「ただいまー」
 間延びしたムギの声が、三人の部屋に響く。アキとスズが振り返った。二人とも、部屋着に着替えている。
 アキが駆け寄ってきた。
「やっぱちっちゃーい!」
 アキはにやにや笑いながら僕を見下ろし、跨ぎ越すように立ちふさがる。
「ふふ、ほんと、人形みたい」
 スズも同様だ。三人に囲まれる。まるでビルの合間に立っているようで、なんだかドキドキしてしまう。
「ちびすけくん、そんなちっちゃいと廻り切るの大変だったでしょ」
 大変だねえとアキがしゃがみ込む。その栗色の瞳が、ちょうど目の前だ。ツンと澄ましたような、でも悪戯っぽい顔。くりくりとした瞳が可愛らしい。
「ってあれ、ずいぶんさっぱりしてるね」
 お風呂かな? そう呟いた彼女は、目をぱちくりさせた後、ニタ―っと笑った。
「ふふ、楽しかった?」
「何のこと?」
 素知らぬふりでごまかしてみる。
「あーちびすけ、ナマイキ!」
 頬をくりくりつねられる。
「あんまりナマイキ言うと食べちゃうぞ?」
 がおーっと襲い掛かるふりを作る。
 そんなアキを窘めるように、スズがその肩の上に乗っかかった。
「もうっ、あんまりイジメないの。怖がっちゃうでしょ?」
 そう言ってしゃがむアキの上から手を伸ばし、頭を撫でてくれる。凛とした目元が、途端に柔和に曲がった。長い髪が、近所にいたお姉さんみたいだ。
 少し照れる僕を見て、スズは柔らかく笑う。
「ふふ、でもほんと、お人形さんみたい」
 そういって僕を抱き上げた。三人の顔が近くなる。良い香りがして、なんとなく気恥ずかしい。更に困ったことに、それは目の前の女性的なふくらみから漂っているのだ。一度触れれば溺れてしまいそうな柔らかさ。それが、おいでおいでと僕を囲んでいる。
 猫娘達が作る三角形の中で、僕はくらくらと眩暈がしそうだった。
「照れてる照れてる」
 楽しそうにアキが揶揄った。そして僕の上からスズに抱き着くと、キラキラとした顔でスズに言う。
「ねね、この子、私たちのペットにしようよ」
 胸を圧しつけながら、ニタニタ僕を見下ろす。こうすると僕が慌てるのを知っているのだ。僕はというともちろん、前後からゆさゆさじゃれついてくる柔らかさに全身痺れそうになりながら、身じろぎ一つできずにいた。
 スズは無自覚なのだろう、ずり落ちそうになる僕を抱え治すのだけれど、そのたびゆさっと胸がせなかを撫で上げる。
「ペット?」
 怪訝そうに聞いた。
「そ。ペット。ミカゲさまは私たちの好きにしていいって言ってたし、いいでしょ?」
 そうすれば世話もできるしさ、と付け足す。
「まー実質、すでにペットだよね」
 ムギが鷹揚に頷く。そんなことばに、スズもくすっと笑って
「そうね。じゃあいっぱいお世話しなきゃ」
 そういって互いに笑いあったのだ。
(勝手に決められた……)
 そう思った。けれど、僕の顔を覗き込んだムギに
「いいよね?」
 なんて言われると、なんとなく勢いで頷いてしまう。
 もとより拒否できる立場ではない。それに何より、自分自身ちょっと期待していたのだ。
 よく言えたね、と褒めてもらうと、それだけでふにゃふにゃと心は骨抜きになってしまう。
 もうとっくに、僕は飼いならされていた。
「きまりね。じゃ、あそびましょ?」
 スズは言うと、僕をベッドの上に座らせる。自分もトスンと足を投げ出して座った。
「へへ、よろしくね?」手を伸ばし、僕と握手する。手が柔らかな手に包まれる。
「……うん」
 その手の柔らかさに、僕は小さく答える。
「キミの足も、よろしくね」そう言うと、投げ出した僕の足に足をくっつける。
「なにしてるの?」アキが聞いた。
「比べっこ。ほら、この子、私の手にすっぽり入っちゃうの! 足も私の踵くらいしかないんだよ」
「じゃあ、私は脚ね」
 そう言ってドンッ、と背後に身を投げて、僕を脚と脚の間に捕らえる。僕の脚は彼女の膝にも届かず、スズとムギの脚が絡み合う。
「ちーびっすけ♥」
 そう言うと僕を持ち上げ、腕の中に抱き込んだ。
