§
 身の丈ほどもある椅子の、座面に手をかける。呻きながらよじ登り、さらに上へ。机の上に身を投げ出すと、ようやく一息ついて、準備を始める。畳まれた私用の机を組み立て、タブレットを据え付けて。そしてやっと、授業が始まる。
「ほら早くしてよチビせんせ〜」
「静かにしなさいっ!」
 叱りつけながら、スクリーンの電源をつける私。
「授業を始めます」
「あはっ、がんばれがんばれ♪」
「……」
 これが、日本最後になった男性教師の、授業風景だった。身の丈60センチ弱。小学校に一人だけの縮小男性。周囲を巨人に囲まれ、女性に囲まれる毎日。縮小病にもはや抗えなくなった男性達の、社会における最後の生き残り。それが私だった。
 
「第一なんで男のヒトが先生やってるわけ?」
「授業中だぞ。席に着きなさい」
「ねーねー」
「……しちゃいけないとは言われてないからだ」
「する必要もないでしょ?」
「したいからしてるんだ!」
 教卓にでろんと身を投げ出し、私をそばに追い詰める生徒に声を荒げる。教卓いっぱいに広がった髪は、長さでさえ私に勝り、机の大半を覆っている。
「邪魔だから退きなさい」
「えー?」
 花のような香りを漂わせ、少女がニヤつく。彼女、西沢の身の丈は私の二倍を優に超えている、とはいえ一番背丈の小さい生徒だった。
 こうした態度は西沢だけではない。生徒達に舐め切られているのは当然だった。
「ならさー、ここ教えてよ」
 そうして、西沢にノートを渡され、まごつく私。紙で出されれば、答案一枚ろくに採点できないのだ。彼女らにとってのB5判は、私にとってA2判という模造紙大の代物だ。タブレットや電子教科書を駆使してようやく埋められるかどうかのスケールの差。そんな小人に上に立たれるのだから、生徒達が面白い訳がない。
 体育は教えられない。図工も音楽も無理。そもそも騒がれたら私の声ではかき消されるばかりで、マイクとスクリーンが私の生命線だった。これでは、ネットを介した家庭教師と変わらない。
 それは分かっていた。
「ねーねー、わかんないのー?」
「あとで教えてあげるから、アップロードしておきなさい。ほら、授業を続けるぞ」
 意地を張り苦心して教師免許を取った過去など、彼女らは知らない。ただでさえ男性の進学率などあってないようなものの昨今、こんな努力をする小人のことなど理解できまい。彼女らが家に帰れば、そこにはペットの男がいる。犬に教壇からものを説かれているようなものだ。
 私を見下ろす生徒達を、教卓の上から見上げる。そんな時、時折見世物になったような気分になるのだ。女性教師用の机や椅子の上をあくせく動き回る私は、どんな風に見えているんだろうか。
 チャイムまでが果てしなく長く感じる毎日だった。

「……今日はここまで」
「きりーつ」
 日直の号令とともに一斉に立ち上がる生徒たち。主観で4メートルを越す人間がざっと30人、それが一斉に立ち上がりこちらを見下ろす。この瞬間に、私はいつもギクリと体を震わせてしまうのだ。教卓の上に立っていても子供達の胸のあたり。怖くないわけがない。
 そんな私をクスクス笑いながら、少女達は休憩時間に入っていった。

「あれ、先生のズボン……」
「?」
 部屋を出ようとして、唐突な声に振り向かされる。目前に白い膝小僧が現れ面を食らうのも、もう何回目だろう。
「それスーツのズボンじゃないよね。……ハンカチ?」
「あ、あぁ、西沢か……。よくわかったね」
 そんなことかと胸を撫で下ろす。
 男がスーツを着ることなんてまずない。シャツはあってもスラックスなどなく、女性用の黒スカーフを生地にして作る他ない。
 顔をうんと上げて褒めてやろうとすれば、まさにその目前には巨大な手が迫っていた。
「うわっ!?」
「もっとよく見せてよ」
 そう言って強引に私のズボンを剥ぎ取る西沢。しゃがんだ彼女にズボンの裾を掴まれる。ぐるりと体が逆さになり、そしてそのまま落下した。
「あはっ! ホントだハンカチだこれ。よくできてる〜。ね、これ先生が作ったの?」
 西沢は、立ち上がって他の女生徒と見せ合う。
「こら、返せ、返しなさい!」
「ほらほら〜先生なら取れるでしょ〜?」
 西沢がひらひらと頭上で振って見せる。とはいえ、腕はちっとも伸ばしていない。せいぜい屈んだ胸の高さあたりで、まるで猫じゃらしを振るような気軽さだった。それが無力感を煽り立てる。私は、飛び跳ねたってその裾にさえ届かない。
 西沢は生徒でも一等小柄な子だ。だのに、文字通り足元にも及ばない。
 不意に泣けてきた。
 本来、私は彼女らの教師のはずなのに。

