潮目が変わったのはいつだったか。
 押し流されて、呑み込まれて。
 気づいた時には、もう後戻りも出来ない荒波の中へと連れ去られていた。
 結局私は荒潮のオモチャ、それも、手の上で踊らせるタイプのオモチャにされていたのだ。
 涙を禁じ得ないのは、それが文字通りでしかないという情けなさ。
 手のひらに乗り、足で遊ばれ。茶ストで茶髪で制服で、いやというほどその小ささを教えられては私の抵抗さえ楽しまれる始末だった。

 けれど、体格差は絶対。
 妖艶なれどあの華奢な小娘に。
 縮められ踏まれ犯され忘れられ。
 結局今日も、縮められては手も足も出ず。
 ”あらあら♪”と自室へ連れ去られるのが私の日々だった。


 今日も、それは変わらない。
「お前、おやつ感覚で人を縮めるなっ!!」
 言ってやる、言ってやると思って叫んだ声は震えていた。
 だって目の前には、むっちりとした茶ストおみ脚の、ふくらはぎ。
 4倍サイズとなった荒潮の体が、そびえたっていたのだから。
「ダメじゃない大きな声出しちゃ。誰か来たら大変よ~?」
「おっ、お前がこんなところに連れ込むからだ……!」
「ふふっ、ピーピー言って可愛いんだから♪ 尊敬してる提督のこ~んな姿見たら朝潮ちゃん、どう思うかしらね~?」
「こいつ……!」
 だが、そこに聞こえてきたのは少女の少し煩わし気な寝息。
「っ……んぅ………………」
 それは、部屋にいた先客の声だった。それも私を敬してやまない娘、朝潮その人が、絶賛お昼寝中で横たわっていたのだ。普段のキリッとした様も今は影を潜め、布団の上で愛らしくも丸まっている。あの私立の制服のような服を着た華奢で巨大なロリボディが、背後に鎮座している存在感と言ったら。これ以上この娘に無様な姿は見られたくない。そう思うと、声も潜んでしまう。

「戻してくれ! この通りだ、頼むから……!」
 部下の裾に縋りつき、嘆願する上官の情けなさたるや。超然と私を見下ろす彼女を見上げていると、自分が誰だか解らなくなってくる。やや膨らんだ胸元、その向こうの妖艶な小娘の顔。それに子供のように訴えている内、自分が荒潮の子供のようにさえ思えてくるのだ。
「欲しいの? お・く・す・り♪」
「……欲しい、お願いだから戻してくれ!」
「お薬なら、もしかしたら朝潮ちゃんが持ってるかもしれないわね~」
「朝潮……?」
 目を転じれば、健やかに眠る幼女の姿。荒潮と打って変わって真面目で上官思いなその少女に、とはいえ、目だったところはない。
「何を言って……」
「うふふっ♡ 私、朝潮ちゃんを寝かすときうーっかりどこかに落としちゃったみたいなの」
「……寝てる朝潮から探せってか」
「どうかしら~~♪」
 面白そうとあれば姉でさえオモチャにする、その自由さは見習うべきかもしれない。とはいえ今、軽やかなその悪戯で窮地に追い込まれているのは私だ。予測不能なその行動はただただ脅威で、かつ厄介だった。

「お前、そんないかがわしいこと……」
「あら、浜風ちゃんにおねだりしたの、誰だったかしら~。それに、朝潮ちゃんに踏まれるの、だーい好きだったわよねぇ?」
「そ、そんな……」
 言葉を無くす小男一匹を見て、荒潮はさらに愉悦の度を大きくしたらしい。一瞬ゾクッと身を震わせ、続くにっこりとした笑みに嗜虐的な色を添える。真下から見上げれば焦燥感はいや増した。駆逐艦娘相手に、思わず身の危険を感じるほどだ。

 その恐怖を見逃さない荒潮ではない。
「あらあら、そんな顔していいのかしらぁ?」
 そして唐突に私を蹴り倒すと。
「そんなに悦ばせられたら私、ちょ~っと止まらなくなっちゃうかもしれないわよ~?」
 両手をついて私を体の下に閉じ込めるのだ。腕に太もも、胸にスカート。自身の巨体という檻の中、男一人を完全に掌握する。ふわりと広がる紅茶色の髪がベールとなって、ふわふわと艶な香りも立ち込めた。
「お、おい……」
 6m娘に押し倒される、その迫力たるや他にない。クスクス笑うその顔だって、立って手を伸ばしても届かないのだ。
 襲われる──!
 恐慌状態に陥った私に、いよいよ涙さえこみ上げてきた、

