勤め先から帰宅すると、くるみはいつものように駆けよって、いつものように胸に飛び込んできた。
 髪に顔を埋めてその柔らかな香りを嗅ぎながら、恍惚とわしゃわしゃ撫でくっていると
「あのねあのね、みかさま!」くるみが呼びかける。何かいいことでもあったのだろうか、くすくす笑いをこらえている。
「私ね、集会であの子に魔法を教えてもらったの」
「魔法?」
「そう。こないだ話した子。みかさまにかけてあげるね!」
 手品の得意なネコビトのことだろう。楽しみーとぱちぱち手を叩いてやる。
「じゃあ、目を閉じて?」
 いうとおりにする。ふと脚が軽くなる。くるみが膝から降りたのだろう。そうして、私の脚の間に入るとぎゅうっと抱き着いてきた。
「ふふ、元気の出る魔法かな?」
「そうだけど、まだ始まってないよぉ」
 くるみは笑いを抑え切れないまま、私のおなかにぐりぐり頭を寄せる。
「じゃあ行くよ?」
 そう言うと、ちょっとくるみの手が熱くなる。
 そのまま、徐々に手を上にあげてきた。
「…………?」
 妙だった。今では腕は私の頭を抱えている。けれど、膝の上はお留守だ。
(台にでも乗ってるのかしら?)
 こっそり目を開ける。くるみの綺麗な脚が見えた。
 膝立ちになった、彼女の脚が。
「えっ!?」
 思わず顔を上げる。正面には、どこまでも美しく可愛らしいくるみの顔がある。
「あー、目開けちゃだめなのに。でもいっか。みてて!」
そうして私をぎゅっと抱き寄せる。思わず、彼女の胸に倒れ込んだ。が、彼女の体は微塵も揺れない。
 大きさが入れ替わりつつあるのだ。
(もしかして魔法って、本当に魔法なの!?)
 血の気が引いた顔で私は思う。
 くるみがいいこいいこと私を撫でながら囁く。
「みかさま、いつも疲れて帰ってくる。それに、ネコビトになりたいって言ってた。だから私、みかさまにおまじないかけてあげるの」
 そういって愛しそうに私の頭を撫でる。もうその手は、私の頭をすっぽり包んでいた。
「ま、待って! あれは冗談で別に本気じゃ!」
「遠慮しなくてもいいんだよ?」
「ちがっ、ぅぐゅ」
 ぎゅうっと私の顔を胸に抱く。彼女のつつましい胸から顔はずりずり落ちていって、おなかへ、そして鼠径部の方へと下っていく。
「やめて! やめてくるみっ!」
 ぱっと、くるみが手を離した。しりもちをつく。もう彼女は私よりずっと大きい。その無邪気な表情には、純粋な好意だけが浮かんでいる。
「戻してよくるみ! 私別に本気でネコビトになりたいわけじゃないの。そ、それに、毎日のご飯はどうするのよ?」
 だぼだぼになった袖に難渋しながら私は叫んだ。
「大丈夫よ、みかさま。ほら!」
 ぱちっと、光がくるみの指から迸る。眩さに思わず目を覆う。目をやると、にこにこと笑う彼女の手にはイチゴが乗っていた。
「はい、あーん」
 口元にそれが当たる。なんとなく流れにのまれて、それを口に含んだ。さわやかで瑞々しい甘さが口に広がる。まるで、たった今もぎ取ったみたいに。
「心配しないで。ぜんぶ、ぜーんぶ私がしてあげるから!」
 思わずイチゴを押しのける。私は厳しい調子で叫ぶ。
「待ちなさいくるみ!」
 こんな風に声を荒げることはほとんどなかった。躾ける時に、少しだけ。その時の怯えた表情が悲しかったからだ。でも今はきょとんとしているだけだった。
「ちいさくされるなんていやよ! それにそれじゃあ、私飼われてるみたいじゃない」
「みかさまは、私のこと飼ってくれたじゃない」
「そ、それはあなたがネコビトで……」
「みかさまは私に良いことばかりしてくれた。みかさま、私のことたくさん愛してくれた。ぎゅってしてくれたし、おいしいご飯もくれた。首輪をつけるのとか、裸にしてきもちよくしてくれるのも、よくわかんないけど、人の愛しかたなんでしょ? みかさまがヤなこと私にするはずない。だから私、いままでみかさまがしてくれたこと全部返してあげるの! もしかして、エンリョしてるの? だめだよ、みかさまは自分を大事にしないと!」
「それは、ちがうの、えっと、えっと……」
 私は言葉をさがす。
 見つからない。どこにも。
 ……わたしはこの時、叫ぶべきだったのだ。それは嫌だと。はっきり言うべきだった。くるみは悪い子ではない。ちょっと善悪の判断が幼いところはあるけれど、人の嫌がることは決してしない。わたしが言えば、彼女はきっとやめてくれただろう。こんなことだって、私が言わなければやらなかった。私がちょっとでも嫌がれば何もしない。くるみがそうするのは、私がこれまでやってきたことだからだ。私を信じてる。いいのかなって思ってるけど、私のしてくれたことだから。だから、喜んでする。
 わかっていた。わかりきっていた。だから私はくるみをただそうと、その顔を仰ぎ見たのだ。
 けれど、できなかった。そこには、私に恩返しができると光り輝く顔があった。抗弁すれば、善性の塊のような笑顔は崩れてしまうだろう。それは出来なかった。私はあまりにも彼女を愛しすぎていて、
(でも、それは甘やかしているのとおなじじゃないの?)
