元始男性は太陽だった、らしい。いや、それほど遡らなくてもいい。つい数十年、いや、ほんの数年前まで、男性は膂力も権力も持っていたのだという。近代の父権主義をずるずる引きずったまま、相変わらずの男性社会、それに反抗する者もやはり男性的で変わんない。そんな時代だった。ほんの昨日まで。
 でも時代は変わった。
 はじめ、ルイススウィフトは後天性の奇病として注目された、けれど、深刻に受け止める人はいなかった。お茶請け程度の語り草、時折雑談に供せられる程度のもの。研究者はもちろん悩んだ。でも、徹底的アポトーシスと再組織化、この奇怪な症状がどうして起こるのかは、サンプルが少ないせいでわからないままだ。極めて稀な遺伝情報と、極めて稀な外因によるのだと考えるしかない。そして一気に広まった時、人は無力だった。
 遺伝病、というのはある意味正しかった。病因には性染色体が絡んでいた。そして、一つにはY染色体により強く作用するせいで、もう一つには生命を守る情報が満載のXが一つしかないという脆弱性のせいで、殆どの患者は男たち、男たち全体だった。そもそもY染色体は減少の一途。加えて、Y染色体はX染色体に比べ情報密度が極端に低い。後天的な影響が加わるというのはそれ自体驚きだが、それが実現してしまえば、男というのは本当に脆かった。
 大抵の男は縮んでいった。そして次に、先天性の病に変わる。世界には書き換えられた遺伝情報しかない。男の本来のサイズは、小人になった。平均はだいたい40センチ。大きい個体は50センチほどだが、最小記録は20センチ程度まで落ち込む。もはや赤ん坊にさえ敵わない。当然、これまで使用してきた全ての施設、店、家々に至るまで全てが女性専用になる。もう、庇護対象となる他男が生き残ることはできない。
 この事実は女性を大いに喜ばせた。
 意図的に恋人を感染させる女性は後を絶たない。愛ゆえだったり恨みだったり理由はいろいろ。とはいえ、包括的な援助のためには大きさを揃えた方が良いよねと、縮小化は積極的に推進された。一生飼ってあげるとプロポーズがわりに縮め、尊大な男を黙らせるために縮める。そして、男が人間の地位から転がり落ちるのもすぐだった。男は子供、いや、子供以上の保護対象。万事は女性の庇護のもと。その地位は愛玩物、あるいは種馬、汎用性のある駒。駒が増えたことで生活は豊かになった。女性世界を支えることが、男の役目だ »
 そう聞いた。飼育員のお姉さんに、暇つぶしで。
 正直僕にはよくわからない。昔のことなんて知らないし、そんな難しいこと知らなくたっていいのだ。面白いなとは思う。でも、女の人より体が大きいって、どういうことだろう? 僕らには想像できないことだ。
 僕らはこの箱の中、送り出される日を待ちわびる。迷惑のかからないように、役に立つように、僕らはここで学んでいる。最低限の知識を与えることは女の人が持つ教育の義務、そして僕らは奉仕の義務。互いに分担し合うのだ。学ぶのは家政や礼儀、社会や健康のことを少しと、それから実技。途中で成長が止まる僕らにもわかるように、少しずつ彼女らは教育を施す。だからここは学舎で、寮で、飼育小屋だ。三十センチ、たかだか四十センチの体、女の人のベッドでも十人ほどが寝られるスペースだから、場所はそんなにとらない。ビルの一室でも十分で、だからいたるところに箱は作られる。大抵屋根はない。見上げればいつも、女の人が僕らを見下ろしている。足元の小人たちがきちんとしているか、いつも見張っているのだ。小さなところだと、屋根をつけたり二段に重ねて部屋に置いておくところもあるとか、ないとか。窓の外から小人の様子を覗くらしい。ちょっと興味が湧く。どんな光景だろう? 家によってはそうしたゲージを使うところもあるそうだから、お目にかかる日がくるかもしれない。
「まあ、使わないところも多いんだけどね。家に犬とか猫がいたら、危ないし」
 アルバイトの女の子は言う。小人の監督は、割がいいらしい。長く続ける人も多いから、しばしば友達になったりする。そのまま家に迎えられることもあるから、ちょっと必死だ。純粋な好意に、気に入られたい気持ちが見え隠れ。そんなこと向こうはお見通しだと、わかってはいるのだけれど。
「犬は怖いな」
「ダックスフントよりちっちゃいもんね」
 壁の向こうで彼女は言う。椅子に座る彼女の膝小僧が覗いている。さらに上空、二段重ねの箱より高いところに、その顔はあった。そんな体格差だ。同じ生き物とは思えない。
「大丈夫よ。犬を飼うのは厳しい免許が要るもの。そうね、犬より、貰い手の方が危ないかな」
「女の人は大きいからね。お姉さんだって、時々からかうじゃない」
「ふふ、でもからかわれるの、好きでしょ」
 愉快そうに笑う。バレバレだった。女の人には叶わない。
「優しい人に貰われると良いね。本当は拾ってあげたいんだけど、難しくって」
 すっと目を細めて微笑む。優しい顔だ。
「うん。でもまだ実技も習ってないからね。売れ残った僕を欲しくなったら、教えて」
「君たちは売り物じゃないよ。でも、困ったらもらってあげる」
 椅子から身を屈めて、僕の頭を撫でくる。彼女はいつも犬にするような手つきだ。でも、悪い気はしない。
 ちょうどその時、教育係の人が入ってきた。休憩は終わりの時間だ。
「ほら、行っておいで」
「うん。じゃあね」
 バイバイと手を振る。彼女のシフトもここまでだ。
 わらわらと集まる小人たちに混じって、僕も係の人の元へ歩いて行った。


 箱の中の世界はすこし不安げだ。誰かに迎え入れてもらえるかもわからないし、その人が恐ろしい人じゃないとも限らない。箱の周りに集まってくる人たちは多かれ少なかれ小人を好きな人たちだ。けれど、小間使いのために男の人を連れて行く人だっている。昔だってそんな男女はいただろう。関係は逆だったかもしれないけれど。でも僕らは、女の人には抗えない。虐げるのが女の人なら、助けるのも女の人だ。僕らはそんな不安を共有して、箱の中で協力し合う。そして、日々訪れる巨人が貰ってくれないかと、そわそわ見上げているのだ。僕らは利口で便利なペットのようなものだ。女の人のメリットも大きい。そして、子供として、友人として、愛玩物、道具、時にパートナーとして、男の人は貰われて行く。
 部屋のドアが開いた。
 今日も女の人が物色に来る。
「わ、おっきな箱!」
 快活な声がした。十代前半の女の人で、中学生だろうか、大きな瞳を輝かせている。
 一見して小柄なのはわかった。係の人と並ぶと、やはり子供なのだとわかる。けれどとたとたと歩み寄るとみるみるその影は膨らんでいく。箱がカタカタと震え始め、響く足音。そして膝に手をついて屈みこむと、僕らを影ですっぽり覆ってしまった。すらりとした脚が視界を圧迫する。
「ここの男の子は他のとこよりちっちゃいね」
 楽しそうな声。恐る恐る顔を見上げると、ミディアムショートな髪が揺れていた。大人びたような、あどけないような顔。人懐っこそうな笑みでこちらを見下ろしている。可愛らしい女の人だった。
「あかりちゃん、ダメだよ、驚かせちゃ。ほら、小人さんびっくりしてるよ?」
 大人しく、落ち着いた声が届く。そして、彼女の背後からまた一人、女の人が顔を覗かせた。
(おんなじ顔の人だ……!)