 その時。
「ま、今日は朝潮ちゃんと遊ぶことね~」
 パッと荒潮は身を起こしてしまった。
「へ……?」
「早く見つけないともっと縮んじゃうから、頑張ってちょうだい♪」
「!? そんなこと聞いてないぞ!」
「だって言ってないもの♪」
 さっきまでの気迫が嘘のようにひらひらと手を振って、荒潮は部屋を後にする。
「お、おいっ!」
 慌てて後を追いかけるも、目と鼻の先でドアは閉まってしまった。
 それから、カチンと鍵のかかる音。
 あろうことかあの娘、鍵まで閉めやがったらしい。ドアノブにはジャンプして届いても、鍵を回すとなると話は別。助けを呼ぶことも出来ず、後に残されたのは無力な矮躯と。
 背後で眠る、愛らしき美幼女だけ。

「……朝潮、ごめん……」
 寝ている体を触るなど、朝潮にはしたくない。罪悪感に身が締め付けられる思いだが、背に腹は変えられなかった。
 服の上から、ペタペタ触って中に何も無いか探ってみる。流石に気がひけるので、袖口から腕へ、優しく触れていった。
 子供用のシャツの薄い肌触り、その奥に幼女の腕の細さを感じる。折れてしまいそうな未熟な骨に、薄い筋肉、柔らかな輪郭、そのどれもが幼さを感じさせる。
 そこに、特段肌以外の何かは見当たらない。
「そりゃ、そうだよなぁ」
 あの荒潮が、そんな簡単に見つけさせてくれるはずもない。嬉しくない的中に、少し肩を落とす。
 けれど一応、腕の下も調べておこうか。
 そう思い、その手首を掴んで。
「……くっ、重い……!」
 持ち上がらなかった。
 すっかり脱力した朝潮の腕、それは60キロほどもあり、肘から先は持ち上げられても腕全体は容易には上がらない。さきほど感じた弱々しさ、ロリの細腕、それが縫い付けられたみたいに動かないのだ。呻きながら手を離せば、トサッ、と軽い音を立てるだけ。だが、それは片腕でも成人男性と変わらない重量をもっていた。
「嘘だろ……?」
 何気なく持ち上げようとして、おもわぬ重量にぶち当たる。本腰を入れないと、朝潮の腕一つ持ち上げられないのか?
「なに、くそっ……~~ッ!!」
 ムキになって私は4倍幼女の腕を掴む。けれど、肘から先だけでもずいぶん重たい。力を十分かけられないのも相まって、とてもじゃないが調べるどころではなかった。
「……ん、んぅ…………」
 そうしている内、寝息に交じる一つの声。
 ハッと目を転じれば、ぼんやりこちらを見上げる寝ぼけ眼の幼女と目があった。
 まずい。
 絶対にまずい。
 ダラダラと汗を流しながら、私は固まった。
「…………」
 ぼぅっとこちらを見る眠たげな目。
 それが、静かに笑った。
 なんだ?
 そう訝しんだ、
 
 瞬間。
「……? え、わ、わっ!?」
 腕が急に軽くなったと思うと、一気に押し倒されてしまう私。両手を伸ばした朝潮、その細腕に尋常じゃない力で引っぱられ、気づけばその胸の中に引きずり込まれていたのだ。
「お、おいっ!? ダメだ朝潮、離せ、離しなさい!!」
 慌てふてめきながら、私は朝潮の腕の中でもがいた。けれど、4倍の朝潮はびくともしない。ブワッと私を襲ういい香り。綿あめのように甘く香水のように薫る朝潮スメル。そして、ふにっと柔らかな胸の感覚に、目を回しそうだった。
「おい、目を覚ませ! 朝潮! あさっ、ッ、ぐうぅ……ッ!!」
 抜け出ようとする私。そんな上官を、ギュウゥッと抱きしめて黙らせる。そうすればメキメキッと不穏な音を立てて体は軋み、あまりの力に声も出ない。
「朝潮ッ……し、死ぬ……!!」
「…………♪」
 声を出せばもう肺は空っぽ。後は無意識な幼女の抱擁で、背骨をへし折られるのを待つばかり。
 きっと、いつもぬいぐるみでも抱いて寝ているのだろう。安心感を求めて少女らしくくっつく、いつものまどろみと変わらない。
 しかしそれは、およそ人間の耐えられる圧を遥かに超え拷問も同然の殺人的ハグだった。体の前面には幼女のこの上なく柔らかで天国のような感触があるのに、まさにその幼さにねじ切られそうになっていたのだ。

