§
 同級生とじゃれていた時、担任に呼び止められた。
「ちょっと頼まれてくれないか?」
「なんすか? 今遊ぶのに忙しいんですけど」
 あほたれと、出席簿の角で叩かれる。“体罰!”と笑って抗議してから、聞いた。
「何してくればいいんです?」
「今日からお前、向こうに移ってくれ」
「向こう?」
「女子クラス」

「……は?」

 事もなげに言う男性教師。いや、その瞳にわずかながら浮かぶのは同情か。
「お前、平均身長ど真ん中だからな。男子のサンプルってわけだ」
「ちょ、待ってくださいよ!」
 問い詰めようとするも担任は既に踵を返した後。
 背中越しに言ったのは。
「……気を確かにな」
 おそらく、餞別の言葉だったろう。


§
 俺は女子を見たことがない。

 いや、俺たち全員がそうだった。小学生を最後に、もはや場を共有することは出来なくなってしまった。
 理由など簡単なこと。
 体格差が大きすぎたのだ。

 男は、決して少女の成長に追いつけない。
 幼少期の時点でそもそも身長2割増しの女性たち。10歳で一足先に始まる少女の成長期は、止まることを知らず高校生まで爆発的に続く。12歳で育ち始めるチビどもが、早々に成長を鈍らせるのを尻目に、女子は180、200㎝と巨大化していくのだ。
 そしてようやく天使たちの発達が終わるとき、その身長は優に270㎝を超える。男の1.7倍、1m以上の差。もっとも高身長の男子でさえ、背伸びしたって同学年女子の胸にも届かない。
 そんな小動物と巨人を、同じ教室に入れる訳にはいかなかった。
 第一、精神年齢も頭の質も違うのだ。遥かに先を進む彼女らが、何を学んでいるのか、どんな存在なのか。俺たちが知ることはない。同じ高校だと言ったところで、金魚と教室を共有している程度のことでしかなかった。

 だから、俺が女子のもとに行くと知ったとき、周囲の羨望はひとしおだった。
 だって、悶々とした男子高生だ。隔てられた校舎、スケールの違う学び舎を覗こうとしては、わずかばかりの収穫に一喜一憂した。
 だけど。
 同時に彼女らは、恐怖の対象でもあったのだ。
 どれほど低くとも、俺たちの教室に入れば天井に頭を打つその長躯。華奢な体躯はきっと俺たちの数倍重く、数倍賢い。
 であれば、すべてを併せ持つ女神らに一体どのように相対すればいいのか。

 そんな逡巡を続けながら扉の前、俺は途方に暮れていた。
 初めて見る、女子の教室。とてつもなく高い4m弱のドアの向こうでは、少女らの高い声が上がっている。独特の孤独感。まるで異世界に放り込まれた気分だ。
 ……ダメだ。ここでくじけたら男が廃る……!
 意を決し、うんと手を伸ばしてドアを開く。まるで鉄の扉だ。青筋を立てて引き続け、やっと開いた時には汗ばむ始末。

 そんなよろよろとした動きが不気味だったのだろう。
 俄かに黄色い会話の糸が切れる。
「……ちょっと、今勝手に扉開かなかった?」
「やめてよ縁起でもない……」
「な、なんかそこにいない?!」
 開かれた視界、机の脚の間から見えるのは、ソワソワと怯えるいくつもの美脚。
 それが立ち上がり、恐る恐るこちらに近づいてくるのだ。
 健やかで、しっかり詰まった少女らの脚。その逞しさに気圧されて、思わず叫ぶように俺は申し出た。
「こ、ここだ……! 男子、2年3組の……、ここだって!」
「わっ、いたっ!」
「男子……!?」
「マジだ!」
 一転。
 突如の闖入者に、吹きあがるような少女の声が響き始めた。
「わっ、ひさしぶりに男子みた!」
「ちっちゃ~! かわいいじゃん♡」
「でも年上らしいよ?」
「何それ、ウケる……☆」
 活気づいた空気はもはやお祭り騒ぎ。
 一気に群がり、俺を弄び始めたのだ。
 十余名の少女が腰を折り、その美しい眼で俺を覗き込み始める。
「や、やめろって! おい、つつくな!」
「ちょっと、あんまり強く触ると壊れちゃうんじゃない?」
「いや、マンボウじゃないんだから」
「マンボウ先輩♪」
「いいから、私に貸して!」
「え~、凛のイジワル!」
 どうも本気で壊れるんじゃないかと危惧しているらしい。凛とかいうのが、そっと俺を抱き上げ級友の魔手から取り上げる。ポニテ少女が、まるで幼な子を抱くようにやんわりとかかえ込むのだ。俺を胸に抱いて匿ってくれる。しかし、無意識に総重量10キロの巨乳を乗せ、今にも首をへし折りそうになっているのには気づかない。逃げようにも無駄なこと。柔らかく抱いた腕はがっちり俺の体を固定し、ムニムニずっしり重たい乳で俺を圧迫し続ける。
「いや、人間だし大丈夫っしょ。それより由香、おっぱい乗ってるよ?」
「ほらこっちむいてくださいよセンパ~イ。かわいいお顔見せて見せて~♪」
「こら、やめっ……! いてぇよバカ!」
「あははっ、“バカ”だって~」
「生意気センパイじゃん♪」
 乳の主の隙をつき、指で頬をつついたり囃し立てたり。誰も、本当の意味で俺を守ってくれる人はいないらしい。でっかい体を折って俺に顔を寄せ、いくつもの美貌で俺を囲む後輩たち。深い茶色に蒼、色とりどりの水晶のような奥深い瞳が俺を赤面させる。

