1000倍サイズの巨大娘に支配された惑星が、巨大な女性のためにトイレを作ったそんなお話です。
(全37705文字)
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・ファーストコンタクト

それは突然の事だった。なんて事のないとある一日、それは空の彼方からやってきた。
 突如、都市に現れたのは、全長数十kmにもなる、空を覆いつくすほどに巨大な銀色の飛行体。
 ありとあらゆるメディアは混乱のあまり、とりとめのない情報を発信しては、その混乱ぶりを露呈するかのように、雑多な情報しか流れてこない。
 そんな地上の混乱をよそに、飛行体の一部が口を開くと、まるで飛行機のタラップのように地上に伸びていく。

「おい!一体なんだよあれは! 」

 誰かが声を上げた。いや、その声を上げたのは一人だけではない。少し遅れて他の人間たちも次々に声を上げ始める。
 しかし、そんな声すらも霞んでしまう、重低音があの飛行物体から重く響き渡る。

 ズゥウン……。ズゥウン……。
 それは人類が経験したことのない、規則正しく一定間隔で響く、地鳴りと地震のような揺れ。街路樹は枝だけでなく幹すら震え、電線や信号機が音を立てて揺れた。
 人々がその振動の原因を不安げに、その正体をその目に捕らえるために、皆一同飛行船の開いた口に注目する。

 そしてついに、開いた部分からその正体が現れた。
 それは、紛うことなき人の姿だった。ただし、その大きさは、人々の大きさを遥かにしのぎ、この大都市の摩天楼を形成する高層ビルですら、あの巨人の足首にも届かないかもしれない大きさ。テレビやラジオは周囲のビル群から目測でおよそ、身長1,600m以上になると報道している。
 1,600m、人間の1,000倍もの体躯を誇るその巨人は、タラップを降り切り、重い足音を響かせ、地上に降り立つと、仁王立ちとなり地上を見下ろしていた。

 その巨人の容姿は、まるで人間の少女そのもの。まだ、あどけなさを残すその巨人は、ポニーテールにした黒髪を冷たい上空の風になびかせ、身体は銀色のボディスーツに身を包み、豊満な体を惜しげもなく見せつける。

 だが、あの巨人は尋常じゃないほどにデカすぎる。彼女が履いている白いサイハイブーツと足元のビルを比べると、ブーツの高さどころか、黒いヒール部分に届かないビルがほとんど。
 そのほとんどのビルは、彼女のヒールが織りなす、靴裏のアーチの下にすべて収まってしまうほどに、彼女は巨大だった。

 あの巨人はそこにいるだけで、人々に背筋が凍るほどに恐怖を与えてくる。それは、人類が経験したことのない圧倒的な巨人を前にして当然の反応でもあった。
 人々が恐怖でおののいているさなか、超巨大少女は首を左右に振って、地上を隅々まで見まわしたのち、ゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、誰か私の話を聞いてくれる人はいるかしら?」

 少女の口から発せられたのは、地上の人間たちでも理解できる言葉であった。しかし、そんな巨人の言葉でも、その大きさゆえ、地響きを引き起こす重低音に聞こえてしまう。

「まあ、返事が返ってくるとも思っていないわ」

 少女はそう言葉を続けると、ふぅとため息交じりの吐息を履いたのち、立派な胸を誇る様に胸を張って、その巨体を見せつけながら言葉を発する。

「私は、クレイドル星系の外交官として来たユリシアよ。本日はあなた方、未開惑星との外交交渉のため、やってきたわ」

 少女の口から放たれた言葉は、はるか遠くまで響き渡り、その重低音は10キロ先のビルの窓ガラスさえビリビリと震えさせた。
 この少女の持つ、超常的なパワーをありありと見せつけられる人類。さらに、その少女は言葉を続ける。

「私自ら、わざわざこんな極小ヒューマノイドとの交渉に来たんだから、それなりに礼儀をみせてほしいものね」

 そう言ってユリシアと名乗る少女は、再び辺りを見回す。その物怖じしない態度は、さしもの人類も畏怖を感じずにはいられない。

「そう、『返答は無し』ということね。なら、こっちから出向いてあげるから、感謝しなさい」

 そう言って、ユリシアと名乗る少女は一歩前に踏み出す。

 ズウウン……ズウウン……。
 ゆっくりと前に進む度に、足元のビルや建物は激しく揺れ動き、その巨体の一歩一歩が圧倒的なスケールであることを誇示する。
 やがて、その少女の一歩はビル一つを悠々と越すと、白いブーツを履いた長い足が地面に降りたつ。 
 耳をつんざく轟音と共に、ブーツの直下にあった街並みは、巨大なブーツの下に消え、周囲にあった建築物なども、着地の衝撃でぐしゃぐしゃに倒壊してしまう。
 それだけの被害を出しておきながら、ユリシアと名乗った少女は、その歩みを止めることなく、右足を大きく振り上げると、高々と足が宙を舞う。