「ほっそーい。この子、ギュってやったら折れちゃうんじゃないの? 間違えてふんじゃったら大変ね」
 そう言って僕に頬ずりする。気に入られたようだった。
 僕は猫娘に挟まれる。
 けれど、一人忘れていた。
「私も混ぜて―」
 そんな声が聞こえると、一番おっきなムギが飛び込んできた。
「「きゃっ!」」
 さしもの二人もそれに巻き込まれて転がる。幸い僕は二人の胸に挟まれて潰されずに済んだけれど、そのせいですっかりぺしゃんこだ。
「だめじゃない、潰れちゃうよこの子」
 そうスズは言うけれど、ムギはへーきへーきとマイペースだ。
 そのまま三人は並んでゴロンと横になった。真ん中にいるスズに抱かれて、僕もおなかの上に寝かされる。
「ふふ、楽しくなりそう」
「ちびすけのペットなんて、初めてだもの」
「よく懐かせなきゃね」
 三人は仲良く寝っ転がって話し合う。立てた膝が楽し気にゆらゆら揺れた。一点の曇りもないすべすべの脚。その一つ一つが、僕と同じだけの大きさだ。乳白色と小麦色の生足が六本、僕の目の前にそびえていた。
「たくさん甘えさせて、たくさんイジメて、私たちの虜にしちゃうのよ」
「この子にもいい思い、させてあげなくちゃね」
 そう言ってふんわりスズは僕を抱き込む。
 おおっぴらな飼い殺し宣言に、僕は腕をすり抜けて逃げ出そうとして見る。けど無駄だ。
「だーめっ」
 そう言ってアキとムギが横向きになると、二人の体が壁になってすっかり僕は取り囲まれてしまう。
 目の前に、重そうに流れる胸が現れ、ちらっと褐色のおなかがのぞく。
 思わず後ずさりしてしまう。大きな大きなその体。それがこっちに倒れてきたら、今度こそぺたんこになってしまわないともかぎらない。
 そんな僕の怖れを察したのだろうか、
「怖くない怖くない」そういってムギが僕の頬を撫で、
「悪いようにはしないからさ」とアキが頭をなでると、
「二人がやりすぎたら私が守ってあげるから」とスズが僕を抱きしめ囁いた。
 三人に包まれ、僕はふにゃふにゃになる。どうして、抗うことなんてできるだろう。
 その場にくたっとなる僕を見て、三人はクスクス笑う。
「もう、こころは私たちのものみたいね」
 そのまま三人は楽し気に話しだす。
 いつもそうしているのだろうか、三人のおなかにブランケットかけて、頬を寄せ合い語り合う。
 僕はブランケットとスズのおなかの間に閉じ込められて、巨大な猫娘達の声を肌から感じていた。
 三人のぬくもりが肌に優しかった。とくんとくんと心音も聞こえてきて、僕はうつらうつらとおなかの上で丸まる。
「なんか、眠くなっちゃった……」
 アキがあくびをした。
 ムギも声がとろんとしてくる。
 そして、スズのおなかが健やかに上下しだしたとき。
 僕ら四匹は、肌を寄せ合って一緒に眠った。
 

 それからしばらくの後。
 ふと、茹った体を持ち上げて僕は目を覚ます。
 まるで熱中症だ。
「……ん。 あれ、どうしたの?」
 おなかの上の異変に気付いたのか、寝ぼけ眼でスズが囁く。
「ごめん、おこしちゃった?」
 ううん、いいの。スズは指の背で僕の頬を撫でた。どうしたの? そう尋ねる。
「ちょっと、喉乾いちゃって」
「ふふ、私たちの体温でのぼせちゃったかな?」
 実際その通りなのだけれど、寝ていてさえ翻弄されたと認めるのは、やっぱりちょっと恥ずかしい。
「大丈夫」そう言ってみたりする。
 でも、今でさえ立ち上る少女の香りの中で酩酊気味なのだ。どうして、その大きな瞳をごまかせるだろう。
 なにもかもお見通しだよ。そんな風に彼女は微笑む。
「私には、甘えていいんだよ?」
 でもちょっと困ったな、とスズは眉を寄せる。
「今動くと二人を起こしちゃうし、キミひとりだとベッドからも降りられないよね……」
 それもそうだった。仮に降りられたとしても、部屋のドアさえ開けられない。
「……ごめん」
 スズを困らせてしまったのが申し訳なくなる。
「ああもうっ、かわいいなあ」
 そういってぎゅっと僕を胸に抱く。
「遠慮しなくていいのっ。だってキミは私たちのものなんだもの。頼りきっていいんだよ?」
