§
 二十代はもっと大人だと思ってた、なんて、よくある言葉を思う。きっとそれはある種の通過儀礼で、そこから話は始まるのだろう。
 自分もそうだ。何が成熟かはわからないまま、ただ自分がまだ存外に幼いことだけが判明で、首をかしげる。
 いや、それはあまり正確ではない。
 ある種の幻想から覚めてしまったのだ。周りを見渡せば、落ち着いて見えたあの人も、この人も、大して熟している訳ではない。子供達が、酒を呑み、交際というものを覚え、なんとなく身につけた大人のポーズ。往々にして彼らは、それらが抜けなくなっただけ。実質のない教養、ワインや時計へのこだわり。渋さというのをまとい、化粧をするように、仮装をするように。成熟した人々は一見意外に子供らしく、その実こうした仮装が無意味だと気づいた人々だった。そしてそれを知った時、気持ちの整理、責任の引き受け方、そうしたものに自分は未着手であることに気づく。これまで考えていた落ち着きというののメッキが剥がれて、酒の味を知った子供達は、途方にくれるのだ。

「何を考えてるのかな?」
 しっとりした、女の声。いつもの楓の、いつもの声だ。
「……そも大人とはなんぞ、って」
「あははっ、それは難問だ」
 手を合わせて楓は笑う。ダリアを思い出させる、パッと明るくてゆかしい笑顔。オフショルダーのブラウスがゆったり揺れるのもそれに似ていた。
 バーのカウンターに頬杖をついてこちらを伺う。俺が所在なくグラスに口をつけるのを笑った。
「それって、大事なことなの?」
「違うよなって思うよ。悟れるほどわかっちゃいないけど」
 ふーん、とこたえる楓。手の中のグラスを掲げて、その中身を透かして見ている。ウィスキーの色が好きで、よくそうするのだ。特段話に興味のない証拠だった。
「なんか、大変だね」
「まったくだ」
そしてコンとグラスを額にぶつけてきた。
 楓が特段子供だとは思えない。が、先に言ったような熟した人でもなかった。意外に子供っぽいところもあれば、落ち着いた雰囲気でものごとを見抜いたり。よくわからない。
「なお君のそういうとこ、嫌いじゃないよ」

 そう、よくわからないのがこの人だ。
 なにより、俺なんかと付き合っているのが不思議だった。俺達はサークルで知り合った、けれど、その時の彼女は四年生で、俺は入学したて。しかも楓は留学なんかもしている。美貌を誇る彼女に対し、俺は平均値といった感じだ。なんでと尋ねても、「ピンと来ただけ」としか答えない。「形にすると飛んでいっちゃうよ」なんて、手で鳥を作ってうそぶくのだ。とにかく言えるのは、自分の気持ちに忠実だというその一点。ガキな俺を弄ぶにしても、飽きて捨てないあたり本心らしい。
 そんな俺も三年生になる。サークルも引退した。

「さ、出よっか。金曜の夜は長いよー。まだまだ始まったばかりだ」
 そう言って席を降りる。酔いに少し頬を染めて、「ね?」と肩を叩く。特別酒に強くもないくせウィスキーが好きで、ついつい酔ってしまうのが可愛いところだ。
 そのまま会計を済まそうとしてしまう。慌てて財布を取り出す俺を、楓は制した。
「大丈夫大丈夫。学生さんはお金ないんだから、こんな時くらいカッコつけさせてよ」
 マスターにカードを渡しながら言う。そしてえへっと笑うと、
「ちょっと今の、カッコ良くなかった?」
 そんなことを言ってのける。
「……出世払いだな」
「ふふ、払えれば、ね」

 含みのある言葉を言うと俺の腕を掴み、店を出る。
「ん〜夜風が涼しい〜」
 酒で上気した頬を外気に晒し、楓は上機嫌に言った。ハイヒールを鳴らしながらゆらゆら歩く。
「飲みすぎたんじゃないか?」
「なお君が連れて帰ってくれるからね」
「おい、危ねえって」
 後ろ歩きで電柱にぶつかりそうになる楓。その肩をぐいっと掴み、並んで歩いた。
「コンビニでお酒買って帰ろう」
「まだ飲み足りないの?」
「休みを満喫したいの」
 ふざけたように言った。楓が歩くたび、ふわりと揺れた髪が俺の頬を撫でる。
 肩を強く抱いた。
 ヒールを履いているとは言え、やはり楓はすらりとした体をしている。ちんまりした女も嫌いじゃなかったが、やはりこの確かな存在感はどこか俺を安心させた。細い肩もちゃんと腕に収まり、顔同士も近い。大人の女のしっかりした体が好きだった。

「とんだお姫様だな」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ふふ、お姫様はいつものをご所望だよ?」
「……ここで?」
「ここで。ヒールでこけてもいいの?」
「わーかったって」
 嘯く楓の腕を取ると、その腰を横抱きに持ち上げる。お姫様抱っこも、軽い楓の体なら造作もなかった。楓の腕が首に絡みつく。俺の腕に背中を預け、ストッキングの脚はもう片方の腕へと収まった。
「あははっ照れてる照れてる」
「……こればかりは慣れん」
「可愛い子」
 楓の体が、密着する。
 こうして抱かれる楓が、いつかこうして子供を抱くのだ。この軽い体で。そう思うと不思議だった。
 胴を捉えた手はそのまま胸にあたり、腕は太ももと尻をまともに触っている。腕の中にある楓の体は艶やかな曲線を描き、巨乳を誇るその胸部が歩みによって揺れて、俺の胸を叩いていた。
「今日は嫌に甘えるな」
「抱き上げられるうちに、抱き上げて欲しいのよ」
「……太るつもりか?」
「まあ、そのうち分かるわ」
「?」
 クスクス笑って楓は俺の頬をつねった。
(まずいな)
 これでなんとも思わない方が難しい。楓の軽い体の中から、肉付きの重みをしっかり腕に感じる。唐突に肌に感じたその女体美が、心をざわつかせてならなかった。
 俺はなるべく紳士的でありたい。いくら楓の体が扇情的でも、獣になるのは避けたかった。これでもかなりセーブしている。そうふる理由があるからだ。おそらく見透かされているその自制心が、大きく揺らぐ瞬間がある。
(からかわれてんだろうな)
 楓はまだ俺の頬を突いて笑っていた。
 