「届かないの? あはっ、かーわいいんだー! ぴょんぴょん跳ねて、うさぎさんかしら? ほーら、がんばれがんばれ♪」
 下着を隠しながら飛び回る私を、周囲の生徒たちが囃し立てる。見世物だ。見世物にされている。これを恥辱と言わずして何と言おう。童女の脚の林の中で、下着姿のまま嘲弄されているのだ。
 目前を上下する幼女の太もも。上空を丸く取り囲む少女らの顔。彼女らでできた鳥かごは馥郁たる香りが登り、寄せては返す嘲笑、近づいては遠のくその愛らしい顔。

 20歳近く年下の娘たちは、私を教師とも思わずからかい続けた。
 これほど散々弄ばれたなら、息が上がり、疲労に喘ぎ始めるのも当然だ。
 そして足がもつれると、まともに西沢の脚へと抱きついてしまった。
 幼女特有の、細い足が私を受け止める。ビクともしない。
「ひゃっ?!」
「あーあ」
「やっちゃったねセンセ!」
 一瞬驚いた西沢は、すぐに悪戯っぽく笑った。
 そして、「えいっ」と言うと。
「つーかまえたっ!」
 スカートで私を包み隠したのだ。
 明かりを消したように、フッと周囲が仄暗くなる。幼女の急な辱めは、矮小な私にはすぐには理解できない。頭上に女児用のショーツがデカデカと現れ、瞠目する視界を占領した。
 私はようやっと理解が追いつき、俄かに慌て出す。すると徐にスカートの壁がたわみ始め……!
「あははっ! 先生いっけないんだ〜!」
 その大きな手のひらで、私の頭を押さえつけたのだ。
 グイッと体がつんのめる。
 そして屈み込んだ西沢の股が降ってくると、私は無理やり股間に押し付けられた。
 成人男性のくぐもる悲鳴が、スカートの中に小さくこぼれる。
「キャハハッ! センセのエッチー!」
「写真撮っとこ!」
「バレたらもうおしまいじゃん!」
 壁の向こうから嘲弄の声が弾け飛ぶ。
 が、私はそれどころではない。
 西沢の股間に、窒息させられていたのだ。
 西沢の腕力は絶大で、とても抗えるものではなかった。片手で頭を覆い尽くされ、曲げられた膝は容赦なく私の腹を押しつぶす。半ばその太ももに乗せられる形で、私はいともたやすく体を支えられていた。釘で打ち付けたが如くあたまは股間に固定され、クスクス笑う西沢に合わせ、振動が私を翻弄した。完全な無力感を味わわされる。これがたかが140センチにも満たない幼女の力とは、思いたくもなかった。

「にじざばっ、ばだじだざ、ムグッッ!」
 喚き始めた私を、西沢は力を強めて笑い飛ばした。絶対的拘束。剥き身の足が、だらりと幼女の足から垂れ下がる。
 その、屈辱たるや。
 顔全体に未成熟な幼女の股を感じた。もはや吸って吐く息は西沢の香りの他あり得ない。プニプニとあどけない弾力が、無知なその輪郭を私に練り付ける。すもものような甘い表面をなぞるたび、否応無く自分が幼女の股に押し付けられているのを思い知らされた。顔を離そうとすれば、手はすべすべした腿の付け根に跳ね除けられ、私は全力でもその片手の力に負けてしまうのだ。

 あとはもう、驚愕するほかなかった。
 この年頃は、ある意味最も性を拒絶する。未知なもの、強制的に始まる成熟への恐怖が、生理的嫌悪感を掻き立てるからだ。まして男子との接触などもってのほか。精神的に未熟な男子を軽蔑し、刻々と膨らむ胸や尻を隠そうと遠ざけるのが常だ。
 それが、これだ。
 あろうことか、あろうことか自らその股ぐらに教師を押し付ける。理解しがたい行動。いくら本格的な自意識の発達はこれからとはいえ、これは、どういう……??
 いや、答えなど明白だった。
 私など、男とも、いや、大人とも思っていないのだ。そして、唯でさえ目の上のたんこぶな教師という身分。それを好きにいたぶって良いとなれば、羞恥心など木の葉より軽い。理解できないのは、そんな立場に立ったことがないから。少女だけが、女性だけが知りうる優越感なのだ。

