本作品は「大きなアリス、小さなアリス」前編のサンプルです。
 気の強い先輩女子高生が縮んでしまい、後輩のゆるふわ巨乳女子に保護されるけれど……というお話。

【シチュ】全篇20倍
・§1クロストおみ足甘ふみ
・§2生太もも内監禁、強制発情
・§3全肯定言葉責め、おっぱい監禁、女体探索
・  おっぱい登り、乳首相手エッチ、オナニー巻き込まれ
 その後爆乳ごと鷲掴みにされてしまい……という内容です(28000字)

久しぶりの体格差百合です。何かの片鱗を見せ始めた後輩女子の手で、プライドの高い女子高生が徐々にシュリ百合ペットにされていくお話。後編もすぐ投稿する予定です。むちむちゆるふわ娘の巨大娘フェロモンとボリューム8000倍女体にもみくちゃにされたい方は是非。

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§0
 願いは昔から同じだった。
 
 凛とした女性になりたかったのだ。

 独立自尊で、全て自分でこなせる女性に。高い身長もそれには都合がいい。最初は理想を演じるように、次第にそれも自然体になっていて、いつしか私はそんな自分を手に入れるようになっていた。

 同級生にも、きっとキツい女と思われていただろう。そろそろクラス替えという段になって、安堵しているかもしれない。自覚はしている。それが或いは、女子高生の一過性のものであるかも知れないとも。クラスに一人はいる、黒髪ロングの澄ました顔の少女。だが私は、それで済ませたくはないのだ。私の格率と本質が一致するまで、私は私でありたい。それが、私に対して素直でないとしてもだ。
 不器用な矜持だと知っている。それが仮面であり、その奥にうずくまっているのが誰であるかも。けれど、これはわかってくれなくてもいいことだけれど、仮面こそが本物であることだってあるのだ。奥にいる私が私だと、誰が決めたのか。本物の私などいない。本を紐解けばいくらでも書いてある。

 詰まるところ、くだくだしく考えるのが私と言う人間だった。
 
 それがどうしたわけか、私にも懐く後輩というものがいるようで。

 砂糖菓子のような少女に私は、付き纏われていた。
「せ~んぱいっ♪」
 いつも声を跳ねさせている、軽薄そうな娘。
 ふんわりウェーブしたベージュの髪、ゆるふわとした人懐っこい笑み。背は低く胸は大きく、いかにも可愛らしい女の子。
 優莉はそんな、ふんわりとした少女だった。

「先輩、やっと見つけました♪」
「こら、離れなさい。暑いわ」
「ふふっ♪ イヤで~す♪」
 くりくりした目をつむってクスクス笑う少女。肩元まで伸びたクセッ毛を揺らし、どこか犬っぽい。声も甘く、全体的にゆるふわ、マシュマロみたいにふわっふわ。一言で言えば、私と対照的な人間だ。
 ……ただ理想の反照だからと言って厭うのは、安直が過ぎる。私はこの子を受け入れるべきだ。そうは思うものの、辟易しているのも事実。何より、やたらスキンシップを取りたがるのが鬱陶しくってしかたない。身体なんて、脱ぎ捨てたいくらいなのに。なんでこの娘は私なんかに目を付けたというの?

 ほどほどに冷遇されつつ、それでも優莉はいつも私の後についてきて、何かと世話を焼きたがった。
「私、先輩のこと好きなんですよ? ライクじゃなくてラブです♪」
「じゃあ意を汲んで私から離れて」
 手を振り解くのに、何度難儀したことか。
 わからなかった。
 自分で言うのもなんだけど、こんな気の強い女にひっついて何が楽しいのだろう。ベタベタされるのが嫌いで、こんな風に冷淡に接しているというのに、怯むところが少しもない。拒絶されないギリギリのラインで私にじゃれついてきて、暑苦しいことといったらなかった。孤高を気取りたいというのに、なんだこの引っ付き虫は。
 