「これが、この都市で一番高いビルなの?私の足の親指にも満たないわね」

 そう言って、ユリシアと名乗る少女はクスクスと笑う。掲げているブーツの下には、無数のビルと道路を埋めつくす小人がいる。
 ユリシアの目線からでは、小さすぎて目を凝らさないと見つけられない、小さな砂粒みたいな小人がいるはずなのだが、ユリシアはその小人に全く気にもしない様子で、ブーツをゆっくりと振り下げると、凄まじい爆風が吹き荒れ、ユリシアの足元にあったすべてが吹き飛び、街は瓦礫の山と化してしまう。

「ふふん、小人の巣を潰すのは、いい気分だわ」

 そう呟きながらユリシアは、続けて左足を一歩前に踏み出す。

 ズシィイイインンン!!!
 一気に500mも離れた場所に下された左足が踏み出すだけで、大地が揺れ動き、行く先の建物をなぎ倒して突き進んでいく。
 彼女の進行を止める者も、行く手を遮る障害物も、この地上には存在しない。全てはこの宇宙人の少女の思うがままに、すべてがなぎ倒され、踏みつぶされてしまう。

「ふふふ、なかなか刺激的な歩き心地ね。足元に小人の巣があるなんて信じられないわ」

 そう言って、ユリシアは嬉しそうに足を進める。
もはや、都市の5分の1はユリシアの巨大な足の下に敷き潰されたころだろうか。
 彼女の一歩一歩に、ブーツが下ろされた地面は、建築物はなすすべもなくその靴裏に踏みつけられていき、靴裏に押しつぶされた人間などは蒸発してしまう。

 彼女の歩いてきた後には、220m以上の長さになる足跡が、規則正しく並んでいる。そんな蹂躙劇でも不幸中の幸いなのは、彼女が履いているブーツのヒールが思いのほか高く、圧縮されているのは、つま先と、かかと部分に留まることくらいか。
 だが、そんな足踏まずの部分も、天文学的な質量で揺さぶられてしまった為、壊滅的打撃を被っている。

 彼女が歩いてしまった地域は、その足跡の分だけ踏みつぶされてしまった哀れな小人がいたことだろうか。
 そんなことを考えているのだろうか、ユリシアは都市を蹂躙しながら、意地悪な笑みを浮かべている。イケナイことを楽しんでいる少女のように、まだ大勢の小人の生き残りがいる街を踏み潰しながら、練り歩く……。


「あらあら、まだ、こんなにも大勢の小人が足元にいたのね」

 足元の街を踏みつぶしながら、歩みを進めていくユリシアはそう言うと、上半身を傾けて、地面に目を凝らして覗き込む。
 大きな二重の目を細めて、じっと見ないと、地面にいるこの星の住人をその目に捕らえられない。
 ようやく巨人の彼女に見つけてもらえた小人の集団は、あまりにも小さく、その動きも止まっているかのように遅い。
 一歩で500m先も踏み出せるユリシアに比べると、彼女の歩幅を死に物狂いで走りきっても、一分近くかかってしまう、この星の住人たち。

 そのあまりにも不憫で惨めな存在たちを、もう少しだけイジメたくなったユリシアは、にやりと口角を上げると、その場にしゃがみ込み、小人に近づいてみた。
 それでも彼女の顔は、はるか上空に存在し、小人たちの空を覆いつくさんとその存在感を嫌でも見せつけてくる。

 そして、膝が地面に着くと、ユリシアは耳元まで裂けそうになるほどに口角を上げ、笑顔を作り出した。

「ふふ、小さな虫けらさん、こんにちは」

 そのユリシアの微笑みで、地上の小人たちはさらに恐怖を増長させる。
 あの微笑は、何かたくらんでいる顔だ。それは無邪気な子供が、小さな命を弄ぶときにするような、残忍な笑みだ。
 そんなユリシアの満面の笑みが、小人の集団に向かって降り注ぐ。

「あなた方のような、ちっぽけな生き物は、私が歩くだけで潰されてしまうのだから気の毒ね。でも仕方ないわよね、そんな小さな存在なのだもの」

 そう言ってユリシアは、立ち上がり、左足を宙に浮かせた。足の真下にいた小人はその姿を見ると、たちまち悲鳴を上げ、一斉に逃げ惑い始める。

「ふふふ、こんなに小さいんだもの、逃げられるとでも思ってたのかしら?」

 そう言ってユリシアは、ゆっくりとその足を降ろし、小人たちの目前にズゥウンと鈍い地響きと共に着地する。
 そしてユリシアは、足元をグリグリと念入りに捻りつぶして見せて、辛うじて生き残った小人たちに、足元で何が起きているのかを確認させてあげた。
 小人たちはその地面の惨状に、自分たちがどれだけ絶望的な状況に追いやられているのかを思い知らされる。

「ふふ、ほら?早く逃げないと、お友達みたいに死んじゃうわよ?」

 ユリシアは楽しそうに、足元で生き残っている小人たちを見下ろしながら、右足を掲げ、真下にいる小人を煽る様に揺らしたのち、ブーツで踏みにじり、グリグリと足を捻ってビルごと跡形もなく、消し去ってしまう。
 まるで、子供がアリの群れを踏みつぶすかのように。念入りに、いたぶり尽くすように、丹念に、小人の最後の生き残りをその靴底で踏みにじっていった。

