僕を乗せた布は、凧のように浮かび上がった。しかし外の様子は窺い知れない。タオルケットのようなものに包まれ、身動きさえ取れずにいたのだ。
 ベール越しには陰影が踊っていた。そして、一気に暗くなる。暑くなる大気。湿度は増していく。
 そして、不意に布にピンクの丸が浮かび上がると、僕の体を貫いた。丸みは僕の体を飲み込み、布に張り付き、その球形の表面を浮き上がらせる。柔らかく暖かな感触。それが圧力を強めると、もはや僕はその球に張り付く一つの虫だった。

 それがブラの、パッドの中の世界なのだ。

§
 豊胸には刺激が一番。そうして生まれた商品が僕らだった。カップに仕込み胸に貼け、効果はてきめんだという。小人は掃いて捨てるほど殖えている。だから、一石二鳥というわけだ。女性的なスタイルを目指した子供も、なんとかカップを増やしたい大人も、誰もがこれを使った。
 そして、僕らの地獄が始まる。
 今日も僕は電車のような指二本に摘まれる。少女から娘へと足を踏み出した女の子が、僕の200倍はある躯体を以ってそびえ立つ。
 成長期の途上、文字通り期待に胸を膨らませた彼女は、それからそっと僕を下着に忍ばせるのだ。

 一月前には村で暮らしていた僕が、全てを奪われ巨人の娘の乳房に張り付く。その乳首にさえ嬲られつづける惨めさに、もう昔のことなんて思い出したくもなかった。
 しかも、彼女はまだ14の少女らしい。おさげを編んだ、まだあどけない少女だ。そんな幼くやや丸めの顔が、僕なんて瞼に乗せられそうな大きさで僕を見る。ふた周りほども年の離れた小娘に、見られるだけで射すくめられる。屈辱だった。

 彼女が黙って、僕を摘み上げる。指でなぞって出来たような指紋が、僕を挟んで離さない。そして、スポーツブラに開けた穴の中へねじ込むのだ。
 浮遊感。
 暗転。
 熱気と湿気。
 そして次の瞬間には、小娘の乳首が僕を襲う。未だ発達途上の惑星が、ぷくっと膨らむ先端でもって僕を釘付ける。それがどれほどの圧迫感か。どれほどの恐怖か。よし、と少女が呟き、僕は衣服の道具にされる。冷たかった衣服に熱が移り、どんどん僕もその一部にされるのだ。巨人の体は、僕を物にする力があった。

 それから、天変地異が始まる。
 ズドンッと一歩踏み出す度に、柔軟な胸は僅かに、本当に僅かに震えた。それが僕を打ちのめすのだ。押し付けられた球体が、グニっとのしかかっては弾き上げる。僕の体が乳首を刺激する。そうすれば乳首は膨張し、さらに凶悪な鈍器となるのだ。
 
 誰もこんな経験、したことがないだろう。丸めた布団に貫かれ、殴られ、ぶちのめされる。いやもっとひどい。それは肉の半球の、たった一部なのだ。コインにさえ満たないささやかな丸まり。その奥に控えた圧倒的重量が、震えが、恐怖が、僕を踏みにじる。
 彼女は日々を楽しむ。食事をし、学校に行き、遊びに興じる。
 僕のことなど少しも知らずに。

 もはや恐怖と圧迫感に疲れ切り、小人は次第に鈍感になる。
 その頃になると、何かがじわじわブラに染み入って来るのだ。
 空気がムッと暑くなる。洗濯された生地が徐々に柔らかくなる。息詰まるほど蒸して、次第に、次第に布が重たくなっていく。
 そしてすぐに、布にシミが現れるのだ。
 少女が作った汗だった。たかが乳房に伝う汗ひとつ、それが肌に腕に顔に擦り寄りあっという間に僕をビショビショにする。
 窒息する! 
 毎回僕は恐怖した。それほど彼女の汗は僕を圧倒した。だって200倍を優に超える怪物なのだ。それがいかにいたいけない子供だって、巨人であることには変わらない。
 可愛らしい香りが充満する。ムシムシしてきて、時にツンと香って、僕を汗一滴でズタボロにする。それは膨大な体熱ですぐに発散されるけど、その香りは肌の奥まで染み付き、他の下着と同様彼女の色に染まっていくのだ。