「いい加減にして。私は一人が好きなの」
「あはっ♪ “馴れ合いは嫌”ってことですか?」
「なっ……!」
 もちろんそんな陳腐なセリフは吐かない。でも煎じ詰めれば似たようなもの。構われるのは嫌いだし構うのも嫌いで、詰まるところは群れるのがイヤだった。
 顔を渋くする私に、一方の優莉はふわふわと目尻を下げて抱き着いているだけ。えへえへと緩み切った顔、一度でいいから引っぱたいてやりたい。
 それを知ってか知らずか、優莉は私のことを笑っている。

 けれどこの子は、いつもヘンなところで勘がいい。

「……あの、大丈夫ですか?」
 いつもより覇気がない私に、頭マシュマロ娘は気づかわしげな視線を投げたのだった。
「……そうね、ちょっと今日は、調子が悪いかも」
「無理はしないでくださいね……?」
「そのくらいわかってるわ」
 吐き捨てるけれど、それもどこか弱々しい。
 ふわふわとした浮動感。それに付きまとわれて、正直少し参っていたのだ。なんだか、体が軽くなったようで。特に病気の心当たりはないし、毎月のものでもない。言うなれば、睡眠薬や向精神薬でも飲んだようなヘンな感じだ。

「まあいいわ。もう帰って休むから」
「あ、先輩……」
 淡い茶色の瞳から逃れようと、その場を立ち去る。

 さっさと帰らないと。弱ってるところは、見られたくない。
 でも、妙だった。
 歩けば歩くほど、同時に曰く言い難い焦燥感が押し寄せてくる。自然と足早になり、いつしか教室に戻ることしか考えられなくなる。本当に帰れるのかしら。そんな不安を必死に押し込めて、目当てのドアを開けた時。
 私は、自分の机に崩れ落ちた。
 
 グルグルする。
 世界がよじれる。
 らせんを描くように全てが旋回していって、もう私は立ってさえいられなくなった。鞄を取り落としうずくまる。それでも治らない。
 ねじれて、ねじれて、ねじれて。
 その矛盾が、一気に炸裂したとき。

 私は、一気に自分が破綻したのに気付いた。

 突然、体がどこかへ落っこちたのだ。

「きゃ……ッ!?」
 実体を欠いた虚像のようだった意識、それが急速に収斂したと思えば落下したのだからたまったものじゃなかった。私は柔らかな何かに受け止められ、それから転がり落ちる。ウサギの穴に落ちたアリスのよう。でも、ルイスキャロルもこんなに生々しい感覚は知らないはず。
「なん、なの、よ……っ!!」
 もがきながら、半ば錯乱状態に陥ってしまう私。あたりは温かな布のようで、なじみ深い温度が私を包み込む。同時に胸はソワソワとしてひどく心細い。そして、やっと光の中に浮上出来た時。
「……な、なんで裸なの……っ!?」
 私は、不安の理由の一端を知るのだった。

「どうして?! さっきまで制服、で、……え?」
 混乱して腕で体を隠し、けれどじきに異様な違和感に私も気づき始める。なんだかおかしい。いや、ひどくおかしい。だって、さっきまで辺りにあった机がない。棚がない。壁がない。そう思って、辺りを見回した時。

「これ、どこ……?」
 私は、茫漠とした空間が広がっているのに気付いてしまう。
「どこ、なの、ここ、どこ……??」
 こんな場所、私は知らない。神殿のように立ち並ぶ謎の柱も、空に並ぶ無数の板も。知らない。知らないはず。
 いや違う。
 知りたくない。
 気づきたくない。
 でも私は、自分に対して残酷だった。知らないでは済まされない。受け入れたくないからこそ受け入れなくちゃいけない。いつもそう思って生きてきた。だから、それが何かも、どこかも、私がどうなったかもわかってしまって──

