――女子寮。
男子禁制の花園。
この言葉を魅力的に思わない男は、まずいないだろう。

学校から一本道で行けるとはいえ、侵入はおろか覗くことすら厳しい。
それほどに警備がしっかりしているのだ。
リビングや各フロアの廊下には、監視カメラが取りつけられている。

生身で特攻して、侵入できた男子も過去にいたらしい。
が、当然無事では済まない。
女子たちからの袋叩きにあって、そのまま停学・退学コースだ。
なかには、縮小研究部員たちによって処理されたやつもいるんだろう。
ともかく、それ以降、男子たちは近づこうとすらしなくなった。

――とはいえ、それは普通ならばの話。
縮小化され、さらには(不本意ながらも)名誉部員の地位を得た俺は、堂々と女子寮へ入った。

……まあ、そもそも小さすぎて見つけてもらうことすら難しいし。
なにより、この体じゃあ悪いことなんて、せいぜい覗くくらいしか出来やしない。
その気になれば一瞬で潰せるから、というのもあるんだろう。
害する男とすら思われず、虫扱いされるのが関の山だ。

そんな現実はあれど、やっぱり男としては女子寮は魅惑の宝庫だ。
侵入した瞬間、廊下にも関わらず、なんかフローラルな匂いが立ち込めてるし。

…………………………ィ…………。
…………………シィン……。

不意に、地震と足音が響いてきた。
どこからかはわからないが、女子が近づいてくる合図だった。

俺はすぐさま壁際に寄る。
積もったホコリや、誰のかわからない髪の毛に紛れるように、しゃがみ込む。
追手に追われているわけでもないし、そもそも体格差が違いすぎるので必要はないが。
いくら経っても慣れないせいで、自然と息を潜めてしまう。
――そのまま待つこと、しばらく。

…………ズシィン……。
……ズシィンっ!
ズシィィィンンっっっ!!

やがて、ひとりの女子が姿を現した。

全長何千メートルあるのかわからないほどの巨体。
男子の目を気にする必要がないからだろう。
上はタンクトップ一枚で下はホットパンツというラフな格好だ。
しかも短い。白いお腹と窪んでるおへそが丸見えだった。

彼女が歩くと、慎ましやかな(それでも俺にとっては巨大な)おっぱいが揺れる。
またそのたびに、ホットパンツから伸びた太くもしなやかな脚が振り下ろされ、すさまじい轟音が鳴り響く。
その都度、恐怖心が膨れあがり、命の危険に身がすくむ。
でも同時に妙な興奮も覚えた。……何度も踏み潰されてきたせいか。

大人しく遠ざかっていくのをただひたすらに待つ。
そしてふと、静観していると、彼女の汚れた足の裏にうっすらと人型が見えた。
きっと名も知らぬ男子生徒のだれかだろう。

最近ではもう見慣れてしまった。
とはいえ、心が傷まないわけではない。
俺は小さく「ご愁傷さま」と唱えた(ちょっとだけ羨ましかった)

……ズシィンっ!
………………シィン……。

歩く災害こと、ひとりの女子生徒が遠ざかっていく。
見送った俺は、ほっ、と安堵の息をついた。
だが、一難去ってまた一難、ということもあり得る。
現に俺だって、油断した瞬間に別の女子生徒に踏み潰されたりしたことがあった。

しばらく、周囲に目を走らせたり、耳を澄ましたりと気を配る。
そうして今度こそ問題ないと判断してから、俺は再び目的地に向けて歩き出した。