§
 俺にカウボーイの入ったグラスを渡しながら、そういえば、と楓が呟く。
「温泉宿、明日から取ってあるの」
 ソファに座った俺は、彼女を見上げる。顔にこそ出ないものの、かなり驚いている。
「……唐突だな」
「予定ないでしょ?」
 俺の横に座り込みながら、楓はあっけらかんと言った。
「ないけど」
 先に言えよ、と頭を小突く。何かまた企んでいるに違いない。考えても無駄か。そう思いため息をついてグラスに口をつけた。ボケた色の飲み物。これが妙に好きだった。
 リンッ、とグラスの中で何かが音を立てる。
「……おい氷でも入れたのか? なんか味が妙だ」
「入れてないよ。はいこれ、パンフレットと宿泊券」
「ふーん。お、各室露天付きか」
「嬉しいでしょ?」
「もちろん。しかしずいぶん奮発したな。……高かったんじゃ?」
 不安になって尋ねる。いくら勝手に予約したといえ、何から何まで払ってもらうのは流石に心苦しい。とはいえ、学生の俺では金などあるはずもなかった。社会人の楓の財力には、到底敵わない。
「いいの、大人二人分より少し安く取れたから。それよりここ、お酒が美味しいのよ」
「酒好きめ」
 嬉々として語る楓に、思わず笑みをこぼしてしまう。こういうところが好きだ。さっきの物思いを心底馬鹿らしくしてくれる。俺は楓の額にキスしてやった。
 俺の手の中のパンフレットに身を乗りだして楓は旅行について話している。チラチラ覗く胸元につい目が行ってしまうのはご愛嬌だ。

 気を紛らわせるため、グラスの残りを煽る。
「んあ?」
 舌先に、何か硬いものが流れ込んできた。取り出してみると金属製のリングだ。
「……指輪?」
「やっと見つけたね」
 そう言って楓は、
「一緒になろうよ。支えるからさ」
 指輪を振ってみせた。
 唐突な言葉に、俺はどう返せばいいのかわからない。
「嬉しいよ、でも、俺でいいのか?」
 やっとそれだけ口にする。
「年下で、学生で、将来のことは何も約束できない。今の俺でいいのか?」
 率直に、俺はそういうことしか出来なかった。楓は俺の唇を指で押さえると、微笑するだけだ。
「あまり野暮なことは言うもんじゃないよ。お姉さんが幸せにしてあげるからさ、私のものになってよ」
 そう言って、自分の分の指輪を指で振ってみせる。
「……男らしいな、お前」
 俺はそれをひったくって、楓の指にそっとはめてやった。
 楓は満足そうに笑う。
愛しくなってしまい、楓の唇を奪った。楓も首に腕を絡ませてくる。

 あとはまあ、御察しの通りだ。
「お前、顔に乗る癖なんとかならないのか?」
「嫌なら止めるでしょ?」
「……当然のように顔面騎乗位をするなと言っている」
 顔面に乗ったままの腰を掴み、くるりと楓をこちらに向かせる。脇まで手を滑らせ、寝そべる俺と向かい合う形だ。その乳房が釣り鐘のように吊り下がる。細い楓の体なら、こうして子供のように抱き上げることもできた。
「好き勝手しおって」
「好きなくせに」
 こともなげに言い放つものだから、俺は苦笑するほかない。

 その時、俺は僅かな違和感に気づいた。
「……お前」
「ん?」
「いや、なんでもない」
 言葉を濁す。怒られるのは間違いなかったからだ。
(重くなってる……?)
 太ったのか? そうは見えない。搾り取られて、疲れたのだろうか。
 が、胴が腕の中で膨れるのに気づいた時疑念は確信に変わった。
「待て待て待て、デカいって、……うわっ!」
 ピチャッと音を立てて楓の体が降ってくる。楓の脚は俺の脚から余っていて、乳房が肩を覆っている。明らかに大きくなった女の体は重く、俺はその下で呻くように言った。
「お前、一服盛ったろ」
「正解。えらいえらい♪」
 手をついて起き上がった楓は、俺に微笑みをこぼすだけだ。

「お、案外冷静だね」
「バカ言え。言葉が出ないんだよ」
 実際、混乱するなという方がどだい無理な話だった。……何か企んでるなという予感があったのは事実だ。正直、縮小薬が脳裏に過ったのも事実。旅行、カクテル、言葉の端々から何か漂っていた。だが、唐突なプロポーズがそれらを吹き飛ばした。
「あー気持ちが追いついてきた! くそったれ! お前、もう戻れないんだぞ! 一生小人のままかよ! 責任取れよお前!」
「取るよ?」
「は?」
「指輪。したでしょ?」
「お前なぁ……」
 まただ。完全にペースに乗せられた。ぐるぐるした感情も気を削がれて言葉にならない。この元先輩の女には一生勝てる気がしない。
「手を上げない紳士的ななお君も好きだよ」
「一発かましたいのは山々だ。デカすぎて怖いんだよお前。巨人だぜ? 無断で縮小しやがって、気でも触れたか?」
「一生面倒見てあげるのよ?」
「捨てられない保証がない」
「ふふ、強がっちゃって」
 犬にするように俺の顎をくすぐる。指先で輪郭をなぞり、全身に手のひらを這わせる。
「嬉しいんでしょ」
「…………」
 図星。
 事実上ヒモのような立場なのだ。負い目がある分、犬にされたところで変わらない。いや、無理矢理縮められたという言い訳をくれたのだ。どこまでも楓に見抜かれていたのだった。
「気にすることないのに。学生じゃ仕方ないって」
 そう口にしながら、手を一物の方へやる。竿を指先でゆっくりなぞり上げ始めた。素直に気持ちよくなってしまう。情けなくなり、投げやりな気持ちで俺は口を開く。
「意地っ張りなんだよ」
「知ってる。エッチしたくても何かして欲しくても遠慮するの、君はいつもバレバレだ。辞めていいよ。私が小人にしたんだし」
「……言質とったぞ」
 もう自棄っぱちだ。抗いようのないものに喚いても消耗するだけ。むしろこんな事実が、気持ちの奥にストンと収まってしまった。経験上、こういうのは楽しんだ方が自分のためだ。曰くこれを思考放棄という。
 楓は大きな手で竿全体を包み込んだ。焦らすように握ったり、緩めたりする。俺の反応を楽しんでいるのだ。大きな手は未知の感触で、柔らかく、力強く密着し、暖かい。切なさでジンジン熱くなる。
(気持ち良すぎんだろ……!)
 気持ちのつかえが取れたせいか? ……それとも、大きさのせい?
(悪くないかもしれない)