「ち、ぢん、だ…………?」
 自分の服の海の中、スクールバッグの上。
 縮小した身を抱え、へたり込んだのだった。

 縮小発作だ。
 私、発症してしまったんだ。

 どうして? 本来あれは、いや、これは簡単には発症しないはず。まして、急性発作なんて。粘液接触でもしない限り、簡単には……。

 けれど、変化は私に考える猶予すら与えてはくれなかった。

 次いでやってきたのは、重々しい地響きで。
「だ、誰か来る……!?」
 私は本能的に、バッグの中へと潜り込む。こんな小動物的所作、したくもない。アスレチックで遊んでるんじゃないんだ。無様でみっともなくて、おまけに滑稽で。こんな姿を見られることの方が、嫌だった。

 息を潜めて、身を丸める私。教科書に参考書、シンプルな筆箱の隙間。プラスチックの匂いと埃で咳き込みそうになりながら、近づいてくる巨人の気配に神経を研ぎ澄ます。何か言ってるらしい。誰かと喋ってる? いや、なんだか叫んでいるようなその声音。近づいてくるにつれて、それはだんだん明瞭になって。

『先輩、私です、優莉です。いるなら返事をしてください!』

 その大音響が、珍しく焦った優莉の声だと気づいたのだった。弱ったまま立ち去った私を心配したのかもしれない。明らかにそれは、私に対する気配りで満ちていた。

「優莉! ここに……! いや、違う……」
 一瞬、その声に釣られそうになる。優莉ならきっと悪いようにはしない。優しい子だし私によく懐いて、その人となりも知れている。他の人と比べたら、これ以上のことはないように思えた。

 でも。
『先輩!? いるんですか!? 先輩、お願いです、返事をしてください!!』
 バッグのすぐ近くに、 “ズドンっ!”とローファーが振り下ろされた時。
 すんでのところで、私は気づいてしまう。
 
 優莉だって、巨人だ。

 震え上がるほど巨大な、少女の足。それが私に、悟らせる。優莉が優しいのは知っている。けれどそれが誰であろうと、巨人であることには変わりないのだ。巨人に見つかれば、私は物として握りしめられ、持ち運ばれ、体の自由を奪われる。逃げようと思ってもお許しがなければ逃げられないし、何をされるか選ぶこともできない。そんな危険と不安に身を投じるなんて、絶対にイヤ。
 勝手に触られたくない、自由を奪われたくない、それは私が守ってきたことだし、ごく当たり前のことでもあるはずだ。けれど、ひとたび小人として認識された瞬間、そのすべてが奪われてしまう。優莉にそんな配慮は期待できない。可哀そうだねと子供みたいに扱うだろう。いや、多分それ以下。私だってそうする。
 だったら、自力でなんとかするしかない。
 きっと元に戻る。縮小発作は半分は一過性のものだ。それまで独りで隠れていて、人を頼るのは最後でいいはず。

『先輩!? いるんですか!? お願いです、返事を……!』
 華奢な少女の、悲痛な声と重い地響き。それから隠れるように、私はバッグの隅で身を丸め震えた。小さすぎる私は量子と同じだ。観測されたら存在が確定してしまう。そうしたら、私は一生小人のままだ。
 見つけないで、私を1人にして、私を小人にしないで。屈辱的な思いで祈りながら、私は震えた。あんなに小さかった後輩の一歩が、私を跳ね上がらせる。

 けれど、幸運なんてどこにもない。

『ここですか?』
 あたり一面が、光に照らされて。

『あぁ、よかったぁ……』
 私は、巨人に見つかってしまうのだ。

『私、やっぱりバカです。後から先輩が病気だって気づいて、それで……』
 今にも泣き出しそうなほど顔を歪めながら、優莉が崩れるようにしゃがみ込む。
 でも、私はそれどころではなかった。
 だって相手は、20倍。
 身長30m以上の、巨大な存在となっていたのだから。
「ひっ…………!?」
 下から見上げる少女、その姿は異様だった。魚眼レンズ越しに見たように引き延ばされた視界の中、しゃがみ込んだ脚ばかりが目に付くのだ。ストッキングを穿いてなおむっちり肉感を隠せない、少女の美脚。エイのように左右に広がったふくらはぎや太ももが視界を占領する。太ももやお尻を見せつけるような体勢は威圧的で、かつ屈辱的だった。スカートの中も丸見え、私に見られていることになんの顧慮もない。
 これが、小さいということ。
 これが、下位の存在であるということだった。