 表情は違うけれど瓜二つの女の子だった。双子なんだ。すぐにわかった。
「アハッ、ごめんごめん! 大丈夫、怖くないよ〜」
 僕らを安心させるように言う。実際僕らは突如現れた巨人に驚いて、物陰から恐る恐る様子を伺っていた。係の人が見守ってはいるけれど、時折壁を叩いたり、突然乱暴に掴み上げたりする人もいるのだ。そんな人に拾われてしまえばどうなるかなんて、考えるだけで震えてしまう。
 この人は大丈夫かなと、みんなも物陰から出てきた。大人しい子と活発な子、二人がドンと聳えていて、なんだか不思議な光景だ。二つのスカートがひらひら揺れていて、綺麗だった。
「さっきのとこは大き目の子が多かったからね。私はとびきり小さい子がいいかなぁ」
「可愛いね! でもあんまりちっちゃいと色々危ないかもよ? この子なんか、膝にも届かないから足元にいると見えないかも……」
「あかりちゃんが気をつければ大丈夫だよ」
「えー、あおねえひどいっ」
 僕たちを見下ろしながらそんなことを言う。そんなに小さいの? と代わる代わる顔を見合わせた。よそのことはわからないけれど、男の人の中でも小さいというのは少しショックだった。
 遠近法に従って、天へ向かい丸く曲がって見える二人の姿。見上げてみると、双子の姉なのか、落ち着いた彼女の目尻に泣きぼくろを見つけた。目が合うとフッと微笑んでくれる。綺麗な女の子だな、と思った。長いスカートが揺れていて、女神様みたいだ。
 妹の方がしゃがみこんでこちらにひらひらと手を振った。
「やっほ〜! ねね、ボクの身長教えてくれる? 絶対50センチはないよね。40センチ? も、ないかな?」
 パッチリと大きな瞳がこちらを見つめる。凝視されているのだけれど、不思議と嫌でもない。むしろ気持ちが何故だか暖かくなっていく。
「に、28センチ」
「だって! 私たちが140センチくらいだから、ちょうど五倍だね。ごめんね、怖くない? ちょっと離れよっか?」
「ううん、大丈夫。そこにいて」
 コクリと頷いて彼女にお礼をする。私もいい? と、お姉さんの方もしゃがみこむ。壁より高いところにある膝小僧が四つ、とても近くに並んでいる。圧倒されないわけではない。その脚でさえ僕では抱えきれないほど大きな人が、二人も僕を見下ろしているのだ。その息遣いや香りまで感じるほど近くて、その大きさをひしひしと感じる。でも怖くはない。僕は子猫より小さいこんな体なのに、綺麗な彼女たちは見つめてくれている。それがとても嬉しかった。
「可愛いね。あかりちゃんはもっと大きい方がいい? 多分飼える子だと一番ちっちゃいサイズだけど……。大丈夫かな、私たちきっとビルみたいに大きく見えてるよね。懐いてくれるかな?」
「大丈夫だよ、だって逃げないもん。小人は臆病だからすぐ隠れちゃうけどお話ししてくれてるし。そうだ! ボク、ちょっと触らせてもらってもいい?」
「え? う、うん」
 ありがと、とにっこり笑って、ゆっくり僕に手を近づける。テーブルだって覆えてしまえそうな大きな手、でもしなやかで細っそりした小さな手。それがこちらに伸びてきた。すこし鼓動が速まる。そして、指の背で僕の頰を撫でると、大きな手で僕の頭を撫でた。暖かい。それに、とても柔らかい。節張っていなくて、滑らかで、優しい体温を持った指だった。心地よくて目を細める。すこしその手に頭を預けて、包容感に身を任せた。
「わ、わ、見てあおねえ! この男の子、小動物みたいだよ! ねえ、持ち上げてもいい? もっとお顔見せてよ!」
 そして両手を広げてこちらに差し出す。僕はおずおずとそこに乗っかった。ストンと腰を下ろす。両手の丸いカーペット。それがすこし僕を包むと、ゆっくり持ち上がった。ふわりと浮遊すると、そのまま膝を超え、二人の胸元、そして顔の前まで持ってこられた。僕の上半身と同じくらいたかさのある美貌が二つ、僕を囲む。思わずドキドキだ。瑞々しい唇が目の前に来て、長い睫毛がふわりと風を送ってくる。双子の間、手の上に乗せられ、つぶさに観察されている。お姉さんの方が抑えきれず僕を撫でる。気に入ってくれたらしい。双子の手の中に包まれてしまう。
「お人形みたいだね。小人さん、とっても可愛いね。二人でいきなり囲んでごめんなさい、怖かったでしょ? 小人さんは本当に小さいから……。こんなに小さくても本当に人間なのね。しっかり暖かくて言葉を話して、きっと私たちに飼われたら幸せになれると思うの。どう?」
「大丈夫だよあおねえ、だってこの子もう懐いてるもん。ほら、連れて行こ? ね、ボク、いいよね?」
 その通りだった。小人のことなんて女の人はお見通しだ。それにもし僕が嫌だったとしても、最初から拒否権なんてない。
 ね! と彼女は僕を頷かせて、満足そうに笑った。そして僕を胸に抱きかかえると、立ち上がる。
 僕は箱の方に目を向けた。パノラマのような箱の中で、人形のような仲間たちが僕を見上げている。先に貰われていくのはなんだか申し訳ない、けど、彼女に貰われたのが僕で良かったと、すこし誇らしかったのも本当だった。

 ぬいぐるみのように抱かれたまま、僕は彼女たちに連れ去られていった。初めて見る外の世界。それは、どこもかしこも女の人だけ、すべてのスケールも女の人に合わせてあつらえた世界だった。眩むほど大きな道路に、無数の巨体がひしめいている。彼女が歩くだけで向かい風にさらされているのに、女の人が通り過ぎれば乱気流にも襲われてしまう。目が回りそうだ。世界は僕には優しくないようで、もし一人でも僕にぶつかれば僕は潰れてしまうに違いない。飼い主の腕にすがりついて、彼女達を信じるしかなかった。冗談みたいに大きな車や電車にミミをつんざかれ、中にいるのもみんな女の人。時折足元をすこし大きめの小人が走り、女の人の後を追っていた。蹴飛ばされないのだろうか。もしかしたら女の人も気をつけてあげているのかもしれないけれど、彼よりずっと小さい僕など気づかれずそのハイヒールの餌食になってしまうだろう。なにもかも怖くて、彼女の服にしがみつく。それを双子は、微笑ましそうに見ていた。
 まだ? まだ? と何度も聞く。そしてもうすぐだよ、というの答えを繰り返され、最後の最後に着いたよと言ってもらえた時は、本当に深く安堵した。
「ただいまー」
 シンとした家に双子の声が響く。これまで過ごしてきた人たちの気配や二人の香りがそこらに染み付いていて、これから僕もそこに加わるのだろう。そう思うと不思議だった。双子は僕を彼女の部部屋に連れていく。そしてドアを閉じると、カーペットの上に僕を降ろした。
 二人も女の子座りで僕を囲む。
「ようこそ。ここがこれからボクのおうちだよ?」
 じゃあ、自己紹介しましょ、といって妹の方が自分の胸を押さえて、
「私はあかり。双子の妹。14歳で、うーん、スポーツとゲームが趣味、かな? さ、あおねえ!」
「う、うん。名前はあおい。あかりちゃんの姉で、趣味は……お菓子作りとかお風呂とか、色々……?」
「まあ今はとりあえずでいいよ。で、君の名前は?」
 僕は困ってしまった。遠慮がちに二人を見上げて、
「名前は、なくて、年も、わかんない。体を動かすのが好き、かな」
 ちょっと間ができてしまう。出来損ないと思われたらどうしよう、とすこし焦った。そしてあおいがクスッと笑うと、
「じゃあ、お名前つけてあげないと、ね。そうね……、コハクとかどう? 好きな言葉があったらそれでもいいけど」
「コハク、コハクがいい! ありがとう、あおいお姉さん」
 くすぐったそうにあおいは笑って、優しく僕を撫でてくれた。
「あらあら、ちっちゃな弟のペットができちゃった。……ほんとはね、ご主人様とか、そう呼ぶところが多いの。でも、可愛いから許してあげる。私たちはコハクちゃんのご主人様でお姉さん、ね」
 知らなかった。すこし慌てる。そうだ、僕は知らないことが多すぎて、無礼を働いてしまうかもしれない。
「ご、ごめんなさい。失礼なことしちゃった。僕まだ習わなきゃいけないこと残してここにきちゃったから。だから知らないことたくさんあるんだ……。ご主人様って言った方がいい? あおい様? 今度は間違えないから」
 本当だったらもっと要領良くいくはずだった。習っていればアピールすることだってもっとうまかったし、役に立つことも色々あっただろう。それが出来なくて、申し訳ない。
「好きに呼んでいいよ。そういうところが多いってだけだもの。いろんな関係があるんだよ。小人さんには少し難しいかな? 小人さんと女の人はこんなに違うけれど、どう接するべきかは私たちが決めてあげる。お友達で、ご主人様で、お姉さん。そうしましょ?」
「そうそう。だってお勉強打ち切って連れてきたの私たちだし。コハクは飼われてるんだから、私たちの言う通りにすればいいよ。その他のことは自由にしていいし。それにほら、必要なことは私たちが教えてあげるから、ね?」
 あかりが言う。双子の優しい巨人たち。素晴らしい人たちに貰われて、本当に良かったと思った。思わず、並んだ二人の膝に頭をすり寄せる。小人がするべき挨拶らしい。少し恥ずかしい。親愛と服従の証だと習ったけれど、心からすることができるなんて思ってなかった。