 周囲にシャッター音が鳴り響く。スマホだろう。私を前に、校則違反を隠そうともしない。
 涙が滲んできた。
 吐息と、涙、西沢の汗と、そしておそらく少しの小水の雫で、徐々にショーツが湿り重くなっていく。息が苦しい。幼女の股間で窒息する。私は、私は抵抗も許されないで、女子児童の股に蒸し殺されるのか……?!
「はあ、なんか先生、キモい」
 そっけない声が、やっと私を拘束から解く。
 一瞬の浮遊感のあとは、西沢の足元に崩れ落ちるだけ。その足に乗ると、足蹴にされてそこから蹴落とされた。
 倒れた私の視界には、女子小学生の上履きが横倒しに並んでいる。くたびれ、少し黒ずんだ上履きが、妙に生々しかった。
「お前たち、こんなことして、許されると……」
 鉛のように体が重いものの、いつまでも生徒を前にひれ伏す訳にもいかない。よろよろと立ち上がり、恨み言を吐くばかりだ。
「謝りなさいよ」
「はぁ?」
「自分が悪いことして謝らないわけ? それでも先生?」
「お前ッ」
 怒鳴り付けようとした私を、西沢が蹴倒す。上履きでグリグリと私を踏みつける。
「謝らなきゃいけないって、先生そんなことも知らないんだァ? あははっ、見てこれ、虫みたい」
 そして私の上にしゃがみこむ。ニヤニヤと笑いながら、私の首根っこを掴んで顔の前まで持ち上げた。
「ほら、センセ、ごめんなさい、は?」
「なんでそんなこと……」
「ふーん」
 そういうと、私をしゃがんだ膝の上に押さえつける。そして私のパンツをずりおろして尻を露出させると、
「悪い子にはお仕置き、しなきゃ、ねっ!」
 思いっきり平手を振り下ろしたのだ。
「ィぎゃあっ!?」
 あまりの痛みに目から星が飛び出る。
「こんなちっちゃな女の子に叩かれて、痛いわけないでしょ? ね、ごめんなさいは?」
「ぎゃっ!!」
 バチンッと鈍い音が響く。それをかき消す、巨大な幼女たちのクスクス笑い。
 細い太ももにしがみつき、私は物も言えず痛みを堪えた。これほど痛がれば、さしもの西沢もやめてくれるはずだ。
 そう思った矢先。
「口も聞けないの?」
 鋭い音が教室を切りつける。
「もっとお仕置きが必要? ……それとも先生、ドM?」
 西沢が再び手を振り上げたとき、
「……ご、ごめん、ごめんなさい……」
「んーん? よく聞こえないなぁ♪」
 尻に痛みが迸る。まるで鉄板で殴られたような痛みに、口から悲鳴が押し出され、私はうわごとのように叫んだ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! もうしません! 許してください!!」
「あはっ! おっそーい♪」
 何度も響き渡る鋭い音。そこには衆人環視の中躾を受ける、成人男性の姿があった。下半身を露出させられ、女子小学生に尻を叩かれ続ける。そして嘲笑に包まれながら、真っ赤にした顔を涙ぐませ、その太ももに埋めるしかないのだ。

 これが、私の日常だった。

§
 夏休みが惨めさから私を救ってくれるとの希望は裏切られた。
 無論、多忙な教師職、はなから余暇など期待してはいない。
 とはいえ度重なる講習はその移動でさえ私を参らせ、資料をめくれず、ペンを扱えず、プロジェクターは前に座る巨大な背中に阻まれ見えやしない。無数の女性の中に、一人放り込まれる不安と劣等感が私を襲い、なぜここに小動物がという女性の視線に、私は晒され続けた。
 矮躯で、なぜ教師職なるハードな仕事に就いたのか、つくづく自分の蛮勇を笑わずにはいられない。
 が、最大の問題はそれではなかった。
 なお体が縮み始めたのだ。
 これ以上、これ以上縮むのか?! もう“成長“は終わったはずじゃないのか?! 
 人まばらな職員室で、私は呆然と同僚の前に立ち尽くすほかなかった。
 いや、同僚とすら言えない。
 彼女らはとっくに私を同僚とは思っていなかった。
 とすれば、その態度も人間に対するそれではない。

「小山さーん、ちょっといいですか?」
「あ、山下先生……。お疲れさまです。何でしょうか……?」
 巨人に呼び止められて、臆病な私はおずおずと返答するほかない。
 私は箱を与えられていた。そうでなければ踏み潰されるからだ。その箱の中で束の間の休息に浸っていたのだが、従うほかない。
 が、箱から出る前に山下先生の方がやってきた。
 ガバッと天井が開き、ハイヒールが降ってくる。
(踏まれる!)
 慌てて頭を守りビクビク震える私を、先生は笑った。
「何してるんですか。ちょっと疲れちゃって。……揉んでくれます?」
 嫌とは言わないわよね。
 顔にそう書いてあった。

 そう、もう押し付ける仕事もないのだ。雑務にすらあずかれない。ただの雑用と娯楽、憂さ晴らしに供せられることだけが、彼女らの私に求めるものだった。

 一瞬頭上を覆ったヒールの靴底は、私の前の空気を踏み潰し風を巻き上げた。唯一私の憩える場所に、突如女性の足が鎮座する。サンダルのようにつま先が覗いていて、足首に紐が巻きついている。美しい足の甲と足先が色っぽく肌を輝きを放ち、幼女の足ばかり味合わされる私には、一段とフェロモンを感じさせた。
 窮屈そうに美女は体を屈めると、紐から足を解き放つ。
 ゴロリとヒールが横に転がり、中からほんのり汗に湿った素足が現れた。部屋にムッと香りが立ち込める。

 断っておくが彼女は同僚だ。本来は。その上、後輩のはずだった。しかし、その美脚は壁をやすやす乗り越え私の領域を侵す。ひたすら当惑する私を、彼女は優越感たっぷりに見下ろしている。この、圧倒的な肉体的社会的格差を前に、それでも彼女と同格と言う余地は、全くない。
「さ、ぐっと押しちゃってください。こっちゃって大変なんです。あ、セクハラとか気にしなくて大丈夫ですよ?」
 自身が逆セクハラをしておきながらあっけらかんと言ってのける。そして私の前に素足を立てると、扇のように指を広げた。馬鹿にするように指を曲げてみせる。
「わ、わかりました……。では失礼して……」
 私は跪いて素足に向き合った。以外に起伏ある足裏が、視界を占領してしまう。生徒たちと比べ成熟した足は、大きく、長く、輪郭美も艶っぽい。土踏まずのくびれ、母指球のふっくらした丸み。小さな女体を思わせた。
 ……いや、何を考えているんだ。同僚に足を揉まされるんだぞ。それがこんな、魅入られたような……。