 現金な自分に苦笑しながら、高まる快感に悩ましく眉を寄せた。楓の繊細で大きな指が、竿をしごき始めたのだ。
「鬱屈したなお君も良いけど素直におなりよ。お姉さんと遊ぶのは楽しいよ〜? 面倒見はいい方だし、隠れMっ気のあるなお君にはご褒美、そうでしょ? 私のものになったんだから、まあ多少は尽くしてもらうけど、ねっ!」
 そして亀頭を思いっきり絞り上げる。カリをこねくり回し先端をなぞり回すものだから、寸止めのままどんどん快感が先っぽに流れ込んできた。グッと呻いてのけぞりながら耐える。
 と、手が止まる。
(お預け?)
 そう思った矢先。
「ふーっ」
 楓がそこに息を吹きかける。ビクビクし出した俺のムスコをすぐさま彼女がパクつく。吸い付いてきた。
「そんな急にっ、ッ!」
 大きくなった楓の吸い付きは強烈で、舌や口蓋が密着して全てを飲み込む。味蕾が余すところなくまとわりついてそこをくすぐり、ついに破裂するような射精が俺を襲った。
「いいでしょ、小人プレイ」
 ひっ、ひっ、と苦しく息を吸ってから、深く吐き出す。やっと荒い呼吸を取り戻すと、熱で半ば涙目に楓を見上げた。奴はコクリと俺の中身を物足りなさそうに飲み込んだところだった。
「トぶところだったぞ。調教のつもりか?」
「さあ?」
 飽くまで楓はロールプレイのつもりらしい。
(これ、まさか延々やられるのか?)
 不安になる。こんなこと続けられれば絞り尽くされてしまうに違いない。自分にこんな性癖があったなんて。それを楓は知っていたに違いない。底知れないこの妖女は、単なる気まぐれでなくすべてを見透かした上で俺を縮めたのだ。つくづく恐ろしい女だ。妻として尻に敷かれ続けるより、犬にされた方がよっぽど幸せかも知れない。

「あっ、良いかもこれ」
 楓がその長い体で俺にのしかかってきた。
「ちっちゃいなお君押しつぶすのクセになりそう」
「楓っ、重いぃ……!」
「初期の急性症状かな、どんどん縮んでく」
「やめろ、体格がちがう、死ぬ、死ぬっ!」
「そのセリフ良い! 興奮するからもっと言ってよ」
 大袈裟だなぁと言って楓はどかない。
(訂正する、こいつ半分自分の趣味で縮めやがった!)
 ただでさえデカい巨乳がぐいぐいのしかかり、太ももはムニムニ俺の脚を挟み込む。二回戦へのつなぎ程度に楓は思っているかも知れないが、熟したオンナの肉体はそれだけでエロいのだ。艶やかな背筋のつややしっかりした肉付きは男を刺激してやまない。フェロモンに満ちた汗や髪の香りは前より強烈だし、小さい体は存分にその肌の気持ち良さを感じてしまう。
 楓の肉体美に気を取られているうちに、足は楓のすねに触れ顔はその鎖骨を感じていた。

「ほら、お姉さんの上においで」
 ようやく俺を下敷きの地獄から解放してくれると、太ももの間に降ろした。俺を試すように笑んで見つめる。
「……わかったわかった、やればいいんだろ? せいぜい奉仕させていただきますよ」
 俺は太ももに手を添えて股へ顔を埋める。腕に柔らかいものが触れた。手のひらでエロチックな香りを漂わせる陰毛を一度撫でてやってから、隠微な肉を一気に舐め上げた。
「ちょっ、ゆっくり!」
「やだよ、お返しだ」
 構わず俺は貪りつく。舌をねじ込んで襞をむちゃくちゃに舐め回してやる。これにはさしもの楓も腰をビクつかせて、シーツを掴み耐えるほかない。引き剝がさないあたり善がっているのは間違いなく、となれば攻め立てるの一択。
 俺は手で太ももを撫で回し、付け根をくすぐって陰部を別方向から弄ってやる。電流みたいにピリピリ快感が掌を走る。汗が絡みつくのも良い。俺自身夢中になってその巨体を堪能する。蜜を啜り、膣内を吸い上げる。
 そして深く追い求めるうち、鼻にクリトリスが当たった。ビクンッと楓の体が跳ね上がる。そして嬉しそうに体をよじると、
「そこ、そこがいいっ!」
 途端長い脚が俺をホールドした。ギュウッ俺を締め上げ、股間に俺を押し当てる。加えて腕が俺を捕まえて、顔を前後に擦り付け始めた。
「バカっ溺れるって!」
 実際その力はバカにならなかった。缶詰にさえ難儀する楓の腕力とは思えない。俺の顔はめり込むようにエロい肉の中へ沈み込み、グニグニと思いっきり気持ちいいポイントを突き続ける。身をもぎはなそうと腕を立てるが、すべすべの肌には歯が立たない。身をよじれば俺を締め付ける強靭な太ももに陰茎があたり、途端に力が入らなくなってしまった。
「ぁ、ぁあっ、あァッ!!」
 そうして俺の顔に思いっきりぶちまけてきた。擦られっぱなしの竿はその振動と無力感で、だらしなく中身を吐き出す。
(やっぱり、これは身がもたん……)
 巨大になった楓の恥部にへたり込みながら、俺は朧げに思った。

§
「機嫌直しなって、ね?」
「やだね」
 旅館の座布団の上で、ムスッとしながら座り込む俺。楓に散々からかわれた後だった。

 移動中、老婆に楓の子供と間違われる飴を渡された。それならまだいい。小人とわかると、野郎には同情混じりのニヤつき顔をされ、女には良い子だねと頭を撫でられた。
 まさか、昨日今日でこんなに世界が変わるとは思っていなかった。
 今の俺は1メートルさえない体だ。軒並み大人は腰より下に俺を収め、雑踏に入ると完全に体が隠れた。小学生だって俺よりデカい。幼稚園児にも負けた。そんな歳の頃の記憶などまるでない。未知のサイズ感に俺は大いに戸惑った。
 第一、楓がものすごくデカイのだ。
 当然一番側で感じる巨体は楓だ。そして一番知ってる体でもある。あの、女の細い体。それがもう、俺の2倍? 笑ってしまう。すらりと着こなすデニムパンツがドンと俺の横に聳えたち、伸ばした手に俺はなんとかぶら下がる。目前にデカい尻が揺れるのは役得だが、とはいえ見返りが少なすぎた。狭い歩幅じゃ脚の長い楓の一歩に間に合わない。ヘトヘトになる。そして混雑した電車に乗れば、女に蹴られ、楓とはぐれ、やっと座れたと思えば詰めろとドヤされ楓の膝に座らせられた。
 肩に感じる楓のバストに文句はない。座っているその太ももにも。寧ろ、その感触と独特のマゾスティックな雰囲気に黙らされてもいた。
 意外と悪くないかもしれないなんて思い始めたのは、その頃だ。
 駅から宿への道中、もう困憊してしまって楓に無理やり背負われたのも、情けなくはあるが正直悪い気はしなかった。はじめこそ恥ずかしく、ブラのラインが気になったりほのかに浮かぶ汗に惑ったりして落ち着かなかったが、慣れてしまえば話は変わる。女の背中に全身を預けて、僧帽筋のない肩幅や細い首回りを肌で感じる。体格差と楓の線の細さが認識の中で矛盾して、それがどこか俺を惹きつける。そのたくましい歩みに揺られるうち、安心感でついついうとうとしてしまったのは無理もないことだった。
 そこまでは良かった。
 が、それを宿についてしつこくからかわれたせいで、一気に不機嫌になってしまったのだ。
 疲れていたし、環境の変化に参っていた分、多少の余裕のなさは大目に見てもらいたい。どちらにせよ、見る人全て巨人になったのがショックだったのだ。それとなく楓に守られていたことも。