 私は思う。だから、柔らかい重力に抗して、尚も私はくるみを止めようとした。
 だけれど。
「もう、無理しなくてもいいんだよ?」
 くるみは私を抱き上げると、私をぎゅっとその胸に押し付ける。
 その、私のあまりに好きな香りに浸されて、私はとろとろに溶けて。一瞬おもってしまったのだ。これもいっかなって。
 私が甘やかしていたのは、自分だったのだ。くるみへの愛に溺れることで、甘えていた。
「じゃあ、続けるよ?」
「……ん」
 私は縋り付くようにその胸に収まって、小さく、小さくうなずいた。
 選んでしまった。私の意志で、私は私を飼い猫にしたのだ。
(もう、後戻りはできない……)
 くるみが大きくなる。シュルシュルと、私もネコビトになる。柔らかなくるみのおなかに丸まって、その圧倒的な熱量に甘えた。
「みかさま、かわいい……!!」
 床に下ろす。私は正真正銘小人になっていた。スカートは巨大な円になって私を取り囲み、シャツは大きすぎる白衣のように私の手から垂れ、裾は床を擦っていた。ブラジャーが、汗と甘い香りを放ちつつ肩からぶら下がっている。自分の匂いに侵されくらくらする。巨人だった私の存在感が、香りとなって小人を圧倒したのだ。
 それはくるみも同じだった。その大きな体表面から照射される香りと熱が、私を包む。
 大好きなくるみの香り。媚薬のように、私を狂わす。
(もっと、もっと欲しい……!)
 私はよろよろと服を引きずりながら、彼女の脚の間に入って抱き着く。
「みかさま、もう大丈夫だよ」
 私がいるもの、と私を抱きしめる。濃いくるみの香りが、肺に、体全体にしみわたる。さきほどまで私に抱かれていたせいか、少し、自分の香りも。
(私って、こんな風に見えてたのね。こんなに大きくって、こんなに優しくって……)
 実際、それは崇高ともいうべき巨大さだった。膝立ちしているくるみの胸元に顔を埋める。そんな母性の塊に愛されるのは、もう、無上の喜びでしかない。これに少しでも資することが出来たなら、私はなんでもするだろう。それぐらい、暖かくて、柔らかかった。
 ……彼女の献身の理由がわかった気がした。私は初めて、くるみに会えた。
「私の服、貸してあげるね!」
 そんな声に残った服を剥かれると、すっかり私は全裸だ。小さくくしゃみをすると、労わるように私を抱く腕が、力強く包み込んだ。
 彼女は自分の下着を取り出すと、膝に乗せたまま私に着せていく。ちょっと苦しかったけれど、抵抗なんてできないまま一通り着せられた。私は自分の格好を見る。今まで人形用のように見えた服が、今ではぴったりだ。すんすんと鼻を寄せると、くるみの香りが服に残っていた。
「ふふ、似合ってる」そういって私を床に下ろすと、今度は私のタンスに手をかけた。
「わたしも、みかさまにならなくちゃ」
 そういって、ワンピースのチャックを開ける。
 あらわになる白い背中。そこからするすると腕が、腹が、胸が現れる。その威容。
 私の前に聳える、そのすらっとした脚を見上げる。
(これが、くるみ?)
