涼やかな顔をした少女が、指を優雅に宙へ泳がせる。手を広げると、突如バラの花びら、続いてパッパッと次々指先から花弁が溢れていく。少女はなお澄まし顔、アメジスト色の眼が静かに視線を誘導し、いつの間にかトリックへ誘い込む。
 最後に、帽子からブーケを取り出すと一礼。
 拍手の音に、ぴこっと猫耳が動いた。

「ありがとう。途中花弁を使い切っちゃったけど……うん、成功みたい」
 道具を片付けながら、ベージュ髪の少女が言う。エメラルド色のリボンを大きくなびかせ、タイツや光沢ある服の縁にもエメラルド色。リネットの飄々とした雰囲気とそのゴシックな出立ちが、ミステリアスな空気を演出する。
 おそらく、本人は何も考えていないのだけれど。

 お礼に、食事に誘おうとする私。でも、リネットの練習は終わっていないらしかった。
「もう一つ、練習に付き合ってほしい」
「もう一つ?」
「そう。新作があるの」
 私の腕を引っ張って、等身大の箱の中に押し込む。外ではリネットが何か口上を述べているらしいけれど、どうも落ち着かない。金属音と何やら振動。おまけに何やら奇妙な色のガスまで吹き出てくるものだから、私としては不安を隠し切れない。

 とまれ準備は終わったようで。
「じゃじゃーん」
 間延びした声と共に、パッと光が差す。
 けれど、おかしい。
 四方は未だ黒い壁のまま。
 失敗した……?

 そこに突然、巨大なものが降ってくる。どころか、こちらへ抱きついてきた。咄嗟に跳び退けば、5m近い白黒の何か。剣を抜きそうになる。ただ、どうも危険なものには見えない。ぴっちりとした表面に光沢をたたえるだけ。何か、女性的な雰囲気を漂わせている。
「あれ、いない」
 次いで覗き込んできたのは、亜麻色の髪の猫耳少女。それが上空から、こちらを見つめていた。
 空いっぱいを、その美貌で埋めて。
 30倍はありそうな、リネットの姿だった。
「いたね」
 帽子の中を手でさらい、小人を追い回す猫耳マジシャン。ぴっちりとした黒手袋と白のゴムカバーが、自分を圧倒する大きさで掴みかかってくる。多少の悪あがきも無駄だった。しなやかな細指が体に絡みつき、私を締め上げてしまう。

「とりあえず、ここまでは成功、かな」
「うぅ……。これ、どうやったの……?」
 リネットに、手のひらに乗せられる日が来るなんて。ざっと見て今の自分は5㎝ほど。胸元から見上げる猫耳少女の姿は可憐だけれど、いくらなんでも巨大すぎる。いつぞやの、機械仕掛けの神より大きいんじゃないか。
「それは企業秘密」
 静かに言う、ダウナーな声。見上げれば、大きくパースのかかった視界に飛び込む、開いた胸元。艶やかに光る衣装はゴシックで、ぴっちりと少女の肢体を浮き上がらせている。どれも華奢な少女の物に違いはない。それが、規格外の大きさでこちらに手を伸ばすと。
「わ?!」
 ハンカチを被せてきた。バランスを崩してへたり込めば、柔らかな手のひら。黒手袋張り付く手の上で、何やら演出の一部にされているらしい。
 それから、布地が取り去られると。

 さっきと同じ、30倍少女の顔が現れた。
「…………」
「…………」
 大小2組の目が見つめ合う。視界いっぱいに広がる、深い紫色の瞳。視線の圧に耐えかねて視線を逸らせば、さっきまでのんびりとゆらめいていた尻尾が、ピンと動きを止めている。とはいえ、その顔は未だ澄ましたまま。初めてだから緊張しているだけ……?

 いや。
 その頬に、ほんのり汗が伝っている。
 やっぱり、失敗だったらしい。
 ……だったらこれは、慌てるべき状況なんじゃないか。
「あれ…………」
 もう一度、ハンカチを被せ、何かのボタンを押し、それでも直らない。こと機械に関してリネットは頼りにならない。青ざめるけれど、手のひらの上じゃ私はどうすることもできない。

 そこに、ノックの音が響く。
 リネだろうか。

 一縷の望みに顔を輝かせる私。一方でポーカーフェイスを崩さないリネットは、尻尾をわずかに震わせた。

 何を考えたのかはわからない。
 叱られると思ったのか。或いは、この姿が私の危険につながると思ったのか。
 いずれにせよリネットは後ろ手に私を隠し。
 椅子に放ると。
 すとんと腰を下ろしてしまった。