「さ、いろいろ始めちゃお」
 あかりは言って、僕を抱き上げる。
「まずは箱、かな」
 もう買っておいたの、と言って小人用のねぐらを取り出す。とりわけ小さい僕には少々大きすぎるかもしれないね、と二人は言いながら、僕をその中に入れた。
「うーん……」
「ちょっと、大きいよね……」
 僕は辺りを見回した。簡素な部屋の形。ベッドにトイレ、一応机もある。けれど、二人の言う通り、身の丈に合っていない感覚がひしひしと伝わってくる。試しに机に座ろうとするとよじ登らねばならず、ぶらぶらと足を揺らすのを二人に見せつけねばならなかった。恥ずかしそうに二人を見てみる。撃って変わって二柱の神様は高い壁を膝で見下ろし、二つのスカートをひらひらと揺らしていた。僕からは、太ももの間からスカートの裏地が見えて、少しだけ下着さえ見えそうだ。
 大きいなあ、なんて、当たり前のことを思う。とてもとても大きい。なまじ周囲が男の子向けで、しかも僕には大きすぎるものだから、その巨大さは際立った。大きいのに近くにいる二人は、脚を長く長く伸ばし、お腹から上は遠くにあるせいで短く見え、しかも胸の膨らみのせいで肩までが隠れてしまっている。笑いながら眉を寄せた二人は、空の彼方から僕を見下ろしてこちらを見下ろすばかり。とびきり可愛くて綺麗な二人。そんな二人のご主人さまの足元に僕はいた。
「小っちゃすぎだよコハク」
 あかりがクスクス笑う。
「あおねえ、これどうしよっか」
「ええっと、もっと小っちゃいの買ってくるか、新しく作るか、ケージなしで済ますか……? でもこんな小っちゃいの売ってるかな……」
「大丈夫、大丈夫だよあかりさま。これで十分だから、心配しないで」
 二人を困らせたくなくて、たまらず僕は言った。椅子から飛び降りる。ジンッと足が痺れる。けれど問題ないはず。だって巨人の世界で生きているのだから、これくらいなんともないはず。呆れるほど小さな僕には、自分にぴったりのものなど一つもない。これでも恵まれてるほどだ。
「とてもそうは見えないけどね」
 からかう様にあかりが言う。そしてあおいに顔を向け、
「ま、コハクがそういうならいいんじゃない?」
「そうかな。なんだか心配。こんなに小っちゃい子が苦労するの、可愛そうだもの」
「どっちにしてもこんなちびすけに合うのなんてないよ」
 僕も頷く。仕方ないか、とあおいも呟いて、しゃがみ込んだ。ぐんっと顔が近づいて、腿に圧し潰されたふくらはぎが大きく膨らむ。
「何かあればすぐに言うのよ? ケガしたりしたら大変だし、お世話するのが飼い主の務めだから。約束。ね?」
 もちろん、と答える小人に、あおいは指切りの小指を差し出す。掌に匹敵するそれにどう指を絡めたらいいわからなくて、僕の腿ほどもある小指の側面を手で包む。フッと微笑むと、あおいは立ち上がった。
「じゃあ私、ご飯作ってくるね。あかりちゃん、コハクのことちゃんと見てるのよ?」
「あおねえ、過保護」
 唇を尖らせてあかり。そして退出する彼女の背を見送ると、家の隣にあかりはぺたんと足を投げ出して座った。そしてやおら、羽織っていた外着を脱ぎ始める。
「わっ!」
 慌てて目を覆う。あかりはカーディガンをふわりと脱いでしまうとベッドに放り、そしてプチプチとシャツのボタンを解き始めた。
「あかりさま、男の子がいるんだよ!?」
「え、それが?」
 こともなげにあかりは言い放つ。何故気にしなければいけないのかわからないという風に小首をかしげるだけ。
「恥ずかしくないの?!」
「だってコハクは男の子じゃん」
 どういうこと? と訊いてみる。
「だって……。例えばワンちゃんに恥ずかしがる必要ないでしょ?」
 大きくシャツの前を開いて肩を出しながらあかりは言った。初めて見る女の人の素肌に、僕はどぎまぎとどうしていいかわからない。
「ふふ、なんでコハクの方がはずかしそうなのよ」
 ウブな子だなあと言いつつ手を止める様子はない。袖から腕を抜いてしまうと、ほれ、とシャツを家の中に投げてよこす。
 ぶわっと髪をあおられると、大きく広がったシャツが頭上を埋め尽くす。羽衣のように家全体を覆うと、シャツはしぼみながら 僕にまとわりついてきた。僅かに汗ばんだあかりの衣服は当然その香りが豊かに染み込んでいる。
「男の子の視線気にする女の人なんているわけないじゃん」
 あかりのお召し物と格闘する僕に、あかりはクスリと笑うだけだ。
「そんなの気にしてたら外なんて歩けないよ、そうでしょ? キミもいちいち反応してたら疲れちゃうよ?」
 その通りだとは思う。でも、たとえば今僕の手足に巻き付いているこの布になんとも思わないなんてできるわけがなかった。この香りは男の子を掴んで離さないためのもの、そしてこれほど高濃度となれば、もう心臓が痛いほどに鼓動を速めてしまうのも必然というものだ。服に、いや、肌にまでかおりが染みつくのは間違いない。そして、こんなに頑張って尚僕を苦しめているのがたかがシャツ一枚というのが、服従感をあおった。狭いな、と思ったら、どうも袖の中に入りこんでしまったらしい。嘲笑のようなあかりの声だけが耳に届く。飛び切り薫り高く重く湿った脇の辺りを抜け、ジタバタとトンネルを抜けると、何とか涼しい外気に辿り着くことができた。
 見上げると、あかりはスカートを脱ぎ捨て、キャミソールをたくし上げているところだった。太ももの付け根が僕を見下ろしている。ショーツのいちばん底の辺りが僕の視界に飛び込んできた。そして、白いおなかが見えたと思うとあかりはすっかり下着姿になってしまっている。見惚れるほど美しく滑らかな姿。そして後ろを向きあかりが着替えを探し始めると、ショーツをぱんぱんに張る大きなお尻がこちらに突き出てきた。
 そして呆然と僕が見上げているうちに、あかりは手早く着替えを終え、ゆったりとした服になっていた。
「ん?」
 あかりはニコリと笑うだけ。そして軽い素振りでシャツを拾い上げると、僕はシャツの上から転げ落ち、げっどの上に投げ出された。
「アハッ! 見ていてコハクは本当に飽きないよ」
「それはよかった……」
 僕はすっかり疲れてベッドの上に転がっている。
 膝を折ってこちらを見下ろすあかりを見ながら、ここは女の人の世界なんだなと改めて思った。男の子は添え物で、どんなに頑張っても女性の心を動揺させたり戸惑わせたりなんてできない。
「あ、これ頑張れば入れそう。……よっ、と」
 思いついたように、あかりが大きな足を踏み入れる。
「わ、危ないよあかりさま」
「コハク、危ないからちょっとはじっこ寄って」
 お構い無しに僕の箱で遊ぶあかり。そして僕を跨いで座り込もうとする。慌てて隅の方に寄った。その大きなお尻に敷かれたら大変なことになる。
「あはっ、入った入った! お邪魔しまーす。もう、私でいっぱいだね」
 もちろん男の子の巣箱など、女の人が入ればパンパンだ。その長い脚は女の子座りで床全体を占領し、僕はその膝の間に挟まれてしまう。壁はその肩までしか隠せていなくて、僕のベッドやらは巨人にのしかかられて悲鳴をあげている。
「なんだかこんなに狭いところで二人だと、ドキドキしちゃう。君には十分すぎるほどおっきな部屋なんだよね。七畳以上はあるのかな? 私一人も入りきらないけどね」
 顔を近づけて囁かれる。あかりの胸が太ももにくっついて、小さく畳まれたあかりの体は今度こそ箱の中に入り込むことができた。
 そして、パタン、と箱が閉じる。
「え?」
 あかりが振り向こうとする。けれどもう箱の中に彼女は閉じ込められていて動けない。
「やばっ、ちょっとこれ、狭い……!」
 それは僕も一緒だ。あかりの膝に挟まれ、その胸の上半分も僕を壁に押し付けている。頭上にすぐにあるのはあかりの顔だ。その呼吸が髪をくすぐるほど近い。
 あかりは、部屋の中で大きかなってしまったアリスのようだった。壁や天井に手をついて、窮屈な箱の中でなんとか僕を潰さないように体勢を維持してくれている。身動きも取れないのだ、踏ん張っていないときっと僕をその体でぺちゃんこにしてしまう。その体温が箱にこもってとても暑い。焦った分より暑くて、鼓動が速まっているのがわかる。
「どうしよう……。ね、コハク、あおねぇ呼んできてくれる? うー、でもこんなおバカなとこ見られるの、恥ずかしい……」
 ごめんね、とあかりに頼まれる。僕はご主人の指示に従い、なんとかあかりの膝から抜け出そうともがいた。けれどそうするとあかりの胸に顔をうずめることになってドギマギしてしまう。
「ひゃっくすぐったいっ!」
 あかりが耐えきれず笑ってしまう。そのショートカットがサラサラと壁を擦る音がした。早くしないと苦しそうだ。申し訳ないけれど、今は我慢してしまう他ない。
 僕はあかりの太ももと胸の間に挟まれながら、なんとかドアの方に這っていく。でも、すごい圧力。あははっとくすぐったくて笑うあかりの声に体が震えて、僕もくすぐったい。
「やだ、でコハク潰しちゃってる……」
「あかりさま、余計恥ずかしくなるから言わないで……」