「そう、あなた達はそっちの方に逃げたいのね……。いいわ、がんばって逃げてね……」

 地上1,600mの高さからだと、細長い道路の行く先も手に取る様にわかってしまう。それは、ユリシアの脚の回りに蔓延る小人の逃げ道を、彼女に教えているようなものだ。
 だから、ユリシアは、足元の小人がこれからどこに逃げようとしているのか分かったうえで、彼らの進行方向のビルにつま先を軽く当てて、押し倒して、道路を塞ぎ、小人たちの逃げ道を奪ってしまった。

「あらあら、逃げ道がふさがれちゃったわね。ねえ、どうしようか?諦めて、私に踏みつぶされる?それとも、別の逃げ道を探してみる?」

 ユリシアの笑顔は、小人の進路を塞いで弄んでいる。そんなユリシアの愉悦を知ってか知らずか、彼女の足元の小人は、前方に佇んでいる巨人を振り返ることもなく、いまだ使える別の街路に逃げ込み、全速力で逃げ去っていく。

「うふ、そんなに必死に逃げちゃって……」

 そう言ってユリシアは、上空から、足元の逃げ惑う彼らの様子をつぶさに観察した後、さらに、その巨大な足で彼らの進行方向先を踏みつぶして見せた。
 こうしてユリシアは、彼らの行く先々の進路を先回りしては、道路やビルを踏みつけることで、彼らの希望を奪っていった。

「ふふふ、どうしたの?ほらほら、早く逃げないとおっきなお姉さんが追いつてきちゃうわよ?」

 足元の小人たちの悲鳴や嘆きを心地よく楽しむ様に、ユリシアは大げさに足を突き出して見せて、小人たちをさらに煽る。
 そのあまりの巨体と、途方もない力に、小人たちは翻弄され、逃げ回り、彼女の思惑通りに、瓦礫で袋小路となった路地に追い詰められてゆく。

 そんな小人たちが罠にはまり、追い詰められたと気付くのにそれほど時間はかからなかった。
 気付けば、目の前はビルの残骸で埋められ、上を見れば道路を跨ぐように巨人が聳え立っていた。

「あらあら、こんな所に逃げ込んで、どうしたの?逃げ道がなくなっちゃったの?」

 ユリシアは足元で震えている小人に顔を近づける様にしゃがみ込み、わざとらしく言葉を投げかける。

「うふふ、まあ、最後まで逃がすつもりはなかったんだけど……♡」

 地面にいる小人に聞こえるか、聞こえないかの声で、ポツリとつぶやくユリシア。そして、自分が追い詰めた獲物を観察するように、ねっとりとした視線で、小人であふれる道路を覗き込んでみる。
 瓦礫と巨人の足跡で囲まれた全長1kmちょっとのその場所は、片側2車線の道路の上なのに、アスファルトが見えないほどに小人で埋め尽くされており、おそらく一万人はゆうに越えて、この通りを埋め尽くしているのだろう。
 ユリシアが両手を付き、四つん這いの状態で姿勢を低くして、顔を地面に近づけてみる。顔を地面に近づける途中、上半身を倒し込んだことで、彼女の大きな胸がズシンと地面につき、広範囲のビルと道路を柔らかい胸で圧し潰してしまったのだが、彼女は全く気にする様子もない。

 とにかく、顔が地面に着く寸前まで近づけたユリシアの瞳には、満員電車に乗っているように密集し、身動きもできない人々を捕えた。

「(うわぁ、ちっさいけど、こうしてみてみるとホントに人間なのね……)」

 恐怖を感じ、お互いに寄り添いながら、翻弄されるままになっている小さな人々。そんな小さな彼らを、ユリシアはじっと観察している。
 ユリシアにとっては、とるに足らない小さすぎる存在。しかし、足元で身動きがとれないほどに密集し、お互いに体を押し付けて寄り添うその姿は、何だか可笑しくて面白いのだ。

 それにしても、砂粒みたいに小さい生き物たちは、見ているだけで、死んでしまいそうなくらい弱そうだ。よく見てみると、眼下の小人は吹き荒れる強風で吹き飛ばされんと踏ん 張っている。
 ――なぜ?風なんて吹いていないのに……。
 ユリシアが疑問に思うと、その原因にすぐ気づいた。
 彼ら小人は、自然に発生した風ではない。ユリシアが呼吸している、その吐息に吹き飛ばされようとしているのだ。

「プッ」

 弱いとは思っていたが、ここまでとは。ユリシアは思わず笑いが抑えられなくなり、思わず噴き出してしまった。

「あっ!」

 しまったと思った時には、もう遅い。ユリシアが吹き出した瞬間、小人の一集団が吹き飛ばされてしまう。まるで息を吹きかけた埃ように、彼女の起こす突風で散り散りになった。