「リネット!?」
 叫ぶも既に頭上は満点の巨尻空。締め付けるタイツとそれを張り詰めさせるお尻が、凄まじい重々しさで広がっていた。突き出され強調された、まるまるとしたタイツ巨尻。もう、黒い月みたいだ。
 それが、降ってくるものだから。
 座面にぽつんと立つ小人と、一帯を覆い尽くすお尻の影。そこに本体が現れると、次の瞬間。
 “どむっ!”と大地へ激突したのだ。

 失敗を、お尻の下に隠すマジシャン少女。
 証拠隠滅だった。
「少し、待ってて」
 しっかり詰まったタイツ尻が振られ、悲鳴ごと小人をタイツ巨尻で圧し潰す。ぐりぐりぃっと尻を練りつけるリネット。その華奢なシルエットからは想像もつかない尻肉が全身にのしかかり、指一本動かせない。人間の押し花のようにされて、重尻の底で真っ平にされてしまうのだ。
 その異物感が、少々気に入らなかったのかもしれない。
 一瞬浮かせたお尻。形を取り戻しむちっと震えた尻肉が、より座り心地の良い場所を探して少し揺れる。そして、這い出そうとする小人に、再びぶち込んだ。軽く尻尾を揺らして、居住いを正すリネット。ドアが開いたのはその直後のこと。

 リネのようだった。
「ごめん、ちょっと急ぎなんだけど……」
 どっしりとお尻を据え付けられ、塞がれた世界にくぐもった声が漏れてくる。血流、心音の音に遮られ、遥か彼方から聞こえるか細い声。それにリネットが答えれば、ダウナーな美声が何もかも震わせた。徐々に谷間にめり込んでいっている気がする。タイツの狭隘な隙間に挟まれて、どんどんリネの声が遠くなる。

 そんなもの、以心伝心な兄に隠し通せるはずがない。
「……何か、隠してないよね?」
 さすがは兄妹だった。ビクッと震え、それから白を切る少女。僅かにひっくり返った心臓と心拍が微小な体に襲い掛かる。じわぁっと体温が上がってきた。タイツ越しにも、その熱に煮込まれるみたいだ。徐々に全身に、リネットの香りが染みついてくる。花のような香りに、クラクラしそうだ。
 
「……まあいいや。あとでちゃんと行くね」
 かくして、リネは去っていき。
「……さすがに、焦った、かも」
 小さく、息を漏らすリネット。ふわりと髪とリボンを翻し、重いお尻を持ち上げる。少女の蒸れにゆで上げられ、小人は震える巨尻から弾き飛ばされる始末。

「大丈夫。私が責任持って戻すから。そのためには、機械を直さないといけないけど……」
 摘まみ上げた小人に、淡々と話すダウナー少女。道中、小人を隠し通さないと後が面倒だった。とはいえ、問題が一つ。
 しばらく自分の服を見回す。入れるところはどこにもない。
 ただ一つ、大きく開いている場所を除いて。

 嫌な予感がした。
「ごめん。ちょっと、狭いけど」
 自身の胸元を撫で、その曲線をなぞり上げるリネット。シャツとバニースーツを組み合わせたような衣装では、胸元が大きく開き素肌を露出させていた。光沢ある生地に寄せあげられ、むっちりと乳房の丸みが強調されている。ちょうど、小さなものを隠せそうな隙間となって。
「潰さないから、安心して」
 呼吸と共にゆっくり上下していたそれを、指でこじ開ける。むにぃっとたわむミルクプリンのような甘い乳肌。しっかり詰まった乳房に無理やり空間を作り、自分をねじ込もうとする。抵抗したって無駄。グイグイと押し込む猫耳少女の指は迷いがない。何より、眩く輝く乳房は繊細で、傷つけるのが怖くなるほど。押せば心踊る弾力で押し返し、それどころか乳白色は横溢し矮躯を包み込んだ。もう下半身は谷間の中だ。

 リネットの乳房は、少女の呼吸と共にぎちちっと張力を増したり緩めたり。そんな美乳に挟まれ、素肌から発散される香りに酩酊していく。くたりと乳房にもたれ、ねじ込まれ、密閉されて。私は完全に、色白おっぱいの谷間の中。体温の高い柔らかさへと、埋め込まれてしまったのだ。涼やかな雰囲気からは似合わない蒸れが、全身を包み込んだ。そして、さらに奥へ奥へとと押し込まれるのだ。漆黒の衣装と輝く色白おっぱいの中へ密閉されていくのが、倒錯を誘った。
 結果、抵抗する術を知らない小人は、マジックの小道具となり。
 美少女アシスタントの胸に、隠匿されてしまう。

「じゃあ、行こうか」
 乳房の位置を直し、張力でしっかり自分を拘束するリネット。

 そして長いリボンと髪を翻すと、猫のような足取りでその場を去っていく。
 バストをたぷたぷとバウンドさせ、容赦なくその威力を叩き込みながら。