「てかさ、男子ってたくさんいるんでしょ? それに、一人で寄こしてきたってことは……♪」
「……あはっ♡ そっか~♪」
「“教材”ってホントにあるんだ♪」
「ま、アタシら男なんか全然知らなかったしね~」
「これもおベンキョってこと♪」
「お、おい、何言ってんだ……?」
 たまらず割って入った俺を、ニヤニヤと周囲は見下ろすだけ。互いに意味深な視線を交わせば、完全に俺は蚊帳の外だ。
「こいつなーんも知らされてないんだ? ウケる♪」
「何訳わかんないこと言ってんだよ。いいから、早く帰せって!」
 そして、キョトンとした顔を返してくるのだ。
「何言ってんの?」
「……は?」
「帰られるわけないじゃん。だってこれからアンタ、ウチらで飼われるんだから」
「ま、待て待て待て!」
「待たないよ。あんたはこれからアタシらの“教材”としてクラスで飼われるわけ」
「男の習性ってやつ? チビの扱い方、これからじっくり勉強するんだから」
「べ、勉強?」
「きゃははっ! まじでバカじゃんこれ♪ まさか一緒に勉強するために学校来てると思ってたの? 体育とかばっかやらされてる体力バカのくせに♪」
「人間精子バンク一緒に飼ってるだけなんだから♪」
 ケラケラと笑いながら、なお彼女らは俺をまともに取り合わない。話のネタに、俺をおちょくるだけ。混乱を誘い嘲り倒し、慌てる様すら笑いに変える。平均的な体躯ゆえか、教師に疎まれていたのか、成績が悪かったせいか。性教育の備品として売り払われた俺など歯牙にかける必要もなかった。

 そして、地面に降ろされたとき。
 俺はもう、自由人から性奴隷へと蹴落とされていたのだ。
「な、なんだよお前ら……」
 気づく。
 周囲の視線が変わっていた。
 ねっとり絡みつく、メスの瞳。林立するむっちりした脚が、生々しくその肉感に血色を添える。見上げれば、360度囲むのは発情した女の顔だ。
 巨大な少女らに、性的な目で見られている。
 所有物として、全身くまなく視姦されている。
 血の気が引いた。