「ま、おつかれさま」
 ペタンと背後に座り込むと、俺を後ろから抱いてきた。お俺の体はその腿の間にはまり込んでしまい、その顔は俺の頭の遥か上。長い腕がゆったりしなだれかかり、すっぽり俺は楓に収まってしまった。肩も頭も胴の陰に隠れ、後ろからでは俺がいるかどうかもわからないだろう。
(もう、包み込まれる大きさなのか)
 そんな思いを知ってか知らずか、楓は楽しそうだ。
「あ、これいい〜! いたいけな男の子をかどわかしてるみたいで、興奮しちゃう」
「相変わらず子供好きだな」
「小さい子は好物よ」
 楓の脇は俺の肩に乗っかり、俺の頭は鎖骨に僅かに触れるのみ。なるほどそれは大人の女と小学校低学年児以上の体格差で、俺とっては3メートルを優に超える大女に抱かれたようなもの。昔、大人の女性に抱かれた時の高揚感と包容感を思い出す。大人というだけで、男女差など超越した体格差を見せつけられた、あの時。まして相手は妖艶な楓なのだから、蠱惑的なお姉さんに悪戯されてる、そんな感覚だった。
「そっちがデカいんだよ」
 気を紛らわせるように、パシッと自分を囲む太ももを叩く。ジーンズの中で窮屈げな腿が、頼もしい弾力で俺の手を押し返した。肉の重い揺れ。肌で感じる体格差だ。
 これ以上は毒だろう。
「もう離せって」
 腕を振りほどいて立ち上がる。子供扱いは流石にいたたまれない。が、立ったところで座り込んだ楓と殆ど目線は変わらなかった。立っても座ってもこの体格差は変えられないようだ。ペタンと幼な子のように座りこむ彼女を、俺は見下ろすことも出来ない。

「しかし、なんだな、この体じゃ楓がますますオトナに見える。あんまりからかってくれるなよ? 思春期のリビドーを思い出しそうになる」
 率直に言ってやる。
「へーえ? 誘ってるのかな? ほらほら、おいでー」
 母親のように手を広げてみせる。まったく、これだけでとんでもない包容感を滲ませるのだから困るのだ。心まで体相応になったのか。
「寄せって。戻れなくなる」
「あはっ、嬉しいこと言ってくれるね。いいんだよ、お姉さんに任せなさいって」
「いやだから、って、ちょっ、力つよっ」
 嫌がる俺の腕を掴んで、その胸へと引きずりこむ。なんて力。否応無く吸い込むように、正面から無理やり胸に抱き込んでくる。いけない、これは俺をダメにする。ひどくまずい。頼りがいある胸元に力強い腕。これじゃ完全に象徴的な母親だ。
「……俺をどうするつもりだお前」
「んー? 骨抜きにして? 子供にして? 犬にして? 素直な良い子にしてあげる。せっかくお堅いなお君を籠絡するつもりで捕まえたのに、我慢してるつまんなかったのよ」
「お前、さては最初から飼い殺すつもりだったな?」
「察しのいい子は好きよ」
 よしよしと頭を撫でられる。とんでもないのと付き合ってしまった。お陰でご破算だ。

「……あーもう、わかったわかった、観念したよ。しっかり面倒みろよ? 地の俺は面倒臭いクソガキだぞ。簡単に素直にゃなんねえからな」
「可愛いなぁ」
 わしわし頭を撫でてくる。俺はため息をつくだけ。
 ちくしょうちくしょう、なんでこんなに暖かいんだ。柔らかすぎる。力が入らない。思わずもたれかかってしまう。体の起伏に包み込まれる。助けてくれ。
 意趣返しに鎖骨あたりに接吻してやる。薄い女の肌に、キスマークはちっともつけられない。
 俺は胸に顔を埋めた。ずっとしたかったことだ。なかなかできることじゃない、この子供染みた行為。頭より大きな乳房の中にいる感覚。ぎっしり詰まったその触感に耳が熱くなる。クスクス笑われながらギュッと抱き込まれるのがなんとまあ快い。
 これを味わえるなら、悪い取引じゃないかもしれない。悔しいが嬉しくなる。満足な悪態をついて、俺はなすがままにされた。それなりに思うところはあるらしく、思案するように俺を抱き続ける。

「あ、余計なこと考えてる」
 俺に気取られたのが不服なのか、途端に悪戯な声音で俺をくすぐった。
 意地っぱりめ、と思った途端、俺は母性の暴力にさらされていた。
 楓が片腕で乳房を抱え上げ、寄せる。強調される胸元。そして俺の頭を、そこへ思いっきり押し付けた。
「ふふっこれ一度やってみたかったの。小さな男の子に大人の体を叩き込む……とっても愉快な悪戯でしょ? 男女差を体格差で捻じ曲げて、気になって仕方ない場所になぶられる男の子、ゾクゾクするわ。ほらなお君、無理やりお姉さんの乳房で窒息させられる気分はどう? 今までの非力な私にこんなことされて抗えない、けど、悪くないって思ってるんでしょ?」
 いや、それどころじゃなかったかもしれない。いわゆる縦セーターの胸元がどれほど凶暴かは言うに及ばず、肉感的な楓のバストにこの体格差。成熟した女体がこの小さな体を包み込み、圧迫する。肩出しのゆったりした首回りは胸の上半分を隠さず、口は布地にふさがれ、顔は地肌に押し付けられた。溺れる。楓の胸に溺れていた。
「あ、良い反応♪ 小さいなお君かーわいいんだー! こんな幼稚園児みたいな子をもてあそんでる背徳感そうそう味合えないからね、ちゃんと演技してえらいぞ♪」
(演技じゃねぇって!)
 抱きついたって指先が背に触れるか触れないか程度の巨大な体だ。そんな巨人の胸に押し付けられれば、興奮するわ苦しいわ。俺だって男だから、こんなありえないほどのおっぱい堪能したいのは山々にせよ、この状況じゃ生存本能が先だった。乳房で窒息死とか惨め過ぎて笑えない。
 腕を立てて身をもぎはなそうとする。しかし楓の力が強すぎた。顔はしっかり詰まった乳房から少しも離れない。楓の肌触りや香りが真っ赤な顔を占領する。
(……ちくしょう、ゾクゾクすんじゃねえか)
 一方、そんな非力さに興奮してしまう自分がいた。