 そのせいで私は、全てがあまりに恐ろしい。
『あの、手を伸ばしますね』
「や、やめてッ……!」
 わざわざ先に言ってくれたにもかかわらず、巨大な手が襲い掛かってくる恐怖は隠せない。正直、巨大なものに認知されているだけで恐ろしいのだ。天災が意志をもって私に襲い掛かってくるようなもの。熊に見つかっただけでどうかなりそうなことを考えれば、その反応は当然のことだった。
 そう、小人としては。

「や、やめて、持ち上げないで……!」
 大きな手に包まれる、それだけで失神しそうな私。いつでも握り潰せる手の中にいる、そんなの、糸でぶら下がった鉄骨の下に立つも同然。全ては巨人の考え一つ。いつ豹変するとも分からない。恐怖が恐怖を連れてくる。それが小動物的な思考だと、気づいているのかいないのか。
『ああ、こんなに小さくなってしまって……』
 ピンクに塗られた可愛らしい爪が、鋭利な先端で頬を撫でる。細指の大蛇が私を締め上げる。優莉が優莉に見えない。それは巨人、一体の巨人の女。それに捕まって、手足がガタガタと言うことを聞かないのだ。もう、失禁してしまうかもしれなかった。

「わ、私、一人で、なんとかする、から……ッ!」
『冗談はやめてください! 踏まれたらどうするんですか? ご飯は? 服は? 戻らなかった時誰もいなかったらどうするんですか。明日は土曜です。部活もありません。その体で教室から出られないまま、飢え死にしちゃいます!』
 その声に、私は言葉を返せない。何一つまごうことなき事実、それを突きつけられて、“でも”としか言葉が出ない。この期に及んで初めて、自分が動転していることに気付く。曜日すら忘れていたなんて。

 何より、圧倒的に巨大な存在が発する言葉は、有無言わさぬ力があった。それはまるで、木々のざわめきから聞こえる神託のように決定的。
『不可能です。先輩には、無理です。このままだと、死にますよ』
 そして、不意に優莉が顔を曇らせて、
『その、私だから、ダメなんですか……?』
 そう呟いたとき。私は、彼女を拒むことはできなくなっていた。巨人の気を損ねたらという思いと、後輩を傷つけたくないという思いが同時にやってきて、小人の体から元の私を引っ張り出したのだ。
 もう、私に声はなかった。
「違うの、私、ただ、怖くって、動転して、それで……」
 そう言って、優莉の指先に手を添える私。窓ほどもあるその爪に触れ、まるで私が慰めているようだ。
『そうですよね、大丈夫、私が何とかしますから……』
 スカーフで私を包み、裸を隠してくれる優莉。そして、しばらく逡巡したのち、胸ポケットへと隠してしまう。こんもり横から密度を発揮する、優莉の巨大な女性性。それが私をひしゃげそうな弾力で、途方もない球面に貼り付けていた。
 やめて、こんな屈辱受けたくない。
 けれど、そんな声も出せないまま。

『大丈夫ですよぉ、私がお世話してあげますから♪』
 凄まじい乳揺れ、巨乳の暴力。
 私はそれに打ちのめされ、無力への道を連れ去られていった。


§
 おかしいとは思わなかった。

 なぜか、疑問にも感じなかった。
 そして、気付けば。
 既に、一週間が経っていたのだ。

 一週間!
 一週間、私は病院の存在さえ忘れていた。そんなことがありうるかしら? 縮んで脳まで劣化したのか。大いにありうる。そうだと思いたい。けれど、私は一週間の間、後輩の手を借りて、暮らして。

 無自覚に、監禁されていることにすら気づかなかった。

「……あ、あれ?」
 ハッとすれば一人、巨大な太ももの上に座らされている自分を見出す私。なぜ? なぜ私はこんなところにいる? こんな仕打ちを許している? いや、第一。
 なぜ私は、優莉の指から給餌を受けている?