 私たちも好きにしちゃうからさ。そういってくすくす笑う。その度揺れる体の上で、すこしキュッとスズの服を掴んだ。
 とっても嬉しかった。そんなこと、誰も今まで言ってくれなかったのだ。
「じゃあ、私の、あげるね」
 そう言うと僕を持ち上げて、おもむろに服をたくし上げはじめる。
「な、なにしてるの!?」
「んー?」
 おもわずどぎまぎする僕をよそに、スズはその真っ白なおなかをあらわにした。
「ちょっと待っててね」
 そう言ってぷにぷにしたおなかの上に僕を乗せる。
 さらに服を手繰り寄せる。
「ま、待って!!」
「ふふ、恥ずかしがらないの」
 そういって服とブラをずり上げる。きゅっと服が左の乳房に引っかかって、その形を浮かび上がらせた。
 そして。
「よいしょっ、と」
 ぷるんと、右の乳房があらわになった。
 暗がりにぼんやりとその白い素肌が輝き、その美しい造形を惜しげなく見せつける。
 切ない曲線を描くその乳房、淡いピンクの乳頭、それが目の前で揺れていた。
 スズが手をかざすと、その掌から光が降り注ぎ、それが収まると同時にトロッとその乳頭からミルクが垂れる。
「さ、召し上がれ」
 僕は困惑気味にスズの顔を見上げる。
 僕からは、その起伏で見えないけれど、彼女からはよく見えるのだろう、優しく語りかけてくれる。
「遠慮は禁止だよ。ほら、おなか冷えちゃう」
 もしかして、イヤ? とスズが不安げに訊いた。
 ……それは、反則だ。
 僕はふらふらと這い寄っていく。
 屈みこむと、ふっくら膨らむ乳輪が、視界一杯に広がった。そして、ぷりっとした乳頭も。
 恐る恐る、その女性的な塊に手をついた。むにっと沈み込み、けれど確かな弾力。両手いっぱいでも余る大きな丸みに、恐る恐る抱き着く。
 その曲線に沿って一筋、垂れるミルクに舌を這わした。
 ぴくっと、彼女の巨躯が震える。
「……んっ。ふふ、おいしい?」
 胸に食いつく僕の背中を、彼女は慈しみ深くさする。
 僕は乳房を舐め上げる。
 さらさらと舌を撫でる産毛。大きくて力強い乳首。
 そして、ミルクが口いっぱいに広がる。どうしようもない、甘露のような母乳。
 一口。飲み込み、そして魅せられたようにむしゃぶりつく僕をみて、彼女はくすくす笑った。
「喜んでくれてうれしいな」
 ぎゅっと僕を乳房に圧しつける。
「んぐっ!」
 口いっぱいに乳首を咥えさせられる。そのままじゅっと吸い込めば、体いっぱいにスズが染み渡った。
 おいしかった。本当においしかった。こればかり飲んでたらバカになるんじゃないかってくらい、甘くて、優しくて、暖かかったのだ。
 思わず震える。
(やばい、ダメになっちゃう……!!)
 アキとムギの健やかな寝息の間で、ちゅっちゅっと母乳を舐める音が響く。スズに愛し気に抱かれて、
「ホント、赤ちゃんみたい」
 そう言って僕を撫でる。けど僕はおっぱいに夢中だ。乳輪の周りを舐めて、垂れる雫を啜って、乳頭を咥えてみたり、抱き着いてみたり。顔全体をびしゃびしゃにしながら、徐々にスズにおぼれていく。
「さ、おねんねしよっか」
 そう言って僕の上から服をかぶせる。スズの香りが濃くなって、真っ暗の中で目の前の丸みだけがよりどころになる。しがみつく。乳頭に頭を摺り寄せて、ぐしゃぐしゃになって。そういっておなか一杯になると、胎児のように丸まり、双丘の間に収まった。
「もういいの? 遠慮しなくていいんだよ?」
 優しく語りかけながら彼女が言う。
 ふるふると頭を振ると、安心したのだろう、良かったと呟いて、ふーっと一息、大きく息を吐いた。
 波に揺られるようにふわふわと体が上下する。
 血流の音、心臓の音。
 それらが直接体に響いて、トロトロと意識が溶けていく。
 服の向こう、両脇からは大きな猫娘の、健やかな吐息が漏れ伝わって、真っ暗な中、僕はスズの胸元に溶けていく。
 これから、よろしくね。
 そういって、もう一度ぎゅっと胸を抱き寄せると。
 スズと僕は、また安らかな眠りについた。