 機を見て楓が俺を解放する。犬のように喘ぐ俺を見下ろし、ニコニコするだけ。
「ちょっと良いなって思っちゃったんじゃない? ほらほら、どうなのかな?」
「……手加減してくれたら最高だったよ」
「ははっ、イヤよそんなの」
 クスクス笑って楓は俺の頭を撫でる。やめてほしい。いくらなんでも恥ずかしいじゃないか。

 楓は好きなだけからかうと、再び俺を股の間に座らせた。二人して窓の外を眺める形。そしてポツリと呟く。
「……来てよかったでしょ?」
「……あぁ」
 窓の向こうは絶景に臨む露天風呂だった。屋根の下には板張りのテラスがあり、そこから広く海が開けている。檜だろうか、部屋から繋がる広いテラスにはテーブルが置かれて、そして一段下がると露天風呂が埋め込まれていた。ガラスの仕切りを隔ててシャワーもある。掛け流しの湯がこんこんと湧き出る様はそれだけで心が踊った。
 左に丸く湾が伸び、あとは広大な海が広がるだけ。その雄大な群青の中を、小さな小さな船影が、水平線へ向かい消えていった。

§
「んー♡」
 杯に口をつけると頰に手をあて、楓が歓んだ。地酒にご満悦だ。浴衣に着替え、旅館を存分に楽しんでいるのがわかる。
 食事もそろそろ終わりかというところで、追加の酒を堪能する時分だった。
「分けてあげたんだからさ、もっと食べてよ」
「いや、多いって」
 呻くように俺は言った。もとから食の細い楓に量の多い宿の食事は荷が重く、俺はおこぼれを頂戴していた。とはいえ、幼稚園児より小さな体じゃ容量なんてないに等しい。座布団を何重にもして不安定に座る俺は、つまみ食いのような食事を続けていた。
「これ美味しいよ」
 浴衣の袖を押さえながら、徳利から酒を注いでくれた。
「お猪口が湯呑みよりデカい……」
「いいことじゃない。羨ましい」
「お前は呑みすぎだ。顔赤いぞ。今の俺じゃ世話出来ないからな」
「ふふ、お子さまには頼らないわ」
「お子さまねぇ」
 お化けのようなお猪口に口をつけ、楓を見やる。これほど楽しそうにきこしめす奴も他にいない。酔った楓はニコニコと子供のように笑い、だのに上気した顔が妙に艶っぽい。まあ、楓らしいといえば楓らしい。

 それにひきかえ俺はというと、グラグラした足場に難儀しながら酒を傾け、手前のさ皿に箸を伸ばすにも大きく身を乗り出す始末。ゆったり座って食事のできる楓が羨ましい。
「参ったな、食べにくいったらない」
「ほらほら、食べさせてあげようか?」
「こら、立ち歩くな」
 諫める俺にも関わらず、巨体がゆらりと立ち上がって近づいてくる。そして次の瞬間には、その浴衣の膝に乗せられていた。
「勘弁してくれ……、恥ずかしいんだよこれ。まだこの立場に頭が追いついてない」
「私から見れば完全にお子様よ? 今も昔もね」
 そして母のように俺の口に食事を運ぶ。
 これを拒むのもみっともなく、しぶしぶ俺はされるに任せた。
「やだかわい〜! これね、してみたかったんだ」
「……悪いがこの体じゃ子種にはなれないな」
「頑張ればできるよ? うんとうーんと押し込んで、枯れるまで搾り取ってあげれば、ね」
「それで娘でも生まれてみろ。巨女二人の世話なんか出来んぞ」
「それはそれで面白そうじゃない」
 からかうに笑って、俺の餌付けを完遂する。
 しばらくはそうして膝に乗せられ、頭を撫でられるままに抱かれていた。

 食事も一段落し、しばしののち。
 次第に楓がもじもじ身じろぎを始める。
「トイレならどこうか? 太ももに揺られて落ち着かない」
 違うの、と髪を揺らしながら頭を振る楓。
 そしてぽん、と俺の頭に手を乗せると、
「母性本能と嗜虐心が同時に掻き立てられておかしくなりそうで、さ」
「……ちょっとトイレ行ってくる」
「つれないこと言わないでよ」
 悪戯っぽく笑いながら俺を掴んで離さない。冗談かと思ったが、どうも本気だ。こうして突然スイッチが入る瞬間があるのを知っている。こうなると手をつけられない。
「待てっ、おい、お前から襲う道理があるかっ」
「ふふ、もっと本気で抵抗していいんだよ? ちっちゃい女の子みたいに泣き叫んでさ。ほら、あんまり手を抜くと怖い目にあわしちゃうぞ?」
「ヒッ?!」
 実際何をされるかわならない。この女、ネジが飛んでるんじゃないか。ただでさえ顔面騎乗位を強行するような奴だ。この体で何を企んでるかわかったもんじゃない。
 必死にその腕を振りほどこうとする。けれどその華奢な指は鉄のようにがっしり俺を掴んで離さない。俺の胴を掴むと軽々その膝に押し付け、組み伏せてしまう。

「こんなのどうかな?」
 唾液を絡ませた指を、ズボンの中に忍び込ませる。
「おい?!」
 いよいよ危険を察知しもがき始める。もしかしたらそのためにわざとやったのかもしれないが、襲われていることに変わりはない。
「あはは、本気にしちゃった?」
 酔った笑い声をあげると、パッと手を離して俺を解放する。困憊して膝の上にくずおれる俺。
(読めてきた)
 この奔放さ。そして誘惑。
 俺の性欲を認める代わりに、自分の性欲を叶えようとしているのだ。俺の意地をくじけさせ、互いに好きなようにしようと。ウィンウィンとでも思ってるに違いない。
(でも、俺の身と心がもたない……)
 理想的な年上彼女の誘惑に、巨大な体の蹂躙。おとなしいフリして自分の欲望に忠実だとは気づいていたが、ここまでとは思わなんだ。
 無防備なまま狼の前に放り出されたようなもの。