 最近は、そこにほんのり甘い香りが混じるようになった。乳腺が発達してきた証拠だ。彼女は大人の体になるべく、乳を作れるようになっていく。滲み出る蕩けるようなミルクの香りが、僕を包んだ。
 残酷だ。僕は少女の成長に立ち会わされている。こんな幼女の乳に、興奮させられているのだ。大人なのに! ただ小さいというだけで、まだ出てもいない乳の気配に凌辱される。助けてくれ! まともな人間に戻れなくなる! 僕は叫んだ。
 しかし助けは来ない。僕はブラの中に閉じ込められる。ミルクと汗の香りを染み付かされて、乳首に嬲られ、声さえ上げられない、気づいてさえもらえない。
 近頃はその胸も膨らんできた。
 圧迫感が日に日に増していく。
 このままでは、僕は幼女の乳首に潰されるだろう。触れることさえできない、巨大な乳房の重量によって。
 そう思うと涙が出た。ブラの中で男一匹が泣かされる。胸に挟まれただけなのに。
 外からは少女らの楽しげな声。飼い主も笑って僕を揺さぶり回す。
 僕のことなど、一寸たりとて知りはしない。

§
 甘酸っぱいはずの少女の成長が、僕を絶望に陥れた。
 もはやスポーツブラジャーはパンパンに張り詰め、僕は日毎に乳輪のなかへ埋まっていく。美しくささやかな膨らみは凶暴で、もはやとうてい僕は動けはしなかった。
 いっそのこと乳頭に圧死し破裂してしまえば楽だったろう。けれどその柔らかな女性性の塊は僕をあくまで優しく包み込み、その腕と胸でがんじがらめに僕を締め付けた。肉体を誇示するように乳首だけで僕を苦しめる。小人を殺すなど乳首の先で十分なのだ。
 夏が来てブラの中は洪水となった。ますます甘酸っぱく華やかな香りは濃くなるばかり。とんでもない蒸れに指はシワを作りその汗をたんまり吸っていた。僕は完全にそのブラの一部となった。

§
「もう入んないや……。おっきいのに変えよっかな」
 彼女の言葉に、僕は光が射した気分だった。カップが大きくなれば少しは余裕が出来るはずだ。今までの拷問の日々から救われる! 快哉を叫びたい気分だった。女神のごとき存在は、指先一つで僕を救ってもくれるのだ。
 もはや豊胸材にされることには疑問さえ抱かなかった。ただこの使命の労苦が軽減される、そのことが無上の喜びとなっていたのだ。
 哀れな小人は、新たなブラに嬉々として待ちわびた。
 そしてついに大人びたデザインのそれを見たとき、僕は歓喜に沸いた。摘まれるその浮遊感さえ嬉しい。早く早くと急く気持ちさえあった。
 そしてスタジアムのように大きなカップを見たとき、不意に気づく。
 小人用の穴がない。

 ポタリとカップのクレーターへ落とされる。
 隣でも、何かが落下した。驚くべきことに、小人は二人いたのだ。小人は乳房に一つずつ要ることさえ気づかなかった。それほどまでに僕は拷問に思考を占領されていて、巨大な乳房は二人を隔て、同時に二人の小人を半殺しにしていた。少女にとって、二人はゴミクズ以下の価値もない。ただの道具だ。地獄がいくつあろうと、構いはしなかった。

 二人に丸い影がさす。見上げれば、裸になった乳房がぶら下がり、こちらへ落下しようとしていた。
 逃げなければ!
 しかし盆地のようなこのカップはそそりたち、どこにも逃げる場所などない。
 なにより少女の乳房で恐怖にかられ、一歩たりと動けはしなかった。
「よいしょ、と……」
 たぷんと乳房がブラに広がる。二人の影は完全に隠れた。
 その軽い所作が、カップの中の僕にはどう見えたか。
 こちらを見下ろす乳輪が、瞬く間に視界に広がり覆い尽くした。そして薄暗くなると、次の瞬間、地軸をも揺らす衝撃とともに世界が僕に降ってくる。もちもちと柔らかな感触は、すぐにその本性を現した。暴力的な重量が僕を押し潰す。桃色の丸まりは僕を完全に捕え、ぷっくりした表面に僕を貼り付ける。
 そして彼女がブラを持ち上げると、乳を収める膨らみはタプタプと揺れて僕らを翻弄した。
 
