「今回ばかりは流石に死ぬかと……」
「ごめんってば。でも大袈裟じゃない? こんなのいつものことでしょ?」
まぁ……と生返事しながら思う。
さっきみたいに死ぬ目に遭うのが日常茶飯事となのは間違っているんじゃないかと。
縮小されてるんだから、当然の帰結なんだけど……。
この状況に未だ順応し切れていない。というか、順応してはいけない。
しかし千春や優香を始め、巨大な女子たちに見下ろされるこの状況にすっかり慣れてきてしまっている。
今後も、この矛盾を抱えて生きねばならないのだろうか。
唐突に、ふんっという音とともに強風――否、空砲が俺の頭部を押した。
見上げれば、千春が呆れたように目を細めて睥睨していた。
……うん、うじうじ悩んでる俺が悪いんだろうけど、仕方ないだろ? まだ正常な人間なんだから。
あと、仮にも彼氏をそんな冷たい目で見るのはどうかと思う。
口に出したら「なに」と視線より怜悧な言葉の矢が飛んでくるだろうと察した俺は黙って頬を掻いた。
まぁいいか、と強引に打ち切った千春は、俺を乗せた手をゆっくりと下降させる。
どこに降ろすつもりなのか気になって身を乗り出すと、千春の手のひらがびくっと反応した。
どうやら俺が落ちると勘違いして焦った模様。
だが、そこは経験。縮小人間歴を今まで更新し続けてきただけあって、そこら辺のバランス感覚は十分に培われていた。
……千春がどんな表情で俺を見下ろしているのか怖すぎて、まともに振り返れないけど。
手のひらのぷにぷにとした柔らかさを堪能しつつ下界を眺める。
見たところ、過去千春に踏み潰された者たちのシミが点在する床ではなく、教科書やノートが置かれた机でもなく、ベッドに降ろすようだった。
ホテルルームのようにしっかりとベッドメイクされていない。
むしろ、波打つようなしわがそこかしこにあって、生活感に溢れていた。
そしてある程度の高さになると、俺は降りる体勢を整えた。
――そんな矢先のこと。
「うぉ、おっ……!」
ぐっ、とそれまでただ下がり続けるだけだった千春の手が急に傾き始めた。
その咄嗟の出来事に対処が遅れた俺は見るも無残なほどわかりやすくふらつき、慌てた。
Y字バランスをやろうとして失敗した体操選手のように尻もちをつく。
千春は倒れた俺に構わず、そのまま手の中で転がすようにしてからベッドの上に放り投げた。
まるでサイコロみたいに振られた俺は即座に対応した。
回る視界から目を閉ざして酔いを防ぎ、片手で足を抱え込み、もう片方で後頭部を守りつつ全身を丸める。
まともに学んでいない素人丸出しの受け身。
とにかく怪我しないことを最優先にしたサイコロは最初大きく跳ね上がり、ごろごろと転がっていった。
ヤ〇チャみたいな体勢でやっと停止する。
千春的には地面が柔らかいベッドだから少し乱暴に扱っても大丈夫だと思ったのだろう。
事実、机みたいな堅い地面よりは安全だが……扱われる側としては丁寧にしてくれないと困る。
もうちょっと優しく扱え、と恨みがましい視線を向けようとした。
その時だった――。
「じゃあ私、服を脱いじゃうから、こっちを見ないでよ?」
「――は?」
いつの間にか、部屋の机のそばに立っていた千春。
おもむろに自身の服に手を伸ばした。
彼女とはいえ見ちゃいけない、という倫理観と。
彼女の着替えシーンを見たい、という男心がせめぎ合う。
結果は…………本能の勝利。
俺はド定番にも、指の隙間から、その一部始終を見ていた。
上着のボタンを外し、ブレザーを脱ぐ。
たった一枚だが、解放された乳房が柔らかそうに弾む。
汗ばんで、透けたワイシャツにはうっすらと黄緑色の線が浮かびあがっていた。
千春はブレザーを椅子の背もたれに掛けると、次いでネクタイを外し、スカートを脱ぐ。
彼女の着替えシーンを何度も反芻して、あますことなく脳内に焼きつけていると――。
千春が、こっちを見た。
「あーっ! こっち見ないでって言ったのに!」
ちゃっかり見ていることがバレてしまった。
顔はちゃんと手で覆っているのによくわかったな……。
目ざとくのぞきを見つけると、千春は手に持ったままのスカートを放るように椅子に掛け、こちらへやってきた。
上はワイシャツ一枚で、下はなにも履いていない扇情的な姿だというのに、千春は隠そうともせず堂々と歩いてきた。
ドシィンッ、ドシィンッと轟音を立てるたびに、胸やお尻の柔肉がぷるぷると左右に揺れる。
俺がその光景に思わず釘づけになった。
その間に、千春の姿はぐんぐんともの凄い勢いでクローズアップされていく。
まもなく彼女がベッドの側に立った。