「クスクス……、ああ、ごめんなさい。何だか、おかしくって……つい……」

 ユリシアは、可笑しそうにクスクスと笑い声をあげながら、眼下にいる小人に謝罪した。そんなユリシアのすぐ目の前では、依然、逃げ場を失った小人が身を寄せ合い、恐怖におびえながら、巨人を見上げていた。

「ははっ、まさか噴き出した吐息で飛んでいくなんて……、ふふっ、久しぶりに面白いものを見せてもらったわ」

 ユリシアは、恐怖におびえる眼下の小人をよそに、、面白そうに笑った。
 この足元にいる、小さくて弱い生き物たちが、自分達を踏みつぶさんとする巨人の自分と対峙している状況を想像してみれば、それがさらにユリシアの心を大いにくすぐる。
 そして、足元の集団が、自分の身を守るために、どうするかもユリシアはだいたい見当がついていた。

「(ほら、やっぱり……)」

 ユリシアが足元に視線を落とすと、案の定、足元の集団が両手を大きく振りながら、命乞いをしているのだ。
 逃場もなく、彼女の動き一つだけでさえ、命を落としかねない、そんな巨大な存在を前にすると人は、最後の望みをかけて、命乞いをするしかない。
 この星の人間も例にもれず、自分たちが助かる一縷の望みをかけて、両手を挙げながら、命乞いをしているのだ。

「あら、そんなおびえた表情をしてどうしたの?クスクス……」

 ユリシアは、足元にいる小人の態度がおかしくて仕方がない。こんなにちっぽけな存在でも、きちんとした人間であり、ユリシアと同じそれぞれの人生を歩んできている。
 だが、今は自分の気持ち一つで、生死が決まってしまう。他人の生殺与奪を、この星の人類は、ただの少女であるユリシアに握られているのだ。
 その事実が、ユリシアには楽しくて楽しくて仕方なかった。

「(ああ、面白すぎてゾクゾクしちゃう……)」

 小人たちの、最後の抵抗が心地よくてたまらない。自分が今まで蹂躙してきた小人たちも、どんな気持ちで自分に踏みつぶされたのだろう。
 想像するだけで、ぞくぞくする……。

「(可哀そうだけど、助けてあげないんだから……)」

 ユリシアは、小人たちの願いを無視し、ズシン……と足を動かす。そういえば、ずっとしゃがんでたり、四つん這いになってたりしたので、足や手が痺れてきたのを感じ始めた。

「ねえ、ずっと同じ姿勢だったから、疲れてきちゃったの……。悪いんだけど、ここに座らせてもらうわね?」

 ユリシアが座ろうとしているのは、瓦礫で囲まれた小人が犇めき合う、あの道路。かなり長い道路だが、ユリシアの大きなお尻の前では、道路の半分以上が下敷きになってしまうだろう。
 もし、ここに巨人の彼女が腰かけてきたら、道路にいる自分たちは一瞬で圧し潰されてしまう。
 自分たちにとって死と同義である彼女の行動に、足元の集団は一気にパニックに陥った。

「クスクス……、なにそんなに慌てているの?まさかとは思うけど、私のお尻がそんなに怖いの?」

 図星である。この星の住民にとって、彼女のお尻はその質量だけでも凶器になりうる。巨人が腰を下ろした時点で、自分たちの命はないと断言できる。

「(ああ、こんなちっぽけな存在たちにもわかるくらいに、私のお尻がすごいってことなのよね?)」

 そう考えるだけで、ゾクゾクとした感覚が、ユリシアの背筋を駆け抜けていく。ユリシアは、ゆっくりと腰を下ろしていく。
 地面にいる小人たちの頭上で、お尻を軽く揺らしてみると、ゆれるお尻の動きに合わせて、小人たちが悲鳴を上げて、お尻の真下から逃れようとしているのが分かる。
 大通りに密集していた小人たちは、この巨人のお尻から逃れるために、さらに密集して、お互いの体を押し付け合ってでも、何とかユリシアのお尻から逃れようとしているのだ。

「(バカね、そんな小さな動きじゃ、逃げられないのに……)」

 ユリシアは、小人の滑稽な動きに心の中で、馬鹿にするような感情を抱いてしまう。
 自分がただ座ろうとしているだけで、この有様。軽くお尻を動かしただけで、大げさに怯える小人たちが面白可笑しくて仕方がない。
 ユリシアは、小人たちの悲鳴と命乞いを聞きながら、ゆっくりと腰を下ろした。

 ズズズウウウゥゥンン……。
 遂に巨人の臀部が大地に落ちる。推定体重4,500万トン近くもあるユリシアのお尻が、コンクリートやアスファルトを粉々に砕き、巨大な凹みを作ってしまう。
 ユリシアの臀部が、大通りに敷き詰められたビルやアスファルトを、無慈悲にも一瞬にして圧し潰してしまう。そして、小人たちはユリシアの臀部が大地に衝突すると同時に、すさまじい衝撃で車や瓦礫といったものと一緒に、上空へと弾き飛ばされてしまった。