『ほら先輩、今日はクッキーを焼いたんですよ~? たくさんありますけど……、ふふっ、先輩には欠片一つで十分すぎますね♪』
 スカートの上から掬い上げられ机の上へ。机の地平線からそびえ立つのは、私服姿の後輩だった。パステルカラーの緑のカーディガンを着て、巨乳で私を見下ろす圧倒的な威容。存外にきちんとした私服姿は新鮮だけれど、正直全貌を視野におさめきれていない。
 おまけに焼き菓子の欠片を乗せた指先を伸ばされれば、私はマニキュアを塗った指しか目に入らなかった。
「あ、ありがとう、…………?」
 半ば強制に餌を受け取らされる。正気に戻った私に、その異常性は火を見るより明らかだ。
 
 それでも私は、それが“後輩からの給餌”であると実感することはできないのだ。

 私にとって、優莉の姿はさしあたり巨大な手だった。或いは足、胸。全身を見ることなんてまずない。考えてみれば当然のこと。10階建て以上のビルを視野に収めるために、どれだけ離れなければならないかという話。その上優莉は私を離さなくて、小さな先輩は後輩の一部と対話することになる。
「……ね、ねぇ、病院は? 貴女、なんで病院に連れて行かないの? おかしいわよ、ねえ、ねえったら!!」
 目の前に置かれた、巨大な指先に必死に呼びかける。だがその巨木は、何やら話し続ける、言葉を連ね続ける。何を言っているのかよくわからない。過大すぎる声は頭をぼおっとさせて、思考を不明瞭にしてしまっていた。
『それでですね~? たまたま生地が余っていたのでマドレーヌも焼いたんですけど。先輩が食べられる訳ないのに作り過ぎちゃって、私も太りたくないですし。ふふっ、私ってば、つくづくバカですねっ♪』
段々、優莉の存在が抽象的になる。圧倒する肉感と絶望そのものになって、その奥からとてつもない量の感情が押し寄せてくるのだ。それは、隠しようのない私への愛着。巨体から発散される後輩の気分が、私に流れ込んでくる。
 うねる大気や地震に愛されているような感覚だった。こんな絶対的存在に抗う術なんて、知ってるわけがない。

 ここにいたら、おかしくなる。

 一刻も早く、逃げないと。

 そう思い私は、脱走することにした。
 トイレに行った、管理者の隙をついて。
 ティッシュ一枚を落下傘に、巨大娘の立つべき大地へと、降りたのだ。

「ギャッ!?」
 汚い音を立てて地面に落ちる小さな生き物。
 よろけながら立ち上がり、周囲を見回せば、その圧倒的な光景に目が回る。スケールが大きすぎて湾曲して見える世界。その最下層に降り立って、改めて自分の矮小さを思い知る。
「私、どうしてこんなことに……」
 思えば久々に地面に立った気がする。机の上、柔肌の上。不安になるほど高い場所だったり、むにむにと柔らかな場所に立たされたり、いつも変な場所に立たされていた。胸ポケットに安心感を覚えていた自分が、改めて怖くなる。

