「ん……ぅ……うぅん…………?」

あの悶々とさせられ続けた地獄は続き、翌日の朝。
私の目覚めは嬉しくもあり、同時に息苦しくもあるという複雑な目覚めだった。
理由は超簡単なこと。
あれから私はお姉ちゃんと一切離れることはなく、ずっと胸の谷間に埋め込まれていた。
つまり、巨大な双丘に挟み込まれてる私にとっては完全密着状態だったのである。
男の人たちは夢のように羨ましく思うかもしれないが、実際はあまりいいものではない……。
実体験している私からしたら、地獄みたいだと思う。
だって、まともに動くことも出来ないから脱出できず、じっとしていてもだんだん暑苦しくなってくる。
そしてお姉ちゃんも人間だから汗を掻くから、蒸し風呂に入っているような感じなのだ。
しかもこの巨人が身動ぎする度に私をガッチリとホールドしているおっぱいがムニュムニュと形を変えるため、一言で言ってしまえば『生殺し』だった。
それからようやく眠りにつけた私だけど、すぐに全身……いや、お姉ちゃんの胸の部分が蒸し暑くて、あまり眠れずにこうして目を覚ましてしまった。
眠りが浅いせいか、自然と出てくる欠伸。
私は欠伸を噛み締めながら、勝手に溢れる涙を手の甲で拭った。

「………………!?」

涙を拭い終えると同時に、私は自分の手が自由に動くことに気が付いた。
薄暗いお姉ちゃんのパジャマの中、私はお姉ちゃんが安らかな寝息を立てていることを確認する。

「すぅー……すぅー……」

どうやらまだ寝ているみたい、と心の中で呟いて安堵の息を漏らす私。
そして改めて手が動くことを確認し、薄暗い中、目を凝らしてお姉ちゃんの巨乳に挟まれている自分の体を眺める。
すると、自分の前進がお姉ちゃんと私の汗によってぬるぬるになっていることに気付いた。
汗まみれになっているせいで、お姉ちゃんの体臭の香りがとても濃厚であることを認識する。
ある意味、これはこれで挟まれているだけだった時よりも悶々としてしまいそうだ。
ちょっと汗臭いけど、それよりも仄かな匂いが私の鼻から入ってきて脳に甘美な刺激を与えてくる。
――この時の私は、一体どこで血迷ったのだろう。
気づけば私は目の前にあるお姉ちゃんの大きな乳房に噴き出た汗を舐めていた。
口の中から脳髄に来る”しょっぱい”という感覚が、私の頭の中を真っ白に染め上げ、ボーっとなるほど酔わせる。

……………………………………はっ!?

こうしている場合じゃない。
これじゃあまた快楽の無限ループに身を投じることになる。

再認識した私は、とりあえず深呼吸して、心を少しでも落ち着かせるように努めた。
そして心を津波クラスからさざ波クラスにさせると、私はお姉ちゃんを起こさないように、ゆっくりと身体をおっぱいの谷間から取り出し始めた。
もう片方の手から抜き始めたのだが、抜いている最中はまるでお姉ちゃんの膣にいるようにねっとりと柔らかな乳が纏わり付いていた。
その上、抜き終わったときなんか反動でポヨンッという効果音が聞こえてきそうなほど揺れたから、見ていただけで変な気持ちになりそうだったし、何よりも起こしてないかとビクビクした。
内心焦りながら、お姉ちゃんの熟睡を妨げてないか確認する。

「……んー(→)……んー(↓)…………」

なんか悩ましげな寝息を立てていたが、起きていないという結論を知った私は、小さくホッと溜め息を漏らした。
それからの私は、おっぱいに両手で力を入れても沈むだけが押し返されるのが関の山だった。
なので、気付かれてしまうかもしれないと不安になりつつお姉ちゃんの胴体に両手をついて、なんとか気付かれないように巨大な二つの球体の悪魔から逃げ出すことに成功。
正直なところ、残念な気持ちが残ってはいるけど、こうも蒸し暑くちゃ気の方が参ってしまう。
だから微々たる名残惜しさを胸に抱えながら、今度は自衛隊や軍隊の人がやっているような匍匐前進でパジャマの外へと脱出を試みる。
これなら立って歩くよりも、お姉ちゃんに気付かれる確率が少ないということを私は経験則から知っているのだ。
………まあ、どっちもどっちなのは十分承知の上だが。
それでも、保護者を起こしてしまうよりはかなりマシである。