 無論、ユリシアのお尻の真下に敷かれた小人たちが無事な筈はない。逃げ場を奪われ、身動きが取れないほどに密集していた彼らは、落下してきたユシリアのお尻によって、その痕跡すら残さないまでに極限まで圧縮され、地面と同化てしまった。

「んっ、くすぐったいじゃない……」

 ユリシアは、自分のお尻を受け止めることも出来ない軟弱な地盤が、ずぶずぶと沈み込む感覚に思わずくすぐったさを感じてしまった。
 それと同時に、轟音を立ててゆっくりとユリシアのお尻が持ち上がる。そのお尻には、彼女のとてつもない体重で圧し潰された小人の街の残骸が張り付いてる。
 銀色のハイレグスーツの股間部分の汚れは、そのお尻によって圧し潰された小人たちが、彼女の股間部分にへばり付いた証でもある。
 ユリシアは、自分のお尻に着いた小人たちの残骸を、何んとなしに手で触ってみる。手触りとしては、さらさらしていて砂のようである。
 これでは、本当に小人を潰したのか、今一つ実感がわかなかった。かといって体をひねっても、お尻の様子はよく見えない。

「(なんだ、つまらないじゃない……)」

 ユリシアがそう思った時、目線を地面に向けてみれば、まだ、彼女のお尻で潰されていなかった小人が、わらわらと犇めいているではないか。
 思えば、彼女の丸い大きなお尻を使っても、瓦礫で閉じ込められた道路の半分しか潰れていない。
 ――そうだ、生き残った彼らに確認してもらおう。
 そう思いついたユリシアは、生き残りの小人の上空に、ゆっくりと尻たぶを近づけた。
 小人の悲鳴と恐怖が、ユリシアのお尻の下で満ち溢れている。ユリシアはその様子を見ながら、お尻を地面につける寸前で止めて見せ、地上に蔓延る彼らに聞いてみる。

「ねぇ、私のお尻にあなた達のお友達が張り付いているかしら?それとも、みんな潰れちゃったのかしら?」

 ユリシアの質問にも関わらず、お尻の下にいる数千人の小人は泣き叫ぶばかりで、何も答えようとしない。
 無理もない、なぜなら彼らの真上には、薄汚れたユリシアの臀部が遠くまで埋め尽くしており、今にも墜落してきそうな圧迫感を与えてくるのだ。

 彼女の臀部を見上げてみれば、ハイレグスーツのお尻部分からはみ出た尻たぶに、色とりどりの汚れが付着している。
 あれは、かつての自動車やバス、ビル、電車といった物の残骸である。つい先ほどまで、普通に街の一部を形成していたそれらは、ユリシアのお尻によって一瞬で無に帰したのだ。
 さらに、ユリシアの股間を覆う銀色の生地にまで、瓦礫の汚れが付着している。ハイレグスーツでかろうじて守られてる股間部分は、その生地の明るさから、瓦礫の汚れがより一層目立つ。
 さっきまでそこにいた同胞たちが、あの汚れの一部となった事実に、パニックを起こさない小人は誰一人としていなかった。

「クスクス……、聞こえなかったのかしら?もう一度聞いてあげる」

 ユリシアは、ユリシアの臀部で、完全に覆い尽くされている小人に向かって、優しい口調で語りかける。

「私のお尻にあなたたちのお友達がくっついているかしら?それとも、このままお尻を降ろしてもいいのかしら?」

 だが、ユリシアの声掛けにも小人は答える様子はない。一応、中には答えようと、大声で空に向かって叫ぶ小人もいたのだが、ダニみたいな大きさの小人が、一人、二人叫んだところで、あの大巨人の耳には届かない。

「はぁ、何も答えないのね……。いいわ、直接触って確かめて頂戴」

 ユリシアが言うと同時に、彼女のお尻が地面にぶつかる。
 ズズズウウウゥゥンン……。再び轟音と衝撃が、小人と瓦礫で埋め尽くされた大地を揺らした。その振動は周辺のビル街にも響き渡り、道路が波打つようにうねる。

「どうだった?私のお尻にお友達は付いていたかしら?」

 ユリシアは、お尻をグイッと持ち上げ、股の真下にあるクレーターに話しかける。そこに数秒前までいたはずの小人の姿は、どこにもなく、あるのはユリシアの大質量で圧し潰したクレーターの底で、地層の一部と化した街の成れの果てと、彼女のお尻の汚れの一部と化した、小人や家だったものしか存在しない。

「あら?みんな潰れちゃったの?ふふ、私ってそんなに重かったかしら?」

 ユリシアは、クスクスと笑いながら、クレーターとお尻の残骸に向けて喋りかける。
 ユリシアのお尻によって、街を滅茶滅茶に壊された小人たちは、どうすることも出来なかった。
 小人たちには、あの巨人から逃げることはもちろん、彼女のお尻すら抵抗もできずに潰される、虫けらのような存在。
 いや、まだムシの方がマシかもしれない、人類の1,000倍もある巨人からすれば、自分たちなど、ダニ以下にしか見えないのだから。