 しかし私は止められなかった。
 震える手でその足指を掴むと、ぎゅっと握りしめる。桃のような大きさのそれは掌から余り、肉感を溢れさせた。ヒールに押し付けられてしっとりした表面が、手に吸い付く。指紋も、ペディキュアの塗られた爪も、一挙に掌に感触を染み込ませた。
 その弾力は、容易には私の手を受け入れなかった。みっちり詰まった肉など、おいそれと揉めるものではなかったのだ。両手で掴み、グリグリと親指を押し付ける。こうしなければ、マッサージにもならないのだ。

 あとは、虚心坦懐に後輩の足に尽くすだけだった。
 足指を思いっきり広げたり曲げたりする。足裏のツボを肘で押す。そして時折主人を見上げれば、その軽蔑混じりの視線に出会い慌てて視線を落とすのだった。膝を組み、私の上に足をゆらゆら揺らす。彼女は、その嗜虐を楽しんでいると見えた。私の胴より太い脹脛で私を覆い、足裏を揉ませ、その立場の違いを思い知らせる。前より縮んだ私に、更なる主従関係を叩き込むのだ。
 手に汗がまとわりつく。体熱で蒸し殺されそうだ。奴隷のように後輩の足を揉まさせ、見下ろされ。彼女の頬は少し笑っていた。体格差を思い知らせる愉悦を知ったのだ。

「ちゃんと脹脛もやってくださいね?」
 傲岸と山下先生は言い放つ。
 そしてやおら体を震わせた。
 他の先生が入ってきたためだ。
「こっちで、どうぞ、ね?」
 私を摘み上げると、自分の机の下に放り込む。流石に、先輩に足を揉ませているのを見られるのは、不穏当だと判断したのだろう。
 しかし私にとって、事態はより惨めなものとなった。
 もはや彼女の脚に私は幽閉されていた。巨人用の机に閉じ込められ、コソコソとその中でマッサージを強要させられる。そのどこか淫猥な奉仕を、しかも人目を忍んでさせられるのだ。
 呆然と美脚を見上げた。跪く私に膝は遠く、見てさえもらえない。やれと言わんばかりに足の前に座らされ、一人後輩に仕え続ける。
(なんでこんなことをしなきゃいけないんだろう……)
 私はこうべを垂れ、無言の脚に腕を伸ばした。強靭な女性の脚に抱きつき、なんとか凝りをほぐさねば。もはや膝の高さは私の身長を超えている。そんな巨大な脚に、私は奉仕しなければならなかった。
 蝉が鳴いている。窓外のこもった音が、女性の香り立ち込める机の下に漏れ伝わる。そんな中、私は一人パンパンに張った脹脛に手をめり込ませ、汗だくだった。あれほど努力して、マッサージ係。そう思うと、へなへなとその脚にもたれかからざるを得ない。女体を抱いたようなしっかりした手応えが、腕の中に広がる。そして生足に抱きつきながら、私はすこし涙ぐんでしまった。

§
 脅威は同僚だけではなかった。
 学校にはプールがある。そして生徒たちがやってくるならば、何が起こるかなど想像に難くない。

 閑散とした廊下を歩いていた時、不意に背後で地面の震えた。
「センセ、おはよ!」
 見上げれば、水着を引っさげ四人の少女が私に立ちはだかっていた。青白い小人の前に、八本もの健康的に焼けた脚が林立している。
 その、あまりの巨大さに言葉を失った。
 ああ、成長期の少女たちは竹の子のようにすくすく育ち、成熟し、縮み行く私を引き離して行く。ずっとその姿を見てきたからこそ感じる絶望だった。樹々に見えた彼女らが、今では7メートルを超え電柱に比肩する巨人なのだ。
「おはよう……。プールかな? 楽しんでおいで」
 圧倒されながら言葉をこぼす。それほどまでに彼女らの存在感は圧倒的だった。一人でさえ巨大な女子小学生が、目前に四人も。気圧されないわけがなかった。
 目前の滝口は、タンクトップにデニムスカートと、少しませた格好をしていた。女子児童用のタンクトップは生地が薄く、小麦色に日焼けした肩がのぞいている。発育良く膨らんだ胸の向こうからは、首を折って真下を見下ろす小さな顔が、ニヤつきながらこちらに視線をこぼしていた。ミディアムショートの髪を垂らし、クリクリした瞳で私を笑っている。悪戯な少女の微笑み。
 横並びの西沢なども同様で、ティーシャツやワンピースを纏った幼女たちは、私を膝下に収め巨躯を誇っている。女神モイラの姉妹に囲まれたような感覚だ。足が浮くような焦燥感を覚え、足早に立ち去ろうとする。