 でも、監視者は私を一人にはしなかった。
『お待たせしましたせんぱぁい♪』
 近くに隠れていた私をドア板が吹き飛ばし、続いて目前に炸裂したのは巨大な黒スト巨足。それが激震を走らせながら、世界をメチャクチャに踏み荒らす。それだけで、私は平静を失った。高く掲げられた足裏、あれが私の上に降り注ぎ、一瞬でミンチにする様を想像してしまう。その時はきっと、ふっくらと美しい起伏が目の前に押し寄せて、めり込ませて、想像を絶する全体重を叩き込むんだ。歩み去る足裏には、小さくついたシミ、私の残骸。私は、後輩の絶対性そのものに摺り潰されて死ぬのだろう。
 身震いする。
 やっぱり私、1人がいい。

『あ、あれ? 先輩? 先輩どこ行ったんですか?!』
 ゆるふわ少女が慌て始める。私にしてみれば、目前でわたわたとビルが乱舞するも同然。恐怖に動転して箱の中に隠れ、なんとか爆撃から身を隠そうとする。

 けれど、小女子の運命は無情だった。

 爆撃が止む。
 一瞬静かになって。
 天井が、こじ開けられたのだ。

『……あ、ここにいたんですね♪』

 空に広がるもの。それはあの時と同じ、残酷な女神の笑みだった。私を守ってくれた世界をこじ開け、絶対者の自然を私に浴びせる優莉。一気に吹き込む異世界の香りと共に、私は人間から所有物へと引き戻されてしまう。
「や、やめて、来ないで!」
 震え声で、何か言おうとする私。
 意を決して空を睨みつけ。
 襲いかかる怪物を、目にしてしまうのだ。

「え……」
 それは、美少女の巨大な掌。
 美しくもバケモノじみた大きさの手のひらが、私に向かって口を開く。それはまるで捕食器のよう。絶望的な光景だった。
 それに、呑み込まれ。巻き付かれ。
 上空へ引きずり込まれて行きつく先は巨大な美貌。あの紅茶色の瞳が、私の顔より大きなサイズでこちらを見つめていた。
『落ちてしまったんですか? 怪我は? ……うん、大丈夫みたいですね。ごめんなさい、怖かったですよね? もう大丈夫ですよ~♪』
 怯える私をじっくり見つめ、柔和に笑う上位者。美しいその瞳が下位の存在を射止め、目前には私を丸呑みできる大きな唇。壮大なスケールで見る美少女は、愛らしくて、同時に絶対的だった。私、この子から、逃げられないんだ。

『ごめんなさい、私がしっかりしていれば……』
「ちょ、ちょっとやめなさい! 人を勝手に触らないで!」
 けれど、優莉は愛おしそうに指先で頭を撫でるだけ。こんなに圧倒的な存在に、繊細な気遣いで撫でられる。そんな意味不明な経験に、免疫などない。
「な、撫でるなぁ……!」
 さっきまでの反骨精神も奪われて、私は、覇気なく叫ぶだけだった。
 片や優莉は、少し小首を傾げ、
『幸い怪我はなかったみたいですけど、落ちない場所を探さないといけませんね……』
 しばらく、辺りを見回す。視線を外され、見放され、代わって私に現れたのは巨大な胸元。ミント色のカーディガンをパツパツに広げるそれは、女性から見ても目を奪われるほどに豊満だった。その無意識の肉感に、思わず目を伏せる。見てはいけないものを見てしまったような気分だった。

 そんな母性がふるんっと揺れると、何かを決断したらしく。
『んー……。ふふっ♪ やっぱり、ここなら安心ですね~♪』
 そう言って、私を置いたのは。

 虫かご。

 昆虫用の、小さな箱だった。

「……え?」
 あまりのことに一瞬理解できない。それでもプラスチックくさい箱の光景を見上げれば、困惑はみるみる憤怒へと変わる。
「こんなところに閉じ込めてなんのつもり!? 馬鹿にしてるの?! 早く、早く出しなさい優莉!」
 透明な扉を叩いて、私は必死に巨体に叫んだ。こんな屈辱、他にない。やっぱりこうなっちゃうんだ。善意のつもりで私を無意識に馬鹿にする。最初から、私を人間扱いするつもりなんてなかったんだ。

 けれど。
 けれど同時に、自分が何と戦っているんだか分からなくなる。このプライドが、くだらない桎梏のような気さえしてくる。見世物のようにガラスケースに閉じ込められることが、なんでこんなに悔しいの? 友人に自分が人間扱いされないことが、そんなに屈辱? 私って、そんなにすごい存在?