 巨人が歩けば、自分たちの住処ごと押しつぶされ、巨人が座れば、彼女のお尻の下でゴミ以下の存在と化す。
 人類は、巨人の存在に恐怖しながらも、巨人の遊び場となった小人の街を見せつけられ、こう思わざるを得なかった。
 ――この星の生態系の頂点が置き換わってしまったのだと。

 ユリシアは、地面につけたお尻をそのままに、沈んだ地盤を座りやすくするため、お尻を左右前後に動かして、大地を均してしまう。
 彼女のぴっちりとしたスーツは、股間のラインをくっきりさせるまでに密着しているので、お尻を動かすたびに盛り上がった股間の土手が、小人の街を薙ぎ払ってしまう。
 彼女の20m以上の高さもある股間の土手は、下手なビルよりも圧倒的にでかかった。柔らかいはずのそれは、ビルや高架橋を容易く呑み込んでしまい、すべからく彼女のモリマンの下に沈めてしまうのだった。

「ん、こうして座ってると、地面の温かさが感じられて、気持ちいいわね……」

 ユリシアは、手を体の後ろに着いて、長い足を伸ばし、上体を反らすようにリラックスする姿勢をとる。
 彼女の長く巨大な足が、無造作に投げ出される。見上げなくては全容を掴めないその脚は、低層ビルや住宅が密集するエリアにズドンと鎮座して、小さなビルをいくつも薙ぎ払いながら、潰してゆく。

 巨大少女は、まるで自宅にいるかのようにリラックスして、脚の下で潰れる小人の建物の感触を楽しむように、投げ出した脚を開いたり閉じたりしてみた。

 その感触はまるで砂浜の上にいるかのように、ざらざらしていながらも、柔らかい感触が脚に伝わってきて、とても癖になるのだ。

「クスクス……、潰れた瓦礫の感触もいいわね……。この細かい感じがたまらないわ」

 ユリシアは、瓦礫の小さな感触が楽しくて仕方ないようだ。
 それは、決して砂粒の感触ではなく、この星で暮らしていた人間たちの建物が粉々になる刺激に他ならない。

 身体が大きいからと言って、小さな人間を虐げたり、踏みつけたりするのが許されるわけではない。
 だが、それ故に、そのことをユリシアは小人の街に自分自身のお尻や脚を通じてその小さな体に刻み込んでやるのが、自らの自尊心を他では味わえないくらいに、満たして楽しませてくれるのだ。

「あら?ちょっと潰しすぎたかしら?私は、ただ座っただけなのよ?」

 ユリシアは、小人の街に向けて侮蔑を込めた含み笑いを浮かべながら、悠々と見下ろしている。

 この星の住民たちにしてみれば、山のような巨人が突然現れ、自分達の街を情け容赦なく蹂躙しているのだと思うのだろう。
 だが、ユリシアにしてみれば、外交官として、この星の代表者を探すために、少しだけ歩いて、疲れたからその場に座っただけなのだ。

 後の報告書にもその様に書いて提出すれば、身体の大きさがこれだけ違うのだから、仕方なしと処理されてしまう。
 あれ程の大蹂躙をしでかしてもユリシアは、ただ座っただけという言い回しで終わってしまう事柄に過ぎないのだ。

 ユリシアは心の中で、日常では味わうことのない優越感に浸りながら、高慢ちきな微苦笑で小人の街を見下ろしているのだ。

「それにしても、大したものがなきもないのね、この星は……」

 ユリシアはそう言うと、座ったまま小人の街を見渡してみる。
 今こうして座っているのに、山の向こう側まで、簡単に見渡せてしまう。
 なんとちっぽけな世界なのだろう。ユリシアの目線からすれば、この星の住民たちは砂粒みたいに小さい存在なのだ。
 彼らの目線からすれば、自分はどんな風に見えているのだろう。とてつもなく大きな存在に見えているのだろうか、とユリシアは思ってしまう。

「この星に来て、よかったのはこの暖かい日差しくらいかしらね……」

 彼女は手で日差しを作りながら、日光浴を楽しむ。
 雲ひとつない青空。暖かい日差しが降り注いでいて、ユリシアの白銀のボディースーツと四肢を綺麗に照らし出す。
 小人の街でユリシアが優雅に日光浴を取っているのとは裏腹に、彼女の巨体の回りで圧死を免れた小人たちは、巨人に潰されまいと死に物狂いの形相で逃げ出してた。

「(このまま、この星の代表者を待つのも悪くないかも……)」

 ユリシアがそんなことを思っていると、彼女の耳元で不愉快な音が聞こえてきた。
 それは、蚊か蠅のような、品のないブゥンというような音を立てて、彼女の回りを飛び回る埃のような存在。
 あまりにも小さいくせに、中途半端な速度で飛び回るので、ユリシアはそれが何なのか、瞬時には判別できなかった。
 が、次第に数を増していくそれは、やがて、この星を守る戦闘機なのだと、ようやく気付くことが出来た。