 が、目前に立ちふさがったのは西沢だった。
「先生もおいでよ」
 膝を折ってしゃがみこみ、私を見下ろしていた。目と鼻の先に脛が現れ、押しつぶされた脹脛や太ももが横に広がる。慌てて一歩引けば、ようやく膝の奥からその顔が見え、クスクス笑って私を見据えている。
「ビート板とか出して?」
「それにほら、今暇でしょ?」
 左右にも谷や樋笠が座り込む。巨大な幼女に完全に囲まれてしまった。
 ポンと西沢が私の頭を撫でる。払いのけようとするが、クスクス笑いを絶やさずに、彼女は私の頭を撫で続けた。まるで犬にするような仕草だ。抗い得ないのを悟ると、じっと俯く他ない。私の豆粒のような靴と、車のように鎮座する八つの上履き。これが、男と女の絶対的体格差なのだ。

「あ、沢田先生」
「こんにちは。プール?」
 ズシリと音がし、成人女性の声。
「さ、沢田先生! この子たちが遊べって聞かなくて。すみません今戻りますから」
「いいじゃないですか」
「え?」
「資料はまとめておきますから、滝口さん達を見ていてあげてください。ね?」
 呆然とその姿を見れば、フフッと笑う女王の笑みがあるばかりだ。見捨てられた。私を弄ぼうとする点において、この五人の巨人達は同じなのだ。
 そして、左右から腕が伸び、私の二の腕をしっかり掴んだ。左右の二人が中腰になり、私を離すまいと捕まえたのだ。二人が立ち上がれば、いとも簡単に私の体を持ち上げ、ぶらぶらと振ってみせる。
「じゃ行ってきまーす!」
「はいはい、気をつけてね」
 五つのスカートが目の前で揺れ、頭上で私抜きの会話が飛び交う。その顔を見ることすら叶わず、まるでブランコに乗ったように私は揺れるだけ。
 少女達がドシドシと歩き始める。私は二人の腕にぶら下げられながら、足と地面の距離が怖くて仕方ない。そんな私に、どう料理してやろうかという視線が突き刺さる。
 たらりと、頰に汗が流れた。

§
「あ、滝口たちもプール?」
「そうそう」
「今誰もいないよ」
「ラッキー」
 私たちが脱衣室に入ったとき、そこには三人の少女が着替えをしていた。スクール水着を半分抜いで、裸の上半身を晒していたのだ。
「あ、先生もいるのね」
 少しも気にそぶりを見せず、彼女は水着から足を抜いていく。目前で飛び散る少女の雫。長い脚が鼻先をかすめ、頭上を越えていく。
 私の前にそびえる裸の小学生。
「……」
 そしてジッと私を見下ろすと、
「ぎゃっ?!」 
 脱いだスク水を絞って、沁み込んだ水を浴びせかけたのだ。バケツ一杯もの水が降りかかり、塩素と汗、豊穣な少女の香りが私を襲う。
「あっは! 私も私も!」
「じゃあ一緒に……えいっ!」
 更に3人もの少女が、水着を絞って私を汚す。ゲホゲホむせる私に、散々着倒したスク水の分泌物を浴びせかけるのだ。たまらず私は床に叩きつけられた。しかし容赦なく幼女らは水着の抽出液で小人を溺れさせ、愉快そうに笑い声を弾けさせた。
「はいどーぞっ!」
 そして、広げたそれらを私に投げつける。ベチャッと音を立てて、虫をスク水で潰したのだ。
 それは恐ろしくじっとりと重たい怪物だった。マットな生地は濡れて色を濃くし、白い布地にはでかでかと「6-3 さかき」と書かれている。他の水着は裏返ってベージュの裏地をのぞかせ、私を覆い尽くしている。女子児童の肌に密着していたそれは体温を残し、否応無く私のシャツを温めた。彼女らの水が染み込んだシャツはその香りに染まり、もう取れそうにはない。

 なんとか這い出す。しめて7人の幼女の嘲笑が、私の肌を震わせていた。

§
「先生って蝉だったの〜?」
「ゆう、蝉に失礼」
「あははっ、ごめんごめん」
 プールに響く少女の歓声。胴を紺の水着で包んだ少女が、プールの中ではしゃぎ回る。
 私をその胸にしがみつかせて。
「先生、女の子の胸にくっついてて恥ずかしくないの? ていうかいいと思ってるの? あはっ、声も聞こえてないや」
 水面から伸びて、そびえ立つ幼女の体。その肩紐に捕まって、私は溺れまいと怯えていた。
 着衣のままで、こんな深すぎるプールに入れば、溺死するに決まっている。必死に幼女の水着にしがみつく他ない。
 とはいえ、その表面はツルツルとしていて、発達し始めた胸の起伏は存外に大きい。気を抜けばすぐに私はプールの底に沈んでしまうだろう。
 半狂乱で胸にしがみつく私を、ニヤニヤと彼女は見下ろし、時折私の頭を押さえ付けたりする。
「きゃははっ、気持ち悪い♪ 滝ちゃんの胸がそんなに好きなのね。ねえ見てよ、こんなのが先生でいいと思う? ほーんと、虫みたい。えいっ♪」
 大きく腕を広げた樋笠が抱きついてくる。
 ドボンっと水中に倒れこむ二人。
 二つの紺の生地に挟まれ、私は海の中へと引きずりこまれる。四つの山でがっちり挟まれた私は、その熱い肌にすがり溺死の恐怖に叫ぶしかない。
 幼女らの圧倒的な力を感じた。その巨大さを、重みを、頼もしさを感じた。そして、じゃれつくだけで彼女らにすり潰されてしまう己の無力さも。

