――数分後。
全身を押さえつける圧力が消えるとともに、暗闇に光が差した。
巨大な彼女の尻もちが遠ざかっていく。
また振り下ろされるんじゃないかと身構える。
だが幸いなことに、大きな桃はそのまま離れていった。
荒い呼吸を繰り返しながら、俺はほっとする。
……心のどこかでは、残念に思う気持ちもあった。
潰さるのはごめんだけど、あの不思議な柔らかさはよかった。
触れていいなら、それこそずっと触っていたいくらい……。
「生きてるー?」
尻肉の感触に浸っていると、その持ち主である彼女様の声がした。
見やると、立ちあがったはずの千春の顔が低い位置にあった。
俺が余韻の渦に呑まれている合間に、膝を床につけたらしい。
下敷きにされる前は、足があったはずの地平線。
それがいまでは乳房に変わっていた。
盛り上がった双丘をみて、思わず考えてしまった。
――そういや、おっぱいもすごい柔らかかったな。
ふと、千春の視線を思い出した。
「……生きてる」
つい、そっぽを向いてぶっきらぼうに返してしまった。
男の欲望に満ちた思考を悟られたくなかったのだ。
でもその一言を聞いて、のぞき込むように俺を見ていた千春がむっとした。
「へぇ……そんな態度とるんだ。全然反省してないみたいだね。
もう一度、わたしのお尻で潰してあげようか?
それとも、今度はおっぱいで潰してあげようか?」
「っ!」
わずかな怒気をにじませた彼女の声に、俺は思わず言葉を詰まらせた。
またあの苦しみを味わうのかと怯えたわけじゃない。
読心術を使えるんじゃないか。
そう思うくらいの精度で、考えていたことをびしっと言い当てられたからだ。
だけど同時に、千春の言葉はあまりにも魅力的だった。
内容が内容なだけに、男の自分から言い出したら嫌われてもおかしくない。
それを彼女から提案され、期待に胸を膨らませてしまうのも仕方のないことだろう。
罰やらオシオキのあとでなければ、とっさに土下座してお願いしたくなるくらい魅惑的だった。
「くすくす……急に黙っちゃった」
口ごもって顔を背けていると、不意に陰りはじめた。
なんだと思って見やれば、千春の巨大な人差し指が迫ってきていた。
反射的に避けようとしたが、体が痺れて動かない。
彼女の巨尻に敷かれてたダメージのせいだった。
「ここをこんなにさせて、なに期待してるのかな? ヘンターイ♪」
頬を薄紅色に染めた千春がにやにやしながら、指で突いてくる。
素っ裸になったままの、俺の、チンポを。
彼女にお尻で押しつぶされかけ、気持ちよさと生命の危機で何度か射精したから下腹部は少しぬるカピ状態。
にもかかわらず、また勃起した愚息を千春はおもちゃを見つけた子どもみたいに弄ぶ。
「ちょっ、やめっ!」
「え~? なんで~?」
つんつん、ぐりぐりと指で弱攻撃を仕掛けてくる彼女。
俺はそれを痺れが取れないままの手で、なんとか払いのけようとする。
けれど所詮はやはりコビトの力。抵抗してもまったく無意味だった。
……てか、瀕死一歩手前の彼氏で遊ばないでくれませんかね。
みっともなく射精するのは男、というか彼氏として情けない。
そう思って必死に我慢し続けると、体の痺れがだんだん取れてきた。
指が直接当たらないように体を丸める。
無理やり体を開いてくるかと思ったが、千春は満足したらしく追及はなかった。
これはこれで、なんか負けた感が胸をよぎる。
というか、中途半端なところでやめられたせいで欲求不満だし。
シーツからは千春のいい匂いが香ってくるしで、生殺しにされてる気分だった。
「さて、と。動けるようになったみたいだし、
今度はご奉仕でもしてもらおうかな?」
「は?」
「まさか……あれで終わりだと思ってたの?