 戸惑った。
 等身は変わらないはずなのに、大きくなっただけで大人の体にみえる。ふかふかと柔らかいだけだったはずのその肉体が、今では起伏豊かな女のカラダだ。
「みかさまの服着るの、変な感じね」
 そういって、私が着ていた服に身を包む。黒のロングスカート、白いシャツに、ふわっとブラウスを羽織っている。けれど、袖が長いのか、指先だけしか見えていない。
「む、やっぱりみかさまよりは小っちゃかったか」
 これでも、元の私よりは小さいというのだ。想像できなかった。
「なら、もうちょっと大きくなるね!」
 再びの魔法。母性の塊。光る慈愛。
 その脚は、すらっと伸びていった。その太ももは、少し柔らかくなった。幼い腕はしなやかに、慎ましい胸は豊穣に成長を遂げる。妖精は美しい娘になり、ネコビトは女神になって。
「これでもう、みかさまを守れるね」
 ふわっと膝を折って、にこにこと私の頭を撫でる。
「……うん」
 その手が、優しくって、優しくって。


「みーちゃん、ごはんにしよっか」
 くるみは私に言う。
「みーちゃん?」
「みかさまのあたらしい名前。かわいい名前にしたの! ねっみーちゃん!」
「え、私、でも、……えっ?」
「えへへ、照れない照れない」
 混乱してうまく言葉の出ない私に、くるみは慈しむように微笑みかける。
「全部全部私があげるの。名前も、体も、全部! ほら、お返事は?」
 邪気のない、輝く笑顔。
(ああ、無理だ)
「……ありがとう、くるみ」
(だって私、ずっと前からくるみのものなんだもの)
 ご褒美の笑顔が降り注ぐ。それだけで、心が浮き立つ。
「ふふ、今日は慣れないかもだから、明日からね。じゃ、ご飯にしよ! ほら、どれがいい?」
 手にはカリカリを持っていた。
「私もカリカリなの?」
「いや?」
 ちょっと困ったようにくるみが訊く。
 最初から、選択肢なんてない。
「ううん、くるみと一緒が良い」
「やった、おそろいだね!」
 そしてふわふわと頭を撫でてくれた。それだけで芯まであったかくなってしまう。
「でもごめんね、カリカリのお皿、私の分しかまだないの」
 だから、とカリカリを手に盛って私に差し出す。
 くるみの手に、山と盛られたネコビトの餌。おずおず見上げると、大丈夫だよという風にくるみは微笑みかけてくれた。
「食べて良いの?」
「もちろん!」
 ニッコリとしてくるみは言う。なんだか嬉しくなって、私はその手の上に乗り出す。
 掌の中に顔を突っ込み、ネコの餌を頬張る。口いっぱいの幸せ。特段美味しいという訳ではない。ただ、飼い主に与えられたというだけでひたすら安心する。
「おいしい?」
「おいしい!」
 思わず無邪気に言ってしまう。途端に恥ずかしくなるけど、それがなんだ。飼われてるんだ。なんだっていい。
 頬張るたびに唇が掌をなぞり、クスクスと彼女が笑う。そして平らげてしまうと、ネコのように手の上に残った粉を舐め取った。舌に残るくるみの味。
「これからは私が食べさせてあげるからね。私が餌を用意して、私がおさんぽに連れてって……、みかさまのお世話はぜんぶ私がするの! 嬉しい? 嬉しいよね。だって私も嬉しかったもん!」
 わしゃわしゃと私を撫でくる。大きな手。私の顔をすっぽり包み込んで、優しくて、柔らかくて。私はそれが嬉しくて、思わずうっとりと顔をそこに擦り付ける。
「ふふ、良い子」
 そう言って胸に私を抱く。ブラに秘められた、圧倒的な重量、包容力。
「幸せでしょ? これから、ずっと可愛がってあげるから。みかさまはもう私のものなの。誰にも傷つけさせたりなんかしないんだから!」
 そういって背中に腕を回し、深く私を胸にうずめる。私は大きな山に挟まれて、ぼうっとその言葉を聞いていた。けれど不意に切なさに思わず涙ぐんでしまう。凝り固まっていた疲れが、吹き出してしまったようだった。