 顔を真っ赤にしながら懇願する。重い乳房にのしかかられて、どうしても意識してしまうのだ。ただでさえ濃いあかりの匂いを直接吸って、もうクラクラ。急がないと僕も動けなくなりそうだった。
「……やった!」
 なんとかあかりの体から抜け出す。太ももで押さえつけられたドアをあかりに開けてもらって、涼しい外気の中に飛び出した。
「あおいさま! あかりさまが……!」
 スケールの桁違いな女の人の部屋の中を走り出す。さっきまでの景色が嘘みたいだ。作られた場所から、本来の世界へ。椅子の下を通り、フローリングの境目に足を取られたりして、二人の部屋のドアをノックする。
「どうしたの?」
 幸い、すぐにあおいは気づいてくれた。
 スカートの裾を引っ張って涙目の僕に目を丸くしている。
 そして、僕の箱に大きな歩幅で歩み寄ると、
「え……、あかりちゃん……?」
 箱の蓋を開けて、箱に閉じ込められたあかりを見つけた。
 あはは……と、照れくさそうにあかりは笑うばかりだ。
 あおいは腕を掴み、顔を赤くしながらあかりを持ち上げて引っ張り出す。家全体が悲鳴を上げ、僕は呆然と巨人たちの戯れを見上げるしかない。対等な大きさの女の人同士が動いているのだから、その光景は迫力いっぱいだった。
「あっ」
 あかりが声を上げると、バキッと家の壁に亀裂が走る。そしてなんとかあかりが箱から引っ張り出されると、家はすっかり壊れていた。
「あーあ……」
 困ったように二人が足元の箱を見下ろす。
「ごめんねコハクー」
 あかりは足元の僕に謝った。
 内心、あかりに密着されてちょっと嬉しかった僕は謝られると弱ってしまう。
「後でお詫びするからね」
 そう言って僕に笑いかける。
「ばか……」
 あおいはコツリとあかりの頭を小突く。
 けれど、もっと怒られると思っていたあかりはアレ?と拍子抜けした様子だった。
 そんなあかりにあおいは溜息をつきながら
「まあ、このお家を使うくらいだったら放し飼いの方がいいかなって思ってたから」
 そしてあおいが両手で僕の胴を包むと、持ち上げてくれる。そして胸元に抱き込んで、ソファの上に腰を下ろした。
「やっぱり一緒がいいかなって。でもコハクちゃんはとびきりちっちゃいから、気をつけて? 私たち、気づいてあげられないかもしれないもの。ね?」
 膝の上に僕を乗せて言う。
「猫みたいに飼うのが普通だもんね。ごめんね、こんなにちっちゃい子貰うと思ってなかったから色々準備不足になっちゃった」
 となりに座りながらあかりが言う。
 それからあおいが足下に僕を下ろした。
「コハクちゃん、本当に気をつけて、ね?」
 その心配ももっともだ。
 二人の膝を見上げて、僕はそう思う。大写しの二人の脚、そのさらに向こうから二人は僕を見下ろしている。この四本の脚をかいくぐって僕はこれから暮らすんだ。巨人との暮らし。ジャックと豆の木のように、僕は巨大な女の人の家の中に住むことになる。二人にとっても、足下をちょこまかと走る鼠のような僕のことは不安だろう。気を遣ってくれる愛情がないと選べない選択だった。
「これから全部一緒にする、ね? やっぱり箱の中でしかコハクちゃんを見れないの、つまらないしね。大丈夫、私たちがお世話、してあげる」
「大丈夫だってあおねぇ、犬や猫だってこうして飼えるんだから」
「でもコハクちゃん、犬や猫よりちっちゃいんだよ? それに高く跳んだりできないし、弱いし……」
「あ、そっか」
 うーん、と考えるあおい。
「やっぱり、こないだ買ったアレ、使った方がいいんじゃない?」
「で、でも嫌だよきっと……」
「でも、どっちがコハクのためかわかんないし」
 しばらく僕に視線を落として、あおいは遠慮がちに頷いた。そして立ち上がる。僕がよけるとトタトタと歩いて言って、何かを手に戻ってきた。
「コハクちゃん、おいで」
 ぺたんと座って手招きする。僕を見下ろして、遠慮がちに何かを首に回した。
 鈴付きの首輪だった。
「や、やっぱり嫌だよ、ね。ごめんね、今外すから……」
 すこしそれに手をやってから、僕は首を振った。
「大丈夫。キツくないし、綺麗だから」
 いいの? と髪を揺らしてあおいは小鳥のように首をかしげる。
「コハクちゃんが良いなら……。うるさかったら止められるし、好きな時に外してね? 悩んだんだよ? コハクちゃんは一応人間だし、これじゃ完全にペット。でも、やっぱり心配だから……。ごめんね。首に跡がついちゃうから、あまり長くつけちゃダメだから、ね?」
 気遣わしげにあおいが言う。
 うん、と頷くと、リンと鈴が鳴った。
 もちろん僕だって、首輪に抵抗はある。他所だったらきっと拒否したはず。自分でもすこし不思議なくらいだ。でも、嬉しく思ってしまったのだから、きっとこれで良いんだと、そう思う。
「一生懸命選んだんだ。でも、コハクの好きにするんだよ?」
 あかりが、あおいと同じようにして僕の背後に座り込む。ぽんぽんと頭を撫でて、後ろから抱きしめてくれた。鈴が鳴る。僕はその柔らかい抱擁に心から身を委ねた。二人の弟のような、子供のような、ペットのような。よくわからない特別な関係。でも、愛されているのは本当だった。嬉しい。頰をあおいの胸元に寄せる。
 そんな甘えた子供のような様子にクスッとあおいが笑うと、いたずらな顔で僕ごとあかりを抱き込む。二人の体に挟まれる。きっとこれから何度も繰り返されるんだろう、からかい混じりの愛情表現だった。二人のクスクス笑いが体をくすぐる。お腹や胸に挟まれてちょっと息苦しい。見せつけるようにその圧倒的な体格差を感じさせられて、香りで包まれて、それが双子のご主人さまの愛し方なんだとわかった。
 そして、二人はベッドに腰掛ける。
 やっとひと段落。
 そう言った感じだ。
 あおいも普段の日常に戻るのだろう、
「私疲れちゃったから、ご飯の準備、代わってくれる?」
 そんなことを言い始める。
「えー」
「コハクの家壊したの、誰?」
 こればかりはあかりも反論できない。渋々部屋を後にした。
 そしてごろっと寝転がると、あおいは僕の方に体を向ける。
「私お昼寝するから、コハクも休んでてね。……踏まれないように、気を付けて。ね?」
「うん」
 寝返りを打ったその巨躯に下敷きになる自分の姿が、嫌でも目に浮かんでくる。
 よかった、とつぶやくと、葵は目を閉じた。
 ほどなく、か細い寝息が聞こえてくる。
 途端に僕は手持ち無沙汰だ。
 あかりを待つしかない。
 そして、僕もとろとろとまどろみ始める。
 今日一日のめまぐるしさが眠りかけの頭の中で回りはじめ、奇妙な夢へと緩やかに変わっていく。
 同時に胸に広がったのは、長い長い不安が拭い去られた安堵だった。やっと、誰かに貰うことができた。それもこんな素晴らしい飼い主に。
 そんなゆるゆるとした午睡。
 そこから僕を引き上げたのは、あかりの声だった。
「ご飯できたよー」
 元気なあかりの声に、僕はパチッと目を覚ます。
「あ、起きた」
 見ると、目の前であかりがこちらに屈みこんでいる。
「あおねえは……、まだ起きそうにないね」
 そして僕の隣に座る。大きく撓むマット。僕はその太ももの元へと転がり落ちる。そんな小人を、あかりは膝の上に乗せてくれた。
 ゆすってみても姉は起きない。あかりは手慰みに僕のお腹を撫でながら、退屈そうに待つだけだ。
 なんとなく、嫌な予感がした。
 だって退屈した悪戯好きの飼い主が、何もしないわけがない。
「あおねえ起こすの、コハクも手伝ってよ」
 僕はポン、とお尻の上に乗せられる。
「あはっ、コハクあおねえのお尻よりちっちゃいんだ。あ、ジッとしてるんだよ? あおねえつつくとすぐ起きちゃうから」
 抑えきれない笑いを漏らすあかり。僕はうつ伏せで、臀部の谷間に埋まるように乗っかっている。忠告に身じろぎも出来ず固まっているのが滑稽なのだろう、あおいは喉を鳴らして笑っていた。
 大きなお尻は肉厚なものだから、その丸みにそって僕は張り付く。正直、フカフカしていて寝心地はすごく良い。お腹はスカート越しにお尻と触れているものだからあったかくて良い匂いがして、胸の高鳴りは押えられそうにもなかった。僕は二つの山にみっちり挟まって、外からじゃ隠れてしまうほどだ。
「んん……」
 あおいは眠りを妨げられ不満の声を漏らした。具合を確かめるように少し脚をすり合わせるものだから、揺れる尻たぶに揉まれて沈み込む。
「……?」
 あおいは体を起こした。持ち上げられると、すぐに僕は滑り落ちる。
 ふっと影がさした。
「え?」
 ベッドにバウンドして見上げれば、座り込もうとしているのだろう、視界いっぱいにあおいの尻が広がっていた。安産型で重そうなお尻、それがこちらめがけて落ちる。洋梨型の体、その最も質量のある膨らみが、凶暴な肉感とともに降ってきたのだ。
「わっぷ!」
 巨尻から逃げることもできず完全に下敷きにされてしまう。どっしり重い柔らかさが、僕を飲み込んで広がった。パンティラインを感じながら僕は生尻にめり込み、その谷間に圧迫されて動けずにいる。
(こ、声が出ない……!)