残念だけど、もう少し付き合ってもらうからね」
何を言ってるんだこいつは、と思わざるを得なかった。
そもそも動けなくなった原因は千春の尻が重かったからだ、なんてことも言わなかった。
言ったら間違いなく不興を買い、どんな目に遭わされるかわからない。
それで痛い目……どころか死に目になんて遭いたくない。
(それに、オシオキじゃなくて奉仕なら、
少なくとも苦しい思いをせずに済むはず……)
ポジティブとは言いがたい、打算的な思考を巡らせる。
そんなことをしてるとは露知らぬ千春が腰をあげた。
「んしょっと……」
しゃがみこんでいた体勢から立ちあがろうと、千春がベッドに手をつく。
ぎしっとしなる音が鳴った途端、また蛍光灯の光が遮られた。
今度はなんだ、と思って見た空に、俺は思考を停止させた。
千春の体が、空を覆いつくしていた。
身を乗り出し、四つん這いになって俺を追い越そうとしていたのである。
重力に引っ張られるように垂れ下がった、ふたつの果実。
ワイシャツ一枚に包まれたそれが、ぶるんぶるんと大きく揺れ動きながら上空を通過していく。
呆然とその様子を眺めていると、三角形の布があとを追うように通り過ぎていく。
こっちも旨と同じく、ふりふりと左右に揺れていた。
ついさっきまで、あの尻に(直接)敷かれてたんだな……。
見惚れている間に、彼女の全身は俺を追い越していった。
もっとじっくりと眺めていたかったと悶々とした気分で見送る。
首だけ動かして見れば、千春がちょうど方向転換しようとしてる最中だった。
いつの間に脱いだのかわからない生足と健康的な太もも、そして巨大な桃尻。
それらだけで埋め尽くされた視界が、回転して腰やお腹、おっぱい、横顔の順に露わになる。
2Dから3Dを見ているかのような感覚を抱いているうちに、千春が支えていた腕の力を抜いた。
――ずぅ……ん……っ。
千春がうつ伏せに横たえると、低い轟音が響いた。
押し出されてきた風に、俺は思わず目を細める。
そこに突如として現れたのは、現役女子高校生の女体という山脈だった。
千春が両腕を組み、その上に頭を乗せる。
そのせいで無防備になったわきの下からは、横乳が見えていた。
ベッドと持ち主の間に挟まれ、ひしゃげている。
鏡餅を横から見たときの、見事としか言いようがない楕円形だった。
(………いや、鏡餅はあんなにエロくないな)
ひと目で柔らかいと伝えてくる女性の胸。
その凄さを目の当たりにしていると、ふふっと笑い声が聞こえた。
見やれば千春が頬を赤く染めながらも、にやにやと俺を見下ろしいる。
気まずくなって、俺は視線をずらす。
目に飛び込んできたのは、千春の肢体だった。
肩から腰までの胴は、緩やかなカーブを描き。
尻に差し掛かると急に盛りあがり、勾配の激しい山道に。
その先には、なだからな傾斜の太ももが――。
「ちょっと、あんまりじっくり見ないでよー」
輪郭に目を奪われていると、そんな声が降ってきた。
そして、巨大ななにかが目の前を通過した。
ぶおんっと空気が大きくうねる。
その音と強風に押されるように、俺は尻餅をついた。
過ぎったのは、千春の手のひらだった。
直撃したらどのくらい吹き飛ばされていたのだろう、と考えたら肝が冷えた。
千春が咎めるような目を向けていた。
恥ずかしさからか、耳に薄くだが赤みがさしている。
――いや、こんなの見るしかないだろう。
そんな男の感想を訴えたかったが、呑みこんだ。
起き上がった俺は話題そらしのために、横たえる彼女に問うた。
「で、奉仕って……俺はなにをすりゃいいんだ?」
問いかけた瞬間、千春からにやっと笑った。
その言葉を待ってましたと言わんばかりだ。
が……果たして千春は気づいているだろうか。
それまで羞恥に染まってたせいで、少しエロチックな笑顔になってることに。
思わず生つば飲みこんでしまう。
怖がってると勘違いしたのか、千春の笑みがまた一転した。
いつものドSな感じに。
内心ちょっと残念な俺をよそに、彼女はどこか嬉しそうに声を弾ませた。
「どうしたの? いつもだったら嫌がるのに」
問われて、言われてみれば確かにそうだと思った。
なんでかと首をかしげる。流れる沈黙。
まあいいや、と千春が強引に話を打ち切った。
さっきよりも頬に赤みが増している気がしたが、聞く前に千春がしゃべりはじめた。
「今日はいろんなとこ歩きまわって、足がぱんぱんなんだ~。
だ・か・ら、足、マッサージしてよ♪ ついでに綺麗にして」
「は? いや無理だろ」
千春の機嫌を損なわないために、一言一句聞き逃さないようにしていた俺。
だが、その内容を聞いて反射的に答えた。
お願い? を即否定されて、千春が頬を膨らます。
「……へぇ、断るんだ~。せっかくのデートなのに、
彼氏がチビだから、私だけが歩く羽目になったのに」
「なら、前みたいに一時的にでも戻してくれりゃよかったのに」
言ってから俺は気づいた。
「一時的に」と、縮小されてる現状が当然だと受け入れてしまっていることに。
千春もそれに気づいたのか、にまにまと愉悦な笑みを浮かべた。
「と・に・か・く!
彼氏として彼女を労る義務があると思うな~」
(そもそも待ち合わせ場所を自室にして、
迎えにこさせたのは、どこのどなた様でしたかね)
「……わかったよ、ったく」
そんな皮肉をひとつくらい言ってやりたかった。
でも、言っても無駄だと経験上わかっていた俺は、おとなしく白旗を上げた。
またヘソを曲げられて、今度はなにをされるか、わかったもんじゃない。
寝そべる千春の胸のあたりから、千春のつま先を目指して歩きだす。
しかし、ベッドの地面は歩きにくくて仕方がなかった。
マットレスが沈み、押し返してくるさまはトランポリンのごとく。
シーツに至っては、転ばせようとしたり絡みついてくる。
それでも、しばらくすれば慣れてくるもので。
女らしい肉付きの下半身が織りなす、魅惑的な山脈を眺めながら歩いていた。
――と、そんなときだった。千春の足が急に上がりはじめたのは。
「ほらほら~っ、早くしてよー。
蒸れ具合も悪くなっちゃうじゃん」
「はいはい……」
だったら足を動かすのは、やめてもらいませんかね。
バタンッバタンっと千春が足をベッドに叩きつけるたび、すさまじい揺れが俺を襲うのだ。
本人にとっては急かしてるつもりなんだろうが、俺からしたら邪魔されてる気しかしない。
そうして、なんとか千春の足先に到着した。