 そんなことを思う間にも、楓は舌舐めずりして俺を見ろ下ろしている。紅潮した頰。艶やかに光る唇、色っぽい舌先。俺が抵抗したせいで浴衣の胸元がはだけている。これはダメだ。性的すぎる。
 酒を一口煽ると、楓は無理やり口をこじ開けてきた。そして口に含んだそれを、俺の口に注ぎ込む。トロトロと輝きながら酒の雫が垂れ落ちてくる。唾液で角の取れた酒の甘い味わいが、口全体に広がった。
 当然、巨人の口内にあったものを全て飲み干せるはずがない。溢れそうになるのを必死に飲みこむも限界が来る。溢れそうになる酒。そして、それをこぼさせるまいと楓が口で蓋をした。強引なキスと唾液交換に、抗う力など俺にはない。大きな舌をねじ込まれながら、唾液にとろけた液体を飲まされながら、その腕の中に収まるばかりだ。ああ、ついに中身まで楓のものにされてしまった。口から食道の奥まで凌辱されてる気分だ。楓が口を離すまで、俺はその独特な無力感に侵され続けた。
 最後に舌先から唾液の雫を垂らすと、楓は全てを飲み干させる。喉を通り抜ける楓の酒。口元から垂れるのを拭うと、楓は優越感を滲ませた笑みを寄越してきた。
「お前、少しは手加減してくれ」
 むせながら絶え絶えに言う。
「苦しそうな割に惚けた顔して、説得力ないよ? なお君は内心悦んでるんだ。バレバレ♪」
 屹立した股間をピンと指で弾く。

 そこに不意に、若い声が飛んできた。
「お客様、お食事はお済みでしょうか?」
「はーい」
 すぐさま俺を尻の下に隠して楓が答える。俺の体を隠すなど尻で十分なのだろう。が、こんな俺の身の丈程もある尻に敷かれては堪ったものじゃない。浴衣に包まれた尻に潰され、声も出ない。どうも中居は二人いるらしく、外から女三人の話し声が聞こえる。食器の片付けられる音、布団の敷かれる音。そんな中、俺は一人孤立し楓の尻に責められ続ける。
(重過ぎる……!)
 妙齢の臀部は俺をその双丘の間に収め、巨尻の丸み、浴衣に浮き出た下着の輪郭の鮮明さたるや他に無い。浴衣の中ではち切れんばかりに膨らむ尻肉に、ずっしりのしかかられ囚われるのは実に倒錯的だった。とはいえ強烈な重量感。その上、酔ったせいで体は火照り、タラタラと汗の流れ出るばかりだ。焦らすように続く会話、時折尻を動かす楓の身じろぎは、拷問のように俺を責め立てる。
 楓は和気藹々と中居と話をしているようだがくぐもってよく聞こえない。ピシャリと閉まる襖の音だけが、ようやく耳に届いてきた。

「あらあらもう汗だく。中居さんがね、お風呂、入れって言うの。ほら、早く入っちゃお?」
 指差す先には、準備された露天風呂があった。ビーチベッドの上にはタオル、サイドテーブルには水に酒、石鹸一式。
「おい、もう入るのか?」
「本当はもっと早く入るつもりだったのよ」
 酔っていて行動がどんどん奔放になっていく。正直こんな酔いどれ温泉に入れるのは心配なのだが、巨女を止める術など俺にはない。すでに楓はブラのホックを外しショーツを脱ぎ捨てている。。裸に浴衣だけを軽く羽織っただけの格好。乳房の先から布が垂れ、ひらひらと下乳や腹を垣間見せる。
 金魚のように浴衣を翻させ外へ出てしまう楓に、服を脱いで慌ててついていく。

「待てって。お前のケツで干からびた。何か飲ませてくれよ……」
 尻の熱に全て汗で流れ出てしまった。んー?と楓は酔い気味の頭を傾げ、そしてクスクス笑い始めた。
 俺の前に膝をつく。
「ほーら、たんとお飲み♪」
 側の卓から徳利を取り出すと、胸に垂らし始めた。肌を伝う酒は腹の上を滑り落ち、そして股の間から滴り出す。
「飲まなきゃダーメッ」
 俺の頭を股間に押し付け、楓が股から酒を浴びせる。濡れそぼった陰毛や女陰から酒が溢れ出し、俺の口の中に注ぎ込まれた。
 抗議の声を上げるが、口を開けば楓の酒が口に溢れてくる。剰えそれは性器の中に蓄えられ、肉の盃となって俺に酒をすすめるのだ。
「んー夜風が気持ちいー!」
 酔った声が楽しげに響く。
 そして徳利をあけてしまうと、楓はドンっと腰を落として後ろ手に座り込んだ。性器に酒が沁みれば急に酒が回って危ない。俺は楓の酒を啜らざるを得なかった。
 M字開脚の股に顔を埋め必至に酒を飲む。楓はよしよしと頭を撫でるだけ。一人ヤキモキしているのが馬鹿らしくなる。まるで犬にでもなった気分だ。下の唇の周りや淵、そしてその中を舐め酒を舐めとる。雫を滴らせる陰毛を啜り、フェロモンに体を熱くする。

「ふふ、綺麗になったね」
 誰のおかげだと思ってるのか。お互い酒に強かったから良いものの、危うい行為に俺はその陰部を嘗め回さざるを得なかった。
「おまえなあ」
 抗弁しようにも急に回り出す酔い。言葉を探す頭が鈍くなり、気持ち良くなった俺は、楓の股座にふにゃふにゃとしなだれ掛かる。酒で密着する裸。楓が浴衣をかけてくれて、熱い息を零す。
 俺を抱き抱えたまま、楓はチェアに体を横たえた。喉を鳴らして冷水を呷る。そして俺にも一口。楓の浴衣に包まれ夜気に当たるのは実に気持ちが良い。静かに上下するその柔肌も安らぎだった。
「……ちょっと寒いかな。もう入りましょ」
「俺はまだこうしてたい」
「後でしてあげるから。まだ座っててもいいよ?」
 にべもなく却下されてしまう。そして、まだ楓の裸の体温が残るチェアに乗せられると、その長い脚を湯船へ運んでいた。
「くそっ降りにくいなこれ。おい、連れてってくれよ」
 呼びかけるも楓には届かない。苦戦しながら椅子から降りる。

 そして慌てて楓の元へ向かうと、楓はすでに掛け湯を終え、湯に脚をつけ始めていた。
 ん〜〜と気持ち良さそうな声が上がる。
「お湯がまろやか〜。早くおいで。ああ、一人じゃ怖いのかな?」
 俺を抱き上げると湯に浸けてくれた。程よくぬる目の湯が、じんわり体を包み込む。湯からは楓の肩が覗いていたが、もう俺は足さえつかない。楓の補助で、ようやく満足な湯浴みが出来た。
 肩に湯をかけるたび肌が艶やかに輝き、浮かんだ乳房が揺られていた。重力から解放されやや上を向いた巨乳に、目が吸い寄せられる。ただでさえ存在感ある胸が、もはや迫力さえ伴い目の前に広がっていた。色づいた乳輪や乳首が美しい。
「見・過・ぎ!」
 ツンと額を指先で押される。軽い体はそのまま膝から離れ、楓の前に浮かんだ。
「ご無体な。こんな美乳を前に見ない方がどうかしてる」
「口が上手いのね。でもダーメッ!」
 こちらに背を向け温泉の縁にもたれかかった。外の景色を眺めているのか、鼻歌交じりに頭を揺らしている。案外嬉しかったのかもしれない。