 不慣れな動作でカップに胸を収めた少女は、恐る恐る体をもたげた。
「直接つけたほうがいいって、本当かなぁ」
 訝しみながら具合を整え、小人の当たる位置を調節する。そしてずり落ちないようギュウッとホックを留めると、そこには一歩大人になった彼女の姿があった。
「〜〜♪」
 鼻歌交じりに鏡で姿を確かめる。そのたび揺れる自分の胸が、どんな地獄を作っているかも知らずに。

 僕は必死に赤い球にしがみついた。娘の乳から墜落する不安に、恐慌状態へ陥っていた。しかし、乳首の段差の分そこには空間がある。となれば、余計僕はその大地に捕まらざるを得なかった。
 悲鳴をあげながら少女の乳首にしがみつく、僕を笑いたくば笑うがいい。しかし、僕は大巨人の一歩一歩に無重力を味わっているのだ。ゆさゆさバウンドする乳房に、張り付く他ない。
 僕の刺激が彼女を刺激する。無意識に膨らんでいく少女の膨らみ。朱を差したように色づき、そして弾力を増していく。

「……あ、ずれちゃってる」
 乳頭から脱走した小虫を彼女は見逃さなかった。
 ブラに手を差し込むと、僕を指先で包み込む。
 そして顔の前に持ってくると、まじまじ僕を見つめた。
「……」
 その姿は、恐ろしく可憐な美少女だった。内に秘めた生命力を発露させ、成長していくエネルギーを感じさせる。おさげの髪はロングになり、澄んだ瞳がこちらを凝視している。
 そしてフッと頰を綻ばせると、
「んぁ……」
 舌を突き出したのだ。
 甘酸っぱい吐息がそよぐと、僕の目前に肉の絨毯が飛び出してくる。艶かしく濡れた表面には泡が浮かび、唾液は溢れんばかりにその面を覆っていた。
「や、やだ、溺れる、死んじゃう……!!」
 僕は子供のように叫び出した。本能がその威容に恐れをなしたのだ。
 しかし残酷に指先は僕を舌へ連れて行く。
 そして味蕾の大パノラマが広がると。
 暗くなり、熱湯の中へ落ちる感覚。
 意識が追いつけば、私はとうに唾液の湖へ突っ込まれてしまっていた。
 ぬちゃぬちゃとした表面が僕を撫でこする。全身に唾液を絡ませる。溺れる。耳にも髪にも鼻にも口にも唾液が流れ込んだ。巨大娘の唾液は僕の喉に詰まり、泡は僕の顔を包み込む。
「ん……」
 そして彼女が舌を引っ込めると、外気に触れた唾は、すぐに冷え始めた。

 再びカップに小人をしまう。そしてしばらく胸に押し当てると、小人は乾いた唾でそこに完全に貼り付けられてしまっていた。
 そして僕は、肌の一部にさせられる。

 米粒よりはるかに軽い僕を貼り付けるなど、彼女の唾液で十分だった。大の字でピンクのボールの一部となる。膨張し始めた乳頭にめり込み、汗と乳がニチニチと音を立てた。
 母性の凝集点が繰り広げる、優しいつもりの地獄。

