちょっとどう受け止めていいかわかりませんね」
「わかんないの? ひょっとして有川ちゃん頭悪い……?」
「アニメから出てきたみたいなふわふわ桃色ロリータに飼われるならともかく、僕みたいなのに飼われるのってまあまあ罰ゲームじゃないですか?」
「大丈夫だって~。確かにせんせとは対称的なビジュアルだけど。黒髪で地味で教室の隅っこで本とか読んでる男を知らなさそうな地味な子って結構需要あるんだよ~」
「自分で訊いといてなんですけど、すごいセクハラ」
 
 地味って二回言われたの傷つく。

 さすがにはいそうですか飼いますねとはいえない。わたしの手の中の彼だか彼女だかわからないものを見る。
 ふるふると、震えてるように見える。
 巨人二人に覗き込まれたらまあ怖いだろうな。

「ボ……ボク、もらわれちゃうんですか? 有川さんに……」
「あ、知ってるんだ。僕の名前」

 ボク一人称のニーニェ先生か。
 ありだなあ。じゃなく。
 僕の知り合いだったのかニーニェ先生に教えてもらったのか。
 その姿だとわかんないね。
 何とも言えない表情で、先生の方を見る。

「……さすがに、今更ですけど、こういうのよくないと思いますよ……」

 実際、小さくなってしまった元クラスメイトを飼育している生徒は存在する。
 それをとやかく言う気はないけど、自分がやりたいかと言われるとまた違う。
 飼われるのと飼うのと、大きいのと小さいのじゃ、全然違う? みたいな。
 いくら姿が同じニーニェ先生だからって、中身が違うわけだし。
 見た目が同じならなんでもいいみたいな、そんな安直な人間であると受け取られてしまえば、ニーニェ先生の僕への想いも醒めてしまうのでは?

 先生はふーん、とだけ言うと、ショーツごとミニニーニェ先生(略してニニーとでも言おう)をつまみ上げると、どこからか取り出した透明な瓶に詰め替えて、蓋を締めてしまう。

「あっ、あっあっ」

 再び、行き場のないニーニェ先生の匂いに閉じ込められたニニーは、さっきまで瞳に灯っていた理性を失い、ニーニェ先生の汚れのきついだろう部分に、頭を押し付けて、……しはじめる。
 喘いでいるのだろう。その小さすぎる声も瓶のガラス壁に阻まれてかすかに擦れるような音になる。それもまた、虫っぽい。
 先生はそれに満足して、瓶を僕の目線の高さまで持ち上げて、くるくると回す。
 色んな角度から、裸のニニーが見える。

「こうしちゃうと、もう四六時中オナニーしっぱなし。
 わかる? 有川ちゃんがこれを受け取れば、いつでもオナニーするせんせの姿見ながらオナニーできるんだよ?」

 生唾を呑み込んでしまう。

「で、どうする? あ、いらないならいいよ。せんせが個人的に楽し」
「いります」

 良心や倫理のなんと脆いことか。

「こうしてさ、ちっちゃい瓶の中に詰められて……オナニーされるのを見られるだけの存在に成り下がるの、きもちよさそ~だよね…?」
「……はい」
「有川ちゃんも、なってみたい?」

 ベッドに座って、ひっつきあって、二人して瓶を鑑賞する。好きな人の特別な存在になんてなれず、こうしてオモチャにされるなんて、どんな気持ちだろう? ニーニェ先生は、ぎゅっと、腕を絡みつかせてくる。

 仄かに温かい肌がしっとりとしていて、触れ合うと気持ちいい。なんだか、ふわりとしたいい匂いもただよってくる。うなずくのは簡単だ。

「そう。今はいいんだね。それじゃ、楽しんで」

 ニーニェ先生は音もなく消えてしまった。

 瓶を見下ろす。

「いつまでやってんの……」

 ニニーを瓶から再び救出して、パンツの中から僕の机の上に放り出す。もちろんおちんちんは丸出しだし、パンツはなんか白いので汚れてる。他人の男性器を初めて見るのがこういう形になるとはまさか思わなかった。
 有川、男を知る。この生き物を男って呼んでいいのかわからないけど。
 さすがに全裸を晒したままなのは恥ずかしそうだし寒そうだしで、適当にハンカチをかぶせてあげると、ニニーはそれに毛布のようにくるまった。
 
「……なんか、つい流されて頷いちゃいましたけど、あなた自身はどうなの」
「…………」
「え、聴こえない」

 なにかぼそぼそと言っている。しょうがないので机の上にいる彼に、耳を近づけてあげる。

「イヤです」
「あ、はい」

「僕はアニメから出てきたみたいなふわふわ桃色ロリータのおぱんちゅの中で飼われたいわけであって、教室の隅っこで本とか読んでる男を知らなさそうな地味な黒髪の子のおぱんちゅを嗅ぎたいわけじゃない」

「キッッッッッモ」

 自分で同じようなことさっき言ったはずなのに他人からそう言われると全く納得できないのは、いったいどういうことなんでしょうね。
 本当にキモすぎて、ニーニェ先生のルックスじゃなかったらそのまま叩き殺してるところだった。
 ルッキズムが僕を殺人者にしないでくれた。
 ありがとう、ルッキズム。

「いろいろ言いたいことあるけどおぱんちゅって何? LINEで風俗嬢に絵文字を送り付けるようなどうしようもないセンスのワードのチョイスしないで。女の子のこともおにゃのことか呼ぶタイプの人間でしょ。ほんとに同い年?」
「そ、その振り上げた手は何。ボクをハエみたいに叩き潰す気か!?
 ボクは見た目はニーニェ先生なんだぞ! きみはハエみたいに叩き潰されるニーニェ先生を見たいのか?」
「うーんあんまり見たくない。嫌な人質の取り方するな」
「それに力で屈してもボクの魂は教室の隅っこで本とか読んでる男を知らなさそうな地味な黒髪の子になんか屈しない! アニメから出てきたみたいなふわふわ桃色ロリータへの忠誠を奪い取ることはできないぞっ」
「最悪な女騎士だなあ」

 はああ、と嘆息する。
 なんか、申し訳なさとか一気に吹き飛んでしまった。
 再びニニーをつまみ上げると、瓶の中に落とす。
 それから、ショーツ……はさすがにはずかしかったので、靴下を脱いでその中にぎゅっと詰めた。

「うわああ! 何を!」
「僕の下着の良さでもわかってもらおうと思って……。じゃ、僕はこれから先生のショーツでオナニーするから」
「いやだぁ~っ! やめてくれ~! 教室の隅っこで本とか読んでる男を知らなさそうな地味な黒髪の子の靴下なんかと一緒に閉じ込められたくない~!!!」

 そのあともニニーは何か言っていたようだけど、瓶の蓋を閉じて、部屋の隅っこに置いてしまったらもう聞こえない。
 空気穴はついてるし窒息することはないだろう。
 さて、色々しようかな。ニニーを先生推奨の使い方をする気にはなれない。
 ショーツになんか余計なものが付着してるのが気に入らないけど……大した量じゃないしな。





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