 パツパツに張ったパンツを顔に押し付けられて、あおいを呼ぶことさえ難しい。いや、叫べたとしてもそのお尻は大きくて、それぞれ僕では覆いきれないほどの尻たぶ二つに阻まれてしまえば外に声が届くはずもなかった。サイズが違いすぎる。その体に下敷きにされては、もう脱出なんてできやしなかった。
「わっ! コハクがっ、あおねえの……あははっ!」
 あおいは眠そうで気づいてくれない。あかりだけが頼り。でも当の彼女は笑いすぎてそれどころではない。
 肉のクッションが僕を包み込む。女の子のお尻はでっかくて、重量感に押しつぶされるとなぜだか気持ち良い。普段は優しいあおいも、気遣ってくれなければ危険な巨人だ。女の人に、男などと言う矮小な存在が敵うはずもなかった。桃のように丸く弾力ある臀部に敷かれ踏み潰されて、僕はクッションがわりに座られ続ける。
「あかりちゃん……?」
 寝ぼけた彼女がふんわり尋ねる。
「あおねえ、お尻、踏んでるっ、ふふ……!」
「お尻……?」
 後ろ手にお尻を触れながら、訝しむ。そして指先、ほんの指先が、谷間の中に埋まった僕を触れた時、彼女は慌てて飛び起きた。
「きゃあっ!? こ、コハクちゃん大丈夫っ!? えっ私踏んで……やっ、踏み潰しちゃった……?!」
 ぺたんこにされた僕を前に動揺するあおい。なんとか僕は起き上がり汗に濡れた額を拭うと、あおいも胸を撫で下ろしたようだった。
 それからカァッと赤面する。
「私お尻おっきくて、いやあの、えっと、ご、ごめんね? 重かった、よね?」
 恥ずかしがりながら、どうして良いかわからなさそうに屈み込む。たった今尻で轢いていた小人に、羞恥で顔を赤くして話しかける。弱々しげなその態度が、先ほどの凶暴な重量感と対照的だ。
「あおねえ、そんなに心配しなくても小人は簡単に潰れないよ! 消しゴム踏んだようなもんだって、平気平気」
「あかりちゃんっ、危ないからこんなのダメっ! コハクちゃん怖がっちゃうでしょ? こんなに非力なの、いじめちゃダメ! 私、怒っちゃうよ?」
「ごめんごめん、あおねえそんなに怒んないでよ」
 あかりは軽くいなすように手を振る。そして耳打ちするように僕に囁く。
「ねえコハク、今度あおねえと尻相撲なんてどう?」
「ッ、あかりちゃんっ!」
 真っ赤になったあおいの声が響いた。

 双子の日常の中に投げ込まれたのだから、当然ご主人の交友関係にも巻き込まれることになる。
 ある日、二人が友人を連れてきた。
「わーちっちゃいー! うちのペットの半分くらいしかないんじゃない?」
 双子を含め五人、ずらりと僕を囲んで聳えていた。考えてみても欲しいのだけれど、一人でも威圧感を与える女性が五人、見知らぬ人も交えて自分を囲んでいる状況だ。それがどれだけ怖かったか。正座になり、折りたたまれた膝だけで僕の胸元まである。制服のスカートの中は丸見え。でも、男性に対する羞恥などとっくに廃れた感情だ。犬に何を見られても気にしない。むしろ、恥ずかしがる男をからかうほどだった。
「靴下に入っちゃうんじゃない?」
 なんてケラケラ笑う。試しに、と一人が立ち上がって僕の上にまたがった。当然、膝にさえ見下ろされる僕はスカートの下、ふくらはぎに体を挟まれるばかり。スクールソックスに包まれた足は、僕の頭上、手の届かないところでようやく地肌を見せている。強靭な少女の脚は筋肉質で、このまま踏まれはしないかと心底怖かった。
「ちっちゃーい!」
 もう一人が歓声をあげる。あかりとあおいが優しいだけで、女の人はこれが普通なのかもしれない。母性本能にすこしの嗜虐心。だから、ひょいとつまみ上げ僕を太ももに載せるけれど、少しずつその間に落ちていく僕を笑ったりするのだ。
「ほーら、早くでないと出られなくなっちゃうよー?」
 余裕たっぷりに囃し立てては友人らの笑いを誘う。少女の肌は驚くほど滑らかだから、蟻地獄のように僕の体は埋もれていく。スカートにかろうじて支えられていた頭はずり落ちて、仰け反る体。目の前には股間を包む巨大なショーツが間近に広がっていた。そして、ストンと太ももの間に滑り落ちる。
「これ、隠れちゃうんじゃない?」
 パタンと脚を閉じて僕を腿の中に閉じ込める。ぎゅうぎゅうの足の中。体全てが取り込まれて微塵も動けない。
「こらこら、私のコハクに意地悪しないでよ」
 あかりが叱りつけて、ようやく僕をすくいあげてくれた。守るように僕を腕の中に囲い込む。その様すら、彼女達の笑みを呼ぶようだった。
 あおいは心配げに見守って、しばらくするとあかりの腕から僕を抱き上げた。離すまいとするように強く僕を胸にうずめる。嫉妬? 不安? よくわからない。でも、僕が容易に連れ去られていくのが、あおいの心をざわめかせたようだった。
 友人らが帰るまで僕は強く抱かれて、その頃には飼い主の莫大な熱量にすっかりのぼせてしまった。
「怖かったよね、ごめんね、見てることしか出来なくて……」
 引っ込み思案な自分を、責めているようだった。
 僕は否定した。飼い主を困らせるなんてあってはいけない。けれど飼い主として、あおいは責任を感じているようだ。
「色々教えてあげないと、ね。男の子は弱いから、教えてあげないと……」
 そう口にする。
 それからしばらくの間、折に触れてあおいは色々なことを教えてくれるようになった。身の守り方、犬や猫からの逃げ方、女の人に蹴飛ばされない方法。
 それでもあおいが不安げなのは、僕が直接性的なからかいをされたのを目にしたからだった。そうした刺激を知らない僕の心に、あの人の姿が刻印されてしまうのが怖いらしい。
 あおいの優しい執着心が、すこし芽生えた瞬間だった。
 そして、あおいは口を開いた。
「実技、教えてあげる。不安だよね、怖いよね。でもこれもコハクちゃんの役目だから、やらなきゃ、ダメだよ。今だけは怖くても怯えても、逃げちゃだめ」
 突然のことだ。あおいはすっかり雰囲気を変えて、別の女の人みたいだった。相変わらず優しげな顔。でも、僕を食べてしまいそうな顔をして、僕の前にそびえ立っている
「逃げたくなんてないよ。あおいさまのためなら、何でもする」
 僕はベッドの上に座り込んでそう言う、けれど、本当はほんの少し怖かった。いつものあおいと違っていて、何をされるか全くわからない。けど同時に、普段見せない圧迫感が僕を虜にしてもいた。
「いい子だね。そっか、実技はまだ教わってなかったんだっけ。……あのね、これは決まりなの。もう、女の人同士で子供はできるようになったけれど、でもまだまだ男の子は子作りのために奉仕しなきゃダメだから、ね。やっぱり女の人は男の子が好き。それに、好きじゃなくても気持ちよくしてくれるなら大歓迎だもの。私たち、コハクちゃんをパートナーにするために買ってきたんじゃないけれど、でも、なにより小人さんなんだから、これはコハクちゃんの役目なの。嬉しい? 嬉しいよね。だって、コハクちゃんはわたしたちのものだもんね」
 屈み込んで、よしよし、と頭を撫でてくれる。刷り込むように繰り返して、僕を従わせる。
「あかりちゃんには内緒ね? 今はコハクちゃんを独り占め。私だけがコハクちゃんのご主人様」
 シーッと、子供にするように指を立てて言う。
 頷く僕にニッコリと笑うと、言葉を続けた。
「コハクちゃんは良い小人さんね。無理やり嫌なことさせる人もいるけど、私たちにすっかり虜になったコハクちゃんなら、そんな酷い人にならなくて済みそう。優しくしてあげる。怖かったら言ってね? 止めてあげる。……止められたら、だけど。ね、コハクちゃん?」
 あおい様はクスッと笑って僕を見下ろす。蠱惑的な表情。やっぱりあおい様だって女の人なんだ。母性の塊だけれど、本能的に小人の上に君臨するのが好きで、すこし嗜的なのだ。小人も、そんな女の人が好きだと本能に刻み込まれてる。だって小人は女の人の奴隷だから。服従の喜びに抗うことなんて、出来っこない。
「始めるね」
 僕の前に足を差し出す。
「まずね、足の甲にキスするの。実技は男の子の役目。でも、女の人がいないとできないよね? 存在価値は私たちに依存してる。だから、よろしくお願いしますって、生きる価値をくださいって、女の人にお願いするの。当たり前、ね?」