 だって私は、ただの小人なのに。

 不意に、気弱な気持ちの隙間風が吹いてくる。何が何だか分からなくなってくる。体に気持ちが引っ張られて、頭がぐちゃぐちゃになって。
 多分それを、後輩は待っていた。

『じゃあ、試してみますか?』
「……え?」
 当惑する私の瞳に、大きく映る手のひらのバケモノ。巨大すぎて可愛くない巨人の手が、私を掴む。連れ去る。そして、強烈な無重力感と共に、チェスの駒のように置かれて。
 私は再び、巨人の立つ大地へと降ろされてしまった。
『どうです? さっきは無事でしたけど、私の前に立って、どう感じますか?』
 私を床におろし、グンッと立ち上がる巨大娘。それだけで暴風が吹き荒れて、私は立てなくない、動けない。へたり込んで上空を見れば、歪んだ視界でどこまでも伸びていく女の子の体。視界の8割はストッキングの巨塔で埋め尽くされている。多分、優莉は私のことを見下ろしているんだろう。でも標高30m先の顔は胸に隠れて良く見えなかった。
『どうですか? あはっ、私の足と比べると、怖くなるくらいちっちゃいですね♪ こんな怪物みたいな足と一緒に暮らしたいですか? それでも、地面に立ちたい?』
「あ、当たり前でしょ……!」
『じゃあ、そうやって床で暮らしますか? いいんですか? 私に踏まれちゃいますよ? 踏みつぶされて死んじゃいますよ? その体じゃよけられないまま巨人の私にメチャクチャにされるんです。なすすべもなく潰されるんです。それでもいいんですか?』
 容赦ない声に、反射的に口を開く私。
 が、口答えする間もなかった。
 やおら、目の前の足が持ち上がると。

 私の体が、吹き飛んだのだ。

『ほら、私が足を下ろしただけでこうなんです。危ないでしょう?』
 むちゃくちゃに床を転がる私に、淡々と話す優莉。どちらが上かもわからない視界には、黒タイツの足がそびえ立っている。
 状況を理解するまで、もう何秒経ったかわからない。

 まさか、踏み潰されかかったの?
 この、何千トンあるかわからないような塊に?
 そう思った瞬間、震えより先に湧き上がったのは涙だった。

 そんな私に追い打ちをかけるように、巨大な足の影が辺りを飲み尽くす。
『見えますかぁ? この私の足だけで、先輩の何百倍も重いんです。そんなものが上から降り注ぐ地面なんて、先輩には危険地帯、そうですよね? そこから守ってくれる場所が、虫かごなんです。おっきすぎる世界に先輩は、負けてるんです。抗えないんです。生きていけないんです。当たり前ですよね?』
 頭上に足を掲げられれば、私は優莉の顔すら見上げさせてもらえない。これがお前の空だと言うように、全てを埋め尽くす足裏の影。それが舌舐めずりするようにくねれば、私は餌虫と同じ無力感を味わわされる。

 自然と口を突いたのはのは、命乞いだった。
「ふ、踏まないで! 私を、踏み潰さないでぇ……!」
『あはっ♡ 大丈夫ですよぉ♪ 私、絶対先輩のこと踏み潰したりしませんから♪ 踏むときは優しく、甘ぁく……』
 そう言って、そっと降ってくるタイツ生地の空。しなやかに爪先を伸ばした女性的なラインが、私へと襲いかかる。
 逃げ場は、なかった。

『あはっ♡ こう♡』
 少女の耽美な黒ストおみ足。それが、“ぎゅうぅっ♡”と、私を踏みしめたのだ。