目の前に、仁王立ちする千春の太ももがある。
きめ細やかな乳白色の肌をしたそれは、まるで何千年も生きた大樹の幹のように太い。
けれど肉づきはむっちりとしていて、見るからに柔らかそうなことこの上なかった。
そびえ立つその先を見上げる。
途中に見えた薄緑色の逆三角形はスルーした。
遥か頭上に千春の顔がのぞいている。
しかし、その間にある胸が、彼女の口元を隠していた。
その乳房も、なぜか大きく見える。
ブレザーを脱いでワイシャツ一枚になったからか。
それとも、こんな近距離で見上げているせいだろうか。
これまでは足先から見上げるばかりで、足の甲に乗って見ることなんてなかったからな。
おかげさまで首がいつも以上に大変である。
閑話休題。
その双丘のせいで、千春の顔が山間部からのぞく太陽みたいになっていた。
「ふふっ、さぁて。勝手に着替えをのぞくような変態くんには、オシオキ、しないとね♪」
楽しそうに、不穏にも、妖艶にも思えるほどゾクリとする笑みでそう宣う千春。
俺は狼狽した。
「ち、千春が勝手に脱ぎ始めたんだろう!?」
「確かにそうだけど……見ないでって言ったんだから見ないのがマナーじゃない? いくら彼氏といえど」
「ぅ、ぐぐ……っ」
まったくもっての正論に歯噛みする俺を、勝ち誇った笑みで見下ろす千春。
いつもみたいに腰に軽く手をあて、胸を張る。
胸だけじゃなく全身を突き出され、ただでさえ巨大な千春がさらに大きく見えた。
「さて、と……どんなオシオキがいいかなー」
爛々とした瞳を俺に向けながら、千春はあごに手をあてた。
うずうずしてる感情の表れか、体がゆらゆらと揺れ始める。
すぐ目の前で左右に揺れる腰や、上空で波打つ乳房は実に魅力的に映った。
でも、オシオキ、という言葉が嫌な予感しか与えない。
俺はじりじりと後退していく。
千春は俺を見下ろしていたが、笑みを浮かべているだけで、なにもしてこない。
こんな小人の様子すら楽しんでいるようだった。
ふと、巨大娘はちらっと自身の格好に目をやった。
というか、着替えはダメだったのに、オープンないまの状況はいいんですか、そうですか。
あっ、と千春がなにかに気づいた声をあげる。
そして、さっきまで称えていた笑みが、より深いものになった。
「決ーめたっ!」
「な、なにを……?」
「ふふっ、もちろん。エッチな彼氏をどうするか、だよ♪」
そう言って、千春はワイシャツの裾をつまみ、ゆっくり、ゆっくりと背を向ける。
まるで、そう……見せつけるかのように。
事実、俺は逃げ出さなければならないことを忘れ、ただ目を奪われていた。
千春の背面、特に……臀部に。
後ろを向き終わると、丸みを帯びたそれが顔をのぞかせた。
ぶるんっと揺れて止まる様は、巨大な水風船のよう。
巨大なボールを薄緑色のパンティが包んでいる。
その中央には、縦に大きな割れ目があり、一度入りこんだら逃げられないと思うほどの陰になっていた。
そのクレバスから視線を下げると、逆三角形の包みから桃肉がはみ出て、太もものつけ根に乗っていた。
男としてむしゃぶりつきたい果実(下)。
だが、あいにくと、今回に限っては危機意識のほうが性欲を上回った。
「お、おい、まさか……」
「気づいた? そう、その、まさかだよ」
ぐぐっ、ぐぐぐっと突き出されていく千春のお尻。
やばいと思った瞬間には、もう走り出していた。
「わたしのお尻の下敷きになってもらうよ!」
瞬く間に暗くなっていく視界。
吹き荒れる風の音が耳に届く。
濃さを増す影と大気のうねりが、恐怖心を駆り立てる。
おそらく、いま見上げれば、千春の巨尻が隕石と化して落ちてくる光景を目の当たりにできるだろう。
だが俺は、逃げ延びたい一心で走り続けた。
固い地面とは違い、ベッドのシーツに足を取られそうになる。
すごく走りにくい思いをしてる間にも、巨大な桃はどんどん頭上を覆い隠していく。
「間に、合え……っ!」
ベッドのシーツに出来た、光と影の境界線。
もうすぐそこまで差し迫っていることを察した俺は、藁にも縋る思いで白い大地に飛び込んだ。
決死のヘッドスライディング。
その甲斐あってか、俺はなんとか黒の大地から逃げおおせた。
まさに間一髪。安全地帯に倒れこむ。
続いて、千春の巨尻が轟音を立てて墜落する。
――瞬間、助かったと思う暇もなく、俺は地面に突き上げられていた。
唐突に空中に放り出され、一瞬、俺の思考は空白になった。
千春の腰に届かないまでも、かなりの高さに跳ね上げられる。
トランポリンに乗ったときのようだった。
(ベッドだと、逃げてもこうなるのか!)