「もう辛くないよ。もう無理しなくて良いの。でももし頑張りたいなら、自分と私のために頑張ってよ。だってみかさま、もうネコビトなんだもん」
 その声音があまりに優しくて、慈愛に満ちていて、涙が溢れてしまう。感情の抑制なんて効かない。私はもうネコビトなのだ。
 私はくるみの胸で泣き続けた。くるみはずっと抱いていてくれた。その胸元にはほんのささやかなシミができて、でもその頃には私は涙も出なくなり、ただぐずりながらそこに頭をうずめる。
 そして優しく背を撫でられるうち。
「……ふふ、寝ちゃった。赤ちゃんみたい」
 私は眠りについていた。


 へとへとになって私が起きたのは、もうとっぶり夜になった頃だった。
 目覚めた私を、なおもくるみは抱いてくれていた。ぐしゃぐしゃになった顔を見て、微笑みかけている。
 ねえねえ、と私はその手を取って
「……トイレ」
 そう呟いた。

 くるみのトイレの前に立たされた私は、戸惑って飼い主の顔を仰ぎ見る。
「今日からここだね!」
「え、や、やだ!」
「だってみかさま、ヒトのトイレもうつかえないでしょ? ううん、言ってくれれば手伝ってあげるよ。でも、もし私がいなかったりしたら? おもらししちゃう よ?」
 どうする? としゃがみこんで小さなネコビトを見下ろす。こんな私の気持ちを汲んで、ちゃんと選ばせてくれるんだ。
 私はモジモジと大きな膝を見上げて、その綺麗な足先を見つめたりして、そしてコクリと頷いた。
 くるみはにっこりと笑う。
「じゃあ、脱いで。脱げるよね? うん、えらいえらい!」
 そして私を砂の上に座らせる。
「……ここにするんだよね?」
「うーん、やっぱりはずかしい? じゃあ、お手本見せてあげるね?」
「え?」
 そう言った時には、くるみはスカートの裾を摘み上げていた。露わになる美しい脚。少し日に焼けていて、健康的な肌。
 少し頰を赤らめて、かつての自分のトイレに跨がる。砂の器はそのスカートに隠れてしまうけれど、私からはその形のいい桃色が小さく震えているのがわかった。
「……んっ」
 ワレメが潤みだし、そしてトパーズ色の雫が流れ出す。はじめささやかだった流れは、私の目からは大きな奔流となって足元へと落ちていった。肉体の大きさの分だけその景色は雄大で、しゃがみこんだ太ももの美しさと相待ってとても神々しかった。
 溢れてしまいそうに一瞬砂が浮く。けれどすぐに吸い込んで、静かに湯気を燻らせた。
「これで恥ずかしくないでしょ?」
 ほんのり頬を染めてくるみがいう。股を拭いて、下着を履いて、そして、私の番だった。
「落ち着かないよ……」
 くるみのおしっこを吸い込んだ砂の上に乗る。一度くるみが踏んだ所に足跡ができていて、その上にしゃがみこんだ。それだけで私の胴くらいある。大きな足跡。そこに足をつければ、立ち上るくるみの熱とおしっこの匂いにすっかり包まれてしまう。
「くるみの足跡、おっきい」
「ううん、みかさまがちっちゃいんだよ」
「そっかな」
 くるみが私を見守る。凝視する。その美しいご尊顔の前で用を足すのは、すごく恥ずかしくて、情けなくて。 でも我慢できるものではなく、
「やだ、くるみ、恥ずかしい……よっ」
 出てしまう。
 ショロショロと、股間が温くなる。圧迫されていた陰部が解放されて、じんわり痺れる。どんなに多く出したって、くるみのものには到底かなわない。なみなみ注がれたくるみのの上に浮かんで、そこに虚しく一滴加えるだけだ。
 長い長い放尿。そんなさまを、くるみに観察される。大きな瞳で、足元の私の上にかがみこんで。恐怖も、恥辱も、全部飲み込んでしまう幼い慈母の眼差し。それがじいっと私のトイレを見つめていた。
「うん、ちゃんとできたね!」
「う、うん」
「えらいえらい」
 くるみは私の頭を撫でて、紙で濡れたソコを拭ってくれる。
 そして下着を履かせてしまうと、いたずらっぽく顔を近づけ、
「お風呂にしようね」
 と、私を抱き上げる。
「いれてくれるの?」