 いつものあおいは居なくなって、妖笑する女の人が僕を見下ろしている。僕はおずおずと近づいて、そのほっそりとした巨大な足に、口づけをした。
「いい子、コハクちゃんはいい子だね。次はね、女の人の体にもお願いするの。愛してくださいって奉仕して、受け入れてもらえるのを待つの。男の子はちっぽけな存在だから、当然のこと、そうよね? 脚に、太ももに、内股に、お腹に、おへそに、谷間に、鎖骨、首筋。服の中に潜って、虫みたいに這い回って、それからキスしてもらえるのを待つの。そして、ブラの中でおっぱいに聞くのよ、良いですか、こんな矮小な小人でも触って良いですかって、手で触って、食んで、悦んでもらえるまでお願いしなさいね? もうわかるよね。コハクちゃんは私たちがいないと生きられない。生きる意味も私たち次第。女の人は男の子の比べ物にならないほど偉い。もう赤ちゃんは女の人だけでできるんだよ? 男の子はね、生かされてもらってるの。知ってるよね、たくさんお勉強したもんね、女の人に奉仕するために。私たちはお姉さん、ご主人さま、女神さま。コハクちゃんは、弟で、ペットで、奴隷。いてもいなくても良いけれど、私たちの慈悲で生かされてるんだよ。お願いするのも畏れ多いの、わかるよね? でも良いの。コハクちゃんだから許してあげる。そんな私たちに奉仕するなんて、本当に本当に当たり前のこと。そうだよね? ね?」
 頭に直接擦り込むような言葉。思考は麻痺して、僕はその言葉に頷くばかり。生まれた時から教えられてきたことを、あおいは僕のために繰り返してくれた。習った通りに、足に抱きついて、服従の意を示した。あおいは足の指で優しく頭を撫でてくれる。それから僕は、特別にベッドの上に乗せてもらう。従順な僕。そんな小人に慈愛の笑みを投げかけてから、あおいはゆっくりベッドに身を横たえた。神々しいくらいに美しい肢体。乳白色に眩しいお肌、起伏に富んで、はだけたワイシャツのあいだにから覗く素肌、黒いランジェリー。どれも僕にはもったいない。こんなお体に触れて良いなんて。敬慕の念が湧きあがった。
 僕は陶器のようなおみ足に手を添えて、敬意を込めて優しく撫でた。それから、唇を添える。それを足首にも、脛に、ふくらはぎに、繰り返していった。賜った慈悲に感謝して、その畏敬を言葉にして。肌が触れるだけでふるえてしまう。続けているうち、蕩けて溶けてしまいそう。くすみなくつややかな素肌。触れるだけで気持ちいい。見るだけで目が暖かい。頰を擦り寄せてもいいんだ。むっちりとした太ももに抱きついて、抱きしめて、頭をうずめてから口づけすることまで許していただいている。とてもとても光栄なこと。本当に良いの? こんな僕なのに? あおいは僕なんか比べ物にならないほどずっと上の存在なのに? でも、あおいは僕を眼差して、優しく微笑んでくれている。いいんだ。肌に触れても。好きなだけ抱きついても。キスしても。僕はありったけの気持ちを集めて、内股に奉仕する。
 そして僕はシャツの中に潜り込んだ。あおいのお腹は僕にはダブルベッドのように大きい。そこに小さなキスをする。僕のささやかな接吻はくすぐったいはずだ。肌が堪えるようにキュッと縮んで、僕をすこし揺らす。続けておへそに這って行った。指でスッと撫で撫でたパン生地のように、その線は滑らかだった。そこに頭を寄せると、お腹の中、血流と内臓の音がすこし聞こえる。くびれたお腹なのに、その胃でさえ僕はすっぽり包まれてしまうだろう。寝袋、ゆりかごのように僕を飲み込むに違いない。
 濃い香りの中、そんな光景を思い描く。すると、シャツが突然僕にまとわりついた。あかりの手だ。僕ごとお腹を撫でているらしい。奉仕する小人なのに、気遣ってくれるのだ。布地が僕を包む。服の中にいる、そのことが強く意識された。ふと頭上を見れば、大きなお餅のような乳房が二つ、服を押し上げそそり立っていた。重さと柔さで少し平たくなっている。あそこにたくさん触れさせて貰うためには、もっともっと許しを請わなければならない。
 体をあおいのお腹に擦り付けながら僕は肌の上を這い回って行く。まるで虫の気分だ。たなびくようなシャツの天蓋は幻想的で、少し進むごとに現れるあおいの素肌は綺麗で、鼓動は速まってやまない。乳房は服の中に無理やり押し込まれていて、僕の行く手を阻む。僕は蒸れた谷間に頭を突っ込んで、通してもらえるよう繰り返し願った。耳は、たくさん綿の詰まったクッションに挟まれたみたいで、乳房をめぐる血管の音が流れ込んでくる。ミルクが揺れて立てる水音さえ聞こえそうだ。鼻先はあおいの谷間に押し付けられてなんとか呼吸をしている。そして、少しあおいが胸元の服を引っ張ってくれたおかげで、僕はその間を通って行くことができた。
 顔が外気に触れる。胸元の開いた女の人のシャツは、小人一人を首から通すことなんて容易い。目の前には一メートル以上にも見える可愛らしいあおいの顔があって、優しく僕を目差していた。少し瞳は潤んで、唇が艶やかだ。まだまだ前戯。僕は鎖骨や首筋に吸い付く。すると、あおいは喜んでくれたのか、すこし甘い吐息を漏らす。鎖骨の窪みや肩の上が性感帯らしい。頑張って僕はそこを刺激した。すこし地面が揺れ動く。あおいがこちらを見下ろして、その肉厚の唇を近づけてきていた。
 顔がピンク色でいっぱいになる。そして顔全体に湿った吐息がかかり、唇のシワさえ瞼に触れると。
 僕の顔はその中へ深く沈み込んだ。唇の間に顔がはまったと思うとすぐに顔中を柔らかな肉の感触が埋め尽くす。もちもちと果てしなくとろけるような柔い海。それに向かい入れられると、奥から覗く暖かな舌に頬を撫でられ、唇をこじ開けられ、滴るその蜜を注ぎ込まれる。
 やさしくあおいは僕の頭を包み、そしてだんだん激しく、貪るように僕に接吻した。女の子の巨大な唇に求められることが、こんなに胸を温めるなんて。多幸感が僕の中に押し寄せた。
 あおいは、僕に慈悲を与えてくれたようだ。僕に、奉仕の恩恵に服することをゆるした。その証に、シャツのボタンを一つ一つ解いていく。羽衣のようなそれをふわりと開くと、そこにはあまりに綺麗な乳房が二つ。その母性的な輪郭は自重でわずかに平たくなって重量を感じさせ、薄紅色の乳首がその頂点をほんのり色付けている。マシュマロのような乳白色の中に、今すぐ溺れたいと思った。
 僕は大きなクッションに似たそこへ体を沈める。乳房に独特の、あの柔らかさが全身を覆った。これだけでも体を痺れさせるには十分、剰えそのミルクのような白さ、花のように香るフェロモン悩ましくなる吐息と血流、心音に襲われるものだから、もうどうしようもないほど僕の体は敏感になっていた。乳首にキスをする。ピクリと動くその大地。胸の先で弾力を増す乳首が口の中で膨らみ、僕は顔を色素の薄い乳輪へと圧しつける。効果は覿面で、あおいはとても悦んでくれたようだ。自らももう片方の膨らみを摘まみ、股に手を添える。二の腕に押し付けられた乳房が僕を乗せたまま他方へと寄せ付けられ、共に僕の背と腹を挟み込む。素肌は僕には刺激が強すぎて、少しそこへ擦り付けると、あっさり果ててしまう。そして思わず口の力を強めたせいで、あおいは跳ね上がって僕の奉仕に反応した。柔らかに動く白い肌は、僕の眼も肌も犯し、あまりに早く更なる高揚感をもたらした。このまま僕は、最後の一滴まで絞り出されるのだろう。もう、動き出した巨大な彼女を止める術などない。
 あおいは只管僕に乳首を食まさせ、吸わせた。まるで赤ん坊のように。僕の五倍もの体躯を誇る彼女は、その乳房一つでさえ僕の体重とそう変わらない。その丸い母性へと奉仕を続け、舌は甘味さえ感じ、僕の口に幸福を叩き込む。
 夢中で乳房を吸い続ける僕をあおいは笑った。
「コハクは本当に矮小な存在だね。女の子のおっぱいを吸い続けるなんて恥ずかしいこと、そんなに無中にしちゃってる。コハクは小っちゃくて、私は大きいの。ちびすけなのに私の胸を触らせてもらえて、嬉しくてたまらないのね。私からコハクがどんなふうに見えてると思う? 自分の胸にちっちゃなからだを乗っけて、ちっちゃな口で私の大きな胸にすいついて……。ねえ想像してみて、ちっちゃなちっちゃな小虫さん。私のおっぱい一つより軽い小虫さん……」