 その蹂躙はたしかに、コリコリとしつつ柔軟さで僕を包んではいた。

 この時初めて、僕はこの桃色の鈍器に興奮した。
 直に感じる娘の乳房は、それほど僕を圧倒したのだ。
 輪郭の解けるほど濃密な汗と乳、彼女の体臭。布の固さに遮られない、乳首の確かな柔らかさ。かつて触れた村娘の胸は、こんな感触だったろうか。ピンと膨らみつつも僕を抱擁する、膨大な母性。その先端に張り付きながら、乳首のシワに、乳腺の入り口に、肌を撫で擦られていた。
 徐々に快感が押し寄せ始める。
 今際の際に見た夢だろうか?
 しかし、性感だけは本物だ。
 着実に陰茎が屹立し始める。自分より大っきな少女の乳首に埋まり、それに欲情していた。なんて快感だろう。既にそれは男を籠絡する魔力を持っていた。掛け値無しの米粒大だからこそわかる、表面の凹凸。グロテスクに見えかねないほどのそのうねりが、性欲を掻き立てた。
 なんてことだ。こんな惨めな仕打ちを受けて、更に無意識まで掌握されている。こんな、こんな凌辱をされているというのに……! 
 滲んだ涙さえ、彼女の汗に飲み込まれる。
 ズリ、ズリ……と、僕は無意識にその表面へ体をこすりつけ始めていた。ほとんど動けないことが、容易には僕をイかせてくれない。高まる痴情。刺激はたしかに少女に伝わり、ますます僕をのみこむばかりだ。

 そのうち彼女が歩き出す。どこへいくのかもわからない。
 僕はただひたすら快感に呻いた。上へ下へ揺すぶられるたびに乳首が、コリコリと僕を愛撫する。表面のシワや乳腺にいじくり回され、動けないままに寸止めを続けられた。自分の娘ほどの少女にこんな淫猥な目にあわされる屈辱感が、性感を加速させた。
 汗が陰茎にまとわりつく。僕は何度も何度も乳首にそれを押し込んだ。

 そしてそれから。
 そんな時間が、もう何時間も続いている。

 もう意識は朦朧としていた。すっかり汗と乳に湿ったブラの中は、ムンムンと色香がこもっている。焦点の合わない目で僕は目の前の肉に腰を振るだけ。理性も人間性さえ奪われて、全てをなくした末路がこれだった。
 彼女は学校に行き、友人と歓談し、清潔な一日を送っただろう。
 しかしその胸には汗と汁にまみれた地獄があった。
 外からは、制服も脱がず昼寝をしようとする彼女の気配の声が伝わる。そして響く、あまりに呑気な子供の声。

 そして、ストンとベッドに腰を下ろした時。
 僕は最後の絶叫を上げた。
 急に振り下ろされた乳は僕の上にのしかかった。深く深く陰茎がめり込む。乳首の穴に入り込み強くしごかれた。股間に渦巻く疼きはもう止まらない。腰全体が痙攣する。ペニスに緊張が高まり、もはや切なさは限界を超えた。

 そして一気に噴出する。

 駆け抜けた解放感を追って、昇天するような快感が僕を駆け巡った。
「あっ、あぁぁ……」
 トラウマになるような寸止めの後の射精。それはあまりに強烈で、思考はついに輪郭をなくした。

 けれど、ドサリと彼女が身を横たえた時、最期の断罪が僕を襲う。
 急激な動作の反動で、僕はついに乳首の中から抜け出せた。
 そしてなお震える乳房に跳ね飛ばされ、圧の低い場所へと誘い込まれる。どこまでも乳房の山を滑落していく。
 そして収まったのは、娘の谷間の中だった。
 やっと解放された……。
 安堵と解放感に深く僕は息を吸った。体にシワの跡がつくほどの圧の中から、ついに僕は抜け出したのだ。なだらかな谷は打って変わって広々としており、それが娘の乳の間とてもとんでもなく安らかだった。

「……え?」
 そして、大地が横転した。

 寝返りを打った彼女は、健やかな寝息をたて始める。
 けれどその瞬間僕が見たものは、落下してくる山体だった。
 僕など何万、何億人いようと敵わない重量が、こちらに身を乗り出してくる。たらりと表面を汗が伝い、地面へ落ちると盛大なしぶきを上げた。黒子が一瞬覗く。しかしすぐに暗くなると、あとは視野で巨大化する片乳の影があるだけだった。

 一瞬、僕の体はその感触を垣間見た。大質量を前に、生を捨てたのだ。僕は射精にも似た感覚とともに、その柔肌を感じる。
 そして、それっきりだった。

 ころりと横になった少女は、小さく寝息を漏らす。そしてむず痒そうに一度胸を擦り寄せると、更に深い眠りに落ちた。