「ッぷはっ!!」
「ふぅ、いきなり抱きつかれちゃびっくりしちゃうよ」
「二人とも、先生沈んでるよ? ほら、ゆうちゃんひろったげて」
「りょーかーい」
 プールサイドの一人に促され、大波を立てて西沢が寄ってきた。そして私は、その手に掬い上げられる。もちろん私は誰が誰だかわかるはずない。ただ目の前に、「6-4 にしざわ」と書かれた文字を見つけただけだ。真上にある顔は、陽光で輝きまともに見れず、持ち上げられた安堵に涙がにじむばかりだった。
「あ、ちょっとこいつ見といて?」
「えー? まあいいけど……」
 西沢が二人に呼びかけられ、私をプールサイドの娘へ放り投げる。
 大きな手から手から宙を描いて水面に叩きつけられる私。そして、目前に悠然と腰掛ける少女を見つけると、喚くように懇願した。
「だ、出してくれ……!」
「え、それが目上の人にものを頼む態度?」
「……お、お願いします、出してください! お願いですから!!」
「やーだよっ♪」
 そしてケラケラ笑いながら両足でジャバジャバと水面を掻き乱す。悲鳴をあげる私が面白くてしかたないのだ。溺れそうになれば素足に私を乗せて宙に蹴り飛ばし、着水すれば両足で私を翻弄する。
 左右の水面に叩きつけられる巨大な素足。それの立てる水柱は数メートルに及び、作り出す乱流に揉まれて私はどちらが上か下かわからない。そしてゆらゆらと揺さぶられながら彼女の脛にぶつかると、最後の力を振り絞ってそこに抱きつく。
「うわっ、キモっ!」
 女児は嫌悪感をむき出しにして、私を振り落とそうとした。私の体より太いその脚に、けれど私はしがみついて離れない。日に焼けたクリーム色の素肌に張り付き、全身で命乞いをしていた。
 そして私が離れないと見ると、彼女はもう片足で私を剥がそうとする。
 頭上から足裏が現れ、グイグイと私を引き剥がさんとするのだ。
 ついに脚から手が離れると、私は闇雲に捕まるものを探しもがいた
「ちょっと、爪先にしがみつかないでよ!」
 足にすがりついた私を叱りつける。そして力任せに、私を足同士で挟み付けた。
「ッぐあっ!?」
 左右から飛んできた足裏に、私は思いっきり抱きつかれた。イラついた彼女はグリグリと私をこねくり回し、挟み潰さんばかりに私を罰する。
「死んじゃえばいいのに、このゴキブリ!!」
 汚ならしいものを触るように、足裏に張り付いた私を剥がすと、ポイッとプールサイドに投げ捨てる。
 そして鼻を鳴らすと、彼女は水しぶきを上げてプールに飛び込み、友人の元へ泳いでいった。

しばらく、私激しくむせながら転がっていた。うるさいほどの蝉の声が降り注ぎ、水音と歓声が淡く響く。今生きているという僥倖を抱えて呆然としながら、何を言うことも出来ずにいた。
「……ん?」
 不意に影がさし、パラパラと水滴が降ってくる。
 見上げれば、西沢がしゃがんで私を見下ろしていた。クスクス笑いながらつま先で私を突き、水着の端々からは彼女の水着を抽出したエキスが、私を穿っている。
 あまり弱っているところを見せれば、とって食われないとも限らない。私はよろよろと立ち上がり、後ずさりながら距離を取ろうとした。
「何してるの?」
 そんな私の行く手を阻むように、残りの三人が駆け寄ってくる。
 そして、ぐるりと私を取り囲んだ。
「あはっ、まだ生きてたんだこれ」
「あんだけじゃ死なないでしょ」
 幼女四人が、私を囲んでしゃがみこむ。おっ広げられたスク水の股間が、私の顔の高さで四方を囲む。私は完全に彼女らの陰に隠され、泳ぎ疲れた四人の吐息に包まれていた。
「ねね、前言ってたあれ、やっちゃう?」
「えー、本気ィ?」
「だって拉致れるのなんてもうないかもよ?」
「やっちゃおうよユウ〜」
 何を言っているのかは定かでない。が、幼女の囁き声は私を震えさせるには十分だった。幼女の発散する熱がじんわりとこもって息苦しい。蝉の音に頭を占領され、呆けた頭には、ドームのように私を覆う四人の体が恐ろしくってたまらない。その生脚の門をくぐり抜け、今すぐにでも飛び出したかった。しかしそうなれば、私を捕まえようとその臀部は私を踏み潰すだろう。完全に詰んでいた。