 そして強く僕を両乳房で挟み込む。僕はその間で揉みくちゃにされて、まるで子犬のような声で鳴いた。気持ちが良すぎて、頭がパンクしそうだ。
「わっ、恥ずかしい声。お股が気持ちよくて、壊れそうなのね。出ちゃいそうなんでしょ? 開放してほしいんでしょ? 柔らかくて重くて気持ちいい、私の胸が怖いよね。でも助けてあげない。私に裏切られて、気持ちいいのやめてもらえなくて、かわいそうな子。普段の優しいご主人様はどこかに行っちゃって、怖い女の子につかまっちゃったね? ふふっ、お顔に余裕がなくなって、涎垂れちゃってる。切ないの止まんないねえ。ほら、出しちゃえ、出しちゃえっ!」
 ギュウっと僕に絡みつく柔肉、その双丘に激しくしごかれて、僕は再び情けなく射精させられる。僕をいじめた凶悪な乳房に、力なく倒れ込む。けれど、あおいはやめてくれない。
「まだまだダメだよ? 私のこともっと楽しませるの。それがあなたの役目。飼い犬の義務。ほら、ご主人さまに奉仕して?」
 僕の強大な飼い主は、僕を摘み上げて股間の前へと立たせる。腰が砕けそうだけれど、なんとか僕はあおいの陰部へと体を沈める。綺麗なピンクのその場所は、すでに濡れ切って僕を迎えた。お腹から顔までが、愛液にまみれる。僕を食べようと、待ちわびていたのだ。ぷっくりとした盛り上がりが僕を舐めまわす。
 僕はそこへ服従し、体を擦り付けた。小さな陰部も、僕にとっては巨大な割れ目だ。淫らな唇を撫でまわし、抱き着き、少しずつ内側を擦っていく。あおいが手を伸ばして、顔の顔を無理やりクリへと圧しつけた。あふれ出す甘い蜜が僕を溺れさせ、陰核で何度も口をこじ開けられる。
 そして。
「んぅ……。入ったぁ……」
 僕の頭をナカへとねじ込んだ。肩までを呑みこまれ、その膣という口内に咥え込まれた僕は、割れそうなほどに頭を締め付けられる。あおいはその滑稽さに笑った。そして、何度も何度も僕をねじ込み、奥へと押し込む。息をさせて、もう一度。ディルド代わりにされるご奉仕。それを嬉しくないとは、とても思えなかった。その強引さとあおいの巨大さを感じるたびに、切なさがこみあげてくる。そしてあおいが僕を股間に押し当て、撫でつけた時。僕は三度目の絶頂を迎えさせられた。
「あれっ、もう出ちゃったの?」
 あっけなく手の中で萎れる僕。あおいは不満げに溜息を漏らす。
「もうっ、ご主人さまをおいて自分だけ気持ちよくなるなんてダメじゃない。仕方ないなあ、じゃあ……」
 グラっと地面が傾いた。そしてベッドへたたきつけられる。見上げればあおいは膝立ちになって、僕を見下ろしていた。
「いくよ?」
 ズドンッ、と衝撃。僕の上にのしかかってきたのだ。あまりに不格好な騎乗位。腰を浮かせてくれてはいるけれど、圧し掛かられていることにはかわりない。
「アハッ! コハクが私のアソコで隠れてる! 小っちゃいね、弱っちいね。……えいっ」
 そして腰を滑らせ始めた。ひねり出されるように悲鳴とも喘ぎともつかない声が喉から漏れる。
 グチュグチュとリズミカルに僕の上を舞う巨人の体。女の子の圧倒的な質量と柔らかさに嬲られ続け、僕は全てを絞りだされる。何度? 何回も、何回も。恐ろしい巨人と化した彼女は、まるで僕を道具のように扱い続けた。僕に誰が主人かを叩き込むように、僕に股を叩きつけた。それがどれほど続いたか、僕にはわからない。
 朦朧とする意識。そしてひと際大きな波が僕を襲い、津波のように蜜が降り注ぐ。
「ッはぁ……。イっちゃった……」
 それがあおいの声だと気づくことなく、僕の意識は落ちていった。

 翌日起きた時真っ先に目に飛び込んできたのは、いつもの優しく柔和なあおいの顔だった。まるで昨夜と同じ人とは思えないその顔で、心配そうに僕を見下ろしている。
「お、起きたっ。良かったぁ、起きなかったらどうしようって怖くて……」
 そういって小さく胸をなでおろす。僕はすっかり身ぎれいにさせられて、その膝の上に乗せられているようだ。
「えっと……、こ、コハクちゃん、ごめんね? 昨日、なんか変なスイッチ入っちゃって……。その、怖かったよ、ね? これからは気をつけるから、嫌いにならないで欲しい、かな……」
 不安そうな顔をする。僕はかぶりを振った。別に気にすることはひとつもないのに。そう思った。同時に、やっぱりあの人はあおいだったんだな、と気付かされる。
 僕らが玩具のようなものだというのは、散々教えられてきたことだ。それに、あおいは聞いていたよりもずっと優しく使ってくれた。昨日は少し怖かったし、乱暴に扱われたのも確かだけれど……。でもそれは当然のこと。女の人はそういう存在だ。僕が小人であるように。
 僕の反応を見て、安心したようにホッと息をつく。
「埋め合わせ、させてね」
 そう言って頭を撫でてくれる。
 今日一日は、飛び切り優しく接してくれるようだった。
 けれど、そんな特別扱いが、あかりを勘づかせてしまったのだけれど。

 それは夕食後のこと。
「私のも手伝ってよ」
 ふと、あかりがつぶやく。
「え?」
 あかりの部屋、彼女にもたれる形で僕は抱きかかえられていた。
 一緒に読んでいた雑誌をパタンと閉じて、僕の頭をなでる。
「あおねえとしたんでしょ? 実技」
 ニヤニヤとあかりが笑った。そして僕の顎を指先でくすぐりながら、胡坐の中に僕を閉じ込めてしまう。
 丸く僕を抱えたまま、ゆらゆらとあかりは体を揺すった。
「ふふ、仲間外れはよくないよ? コハクは私とあおねえ、二人のものなんだから。二人の玩具は、二人に尽くさないと。ね?」
 そうしてひとしきり僕をからかったあと、不意にあかりは僕の耳を甘噛みし始める。大きく柔らかな唇が耳たぶを包み、あかりの吐息が頭の中に入りこむ。たまらずキュッと目をつむる僕をからかいながら、肩越しに舌先を僕の首筋へ這わせた。
「あはっ、これだけでもう大きくしちゃうんだね。私のしたいように操られて、なのに喜んでるの、まるわかりだよ? してほしい? してほしいの? ほら、お返事、言ってごらん?」
 喘ぎそうな僕の耳元をさらに責めながら、あかりはクスクス笑って吐息をかける。無意識に頷いてしまうのは、必然のこと。従順なペットに満足したように、あかりは僕を胸の中に抱いた。ゆったりと胸にうずめ、両乳房で僕をあたためてくれる。そのまま僕の頭をすっぽり両手で包むと、甘くキスを与えてくれた。パクリと僕を食べてしまいそうな唇で、僕の口をはみ、濡らし、舌先から蜜を注ぎ込む。味見するようにあかりは僕を舌で愛撫した。頬を、唇を撫で、粘膜の豊かなふくらみへと僕を溺れさせる。
「お返事、できたね。嬉しい? うれしいねー。弄ばれたいね? 無茶苦茶にされたいね? それがコハクのすべてだもんね」
 酸欠と酔いに判断力を奪われた僕は、促されるままに肯定してしまう。子供にするように優しく頭をなで、「始めてあげるね」と囁いた。
 そして、目を輝かせる。
「まあコハクが嫌でも始める、けどっ!」
 ガバッとあかりが体勢を変えた。足を開いてお尻を落とし、その前に僕を立たせる。М字に僕を囲むあかりの生足。スカートはその丸い口を開いて見せ、黒いショーツが奥からささやかな光沢を覗かせる。そして僕の頭を手繰り寄せると、その中へと僕を圧しつけた。
「無力感、教えてあげるね?」
 太ももで僕の頭を包み込むと、両脚で僕の背をベッドへ組み伏せてしまう。全身があかりの下半身の中に潜り込む。髪はスカートの裏地で覆い隠され、脚全体があかりの裸足の下だ。頬を押しつぶされるほどに腿は僕の顔を挟み込んで離さない。鼻先はふっくらとした盛り上がりの割れ目へと入りこみ、口は強引に下の口へと押し当てられた。ショーツの奥からあかりの香りが、暖かさが、湿り気が忍び寄ってくる。太ももには汗が一筋、そしてもう一筋垂れて、僕の首筋を濡らした。肩は腿の中にうずまり、お尻は踵でしっかりと封じられている。こんなに全身があかりの下敷き。だのにあかりは窮屈そうに脚をまげて、僕を踏みつぶさないように足を浮かしてさえいる。微動だに出来ずに僕は陰部の中で喘いでいるのに、彼女はくすぐったそうに笑うだけだ。