 自然と浮かび上がった腰が、こちらに伸びる。俺の下にすらりと長い足が伸び、目前には島のようにお尻が浮かんでいた。揺れるみなもが波のように背筋や尻を洗い、尻の輪郭が丸く水面に切り取られている。
 水面を漂っていた俺は、自然とそちらの方へ流されていった。表面張力と楓の引力に惹きつけられるようにその尻へ近づくと、太ももの上に座礁する。体を尻と裏腿に預け、俺はそこに抱きつくようにもたれかかった。
「なーにやってるのかな?」
腰をひねってこちらを覗く。その影の中に乳房の震える輪郭が垣間見えた。
「楓がいないと溺れるんだよ」
「ちょっ、お尻に登らないでよ!」
 まん丸な尻のてっぺんに座り、体の主の顔を見上げる。珍しく慌てたそぶりで顔を赤くしていた。俺を乗せると柔らかさですこし肉が沈み込み、白い肌はゆで卵のような弾力で俺を押し返す。
「もぅ」
 一度島が深く沈むと、背中が俺を乗せ浮上した。クジラにでも載っている気分だ。盛大に水を滴らせた楓の体は、俺を抱き抱えると再びこちらに向き直った。
 そして、俺を乳房に挟みこむ。
「大人しくしてなさいよ? まあ、巨大な私じゃ君には刺激強いかもしれないけど。そうね、胸と大して変わらないなお君じゃ、ね」
 クスクス笑いながら、頭に湯をかけてくる。一掬の水量も俺には滝のようで、思わず楓の乳房に叩きつけられてしまう。ガスタンクかと見まごうばかりの巨大な乳房。この女体美には抗えない。
「……吸ってもいいよ」
 思ってもない褒美の言葉に楓を振り返る。このお子様はこうでもしないと収まらないと判断したらしい。楓は困ったように笑って、楓は赤ん坊にするように俺を抱きあげた。腕の中にすっぽり収まる俺。そしてその体の全てに乳房がのしかかり、微動だに出来ない。楓が顔を乳首まで持ってきてくれる。すると目前に広がるのは、美しい乳輪と、優しい輪郭をした乳首。
 俺は母性の頂点に顔を埋める。のしかかり無力感さえ感じさせる乳房の重みは、俺の矮小さを思い知らせた。はち切れんばかりに詰まった楓の巨乳は、その偉大さを俺に叩き込む。そして口内を蹂躙し尽くす母性の暴力に食らいつけば、圧倒され、押しつぶされ、魅了され、陵辱され。もはや知性を全て溶かされながら、楓の子供となって乳房を吸うだけだった。

§
 その後、深夜の時分。
 奇妙な感覚に目を覚ましたとき、周囲の世界は一変していた。
(ああ、縮小したのか……)
 慣れてはいけないのだろうが、さらに楓のものにされていく期待感は否定できず、縮小を受け入れている自分がいる。はいえ今、どれほど自分が小さいのかわからないのはまずい。踏み潰されてもすれば事だ。
 見回す。天井が遠い。布団が山脈のように取り囲む。そして、風のそよぐ音はきっと、楓の寝息だ。俺は楓を求めて、しばらく歩いていった。
「なっ……」
 目の前に輝く巨大なシロイルカのようなものが横たわっていた。それも二本、一つを乗り上げるように鎮座している。奥にある、高さ二、三メートルはくだらないあれは、間違いなく楓の太もも。そして輪郭は尻に向かってどんどん膨らんでいき、そこにこちらへ背を向ける楓の寝姿が広がっていた。
(今の体、十センチ程度なんじゃ……?)
 信じられない気持ちで楓の足に近づく。こちらを向く足の裏、その幅さえ俺の目線の上だ。足は横転した車のように俺の前に立ちふさがり、一方は裏返しに横たわっていた。
 近づいて、触れてみる。
 楓の足裏に腰掛けみた。
 寝そべる。
 頬ずり。
 そして体をすり寄せ。
(まずいな)
 ついには親指に跨り股間をそこへ押し付け始めていた。親指の腹や爪先が程よい刺激を与える。恋人の足裏に虫のようにへばりつき、夜這いともいえない自慰をし始める。
 もうあとは無我夢中で下半身をさらけ出すと、足指の股へとペニスを突っ込むだけだった。
(ク、クセになる感触……!)
 足指の指紋が亀頭を刺激する。親指の肉は確かな弾力で俺のものを挟み込む。なにより、状況が興奮を誘った。両手を広げたってこの足の端にも届かない。体はその踵を覆うのも覚束ない。俺は僅かにその爪先にいて、ヘコヘコと腰を降っている。見上げればまさに尻の山がそびえ、楓の寝息が聞こえた。浴衣から伸びる脚は長く、自分がいるのが足の末端だと言うのを強く印象付けた。
(これ、止まらなっ……!?)
 突然、足が動き始めた。小人の一物でも足裏にはくすぐったかったらしい。俺を乗せたまま他方の足の甲へ俺を押し付ける。そしてむず痒そうに指を蠢かせれば、もはやどうなるかは明らかだった。
 俺は足の裏と甲に挟まれ、その中でペニスをギュッと摘まれる。眠る楓による射精の強要。耐えられるはずがない。俺は指の隙間にささやかな汁を吐き出した。
 声にならない声。
 しばらく足裏に顔を埋めてうずくまり、残りを絞り出すような足指の動きに、責められ続ける。そして息も絶え絶えに起き上がると、俺は巨大な女体を、惹きつけられるように登っていった。楓にからかわれ続けただでさえ溜まっていた俺が、止まるはずなどなかった。