そんなことを考えているうちに、私はどうにかお姉ちゃんのパジャマの中から脱出することが出来た。
蒸し暑さから解放されたせいなのか。
部屋の中を循環しているほんの少しの大気の流れが涼しくて気持ちいい。
気温も言うまでもなくお姉ちゃんの胸の谷間の湿度よりは低いから、少し肌寒く感じたが、それが心地よかった。
ずっと裸のせいだったからなのか、多少の気温の変化ならすぐに適応している。
ま、流石に夏や冬とかは厳しいだろうけど。
少し自嘲気味な考えを頭の中に浮かべつつ、私はお姉ちゃんの肩の上からベッドを見下ろす。
自分の肩を見てもう一度、数メートル下方にあるベッドのシーツを眺める。
毎度のことだけど、私ってこんなに小さいんだなぁ……と実感する瞬間である。
自分の大きさを知りつつ、私は迷わずにお姉ちゃんの肩から飛び降りた。

「よ……っと」

もう何回も繰り返しているせいか、転ぶことなくしっかりと着地していた。
最初の頃は生まれたばかりの小鹿のように転んでしまっていたけど、慣れると案外呆気なく感じる。
でも一瞬の迷いもなく飛べたのは、ベッドという地面は柔らかいと認識していたから。
これが本当にコンクリート……はないにしても、床だったら、私は飛び降りたりすることは絶対にできないに違いない。
もしその状態で飛び降りたら……間違いなく、私の足は骨折しているだろう。
自分で仮定のイメージを浮かべて血の気が引いていくのを感じ、私はぷるぷると頭を左右に振った。
そして変な想像をしてしまった自分に嫌気が差して溜め息を吐きつつ、やるべきことを考える。
(とりあえずは――――現在の時刻を確認しよう。)
流石に太陽の位置で正確な時間がわかるほど、私は天体などに詳しくない。
勉強不足になるかはわからないけど、とにかく時間を確認するためにベッドから机の上にある時計が見える位置に移動開始。
(……………………)
身体が小さいせいか、お姉ちゃんの巨体が邪魔で見えないの!!
仕方なく私はお姉ちゃんの身体越しからでも見えそうな位置に行くために、お姉ちゃんの下半身の方に移動する。
そしてようやくギリギリ私の視力で見える位置に辿り着くと、早速時間を確認。
現在、6時10分~15分の間。
――え?早くないかって?
私はいつもこれくらいなんだけど……でもお姉ちゃんはいつも7時前くらいなんだよね……。
やっぱりちょっと早いのかな?とか、そんなことを思っていると――。

「んぅ…………っ」

お姉ちゃんが寝返りを打った。
その瞬間にベッドが軋み、地響きのような音を上げて震度5くらいの揺れがベッドの上で観測される。
当然、小さな私はまともに立っていることは出来ず、思わず尻餅をついてしまった。
これは流石に慣れることは簡単ではない。
突然やってくる上に、ベッドのシーツが引っ張られて巻き込まれるのである。
いきなり自分が立っているマットを無理矢理引っ張られたりしたら、誰だって転ぶでしょ?
結局はそれとおんなじこと。

照れ隠しにそんな言い訳をしつつ、私は「いたた……っ」と呟きながら、ようやく地響きが治まったベッドの上で体勢を立て直す。
ベッドはクッションのように柔らかいのに、そう言ってしまうのは人間としての悲しき性……もとい、恒例だと思いたい。
この歳でお婆ちゃん扱いされたくないし認定もされたくない。
そんなこと思いながら体勢が変わったお姉ちゃんの巨体を見てみる――と。

「――――――っ!?」

そこには、綺麗な丸みを帯びたお饅頭もしくは鏡餅があった。
……一言で言ってしまうと、お姉ちゃんのお尻である。
パジャマのズボンを穿いているのにも拘らず、しっかりと綺麗な形が見える。
その下へと続く太腿も合わせて、本当に羨ましい体型だ。
私の通っている学校では、「お姉様」って呼ぶ女の子もいるし……。
ファンクラブみたいな人たちも多いと聞く。
そのせいか、私も随分と羨ましがられた。
まあ自分の姉が有名人なのは実に誇り高いけど……少なくとも私はお姉ちゃんのような体型じゃない。
こんな理想的なボン・キュ・ボン!ではないし、昔は運動部だったから足は少し太い方だし……。
とか、そんな自虐モード一直線に走りつつも、つい悪戯心が働いたのだろう。
気付けば私はお姉ちゃんのお尻に近付いて、両手で揉んでみたり、全身で抱き着いたり、ちょっと甘噛みしてみたり、微かに香る女の子の匂いを嗅いでいたのだった。
心が落ち着くとはいえ、少しおじさんみたいだったかな、と思ったのはそれが一通り終わった後のことであった。

それからはお姉ちゃんがまた寝返りを打って潰されないように、大人しく安全地帯でお姉ちゃんの顔を眺めながら、ただ巨大な飼い主が起きるのを待っているだけだった。