 もう限界だった。
 視界が暗くなり、せめて最期だけでも朝潮を感じようと、制服の胸元にしがみつく。それは素晴らしくふんにり柔らかく暖かで、極上のロリベッド。痛覚の限界を超え、ただひたすら朝潮の腕にプレスされる事実だけが鮮明で、脳に溢れかえるその香り、寝息、抱擁感。果てには朝潮と一体になる感覚さえ覚えた。

 そして究極の一点で、
「  ……ッぷはっ!!?」
 突然、力の緩む朝潮の腕。
 どうも、朝潮の無意識に赦されたらしい。
 思わずむせながら私は、危険な濃度の朝潮香を吸い込んでしまう。ただ目を白黒させて彼女を見上げるけれど、わずかに身を丸めた童顔はなおくうくうと寝息を立てるばかり。一度、唇をむにむにと動かしてから、また健やかな吐息を漏らす。
 安堵していいのか……?
 しかしなお私は朝潮の中。睡眠時のジンワリとした体熱は私の芯まで染み通り、濃厚な朝潮スメルと吐息が私を蕩かせ、未発達の胸は心音で私を叩き、私たちはなお密着したまま。このままでは、再び寝てる部下の幼女に寝たまま拷問され殺されるか、あまりの濃い朝潮体験に脳をダメにされてしまうかだ。
 一刻も早く朝潮から脱出せねば。
 そしてまた、モゾモゾとロリの腕の中で暴れまわるのだ。動けば動くほどささやかな起伏を感じてしまって、体を擦り付けるようないかがわしさに苛まれ、ビクともしない細腕に絶望する。この、肉の薄くも柔らかな腕の中には、鉄骨でも通っているんじゃないか? それほどまでに強固な拘束具は、けれど完全に脱力したまま重みだけで私を苦しめる。
 無理だ。
 逃げられない。
 制服の胸元に顔をめり込ませられながら、私はがっくりと力尽きた。

 もういっそ殺してくれ。無意識な抱擁で背筋を粉砕されて、真っ二つになりながらも美幼女の胸で死ねるなら本望だ。
 観念して私は、心地好さそうに眠ったままの朝潮を見上げた。そして腕を伸ばし、その頬を撫でてやる。どこまでもきめ細かく、ムニッと柔らかなロリほっぺの感触が、無力な男の指先に踊った。
 そしてその時を待つ私の耳に、”んぅ……”と喉を鳴らす音が届く。
 ついで、すうっ……と息を吸うと、長い睫毛が少し揺れ。
 ゆっくり瞼を開いた。
「あ、朝潮……?」
 助かったのか?
 一瞬の希望、それと同時に一気に羞恥心がこみ上げる。この状況はいくらなんでもマズすぎる。寝てる年端もいかない部下の胸に抱かれ、弁解の余地などどこにもない。
 俄かに慌て出す私。
 それを寝ぼけ眼に朝潮はぼんやり眺め。
 僅かに、頬を緩めた。
 それから、そっと手を伸ばすと。
 いい子いい子という風に、私の頭を優しく撫でる。

 その瞬間の恥ずかしさと言ったら。
 一瞬遅れてカアァッと顔が熱くなり、けれど赤面する私を大きな手は包み撫でて逃さない。10歳と少しの幼女に慈しまれているのだ。しかも相手は朝潮。普段の敬慕と真面目さに満ちた様子からは思いもよらない母性的な表情で、されるがままに撫で続けられる。一瞬前には容赦ない処刑を下しながら、今はこんなにも可愛がられて。だのにどちらもまったく無意識なまま。こんなに翻弄されたことなど他にない。
 終わらない幼女のよしよし攻撃。体格差はそれだけで私たちを母子に変えてしまう。これほどまでに一緒になって寝汗と吐息と香りに塗れて、その上こんなに優しく撫でられたら……!
 まどろみが普段隠れていた母性を垣間見せ、小さな者に慈愛の褒美を与える朝潮女神。その指先に心を解され、少しずつ少しずつ私は子供にされていく。

「やめ、やめてく…………、あれ?」
 思わず呻くような声。
 それが、肩透かしされた調子に変わったのにそう時間はかからなかった。
「……ぅん、…………♪」
 再び、スース―と寝息を立て始めた朝潮は。
 ”ぎゅっ♡”と私を抱きしめ、眠り姫となったご様子だった。
 いい夢でも見ているのか。
 さらに体を丸めて、午睡に愛らしい笑顔を浮かべている。
 視界に大写しで広がる幼女の寝顔。
 思わず相好を崩してしまうそのかわいらしさ。