「あらあら?私に向って飛んできて、歓迎でもしてくれるのかしら?」

 ユリシアが、皮肉交じりでその蚊の軍隊にそう言うと、戦闘機の群れは、一斉にユリシアに向けて機銃の弾丸やミサイルを撃ち放す。

「ん?もしかして花火でもしてるの?まさかこの程度のイタズラで、攻撃しているだなんて言わないわよね?」

 ユリシアは、ミサイルや機銃をいともせず、微動だにしないまま、飛び交う戦闘機を眺める。
 何発ものミサイルがユリシアに向かって飛んでゆく。だが、彼女はそれを防ぐわけでも、避ける話でもなく、悠々とミサイルの波状攻撃を受け止めている。
 彼女が着ているボディースーツの前では、1000分の1サイズの戦闘機の攻撃など、痛くもかゆくもない。
 それどころか、攻撃を受けた地肌でさえ、その爆炎の温かさを感じられるか微妙なところだった。ミサイルを撃ち切った戦闘機は、今度は別の角度からユリシアに向けて弾丸を叩きこむ。

 だが、その攻撃もユリシアにとっては、マッサージ以下も同然である。蚊や蠅のような羽虫ごときの攻撃など、ユリシアにとっては微かな刺激でしかなかった。
 彼女の体を刺激して、快感を得ることも不可能な、あまりにも弱すぎる攻撃。
 ユリシアはそんな無力な小人たちの反抗に対して、無視することに決め込んでいた。

 まともな知的生命体なら、これが無駄な攻撃だと理解でき、すぐに止むはずだと、ユリシアは思っていた。
 しかし、ユリシアの予想は外れた。攻撃が止むどころか、ゴマ粒みたいな羽虫どもは、その数をさらに増して、まるで夕暮れに出てくる蚊柱のように、ユリシアを取り囲んでしまったのだ。

「ねえ……いい加減、諦めたらどう?あなた達の攻撃なんて、虫けら以下だって、理解出来ないのかしら?」

 ユリシアは、周りを右往左往に飛び回る戦闘機に対して、若干の苛立ちを込めながら、小人たちに向かってそう語りかけた。
 だが、一向に止める気配のない小人軍。ユリシアは圧倒的な力を持っているからこそ、最初は優しく諭す様に、語り掛け、友好的な交渉に運ぶよう心掛けてはいたのだが、攻撃を止める気配のない小人に対して、次第にユリシアも我慢の限界が来たようだ。

「はぁ……、しょうがないわ。優しく話しかけてあげるのも、もう限界。お望み通り、戦ってあげるわ」

 ユリシアはゆっくりと立ち上がり、腰に手を付けて、まるで獲物を見るかのような、冷徹な目つきで小人を見つめながら、宣戦布告を叩きつける。
 ユリシアの上空には、50機にも及ぶ戦闘機が密集して旋回している。その中の編隊から、三機ほどが離脱し、下降を始めた。
 出来るだけ、巨人にのみ攻撃を与えて、街への被害を最小限にするため、戦闘機たちはユリシアに対して肉薄して攻撃をしようとしているのか。

 そんな小さな彼らに対して、防御を取ることもなく、むしろ手を上げて、指で小さく手招きをしてあげるユリシア。
 彼女は、まったく彼らの攻撃が効かないことが分かっているので、余裕綽々で、小人を挑発している。
 ユリシアの目の前に迫った戦闘機は、ミサイルや機銃を一斉に撃ち放つが、ボディースーツに炸裂しても、蒸発して消えてなくなってしまう。

「あらあら、やっぱり蚊どころか、蛆虫にも劣るわね。あなた達」

 攻撃を終え、上昇して上空の編隊に帰ろうとしているのか、ユリシアを攻撃した3機の戦闘機は、彼女の目の前で上昇離脱し始めた。
 すでに、彼らの動きは見切っている。ユリシアはすっと戦闘機たちに手を伸ばして、掌で煙を払うような動作で、戦闘機たちを薙ぎ払った。
 たったそれだけのことで、ユリシアの指先に触れた戦闘機は、その場で一気に火を吹き上げ、塵も残さずに霧散してしまった。

「(えっ、これで終わり?)」

 あまりにも呆気なく、霧散してしまった戦闘機たち。いくら小さいとはいえ、戦闘用なのだから、もっと手ごたえがあると思っていたユリシアは、戦闘機の余りにも脆すぎる弱さに拍子抜けしてしまう。

「くすくす……、ふふふっ!あれだけ私にやりたい放題しておいて、それはないんじゃないの?」

 ユリシアは小人をあざ笑うかのように、上空を見てみる。
 僚機の仇討のつもりなのだろうか、今度は上空の編隊から、5機の戦闘機がユリシアに向かって突撃してくる。

「うふふ、今度は5機ね、もう少し、楽しませてね♪」

 ユリシアは、今度は両手を戦闘機に伸ばして、広げた手の平の間に戦闘機たちが来るように、狙いを定めた。
 自分たちの回りを巨人の手のひらに囲まれている。そう気づいた戦闘機の編隊が気付いた時には、すでに遅く、ユリシアは一気に、彼らの数百倍の大きな両手を閉じた。

 彼女が手を広げると、掌に5つほどの黒いシミが張り付いている。それが戦闘機の成れの果てだとは、言われないとわからないくらいに、くしゃくしゃに潰され、スクラップと化していた。