「もちろん! だって今までみかさま、私のこと洗ってくれたもん。恩返し」
 そんなこともあったかなと思った。そのはず、でも、ちょっと信じがたく思えた。
 まあいいや。
 考えるのをやめて、すべてをくるみに委ねた。
 すっかり逞しくなった肩にもたれ、力強い首筋に頭を預ける。ふとその首筋を見れば、何かがその肌を赤くしている。
(これ、キスマークだよね……)
 それは昨日私がつけたもののはずだった。けれど、相対的にびっくりするくらい小さくなった私には、自分の唇は顔よりずっと大きくて、とても私のものとは思えない。
 くるみが立ち上がる。気圧差に頭がくらくらする。そして歩き出せば、その一歩一歩にあわせて視線も上がったり下がったり揺すられて。その度に柔いその肩へと沈み込み、胸には鎖骨を感じ、脚には母性の詰まった乳房を知る。
(私も、こんな風に見えたのかなぁ)
 しっかりとお風呂の準備をするくるみを見て、そんなことを思う。
 椅子にちょこんと座らせられる。服を脱がされる。にこにことくるみが私の服に指を走らせ、器用にボタンを外し、ワンピースを脱がせて行く。
 不思議だ、私がいつもお世話してたはずなのに、今はくるみに世話されてる。
 脱がされる。私の服を着たくるみに、くるみの服を着ている私が。
「ちょっとまってて、ね?」
「うん、ありがと」
 すっかり裸にされてしまうと、くるみの脱衣を所在無く見守ることになった。
(この人、くるみ、なんだよなぁ)
 幾分成長したとはいえ、輪郭にそれほどの違いはない。あの人形のような人影のままだ。
 でも。
 この、大きな手はなんだろう。私の頭なんて一掴みだ。それがワンピースを脱がすと、そんな手からも零れ落ちる乳房が膨らんでいて。真っ白に柔らかそうなお腹、眩い太もも。どれも、私なんて簡単に潰してしまえそうなほどの大きさだ。
 相対的に十倍もの大きさになって初めて、私はくるみの艶やかさを知った。
 そんな小人を、くるみがにこにこ見守る。
「ふふ、わたしもね、みかさまの体、きれいだなあって見てたの。大っきくて、柔らかくて、神さまみたいで。ね、わたしも、みかさまになれたのかな?」
「わっ」
 成熟した肉体が、ちっちゃなわたしを包み込む。裸の胸にたっぷりとした何かが当たる。
 昔、年上の女の人に迫られた時より恐ろしくて、ドキドキして、安らかだった。
 忘れてた。くるみだって、ネコビトの成体なのだ。
 ぎゅっと締め付けられる。
「……くるみ、ちょっと、苦しい」
「……」
「くるみ?」
「今ね」
 ぽそぽそとくるみが囁く。
「今ね、私、全然力込めてないの。ほんと、これっぽっちも。でも、みかさま動けないんだね。私のこと、かるがる抱き上げてたのに」
 そして愛おしげにぎゅうっと抱きしめると
「みかさまもこんな気持ちだったのかな。すごくかわいくて、あったかい気持ちになって、守りたくなっちゃうの」
 そして匂いを染み付かせるようにすりすりと頰を寄せ、僅かな汗を肌にこすりつける。
「守って、愛して、いっぱいにして……。どこかにいったらって思うとすごく怖いの」
 そして一言
「でももう、私だけのものなんだよね」
 そう言って私をお風呂に連れて行く。軽々と持ち上げて。まるで、宝物を抱くように。
「みかさま、ピカピカにしてあげるね」
 優しく頭を撫でて、蛇口をひねる。
 泡だてられた石鹸でふわふわにされ、腕を擦られ、背中を指すられる。
「動かなくていいよ。全部やってあげるから」
胸をふにふにと撫でられる。乳房全体を手のひらに収め、ゆっくり、壊れないように。それが切なくって、胸の先っぽがちりちり痺れて行く。
不意に、手が下へと伸びていった。
「や、やだっ」
 思わず怯えてしまう。けれど隠そうとする私の手なんてないかのように剥がされて、ワレメも、お尻の方も、その大きな手に囚われてしまうのだ。