(なんだよ、扇情的すぎる。でかいだけで、なんでこんなに……)
 太ももの上を歩きながら、俺はその立ち上るフェロモンに完全にやられていた。小人一匹に、艶めかしい女体の色気など耐えられようもない。自分の立つ肌がどれほど美しいか。広がる楓の姿がいかに巨大か。浴衣のはだけ具合に、服の中で溢れる乳房の重量感。広がる艶やかな髪の輝き、寝顔に差した紅。その全てがこの体の中に流れ込んでは溢れ出し、もう居ても立っても居られず俺は浴衣の中に飛び込んだ。
 尻と腰の上、パンティの上に滑り込み、腰のくびれを感じながら楓を求めた。楓が欲しい。が、今よじ登るこの山全てが、楓そのものなのだ。俺の目にはどこにも楓は見えない。しかしくびれの曲線は、布の合間から垣間見える下乳の形は、そして充満するこの花のような香りは、もう間違いようもなく楓のものだった。先走らなかったのは、足指に処理されていたおかげとしか言いようがない。
 そしてしばらく虫のように服の中を這いずり、壁にぶつかった時、自分はついに腋の中に収まっているのだと気づいた。
 楓の脇にたどり着く。
 その時、俺は初めて腋が性器なのだと知った。
 腕が乗っているせいで全ては見えない。しかしその窪み、そして腕の付け根の盛り上がりが、たしかにここが腋だと物語っている。投げ出された腕に引っ張られ、寄った肉が淫猥な筋を作っていた。呑んでいたせいか、寝ているせいか、僅かに汗ばんだその腋窩。肩や腕回りの筋肉が柔らかそうで、そこに潜り込まずにはいられない。
 布と肉の間をかき分け、その腋窩の中央に収まる。横を向き、腕を胸に乗せて眠る楓は腋に十分な空間を与え、俺の前では乳房と腋、腕がせめぎ合っている。浴衣が腕や乳房に引っ張られるせいで、見えるのは僅かに俺の周囲だけ。それが想像と嗅覚触覚を弥が上にかきたてた。
 脇の折り返しではみ出た肉のデルタ地帯に、顔を埋める。なるべく体を脇の間に潜り込ませ、圧迫感を堪能する。脇の表面に舌を這わせ、そして最後にペニスを挿入した。肉厚の脇肉をかき分ける感触。腕の重みによる、蕩けそうになる強烈な締め付け。元の体では味わえないその感触に、脳がショートを起こしかけた。

「何してるのかな?」
 そしてとつぜん上から降ってきた腕で、俺は腋に挟まれたのだった。
 鈍い声とともに、肉へ深くめり込んだ亀頭が耐えきれず粗相する。楓が不逞の輩を戒めるように腋をきつく締め付けると、もはや失心さえ招きかねない快楽。意識を保てたのはひたすら、楓に見つかったという危機意識に負う。
 指先で俺を摘み上げると、楓は起き上がって目前に吊り下げた。眼前に広がるその美貌の巨大さに、俺は改めて瞠目する。この距離で見る唇がとてもエロティックで、軽々俺を頬張れる威圧感も漂わせていた。
「ほら、何してたか言ってごらん?」
「ちょっと夜這いをひとつ……」
「夜這い? ふふ、違うよ。なお君は虫になって這いずってたんだ。私の体にひっついて、恥も矜持もなくお姉さんの体で楽しんでたの。違う?」
 クスクス笑っている。
 良かった。怒ってはいない。
「で、覚悟は出来たってことだよね?」
「……え?」
「お互い欲望に正直に。ね? どうなるか、わかるよね?」
「待て、話せばわかる!」
「問答無用♪」

 手のひらの中の俺を嗤うと、ペロリと唇を舐め上げ雌の顔でこちらを見下ろす。両手のひらに包まれ、掌握とはまさにこのこと。そして顔を寄せる楓の顔を呆然と見上げれば、次の瞬間には舌の肉にのしかかられていた。
 手の中の小人を、愛おしげな舐めつけが襲う。喰われないとはわかりつつ、巨大なものに口内を見せつけられ舐められるのは恐怖を掻き立てた。同時に襲うのは、舌に蹂躙される無力感と興奮。両手を広げたって舌のほんの少ししか覆えず、あざ笑うかのようにそのまま押し倒される屈辱的快感。唾液に汚され、ベロリと舐められる動物的愛情表現に、小人の歓喜が収まらない。ペチャペチャとあまりに淫らな水音。俺もそのベッドのような舌に舌を重ね、味蕾を甘噛みし、その唾液を啜った。
 手の中で陵辱し倒されたびしょ濡れの小人を見ると、バカにしたように巨人は笑った。そして服を脱ぎ捨てると、乳首にそれを押し付ける。待ちかねた母性。俺は喜んで奉仕を始めた。
「アハッ、バイブみたいに乳首に押し付けられて喜んでるの? 舐めてるの? 揉んでるの? ネズミみたいななお君、ちっこいなお君、私のおっぱいに潰さらちゃうようななお君が? 弱々しくって興奮するからもっとやってよ。うん、えらいえらい♪」
 そして自分も、俺を押し付けたまま胸と股を揉み始める。間近で聞く女の喘ぎがこんなに扇情的だとは。手と胸に揉みくちゃにされるのがこんなに快感だとは。勃ちはじめた乳首の弾力と桃色の乳輪の柔らかさ。水平線のような大きな弧を描く乳房の丸み。乳房の重量感と柔らかさに蕩ける。濡れた布団のように重い乳首に押しつぶされる非力な自分に、それでも虫のごとく乳首に腰を振る自分に、興奮がとめどなく溢れた。手のひらの中で楓の名を呼ぶ。巨人の嬌声に圧倒される。そして、劣情を吐き出し合う。
 もうためらいなどしなかった。
 楓は俺を膣にねじ込み、お前はディルドだとでも言わんばかりに抜き差しを始めた。膣肉の襞が俺の亀頭を擦り上げてはねちっこくしごきつける。半身を、そして全身をヴァギナにねじ込まれては抜き出され、そしてヌチャリと思いっきり突っ込まれる。M字開脚の股から半分体を産み出された状態が、無力感と陵辱感で俺を痺れされた。俺は楓の一部にさせられ、尊厳も奪われ全存在を性玩具に堕とされるのだ。そして俺はその快楽に抗えない。心を快感でねじ伏せられ、意思に関係なく腰を振らせ、ヒクつく膣に首や腰を締め付けられては生かさず殺さずの生殺し。愛液で泡だらけの体は淫猥な水音を立てながら膣肉をかき分け、襞に舐め尽くされては亀頭を責められる。頭上には、巨乳をバウンドさせながら汗を散らす楓の巨体。俺の両サイドには、とてつもなく太く肉感的な太もも。そして、顔に愛液を吐き出され続ける。互いが何を言っているのかもわからない。たまらない。たまらない。たまらない。そして高まる快感の頂点、一際強烈な締め付けとともにクリトリスを思いっきり掴んだ時。
 全身を飲み込まれ子宮口にさえねじ込まれた俺は、絶頂に至った女神の潮に吹き飛ばされ、その太ももの間に産み落とされた。
 夜の空気に、互いの苦しい吐息が混じり合う。
 楓の髪から汗が滴り落ち、愛液まみれの体にぽつぽつと円を描いた。
「チビ助のくせに、思ったよりやるじゃん」
 楓が笑いかける。
 そして腕で汗を拭うと、手で顔を扇ぐ。乳房から俺に汗が降るが、気づいちゃいない。

「お風呂、入り直さないと、ね」
「……じゃあ、手伝ってくれ。もうこの体じゃ人間用の風呂は無理だ」
 当たり前よもクスクス笑う楓。
 しかし考えていることは違わない。
 互いに視線を絡ませると、どちらから求めるともなく腕を伸ばし合い、アシンメトリーな情事が始まると、あとはもう欲望に委ねるままだった。