「本当に弱いわ。遊び相手にもならないわね……」

 ユリシアは、飛行機の残骸を指で弾いたのち、残った汚れを拭う。
 この星の技術の粋を結集した戦闘機も、ユリシアの前ではまるで玩具の様に簡単に、指で潰したり、手を開いただけで吹き飛ばされて、消し炭になる。
 もはやユリシアが彼らを攻撃しても、戦いにもならない。それがより鮮明に身をもってわかると、上空にいた戦闘機集団はどうしたらいいのか、判断がつかないようで、攻撃を止めて上空で旋回を続けている。

 彼らは、さすがにあの巨人でも、ここまでは手が届かないので、安全だと思っているのかもしれない。
 ここまでいいように攻撃され、我慢の目盛りが振り切っていたユリシアは、彼らを見逃すつもりは毛頭なかった。
 彼女が身に着けているボディースーツには、護身用の武器も装備されている。腰についている、その武器を手に取ってみた。手のひらに収まるくらいに小さい小型のレーザーピストル。
 相手を怯ますくらいの威力しか与えないものだが、いま彼女が使える遠距離武器はこれくらいしかない。

「ふふ……、おもちゃみたいな武器だけど、これで十分よね?」

 ユリシアはそう言い放つと引き金を引いた。
 ユリシアの手元に放たれる朱色のレーザー。その閃光は上空の戦闘機に向かって一直線に放たれ、その光が当たった戦闘機は一瞬で爆散してしまう。
 スタンガン程度の出力しかない護身用武器にもかかわらず、それでも倒せるほど、この星の兵器は脆かったのだ。

「あら?こんなもので十分みたいね♪」

 ユリシアは面白いように何度も、戦闘機に向けて引き金を引いてみる。すると、殺虫剤を吹きかけられた羽虫みたいに、光線を浴びた戦闘機は破裂して墜落していく。
 ユリシアが引き金を引くたびに、戦闘機の数はみるみる減っていき、気がつけば数えるほどしか残っていなかった。

「ふふふっ、他愛もないわね……。」

 全滅に近い損害を出した戦闘機たちが、逃げる様にその場から離れていく。そんな様子を眺めながら、ユリシアはつぶやく。

 そろそろ、無駄な抵抗をしないで、交渉のテーブルについてくれるだろうか。そんな淡い期待を抱きながら、ユリシアは小人の反応を待ち続けた。
 しかし、待てども、待てども、彼らからの返事はない。

「(何をしてるのかしら……?)」

 ユリシアは、苛立ちを覚えつつ、腹いせに足元のビル群と小人たちを踏みにじって、その苛立ちを鎮める。
 彼女に対する、この星の返答が帰ってきたのはちょうどその時だった。それは、使節団や外交官といった高尚なものではない。
 ユリシアに対する返答として帰ってきたのは、上空に広がる眩いばかりの閃光。それは、この星が持つ最も強力な攻撃手段。核攻撃だった。

 一つのミサイルに12個の弾頭を持つ多弾頭核ミサイルは、本来であれば広範囲に攻撃範囲を持つミサイルだった。
 だが、今回の目標は敵都市ではなく、一人の巨人。人類の1,000倍の体格を持つ、傍若無人で、無慈悲に、市民を蹂躙していく巨大な侵略者に対してだった。
 攻撃を加えた戦闘機隊では全く歯が立たず、通常戦力ではあの巨人は倒せないと判断した政府が、自国の都市を破壊してでも、巨人を殲滅するべく核ミサイルを放ったのだ。

 眩い閃光がユリシアの視界を覆い尽くす。ユリシアは一瞬で目の前が真っ白になり、後から爆音と衝撃波、そして核反応による熱波がやってきては、ユリシアの身体に当たって爆ぜる。

 ユリシアは核ミサイルの爆風に晒されるが、高度な防護機能を持つボディースーツが、彼女の身体をコーティングしている今では、衝撃波も熱量も、ユリシアの身体を害すことはできない。
 爆炎から晴れると、ユリシアはゆっくりと顔をあげて、空を見上げた。
 核爆発の影響で、空には灰色の煙が立ち上り、街は黒茶色の荒野に変わり果てていた。
 すぐに彼女は体の様子を確認するが、どこにも外傷はなく、彼女が着ていたボディースーツにも傷一つない。
 ユリシアが纏っていたボディースーツは、核爆発の衝撃と熱をほぼ無効化していた。

「ふっ……!」

 同胞を犠牲にしてまでの決死の攻撃が、不発に終わったのを目の当たりにしたユリシアは、その無力さと虚しさに笑ってしまった。

「そう、それがあなた達の返事なのね……」

 ユリシアはそう吐き捨てながら、目線の先のまだ被害のない市街地を見つめる。

「いいわ、お望み通り、どこまでも踏みつぶしてあげるから、楽しみにしていなさいね♪」

 ユリシアは市街地に向かって歩き始めた。こうして彼女の際限のない蹂躙劇が本格的に始まった。