「苦しい? くるしいねー。私のお股で死んじゃいそうだねー。でもまだだーめっ。苦しいのがきもちいいんだもんねー。巨大な女の子がいいんだもんねー?」
 全身があかりの足裏でなでられはじめる。足先の重量だけで、僕はベッドの中に深く沈みこみ、より多くあかりの陰部のなかへとうずもれていく。
「ん~~♪」
 嬉しそうに快感を楽しむあかり。そんな彼女に僕はどれほど情けない姿でのしかかられているのだろう。まるでどんどん体が小さくなって、その巨大過ぎる臀部に踏まれた埃のような気分だ。頭がパンクしそうになる。沸々と脳髄が湧き始めて、気持ちいい電流が流れ込み、ショートしそうになった。
 あかりはちょうどその時を待って、僕を股間から引きはがす。
「さ、ご挨拶はおわり」
 次は何をするか、教わったよね? そう言って僕の顎を足先で持ち上げる。
「復習のお時間。さ、がんばれがんばれ♪」
 僕はすこしまごついた後、あおいにしたように、そのつま先へ唇を合わせた。そして少しずつ、少しずつ、奉仕すべき場所へと近づいていく。あかりはアハッ!と笑いながらも、満足そうに僕を褒めながら待ってくれていた。
「えらいえらい! じゃ、本番、始めよっか」
 そして僕の胴を掴んで、持ち上げたところで、
「その前に。……あおねえ、そろそろおいでよ!」
 扉の方へと声をかけた。
 ギィ……と恥じ入るようにドアが開く。
 顔を赤くしたあおいが、立っていた。
 いつから見られていたのだろう。いつからあかりは気づいていたのだろう。すでにあおいは太ももに何やら一筋垂らして、服のすそを押さえている。
「仲間外れはよくないもん。一緒に、ね?」
 


 そして、双子の夜が始まった。
 寝そべるあおい、跨るあかり。僕は二人の股の間におおいつくされ、少しも見えない。
「ぷはっ! ちびっこいのを押し潰してキスするの、気持ちいいね! お股にあたって、胸に擦れて、もがいてるのがわかるもん。私たちがキスするだけでこんなに大変なんだから、その先もしたら……アハッ!」
 身を起こしながらあかりが言う。僕を挟んでの、二人の騎乗位。背中をあおいのお股に押し付けられて、僕のささやかなものは大きなあかりの下の口に飲み込まれている。真下から見上げるあかりは、遠近法で輪郭で大きな三角形を作るほどに巨大。そして僕の上に跨って、その全体重で僕を押し潰していた。脚をを開いて僕にお股を見せつけ、超然と笑っている。いや、あかりだけではない。控えめな笑い声をあおいも漏らして、その体で直接僕を震わせていた。巨人の体に挟まれている。恥ずかしくて思わず顔を覆った。
「可愛いよコハク。女の子の体で動けない惨めな男の子。こんなに軽い私で拘束されちゃうほど非力なの、いつもびっくりしちゃう」
 実際、僕はどんな風に見えてるんだろう。頭と上半身の一部だけ出して、ほとんどは股ぐらの中。僕よりずっと太く大きな太ももの間で恥ずかしがりながら動けない。しかもその下には大きな姉の肉体があり、美しいそのおへそまでも届かない小人を乗せてともに僕を挟んでいるのだ。まるで小さな人形相手に遊んでいるような感覚。その圧倒的な肉体で閉じ込めて、翻弄して、発情させているんだ。その優越感に満ちた笑みがよくわかる。そして、そこに含まれる、従順なペットに褒美を与えようという優しさ。
「じゃ、いくね?」
 ニヨニヨとあかりが笑って、腰を浮かせた。一瞬、股間の奥にお尻が見え、そして急降下する。
「わっ!?」
 突然降ってきた巨体と、陰部の擦れる快感に、悲鳴が出る。どうしよう、苦しいほど重いのに、すごく気持ちいい。僕をあおいの秘部に深く押し付ける、その莫大な質量さえ気持ち良かった。勢いよく押し付けられる二人の肉体にぴっちりと挟まれて、体は完全にその柔肉に包まれる。深く深くあかりの膣に挿入させられて、その側面を擦り上げる感覚はこれまで感じたどんな快感よりも強烈だ。そしてまたあかりが腰を浮かす。束の間の呼吸。そしてあかりの髪がふわりと広がり、乳房が浮くや、その肉体が落下してきた。
 衝撃で乳房がバウンドする。押し出される僕の呼吸。悲鳴とも喘ぎともつかない声が、肉体のぶつかり合う水音に混ざる。温かくて蕩けるようなあかりのナカ。あおいがその太ももの太さで守ってくれなければ潰れてしまうほどの質量で、そのナカをかき回される。背中もあおいの大陰唇にキスされて、肌がピリピリと痺れてしまう。巨大娘二人に食まれる快感。頭がショートしそうだった。
 あかりのショートヘアが浮き、乳房が揺れ、二人の嬌声が僕の小さな声をかき消す。リズミカルな巨体のぶつかり合いに巻き込まれ、二人の騎乗位の玩具にされて、無理やり感じさせられた。エッチなクチビルどうしのキスに挟まれて顔までびしょびしょに舐めまわされる。でもすごく幸せだ。こんな大きな女の人に愛されてる。双子で僕を使っている。嬉しくないわけがない。巨大なご主人様達のくれる快感のご褒美。四本のおっきな太ももの間、おっきなお尻の谷間に挟まれて全身を舐め尽くされる。
「あっ、やっ……! あかりちゃん、激しっ、ひうっ!!」
「あおねえかわいい……っ!」
 二人の甘い吐息が僕を包む。あおいも僕の体で感じてくれているらしい。あかりの動きと僕の体で敏感なところをせめられているらしく、初めての感触に身をくねらせている。あかりは汗をかいて、乳首の先に結んだ雫を乳房が僕に叩きつけた。背後でもあおいの胸が震えているのがわかる。あおいも鼠蹊部から汗を流して僕にそれを注ぎ込む。小さな僕はそれで溺れそうになりながら、しごかれ続けた。
 僕の上を飛び跳ねるあかり。跳ねる髪や暴れる胸が綺麗だった。ずしっと重たいお尻の爆撃も、ぎゅうぎゅうに締め付けながらドンっと降ってくるナカの感触も、あかりの強大さを全身で感じさせてくれる。その気になれば簡単に潰せるんだぞと言い続けるあかりの体。わたしが守らなきゃ何もできないんだねと囁くあおいの体。下敷きにされ、乗っけられて、双方が僕にぶつかり続ける。体格差も与える快感もどれも次元が違う。二人の肉体に比べれば、せいぜい僕なんてオモチャになるかならないかの人間だった。
 ケラケラと嘲笑を滲ませながら僕に体を叩き続けるあかり。けれどその感触はあおいにも伝わってるわけで。シーツを掴み唇をわなわな震わせて耐えていた彼女も、ついには堪え切れなくなってあかりに手を伸ばす。
「あかりちゃん、来てっ!」
「わっ!?」
 しなやかな腕を腰に伸ばし、あかりを強く抱き寄せる。驚きつつあおいの上に倒れこんで、互いの柔らかさで少し弾む巨体。当然僕はその間に挟まれて、密着してくる下腹部の間で揉みくちゃにされていた。
 しばらく戸惑っていたあかりも、すぐにそれが気持ち良いことに気づく。僕の顔が、体が、陰核や縁を刺激しているからだ。それはあおいも同じだった。互いに確かめ合うように、僕の体を追いつけ合う。腰を動かせば動かすだけ、気持ち良い。すぐに二人は胸を押し付け合い、唇を重ねあいながら股をすり合わせ始めた。
 四本の太ももの間で僕がもがくと、そのたび双子の敏感なところを刺激してしまう。巨大娘の圧倒的な性器と性器のせめぎ合いに僕は押しつぶされて、めり込むように二人を刺激し続けて。そして不意に頭が二人のクリトリスで挟まれた、その瞬間。
「「ひゃっ!?」」
 絶頂に達した二人は、一気に決壊して潮を僕に噴きかけた。貫く快感に二人が強く抱き合うものだから、僕も思いっきりその膣で擦り付けられて、果ててしまう。
 絶頂に喘いでくたりと脱力する二人。けれどすぐに慌てて、股に挟まっていた小人を引っ張り出す。
「あーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃった」
 あかりの指には、ありとあらゆる体液に塗れた僕が、つりさがっていた。
 その指先、僕はこんな日々がずっと続くことを、深く深く悟った。コクリと喉を鳴らして、口の中のものを飲み干す。そして二人の視線の中、それはとても素晴らしいことだと、そう思った。二人の掌が、労わるように僕を包んだ。