「お、俺戻るよ……」
 半ば逃げ出すように、太ももの巨木を縫ってドアへと駆け出す。
 そこにやおら現れたのは、健康的な肉付きの生脚だ。
「おわっ!?」
「待ってくださいよセ~ンパイ♡」
 むっちりおみ足に跳ね飛ばされた俺。そこに思いっきり叩き込まれたのは、真っ黒なローファーだ。
「がは……ッ!? り、凛!? お前、なにを……?」
「なに逃げようとしてんすか、ネズミ先輩♪」
「てめ、え……何言って……!!」
「ブタが喋るな♡」
「あああっ!!?」
 クスッと笑うと、革靴で思いっきり俺を踏みつける。俺の上に突き立てられた、スラリとたくましいJKおみ脚。それが、鉄塊のように俺を押し潰すのだ。一瞬で肺はぺしゃんこ、肋骨が軋み内臓さえ破裂しかねない。磨き上げられた製靴は、どんなに抵抗しても俺を潰したままだ。
「ほら逃げてくださいよセンパ~イ。アタシ人殺しになりたくないっすよ? ……きゃははっ! こいつ泣きそうじゃん! こわいでちゅね~♪ ほら、ギュ~~♡」
 汚い靴底でシャツを汚しグリグリ顔を踏みつけ、獰猛な少女は俺を嘲った。小ぶりな42.3㎝のローファーはまるでダンプカー、藻掻けど藻掻けどびくともしない。大きさだって俺の胴体と変わらないのだ。それで200kgを軽く超す体重をかけられれば、高々70㎏の俺など簡単に破裂するに違いない。
 助けを求め視線をさまよわせれば、天空では女神たちが屈みこみ俺を嗤うばかり。さっきまであんなに気遣ってくれた少女さえ、もはや俺を家畜としてしか見ていない。仲間に混じって、ケラケラと笑いを高鳴らせるだけだ。
「し、死ぬ……!」
「死ねば~?」
 軽く足を乗せただけのつもりで、簡単に俺の命を弄ぶポニテ後輩女子。あまりの気軽さに、おぞけが走る。思わず絞り出す悲鳴は、渾身の絶叫となって響いた。
「やめ、やめろ、やめてくれえッ!」
「え、死にたくないの?」
「ッ! そうだ、し、死にたくない、死にたくない!!!」
「へー。……じゃあ」
 そして、足を浮かすと。

「舐めてくださいよセンパイ♡」
 ズイッとつま先を突き付けたのだ。

「……は?」
「んー? 聞こえなーい」
「  ……ぁああ゛っ!!?」
 踵を股間にねじ込まれ、一気に脳が破裂する。
「やめ、やめて、やめてください!! お願いします! やめ、やめてぇえええ!!」
「じゃ、舐めろ♡」
 解放され、ゼイゼイとうずくまる俺。そんな頭をつま先で小突かれて、俺は命令を思い出す。
 目の前には、真っ黒な革の塊。
一も二もなかった。
 悶えながら必死に後輩の靴に這いつくばる。そして懇願するように頭をうずめてから、その生温かな革に口を寄せ……。
「……うっわ」
 無我夢中に、そのつま先にキスしたのだ。墨が顔につくのもかまわず、顎に縫い目の跡がつくのも厭わず、ひたすら後輩女子高生に慈悲を乞う。そうすれば、でっかい塊の奥、気持ち悪がり丸まる指の気配が伝わってきた。舐めさせられ、気色悪がられ、それでも恐怖心から、懸命に舐めることをやめられなかった。
「さわんな汚い」
 挙句、蹴飛ばされたのだからいよいよ惨めさは高まる。
「きんも……。マジで舐めるとか頭おかしいんじゃないの?」
 汚らしそうに俺の体で靴を拭く。
それから満足げにフンっと息をつくと。
「これであんたは下僕ね」
 そこには、総勢20名の女王様たちが君臨していた。


§
 ぐったり頽れたままの俺。
 ニヤニヤ嗤いながらも、少女が放っておくはずもない。
 うずくまる小男に、ニヤニヤしながら一人近づいてくる。
「お。優奈センパイ気になるんだ?」
「ま、見てなって。ちょっと触るよ?」
「……え?」
 やおら足首を掴んできたのだ。
 何かと思う暇もなかった。少女は俺の足を掴みそのまま持ち上げられたのだ。
 そうすれば、俺は逆さまにぶら下がるだけ。
「わ、かっる! なにこれ、幼稚園児より軽くない?」
「わっ!? ちょ、降ろせ、降ろせって!」
 血が上る感覚と共に、グルンと反転する視界。逆さまに映る優奈の胴体が、目前いっぱいに広がった。
「ちっちゃ♪ 膝にも届かないじゃん」
 ブラブラと俺を揺らして見せる。視界を左右に揺れ動く大きな胴。
 そのまま椅子に座って、みんなに俺を見せつける。それでも、俺は椅子の天板にも届かない。
「ほら、ブ~ラブラ♪」
 髪が太ももをなぞる。男の硬い毛髪は抵抗なく生肌を滑り、左右から繰り返しそのなめらかさを教え込まれる。加えて、振り子のように視界を触れる巨大な下乳。視界を少女特有の肉付きで挟まれて、目のやり場は完全に奪われてしまう。
 そして不意に股を開くと。
「じゃ、特等席へごあんなーい♪」
 優奈は、俺を生太ももの間へ差し込むのだ。