 けれど。
「わ、ひゃああッ!?」
 朝潮がスリスリと太ももをすりつけ始めては話は別だった。それは、愛らしく胎児のように丸まり、無意識に肌を確認しようとするかのような微かな微かな仕草。もし執務室ソファでそれを見かけたなら、微笑ましさのあまりさぞ頬も緩んだろう。
 だが、それが4倍ロリのむっちり太ももとなった今──!
「朝し、〜〜ッ!!」
 むっちりロリ太ももは私をいともたやすく舐め転がすのだ。だってもう、執務室の大きなソファでさえこの太ももと比べたらかわいいもの。そんな特大太ももベッドに挟まれ包まれ転がされれば私は、ただその洗礼に巻き込まれることしかできなかった。
 成長途中の甘く主張する肉感を、徐々に変わり始めたその質感を、これ以上なく太もも様に教え込まれる。生真面目ロリなら決して許しはしないだろう場所にねじ込まれ、”みちみちっ♡”と、”すりすりっ♡”と、熱烈なラブコールで揉み潰されて。必死に朝潮にしがみつこうとすればするほど、朝潮を感じてしまっておかしくなってしまうのだ。
 幼女の太ももがこんなに暴力的にエロいなんて。むちむちとはち切れんばかりのお肉が柔らかく、極薄ニーソも限界まで伸びきってしまっている。そんなむちむち性器にずっしり挟まれてしまえば、飛ばない理性などどこにもなかった。
 もう私はぐちゃぐちゃだった。体は朝潮のアロマと汗まみれ。ストッキングと生肌が交互に押し寄せては私を揉みしだく。心は抵抗しようとしては快感に呑まれてしまい、無意識に屈服されかけている屈辱が更に股間を熱くした。起きてもらおうとなんとか内股を叩けば、弾力がロリ肉パワーを感じさせて更に頭をおかしくする。もう、スカートの中さえ見えそうなほどだった。
 半泣きになる。半泣きになって朝潮の太ももに縋り付く。そして思うのだ。
(なんで、なんでこんなに……!)
 気持ちいいのだと。

 ダメだ。
 もうイク……!

 だが。
 不意に、一気に弱まる太ももの圧。
(た、助かった……?)
 一瞬の安堵。
 けれどそれは、すぐさま絶望に変わった。

 膨らみ私を呑み込むむっちり太もも。どんどん曲線を大きくしていくニーソの口。ずっしりのしかかってくる重さは桁違いになり、体の芯まで朝潮の熱量が流れ込んでくる。

 縮んでいたのだ。
(くそっ、これが荒潮が言ってた……!)
 とはいえそれも後の祭り。すでに私の何倍もの太さを誇っていた太ももが、太く、太く、太くなっていく。その上、圧の代わりに重量感はうなぎ登り、ついには”みちちっ♡”とくっつきあう内股サンドに閉じ込められてしまっていた。もう、ストッキング越しに朝潮の空気を吸うことでしか生きられない。
「助けてくれ朝潮! 潰れる! 太ももで、圧死する……!!」
 情けない声も、僅かに太ももの肌を震わせるだけ。もうくすぐったささえ感じてもらえず、10㎝、1㎝と縮んでいき……。

 ストッキングの格子模様が、網のように私に食い込んできたのだ。
(こ、このままじゃ、ストッキングの繊維の中に……!?)
 しっとり朝潮の香りが染みついたストッキング、それに私を閉じ込めれば、もう二度と自力では出てこれないだろう。いや、最悪そのままロリ肌のキメに入り込んでしまい、一生ダニ同然の存在となって朝潮に帰省する可能性さえあった。まだ、まだ1mm。それでももう、ストッキングは私の腕ほどの太さで縦横無尽に肌を張り巡り、朝潮の膨大なお肉に引き延ばされていた。ギチギチと悲鳴さえ聞こえれば、きめ細やかな柔肌の途方もない力に幻惑さえ覚えるほどだ。