 そしてニマっと笑う四人。
 そしてその手を腿の付け根に持ってくると、水着に指を引っ掛けた。
 滝口たちが、グイッと股のクロッチをずらす。まくれたゴム生地の奥から、ベージュの内布が、そして股間の肌色が現れた。
 未熟な縦スジが、私を真正面から覗き込む。
「こら、か、隠しなさ……」
 そんな私の声は、少女の力む吐息にかき消された。キュッと眉を寄せフルフルと肩を揺らすと、湿った吐息を一つ零す。
 そして四人の女子の、放尿が始まったのだ。

 はじめ隠部の真下から零れた雫は、すぐさま勢いに任せ前方へ噴き出した。それはまさに鉄砲水。もはや躊躇うことなく滝口たちは私に尿をぶちまけたのだ。
「やめ、わぁあっ!!?」
 広げられた割れ目が四つ、私をぐるりと囲んで排泄を始める。
 ピシャッと足元に湯が跳ねたと思うと、次の瞬間には脚を、腹を、背を胸を顔を少女の奔流に殴りつけられていた。四方八方から噴射される聖水に襲われるのだ。私など、しゃがんだ彼女らの股にさえ届くかどうかの背丈。そんな小人にも、幼女の放尿は容赦なかった。激流に私はたまらず地面へ叩きつけられた。それでも女神たちの排尿は止まらない。
「たくさん出ちゃうね、ッ」
「でも汗掻いたせいでちょっと濃いよ?」
「やめてよ恥ずかしい……」
 轟く水音に混じり、囁く子供達の細い声。そこに少しも私を慮る気配はない。私は八つの幼い素足に囲まれ、金色の水の中に溺れていた。上空ではスク水から零れた子供のワレメが四つ、私を嘲るように見下ろしている。さらにその上空では、もはや私など一顧だにせず話し合う女児の姿があった。
 真下から見上げる大パノラマが、金の湯に染まっていく。茹るような少女の体液に沈められ、ダムの放水のごとき無限の放尿、私はもはや地面にねじ伏せられて身じろぎさえできない。

 豪雨のような音が止むまでに、一体どれほど経ったことか。
 泉を水滴が打つ中、ぐったりその中に転がる私。
 それを一斉に嘲る、黄色い笑い声が爆発した。


 §
「「先生免職おめでとー!」」
 夏休み明けの教室に入ったとき、そんな声に出迎えられた。

 夏の総会で、私は教師の座から蹴落とされた。男の教師はいらない。いて良いはずがない。義憤にかられた保護者と教師の、満場一致の決定だった。

「ほら、もう先生じゃないんでしょ? ならさ、何しに来たわけェ?」
 にやにや笑いながら、西沢が私の前に膝をつく。
「もしかして、私たちのペットにでもなりに来たのかな?」
 キャハハハッと背後で笑い声が上がる。私は顔を赤くして俯くばかりだ。
 最後に報告をしなければならない。そんな義務感から教室のドアを開けたが、それは間違いだったのだ。
「先生が頼むんなら、飼ってあげても良いよ?」
 そうして微笑むと、馬鹿にしているのか余裕の現れなのか、大きく私に腕を開いて見せる西沢。
「ほかに生きる道もないんでしょ? 私たちのペットになりなよ。ね?」
 ニコリと笑いかける。
 その笑みを見たとき、私は何か、大事なものを取り落としたのだ。

 もう、疲れた。
 そう思ってしまった。
 私は疲れたのだ。
 そもそも何に抗っていたのか、自分でももうわからなくない。妙な反抗心のために生徒も自分もかき乱してしまうなら、それは罪だ。そして今私の前には、開かれた腕がある。
 これでいいじゃないか。
「おいで?」
 幼女の微笑みに、私はもう吸い込まれていくだけだった。
「あはっ! やーっと素直になったー!」
 そこには、生徒の腰にすがりつき嗚咽を漏らす、私の姿があった。
 周囲から笑いが湧き上がる。けれど、腫れ上がった心には少女の温もりがべらぼうに暖かく優しく、気にはならない。どうあれ私を受け入れてくれるなら、その嘲笑さえ喜ばしい。
 女子生徒の腿に顔を埋め、私は泣きじゃくっていた。少女に頭を撫でられながら、幼く甘い香りに包まれる。大きな手が頭と背を優しく撫で、存分に甘えさせる。晴れて教師の椅子から転げ落ちた、その安堵と屈辱感、それを上回る快哉に、頭が熱く火照っていく。
 私は完全に女子小学生の飼い犬となり、未来永劫、その掌の上で生きるのだ。
 それがどんなに幸せか。想像もつかないことだった。

「ちび虫が無理するからこんなことになるのよ。ほら、ちゃんと惨めになって? ちゃんと私たちの奴隷になって? それ以外、何もできないこと分かったでしょ?」
 そしてクスリと笑みを漏らすと、赤ん坊のように私を腕に寝かせた。仰向けに見上げる彼女の体が、顔が、わずかな乳房の膨らみに遮られつつ私を包む。