固い地面との違いを痛感しつつ、あわてて受け身の体勢を取る。
…………だが、ここでも誤算が生じた。
ベッドの着地地点が、千春の巨尻によって傾いていたのである。
なんとか受け身は成功したものの、ごろごろと坂道を転がっていく。
ぼふっ、となにかにぶつかった。
陥没の元凶、千春のお尻だ。
少し汗ばんだ、もっちりとした肌。
おっぱいよりは固いが、それでも十分に柔らかい。弾力もいい。
おまけに、千春のいい匂いがした。
思えば、こうして間近でじっくり観察したことはこれまでなかった気がする。
(今度から……ベッドの上で逃げるときはいつも以上に距離を取ろう)
酔いしれそうになる頭でそんなことを考えていると、千春が身じろぎした。
体を少し捻って、こちらをのぞき込む。
「あーあっ、残念。逃げられちゃったね」
どこか愉快そうな声が降ってくる。
勘弁してくれよと彼女が聞き取れない声でつぶやく。
俺はどこまでも柔らかい千春のお尻に手をつき、立ちあがろうとした。
――そのときだった。
「でも、本当にそれで逃げ切ったつもり?」
「え?」
なんか不穏な言葉が聞こえた瞬間、支えにしていた千春のお尻が急に動きはじめた。
支えを失い、またしても急な坂道をごろごろと転がる。
なんてことはない、ただ千春は重心を動かし、片方のお尻をあげただけだった。
なんとか数回で止まり、薄暗い天井を見上げた俺は息を呑んだ。
空一面に千春の尻。
詩的に言ってみても滑稽な響きしかなかった。
「あはっ、いらっしゃ~い♪」
急激に暗くなる視界。
それだけで迫ってきているのがわかった。
ぷにゅんっという柔らかな感触に包まれる。
と思った瞬間、ずしんっと猛烈な圧迫感が俺を襲った。
「~~~~~っ!」
小人を尻に敷いた千春は気持ちよさそうに唸った。
「ふぅっ、んっ♪ はーい。
せっかくがんばって逃げてたのに、残念でしたー。
詰めが甘いねー」
くぐもった声が耳朶を打つ。
巨尻がベッドのシーツとこすれ合う音が大きく響くが、なんとか聞き取れた。
「ふふっ、どうかな? わたしのお尻の感触は。
柔らかい? それとも少し固いかな?
バレーやってたとき走り込みとか結構してたから、
引き締まっていることには自信があるんだけど……」
重い。あと熱い。
それが単純な感想だった。
さっきよりも濃密な千春の匂い。
むちむちぎゅうっと吸いついてくる汗ばんだ肌。
物理的にも、性欲的にも苦しかった。
「んっ、ぴくぴくしてて気持ちいい……♪
ぁ、もしかして、興奮してる? そんなに気に入ったの?」
バレてーら。
「お尻でみじめに潰されかけてるのに興奮しちゃうなんて……。
でもしょうがないよねー。
巨大な女の子に足蹴にされて喜ぶくらいだもんねー。
まったく……そんな変態を彼氏にしたわたしの気持ち、
考えたことあるのかなー?」
拗ねているような、楽しんでいるような千春の声。
ぐぐぐっ、さらに圧迫感が増す。
俺は目の前にある巨尻をタップして否定したかった。
無言の叫びも空しく、千春がさらに体重をかけてくる。
それによって、さっきよりも彼女の巨尻にめり込む俺。
だが不思議と、埋まるだけで潰れるときの危機感は薄かった。
「んんっ……♪ すごいね。わたしの全体重かけてるのに潰れないなんて。
やっぱりベッドだからかな? 椅子だと固いもんねー。
だけどそのぶん、ふふっ、逃げるのも大変じゃないかな?
柔らかいベッドがわたしのお尻をぴっちり包んでるからね」
いやそもそも、重すぎて身動きすら取れない状況なんですが。
「……というか、これってオシオキだよ? なんで喜んじゃってるの?」
急に冷めた声が降ってきた。
底冷えする声音に肝が冷える。
千春こそ楽しんでるじゃないか! とは、とても言えなかった。
そのうえで、男とはそういうものだ、と声高に主張したい。
というより、巨大とはいえ彼女のお尻に顔を埋めて興奮しない男はいないだろう。
「罰として、しばらくこのままだからね?
わたしだって女子だし、
着替え見られて恥ずかしかったんだから、少しは反省して」
……そう言われてはおとなしくするしかない。
俺は黙って、千春の巨尻に敷かれたまま時が過ぎるのを待った。
………………………………
…………………
(このままずーっと、敷いてようかな……♪)
そんなことを半ば本気で考えながら。
千春が勃起した乳首を、親指と人差し指でいじってたなんて、露知らず。