(早く、早く逃げないと……!)
 私を押し包む、朝潮の太もも監獄。
 そこに一つの救いを見出した時、私は涙を禁じ得ないほどの喜びに襲われるほどだった。
 それは、太ももに挟まる、一筋の黒髪。
 長い朝潮の黒髪が、背を乗り越え私の元まで伸びていたのだ。まさに”蜘蛛の糸”のような一条の救済に、思わず私は縋り付いた。少し引っ張れば切れてしまいそうなほど繊細で、柔らかく、絹糸にさえまさる上質な質感。それも、小さな体では傷つけられるわけがなく、手入れの行き届いたロングの髪に、ずっしりとした重みさえ感じる有様だった。
 ストッキングの繊維に負けないほど細くきらめくロリ美髪。それを命綱に私は、少しずつ、少しずつ身を引き上げていった。このままではストッキングの中に入り込み、一生
 幼女の細髪の海。指先に流れては解ける朝潮の髪に、心の底がくすぐられる。上下左右どこまでも続く美しい幼女ヘアーに、いつまでも、いつまでも浸っていたいほどだった。
 ……けれど、それは同時に危険な罠でもあった。
 サラサラロングを指どおりなめらかにするのは、適度にさやわかな潤いと、うっすらのった髪の油分。少女の特権であるロリオイルはサラサラしっとりと肌に広がり、同時に、その甘い香りを運んでくるのだ。
 それは、朝潮の芳香そのもの。
 徐々に染み込む華やかな香りは、女の子という存在を生々しく感じる特製の香水だった。男をときめかせ、昂ぶらせ、狂わせる魔性のアロマ。生真面目で清純な朝潮が、紛れもなく最上級の美少女で、妖艶な荒潮の姉、確かな色気を花開かせんとする存在なのだと、思い知る瞬間だった。
 だって、朝潮の、髪の中にいるのだ。
 当たり前だった。

 それでも、もはや無意識的に手を動かし、私は外を目指した。
 そして、朝潮の体を這う髪を辿り、胸の上を肩元、首筋、うなじを通って……。
 変わり良く肌の質感、外気の涼しさと猛烈な朝潮アロマの中を突き抜けながら、私はそのかわいらしい耳元を目指したのだ。
 もう、複雑な地形同然のそのお耳に叫んだところで、声が届くとは思えない。
 それでももはや、私にできることなどそれしかなかった。
 耳の中に入ってしまうかもしれない。くすぐったがられて、指で拭い去られてしまうかもしれない。でも、それでよかった。

 けれど。

 そんなささやかな願いさえ、叶うことはなかった。
《朝潮ちゃ~ん、もうすぐご飯よ~?》
《……あ、荒潮? 今行きます!》
 尊敬に値する、寝起きの立ち上がりの速さはさすがの朝潮印。そのままスパッと目を覚まし、起き上がって目をこすったりしている。
 私を、服の中へ滑らせながら。

「おい、あ、ああああ゛ッ!!!?」
 滑落していく朝潮のきめ細やかなデコルテの肌。うなじから首筋、鎖骨、谷間へと真っ逆さまに滑り落ちるその感覚たるやほかにない。あまりの気持ちよさと恐怖がないまぜになったまま、どこまでもどこまでも朝潮迷宮へ吸い込まれてしまい、そして、そして、そして……。

 飛び込んだその先は。
 寝起きでしっとりとした、ジュニアブラ。
 触るどころか、見てさえいけない秘密領域へと引きずり込まれてしまえばもうおしまいだった。やっと止まった私の体が貼りつくのは、暗闇潜むいたいけな双丘。むんわり肌とミルクの香り染みつくブラの繊維へと押し付けられながら、ロリおっぱいの潤いに閉じ込められてしまっていたのだ。
「朝潮、助け、助けてくれ!! 私だ、私が、む、胸に……」
 ああ、これ以上ないほど密着しているというのに、声一つジュニアブラから届けられないだなんて。申し訳なさと恥辱でぐちゃぐちゃにされつつ藻掻く、虚しささえ私の心を朝潮の表皮常在菌にしてしまう。もう、おっぱい肌のしっとり感から身を剥がすことは叶わないのだ。私はただ、朝潮荒潮という二人の数千倍ロリにしか助けてもらえない。
 きっと湯船にまで連れ去られてしまうことだろう。そして残り湯に解毒剤を撒いてもらうまで、私はこの数千倍朝潮ボディに棲む微生物にされてしまうのだ。
 それが催すのが絶望なのか、希望なのか。
 私にはもう分からなかった。
 ただ、朝潮女神と同じく超巨人となった荒潮の救済を待つことしか、私にはできないのだから。

 一方の荒潮超巨人はというと、一言。
《ふふっ、最初から朝潮ちゃんは持ってなかったんだ・け・ど♪》
 私にだけ聞こえる囁き声を、ぽそぽそと朝潮の胸に落としかけ。
 クスクス笑って、その場を後にした。

 足取り軽やかに。

 麗しいその背へ、イタズラ心を忍ばせて。