「ははっ、先生だったくせにこうなるともう赤ちゃんね。女子小学生ママのおっぱい飲みまちゅか〜?」
 からかうような口ぶりで言うと、片手で服をたくし上げる。ふわりと甘い香りを舞い上げながら素肌を露わにし、恥じる様子もなくスポブラまでずり上げてしまう。
 呆然とする私を、幼気な乳房が見下ろしていた。小さなパンケーキほどのそれが、可笑しそうに揺れている。
 羞恥心のかけらも感じさせない所作で、私を持ち上げ胸の正面に顔を据える。
「先生はもうおしまい。あんたはもう私たちのペットなの。わかったらほら、赤ちゃんみたいな恥ずかしいところ全部、私達に見られちゃお?」
 抱っこしたままゆさゆさと私の体を揺する。あくまで自発的な服従を望んでいるのだ。周囲から突き刺さる女子児童の視線。当然のように見せつけられている幼女の乳房。しかし、すっかり彼女らに支配されていた私にはもう、取れる行動など一つしかなかった。
「……アハッ♡ 吸っちゃった吸っちゃった! みんな見て見て! チュッチュって吸って、かーわいー! これから私たちで、ちゃーんと世話してあげないとね」
 気づけば私は、たかだか12歳児の乳房に吸い付いていた。乳房から出るものなど当然無いし、そもそも未成熟で十分膨らみ切ってもいない。しかし、嬰児と母親以上の体格差がある私は、この扱いをとても自然に受け入れてしまっていた。幼い胸は柔らかかったし、甘い香りは私の頭に染み込んで、もうひたすら安心感だけが心を占める。

 女子児童達に私はどんな風に見えているのだろう。かつて教壇にいた男が、140センチほどしか無い幼女に抱かれて、乳房を吸っている。しかも、それになんの痛痒も感じてはいないのだ。この生き物はもはや人にあらず、となれば、自分たちのペットに他ならない。そう彼女らは認識した。
 20人弱の母親に、飼い主に、取り囲まれる。こんな姿を見られている。それが、心強かった。
「よしよし、よしよしっ!」
 赤ん坊にするように背を撫でられる。とにかく暖かい。柔らかい。優しい。慈悲深い。
 これ以上、考えるべきことなど何もありはしないのだ。


§
「キャハハハっ! ほらもっと抵抗しないと潰れちゃうぞ♪」
 楽しげな声とともに、椅子の上で女子児童が体を揺らす。その股の間には一匹の男のペット。
「アハッ、どんな気分かしら、ね、”センセ”? 元生徒のお股で潰されちゃって動けないの、怖い? 惨め? 違うよねー嬉しいんだよねー」
 スパッツに包んだお尻で私を踏み潰し、太ももの間から覗く私の顔を嘲るように見下ろす彼女。その周囲をぐるりと囲む生徒たちも、私の惨めな姿をニヤニヤ笑う。
 育ち始めた六年生の体は柔らかく、健康的な太ももはスパッツの中から私を圧迫する。左右からムニっと押し出された腿肉が私をぎちぎちに挟み込み、動けるはずがない。
 夏の暑さに蒸れた少女の下半身は、私を汗まみれにして飲み込んでいる。泣きたいけれど、私はその瞳に射すくめられて泣けもしない。
「ふふ、暑い? 暑いでしょ? なら私がお水飲ましてあげる♪」
 そしていたずらっぽくペロリと舌を出す。泡を乗せた舌の上を唾液が伝い、そして雫を結んだ。雫はトロリと垂れると、クモのように私の元へ降りてくる。
 私は口を開けざるを得ない。でなければ顔面をよだれだらけにされ、溺れないとも限らない。そしてその太ももを汚したりしたら、さらにキツイお仕置きが待っているだろう。
 幼女のよだれを口いっぱいに広げて受け止める。甘酸っぱい粘液が口に広がり、汚されたような清められたような複雑な気分が胸に広がる。見上げればその可憐な娘は優越感を溢れさせ、私の苦しそうな顔を見下ろす。
「あーあ、女の子の唾液飲んじゃった。ばっちぃの♪」

「あー! またペットいじめてるー!」
 新たにやってきた巨人が、やおら私をスパッツの牢獄から引き出す。
 そしてつよくその胸に抱いた。
「ダメじゃない弱いものイジメしちゃ」
「だってこいつ、先生だったじゃん? イヤだったら自分でイヤって言えるでしょ? ねー?」
 にこにこ笑いながら私の顔を覗き込む。気圧されて私は何も言えない。
「ほら怯えちゃってるじゃない。それにこの子のこともともと先生って思ってなかったでしょ? あーあーこんなに汚れちゃって」
 彼女が濡れたハンカチで私の顔を拭き取る。庇うように私を自分の陰に隠し、ダメっ!と友人を叱った。
「ちぇっ、つまんないのー」
 暴君が去っていくと、彼女は優しく私を抱いて自分の席に着く。
 そのTシャツはふわふわと柔らかく、かぐわしい胸の中に私は深く受け止められていた。ヨシヨシと頭を撫でられながら、元生徒の庇護欲に抱かれる。
 遊ぶためのオモチャ、愛でるためのオモチャ。それが今の私だった。
 でも、それでいい。これが私の、収まるべき場所だったのだ。
 巨大な幼女に抱かれながら、私はその体の中に包まれていた。
 そして、ちゃんとした女性教師が始めた授業を、ぼんやりと眺めるばかりだった。