 見た目はあまりに繊細な少女の手なのに、その指は太くて、逞しい。ワレメに指を滑り込ませる。けれど、あまりに大きくてそこは驚いてしまう。両手で指を止めようとする。けれど、なんの甲斐もない。
「ダメだよ、さっきおしっこ、したでしょ?」
 私、くるみに徹底的に、キレイにされてしまうんだ。どんなに怖くても、痛くても、絶対にかないっこない。
 そう思うと体がピリピリして、思わず声が出てしまいそうになる。体を洗われてるだけなのに。
「うん、きれいきれい」
 ワレメの中から足の裏まで、全部余すところなく撫でくられて私は解放された。
 次はくるみの番だ。
「ね、いつもみたいに、洗って?」
 そうして私に背中を向ける。
「私が?」
「うん、いや?」
「ううん、そんなことない」
 嫌なわけない。自分にできるか、不安だったのだ。
 目の前の綺麗な背筋を見てると、自分がちっぽけに思える。
 あまりに女の背中。これまでと何も変わらないのに。
 大きくなればそれは大人のものなのだ。
「ふふ、ちっちゃい子に洗ってもらうのって、不思議」
 小さな私を背に。ワクワクしてくるみは待ってる。
 洗わなきゃ。洗ってあげなきゃ。今までみたいに。
 でも、頭上に並べられたボトルに手が届かない!
「……くるみ、石鹸とって」
 私は涙目になってくるみに言った。
「そっか、ここ、届かないんだね」
 くるみが目の前のボトルを取って、私の手に石鹸を出す。ドラム缶みたいな大きなボトル。溢れそうなそれを、慌てて背中に塗る。
「ふふ、みかさまの手、ちっちゃくてもみじの葉っぱみたい」
 クスクスとくるみが笑う。なんだか悔しくって、私はぴょんぴょん跳ねてその肩を洗おうとする。届くわけないのに。
「届かなかったら無理しなくていいよ?」
 体の柔らかいくるみは、腕を回せばあっという間に肩甲骨を泡だらけにして私の仕事を奪ってしまう。私は諦めて背中の下半分を洗った。掌をその女性的な起伏が撫でる。そして、重量感あるお尻に手を伸ばし……。
 それは私の手に吸い付いて、柔らかさを誇示するように形を変えた。掌収まってしまうようなくるみのお尻。 それが今や、私の体よりも大きいのだ。
 少しずつ回り込んで、腿を洗ったり、ふくらはぎを洗ったりする。形のいい足に跪く。昔くるみにさせていたように。
「くすぐったい〜」
 足元にいる私をくるみがケラケラ笑う。ちょっとドキドキしてしまうのはどうしてだろう。
 内腿を洗う段になって、くるみが屈みこんでいるのに気づいた。重そうに揺れる二つの乳房。艶かしい肢体に泡が滴って、私の視界を圧倒してしまう。くるみしか見えない。すわってても、私の上を覆ってしまうほどの大きさだ。
「私の体、おっきいでしょ? 私もね、おっきいなぁって思ってたの。ちょっとドキドキしちゃうでしょ?」
 でね? と私に覆いかぶさり、
「こうやって無理やり抱きしめられるの、すごく好きだった。みかさま、私の体でお腹洗ってたでしょ? こうされると、みかさまのスポンジにされちゃうの!」
 大きなお腹をすり寄せる。顔が谷間に沈んで、溺れないように谷間から浮上するとくるみと目があった。からかうような、いとしむような、にやけ顔。そしてウリウリと言って私を揺すると石鹸がにちゃにちゃ音を立て、私たちの肌の間で泡立った。
 そうだ、思い出した。胸に挟まるくるみが可愛くて、何度かやったことがある。ほんの戯れで、こんな感じにからかっただけなのだけれど、
「ね、結構すごいでしょ?」
 大きな肉体に翻弄され、すべらかな肌の上を転がされて、アトラクションのようだった。クルクル目が回って、エッチな音がして、だんだん気持ちがフワフワしてくる。私のお腹が、胸が、そのお臍や胸をこすってきれいにする。頭は谷間の中、骨に額を寄せて蕩けている。同じ石鹸の中に包まれて、なんだか不思議な快感が突き抜ける。
「はいおしまい」
 突然頭からお湯をかけられて目がさめる。水圧にくるみに押し付けられ、その髪から滴る雫に打たれていた。